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特別企画:GURPS Traveller 17年の歴史を振り返る

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 ご存じの方も多いかと思いますが、2015年12月31日をもってSteve Jackson Gamesが取得していた「トラベラー・ライセンス」が失効し、これまで販売されていた全製品が絶版となります。最後に製品が発売されたのが2006年のことですから、9年間もライセンスを更新し続けていたというのは驚異的としか言いようがありません。

 『GURPS Traveller』が世に出たのは1998年。この年、『Marc Miller's Traveller』(T4)を展開していたImperium Gamesが活動を終了したのと入れ替わるようにして、刊行が開始されました。旧来のシステムを捨てて汎用システムであるGURPSを使用するこのシリーズは、当初賛否両論も多かったのですが、後にGURPSらしい極めて質の高いサプリメント展開がなされたことで好評を博しました(GURPSでは遊ばずに資料だけいただく、というのが主ではあったと思いますが)。確かにGURPSは癖の強いシステムではありましたが、キャラクターに付いた「有利/不利な特徴」の要素はロールプレイの手助けと同時に「異星人らしさ」を表現する面でも有効的であったことは書き記しておきたいと思います。その一方で、宇宙港タイプやTL数値の意味合いが変更されたのは、仕方ないとはいえ混乱を呼びましたが…。

 この"GT"の特徴はシステムだけでなく、宇宙設定にもありました。旧来のOTUを継承しつつも「『反乱(Rebellion)』が起きなかった帝国暦1120年」という新機軸を打ち出しました。『メガトラベラー』から『Traveller: The New Era』にかけての「エキサイティングさ」を求めた設定が必ずしもファンには評価されてなかったことを見て取ってか、「大事件の起きない安定した恒星間帝国」を舞台にしたのです。SJGが独自に展開していた「Traveller News Service」は帝国暦1130年047日付で更新を終了しましたが、これから先もこのGTU(GURPS Traveller Universe)では大事件が起こることはなく、仮にストレフォン皇帝が死を迎えても無事にシエンシア皇女が皇位を継承して、アルカリコイ朝は続いていくことでしょう。
(※とはいえ「エンプレス・ウェーブ」の設定を考えると、数十年後には銀河核方向で異変が起こり始めるはずですが…)

 では、発売年代別にGURPS Travellerに限らず、SJGから発売されたトラベラー関連の全製品を簡単に振り返ってみたいと思います。なお、発売日順には必ずしも並んでいないのでご了承ください。


【1998年】 T4の終焉、GTUの幕開け
GURPS Traveller
 伝統の黒表紙にあの「This is Free Trader Beowulf,」から始まる、トラベラーが戻ってきたことを告げる基本ルールブック。キャラクター作成(および変換ルール)、装備品、宇宙船解説(デッキプラン付き)といった必要最低限のものを押さえつつ、全体の半分を占めるのはライブラリ・データを含めた設定解説、という一冊。『メガトラベラー 帝国百科』があれば十分とはいえ、ありがたい資料でもあった。
 ちなみに初版・第2版共にソフトカバー版・ハードカバー版が存在し、後に「トラベラー25周年記念版」も発売された。またPDF版に「Classic」とあるのは、ルールがGURPS第3版対応だからだと思われる。

Alien Races 1 Zhodani, Vargr and other races of the Spinward Marches
 主要種族のゾダーン人とヴァルグルに加え、グォークナイル宙域(※スピンワード・マーチ宙域から2宙域ほど核方向にある)のドラカラン(Drakarans)と、ゾダーン領内のクロトー(Clotho)の2群小種族を解説。GURPS版準拠だが超能力の追加ルールもあり。

Behind the Claw The Spinward Marches Sourcebook
 スピンワード・マーチ宙域の全星系の設定を(1120年とはいえ)網羅した唯一無二の資料集。スピンワード・マーチを冒険の舞台に選んだレフリー必携の一冊。

【1999年】
Alien Races 2 Aslan, K'kree and Other races rimward of the Imperium
 主要種族のアスランとククリー、菌糸と動物が共同で知的生命となった「知性デヴィ(Devi Intelligence)」、水棲知的種族イニクス(Inyx)の設定を収録。

Far Trader Profit and pitfalls among the stars
 交易ルールから金融・企業経営、はたまた星系内移動まで網羅した商人サプリメントだが、最大の功績は世界物流指数(World Trade Number)の導入により、Xボート網とは違う「星間交易の流れ」を可視化したこと。

First In Exploration and contact among the stars
 偵察局の設定、装備、GURPS対応上級星系作成システムを収録。

Star Mercs Military and Mercenary Campaigning
 GDW版『傭兵部隊』のGURPS版といった趣きのサプリメント。傭兵にまつわる全てがこの一冊に。

【2000年】 クラシック版、合本にて復刻開始
Alien Races 3 Hiver, Dryone, Ancients and other enigmatic races
 主要種族ハイヴとドロイン(および太古種族)、ハイヴ領外のダイソン球に住む"相続者たち"(Inheritors)、ククリーと敵対してハイヴと同盟を結んだリスカインド(Lithkind)を収録。

Ground Forces Furious action in the Marines and Army
 地上で戦う海兵隊・陸軍の設定、装備を網羅。この本によって初めて明らかになった設定も多い。

Rim of Fire The Solomani Rim Sourcebook
 ソロマニ・リム宙域の、全星系ではないものの多くの星系の設定を収録。マングース版にはない情報もあるため、この宙域を舞台にしたいなら必携の書。

Starports Gatways to Adventure
 これまでありそうでなかった「宇宙港」に焦点を当てたサプリメント。数々の新設定やサンプル宇宙港のデッキプランもありがたいが、「宇宙港キャンペーン」という新たな遊び方を提唱した功績は多大。

【2001年】
Alien Races 4 16 Intelligent races from across space
 仲良くなれそうなものから存在を知られるとパニックになりそうなものまで、帝国内外の様々な群小種族を解説。

Modular Cutter Workhorse of the Imperium
 帝国の縁の下の力持ちである小艇について解説。モジュール式が採用されており、様々な用途に合わせて組み換え可能なのが特徴。小さいながらも60ページに及ぶデッキプランの数々は、見ているだけでも楽しい。

Planetary Survey 1: Kamsii The Pleasure World
Planetary Survey 2: Denuli The Shrieker World
Planetary Survey 3: Granicus The Pirate Paradise
Planetary Survey 4: Glisten Jewel of the Marches
Planetary Survey 5: Tobibak The Savage Sea
Planetary Survey 6: Darkmoon The Prison Planet
 このシリーズは1冊32~48ページの中に1つの星系詳細情報やシナリオフックを詰め込めるだけ詰め込んだもの。1がコア宙域、2と4がスピンワード・マーチ宙域、3と5と6がコリドー宙域で、綿密に設定が組まれているだけに他の星への設定の移植は難しいかもしれない。なお『Denuli』はGDWから出ていたシナリオ『Safari Ship』(未訳)の後日談であり、当然ながらネタバレを含むので扱いには注意。

【2002年】 Traveller20刊行開始
Heroes 1: Bounty Hunters WANTED! REWARD!
 ならず者を追う「賞金稼ぎ」に関する設定とNPC集。1と銘打ったものの出たのはこれだけであった。

Best of JTAS, Volume 1  The Journal's Finest!
 SJGが展開していた会員制オンライン誌「Journal of the Travellers' Aid Society」から一部記事を書籍化。ささやかではあるが、現時点で「人類の支配(第二帝国)」の設定が掲載されている商業出版物はこれのみ。

【2003年】
Humaniti The infinite Variety of Mankind in space
 太古種族によって宇宙各地にばら撒かれ、それぞれ独自に進化した「人類」を解説。異星人よりも異種族な、バラエティ豊かな人類像を描いた。

Starships Construction, Combat and Adventure
 待望の海軍サプリメント…となるはずだったが、結局宇宙船設計ルールのみを収録。細かく読めば設定の宝庫ではあるのだけど…。

【2004年】
Sword Worlds The Day After Ragnarok
 題名通りのソード・ワールズ人やソード・ワールズ連合を解説したサプリメント。注目点は、後にも先にも類を見ない「連合加盟全星系の惑星図」。平穏な1120年設定だからこそ出来る「政情不安な占領地」的な冒険に向いた世界観を提供した。

Flare Star
 元は1981年にMarischal Adventures社から発売されたリーヴァーズ・ディープ宙域を舞台にした「スコティアン・ハントレス号」4部作シナリオが(※このシリーズ5作目がGDWから発売された『侵略の夜(Night of Conquest)』)、後にSJGの『SpaceGamer』誌に掲載されたもの。それをGURPS版にリメイクして無料PDFで復刻。

【2005年】 FFE、メガトラベラーからCD-ROM版復刻開始
Nobles Lords of the Stars
 縁遠いようで身近な「貴族」について、国政を動かす大貴族家から末端のナイトまで徹底解説。また、帝国の裁判制度や貴族院、行政組織の設定も網羅するなど貴重な一冊。

Psionic Institutes
 ここからGURPS基本ルールが第4版に移行。題名通りに超能力研究所に関する設定を収録。PDF版のみの販売。

【2006年】 『New Era: 1248』登場
Interstellar Wars One World Against Thousands
 GURPS第4版対応に伴い、宇宙設定を帝国暦以前の「恒星間戦争時代」に変更。地球連合・ヴィラニ帝国両陣営の詳細設定や戦争全史を網羅した超一級の資料集でもあった。ここから新展開が期待されていたがGURPS自体が斜陽だったこともあって、これが最後の刊行となった…。
 余談だが、第4版移行の最大の利点は「宇宙港タイプがABC表記になった」ことであった(笑)。

【アクセサリー類】
Cardboard Heroes, Set 1: Soldiers of Fortune
Cardboard Heroes, Set 2: Imperial Marines
Cardboard Heroes, Set 3: Zhodani
 1982年、SJGが自社展開していた「Cardboard Heroes」規格の駒セットを、GDWのライセンスを取得して販売していたもの。切り取って折り曲げるだけで完成する簡易駒だが、利便性はなかなかのもの。この後ヴァルグルが発売される予定だったようだが、3作品で打ち切られた。

Science Fiction Player Characters, Set 17
 1987年に出された「Cardboard Heroes」のトラベラー風セットだった、らしい。

Droyne Coyn Set
 2000年に発売されたドロインの通過儀礼で用いられるコインセット、のペーパークラフト。上記AR3やエイリアンモジュール、『黄昏の峰へ』などと併せて使用したいところ。

Deck Plan 1: Beowulf-Class Free Trader
Deck Plan 2: Modular Cutter
Deck Plan 3: Empress Marava-Class Far Trader
Deck Plan 4: Assault Cutter
Deck Plan 5: Sulieman-Class Scout/Courier
Deck Plan 6: Dragon-Class System Defense Boat
 2000年~2002年にかけて発売された、「Cardboard Heroes」規格かつGURPSルール準拠で「1ヤード=1メートル」幅の「ヘクス」が引かれたデッキプラン。全部広げるとベオオルフ級でも結構な場所を取るものであった。

GM's Screen
 2002年にようやく発売。ゲームマスター用スクリーンに「Brubek's」のフロアプランと「Cardboard Heroes」のシートが付属していた。ちなみに「Brubek's」とは、帝国各地のBクラス以上宇宙港に店舗を多数展開している酒場チェーン店のこと。詳細は『Starports』を参照。

Traveller T-shirt
Brubek's T-shirt
IISS patch
Imperial Sunburst patch
 こういうグッズも販売していた(※ただ、patchに関しては本当に発売されたか調査中)。

Starship Forms
 宇宙船設計用紙セット…が発売される予定だったが中止になったようだ。


 そのほとんどが現在でも一線級の資料群だっただけに失われるのが惜しいのですが、さすがに9年も新製品が出ない状況で続けろというのも酷であり、残念ではありますが「その使命を終えた」のでしょう。本家がT4で迷走した後でOTUを立て直し補強したその功績は多大であり、いつまでも読み継がれるべき作品群だと思います。
 制作や出版に携わった皆さん、お疲れ様でした。

恒星間戦争風ミニゲーム「いんぺりうむしょうぎ」

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 『いんぺりうむしょうぎ』は、長きに渡った恒星間戦争(Interstellar Wars)における最終局面、「第N次恒星間戦争」を簡潔なルールで大雑把に再現したゲームです。

【プレイ人数】2人
【プレイ時間】1回につき数分
【ゲーム規模】1スクエア=数十パーセク


(クリックして拡大)
【準備】
上の画像を印刷します(無圧縮版が欲しい方は上半分下半分ユニット1ユニット2に4分割された画像を結合してご利用ください)。一応ハガキの比率で作ってはありますが、A4の工作用紙などに印刷するのがいいでしょう。
白の線で「盤」と「駒」を切り分けます。その際、点線で結ばれた「B」と書かれた駒は切り離さず、点線の所で山折りした上で接着し、両面が存在する駒を作ります。
それぞれのプレイヤーは、1種類ずつ計4個の駒を持ってゲームを始めます。
どちらのプレイヤーが地球連合(青)ないし帝国(赤)の側になるかを決め、自分の色で着色されたマス(以下「勢力圏」)が手前側に来るよう、短辺側に相対するように座ります。
駒を並べます。勢力圏の左側から順に「巡洋艦(CR)」「旗艦(BB)」「空母(MS)」、陣地のひとつ上の段の中央のマス(以下「宙域」)に「整備不良状態の戦艦(B・Disrupted)」を配置します。自分の駒の向きは常に右上のユニット種別が正しく読める方向に置き、ゲーム中に勝手に回転させるなどしてはいけません。
帝国(赤)側が先手で始めます。

