―帝国が再統合されるのはいつになるでしょうか?
「決してないですね。改革された帝国を見ることはもはやなく、各勢力の間に和平や統一はありえません。光を見るためには、さらに闇に入っていかなければならないのです」
歴史学者イリレク・クリガアン教授
1124年、TNS記者の質問に答えて
『メガトラベラー(MegaTraveller)』。メガと冠するに相応しいこれまでの集大成とも言えるルール量に、帝国暦1116年に始まる「反乱期(Rebellion)」という新たな舞台設定を持ち合わせ、翻訳作業の遅れによる発売延期が繰り返されたものの、その期待は非常に高かったと記憶しています。
しかし、日本語版が発売された1990年代はロールプレイングゲーム業界が世界的に徐々に斜陽に向かっていた時代であり、SF-RPGの代名詞ともいえる『トラベラー』にとってもそれは例外ではありませんでした。結果的に和訳された資料本は『反乱軍ソースブック(Rebellion Sourcebook)』『ナイトフォール(Knightfall)』『ハードタイムズ(Hard Times)』の3冊のみ。また、雑誌『RPGマガジン』でのサポートも十分とは言えず、特に『Referee's Companion』が訳出されなかったのは資料面でも非常に痛かったです(企画はあったようですが『ナイトフォール』が優先されたので…どうしてよりによってこっちを…)。
その後、『Traveller: The New Era』の登場によって〈第三帝国〉どころか人類の星間文明が滅亡したり、その反発から『GURPS Traveller』では「反乱が起きなかった時間軸」が提唱されたり、現状最新となるMongoose Publishing版トラベラーでは古き良き「黄金時代(帝国暦1105年)」に設定が固定されるなど、反乱期は忘れ去られてしまったかのようです。
個人的意見になりますが、それも無理ないかなと思います。一番致命的だったのは「反乱の諸侯に魅力がなかった」ことにつきます。目的のためなら手段を選ばず「悪の帝国」を築いたルカンはレフリー的には美味しいのですが、その対抗軸が「理想のためなら手段を選ばない」デュリナー、「有能で穏健そうだが庶民感覚がない」マーガレット、「帝国を出たり入ったり出たりして最後まで何がしたかったかわからない」ブルズク、「華々しく復帰したもののその後が続かなかった」ストレフォン、やむを得ず独立したその他の諸侯と、『三国志演義』と違ってそこまで魅力的に見えない君主が覇を競い合っても盛り上がらないんですよね。地下組織「ヴァリアンの兄弟」に至っては全く活用されませんでしたし。
しかし、「帝国のどこに行っても第五次辺境戦争時以上の戦乱期シナリオが組める」というのは他の設定にはない独自の魅力でもありますし、一時はその「エキサイティングさ」に胸躍らせた過去もあります。「お偉方はどいつもこいつも大して変わらねえよ」と庶民根性丸出しで旅をするのも『トラベラー』らしいと言えばらしいですしね(笑)。もはや現在進行系で反乱の推移を体験することはできませんが、30年経った今だからこそ反乱期を俯瞰して再評価することもできるのではないでしょうか。
ということで、今回は反乱期ならではのシナリオを組みやすそうな3つの宙域を紹介し、ネタになりそうな補足を加えていこうかと思います。
1.スピンワード・マーチ宙域
「帝国の真髄はその建国時の理想にある。何が起ころうと、どんなに大きく変わろうと、人々の理想が帝国を支えているのだ」
デネブ大公ノリス・イーラ・アレドン
マーク・シグリイ氏との対談記事より
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(※今回はHIWG版のUWPデータに誤植訂正等を施した上で使用しているため、現行のT5SS版設定との整合性は取っていません)
「結局ここかい!」と言われそうですが、やはり「全ての旅人たちの故郷」スピンワード・マーチ宙域はどんな時代でも捨てがたい魅力があります。資料は豊富ですし、ほどほどに環境が変化するため、馴染みの舞台で一味変わったシナリオを展開できるという利点があります。
上の1120年当時の宙域図を見てわかる通り、アラミス星域のタワーズ星団やリムワード方面が外敵に侵食されています。この時代の仮想敵はヴァルグルやアスランに絞られ、一方で旧敵のゾダーンやソード・ワールズ方面の国境はかつてないほどに安定しています。
となると、この時代らしいシナリオといえばヴァルグルかアスラン絡みにするのが無難でしょう。逆に、わざわざこの時代設定で従来型のシナリオをやる理由もないのですが、やるとすれば安全なモーラ・ルーニオン・ランス・ライラナー星域に絞られますね。キャンペーンをこういった「対岸の火事」気分でいられる星から始めて、徐々に戦乱に巻き込む、もしくはミスジャンプでいきなり巻き込むという手も考えられます。
ちなみに興味深い設定として、比較的安全なデネブ領域ですら景気は1119年中頃から後退局面に入っていたようです。国境を破られたことで実質的なアンバーゾーン星系が増加し、星間物流が停滞したことで徐々に不景気になっていったそうで(そしておそらく国境が安定する1122~25年頃までは続く)。そういう雰囲気の描写をすることで、より「らしく」できるかもしれません。
【反乱期の主な出来事】
1116年340日 リジャイナ公ノリスがストレフォン皇帝からデネブ大公に任命された、と公表。
1117年067日 リジャイナ(1910)において皇帝暗殺(1116年132日)が正式に発表される。
1117年225日 コリドー宙域がヴァルグルに制圧されたと知らされる。
1117年271日 デネブ領域の海軍が第三種警戒態勢に入る。
1119年012日 ストローデン(2327)にてノリス大公とラハト・アオラハトによる首脳会談が予定されるも、事前に行われたトラナシアフ提督との非公式会談で何かあったらしく急遽打ち切られる(※提督は対アスラン戦線の指揮を執っているので、アスラン側としては因縁の相手でもある)。
(※この頃からデネブ領内へのアスラン船団の侵入が急拡大した模様)
1119年117日 ドッズ(2739)に駐留するアスラン巡洋艦を人類の抵抗者が撃沈した、という情報がトリン(3235)に伝えられる。
1119年143日 ロビン(2637)をアスランが襲撃。
1119年153日 アキ(2035)での人類の蜂起が5日間でアスランに鎮圧される。
1119年163日 国境のゾダーン巡視艇が近頃減少していることが報じられる。
1120年206日 デネブ政府、警備隊(Patrol)を設立。国境警備が主任務だが、報酬に土地を提供するなどしてアスランの離反を誘う策でもあった(そのため、警備隊の別名としてアスラン語で「郷の守護者」と付けられている)。
1120年252日 領域首都がモーラ(3124)に定まる。
1120年314日 翌年020日から3週間に渡って行われるゾダーンとの外交協議のため、領域政府の外交団がアーデンに到着。主な議題は第268区の併合問題と思われる(※DGP版設定でのみ、実際にエリサベス(1532)・フォリン(1533)・タルチェク(1631)・ミラグロ(1632)などが併合されている)。
1120年343日 ヘクソス(2828)で何者かによって「アスランには効かない」化学兵器が使用される。
1121年019日 ヘクソスの最後の住民が死亡(※防疫のために惑星ごと隔離されたと思われる)。トラベラー協会は同星系をレッドゾーンに指定。
1121年121日 2年程前から闘病中だったモーラ公デルフィーヌ、死去(享年142)。後継者は姪孫のエレーヌ伯。
1121年354日 ノニム(0321)が住民投票でダリアン連合に再加盟するも、ソードワールズは不快感を表明。
1122年032日 ダイナム(1811)で政情不安が続く。1106年に統治企業を労働者が追い出したものの鉱石生産量は革命以前には戻らず、辺境戦争後の反動不況も相まって治安が悪化していた(※旧統治企業の手先が反政府暴動を起こしているという噂あり)。領域政府は海兵隊の強襲巡洋艦を「この件とは関係なく」派遣した模様。
1122年119日 知的種族テントラッシの放浪艦隊がラウェー(0139)に約20年ぶりに寄港し、地元住民に歓迎される。
1122年120日 ノリス大公、グリッスン(2036)にてアスラン氏族長との「移民問題」についての会談に臨む。
1122年122日 ノーシー(0724)にて不審な行動を取っていたティソーン(0922)船籍の貨物船にダリアン海軍が発砲した事件をめぐり、ダリアン政府はソードワールズ政府に抗議。
1122年131日 デュアル(2728)の研究基地アルファから姿を消したSuSAG社のナノ生物学者が、数週間が経過しても未だに発見されず。当局は同業他社からの「強引な引き抜き」の可能性を念頭に捜索を継続中。
▲1123年101日 ノリス大公、テロ組織アイン・ギヴァーの指導者に会談を呼びかけ。
▲1123年116日 リジャイナにて爆弾テロ事件発生。アイン・ギヴァーが犯行声明を出すも、内容と状況に一部食い違いが。
▲1123年136日 ゾダーン外交筋から大公暗殺計画が通報される。
1123年301日 ノリス大公、モーラからリジャイナに帰星。名目は里帰り休暇だが、アイン・ギヴァー対応の公務を精力的にこなす。
1123年303日 ゾダーン政府がアイン・ギヴァーとの関係を絶っていたことを駐リジャイナ大使が会見で明かす。
1123年329日 トリンの海軍基地に係留されていたライトニング級予備巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスが姿を消す。
1124年154日 ライラナー大学で、アイン・ギヴァー支持の学生約150名がデモ行進。愛国派学生との衝突こそ起きなかったが、銃器の不法所持などで逮捕された7名に退学処分が検討される。
1126年324日 巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスがトリンに「帰還」。
1127年110日 ノリス大公、演説でデネブ領域の事実上の独立を宣言。
1128年280日 アライバル・ヴェンジェンスの退役式典がモーラで行われ、この場で同艦の3年間に及んだ旧帝国一周航海の目的と成果が明かされた。また、帝国日輪旗に代わって「日輪内一角獣旗」が初めて掲揚された。
(▲印:ニュースサービスの誤送信により、正しい日付は不明)
で、被占領地域の推移なのですが、まず対ヴァルグル戦線(コアワード側国境)から。
トラベラー・ニュースサービス(TNS)から得られる情報から推測すると、この方面でヴァルグルの侵入が始まったのはおそらく1117年末。その後1119年末までにリジャイナ星域の一部とアラミス星域のタワーズ星団が陥落して…はなさそうです。というのも、TNSでそういった報道が全くなく、『反乱軍ソースブック』などでもこの星団で「艦隊戦が行われた」記述すら見当たらないのです。
つまり宙域図にある「ヴァルグルの略奪者たち(Vargr Raiders)」は、コリドー宙域のように星系の支配権を手に入れたのではなく、単に混乱の隙を突いて頻繁に略奪に来るだけで、その最大範囲が宙域図に記載されたのではないかと考えられます。
となると、国境線の変動ではなく「大手を振ってヴァルグル海賊が略奪に来る治安の悪化」として情勢を捉えるべきでしょう。この混乱は1122年には沈静化したかに見えますが、1123年の図のみで安全地域が国境から数パーセク縮小しているので、1122年中は国境沿い全体でヴァルグルの大規模な攻勢が行われたことが伺えます。
そして1125年以降なのですが、『ハードタイムズ』と『Survival Margin』で記述が若干異なっています。前者ではタワーズ星団を除いて国境まで安全地域が回復したのに対して、後者ではジュエル星域・リジャイナ星域の一部が「帝国外」に着色されており、一方でアラミス星域の安全地域は前者より拡大しています。この変更は意図的とは思われますが、とはいえヴァルグルがジュエル星域に侵攻しようとするとゾダーン領を踏み越えないとならないため(ヴァルグル海賊船は基本的にジャンプ-2です)、ゾダーンの支援が受けられないであろう反乱期では現実味がありません(不可能ではないですが…)。リジャイナ星域経由だと今度は距離の壁が立ちはだかります。もちろん、第五次辺境戦争に参戦したようなジャンプ-3軍艦を擁したのであれば話は別ですし、それはそれで話が大きくなります。やり方次第では「未来」を知っているプレイヤーを驚かせられるかもしれません。
一方、リムワード側の対アスラン戦線ですが、当初は「平和的な」移民だったものがやがて双方の感情に火がついてこじれ、1117年中には移民艦隊と帝国海軍の衝突がグリッスン星域でも始まり(※流石にそれは早すぎるのか、現在では「1117年中にアスランが帝国領内に進出したのは(※おそらくトビア星域の)3星系」とされています)、1120年までにグリッスン星域が大きく侵食されるのは宙域図にある通りですが、『ハードタイムズ』によればその後時間をかけてじわじわと(周辺地域扱いとはいえ)デネブの勢力圏が回復していきます。
1125年以降の情勢はやはり『ハードタイムズ』と『Survival Margin』で微妙に齟齬があり、前者ではグリッスン星域の「一部が」荒野地域になっている反面、後者では星域の「大半が」荒野になっています。辺境および荒野地域は勢力圏外との解釈ですから、デネブはグリッスン星域の一部ないし大半を失い、激戦区域ゆえにUWPにも大きな変更があった…と思われるのですが、実は『Regency Sourcebook』に掲載された1202年設定を見る限りではそんな感じでもないのです。確かに70年以上の時間経過はありますが、テクノロジーレベルは1117年と比べて1~3向上し、人口に至っては1程度、つまりたった80年で10倍になっている星が多いのです。加えて、『ハードタイムズ』のUWP変更ルールで一旦人口減少が起きていたのであれば、数十年で百倍千倍規模の人口爆発が起きたことになります。確かにアスランを含めて移民を奨励したり、混乱が去ってベビーブームでも起きたり、元々の人口規模が3とか4であれば2ぐらい増やすのは難しくはないとはいえ、そもそも激戦と呼べるほどの戦いすら起きてないのでは?という気すらしてしまいます。
ただ、ヴァルグル戦線と違って「艦隊戦があった」「アスランによる占領があった」どころか、「戦闘の結果、アスランとデネブの間に無人の荒野が生まれた」とまで明記されている以上、直接爆撃や凄惨な地上戦や補給途絶による戦禍はあったと考えるしかありません。焦土作戦すらあったかもしれないのです。
しかしそうだとしても、どちらがやったかは不明確ですし、帝国軍は当然やらなさそうとして、「豊かな土地」を求めて進出してきたアスランもその土地を荒廃させるような戦い方をするかどうかかなり疑問ですが…ただしアスランは「交戦規定違反」と見なした敵には無慈悲に徹底報復を行うので、それがあったのかもしれません(実際、とある「蛮族」の星に彼らは核爆撃を行っています)。
そしてアスランに関するもう一つの疑問点が、『反乱軍ソースブック』などに書かれている「ラハト・アオラハト(原文ママ)」の記述です。なぜなら、ラハト・アオラハトは「艦隊の分配係(Fleet Dispatcher)」が成り上がったとありますが、そもそもそれは女性の役職であり、アスランの社会構造というか本能的に女性が男性氏族長(アオラハト)の上に立つことはありえないのです。第一、土地の価値を査定して公平に分けるなんて複雑な仕事、アスランの男性にできるわけないじゃないですか(笑)。
おそらくは設定が曖昧な時期に作られ、後の設定整備で矛盾となってしまったのでしょう…が、何と2021年1月にマングース社から発売された資料集『Glorious Empire』で、明らかに男性として「後のラハト・アオラハト」が登場してしまったことで事態はややこしいことになっています。この資料では、出自不明の「後のラハト・アオラハト」は弱小氏族に取り込まれ、身分が低い上に氏族間の利害関係がないことから「分配係」に任命されたとあります。確かに身分の低いアスラン男性が「女々しい」仕事を行うことは公式で示唆されているので、ありえなくはない程度に整合性は取られています。また、彼の下には有能な女性士官が就いている記述もあるため、職務遂行能力にも問題はないと思われます。
とはいえ色々設定を読む限りでは、GDW(やHIWG)の方でもこの「野心家ラハト・アオラハト」を持て余してしまっていたようです。上記の通り、1119年の首脳会談決裂以降は表舞台に全く出て来ず(1122年のグリッスン会談にも関与していません)、結局その後どうなったのかはあやふやにされてしまいました。資料を探しても「彼」が何をどうしたのかは全然出てきません。
また「ラハト・アオラハト」の権力者像も曖昧で、『反乱軍ソースブック』でアオラハトたちを従えているような描写がなされたかと思えば、一方で対アスラン作戦の指揮を執るトラナシアフ提督は「支配力は限定的」と見ていたりと、ばらつきがあります。『Glorious Empire』でも自らが救世主たらんとする願望があることは書かれていますが、「未来に」どう行動したかまでは当然ですが書かれていません。
そのため、あまり「ラハト・アオラハト」に拘らずに「個々の移民船団が次々と押し寄せてしまう」ぐらいに単純化してしまうのも一つの手だと思います。一市民の立場ではどちらでも変わりませんし。しかし戦うにしても交渉するにしても、相手がまとまってない方がかえって厄介なのも真理ですが。
アスランとは積極的に戦ったとしても、それでも彼らは話せば分かる相手でもあります。土地を提供して懐柔を試みる策は有効であり、実際、1202年の宇宙ではいくつかの星系がアスラン世界になっています。元の住民とうまくやれるかが課題ですが、それでもこれまで未活用だった土地に彼らが入植や投資をすることによって、何か新しいものが生み出されるかもしれませんし、プレイヤーがそれを手助けすることもできるでしょう。
それとは逆に、アスラン到来下の星系での日々の暮らしと軋轢を描写する手もあります。人類の抵抗組織に手を貸すも良し、暴発を抑えて融和を進めるも良し、そんな人類同士の意見や利害の対立をテーマにするも良しです。同時に、アスランを全て敵と捉えるべきではありません。こんな時代でも良き帝国市民であろうとするアスランも当然いますし、平和的に移住がしたいだけの船団もあるでしょうし、これまで帝国との交易で利益を得ていた氏族はどうにかして仲介に動くでしょう。このように、善悪二元論では片付けられない「大人の」シナリオをやってこそトラベラーではないでしょうか。
ここまでは動乱の時代にふさわしい舞台を紹介してきましたが、一方で平和になってしまった所もあります。ソードワールズが分裂して帝国の傀儡国「ボーダー・ワールズ」が誕生したことで、従来気軽に入れる雰囲気になかった星々に向かえるようになったのはこの時代の一つの利点です(シナリオ『ミスリルでの使命』も黄金時代には動機を作るのに無理がありました)。GURPS版『Sword Worlds』など詳細な資料も豊富にあり、一風変わった文化や占領地・属国ゆえの複雑な事情をテーマにしたシナリオは作りやすそうです。特に、占領地でありながら軍事力が最前線に振り向けられている状況というのは、何やら不穏な香りが漂ってきますね。弱体化したとはいえ、ソードワールズが裏で何もしてこないとは思えませんし。
同様に、反乱後は融和外交に転じたゾダーンも1105年の時よりは入国しやすいことが想定されます。単純に新たな販路を拓きに行くのもいいですが、スピンワード・マーチ宙域のゾダーン領の多くは元々帝国領でしたから、かつての入植者の子孫の依頼で何かを回収しに行ったり、墓参の同行をしたりする展開など色々考えられますね。
先の辺境戦争後に勃興した「アーデン連邦」に関しては、諜報戦の舞台に最適…とは公式に書かれているのですが、相手として相応しいゾダーンが諜報戦に乗ってくる理由が乏しくなってしまったので、この時代ではなく1105年の開戦直前のきな臭い時期の方がいいと私は思います。しかし、帝国企業からヴァルグル海賊まであらゆる勢力と物品が流入する中立港であり、抑圧的な社会構造というのは色々と陰謀の種が転がっていそうです。サイバーパンク風の「汚れ仕事」の起点には、時代に関係なく一番向いていそうです。
スピンワード・マーチはもう飽きたよ、と言われそうですが、こうして時代と視点を変えてみるとまだまだやれそうに思えてきませんか?
2.ダイベイ宙域
「私が生涯をかけて仕えてきたこの帝国は、人類史上最高の業績だ。そしてそれは市民こそが全てであること以外の何物でもない。市民の命が帝国を築いているというのに、その市民を見捨てる命令に道理はあるのか? そんな帝国ならくそくらえだ」
ワリニア公爵クレイグ・アントン・ホルバス
1118年、艦隊供出命令の拒否を決めて
ここはソロマニ連合との激戦区であり、新皇帝ルカンの命令を拒んでやむを得ず独立した宙域です。基本的に資料は過去も現在も『Travellers' Digest』誌の第15号のみであり、シナリオだけでなく星系設定すら全て作れる熟練レフリー向けの宙域です。
しかし、状況を考えると非常に「おいしい」宙域であるのも事実です。まず「君主がまとも」であること(笑)、仮想敵がソロマニ連合とルカン帝国という「悪役」であること、そしてその悪役への抵抗戦を強いられているということでヒロイックな舞台設定が似合うのです。
さらに、仮想敵が同じ人類であることから敵味方の識別が難しく、諜報戦や破壊工作はより厄介となります。いつどこに、ソルセックやルカン派の工作員が侵入しているのか…?