【遊び方】
自分の手番が来たら、「自分の駒の1つを移動させる」か「手持ちの増援ユニット1つを何も居ない宙域に配置する」かのどちらかを行わなくてはなりません。増援ユニットを配置する場合、「戦艦(B)」の駒は必ず「整備不良(Disrupted)」の側で配置しなくてはなりません。
自分の駒が既に存在する宙域に他の自分の駒を移動させることはできません。逆に、自分の駒が相手の駒のいる宙域に入ったら、相手の駒を盤から除去し、それを増援ユニットとして自分の手元に置きます。
自分の手番を行ったら、相手の手番となります。それを繰り返し、「相手の旗艦(BB)を除去する」か「自分の旗艦(BB)が相手の勢力圏に入り、次の相手の手番で除去されなかった」場合は勝利となります。
「ニ戦艦(同じ縦列に自分の2つの戦艦が並ぶ)」「増援戦艦詰め(増援で打った戦艦によって相手の旗艦が必ず負けるようにしか移動できなくなる)」は反則ではありません。相手の勢力圏に増援の戦艦を直接配置しても問題はありませんが、そこから動くことはできなくなります(※打った段階で相手の勢力圏に「入った」からといって整備不良状態が解消するわけではありません)。双方が同じ行動を繰り返して、同じ盤面が3度現れると引き分けとなります。

【駒の動かし方】

旗艦(BB)
 縦・横・斜め、8方向全ての隣の宙域に移動することができます。

戦艦(B)
 整備不良(Disrupted)状態では1つ上の宙域にだけに移動できます。しかし、相手の勢力圏に移動した際には駒を裏返すことができ、整備不良が取れた状態では縦・横の4方向と左斜め上・右斜め上の計6方向に移動することができるようになります。

巡洋艦(CR)
 斜め隣の4方向の宙域のみに移動することができます。

空母(MS)
 縦・横の4方向の隣の宙域のみに移動することができます。


【よくある質問(FAQ)】

Q:何でこんなものを作ろうと思ったの?
A:『どうぶつしょうぎ』を眺めていて、これでインペリウム再現できないかなー→いや「成り」とかどうすんのよ無理でしょ→「整備不良」の活用に気付く→これだ!www、といういきさつがありました。製作期間は1週間ほどです。

Q:帝国側が先手なのはなぜ?
A:構造上「互いに最善手を指し続けた場合に後手必勝となる」ゲームだからです。史実再現性を考えると、地球側有利のバランスにしたかったのです。

Q:陣地に国章が描いてあるけど、なんで帝国側は真ん中のマスじゃないの?
A:デザインの対称性を優先させるか、首都がある宙域に置くかで迷ってこうしました。ただの飾りなので、ゲーム上では何の意味もありません。

Q:なぜマス目を正方形にしなかったの?
A:トラベラー系ゲームで宙域規模スケールである以上、縦横比5:4は譲れません。

Q:戦艦が整備不良状態で出てきたり、敵陣まで行ってやっと直るとかおかしくない?
A:深く考えてはいけません。戦闘機や駆逐艦が戦艦に化けるよりはいいでしょう。予算投入による修復を簡素なルールで再現した、とでも思ってください。

Q:敵艦を撃破しないと増援が来ない、ってどういうこと?
A:撃破によって獲得した新領土から得られたRUで補充の予算が付いたのではないでしょうか。

Q:宙域名は本当にこういう公式設定なの?
A:当時はこんな感じだったろう、というのを雰囲気で付けただけなので裏付けはありません。そもそも3宙域分間引いてますし。ただ、例えば地球人が自分の母星のある宙域を敵の言語である「クシュッギ宙域」とは絶対に言わないだろう、と考えて、その辺はそれっぽく設定しています。

Q:ヴィラニ文字らしきものの読み方を教えて!
A:帝国側プレイヤーから見て最上段左から順に、アムカリム、クシュッギ、マガアル。ミカディラ、ナクラカク、ランキシダム。リシュリル、ウカン、ダグダシャアグ。ミカシルカ、リシュン、ヴランド。枠外に国名であるジル・シルカ(星々の大帝国)と書いてあると思ってください。一応公式設定ですが3宙域分間引いているのは同じなので、繋がりは正しくありません。

ぶらりTL11の旅(3) 『2300AD』

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 第3回のテーマは『2300AD』。旧GDWにおいて『トラベラー』と双璧をなしていたSF-RPGです。サブタイトルに"Mens Battle in the stars"とあるように、西暦2300年を舞台にした人類の戦い(だけではないけどゲームシステムの傾向で戦闘がテーマになりがち)を描いています。
 以前にも書きましたが、元々1986年に初版が発売された際には『Traveller:2300』の題名でした。当時のGDWの屋台骨であるトラベラーにあやかったかどうかは知りませんが、システム面でも宇宙史面でも全くトラベラーと繋がりがなかったのにこのタイトルを付けたことで、当時は混乱が広がったようです(恒星間戦争をテーマにした新作と誤解されても仕方ないですよね)。結果、1988年の第2版からはタイトルは『2300AD』となり、トラベラーとは全くの別ゲームとして人気を博しました。
 GDW倒産後は絶版状態でしたが、Traveller20発売後の2007年にQLI社から『2320AD』としてd20システム版が発売されました(言うまでもないですが「20年後を舞台にした続編」と「d20システム」を掛けたタイトルになっています)。しかし、サプリメント展開はなされずに終わりました。
 そして2012年、マングース版トラベラーのATUとして『2300AD』が復活し、徐々にではありますがサプリメント展開も続いています。このバージョンは『2320AD』の著者が手掛けていて、『2320AD』の復刻と言いますかロールバックに近い体裁になっています(よって『2320AD』の原稿そのままで修正されなかった部分が初版には存在した)。トラベラーを冠しながら違うゲームだったものがトラベラーシステムで戻ってくる、というのも何かの因縁を感じます(笑)。

 『スターウォーズ』や『銀河帝国の興亡』といったスペースオペラの影響が色濃いOTUに対し、『2300AD』ではハードSF(『2001年宇宙の旅』『エイリアン』等)をモチーフにしたリアル路線を打ち出し、後には『ブレードランナー』に代表されるサイバーパンクや、遺伝子改良によるトランスヒューマン要素をも貪欲に取り込んでいます。

 この『2300AD』の世界観は同じくGDWの『Twilight:2000』と地続きとされています。これは20世紀末の第三次世界大戦を戦い抜く兵士となるRPGで、当然ながら軍事・戦闘志向の強いものです。『2300AD』の世界観は、当時GDW社内で行われた"The Great Game"という戦略ゲームの結果だそうですが、『Twilight:2000』の設定を含めて知らなくても全く問題ありません(マングース版では「歴史記録の多くが戦争で破壊されて不明確になった」と改めて設定されました)。

 では、その第三次世界大戦から24世紀に至る歴史を追いかけてみます。


 局地的な核戦争を含む相次ぐ戦乱や、伝染病の蔓延、長年に渡る飢饉によって、西暦2000年~2089年は「黄昏の時代」と呼ばれています。「幸運にも」それらの災難を避けられたフランスがいち早く宇宙開発を再開させた一方、アメリカは三つ巴の内戦に苦しみ、ロシア、ドイツ、インド、中国といった国々は崩壊していきました。
 2100年にはフランスはアラビア半島などの権益を収める超大国の地位に上り詰めましたが、一方で22世紀初頭は新天地である宇宙を巡って各国がしのぎを削る時代でもありました。満洲が水星に進出し、フランスに続いてアメリカも火星に足を踏み入れました。最終的に2119年のメルボルン合意によって、地球軌道の非武装化と太陽系惑星の植民地化の取り決めがなされました。

 22世紀前半に各国は宇宙開発に多額の投資を行い、地球~月間のラグランジュ点には初の宇宙居住地L-4、L-5が建設され、月や火星には入植が進みました。2112年に基礎理論が確立されていた恒星間航法は、2130年までにはいくつかの研究所がワープ機関の試作を終えていました。
 最初の恒星間宇宙船は2146年に欧州宇宙機関(ESA)によって造られました。ケンタウルス座α星への最初の探検によって入植に適した惑星ティラナが発見され、ESA加盟国のフランス、バイエルン、イギリス、アザニア(※この時代の南アフリカ)が領有を主張しました。少し遅れてアルゼンチン、中国(※満洲の誤りのような気がしますが、どの文献にも"China"と記載されています)、アメリカが独自に恒星間宇宙船を建造し、それぞれケンタウルス座α星、バーナード星、ウォルフ359星を探査しました。
 「フランスによる平和」の下、各国は国力を回復し、必然的に各国はフランスと国力を競うようになりました。一方でフランスは「世界を導く」負担に耐えかねて国力を低下させ、2150年には曲がり角を迎えていました。2149年~2154年のアルファ・ケンタウリ戦争でアルゼンチン(とその同盟国)に破れたのを契機に「フランスによる平和」は終わり、国際紛争の新たな時代が始まりました。
 22世紀末には、人類は地球から約20光年の範囲を探査し、10ほどの星に植民地を築いていました。植民星の拡大は地球上の紛争を宇宙各地に持ち込むこととなり、地球の本国が植民星から搾取するという「歪み」も広まっていきました。

 22世紀が探検の時代なら、23世紀は通商の時代でした。新たな領土は新たな商圏を産み、高額な恒星間輸送費を払ってすら利益が出る様々な資源、製品、サービス、情報がそこには満ち溢れていました。
 中でもこの時代に栄えたのがフランスでした。地球上ではアフリカ、中近東、太平洋での権益を取り戻し、時間を掛けて対立国(アルゼンチン、メキシコ、満洲)との緊張を緩和させ、軍事力と評判を立て直し、2250年には再び超大国の地位に返り咲いていました。
 そんな中人類は、いくつかの知的生命体と接触を果たしました。彼らとの交流と研究によって人類社会には新たな多様性がもたらされ、これまでになかった遺伝子工学技術を得、同時に異種族との摩擦や紛争を経験していくこととなるのです。

 23世紀の中頃、成熟期を迎えた植民地が新たな危機を呼んでいました。これまで地球経済を支えていた重商主義(地球の本国は原材料を植民地から手に入れ、植民地は本国の製品を購入する)が、植民地の発展によって成り立たなくなっていたのです。多くの大国は景気停滞に陥ってしまいました。地球近傍では国家主義が台頭し、逆に宇宙入植者の間には自主独立の気運が高まっていきました。
 2289年、フランスでクーデターが発生して第十二共和政が崩壊しましたが、代わった軍事政権が国債を乱発したために極度なインフレーションが発生しました。さらに軍が立て続けに対外戦争に敗れたので、2293年に著名な実業家であるニコラ・ラフィンに自由選挙で権力を譲渡する羽目になりました。
 ラフィン新政権は経済を劇的に立て直し、2298年の総選挙にて「国民からの支持によって」フランスは頼りない共和制から第三帝政への移行を決定します。かくして新皇帝ニコラ1世を戴く『フランス帝国』が、約400年ぶりに宇宙に蘇ったのです……。

(※なお年号はマングース版準拠で、旧版とは差異があります)


 このように、SFにありがちな超国家連邦なんか夢のまた夢、むしろ19世紀の帝国主義時代に逆戻りしてしまったかのような未来像が描かれています(ウィーン体制からナポレオン3世にかけての時代を明らかに模していますね)。また、割愛した部分はほとんど戦争に関することで、よくこれまで第四次世界大戦が起きなかったなというぐらいにあちこちで戦闘が繰り広げられています(まあ元が戦争テーマのゲームなので…)。


 さて300年後の未来、地球のパワーバランスはどのようになっているのでしょうか?

【超大国】 Tier 1
フランス French Empire
系外植民地:フルーム/キマンジャノ星、ヌー・ヴァラ/かみのけ座β星、フォーゲルハイム/アドラーホースト星、オロール/うしかい座η星、ヌーベルプロヴァンス/ティラナ、ユーロップ・ヌーヴ/クイーン・アリス星、フランス領ベータ・カヌム/りょうけん座β星、およびサン・スーシ前哨基地/DM+36 2219星など多数
 21世紀以降の世界史はフランス史である、と言っても過言ではないほどに、この300年間はフランスを中心に国際政治は動き、文化や技術の中心もフランスであり続けた。
 地球上ではフランス本国に加え、俗に「フランス地上帝国(Imperial France)」と呼ばれるアフリカ諸国やポリネシアを傘下に収め、中でもガボンの首都リーブルヴィルに建設された軌道エレベータはフランスに莫大な利益をもたらした。

【列強】 Tier 2
アメリカ United States of America
系外植民地:ティラニア/ティラナ、ニューコロンビア/キング星、ヘルメス/ヘラクレス座μ星、アヴァロン/DM-34 11626星、エリス/エリス星、およびアームストロング前哨基地/ブロワード星など
 黄昏の時代の内戦による混乱でアメリカは長い間孤立主義を採ったが、近年では国際社会に復帰しつつある。黄昏期以前の超大国の底力は今も健在。

イギリス United Kingdom of Great Britain
系外植民地:ニューアルビオン/ティラナ、アリシア/クイーン・アリス星、ニューアフリカ/りょうけん座β星、クレーター/ヘンリー星、ニューコーンウォール/おおぐま座61番星、およびデビルビス前哨基地/クラーク星など
 黄昏の時代に大きな傷を負ったものの、(フランスの影ではあるが)再び列強として返り咲いた。恒星間交易による収益を科学研究に振り向け、特に宇宙開発技術では他国より優位にある。現在の君主は、在位30年を迎えたマーガレット2世。

ドイツ Germany
系外植民地:フライハーフェン/ティラナ、ドゥンケルハイム/DM+36 2393星、ホーエンバーデン/ホーエンバーデン星、ノイバイエルン/ニーベルンゲン星、ドイツ領ベータ・カヌム/りょうけん座β星、フォーゲルハイム/アドラーホースト星、ハルビンゼル/おおぐま座61番星、およびフンスリュック前哨基地/オージュロー星など
 黄昏の時代に小領邦に四分五裂したドイツは、その後300年間フランスの影響下にあったが、2292年のドイツ再統一戦争でフランスを破って一国としての独立を回復。しかし統一派の旗手だったハノーファーと、最後までフランスと共にあろうとしたバイエルンの亀裂は未だ回復しきれておらず、旧バイエルン系植民地では不穏な動きも…?