ということで、HIWGの資料の中からダイベイ宙域のUWPを探し出し、それを現行のT5SSのUWPと合成して均し、ほぼ独自資料となってしまいますが独立直後の1119年001日想定の宙域図を作ってみました!
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……いやいやいや、なにこのリアス式国境線! ワリニア公、全然掌握できてないじゃん!
そうなんです、HIWG版設定のダイベイ宙域はそこかしこが中立化してしまっていたのです(現行のT5SS版だと隣のディアスポラ宙域まで領土あるのに…)。しかしある意味でこれは納得です。急な独立宣言から1年も経っておらず、D・Eクラス宇宙港の田舎星は忠誠確認を後回しにしているでしょうし、いくつかの有力星系ではルカン派と支持が分かれ(もしくは政権掌握され)て中立化するのは十分考えられます。まがりなりにもルカンは「正統な」皇位継承者なのですから、帝国への忠誠心が高い貴族や民衆の中には積極的消極的の両面でルカン支持を表明する人が一定数いるはずなのです。
敵の敵は味方の理屈で、ルカンがあまり積極的にダイベイを滅ぼしにかかって来ないのが救いではありますが、だからといってソロマニの脅威は弱まりませんし……そうそう、『反乱軍ソースブック』によれば1119年中にはソロマニへの大規模な反攻作戦が実施され(そして正史通りなら成功す)るので、キャンペーンに組み込むにはうってつけでしょう。
国論(域論?)が統一できたとは言い難い状態ということは、まさに『反乱軍ソースブック』に書かれている様々な状況を盛り込みやすいと言えます。派閥拡大のための多数派工作は日常的に行われているでしょうし、そこでは様々な陰謀が飛び交っているのは間違いありません。1105年設定ではグリーン・トラベルゾーンなのに、1119年設定でアンバーやレッドゾーンになっている星系では実際に動揺や動乱が起きていることが想定されます。
ところで、スピンワード・マーチ宙域と違ってアスランの侵出にさらされていないのは、クレイグ公が交渉によって「和約違反となる」緩衝地帯への領土拡張を黙認する一方で、アスランを傭兵として活用することで味方につけたからです。リーヴァーズ・ディープ宙域の小国家群には迷惑な話ですが(汗)(もちろんソロマニ連合が現在「不法占拠」している緩衝地帯もこの話に含まれるでしょうけど、中立星系や小国を蹂躙する方が楽ですし…)。
前述の通り、レフリーが細かい設定を全部起こさなくてはならないのですが、逆に今後公式設定が追加される見込みがほぼ無いため、思う存分「俺宇宙」を構築できる楽しさもあります。下の年表にある通り、ダイベイはしたたかにしぶとく反乱期を生き延びますので、背景設定に派手さと安定性の両方を求める人にお勧めの宙域です。
【反乱期の主な出来事】
1116年265日 ダイベイ宙域の海軍が特別警戒態勢に入る。
1116年309日 皇帝暗殺をダイベイ宙域政府が公式発表。
1117年252日 「ダイベイ艦隊」発足との報道がキャピタルに伝わる。
(※反逆の兆候のようですが、そもそも宙域艦隊制度はストレフォン皇帝時代に復活しているので「ダイベイ艦隊」は既にあるはずなのです。何てことのない話に尾ひれがついてキャピタルに届いたのかもしれません)
1117年341日 ダイベイ海軍が2星系でソロマニ軍と交戦、撃退。
1118年197日 ルカン皇帝からの艦隊供出命令をクレイグ公以下高官が協議。供出削減の嘆願書を提出。
1118年214日 嘆願は特使に握り潰された模様、と報じられる。
1118年217日 交渉決裂。艦隊供出命令は拒否。
1118年223日 定期哨戒中のダイベイ巡視艇が帝国第239艦隊の艦載機に発砲された事件に関して、海軍当局はコメントを出さず。
1118年260日 「帝国への忠誠」を掲げる一部部隊がダイベイ艦隊から脱走。
1118年289日 「ダイベイ連邦」が正式発足。親帝国派の高位貴族は一時的に軟禁状態に。
1118年312日 第111・176艦隊がダイベイ艦隊から離脱し、ルカン派の拠点星系に到着。
1118年332日 対デュリナー戦線から転進した第6・第259艦隊(マッシリア艦隊所属)がダイベイ艦隊と交戦し後退させた、との報道がザルシャガル宙域でなされる。
1119年365日 この日までにダイベイ軍がリムワード方面3星域をソロマニから奪還。
1120年261日 アストン星域のソロマニ艦隊をダイベイの3個艦隊が大きな損失を出すも撃破(※ただしソロマニ側では全く逆の報道がされています)。
1121年090日 オルタレ・エ・シェ社とシャルーシッド社・ナアシルカ社との間で資産交換が成立。ダイベイ宙域内のヴィラニ系資本(工場・造船所・不動産・宇宙港施設等)はオルタレ社が買収。
1121年263日 リーヴァーズ・ディープ宙域で海賊行為が増加。この方面への旅行を控えるよう連邦政府が会見。
1122年125日 海賊行為の増加を理由に、国境付近の20以上の星系がレッドゾーン指定されたことをクレイグ公が発表(※トラベルゾーン指定は本来トラベラー協会が行うものなので、政府が公表するのは極めて異例)。この時点でソロマニとの交戦は沈静化している模様。
1122年365日 この日までにダイベイ連邦はリムワードおよびトレイリング方面の計7星域を維持できなくなり、権力の空白地帯が生じた。
1123年081日 キャピタルの帝国司法省(MoJ)がダイベイ宙域に本部と訓練施設を移転させるためにクレイグ公と交渉に入った、との噂。
1123年282日 クレイグ公の誕生日恒例だった観艦式が中止に。戦力不足との憶測を会見で否定。
1124年126日 前年にドラン(イレリシュ宙域 1021)から逃走して行方不明となっていた歴史学者イリレク・クリガアン教授がワリニア(ダイベイ宙域 0507)に現れ、クレイグ公と面談。
1125年007日 デネブ海軍の巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスがワリニアに到着し、乗組員らがクレイグ公(及びクリガアン教授)と面談。
1129年065日 超能力を禁止していた一連の勅令をクレイグ公が廃止。
ダイベイ宙域については今後、UWPデータの公開やサポート記事を追加していく予定ですので、もうしばらく気長にお待ち下さい。
3.ディアスポラ宙域(1129年設定)
「こんな時代にまだいるのですか? なぜ早送りしないのですか? 今は安全な冬眠装置の中で眠り、世の中が好転した時に目覚めましょう!」
――「苦難の時代」に急増した冷凍睡眠サービス会社の宣伝文
1129年ということは、そう、「苦難の時代(Hard Times)」です。反乱は各地を破壊し尽くし、武力による帝国の再統一はもはや望めず、星間経済は破綻し、諸勢力に見捨てられた辺境星域では海賊が横行し、人々は宇宙に背中を向け始め……そんな中、わずかな小国家たちが文明の火を絶やさず最後の希望の光となっている、つまり一般に「ポスト・アポカリプス」と呼ばれるジャンルの舞台設定となります。
この設定はあまりに危険性が高いため人気は高くありませんでしたが、実は利点もいくつかあります。まず、もはや過去の〈帝国〉の設定に縛られる必要はないこと。何もかもが変わってしまった宇宙では、過去よりも現在の「目の前のこと」が全てです。過去の情報はあくまで過去の話で、過酷な今を生き抜くためには必要とは言えないのです。そして造船業の縮減で相対的に宇宙船の価値が上がったことで、宇宙船持ちというだけどころか宇宙船を動かせるだけで英雄候補となり、プレイヤーの行動いかんで星系の、星域の命運が左右されるような時代なのです。
例えば、こんなニュースがあります。
ゴールキー(ディアスポラ宙域 2929)発 1129年115日付
レストン・スミッツ氏は、少し前までは失業中の小惑星牽引船の操縦手に過ぎませんでしたが、今ではゴールキーの救世主と称されています。スミッツ氏は、この星に迫る海賊の戦闘機3機を単独で撃破したのです。
ゴールキーの住民は傭兵艦の助けをあてにできなかったので、彼らは自分たちの輸送船団を守るために自前で小さな護衛部隊を編成していました。2機の小型戦闘機、といっても船の救命艇を改造しただけのものを船団の死角に隠し、実際に3機の海賊戦闘機が現れた時にはスミッツ氏ともう1人の仲間は降伏を装いました。海賊らが船団に接近し、進路を合わせるために減速したその時、スミッツ氏と仲間は不意を突いて襲いかかりました。仲間は交戦開始とともに撃墜されましたが、スミッツ氏はあらゆる不利を撥ね退けて反撃し、3機全てを撃墜しました。彼の正確な射撃は派手に塗装された攻撃機2機を粉々に吹き飛ばし、海賊の操縦手は驚愕したことでしょう。
おまけに3機目の戦闘機は修復可能であり、スミッツ氏の新しい搭乗機としてゴールキーの防衛力を大幅に向上させると見られています。
しかし、彼を讃えて催された記者会見ではスミッツ氏は口ごもり、約束があるからと「では達者でな」とだけ言い残して早々に退席しました。Ω
無職のおじさんが一夜にして英雄に!なんてことが起こり得るのがこの時代です。まあこのニュースには何か裏がありそうな気配ですが、トラベラー・ニュースサービスは元々そういうネタ拾いのためにあるので、以後の展開はレフリーが決めます(笑)。
問題は、1129年設定だと「翌年にコンピュータウィルスで全てが灰になる」ことなのですが、前述した通り『GURPS Traveller』の登場によって公式設定ですらSFドラマのお約束である「並行宇宙」の存在は明らかになっているわけです。ならば、個人で遊ぶ分には「1130年に何も起きなかった」ことにしてしまっても問題ないでしょう。ルカンは「超兵器」を作らなかったかもしれませんし、デュリナーがそれを奪取せずに研究基地ごと破壊してしまったかもしれません。そうなった場合、史実より数十年早く復興の目が見えてくるかもしれません。
ディアスポラ宙域の場合、例えばマーガレットとデュリナーがダイベイを介して提携関係を結べば(公式設定から見てもその萌芽はありました)、その三者を結ぶ「復興回廊」の通商路としての価値は非常に高くなります。再興して拡大していく各勢力の安全圏にディアスポラ宙域の小国家が取り込まれるかもしれませんが、それはそれで軋轢もあるでしょうが歓迎もできるはずです。
そんな未来までやらなくても、目の前の危機を生き延びるネタに困らないという意味ではこの苦難の時代は美味しいです。例えば…
ドーム都市の環境制御装置の予備部品が底をつきかけているし、本格的に直せる技術者もいない。このままでは全人口がいつか死に絶えるが、外世界から商船がいつ来るかはわからない(というかここしばらく来る気配もない)。
という状況下でプレイヤーが偶然偵察艦を「発掘」し、星系の代表として外の世界に部品や技術者を調達しに行く…というだけで大冒険が見えてきます。うまく調達できればそれでいいですし、最悪の場合は略奪や誘拐するしかないかもしれません(汗)。仮に失敗してしまったとしても、どうせ滅ぶ運命だった星なのです。この時代の宇宙にはそんな話、いくらでもあります(大汗)。