日本 Japan
系外植民地:天照(アマテラス)/ティラナ、大黒(ダイコク)/みずへび座β星、土佐清水(トサシミズ)/おおぐま座61番星、および峻厳(シュンゲン)前哨基地/ダヴー
 21世紀の戦火を逃れた日本は、その後経済大国として世界に君臨。内戦で混乱したアメリカから太平洋の委任統治領を引き受け、ロシアから北方四島どころか千島列島と樺太の領有権を奪い返し、フィリピンと経済統合をもした。また地球最大の海中都市「かいてい」や、ラグランジュ点にスペースコロニーも領有。

満洲 Manchuria
系外植民地:東湖(トンフー)/ティラナ、寒山(コールド・マウンテン/ハンシャン)/くじゃく座δ星、休寧/シュウニン星、成都(チョンドゥ)/インディアン座ε星、船梯(チュアンティ)/きょしちょう座ζ星、関東(クァントン)/くじら座τ星、渡口(ドゥーコウ)/エリダヌス座ε星、および撫遠(フーユエン)前哨基地/バーナード星など
 列強の中でも超大国一歩手前にある満洲は、旧中国北部からチベット地方を治め(同時に統一朝鮮を衛星国として確保)、地球上では最も人口の多い国家。人口の多さを産業力に活用する一方、人口負担軽減のために積極的な植民地獲得政策を採っている。日本やフランス等欧米諸国とは緊張関係にあるが、カナダとの関係は良好。

【先進国】 Tier 3
アラビア、アルゼンチン、オーストラリア、アザニア、ブラジル、カナダ、広東(カントン)、インカ共和国、メキシコ、テキサス、アラブ共和国連盟(UAR)、ウクライナ
 いずれも地球の外に植民地を持つ国家。

【中小国】 Tier 4
インド諸州(The Indian States)、イラン、ロシア、パレスチナ連合、フランドル、インドネシア、アイルランド、中央アジア共和国、ナイジェリア、スカンジナビア同盟、その他

 2300年現在、地球上の国家は「127国」と設定されているので、様々な小国が姿を消したのだと思われます。その一方でカタルーニャやクルディスタンが独立を果たし、ロシアが分裂している(シベリアと極東共和国が独立)など、国境線は大きく変貌しています。そこに歴史的な対立構造や近年の利害関係が絡み合い、国際情勢は複雑怪奇極まりない状態です。そこを上手く盛り込めればシナリオに深みを与えられるのですが、上手くプレイヤーに伝える技量も求められそうです。


 恒星間社会とトラベラーらしさを支える基幹技術である超光速航法ですが、『2300AD』では「スタッターワープ」と定義されています。ジャンプとの違いは、移動距離に比例して時間がかかる点と、ワープ1回で7.7光年以上の移動が不可能である点です(これ以上はワープコアが致死量の放射線を発してしまう)。よって、太陽系を起点として7.7光年以下の星々が航路として結ばれています。
 リアル志向のため、OTUや一般的なATUで採用されている「平面ヘクス星図」ではなく、それぞれの星々が三次元座標を持つ「立体星図」が採用されているので、ぱっと見の航路図が非常にごちゃごちゃしているのは否めません。また、OTUのように行く先々の星々で入植が行われている、ということもなく、入植に適した重要な星のみが栄えているのです。「ただの通過点」が多く書き込まれていることで、よりごちゃごちゃさに拍車がかかっている感はあります。

 そしてOTUや他のATUとの決定的な違いは、反重力が存在しないことです。従って人工重力プレートもスラスター航法も存在しません。宇宙空間で重力を得るには遠心力に頼らないといけないので、宇宙船を軸にして居住区を回転させるなどの工夫が必要になります。宇宙船を加速するにしても1Gですら簡単には得られませんし、宇宙に出るにしても惑星重力を振り切る手段が必要なので、従来型のロケット打ち上げや射出路(カタパルト)の利用、そして軌道エレベータに莫大な費用を投じて建設することで、やっと宇宙への行き来が出来るようになるのです(それでも軌道ステーションまで5日掛かりの旅ですが…)。
 反重力がないということは、エアラフトも反重力戦車もありません。移動の定番はATVやヘリコプター、そして……ホバークラフトなのです! 『2300AD』の世界では大抵の戦闘車両がホバー化されていて、このゲームの代名詞とも言える存在です。現実を見てもさすがにそこまで万能じゃないだろ、という気もしますが、まあ未来のホバークラフトなので色々問題点が解消されているということにしましょう(笑)。
 また、TL上では十分にエネルギー武器が実用化されている頃合いなのですが、戦場では未だに銃弾が主戦力として活用されています(一応エネルギー武器のデータは存在)。


太陽系から15光年以内をフリーソフトChviewで再現した図
緑の線がスタッターワープ航路、数字は距離(単位・光年)
(※恒星座標が調整されているのでゲーム内設定とは一致しない)
 太陽系を中心として今や50光年範囲に広がったワープ航路は大きく分けて3方向に広がっています。それぞれの航路網を「腕(Arm)」と呼び、それぞれの腕の最大勢力の国名が冠されています。またその腕から分岐した航路を規模によって「副腕(sub-Arm)」や「指(Finger)」と呼んでいます。
 それぞれの腕には横の繋がりがないため、全く雰囲気が異なります。仮に一つの腕で大戦争が起きていても、他の腕の人には所詮他所事に過ぎないのです(本国にも影響が出るので、全く関係がないわけではないでしょうけど)。


中心世界 Core Worlds
 太陽系(主に地球と月)とケンタウルス座α星(惑星ティラナ)をまとめて中心世界と呼ぶ。その名の通り人類文明の、政治経済に限らずあらゆるものの中心地である。高い技術力と比較的良い治安、豊かな社会生活が営まれている……見た目には。大都市を舞台にした巨大企業の暗闘や極端な貧富の格差といった「サイバーパンク」なシナリオ向き。

フランス腕 French Arm
 最も開発の進んだ腕で、12の植民星系を持つ。ESA加盟国を中心として様々な国家が入植したために国際政治に翻弄され続け、それが故に自治権拡大を求めたり、本国からの独立を画策する植民地も多い。そして、2295年に現れた人類の宿敵「ケイファー」との数々の交戦が繰り広げられているのもここである……。独立闘争やケイファー戦争など、軍事・傭兵がらみのシナリオ向き。サプリメントやシナリオもこの腕を扱うことが多い、文字通りの『主戦場』。

アメリカ腕 American Arm
 その名の通り主にアメリカが占めているアメリカ腕は、3つの腕の中では最も規模が小さく開発も遅れた「田舎」ではあるが、その分古の西部劇のような牧歌的で独立独歩精神に溢れた開拓民社会が形成されているので、移住者の人気は高いらしい(特に地球の監視社会に疲れた者には)。探査や開拓をテーマにしたシナリオ向き。また、異星種族はいないので人類のみのシナリオを組むならここ。

シナ腕 Chinese Arm
 規模はフランス腕に匹敵する。満洲、カナダ、ブラジルなどが中心となった植民は最も早かったがインフラ整備はまだまだで、場所によっては未だに「動物力」に頼る開拓が行われているらしい。人類が最初に他の知的種族と接触したのがここ。現在ではテロや海賊行為が横行している、という危険性もある。異星種族との交流や旧文明遺跡の探検シナリオ向き。


 これまで紹介してきたATUと違って『2300AD』の宇宙には知的種族が存在し、個性豊かな、OTUとは違って親しみやすさ度外視の異星人像が構築されています。
 マングース版コアルールでは以下の種族が紹介されています(※マングース版、と銘打ったのは、旧版では記載されていた1種族が後発シナリオでの追加に変更されたため)。

スン Sung
母星:スターク/DM+4 123星
 2247年に人類が最初に接触した種族。人類より小柄で無毛だが、(今のところ)唯一自力で飛行が可能。接触時点でTL8~9程度の技術力を持ち、星系内に乗り出していた。彼らには「技術的に優位な者が下の者を導くべき」という哲学があり、現在では人類の影響下に入っている。

シャン Xiang
母星:「母なる星」/DM+4 123星
 スンと同じ星系の第5惑星を母星とする甲殻類に似た種族。彼らの母星まで進出したスンは、彼らを「運搬用の動物」と見なして使役していたが、人類の科学者は彼らに知性があることを見抜き、最終的に満洲とカナダが介入した奴隷戦争(2255年)によってスンの支配下から脱した。罠作りを芸術の域にまで高めた文化が特色。

エバー Eber
母星:コモラン/エリダヌス座82番星
 2256年に接触した巨漢種族。エバー原種は4000年前に恒星間社会を築いていたらしいが、内戦により現在では2星系に遺跡を残してTL3程度に衰退。接触当初は摩擦も多かったが、人類が彼らの儀礼を尊重することで関係は良好化した。

ペンタポッド Pentapod
母星:DM+43 1953星
 2251年に探査船がDM+27 28217星にて接触した、その名の通り「五脚五眼」の水陸両生種族。フランス腕の彼方に通称「ペンタポッド領域(Pentapod Space)」と呼ばれる恒星間社会を既に形成しており、惑星ベータ・カヌム4に入植地を形成するなど人類との交流も積極的。特に彼ら独特の有機機械技術は、人類の遺伝子工学に一大革新を引き起こした。

ケイファー Kaefer(※旧版ではKafer)
母星:ケイファー領域の奥?(現在のところ不明)
 2295年の接触後、フランス腕に侵略を仕掛けている二足歩行昆虫人。「ケイファー」とはドイツ語で甲虫類の意味だが、かつてのアフリカ住民に対する蔑視語と同じ発音でもある。知性は低いが(とはいえ人類並の技術力はある)狡猾で、人類以上の戦闘能力を持ち、対話は現在のところ不可能。降伏もせず死ぬまで闘いを挑むので非常に厄介。このケイファーとの戦いが『2300AD』のメインテーマとも言える。

 その他、シナリオで新種族との接触があったり、滅亡種族を発見したりもします。また人類もイルカの知性化に成功しています。未知の部分が多いので、OTUよりもファースト・コンタクトものをやりやすいのが『2300AD』の特色でもあります。


 現在のところ、マングース版『2300AD』は以下の製品が発売されています(順不同)。旧版のリメイク再版に加えて、オリジナル展開もなされています。

●『2300AD Core Rulebook Revised』
 西暦2300年の世界で冒険するための第一歩。キャラクター作成ルール、各植民星の二十面体地形図(『2320AD』譲りだが白黒化されたのが残念)、装備品・輸送機器データ、宇宙船作成ルールおよびデッキプラン(トラベラーシステム化した最大の利点がこれ)などを収録。Revised版なので誤植は取れている、はず。
(※ただしマングース版トラベラーの第2版に合わせて版上げが計画されている模様)

●『Tools for Frontier Living』
 旧版の「Equipment Guide」をリメイク。辺境生活に必要な装備品の解説に加え、書き下ろしとして辺境の入植地の解説から作成ルールまで収録した、文字通りの辺境生活ガイド。

●『Ships of the French Arm』
 旧版の同名タイトルをリメイク。フランス腕を行き交う各国の宇宙船の数々を徹底解説。

●『Hard Suits, Combat Walkers and Battlesuits』
 新たな戦場の華である装甲服やコンバットウォーカーの制作ルールと、各国の装備品データを収録。

●『Libreville: Corruption in the Core Worlds』
 旧版の「Rotten to the Core」をリメイク。軌道エレベータが天空までそびえ立ち、黄昏期以前とは全く違う巨大都市に変貌したリーブルヴィル。世界中の富が集まる企業天国とは裏腹に、街をスラムが取り囲むという極端な対比を見せる「サイバーパンクな」都市、リーブルヴィルの詳細設定とシナリオを収録。

●『Atlas of the French Arm』
 旧版の「Colonial Atlas」からフランス腕部分を抜粋してリメイク。各植民星の詳細情報が得られる。

●『Terror's Lair』
 旧版基本ルールブックに収録されていた入門用同名ソロシナリオの単独再版。

●『The Tricolore's Shadow』
 りょうけん座β星のフランス領を舞台にした同名のショートシナリオの復刻。単純な調査任務だったはずが…?

●『French Arm Adventures』
 旧版シナリオの「Beanstalk」「Kafer Dawn」「Energy Curve」を合本リメイク。特にケイファーに関しては現時点では唯一の詳細資料(旧版の「Kafer Sourcebook」を手に入れれば済むことではあるが)。シナリオに加えて舞台となるベータ・カヌム4、オロール、DM+17 2611Ⅱのかなり詳細な情報も得られる。

●『The Grendelssaga』(書籍版のみ)
 新作シナリオ「Rescue Run」「Salvage Rights」「Black as Pitch」の3部作をまとめた1冊(PDF版は単品販売)。クイーン・アリス星の植民惑星ベオウルフ…の隣の軌道にある不毛惑星グレンデルを舞台に、様々な冒険が繰り広げられる。

●『Liberty』
 アメリカの植民地エリスを舞台にした2つのシナリオを収録。砂漠の惑星エリスや、物語の舞台となるリバティ郡の解説も含む。

●『Bayern』(近日発売予定)
 旧版同名本をリメイク。遥かプレアデス星団を目指して長旅にでた探査船「バイエルン」と110名の仲間たち。船や主要NPCの解説、2本のシナリオを収録。


 元々別ゲームだったので当然なのですが、『トラベラー』とは全くプレイフィールが異なります。『トラベラー』ではPCが自由に星々を渡り歩くのが当たり前ですが、『2300AD』ではそういう方向性には目が向けられていません。キャラクター作成時に宇宙船が貰えるなんてことはありませんし、隣の星まで何日かかるという基本的なことも非常にわかりづらいです。何しろ、ワープ可能点への到達時間が惑星・恒星の重力圏距離や宇宙船の加速度や〈パイロット〉技能に左右され、スタッターワープにかかる時間自体も宇宙船の性能によって計算が必要なのですから(加えて軍用と民間用で性能が倍ぐらい違いますし)。
 つまり基本的にはどこかの惑星に腰を据えて冒険を行うか、宇宙を渡り歩くにしても星と星の間は特に気にしない(映画『インディ・ジョーンズ』のように)のが吉かもしれません。また従来通りケイファーとバリバリ戦うにしても、トラベラーシステムでは正面切って戦うよりも斥候任務や奇襲といった寄せ手搦め手の方が向いていると思います。

 とはいえ、「現実的な」国籍と人種を気にする必要がある宇宙SFというのもなかなか貴重であり、とっつきは悪いものの噛めば噛むほど味が出る世界設定は、今でもファンが多いことが肯ける出来です。宇宙は駆けないものの、特定の惑星にじっくりと腰を落ち着けて「生きて」みたいと思わせる、そんなロールプレイングを楽しみたい方に人にお薦めしたい一作です。

(※今更言うのも何ですが、『2300AD』はTL12設定だったりします…(汗)(7.7光年の移動がジャンプ-3相当だからか?)。ですが、TL12の物品が世に溢れているという感じはありません)

『2300AD』太陽系周辺宙域図(を『トラベラー』形式で)

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 『2300AD』の難点といえば、リアルだけど見辛い星図がまず挙げられると思います。『トラベラー』のツッコミどころだった「宇宙が平面図で表現されている」点に対する回答とも言えるのですが、そもそも三次元の図を二次元に落とし込む時点で無理があるわけで、そういう意味では『トラベラー』のヘクス星図は「決してリアルではないけど利便性は高かったなぁ」と思うわけです。

 じゃあ『2300AD』の航路図を『トラベラー』のヘクス星図に落とし込めばどうだろう…ととなるわけですが、私が考える以前にGDWの情報誌『Challenge』第75号(1994年発売)にて「Core Subsector」という、わずか2ページ(しかも大部分は扉絵)ながらもそういった記事が掲載されたことがあります。『Traveller: The New Era』で『2300AD』設定を楽しむための企画に見えましたが、その後は続かなかったので今となっては意図は不明です。

 それから20年が経ってちょうど『2300AD』に触れる機会がたまたまやってきて、そして手元にツールがある。なら、やるか(笑)。ということで、『2300AD』の太陽系周辺を『トラベラー』の宙域図方式に落とし込んでみました。試行錯誤の結果、結局『トラベラー』と同じ「1ヘクス=1パーセク」で表し、

隣の星系までの距離は大体正しくする。
隣の星系への方角はなるべく正しくしたいが、距離同士の兼ね合いで難しいなら大胆に動かすのもあり。
再現するのは『2300AD』基本ルールブックの範囲(後に開拓される航路は無視)。
UWPはマングース版を利用し、なるべく多くの資料で裏を取る。データがない未入植星系は宇宙港X・水界なし扱いとする(水があれば入植しているだろうから)。
「星系名」は惑星名の設定があればまず優先、次に前哨基地名、前哨基地が複数ある又は惑星設定がないなら恒星名とする。
ガスジャイアントの再現は資料が揃わないし、燃料スクープができない『2300AD』では意味がないので諦める。
Travellermap APIの都合上、一度に再現できるのは1宙域範囲まで。はみ出たら別宙域扱いとなる。

 というルールで再現しました。よって、航路で結ばれていない星系間の距離や方角は全く正しくありません。これは実は『2300AD』の設定では致命的で、牽引船(タグシップ)を利用して「7.7光年の壁」を突破されてしまうと、『2300AD』の設定では本来行けないような場所でも今回の星図では行けるように見えてしまうのです。まあ実際に利用される方はいないでしょうし、今回の星図はあくまで雰囲気だけを楽しんでください。

(凡例)
【航路】濃い線:主要航路 薄い線:その他の航路
【宇宙港】A:軌道エレベータ B:加速射出路 C:宇宙往還機(シャトル) D:再使用型単段式ロケット(ロトン) E:多段式ロケット X:なし
【種別】★:植民地 ▲:前哨基地 ■:知的種族母星
【領土】Fr:フランス UK:イギリス US:アメリカ Ma:満洲 Ge:ドイツ Ca:カナダ Br:ブラジル Au:オーストラリア Ba:複数国領有 Co:企業・団体所有




 ……あまり改善されたようには見えませんね(大汗)。そこで主要でない航路を外してみたのがこれです(ペンタポッド領域はカット)。




 航路がXボートっぽく見えるので、『トラベラー』に慣れた身にはこれぐらいでいいかも。宇宙港X・水界なし・ガスジャイアントなしの三重苦の「行き止まり」星系は『トラベラー』に慣れた人ほど本能的に避けるでしょうから、実質的に航路上しか動こうとしないでしょうし。
 あと、もっと『トラベラー』っぽくしたおまけを。




 星域名は単なる雰囲気付けです(一応公式設定の裏付けはありますが)。ちなみに『Challenge』誌では「シリウス宙域」となっていましたけど、確かに一番明るい恒星名を付けるというのは考えられなくもないにしても、太陽系がある宙域で太陽(ソル)を差し置いてシリウスにするかなぁ、という疑問も。『2300AD』の宇宙ではシリウスはほぼ無価値の星ですし…。

 とりあえず作ってみたものの、『2300AD』のルールでは隣の星までの正確な距離がワープ時間の算出に必須である以上、実用性は皆無ですね(大汗)。ワープのルールをいじって「民間船は1ヘクスで2日、軍艦は1ヘクス1日」とか丼勘定にするぐらいでないと、テーブルの飾り以上の使い道はないかもしれません(苦笑)。

Japan 2300 - 西暦2300年の日本

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日本 Japan
国家序列:列強(Tier 2)
公用語:日本語
地球上総人口:約1億9000万人(庶民98%、富裕層2%)
主要都市:東京(1410万人)、横浜(1114万人)、大阪(1073万人)(※東京旧首都圏全体で4100万人)
平均寿命:男性95.7歳、女性98.4歳
大学進学率:90%
通貨単位:円
主要貿易国:アメリカ、フランス、ブラジルなど
統治形態:立憲君主政かつ多党議会民主政(政治形態コード4)
治安水準:高治安(あらゆる武器の屋外所持禁止・銃器の所有禁止:治安コード9)
技術レベル:12
軌道到達手段:加速射出路(宇宙港コードB)
地球内領土:本州、北海道、四国、九州、沖縄諸島、小笠原諸島、千島列島、樺太島、マリアナ諸島、水無月(ミッドウェー)島、大鳥(ウェーク)島、カロリン諸島、マーシャル諸島、ギルバート諸島(海中都市「かいてい」を含む)、および事実上フィリピン領の全て
太陽系内領土:第4ラグランジュ点居住地、土星以遠惑星に恒久基地

 島国である日本は、黄昏の時代を直接被害なしに切り抜けられた数少ない国の一つです。20世紀から引き続いて製品輸出や金融業の中心地であったこの国に戦争は少なからず打撃を与えましたが、その後は無傷だった海上輸送能力で国際貿易を支配していきました。
 かつては資源を輸入に頼っていた日本でしたが、身近で広大な海洋からそれを得られるようになってからは、領海を拡大して資源を得ることこそが国益になりました。今や日本は地球上で最も広い領海を持つ大国であり、その経済力や産業力によって技術先進国として君臨しています。その力はもはや恒星間植民地を必要としないほどに完結していますが、6大国の中で最も少ないながらも3つの植民地と1つの前哨基地を太陽系外に確保しています。

 21世紀に入って日本はサハリン(樺太)島やクリル(千島)列島の支配権を取り戻し、内戦で混乱していたアメリカからグアム島やミッドウェー島など南太平洋の統治権を引き受けました。また、フィリピンに対しては多大な経済投資を行うことで事実上併合しました(※建前上は外交と安全保障を共有しているだけ、としているようですが、対外的には日本領とみなされています)。一時は統一朝鮮にも経済併合を仕掛けましたが、これは満洲の妨害に遭って頓挫しました。

 旧首都東京、横浜、大阪といった世界有数の都市群は本州に位置しています。本州を含めて古来からの日本領は山(特に火山)が多く、農業生産に向いてはいませんでしたが、新たに獲得した「南洋州」(マリアナ諸島、カロリン諸島、マーシャル諸島、ギルバート諸島)では海洋農業が営まれ、その規模はかつての農業輸入国を一挙に輸出国に変貌させたほどです。またギルバート諸島には世界最大の人口50万人を誇る海中都市「かいてい」が存在し、海中鉱業の中心地となっています。
 海洋資源への依存度が高い日本には、その資源乱獲に懸念の目が向けられているのも事実です。深海での「暗闘」の噂は多く、北米研究連盟(NARL)は日本の活動を注意深く監視しつつ、査察を受け入れるよう圧力を加えています。

 いくらか変動はあるものの、日本は経済大国としての地位を300年間守り続けました。今でも東京証券取引所は世界最大級の国際金融市場の一つであり、通貨「円」はフランスのリーヴルに次ぐ基軸通貨として信用されています(※円はリーヴルの7割の価値とのこと。つまり1リーヴル≒140円と考えると目安になるが、西暦2300年代の円は2桁のデノミが行われている可能性がある)。
 日本の金融業は世界中に投資を行い、自国経済を発展させると同時に安全保障面でも利益を得ています。銀行からの資金は多くの植民地化計画や科学計画を支え、「ミヤザワ国際銀行」などの日系銀行から融資を受けていない国際企業を探すのは困難なほどです。
 そうしたことから日本経済は情報産業と金融業が主と思われがちですが、重工業や造船業、ハイテク電機産業の分野でも強さを保っています。今でこそフランスに追い着かれたものの、20世紀後半から23世紀にかけて日本のロボット産業は他を寄せ付けないほどでした。2250年代にいち早くコンバットウォーカーの技術を確立したのも日本です。

 黄昏期を経ても、日本の政治形態は大きくは変化しませんでした。第三次大戦後に伝統への回帰の象徴として首都は京都に遷されましたが、形式的な立憲君主政はそのまま保たれました。一方でもはや内戦で疲弊したアメリカの庇護を期待できなくなった日本は、論争の的となりながらも再軍備に踏み切りました。やがて日本の軍事力は世界最強の一角を占めるほどになり、23世紀末の中央アジア戦争ではフランスの要請で満洲とも交戦しました。現在の日本軍には、フランス腕の日本植民地をケイファーの侵略から防護するための軌道小艦隊も配備されています。
 24世紀における日本はやや鎖国傾向を示しています。経済は堅調で多額の国際投資は維持しつつも、他国からの文化的影響は慎重に管理されています。他国民の移住はおろか、訪問でさえもしばしば難しいことがあります。

 日本社会は新しさと古さが入り混じっています。社会は絶えず変化を続けながらも、人々は伝統を守ろうとしているのです。この国の文化的孤立主義は、西洋文明が黄昏期に「失敗」したことへの幻滅から来ています。現代日本文化は「古き良き時代」に重きを置き、仏教や神道とより強く結びつきました。故郷の自然、つまり地球への愛着は、一方で太陽系外への植民地拡大競争から日本を遠ざけた一因ともなりました。また、入植先でも地球の動植物を持ち込むことにこだわる傾向を見せています。ただし時は流れ、日系入植者の間には入植先の自然への愛着も生まれるようにもなりましたが、逆に伝統主義者との亀裂が増しているのも事実です。
 ちなみに、現在の日常生活で漢字はあまり使われなくなり、古典的な名詞を除いてひらがなとカタカナのみで表記されています。漢字教育は今も続けられていますが、筆記の手段としてではなく美術の一種だと見られています。