また、死に絶えた故郷を捨てて安全な星を求めて村人ごと貨物船等で宇宙の放浪を続ける話もできますね。この場合はNPC管理が大変ですが、昔懐かしいシナリオ『リヴァイアサン』でも似たようなものでしたし…。
宇宙船の話ついでに、サプリメント『宇宙海軍』の発売以降は数万・数十万トンの艦船が当たり前になってしまいましたが、この時代は400トンの海賊船ですらかなりの脅威です。昔懐かしい1200トンの巡洋艦に至っては小国家や星間傭兵の旗艦扱いでしょう。つまり、宇宙戦闘が「クラシック・トラベラーの」基本ルールや『メイデイ』の規模に戻されているのです。これはプレイヤーやレフリーの扱いが楽になるという意味でも歓迎できます。
もちろん数万トンの軍艦が宇宙から消えて無くなったわけでもないので、どう活用するかはレフリーの歳量次第ですね。映画『スターウォーズ』のデス・スターのように「絶望的に強そうな構造体を内部から破壊しに向かう」シナリオとか。もはやそれに乗っているのは正規軍の軍人ではないでしょうから(軍人くずれかもしれませんが)、どこかに隙があるはずです…たぶん(汗)。
一方で、商人型キャンペーンはかなり手直しが必要になるでしょう。『ハードタイムズ』本編で示唆されている通り、治安の悪化や星間経済の崩壊によってかつてのような「自由な」航海はもはや望めません。かつては万能だったクレジット(信用)の価値もないのです(厳密にはないこともないですが…)。商船の貧弱な武装では海賊船に遭遇すれば即詰んでしまいますし、かといって「マーチャント・テンダー」と契約すれば行動の自由が制約されます。
あえてやるとすれば、誕生したばかりの小国家の安定のために物資の供給などで東奔西走する形になるでしょうか。辺境地域の商船は貴重な存在なので、御用聞きのごとく狭い範囲を行ったり来たりすることになりますが、その分設定密度は濃厚にできますし、「地元の星々」に愛着も湧いてくる…といいですね。
『ハードタイムズ』に書いてある通り、荒野地域での「呪われた貿易」に手を出すのもありでしょう。滅びゆく星から逃げるためなら全財産を差し出す金持ちはいくらでもいます。そして、乗せてくれなければ密航や乗っ取りも辞さない人々はもっと…。
他の影響として、高TLの製品が貴重になったことで、例えばバトルドレスやエアラフトのたった一式だけでも様々な駆け引きと騒動が繰り広げられるのが想像できます。
あとこの時代特有の「星間傭兵」となって転戦するキャンペーンも考えられますが、要は「艦隊戦もやる傭兵部隊」なので、指揮官となるのでなければやることは従来の傭兵キャンペーンとはさほど変わらないかもしれません。ただ、「金のために戦う」従来の傭兵よりは「生きることを諦めない民衆のために戦う」色彩が強くなるのが星間傭兵なので、そこをうまく演出してあげたいところです。
ところで、そもそもなぜディアスポラ宙域を推したかというと、実は反乱期の資料で一番詳細な宙域設定があるのがこの「1129年のディアスポラ宙域」なのです。GDWから出た公式設定集『Astrogator's Guide to the Diaspora Sector』に加えて、後に『Traveller Chronicle』誌第2~5号にて「Astrogator's Update to the Diaspora Sector」が掲載されるなど(両方とも著者は『ハードタイムズ』のチャールズ・ギャノンです)、星系設定があるのは(数え間違えていなければ)延べ109星系にも及びます。また、『Challenge』誌掲載記事や傭兵シナリオ『Assignment: Vigilante』もあり、英文の壁さえ乗り越えればシナリオのネタの宝庫です。確かにその壁が一番高いのは否めませんが、今では全てが電子化されているので入手が容易というのはありがたい点です。
基本的にこれらから得られる情報は「戦乱で変わり果ててしまった世界」なのですが、中にはこの御時世には似つかわしくない観光ガイド的なものもあったりして侮れません(笑)。『Astrogator's Guide~』の表紙からして観光地ですし。
ここまで3つの宙域設定を紹介してきましたが、正直なところこの反乱期を扱うには、旧来の2D6ベースのトラベラーシステムよりは『Traveller: The New Era』のハウスシステムなど「タフで戦闘向きな」ものの方が向いているとは思います。しかし、危険だらけの宇宙をただ生き延びるためだけに生きる、という楽しみ方もそれはそれでアリではないでしょうか。
今回紹介した場所以外にも、「滅びの美学」に殉じたい人向けのグシェメグ宙域や、反乱を無視したい人向けのヒンター・ワールズ宙域(本末転倒ですが…)など、まだまだ反乱期は掘り尽くせていない魅力があるにはあります。「命なんて安いものさ」というある程度の割り切りと、それでも生きようとする希望、それを支える機転と慎重さがあれば、人類史で最も血と涙が流れたこの時代でも大丈夫でしょう。
――でもやっぱり、平和が一番ですよね!(おい)
【ライブラリ・データ(1123年版)】
ボーダー・ワールズ連合 Border Worlds Confederation
スピンワード・マーチ宙域のソード・ワールズ星域に存在する、帝国の属国です。
第五次辺境戦争の末期、帝国軍は宣戦布告なしにランス(スピンワード・マーチ宙域 1719)を攻撃したソード・ワールズ連合への報復として連合の10星系の占拠に踏み切り、休戦条約締結後も返還を拒みました。長く複雑な交渉の末、1111年に占領下の星系に加えてソード・ワールズから離反した2星系の計12星系で「ボーダー・ワールズ連合」が結成されました。当初首都はスティング(同 1525)に置かれましたが、スティングの官僚による連合当局への干渉に業を煮やした結果、1116年にビーター(同 1424)に首都機能は移転されました。
現在、一部星系に帝国への加盟申請の動きがあり、帝国もメタル・ワールズ4星系の購入併合を検討するなど、連合の先行きは不透明となっています。
(※ボーダー・ワールズの国境線はメガトラベラー版とGURPS版とT5SS版で全て異なっており、今回はGURPS版の設定をメガトラベラー版の国境線に合わせる形で記述しています)
ワリニア公爵クレイグ・アントン・ホルバス Duke Craig Anton Horvath of Warinir
ワリニア(ダイベイ宙域 0507)の公爵家の嫡子として1065年に生まれた彼は、帝国海軍の士官として経歴を重ねてはいましたが配属は整備科であり、一度も指揮を執ったこともなければ勲章を受けたこともありませんでした。
退役して公爵位を継承した後は海軍時代の経験をもとに己の指導力と組織力を磨き上げ、1118年にダイベイ宙域を事実上帝国から独立させてからは艦隊の最高司令官としてソロマニ軍の侵入を巧みに阻止し続けてきました。彼は「海軍で鍛えられること以上に王に相応しい修行はない」という古の諺を証明してみせ、反乱前こそ無名でしたが今では帝国で最も冷静で聡明な人物だという評判を獲得しました。
イリレク・クリガアン教授 Professor Ililek Kuligaan
1116年にドラン大学帝国史学部の学部長に就任したクリガアン教授は、イレリシュ連邦政府(通称デュリナー帝国)への政策提言を行っていました。
しかし1123年、相次ぐ無法戦争やヴァージ戦争、そしてヴィラーサ教団の過激派(※)が政権内で伸張していくことに嫌気が差した彼は、家族をドラン(イレリシュ宙域 1021)から脱出させるとできる限り多くの機密資料を破壊し、学内でデュリナー政権を告発する演説を行い、その証拠を持ち出して逃走しました。イレリシュ政府は逮捕状を取り、彼の行方を追っています。
(※ドランを支配するヴィラーサ教は元来「楽園の扉を開くのは非暴力による死のみである」という教義でしたが、デュリナー政権に近付いて1121年に「非暴力に限らない」と変更して以降は正統派教徒への迫害が続いています)
巡洋艦アライバル・ヴェンジェンス Frontier Cruiser Arrival Vengeance
排水素量6万トンのライトニング級巡洋艦のFL-6415号艦として、1003年にスピンワード・マーチ宙域の第11ヤードで建造されたアライバル・ヴェンジェンスは、1006年037日に初就役し、1048年に予備役に移管されました。1082年にFC-6415号艦に改装された後は第四次・第五次の2度の辺境戦争に参加し、1114年にトリン(スピンワード・マーチ宙域 3235)の帝国海軍不活性艦艇施設に保存されました。
反乱の発生以後、海軍は1125年を目処に同艦を再就役させるべく整備を続けています。
ディアスポラ宙域 Diaspora Sector
ソロマニ・リム宙域のコアワード側に隣接するこの宙域に最初に進出したのはヴィラニ人でしたが、その開発度合いは地球人の将軍の言葉にある通り「とても少なく、とても古く、とても遅く、とても悪い」有様でした。恒星間戦争で衰退していった第一帝国はこの宙域を緩衝地帯として使うべく、地球連合に次々と星系を明け渡したため、地球人はより容易に銀河中央に向けて進出することができました。
地球人はこの宙域に永続的な統治を確立すべく、大規模な入植計画を策定しました。それは最初の8年間で約1000万人もの自発的な(そして非自発的な)移民が参加したことで「ディアスポラ(民族離散)」との異名を生み、今も宙域の名として残っています。
やがて暗黒時代に突入すると、スフレン同盟(Union of Sufren)のみが文明の火を保ち続けました。その努力は330年に第三帝国がこの宙域を併合し、帝国首都と人類発祥の地を繋ぐ「帝国の路(Imperial Road)」の重要な結節点となって繁栄することで報われました。
【参考文献】
・Supplement 5: Lightning Class Cruisers (Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・Hard Times (Game Designers' Workshop)
・Astrogator's Guide to the Diaspora Sector (Game Designers' Workshop)
・Assignment: Vigilante (Game Designers' Workshop)
・Arrival Vengeance (Game Designers' Workshop)
・Survival Margin (Game Designers' Workshop)
・Regency Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・MegaTraveller Journal #1,#2,#3 (Digest Group Publications)
・Traveller Chronicle #2,#3,#4,#5 (Sword of the Knight Publications)
・Glorious Empire (Mongoose Publishing)
・Traveller News Service
「決してないですね。改革された帝国を見ることはもはやなく、各勢力の間に和平や統一はありえません。光を見るためには、さらに闇に入っていかなければならないのです」
歴史学者イリレク・クリガアン教授
1124年、TNS記者の質問に答えて
『メガトラベラー(MegaTraveller)』。メガと冠するに相応しいこれまでの集大成とも言えるルール量に、帝国暦1116年に始まる「反乱期(Rebellion)」という新たな舞台設定を持ち合わせ、翻訳作業の遅れによる発売延期が繰り返されたものの、その期待は非常に高かったと記憶しています。
しかし、日本語版が発売された1990年代はロールプレイングゲーム業界が世界的に徐々に斜陽に向かっていた時代であり、SF-RPGの代名詞ともいえる『トラベラー』にとってもそれは例外ではありませんでした。結果的に和訳された資料本は『反乱軍ソースブック(Rebellion Sourcebook)』『ナイトフォール(Knightfall)』『ハードタイムズ(Hard Times)』の3冊のみ。また、雑誌『RPGマガジン』でのサポートも十分とは言えず、特に『Referee's Companion』が訳出されなかったのは資料面でも非常に痛かったです(企画はあったようですが『ナイトフォール』が優先されたので…どうしてよりによってこっちを…)。
その後、『Traveller: The New Era』の登場によって〈第三帝国〉どころか人類の星間文明が滅亡したり、その反発から『GURPS Traveller』では「反乱が起きなかった時間軸」が提唱されたり、現状最新となるMongoose Publishing版トラベラーでは古き良き「黄金時代(帝国暦1105年)」に設定が固定されるなど、反乱期は忘れ去られてしまったかのようです。
個人的意見になりますが、それも無理ないかなと思います。一番致命的だったのは「反乱の諸侯に魅力がなかった」ことにつきます。目的のためなら手段を選ばず「悪の帝国」を築いたルカンはレフリー的には美味しいのですが、その対抗軸が「理想のためなら手段を選ばない」デュリナー、「有能で穏健そうだが庶民感覚がない」マーガレット、「帝国を出たり入ったり出たりして最後まで何がしたかったかわからない」ブルズク、「華々しく復帰したもののその後が続かなかった」ストレフォン、やむを得ず独立したその他の諸侯と、『三国志演義』と違ってそこまで魅力的に見えない君主が覇を競い合っても盛り上がらないんですよね。地下組織「ヴァリアンの兄弟」に至っては全く活用されませんでしたし。
しかし、「帝国のどこに行っても第五次辺境戦争時以上の戦乱期シナリオが組める」というのは他の設定にはない独自の魅力でもありますし、一時はその「エキサイティングさ」に胸躍らせた過去もあります。「お偉方はどいつもこいつも大して変わらねえよ」と庶民根性丸出しで旅をするのも『トラベラー』らしいと言えばらしいですしね(笑)。もはや現在進行系で反乱の推移を体験することはできませんが、30年経った今だからこそ反乱期を俯瞰して再評価することもできるのではないでしょうか。
ということで、今回は反乱期ならではのシナリオを組みやすそうな3つの宙域を紹介し、ネタになりそうな補足を加えていこうかと思います。
1.スピンワード・マーチ宙域
「帝国の真髄はその建国時の理想にある。何が起ころうと、どんなに大きく変わろうと、人々の理想が帝国を支えているのだ」
デネブ大公ノリス・イーラ・アレドン
マーク・シグリイ氏との対談記事より

(※今回はHIWG版のUWPデータに誤植訂正等を施した上で使用しているため、現行のT5SS版設定との整合性は取っていません)
「結局ここかい!」と言われそうですが、やはり「全ての旅人たちの故郷」スピンワード・マーチ宙域はどんな時代でも捨てがたい魅力があります。資料は豊富ですし、ほどほどに環境が変化するため、馴染みの舞台で一味変わったシナリオを展開できるという利点があります。
上の1120年当時の宙域図を見てわかる通り、アラミス星域のタワーズ星団やリムワード方面が外敵に侵食されています。この時代の仮想敵はヴァルグルやアスランに絞られ、一方で旧敵のゾダーンやソード・ワールズ方面の国境はかつてないほどに安定しています。
となると、この時代らしいシナリオといえばヴァルグルかアスラン絡みにするのが無難でしょう。逆に、わざわざこの時代設定で従来型のシナリオをやる理由もないのですが、やるとすれば安全なモーラ・ルーニオン・ランス・ライラナー星域に絞られますね。キャンペーンをこういった「対岸の火事」気分でいられる星から始めて、徐々に戦乱に巻き込む、もしくはミスジャンプでいきなり巻き込むという手も考えられます。
ちなみに興味深い設定として、比較的安全なデネブ領域ですら景気は1119年中頃から後退局面に入っていたようです。国境を破られたことで実質的なアンバーゾーン星系が増加し、星間物流が停滞したことで徐々に不景気になっていったそうで(そしておそらく国境が安定する1122~25年頃までは続く)。そういう雰囲気の描写をすることで、より「らしく」できるかもしれません。
【反乱期の主な出来事】
1116年340日 リジャイナ公ノリスがストレフォン皇帝からデネブ大公に任命された、と公表。
1117年067日 リジャイナ(1910)において皇帝暗殺(1116年132日)が正式に発表される。
1117年225日 コリドー宙域がヴァルグルに制圧されたと知らされる。
1117年271日 デネブ領域の海軍が第三種警戒態勢に入る。
1119年012日 ストローデン(2327)にてノリス大公とラハト・アオラハトによる首脳会談が予定されるも、事前に行われたトラナシアフ提督との非公式会談で何かあったらしく急遽打ち切られる(※提督は対アスラン戦線の指揮を執っているので、アスラン側としては因縁の相手でもある)。
(※この頃からデネブ領内へのアスラン船団の侵入が急拡大した模様)
1119年117日 ドッズ(2739)に駐留するアスラン巡洋艦を人類の抵抗者が撃沈した、という情報がトリン(3235)に伝えられる。
1119年143日 ロビン(2637)をアスランが襲撃。
1119年153日 アキ(2035)での人類の蜂起が5日間でアスランに鎮圧される。
1119年163日 国境のゾダーン巡視艇が近頃減少していることが報じられる。
1120年206日 デネブ政府、警備隊(Patrol)を設立。国境警備が主任務だが、報酬に土地を提供するなどしてアスランの離反を誘う策でもあった(そのため、警備隊の別名としてアスラン語で「郷の守護者」と付けられている)。
1120年252日 領域首都がモーラ(3124)に定まる。
1120年314日 翌年020日から3週間に渡って行われるゾダーンとの外交協議のため、領域政府の外交団がアーデンに到着。主な議題は第268区の併合問題と思われる(※DGP版設定でのみ、実際にエリサベス(1532)・フォリン(1533)・タルチェク(1631)・ミラグロ(1632)などが併合されている)。
1120年343日 ヘクソス(2828)で何者かによって「アスランには効かない」化学兵器が使用される。
1121年019日 ヘクソスの最後の住民が死亡(※防疫のために惑星ごと隔離されたと思われる)。トラベラー協会は同星系をレッドゾーンに指定。
1121年121日 2年程前から闘病中だったモーラ公デルフィーヌ、死去(享年142)。後継者は姪孫のエレーヌ伯。
1121年354日 ノニム(0321)が住民投票でダリアン連合に再加盟するも、ソードワールズは不快感を表明。
1122年032日 ダイナム(1811)で政情不安が続く。1106年に統治企業を労働者が追い出したものの鉱石生産量は革命以前には戻らず、辺境戦争後の反動不況も相まって治安が悪化していた(※旧統治企業の手先が反政府暴動を起こしているという噂あり)。領域政府は海兵隊の強襲巡洋艦を「この件とは関係なく」派遣した模様。
1122年119日 知的種族テントラッシの放浪艦隊がラウェー(0139)に約20年ぶりに寄港し、地元住民に歓迎される。
1122年120日 ノリス大公、グリッスン(2036)にてアスラン氏族長との「移民問題」についての会談に臨む。
1122年122日 ノーシー(0724)にて不審な行動を取っていたティソーン(0922)船籍の貨物船にダリアン海軍が発砲した事件をめぐり、ダリアン政府はソードワールズ政府に抗議。
1122年131日 デュアル(2728)の研究基地アルファから姿を消したSuSAG社のナノ生物学者が、数週間が経過しても未だに発見されず。当局は同業他社からの「強引な引き抜き」の可能性を念頭に捜索を継続中。
▲1123年101日 ノリス大公、テロ組織アイン・ギヴァーの指導者に会談を呼びかけ。
▲1123年116日 リジャイナにて爆弾テロ事件発生。アイン・ギヴァーが犯行声明を出すも、内容と状況に一部食い違いが。
▲1123年136日 ゾダーン外交筋から大公暗殺計画が通報される。
1123年301日 ノリス大公、モーラからリジャイナに帰星。名目は里帰り休暇だが、アイン・ギヴァー対応の公務を精力的にこなす。
1123年303日 ゾダーン政府がアイン・ギヴァーとの関係を絶っていたことを駐リジャイナ大使が会見で明かす。
1123年329日 トリンの海軍基地に係留されていたライトニング級予備巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスが姿を消す。
1124年154日 ライラナー大学で、アイン・ギヴァー支持の学生約150名がデモ行進。愛国派学生との衝突こそ起きなかったが、銃器の不法所持などで逮捕された7名に退学処分が検討される。
1126年324日 巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスがトリンに「帰還」。
1127年110日 ノリス大公、演説でデネブ領域の事実上の独立を宣言。
1128年280日 アライバル・ヴェンジェンスの退役式典がモーラで行われ、この場で同艦の3年間に及んだ旧帝国一周航海の目的と成果が明かされた。また、帝国日輪旗に代わって「日輪内一角獣旗」が初めて掲揚された。
(▲印:ニュースサービスの誤送信により、正しい日付は不明)
で、被占領地域の推移なのですが、まず対ヴァルグル戦線(コアワード側国境)から。
トラベラー・ニュースサービス(TNS)から得られる情報から推測すると、この方面でヴァルグルの侵入が始まったのはおそらく1117年末。その後1119年末までにリジャイナ星域の一部とアラミス星域のタワーズ星団が陥落して…はなさそうです。というのも、TNSでそういった報道が全くなく、『反乱軍ソースブック』などでもこの星団で「艦隊戦が行われた」記述すら見当たらないのです。