かいてい Kaitel
 海中都市は基本的に(月面都市のように)モジュールやドームを連結することで成り立ち、大小様々な海中開発を行っている日本はその最先端を行っています。
 太平洋にある、地球最大の海中都市である「かいてい」では海底鉱業や水産養殖業、そして観光業が営まれています。また、このかいていを含むギルバート諸島は日本の科学研究拠点となっています。
 ここは日本領ではありますが、半自治の政治形態が布かれています。

第4ラグランジュ点居住地 L-4
(※日本入植地に関する公式設定は見つけられません。ちなみにL-4にはアメリカ、日本、アルゼンチンの3国が様々なスペースコロニーなどを建設しており、最大のゴダード・ステーション(アメリカ)が全長5km、人口5万人と設定されています)


アマテラス Amaterasu
所在地:ケンタウルス座アルファ星A第1惑星ティラナ(中心世界)
入植開始年:西暦2167年
人口:約1億2000万人
主要都市:シントーキョー(650万人)、シンミヤザキ(450万人)、シンサッポロ(260万人)
平均寿命:106歳
大学進学率:91%
通貨:日本円
統治形態:軍や企業代表も参加する代議員民主政(政治形態コード4)
治安水準:並治安(散弾銃も含めた銃器の所持禁止:治安コード7)
技術レベル:12
軌道到達手段:加速射出路(宇宙港コードB)
主な産業:農業、鉱業、重工業
主な施設:軌道防衛基地、軌道宇宙港、陸軍基地、海軍基地、発電衛星、大学

 アマテラスは住み良い移住先です。距離面や文化面で地球に近いものの、内地よりは規制が多くありません。
 隣接するニューキャンベラ植民地(オーストラリア領)とは入植直後から国境問題を抱えていました。国境線未確定地域にタンタル(※スタッターワープ機関の建造に欠かせない希土類)の鉱床が発見され、日本とオーストラリアの探査隊が幾度も衝突を繰り返す事態となったのです。結局鉱床自体はオーストラリア領となりましたが、双方は合弁企業を設立して事業を営んでいます。
 それ以降、アマテラス植民地は日本の造船業向けのタンタルの供給地となりました。ただし協定により量は限られているため、日本は絶えず新たなタンタル鉱脈を探しています。近頃、海岸から350km離れた有望な海中休火山の近くに海中都市を建設し始めたところです。


トサシミズ Tosashimizu (Samurai Bay)
所在地:おおぐま座61番星第3惑星ジョイ(フランス腕)
入植開始年:西暦2257年
人口:120万人(※250万人とする資料も)
主要都市:シンチバ(75万人)
開拓面積:40000平方km以上(※エスペランス大陸全体及び島嶼部の領有を主張)
平均寿命:99歳
大学進学率:76%
通貨:日本円
統治形態:植民地総督府(政治形態コード6)
治安水準:並治安(隠匿可能な携行銃器の所持禁止:治安コード5)
技術レベル:9
軌道到達手段:宇宙往還機(宇宙港コードC)
主な産業:農業、鉱業、重工業
主な施設:軌道防衛基地、陸軍基地、海軍基地、科学研究所、大学、核融合発電所

 フランス探検隊によってエスペランス大陸と名付けられた大地の北東岸に、日本の植民地は存在します。ここは諸外国からは「サムライ・ベイ」と呼ばれていますが、正式名称は「トサシミズ」です。ウワ湾の岸には核融合発電所があり、植民地には軌道防衛施設と連絡する宇宙港や軍基地、科学研究所も整備されています。
 日本人はこの惑星ジョイにおいて植民地の開拓に非常に積極的ですが、その際に彼らは野放図に地球原産の動植物を放ったため、ジョイの生態系への影響を危惧する環境保護団体との間で騒動を招きました。
 ジョイにおいて日本とドイツは、両植民地の間にある鉱物資源が豊富な島の領有権を巡って係争関係にあります。また、エリシア独立戦争の際に日本はフランスへ派兵支援を申し入れましたが、断られたという経緯があります。これは日本がエリシア領に対して野心を抱いているとフランスが警戒したからと見られています。
 日本人入植者は20世紀中期以前の古い日本の倫理観に従っており、また、外国人に対しては疑り深いです。非常に権威主義的な植民地総督府はジョイの覇権を欲していて、現在は経済的な手法で目的を追求しています。同時にドイツやエリシアの革命がトサシミズに「輸出」されることを恐れていて、武器を蓄えています。


ダイコク Daikoku
所在地:みずへび座ベータ星第2惑星ダイコク(シナ腕)
入植開始年:西暦2209年
人口:1100万人
主要都市:アオキ(220万人)、エンキロウ(150万人)、シンマツモト(72万人)
平均寿命:99歳
大学進学率:92%
通貨:日本円
統治形態:代議員民主政(政治形態コード4)
治安水準:並治安(隠匿可能な携行銃器の所持禁止:治安コード5)
技術レベル:11
軌道到達手段:加速射出路(宇宙港コードB)
主な産業:農業、鉱業
主な施設:軌道防衛基地、軌道宇宙港、陸軍基地、海軍基地、異生研施設、大学、発電衛星
遺伝子操作:高温耐性

 日本が2190年にくじゃく座デルタ星(現在の満洲領寒山)への入植に失敗した後、2205年にみずへび座ベータ星の探査によって惑星を発見し、伝承上の豊穣の神の名である「ダイコク」と名付けました。初期探査によって重金属こそ少ないものの潜在的な鉱物資源は豊富と見られ、何よりも温暖で過ごしやすいことから、慎重な探査と準備の末に2209年から入植が開始されました。
 2213年から2235年にかけて、ダイコク入植地は大きく繁栄しました。原生の海洋植物が食料としてだけでなく医薬品原料としても貴重であることが判明し、水産養殖業が発展しました。また、この星特有の材木からは美しい家具が生産され、遠く離れた市場で大きな利益を生みました。初期入植者から伝わる広範囲な水耕農業によってダイコクの食料生産力は自給自足の枠を越え、余剰食料はシナ腕各地の開発途上植民地に輸出されました。さらに、現地の植物だけで栄養を十分摂れてしかも美味なため、日系入植者は地球産の肉類を輸入したり家畜を飼ったりする必要性も感じなくなりました。
 ダイコクの住民は豊かに快適に過ごしていると言われています(皮肉屋は「一部の」と頭に付けるかもしれませんが)。大部分の入植者は、ここのみに拠点を置く小企業から星系外に本社がある大企業に至るまで何かしらの企業に属しており、自営業者は稀です。従業員はいずれも勤勉で、雇用主や政府に対してとても忠実です。
 中央アジア戦争に日本が参戦するまではダイコクには軍事組織は必要ありませんでしたが、近隣星系に満洲人が多く定住していることから、戦後は防衛力の整備が進められました。最大都市のアオキ市には軍事基地が置かれ、軌道上にも軍事施設が築かれました。植民地防衛のための最低限規模ではありますが、これらの措置は少なくとも住民を安心させました。
 入植開始から約90年で日本の入植地は人口1000万人を越え、本国の本州島と同程度の20万平方kmが開拓されました。3大都市には宇宙港や空港が整備され(アオキ宇宙港は軍基地と併用)、小さな町が農業目的で大都市から離れて点在しています。
 また、惑星ダイコクに同じく定住しているアラビア(※アラビア半島全体を治める国家)植民地との関係も良好で、織物や香水、石油合成品などの取引が行われています。


シュンゲン前哨基地 Outpost Syungen
所在地:ビュモンド星第4惑星ダヴー(シナ腕)
 2208年にみずがめ座ベータ星への植民計画を発表した日本政府でしたが、一つの問題がありました。そこに至るまでの物資や燃料の補給に関してアメリカからの協力は得られたものの、氷の惑星ダヴーを領有するフランスには思惑があって割引価格での販売を許しませんでした。
 困った日本政府に救いの手を差し伸べたのは、シュンゲン商事グループ会長のシュンゲン・ヒカルでした。彼は政府からの資金援助が得られるならダヴーに燃料補給基地を建設すると申し出たのです。日本政府はその案に乗り、かくして2211年に氷塊採掘鉱山や射出路を備えた前哨基地がダヴーに完成しました。
 これによりフランスは大打撃を受け、一時は採算の合わなくなったヴィル・ド・グラス前哨基地の閉鎖も検討されるほどまでに追い込まれたのですが、その時、シュンゲン鉱山で約300名の犠牲者を出す大きな落盤事故が発生したのです。鉱山施設は破壊され、日本側基地も財政破綻に直面しました。そこで両者は協定を交わし、フランスの鉱山で採掘した氷塊を日本の(無傷だった)射出路で運ぶという共生関係を築くことになりました。両基地間には2262年にマグレヴ(磁気浮上鉄道)路線が開通し、一体化はさらに進んでいます(※と言っても移動には20時間を要しますが)。
 シュンゲン基地は後に主星の観測研究にも用いられるようになり、基地の北西30kmに光学・電波望遠鏡が設置されて日仏双方の天文学者が交代で常駐しています


全體海岸沖居留地 Settlement on an island off the Chyuantii coast
所在地:きょしちょう座ゼータ星第2惑星シューラーム(シナ腕)
 惑星シューラームの満洲植民地は開拓初期から多民族による入植が進み、人口の15%が非満州人でした。後に日本政府は全體海岸沖の島に日本人居留地を作れるよう満洲政府と協議し、2254年に人口の9割が日本人となる居留地(※非公式設定では「ショートー・デジマ居留地」)が誕生しました。
 ここの経済は農業と鉱業が半々の割合で営まれています。


【ライブラリ・データ】
ミヤザワ国際銀行 Niyazawa International Bank
 巨大企業の中でも、ミヤザワ国際銀行は珍しい存在です。国家から離れようとしがちな巨大企業の傾向に反して日本政府との強い絆を維持し、いまだに創業者一族が会社を所有・経営しているという稀な巨大企業なのです。よってミヤザワ家は地球上で最も裕福で強力な経営者一族として知られています。

異星生物学研究所 L'Institut Des Etudes Xenologiques
 その頭文字を取って通称「異生研(IEX)」と呼ばれる異星生物学研究所は、フランス政府から資金援助を受けている研究機関です。知的生命を含めて多様な異星生物の研究において、地球上で最高の組織です。

北米研究連盟 North American Research League
 地球のバンクーバー市(カナダ)に本拠を置く北米研連(NARL)は、1万人以上の人員と百万人単位の支援者を持つ環境保護/知的生命友好団体です。その活動範囲は人類社会全域に及び、各星の生態環境を乱開発から守り、種族・国家間のいざこざの調停に出向いています。
 時折邪道な戦術も使いはしますが、北米研連は人類社会各地で難局の平和的解決を目指す団体と見られています。その最も大きな功績は、スンから奴隷扱いを受けていたシャンを解放するように国際世論を動かしたことでした。

中央アジア戦争 Central Asian War
 2283年から2287年にかけて、フランス・バイエルン・ロシア・日本の同盟軍が満洲と戦った戦争です。鉱物資源が豊富な中央アジア共和国(※20世紀にはカザフスタンなどと呼ばれていた地域)の権益を巡ってフランスの後援を受けたロシアが侵攻したことが発端となり、共和国の保護を理由として満洲が介入を行いました(ただし真の目的は新疆地方の併合でしたが)。後にバイエルンが仏露側で参戦し、最終的に日本も加わったことで大きな損害を受けた満洲は撤退を余儀なくされました。黄昏期以降でこれほど多くの国家が交戦した戦争は初めてであり、一時は核戦争の再発も危惧されましたが、幸運な事に杞憂に終わりました。
 なお戦後は国境線は元に戻され、同盟軍がそのまま平和維持部隊として共和国領内に展開しましたが、イランの支援を受けたゲリラが各地で部隊に出血を強い続けました。また、日本の参戦まで求めなくてはならなくなったフランスの威信に傷がついた戦争でもあり、後の共和政の崩壊、そして帝政復古の遠因ともなりました。

エリシア独立戦争 War of Elysian Independence
 かねてより惑星ジョイのフランス植民地「エリシア」では、政府の腐敗に不満が高まっていました。そんな中、日本植民地での環境破壊に抗議する群衆にエリシア憲兵隊(植民地駐留軍)が発砲し、この「エスペランス市の虐殺」をきっかけに入植者が蜂起して独立戦争に発展しました。
 当時のフランスが中央アジア戦争や本国のクーデターの余波で補給や増援が滞ったこと、また民衆ゲリラにドイツが支援(※)を行ったこともあり、最終的に2291年にフランス駐留軍はエリシアから撤退し、独立臨時政府が発足しました。しかし6年間の内戦によって植民地の資産や人的資源は大きな打撃を受けており、未熟な新国家はいまだ不安定な状態にあります。
(※設定を考慮すると、エリシアを支援したドイツとは当然バイエルン以外でしょう。非公式設定ではジョイのハルビンゼル植民地はハノーファー系であることになっています(ただし入植段階から説と後に鞍替え説が混在)。また、フランスと敵対する満洲が包囲網を破って独立派に武器や物資の供与を行ったとする記録も存在します)


【日本関連年表】
2000年:第三次世界大戦を最小限の被害で切り抜ける。
2000年代:憲法を改正し、再軍備に踏み切る。
2008年:アメリカ軍に代わり、サウジアラビアの油田をフランス、イギリス、バイエルン、エジプトと共同防衛する。
2010年:イランがサウジアラビアに侵攻してサウジ戦争開戦(2013年終戦)。
21世紀中頃:朝鮮に対する経済支配の試みは満洲の妨害で失敗に終わる。以降日本は大陸ではなく太平洋に目を向ける(※この後21世紀中に南太平洋の島々を併合していくが、アメリカから譲渡されたものを除けば軍事併合か経済統合かは不明)。
21世紀後半:安価な労働力を求めて日仏資本がブラジルの産業に多額の投資。
2065年:露宇(ロシア・ウクライナ)戦争開戦。フランス、バイエルン、ポーランドがウクライナ側で、イランがロシア側で参戦。
2070年:(おそらく)ウクライナ陣営に日本が参戦。露宇戦争の流れが決する。
2072年:露宇戦争が終結し、ロシア崩壊(※この際に千島列島と樺太を得た可能性が大。もしくは2038年にロシアから極東共和国やシベリアが独立した頃か?)。
2072年:フィリピン領内に日本の加速射出路が完成(※この時点で日本の影響力が強いことが伺える)。
2080年:アザニアの社会基盤に援助する見返りにタンタル輸入の契約を結ぶ。以降、アザニアを通じてフランス陣営の宇宙進出に参画。
2092年:フィリピンに対するインドネシアの影響力を完全に排除(※2050年代からフィリピンを巡ってインドネシアとの対立関係が年々激化し、この年開戦寸前にまで行った結果、インドネシア側が折れた模様)。
2119年:(おそらく)メルボルン合意に署名。
2120年:フィリピンを経済統合(事実上の併合)。
2130年代:(おそらく)スタッターワープ技術が実用化され、宇宙進出を開始。
2138年頃:ESA諸国(フランス、イギリス、バイエルン、アザニア)、アルゼンチン・メキシコ連合に続いて惑星ティラナ(ケンタウルス座アルファ星)の領有主張をアメリカと同様に行う。
2149年:アルファ・ケンタウリ戦争開戦。ESA諸国対アルゼンチン連合の戦いは5年に及び、アルゼンチン側の勝利で非ESA国によるティラナへの植民が可能となった(※ただし日本がこの戦争でどう立ち回ったかは不明)。
22世紀:南洋州での深海採掘事業が開始される。
2167年:ティラナにアマテラス植民地が建設される。
2179年:日本などの投資家の協力を得て、サハラ砂漠の気象操作計画が始まる。2210年までに6基の気象制御衛星が打ち上げられ、最終的に砂漠の緑化は成された。
2190年:くじゃく座デルタ星への入植が失敗に終わる。
2205年:みずへび座ベータ星を探査し、後の惑星ダイコクを発見。
2208年:ダイコクへの入植が始まる。
2211年:惑星ダヴーにシュンゲン前哨基地が完成。ダイコク植民の加速。
2237年:惑星ダイコクの第3衛星モスラにて採掘活動を開始。
2238年:アラビアが日本に惑星ダイコクへの入植を申し入れ。油田の枯渇で苦境にあったアラビアに日本は入植にかかる費用を貸し付けた。
2239年:前年の合意を受けて、惑星ダイコクにファーリヤド植民地が建設される。
23世紀:ギルバート諸島は科学研究拠点となっていた。
2254年:満洲の許可を得て惑星シューラームの孤島に日本人居留地を設立。
2257年:おおぐま座61番星にトサシミズ植民地を建設。
2283年:中央アジア戦争開戦。日本は戦争末期にフランス同盟軍に加わり満洲と交戦。
2287年:中央アジア戦争終結。以後、日本軍を含めて同盟軍は平和維持部隊として展開するも、現地ゲリラの攻撃で損害が相次ぐ。
2302年:3月12日、ケイファーの艦隊がおおぐま座61番星に来襲。15日から5日間に渡った地上戦の末にケイファーを撃退する。なお、その主戦場は日独両植民地であり、地上戦の主役は民間人であった。4月、残存するケイファーの掃討を完了。


【私的考察】
 一言で言えば、『2300AD』宇宙の日本は「悪役向き」でしょう。「金持ち」「20世紀以前の古い価値観」「やや閉鎖的な社会」「環境保護に無頓着」「比較的悪役ポジションのフランス帝国と仲が良い」…と、悪役としての素質は十分です(笑)。
 設定上日本は宇宙進出にはあまり積極的ではないので日本絡みのシナリオとなると場所が限られるのですが、それでも惑星ジョイはシナリオヒントの宝庫です。ドイツや新国家エリシアと関係が悪く、環境保護問題でトラブルを起こしているとなると、商売敵が日本人とか、諜報合戦ものとか、現地の貴重な動植物が日本のせいで~とか色々浮かびます。また、時計の針を少し未来に進めると「ケイファーの侵攻」という一大イベントが発生するので、人類相手でなければ気兼ねなく戦える人にも悪くありません。日本人PCを演じるにしてもお上の意向に同調する必要は全くなく(しかもそれが設定でちゃんとフォローされているし)、むしろPCは一般的にアウトサイダー的な立ち位置となるのでプレイヤー本人の価値観を持ち込んでしまっても問題はないでしょう。逆に排外的なキャラクターを演じるなら「フン、外国人のくせになかなかやるじゃないか」程度に留めるべきです。
 一方、惑星ダイコクは「平和でのどかな田舎」なので、アラビア領まで遺跡探検に出向くか、地元の動植物絡みで何か騒動を起こすか、仮想敵である満洲絡みの事件を発生させるかが定番かと思います。アマテラスは開発が進んでいる分、シティアドベンチャー向きでしょうか。オーストラリアとの国境問題をつつく手もありますね。
 他にも前哨基地や海中都市あたりは「閉鎖空間パニックもの」にも使えると思いますし、こうして書き連ねてみるとなかなかレフリーにとって使い勝手の良さそうな国家に見えますね…違和感のあるネーミングを除けば(苦笑)。
 ネーミングといえば、日本人PC/NPCの名前は「漢字が廃れた」という設定を考慮するとカタカナで書く方が「この時代の雰囲気」が出ると考えて、地名も含めてカタカナ表記を採用しました。


(※文中一部ローマ字表記に誤りがあるように見えますが、それが公式設定です。また、現実に存在する地名と混同しないためにシントーキョーを除いて公式設定に「シン○○」と書き加えています)


【参考文献】
・2300AD Adventurer's Guide (Game Designers' Workshop)
・Colonial Atlas (Game Designers' Workshop)
・Invasion (Game Designers' Workshop)
・Earth/Cybertech Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・Challenge #33 (Game Designers' Workshop)
・2320AD (Quicklink Interactive)
・2300AD Core Rulebook (Mongoose Publishing)
・Syuhlahm & New Liverpool Sourcebook

偶然の遭遇:モニク・ルーセル

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(※これは『2300AD』設定のシナリオプロットですが、設定を調整すれば『トラベラー』など他のSF-RPGでも利用することができるでしょう)



(クリックで拡大)


【星系情報】
主星:おおぐま座61番星(61 Ursae Majoris)
空間座標:X-24.4・Y2.2・Z16.7
スペクトル型:G8V
表面温度:5140K
絶対等級:+5.55
規模:0.910
質量:0.868
光度:0.520
惑星数:14(ガスジャイアント1を含む)
小惑星帯数:0
スタッター障壁:0.1G=0.07au、0.001G=2.34au

惑星名:ジョイ(Joi, 61 Ursae Majoris III)
主星からの距離:0.765au(軌道離心率0.014)
公転周期:262.254日(217.545現地日)
自転周期:28時間55分57秒
地軸傾斜角:14度29分53秒8
惑星直径:16992km
表面重力:1.054G(脱出速度:11.8km/s)
表面気圧:1.029気圧
平均気温:20度
表面水界:58%(海洋)
大気組成:窒素78%、酸素19%、他3%
総人口:840万人
生物多様性:多彩
衛星数:3(ブランシュ、アージェント、オル)
スタッター障壁:主星障壁内(0.1G=27525km、0.001G=870430km)
初回探査:西暦2226年
(※公式設定では公転周期は188.39日ですが、計算が合わないため非公式設定の方を採用しました)

国家名:エリシア(Elysia)
序列:中小国(Tier 4)相当
入植開始年:西暦2248年
独立年:西暦2291年
人口:230万人
主要都市:ヴィラデヴェルト(12万人)、エスペランス(97000人)
開拓面積:約5000平方km(※エリシア島全体を領有主張・実効支配)
平均寿命:95歳
大学進学率:64%
通貨:エリシア・フラン
主要貿易先:ハルビンゼル(ジョイ/おおぐま座61番星)、アドラーホースト(フォーゲルハイム星)
統治形態:民主共和政(政治形態コード4)
治安水準:並治安(隠匿可能な携行銃器の所持禁止:治安コード5)
技術レベル:9
軌道到達手段:宇宙往還機(宇宙港コードC)
主な産業:農業、鉱業、重工業
主な施設:陸軍基地、海軍基地、核融合発電所、軌道宇宙港(※2302年のケイファー侵攻の際に破壊される可能性あり)


【プレイヤー用情報】
 ジョイ(C965675-9)はフランス腕にある緑溢れる世界です。この星には現在、ドイツ、イギリス、日本、アザニア、そしてフランス領だったエリシアの5つの国家が入植しています。
 エリシアは9年前に内戦の末にフランスから独立したものの、まだ完全には安定した政府を築けていません。また現地では、日本がこの機に乗じてエリシアへ植民地拡大を狙っている、旧宗主国フランスが日本軍基地を借りて再び攻撃を仕掛けようとしている、某国の工作員がエリシアを不安定化させようとしている、などの噂が飛び交っています。
 一方で日本の植民地は、地球原産の動植物を大規模に放ったことから、長らく環境保護活動家の標的となっています。彼らはこれ以上の地球産生物の拡大はジョイの生態系に悪影響を与えると主張し、「明確な阻止行動」を取り始めています。それに対応して日本人も「自分たちの大陸」に侵入しようとする者に対して(元々他所者をあまり歓迎しない風土ですが)より強硬な態度を取るようになっています。
 活動家たちは問題の地域に近いエリシアからの南側航路を主に利用しますが、実効支配こそしていないもののその海域に対して日本は領有主張を行っており、結果、日本とエリシアの間で緊張は増しています。日本は大陸各地で警備兵を増やし、南岸では軍が高速艇による保安活動を展開しています。逮捕された全ての越境者は収容所へ移送されますが、噂ではそこで何かしらの蛮行が繰り広げられているそうです。
 そしてこの大陸の山岳地域には、俗に「クレバー・ドラゴン」と呼ばれる原生生物が生息し、事態をややこしくしています。研究によってこの生物が地球の大型類人猿と同程度の知性を持つことが判明しており、さらに、ある日本人科学者(現在はエリシアに亡命中)が「おそらく知的種族である」ことを示唆し、その証拠として捕獲したクレバー・ドラゴンに1800語以上の手話を教え込んだと主張しているのです。この学説はエリシア以外の植民地政府には受け入れがたいことでしたが、環境保護活動家はこれに飛び付き、生物の保護のために生息域への進出を図っています(中には大陸から人類入植地を排除しようとする者さえいます)。


【導入】
 プレイヤー・キャラクターたちは今、エリシアに居ます。なぜ居るかについては彼ら自身の背景設定に応じて調整してください。そして彼らはモニク・ルーセルという身なりの良い女性に接触されたか、彼女の出した求人に応じたかして個人事務所で会うように手配されました。

【持っておきたい技能】
 〈隠密〉、〈生存〉、戦闘系技能、操縦系技能


【レフリー用情報】
 ここから下は、プレイヤーをする予定のある人は読まないでください。
 レフリーはモニクの素性についてサイコロを振り、その後の展開を決定してください。

1.モニクは報道記者です。
 モニクは大手恒星間通信社に所属する記者です。彼女は、日本植民地が不法越境者とみなす者への対応を厳しくし、逮捕・投獄どころか時折その場で殺害している、という情報を追いかけています。
 彼女は彼女以外に2人の仲間がいて(カメラマンと音声係)、このネタを追う間の護衛を求めています。彼女は環境活動家に同行し、海上封鎖を越え、大陸で日本人との「遭遇」を撮影しようと考えています。

2.モニクは裏社会の住人です。
 モニクは非合法的組織の代表者で、薬物生成のために大金が動くクレバー・ドラゴンの臓器を求めています。密猟のためには当然ながら日本の警備兵だけでなく、環境活動家の目もやり過ごさなくてはなりません。
(※モニク自身が現場まで同行するかはレフリーが決めてください)

3.モニクは知的生物学者です。
 モニクはクレバー・ドラゴンが知的生命である証拠を求めて、地球から小規模な科学研究チームを連れて来ました。彼女らはクレバー・ドラゴンの生息域での撮影から、生体サンプルの捕獲まで何でもしようとします(彼女はクレバー・ドラゴンに適合した睡眠薬を持っていると言っていますが、本当に効くかどうかはレフリー次第です)。
 彼女はこの目的を達するまで護衛を必要としています。

4.モニクは過激な環境活動家です。
 モニクは日本が引き起こしている生態系に対する「犯罪」に憤っていて、問題の地域で栽培されている地球原産穀物を滅ぼそうとしている団体に属しています。彼女は現地に出向いて実際に「滅ぼす」手伝いを求めています。