つまり宙域図にある「ヴァルグルの略奪者たち(Vargr Raiders)」は、コリドー宙域のように星系の支配権を手に入れたのではなく、単に混乱の隙を突いて頻繁に略奪に来るだけで、その最大範囲が宙域図に記載されたのではないかと考えられます。
となると、国境線の変動ではなく「大手を振ってヴァルグル海賊が略奪に来る治安の悪化」として情勢を捉えるべきでしょう。この混乱は1122年には沈静化したかに見えますが、1123年の図のみで安全地域が国境から数パーセク縮小しているので、1122年中は国境沿い全体でヴァルグルの大規模な攻勢が行われたことが伺えます。
そして1125年以降なのですが、『ハードタイムズ』と『Survival Margin』で記述が若干異なっています。前者ではタワーズ星団を除いて国境まで安全地域が回復したのに対して、後者ではジュエル星域・リジャイナ星域の一部が「帝国外」に着色されており、一方でアラミス星域の安全地域は前者より拡大しています。この変更は意図的とは思われますが、とはいえヴァルグルがジュエル星域に侵攻しようとするとゾダーン領を踏み越えないとならないため(ヴァルグル海賊船は基本的にジャンプ-2です)、ゾダーンの支援が受けられないであろう反乱期では現実味がありません(不可能ではないですが…)。リジャイナ星域経由だと今度は距離の壁が立ちはだかります。もちろん、第五次辺境戦争に参戦したようなジャンプ-3軍艦を擁したのであれば話は別ですし、それはそれで話が大きくなります。やり方次第では「未来」を知っているプレイヤーを驚かせられるかもしれません。
一方、リムワード側の対アスラン戦線ですが、当初は「平和的な」移民だったものがやがて双方の感情に火がついてこじれ、1117年中には移民艦隊と帝国海軍の衝突がグリッスン星域でも始まり(※流石にそれは早すぎるのか、現在では「1117年中にアスランが帝国領内に進出したのは(※おそらくトビア星域の)3星系」とされています)、1120年までにグリッスン星域が大きく侵食されるのは宙域図にある通りですが、『ハードタイムズ』によればその後時間をかけてじわじわと(周辺地域扱いとはいえ)デネブの勢力圏が回復していきます。
1125年以降の情勢はやはり『ハードタイムズ』と『Survival Margin』で微妙に齟齬があり、前者ではグリッスン星域の「一部が」荒野地域になっている反面、後者では星域の「大半が」荒野になっています。辺境および荒野地域は勢力圏外との解釈ですから、デネブはグリッスン星域の一部ないし大半を失い、激戦区域ゆえにUWPにも大きな変更があった…と思われるのですが、実は『Regency Sourcebook』に掲載された1202年設定を見る限りではそんな感じでもないのです。確かに70年以上の時間経過はありますが、テクノロジーレベルは1117年と比べて1~3向上し、人口に至っては1程度、つまりたった80年で10倍になっている星が多いのです。加えて、『ハードタイムズ』のUWP変更ルールで一旦人口減少が起きていたのであれば、数十年で百倍千倍規模の人口爆発が起きたことになります。確かにアスランを含めて移民を奨励したり、混乱が去ってベビーブームでも起きたり、元々の人口規模が3とか4であれば2ぐらい増やすのは難しくはないとはいえ、そもそも激戦と呼べるほどの戦いすら起きてないのでは?という気すらしてしまいます。
ただ、ヴァルグル戦線と違って「艦隊戦があった」「アスランによる占領があった」どころか、「戦闘の結果、アスランとデネブの間に無人の荒野が生まれた」とまで明記されている以上、直接爆撃や凄惨な地上戦や補給途絶による戦禍はあったと考えるしかありません。焦土作戦すらあったかもしれないのです。
しかしそうだとしても、どちらがやったかは不明確ですし、帝国軍は当然やらなさそうとして、「豊かな土地」を求めて進出してきたアスランもその土地を荒廃させるような戦い方をするかどうかかなり疑問ですが…ただしアスランは「交戦規定違反」と見なした敵には無慈悲に徹底報復を行うので、それがあったのかもしれません(実際、とある「蛮族」の星に彼らは核爆撃を行っています)。
そしてアスランに関するもう一つの疑問点が、『反乱軍ソースブック』などに書かれている「ラハト・アオラハト(原文ママ)」の記述です。なぜなら、ラハト・アオラハトは「艦隊の分配係(Fleet Dispatcher)」が成り上がったとありますが、そもそもそれは女性の役職であり、アスランの社会構造というか本能的に女性が男性氏族長(アオラハト)の上に立つことはありえないのです。第一、土地の価値を査定して公平に分けるなんて複雑な仕事、アスランの男性にできるわけないじゃないですか(笑)。
おそらくは設定が曖昧な時期に作られ、後の設定整備で矛盾となってしまったのでしょう…が、何と2021年1月にマングース社から発売された資料集『Glorious Empire』で、明らかに男性として「後のラハト・アオラハト」が登場してしまったことで事態はややこしいことになっています。この資料では、出自不明の「後のラハト・アオラハト」は弱小氏族に取り込まれ、身分が低い上に氏族間の利害関係がないことから「分配係」に任命されたとあります。確かに身分の低いアスラン男性が「女々しい」仕事を行うことは公式で示唆されているので、ありえなくはない程度に整合性は取られています。また、彼の下には有能な女性士官が就いている記述もあるため、職務遂行能力にも問題はないと思われます。
とはいえ色々設定を読む限りでは、GDW(やHIWG)の方でもこの「野心家ラハト・アオラハト」を持て余してしまっていたようです。上記の通り、1119年の首脳会談決裂以降は表舞台に全く出て来ず(1122年のグリッスン会談にも関与していません)、結局その後どうなったのかはあやふやにされてしまいました。資料を探しても「彼」が何をどうしたのかは全然出てきません。
また「ラハト・アオラハト」の権力者像も曖昧で、『反乱軍ソースブック』でアオラハトたちを従えているような描写がなされたかと思えば、一方で対アスラン作戦の指揮を執るトラナシアフ提督は「支配力は限定的」と見ていたりと、ばらつきがあります。『Glorious Empire』でも自らが救世主たらんとする願望があることは書かれていますが、「未来に」どう行動したかまでは当然ですが書かれていません。
そのため、あまり「ラハト・アオラハト」に拘らずに「個々の移民船団が次々と押し寄せてしまう」ぐらいに単純化してしまうのも一つの手だと思います。一市民の立場ではどちらでも変わりませんし。しかし戦うにしても交渉するにしても、相手がまとまってない方がかえって厄介なのも真理ですが。
アスランとは積極的に戦ったとしても、それでも彼らは話せば分かる相手でもあります。土地を提供して懐柔を試みる策は有効であり、実際、1202年の宇宙ではいくつかの星系がアスラン世界になっています。元の住民とうまくやれるかが課題ですが、それでもこれまで未活用だった土地に彼らが入植や投資をすることによって、何か新しいものが生み出されるかもしれませんし、プレイヤーがそれを手助けすることもできるでしょう。
それとは逆に、アスラン到来下の星系での日々の暮らしと軋轢を描写する手もあります。人類の抵抗組織に手を貸すも良し、暴発を抑えて融和を進めるも良し、そんな人類同士の意見や利害の対立をテーマにするも良しです。同時に、アスランを全て敵と捉えるべきではありません。こんな時代でも良き帝国市民であろうとするアスランも当然いますし、平和的に移住がしたいだけの船団もあるでしょうし、これまで帝国との交易で利益を得ていた氏族はどうにかして仲介に動くでしょう。このように、善悪二元論では片付けられない「大人の」シナリオをやってこそトラベラーではないでしょうか。
ここまでは動乱の時代にふさわしい舞台を紹介してきましたが、一方で平和になってしまった所もあります。ソードワールズが分裂して帝国の傀儡国「ボーダー・ワールズ」が誕生したことで、従来気軽に入れる雰囲気になかった星々に向かえるようになったのはこの時代の一つの利点です(シナリオ『ミスリルでの使命』も黄金時代には動機を作るのに無理がありました)。GURPS版『Sword Worlds』など詳細な資料も豊富にあり、一風変わった文化や占領地・属国ゆえの複雑な事情をテーマにしたシナリオは作りやすそうです。特に、占領地でありながら軍事力が最前線に振り向けられている状況というのは、何やら不穏な香りが漂ってきますね。弱体化したとはいえ、ソードワールズが裏で何もしてこないとは思えませんし。
同様に、反乱後は融和外交に転じたゾダーンも1105年の時よりは入国しやすいことが想定されます。単純に新たな販路を拓きに行くのもいいですが、スピンワード・マーチ宙域のゾダーン領の多くは元々帝国領でしたから、かつての入植者の子孫の依頼で何かを回収しに行ったり、墓参の同行をしたりする展開など色々考えられますね。
先の辺境戦争後に勃興した「アーデン連邦」に関しては、諜報戦の舞台に最適…とは公式に書かれているのですが、相手として相応しいゾダーンが諜報戦に乗ってくる理由が乏しくなってしまったので、この時代ではなく1105年の開戦直前のきな臭い時期の方がいいと私は思います。しかし、帝国企業からヴァルグル海賊まであらゆる勢力と物品が流入する中立港であり、抑圧的な社会構造というのは色々と陰謀の種が転がっていそうです。サイバーパンク風の「汚れ仕事」の起点には、時代に関係なく一番向いていそうです。
スピンワード・マーチはもう飽きたよ、と言われそうですが、こうして時代と視点を変えてみるとまだまだやれそうに思えてきませんか?
2.ダイベイ宙域
「私が生涯をかけて仕えてきたこの帝国は、人類史上最高の業績だ。そしてそれは市民こそが全てであること以外の何物でもない。市民の命が帝国を築いているというのに、その市民を見捨てる命令に道理はあるのか? そんな帝国ならくそくらえだ」
ワリニア公爵クレイグ・アントン・ホルバス
1118年、艦隊供出命令の拒否を決めて
ここはソロマニ連合との激戦区であり、新皇帝ルカンの命令を拒んでやむを得ず独立した宙域です。基本的に資料は過去も現在も『Travellers' Digest』誌の第15号のみであり、シナリオだけでなく星系設定すら全て作れる熟練レフリー向けの宙域です。
しかし、状況を考えると非常に「おいしい」宙域であるのも事実です。まず「君主がまとも」であること(笑)、仮想敵がソロマニ連合とルカン帝国という「悪役」であること、そしてその悪役への抵抗戦を強いられているということでヒロイックな舞台設定が似合うのです。
さらに、仮想敵が同じ人類であることから敵味方の識別が難しく、諜報戦や破壊工作はより厄介となります。いつどこに、ソルセックやルカン派の工作員が侵入しているのか…?