5.モニクはエリシア政府の関係者です。
 モニクはエリシア臨時政府の一員です。臨時政府は環境団体がエリシアを抜け道にして日本植民地に侵入しようとするのを止めようとはしていましたが、今までうまくいっていませんでした。活動家がエリシアへの入国目的を正直に申告するはずもないのです。
 そして、環境活動家が日本の警備兵に「武力行使」されることはエリシアと日本の間の緊張の源となっていて、日本政府と(環境保護に熱心な)エリシア市民の双方から別々の意味で「容認しているのではないか」と板挟みに遭っているエリシア政府は、事態への対処に困っていました。
 そこで彼女は、この問題を詳しく調査し、活動家の目録を作り、できればエリシア国内に拠点を置くであろう「首謀者」を特定したいと考えていて、環境団体とは無関係の人員を求めています。

6.モニクは日本の秘密工作員です。
 モニクは実は日本政府のために密かに働いています。そして彼女は表の顔として上記1~5のどれかを普段装っています。
 日本は、植民地に侵入を繰り返しては緊張を拡大させる他所者の流れを止める「事件」を欲しています。エリシアを中立化できれば(もしくはフランス本国が再び取って代われば)、現在進行中のドイツとの領有権争いに全力を注げるという利点が発生するのです。
 彼女は日本領内に「潜入」して「残虐行為」を働く「極悪人」を探しています。もちろん日本が欲しいのは「極悪人」の死体だけで、容易に治安当局が捻り潰せるように少人数であることが求められます(場合によっては「残虐行為」自体も日本側が自作自演するかもしれません)。そしてその「一部始終」は日本軍寄りの新聞社が大々的に報じる手筈になっています。


【ライブラリ・データ】
ズルリュウ Zururyu (Clever Dragon)
種別:雑食類/採集型  体重:30kg
 ジョイ原産のこのトカゲ風の生物は愚鈍ではなく、むしろ知的生命の一歩手前まで来ている可能性があります。大きな脳を持ち、言語らしきものが発達していることから、既に一部の専門家はゴリラよりも知性があると判断しています。またジョイの日本人入植者は、どんなに厳重に柵を張り巡らしてもズルリュウの群れが土地に侵入してくることから、その知性の存在を身にしみて理解しています。
 エリシアは(誰もが思った通り)この「賢き竜」の保護を訴えていますが、各植民地政府に抵抗されているのが現状です。
 なお日本人は、この生物を「チビゴジ(「小さなゴジラ」の意味)」と呼ぶこともあります。


【参考文献】
・Colonial Atlas (Game Designers' Workshop)
・Invasion (Game Designers' Workshop)
・2300AD Core Rulebook (Mongoose Publishing)
・Colonial Times #2 (Stygian Fox Publishing)
・Joi Sourcebook

蘇る「ガシェメグ宙域」

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 ご存じの方もおられると思いますが、Travellermapに描かれたグシェメグ(Gushemege)宙域のXボート網は『The New Era: 1248』の帝国暦1248年設定のものです。本来、HIWG(History of the Imperium Working Group)内部で起こされた設定があったはずなのが失われ、それを補うかのように載せられているわけです。
 しかしそもそも帝国暦1248年設定は「一度『大崩壊(Collapse)』で全てが灰になってから蘇った」宇宙像なので、「安定した大帝国」が存在する黄金時代(帝国暦1100年代初頭)とは重要星系の位置付けは当然異ならなくてはなりませんし、Xボート網も違ったものになっていなくてはおかしいのです。また、1248年に「第四帝国」領外となる2星域に関しては当然ながらXボート網が全く敷設されていない、という問題もあります。

 無いものは自分で作る、という手もありますが、公式に公開されているものを使うのが一番楽でしょう。オールドファンの人にはご存知だと思いますが、このグシェメグ宙域は別設定が存在します。西暦1991年、マーク・ミラーからお墨付きを貰って、日本独自展開が『RPGマガジン』誌で行われた「ガシェメグ宙域」がそれです。
 この日本版「ガシェメグ宙域」は、サプリメント『Atlas of the Imperium』を底本にして独自にUWPとXボート網と少ないながらも星域設定が起こされ、1991年4月号から10月号にかけて7星域分が掲載されました。後に予定されていた単行本で全星域が載ったかもしれませんが、結局立ち消えとなりましたが(まあ出たとしても買ったかと言われれば…(苦笑))。

 では、現存する7星域分のXボート網を再現してみましょう。UWPについては日本版を再現するには手間が掛かり過ぎるので(カタカナで書かれた星系名をアルファベットに「復元」するのは無理ですし)、HIWG版のデータをそのまま使用します。


 宙域外に出るルートは他宙域設定との兼ね合いを考えて一旦削除し、連載段階で隣の星域と噛み合っていない航路は(どうしてこうなった…?)独自に補正しています。

 設定が起こされなかった残る星域はどうするか。やはり自分で作ってもいいのですが、ファンサイトjtas.net(現在はドメイン失効により閉鎖)に掲載されていたXボート図を継ぎ接ぎしてみようかと思います。
 jtas.net版のXボート網は「AクラスBクラスの宇宙港が固まる星団」があると妙に各駅停車ならぬ「各港停船」したがる癖があるのですが、それも味だと考えて下手に均したりせずにそのまま採用しました。
 ということで、日本版とjtas.net版のXボート網を合成したものがこれです。



 この宙域図の制作にあたり、以下の補正を施しています。

日本版設定とjtas.net版設定で接続が噛み合わない部分は、妥当と思われる範囲で修正を施した。
周辺宙域との接続部分は、周辺の「公式」(コリドーとレフト宙域はDGP及びマングース版、ダグダシャアグ宙域はHIWG版、イレリシュ宙域は(いつの間にか出来ていた)T5SS版)設定に合わせた。ただし座標3240から通じる航路はHIWG版設定にはないが、これがないと途方も無い迂回を強いられることと、T5SS版やjtas.net版に存在することから設けた。座標3211に通じる航路も、HIWG版設定では座標3212に通じるように見えるが流れを考慮して補正を行った。
HIWG版UWPに存在する明らかな誤植を修正した。同時に、『Atlas of the Imperium』では高人口世界ではないのにHIWG版UWPでは高人口世界となっている星系の人口を8に減らした。
HIWG版UWPと『Atlas of the Imperium』で何故か名前が変わっている高人口世界の2星系は、『Atlas of the Imperium』に合わせた。
『Atlas of the Imperium』では高人口世界とされている座標0237の星系は、『Challenge』誌69号に「高人口世界ではない」設定が掲載されてしまっている(単純にHIWG版UWPを引き写したと思われる)以上、高人口世界に補正するのは適切ではないと考えてそのまま残した。
Xボート航路の「飛び越え」(α星系からβ星系へ飛ぶXボート航路の真下にγ星系が存在してしまう問題。60の倍数の角度でジャンプ-2以上の線を引くと発生する場合がある)については、「星域首都の星系」「Aクラス宇宙港の星系」「基地のあるBクラス宇宙港の星系」「Cクラス宇宙港以上の高人口星系」は停泊、それ以外は飛び越す、と定める。
座標2202と2305の間は日本版設定では航路がないが、HIWG機関紙『AAB Proceedings』第13号(1991年)によると航路が存在するため、この部分だけでも失われたHIWG版設定を再現するものとする。
星域首都の位置はHIWG版設定を採用する。ただし『メガトラベラー』以降の宙域首都の位置交換(2224⇔1015)に伴い、座標1013を星域首都とする設定は過剰となるので削除(宙域首都と星域首都が同一でないといけないという設定はないが、見た目がややこしいので…)。
星域首都をXボートが通過しない2星域に関しては、日本版・jtas.net版共に元来別の星系を星域首都とする航路設定のため、星域首都に繋がる航路を追加する。座標0230から0529・0530の両星系に航路を引くことによって0630から0428までXボートが各駅停車する理由も作れる(※Xボート航路は原則として交差させないので、最短距離に航路を引くことができなくなる)。一方、0725から0724の1本だけにしたのは日本版設定から見た目を大きく変更させないため。

 これで別に何かしようというわけでもないのですが、そこそこ様になったものが出来上がったので公開しました。自分だったら「飛び越え」が発生しないようにしながらジャンプー3~4を基本とする航路を引くと思うので、他の人の癖を見るというのは新鮮かつなかなか良い勉強になりますね。

【速報】トラベラー互換システム『Cepheus Engine』とは何か!?

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 去る7月2日に、突如として『Cepheus Engine』なる「トラベラー互換システム」がSamardan Press Publicationsから公開されました。ここはかつて『Flynn's Guide』シリーズというトラベラー関係本を作っていたところで、2年以上振りの新作がサプリメントではなく「新システム」となったのです。
 ベースとなっているのはマングース版トラベラー(初版)のSystem Reference Document(SRD)で(通称『2d6 Sci-Fi』)、これは大雑把に言えばOpen Game Licenseの下でこれをベースに自由にゲームを作って公開してもいいというものです。このOGL版トラベラーをベースにしているものには、Gypsy Knights Gamesの『Clement Sector』シリーズがあります。

 ここへ来てなぜ互換システムが賑わいだしているかというと、マングース社がトラベラー第2版に移行した際に新たに導入した「TASライセンス」制度が裏目に出ていることが取り沙汰されていますが、ここでは敢えて触れません。

 今回問題の『Cepheus Engine』は、「Traveller SRDの足りない部分をLBB(Little Black Book, クラシック版トラベラーのルールを収めたBookシリーズの愛称。表紙が黒いことから名付けられた)を参考に補間した(意訳)」と作者が語っており、マングース版以上にクラシック版に近い構成になっている、ような気がします。

 というのも、ルールをさっき手に入れたばかりで、解析は書きながらやっているからです(汗)。あくまで互換システムなので能力値や行為判定などゲームの根幹は変わってないですが、今のところ、マングース版(初版)とはこの辺りが異なっています。