ということで、HIWGの資料の中からダイベイ宙域のUWPを探し出し、それを現行のT5SSのUWPと合成して均し、ほぼ独自資料となってしまいますが独立直後の1119年001日想定の宙域図を作ってみました!

……いやいやいや、なにこのリアス式国境線! ワリニア公、全然掌握できてないじゃん!
そうなんです、HIWG版設定のダイベイ宙域はそこかしこが中立化してしまっていたのです(現行のT5SS版だと隣のディアスポラ宙域まで領土あるのに…)。しかしある意味でこれは納得です。急な独立宣言から1年も経っておらず、D・Eクラス宇宙港の田舎星は忠誠確認を後回しにしているでしょうし、いくつかの有力星系ではルカン派と支持が分かれ(もしくは政権掌握され)て中立化するのは十分考えられます。まがりなりにもルカンは「正統な」皇位継承者なのですから、帝国への忠誠心が高い貴族や民衆の中には積極的消極的の両面でルカン支持を表明する人が一定数いるはずなのです。
敵の敵は味方の理屈で、ルカンがあまり積極的にダイベイを滅ぼしにかかって来ないのが救いではありますが、だからといってソロマニの脅威は弱まりませんし……そうそう、『反乱軍ソースブック』によれば1119年中にはソロマニへの大規模な反攻作戦が実施され(そして正史通りなら成功す)るので、キャンペーンに組み込むにはうってつけでしょう。
国論(域論?)が統一できたとは言い難い状態ということは、まさに『反乱軍ソースブック』に書かれている様々な状況を盛り込みやすいと言えます。派閥拡大のための多数派工作は日常的に行われているでしょうし、そこでは様々な陰謀が飛び交っているのは間違いありません。1105年設定ではグリーン・トラベルゾーンなのに、1119年設定でアンバーやレッドゾーンになっている星系では実際に動揺や動乱が起きていることが想定されます。
ところで、スピンワード・マーチ宙域と違ってアスランの侵出にさらされていないのは、クレイグ公が交渉によって「和約違反となる」緩衝地帯への領土拡張を黙認する一方で、アスランを傭兵として活用することで味方につけたからです。リーヴァーズ・ディープ宙域の小国家群には迷惑な話ですが(汗)(もちろんソロマニ連合が現在「不法占拠」している緩衝地帯もこの話に含まれるでしょうけど、中立星系や小国を蹂躙する方が楽ですし…)。
前述の通り、レフリーが細かい設定を全部起こさなくてはならないのですが、逆に今後公式設定が追加される見込みがほぼ無いため、思う存分「俺宇宙」を構築できる楽しさもあります。下の年表にある通り、ダイベイはしたたかにしぶとく反乱期を生き延びますので、背景設定に派手さと安定性の両方を求める人にお勧めの宙域です。
【反乱期の主な出来事】
1116年265日 ダイベイ宙域の海軍が特別警戒態勢に入る。
1116年309日 皇帝暗殺をダイベイ宙域政府が公式発表。
1117年252日 「ダイベイ艦隊」発足との報道がキャピタルに伝わる。
(※反逆の兆候のようですが、そもそも宙域艦隊制度はストレフォン皇帝時代に復活しているので「ダイベイ艦隊」は既にあるはずなのです。何てことのない話に尾ひれがついてキャピタルに届いたのかもしれません)
1117年341日 ダイベイ海軍が2星系でソロマニ軍と交戦、撃退。
1118年197日 ルカン皇帝からの艦隊供出命令をクレイグ公以下高官が協議。供出削減の嘆願書を提出。
1118年214日 嘆願は特使に握り潰された模様、と報じられる。
1118年217日 交渉決裂。艦隊供出命令は拒否。
1118年223日 定期哨戒中のダイベイ巡視艇が帝国第239艦隊の艦載機に発砲された事件に関して、海軍当局はコメントを出さず。
1118年260日 「帝国への忠誠」を掲げる一部部隊がダイベイ艦隊から脱走。
1118年289日 「ダイベイ連邦」が正式発足。親帝国派の高位貴族は一時的に軟禁状態に。
1118年312日 第111・176艦隊がダイベイ艦隊から離脱し、ルカン派の拠点星系に到着。
1118年332日 対デュリナー戦線から転進した第6・第259艦隊(マッシリア艦隊所属)がダイベイ艦隊と交戦し後退させた、との報道がザルシャガル宙域でなされる。
1119年365日 この日までにダイベイ軍がリムワード方面3星域をソロマニから奪還。
1120年261日 アストン星域のソロマニ艦隊をダイベイの3個艦隊が大きな損失を出すも撃破(※ただしソロマニ側では全く逆の報道がされています)。
1121年090日 オルタレ・エ・シェ社とシャルーシッド社・ナアシルカ社との間で資産交換が成立。ダイベイ宙域内のヴィラニ系資本(工場・造船所・不動産・宇宙港施設等)はオルタレ社が買収。
1121年263日 リーヴァーズ・ディープ宙域で海賊行為が増加。この方面への旅行を控えるよう連邦政府が会見。
1122年125日 海賊行為の増加を理由に、国境付近の20以上の星系がレッドゾーン指定されたことをクレイグ公が発表(※トラベルゾーン指定は本来トラベラー協会が行うものなので、政府が公表するのは極めて異例)。この時点でソロマニとの交戦は沈静化している模様。
1122年365日 この日までにダイベイ連邦はリムワードおよびトレイリング方面の計7星域を維持できなくなり、権力の空白地帯が生じた。
1123年081日 キャピタルの帝国司法省(MoJ)がダイベイ宙域に本部と訓練施設を移転させるためにクレイグ公と交渉に入った、との噂。
1123年282日 クレイグ公の誕生日恒例だった観艦式が中止に。戦力不足との憶測を会見で否定。
1124年126日 前年にドラン(イレリシュ宙域 1021)から逃走して行方不明となっていた歴史学者イリレク・クリガアン教授がワリニア(ダイベイ宙域 0507)に現れ、クレイグ公と面談。
1125年007日 デネブ海軍の巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスがワリニアに到着し、乗組員らがクレイグ公(及びクリガアン教授)と面談。
1129年065日 超能力を禁止していた一連の勅令をクレイグ公が廃止。
ダイベイ宙域については今後、UWPデータの公開やサポート記事を追加していく予定ですので、もうしばらく気長にお待ち下さい。
3.ディアスポラ宙域(1129年設定)
「こんな時代にまだいるのですか? なぜ早送りしないのですか? 今は安全な冬眠装置の中で眠り、世の中が好転した時に目覚めましょう!」
――「苦難の時代」に急増した冷凍睡眠サービス会社の宣伝文
1129年ということは、そう、「苦難の時代(Hard Times)」です。反乱は各地を破壊し尽くし、武力による帝国の再統一はもはや望めず、星間経済は破綻し、諸勢力に見捨てられた辺境星域では海賊が横行し、人々は宇宙に背中を向け始め……そんな中、わずかな小国家たちが文明の火を絶やさず最後の希望の光となっている、つまり一般に「ポスト・アポカリプス」と呼ばれるジャンルの舞台設定となります。
この設定はあまりに危険性が高いため人気は高くありませんでしたが、実は利点もいくつかあります。まず、もはや過去の〈帝国〉の設定に縛られる必要はないこと。何もかもが変わってしまった宇宙では、過去よりも現在の「目の前のこと」が全てです。過去の情報はあくまで過去の話で、過酷な今を生き抜くためには必要とは言えないのです。そして造船業の縮減で相対的に宇宙船の価値が上がったことで、宇宙船持ちというだけどころか宇宙船を動かせるだけで英雄候補となり、プレイヤーの行動いかんで星系の、星域の命運が左右されるような時代なのです。
例えば、こんなニュースがあります。
ゴールキー(ディアスポラ宙域 2929)発 1129年115日付
レストン・スミッツ氏は、少し前までは失業中の小惑星牽引船の操縦手に過ぎませんでしたが、今ではゴールキーの救世主と称されています。スミッツ氏は、この星に迫る海賊の戦闘機3機を単独で撃破したのです。
ゴールキーの住民は傭兵艦の助けをあてにできなかったので、彼らは自分たちの輸送船団を守るために自前で小さな護衛部隊を編成していました。2機の小型戦闘機、といっても船の救命艇を改造しただけのものを船団の死角に隠し、実際に3機の海賊戦闘機が現れた時にはスミッツ氏ともう1人の仲間は降伏を装いました。海賊らが船団に接近し、進路を合わせるために減速したその時、スミッツ氏と仲間は不意を突いて襲いかかりました。仲間は交戦開始とともに撃墜されましたが、スミッツ氏はあらゆる不利を撥ね退けて反撃し、3機全てを撃墜しました。彼の正確な射撃は派手に塗装された攻撃機2機を粉々に吹き飛ばし、海賊の操縦手は驚愕したことでしょう。
おまけに3機目の戦闘機は修復可能であり、スミッツ氏の新しい搭乗機としてゴールキーの防衛力を大幅に向上させると見られています。
しかし、彼を讃えて催された記者会見ではスミッツ氏は口ごもり、約束があるからと「では達者でな」とだけ言い残して早々に退席しました。Ω
無職のおじさんが一夜にして英雄に!なんてことが起こり得るのがこの時代です。まあこのニュースには何か裏がありそうな気配ですが、トラベラー・ニュースサービスは元々そういうネタ拾いのためにあるので、以後の展開はレフリーが決めます(笑)。
問題は、1129年設定だと「翌年にコンピュータウィルスで全てが灰になる」ことなのですが、前述した通り『GURPS Traveller』の登場によって公式設定ですらSFドラマのお約束である「並行宇宙」の存在は明らかになっているわけです。ならば、個人で遊ぶ分には「1130年に何も起きなかった」ことにしてしまっても問題ないでしょう。ルカンは「超兵器」を作らなかったかもしれませんし、デュリナーがそれを奪取せずに研究基地ごと破壊してしまったかもしれません。そうなった場合、史実より数十年早く復興の目が見えてくるかもしれません。
ディアスポラ宙域の場合、例えばマーガレットとデュリナーがダイベイを介して提携関係を結べば(公式設定から見てもその萌芽はありました)、その三者を結ぶ「復興回廊」の通商路としての価値は非常に高くなります。再興して拡大していく各勢力の安全圏にディアスポラ宙域の小国家が取り込まれるかもしれませんが、それはそれで軋轢もあるでしょうが歓迎もできるはずです。
そんな未来までやらなくても、目の前の危機を生き延びるネタに困らないという意味ではこの苦難の時代は美味しいです。例えば…
ドーム都市の環境制御装置の予備部品が底をつきかけているし、本格的に直せる技術者もいない。このままでは全人口がいつか死に絶えるが、外世界から商船がいつ来るかはわからない(というかここしばらく来る気配もない)。
という状況下でプレイヤーが偶然偵察艦を「発掘」し、星系の代表として外の世界に部品や技術者を調達しに行く…というだけで大冒険が見えてきます。うまく調達できればそれでいいですし、最悪の場合は略奪や誘拐するしかないかもしれません(汗)。仮に失敗してしまったとしても、どうせ滅ぶ運命だった星なのです。この時代の宇宙にはそんな話、いくらでもあります(大汗)。
また、死に絶えた故郷を捨てて安全な星を求めて村人ごと貨物船等で宇宙の放浪を続ける話もできますね。この場合はNPC管理が大変ですが、昔懐かしいシナリオ『リヴァイアサン』でも似たようなものでしたし…。
宇宙船の話ついでに、サプリメント『宇宙海軍』の発売以降は数万・数十万トンの艦船が当たり前になってしまいましたが、この時代は400トンの海賊船ですらかなりの脅威です。昔懐かしい1200トンの巡洋艦に至っては小国家や星間傭兵の旗艦扱いでしょう。つまり、宇宙戦闘が「クラシック・トラベラーの」基本ルールや『メイデイ』の規模に戻されているのです。これはプレイヤーやレフリーの扱いが楽になるという意味でも歓迎できます。
もちろん数万トンの軍艦が宇宙から消えて無くなったわけでもないので、どう活用するかはレフリーの歳量次第ですね。映画『スターウォーズ』のデス・スターのように「絶望的に強そうな構造体を内部から破壊しに向かう」シナリオとか。もはやそれに乗っているのは正規軍の軍人ではないでしょうから(軍人くずれかもしれませんが)、どこかに隙があるはずです…たぶん(汗)。
一方で、商人型キャンペーンはかなり手直しが必要になるでしょう。『ハードタイムズ』本編で示唆されている通り、治安の悪化や星間経済の崩壊によってかつてのような「自由な」航海はもはや望めません。かつては万能だったクレジット(信用)の価値もないのです(厳密にはないこともないですが…)。商船の貧弱な武装では海賊船に遭遇すれば即詰んでしまいますし、かといって「マーチャント・テンダー」と契約すれば行動の自由が制約されます。
あえてやるとすれば、誕生したばかりの小国家の安定のために物資の供給などで東奔西走する形になるでしょうか。辺境地域の商船は貴重な存在なので、御用聞きのごとく狭い範囲を行ったり来たりすることになりますが、その分設定密度は濃厚にできますし、「地元の星々」に愛着も湧いてくる…といいですね。
『ハードタイムズ』に書いてある通り、荒野地域での「呪われた貿易」に手を出すのもありでしょう。滅びゆく星から逃げるためなら全財産を差し出す金持ちはいくらでもいます。そして、乗せてくれなければ密航や乗っ取りも辞さない人々はもっと…。
他の影響として、高TLの製品が貴重になったことで、例えばバトルドレスやエアラフトのたった一式だけでも様々な駆け引きと騒動が繰り広げられるのが想像できます。
あとこの時代特有の「星間傭兵」となって転戦するキャンペーンも考えられますが、要は「艦隊戦もやる傭兵部隊」なので、指揮官となるのでなければやることは従来の傭兵キャンペーンとはさほど変わらないかもしれません。ただ、「金のために戦う」従来の傭兵よりは「生きることを諦めない民衆のために戦う」色彩が強くなるのが星間傭兵なので、そこをうまく演出してあげたいところです。
ところで、そもそもなぜディアスポラ宙域を推したかというと、実は反乱期の資料で一番詳細な宙域設定があるのがこの「1129年のディアスポラ宙域」なのです。GDWから出た公式設定集『Astrogator's Guide to the Diaspora Sector』に加えて、後に『Traveller Chronicle』誌第2~5号にて「Astrogator's Update to the Diaspora Sector」が掲載されるなど(両方とも著者は『ハードタイムズ』のチャールズ・ギャノンです)、星系設定があるのは(数え間違えていなければ)延べ109星系にも及びます。また、『Challenge』誌掲載記事や傭兵シナリオ『Assignment: Vigilante』もあり、英文の壁さえ乗り越えればシナリオのネタの宝庫です。確かにその壁が一番高いのは否めませんが、今では全てが電子化されているので入手が容易というのはありがたい点です。
基本的にこれらから得られる情報は「戦乱で変わり果ててしまった世界」なのですが、中にはこの御時世には似つかわしくない観光ガイド的なものもあったりして侮れません(笑)。『Astrogator's Guide~』の表紙からして観光地ですし。
ここまで3つの宙域設定を紹介してきましたが、正直なところこの反乱期を扱うには、旧来の2D6ベースのトラベラーシステムよりは『Traveller: The New Era』のハウスシステムなど「タフで戦闘向きな」ものの方が向いているとは思います。しかし、危険だらけの宇宙をただ生き延びるためだけに生きる、という楽しみ方もそれはそれでアリではないでしょうか。
今回紹介した場所以外にも、「滅びの美学」に殉じたい人向けのグシェメグ宙域や、反乱を無視したい人向けのヒンター・ワールズ宙域(本末転倒ですが…)など、まだまだ反乱期は掘り尽くせていない魅力があるにはあります。「命なんて安いものさ」というある程度の割り切りと、それでも生きようとする希望、それを支える機転と慎重さがあれば、人類史で最も血と涙が流れたこの時代でも大丈夫でしょう。
――でもやっぱり、平和が一番ですよね!(おい)
【ライブラリ・データ(1123年版)】
ボーダー・ワールズ連合 Border Worlds Confederation
スピンワード・マーチ宙域のソード・ワールズ星域に存在する、帝国の属国です。
第五次辺境戦争の末期、帝国軍は宣戦布告なしにランス(スピンワード・マーチ宙域 1719)を攻撃したソード・ワールズ連合への報復として連合の10星系の占拠に踏み切り、休戦条約締結後も返還を拒みました。長く複雑な交渉の末、1111年に占領下の星系に加えてソード・ワールズから離反した2星系の計12星系で「ボーダー・ワールズ連合」が結成されました。当初首都はスティング(同 1525)に置かれましたが、スティングの官僚による連合当局への干渉に業を煮やした結果、1116年にビーター(同 1424)に首都機能は移転されました。
現在、一部星系に帝国への加盟申請の動きがあり、帝国もメタル・ワールズ4星系の購入併合を検討するなど、連合の先行きは不透明となっています。
(※ボーダー・ワールズの国境線はメガトラベラー版とGURPS版とT5SS版で全て異なっており、今回はGURPS版の設定をメガトラベラー版の国境線に合わせる形で記述しています)
ワリニア公爵クレイグ・アントン・ホルバス Duke Craig Anton Horvath of Warinir
ワリニア(ダイベイ宙域 0507)の公爵家の嫡子として1065年に生まれた彼は、帝国海軍の士官として経歴を重ねてはいましたが配属は整備科であり、一度も指揮を執ったこともなければ勲章を受けたこともありませんでした。
退役して公爵位を継承した後は海軍時代の経験をもとに己の指導力と組織力を磨き上げ、1118年にダイベイ宙域を事実上帝国から独立させてからは艦隊の最高司令官としてソロマニ軍の侵入を巧みに阻止し続けてきました。彼は「海軍で鍛えられること以上に王に相応しい修行はない」という古の諺を証明してみせ、反乱前こそ無名でしたが今では帝国で最も冷静で聡明な人物だという評判を獲得しました。
イリレク・クリガアン教授 Professor Ililek Kuligaan
1116年にドラン大学帝国史学部の学部長に就任したクリガアン教授は、イレリシュ連邦政府(通称デュリナー帝国)への政策提言を行っていました。
しかし1123年、相次ぐ無法戦争やヴァージ戦争、そしてヴィラーサ教団の過激派(※)が政権内で伸張していくことに嫌気が差した彼は、家族をドラン(イレリシュ宙域 1021)から脱出させるとできる限り多くの機密資料を破壊し、学内でデュリナー政権を告発する演説を行い、その証拠を持ち出して逃走しました。イレリシュ政府は逮捕状を取り、彼の行方を追っています。
(※ドランを支配するヴィラーサ教は元来「楽園の扉を開くのは非暴力による死のみである」という教義でしたが、デュリナー政権に近付いて1121年に「非暴力に限らない」と変更して以降は正統派教徒への迫害が続いています)
巡洋艦アライバル・ヴェンジェンス Frontier Cruiser Arrival Vengeance
排水素量6万トンのライトニング級巡洋艦のFL-6415号艦として、1003年にスピンワード・マーチ宙域の第11ヤードで建造されたアライバル・ヴェンジェンスは、1006年037日に初就役し、1048年に予備役に移管されました。1082年にFC-6415号艦に改装された後は第四次・第五次の2度の辺境戦争に参加し、1114年にトリン(スピンワード・マーチ宙域 3235)の帝国海軍不活性艦艇施設に保存されました。
反乱の発生以後、海軍は1125年を目処に同艦を再就役させるべく整備を続けています。
ディアスポラ宙域 Diaspora Sector
ソロマニ・リム宙域のコアワード側に隣接するこの宙域に最初に進出したのはヴィラニ人でしたが、その開発度合いは地球人の将軍の言葉にある通り「とても少なく、とても古く、とても遅く、とても悪い」有様でした。恒星間戦争で衰退していった第一帝国はこの宙域を緩衝地帯として使うべく、地球連合に次々と星系を明け渡したため、地球人はより容易に銀河中央に向けて進出することができました。
地球人はこの宙域に永続的な統治を確立すべく、大規模な入植計画を策定しました。それは最初の8年間で約1000万人もの自発的な(そして非自発的な)移民が参加したことで「ディアスポラ(民族離散)」との異名を生み、今も宙域の名として残っています。
やがて暗黒時代に突入すると、スフレン同盟(Union of Sufren)のみが文明の火を保ち続けました。その努力は330年に第三帝国がこの宙域を併合し、帝国首都と人類発祥の地を繋ぐ「帝国の路(Imperial Road)」の重要な結節点となって繁栄することで報われました。
【参考文献】
・Supplement 5: Lightning Class Cruisers (Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・Hard Times (Game Designers' Workshop)
・Astrogator's Guide to the Diaspora Sector (Game Designers' Workshop)
・Assignment: Vigilante (Game Designers' Workshop)
・Arrival Vengeance (Game Designers' Workshop)
・Survival Margin (Game Designers' Workshop)
・Regency Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・MegaTraveller Journal #1,#2,#3 (Digest Group Publications)
・Traveller Chronicle #2,#3,#4,#5 (Sword of the Knight Publications)
・Glorious Empire (Mongoose Publishing)
・Traveller News Service