キャラクターの能力値決定は2Dを6回振り、筋力から順に割り当てていく方式に戻った。任意の能力値に割り当てていく方式は選択ルール扱いに。
出身世界による自動獲得技能で〈銃器戦闘-0〉か〈白兵戦-0〉が貰えるようになった(前者は並治安以下、後者は高治安で獲得)。
些細な事だが、社会身分度G(16)以上の存在が定義された(皇帝はJ(18))。
能力値DM早見表がなぜかZ(33)まで用意された。G以上は使うことがあるんだろうか…?
経歴部門の「陸軍(Army)」が「地上軍(Surface System Defense)」「空軍(Aerospace System Defense)」「水軍(Maritime System Defense)」に解体された。よって「企業軍」や「司法官」に徴募されることはなくなった。
キャラクター作成ルールはクラシック風に回帰。部門内で職を移動することもなくなったし、出来事表(Events)や人生経験表(Life Event)もない。失敗表(Mishaps)も共通化された。また、解雇や自発に関わらず経歴を終了した場合はキャラクター作成自体が終了する。
18歳で部門への応募に失敗すると徴募を受けるか、1期(4年間)放浪者として過ごした後再応募を試みるかできるが、その再応募の際のDMは-1から-2と厳しくなった。
キャラクター作成時の生存判定に失敗するとクラシック版同様に「死亡」する(出目2は自動失敗)。2歳を加えて失敗表に移行するのは選択ルールとなった。
各部門の階級0の段階で自動取得する技能がそれぞれ用意された(ただし何故か宇宙鉱夫だけ記載がない)。おそらく、クラシック版で各部門の第1期では2個技能が取れたのを再現したと思われる。
マングース版では技能習得の後で任官/昇進判定だった流れが、クラシック版同様に先に任官/昇進を判定するようになった。また、任官/昇進のない経歴部門では1期に2個技能習得ができるのもクラシック版同様。
マングース版では昇進判定時に在籍期数以下の出目を出すと退職となっていたが、クラシック版と同様に再応募判定が復活した。判定は義務であり、出目が12だと辞職が却下されるのも同じ。
経歴部門は、運動家、空軍、工作員、未開人、宇宙鉱夫、官僚、入植者、外交官、放浪者、芸能人、狩猟家、海兵隊、水軍、傭兵、商船、海軍、貴族、医師、海賊、悪党、科学者、偵察局、地上軍、技術者、の24種類。部門の解体に伴って増えてはいるが、司法官が無いなど不思議な点もある。
恩典表で貰える船株(Ship Shares)は、宇宙船購入時に「船体価格の1%引き」から「200万クレジット引き」に実質上方修正された(売却は「できないかもしれない」)。
大人の事情で「エクスプローラー協会(Explorers' Society)」なるトラベラーズをエイドするソサエティーが登場している。同様の理由で異星知的種族も一新された(どのみちサンプルだが)。
キャラクター作成時に負傷した際の医療給付(Medical Care)で、偵察局員の扱いが軍隊と同じに格上げされた(マングース版では悪党や放浪者と同じ最低ランクだった)。また、宇宙鉱夫や入植者が新たに最低ランクに位置付けられた。
マングース版で導入された「スキルパッケージ」の概念はない。
〈芸術(Art)〉〈偽装(Deception)〉〈外交(Diplomat)〉〈捜査(Investigate)〉〈説得(Persuade)〉〈遠隔操作(Remote Operations)〉〈隠密(Stealth)〉〈生業(Trade)〉技能が廃止され、〈贈賄(Bribery)〉〈電子技術(Electronics)〉〈接触(Liaison)〉が復活、〈爆発物(Explosives)〉が〈破壊工作(Demolitions)〉に変更。〈運行(Drive)〉〈飛行(Flyer)〉〈航行(Seafarer)〉は〈輸送機器(Vehicle)〉に、〈星間航法(Astrogation)〉は〈航法(Navigation)〉に、〈重火器(Heavy Weapons)〉は〈砲門(Gunnery)〉の下に、〈生存(Survival)〉は〈動物(Animals)〉の下に、〈宇宙服(Vacc Suit)〉は〈無重力環境(Zero-G)〉に再編統合された。また、英文名の言い回しがかなり変化している(Gambler→Gambling、Pilot→Piloting、Language→Linguisticsなど)。
〈エンジニアリング〉技能は再び一つにまとまった。
〈賭博(Gambling)〉技能に明確な使用法が例示された。
〈白兵戦〉で扱う武器分類は「打撃武器」「生得武器」「斬撃武器」「刺突武器」の4つに再編された。素手での格闘は生得武器に統合。
投擲や弓などは〈運動〉ではなく〈銃器戦闘〉で扱うようになった(よって訳語を〈射撃〉に改めるべきかもしれない)。
超能力の距離コストが変更された。テレパシーと透視力の欄が分割され、長距離以上のテレポーテーションが軽減。念動力は最大距離が伸びた代わりにコストが調整されている。また、「超能力者」の経歴部門は廃止された。
判定の成功段階が整理され、「例外的失敗」「失敗」「成功」「例外的成功」の4段階となった。目標値8から6差で「例外的」なのはマングース版と同じ。0差成功・1差失敗の「ぎりぎり(Marginal)」の段階は廃止された。
失敗した行為判定への再挑戦に関する記述があるが、「無制限に試み続けられる」と非常に大雑把(もちろん成功するまでやれる時間がある場合のみ)。『メガトラベラー』の持続判定のような安全装置はハウスルールで設ける必要がありそう。
同じ防具でもTLによって性能の差があったのが統一された。また、全体的に装甲が「硬く」なっている。
武器関係の選定もクラシック版準拠になった? ダメージも修正値なしのXd6のみとなった。
武器の反動が「あり」「なし」に簡略化され、戦闘の行動順に影響を与えなくなった。武器の反動が影響するのは無重力状態での戦闘時のみ。
それぞれの武器に「違法となる治安レベル」が記載されているのは案外助かる。
武器種別と距離による命中修正表が変更された。距離ごとにDMが用意されるのではなく「この種別の武器をこの距離で当てる難易度はこれ」と簡潔になったが、難易度で扱う以上、DMの刻みが1から2に増えたので微妙に命中させ辛くなっている。また白兵戦武器の種別は「肉薄(Close Quarters)」「合間(Extended Reach)」の2種類にまとめられた(マングース版でも実質そうだったが)。
自動射撃(automatic fire)のルールはバースト射撃(Burst Fire)に変更された。まとめて撃った弾薬数に応じて命中とダメージに補正が入るが、どれだけまとめて撃てるかは武器ごとの解説文を読まなくてはならないので、AR値(Auto Rating)で管理されていたマングース版より後退した印象。マングース版のAR値に代わりRoF(Rate of Fire)値が武器ごとに設けられ、単射/バースト/オートの各モード別の発射弾数が記されている。例えば、磁気ライフル(単射ダメージ4D)をオートモード(1ラウンドで10発)で撃つと命中に+2、ダメージに+2Dされる。また、短機関銃(Submachinegun)のように単射モードの値が0、つまりバースト専用の銃器も存在する。ダメージを複数対象にばら撒けなくなったので処理は簡素化されたが、(慣れれば済むことだが)表の参照がいるのは後退した面。
物陰からの乱射(Blind Firing)のルールが追加。目標を見ずに撃つため、技能は0レベル扱い、判定は3Dのうち一番高い出目を外した合計で行い、誰に当たるのかも射程内のランダムに決定(目標が遮蔽物に隠れてたりいなかったりする場合を考慮しないのだろうか? 目標をランダムに決めてからその目標の遮蔽状態を加味して命中判定をすべきでは)。
無重力状態での戦闘では、攻撃技能レベルは本人が持つ〈無重力環境〉技能レベル以下となる。
散弾銃には特別ルールが用意され、中距離以上ではダメージが2Dに半減する代わりに目標と同じマスに居る者全てに命中する。
〈遠隔操作〉が廃止されたため、ロボットやドローンの操作には〈通信機〉技能を使う(「パンチだ、ロボ!」)。
コンピュータの「高度インターフェース(Intelligent Interface)」に新たな段階が追加され、TL11で音声制御程度だったのが、TL13で初期人工知能、TL17では完全な人工知能に進歩する(ルール面での演出は特にないので雰囲気程度か?)。
宇宙船設計ルールが2000トンから5000トンまで拡張された。
ジャンプする際に、古いジャンプ計画(Jump Plot)を使用するとマイナスのDMを受けるようになった。航法士はデータの使い回しをするなら3週間までに留めるべき。
旅客の運賃はクラシック版同様に戻された(特等は1ジャンプにつき1万クレジット、など)。また、2割引きで乗れる2人部屋の概念が導入されている。
二等船客の蘇生率が大幅に向上(船客本人が難易度簡易(+4)で耐久力をDMにして判定)。失敗しても船医が難易度易(+2)で〈医学〉と教育度をDMにした判定に成功すれば助かるので、まともな医師が乗っていれば冷凍睡眠は恐るるに足りなくなった。
どういった(一般的な)違法行為を行うと地元警察が飛んできて、逮捕されるとどういう刑罰を受けるかがルールで明確になった(もちろん目安に留めるべきだろうけど)。ちなみに最高刑は死刑。
貿易の品目が差し替えられている。
貿易の価格決定表や地元の仲買人(Broker)を介するルールはクラシック版風に差し戻された。ただし優秀な仲買人は大きな宇宙港にしかいない(※そもそもマングース版ルール下では、4レベル技能の持ち主にはそうそう出会えないことにレフリーは留意すべき)。
世界作成ルールは、マングース版選択ルールが形を変えて一部取り込まれた。人口は大気に大きく影響され(呼吸しやすい星はプラス補正、それ以外はマイナス補正、低重力もマイナス補正)、宇宙港の規模は人口に比例するようになった。また、マングース版に有った大気温度のルールは廃止された。
貿易分類「肥沃(Ga)」になる範囲がSRD版に合わせて変更された(加えてSRD版より条件が厳しい)。人口が多くても少なくても外れる、ということは、Gardenの意味合いは「緑や資源が豊か」から「自然に適度に人の手が入っている」に変わったということか?(※訳語の変更も必要かも)
キャラクターシートは付属しないが、共通キャラクター書式(Universal Character Format)が整備された。従来のシナリオなどで、名前、能力値6桁、年齢、経歴、所持金、所持技能、所持品の順に簡潔に記されていたあれのことである。

(※速報なので判明し次第予告なく追記していきます)

ぶらりTL11の旅(2改) 『Clement Sector』(2nd Edition対応版)

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 シリーズ2回目のお題は、Gypsy Knights Gamesの『Clement Sector』。この会社は、元々マングース版向けに『Quick Worlds』シリーズ(※現在は販売終了)という「宇宙のどこかにありそうな星系の詳細設定」や、シナリオフックやNPCや団体を21個ずつまとめた『21』シリーズを展開していました。
 やがて、その数が増えていくにつれて(汎用設定集ではありつつも)独自設定が実体を持ち始め、『Quick Worlds』の総集編である『Subsector Sourcebook』シリーズの発表を経て、2012年の『Hub Federation』、2013年の『Clement Sector』の登場で独自宇宙としての展開が開始されました。
 そして2016年、マングース版トラベラーの第2版移行に合わせて満を持して『Clement Sector』シリーズも第2版対応…となるはずが、「大人の事情」で第2版対応を断念して「OGL版(Open Game License Version)」として再出発することを余儀なくされました(※以前からマングース第2版とOGL版に両対応することは公表されていたので、前者のバージョンだけがお蔵入りした格好になります)。それでもめげることなくリニューアルと平行して新作が発売されるなど、今なお活発な展開を見せています。

 では、その「クレメント宙域」とはどんな所か、その歴史から紐解いていきたいと思います。


 戦争や災害が相次いだ21世紀初中期の激動の時代を経て、地球の各国は生き残りのためにより内向きに、国家主義的になっていきました。統一地球政府の夢こそ潰えましたが、2070年代後半には各国は復興を終えて再び繁栄を始めました。国家主義による国家間競争の激化は、新たな資源を求めて宇宙への進出を促しました。21世紀末には企業や国家が数多くの入植地を月面に築き、小惑星を占有しては採掘し、幾つかは火星にも進出していました。
 西暦2160年頃には、地球の主要国は太陽系各地に広がっていました。イオンエンジンは科学者や労働者をガスジャイアントまで運び、莫大な量の鉱石や化学製品や資源を地球にもたらしました。その間にも新たな推進力の研究が進められていましたが、ドイツの科学者であるヨハン・ツィム(Johann Zimm)は「量子もつれ」を利用した画期的な推進機関を開発しました。物体を異次元空間に通すことで超光速航法を実現したツィム機関、またの名を「Zドライブ」の実証実験は2179年に始まり、まずはほんの数分で地球からセドナまで、後に26時間で1光年を、84時間(3.5日)で1パーセクの距離を「Zシップ」が移動できることが確認されました。
 2180年にはプロクシマ・ケンタウリ星への飛行計画が立てられ、110時間(4.5日)で到達しました。実験が続けられた結果、Zドライブは2パーセクを7日間で移動できるものの、一度に2.4パーセク以上は移動できないことも確認されました。続く20年で人類は地球周辺の星々に進出していき、エリダヌス座イプシロン星には初の太陽系外入植地「ノイベルリン(Neu Berlin)」がドイツ人によって築かれました。
 西暦2200年、そのイプシロン星から1光年離れた場所に直径2mmのワームホールが発見されました。2205年からはそのホールを拡張する計画が進められ、科学者は3年後には探査装置を通すに十分な大きさの「橋」を確保しました。EB1と名付けられた探査装置はワームホールを通過し、様々なデータを集めて無事帰還しました。

何とそのワームホールは、6万光年離れた銀河系の反対側に通じていたのです!
 2210年にはワームホールは宇宙船が通過できる規模に拡大され、「オクタゴン」によって固定化されました。そして様々な宇宙船がそこを通過していきました。そこから1光年先にはK7V型の主系列星があり、植民に適した惑星もありました。「ハブ」と名付けられたその惑星は、新宙域へと旅立った全ての人々が訪れる最初の世界となりました。
 この「クレメント宙域」は「アース宙域」と異なり、居住に向いた惑星が豊富であることがすぐに判明しました。地球の各国は競うようにハブ星系周辺に入植していきましたが、2235年の国連総会で締結された「独立世界条約(Independent Worlds Treaty)」よって、ハブ星域外の植民星は全て独立国と同じ扱いとなるよう取り決められました。このことにより、ハブ星域に隣接したフランクリン、カスカディア、セコイアの各星域には、地球上では独立を勝ち取れなかった民族(ウクライナ人(※この時代のウクライナはロシアの支配下にあるらしい)、イグボ人、バスク人など)や、宗教団体や完全自由主義者(リバタリアン)や社会主義者といった思想集団、地球での生活に幻滅した人々が押し寄せ、「自分たちの新たな故郷」を次々と開拓していきました。
 人と資源が行き交うようになったワームホールはいつしか「コンジット(導管)」と呼ばれるようになり、国家や企業の注目はアース宙域からクレメント宙域に集まるようになりました。入植に適した星の少ないアース宙域の開発が停滞する一方で、クレメント宙域の入植地と通商路は拡大を続け、ワームホールの発見からわずか130年でクレメント宙域のリムワード方面を除いてほぼ植民地が置かれ、さらに隣接宙域へと入植が始まりつつありました。

しかし西暦2331年4月15日、「コンジット」は突如消滅しました。
 大きなエネルギー波を検知した数秒後にホールは閉じ、たまたまオクタゴンに居た数百名は崩壊に巻き込まれて死亡しました。科学者は現場に急行しましたが、ホールが量子レベルに縮んだだけという予測に反して、原因不明の理由で文字通り消滅したことがわかりました。はっきりしているのは、クレメント宙域の人々がいきなり地球から6万光年の彼方に取り残されてしまったことです。
 「コンジット」の崩壊を受けて、即座にハブ星系大統領ヒョードル・ハウザーは他星系の指導者と連絡を取り、地球からの統治に代わる恒星間政府を提唱しました。最終的に2332年7月30日にハブとその植民地星系、および隣接する4星系の計6星系が自由通商と一括防衛を基盤とする「ハブ連邦(Hub Federation)」を結成しました。
 その後10年間、科学者たちは必死に「コンジット」の復元や新たなワームホールの発見に取り組みましたが、2342年現在、全く成果は得られていません。クレメント宙域の全ての人々は今、地球から離れた自分たちがこれから進むべき道を模索しています。


 このように、近年の観測技術の進歩により「入植に適した太陽系周辺の星々」という王道にリアリティが無くなってしまったところに「銀河系の反対側に通じたワームホール」というハッタリをかますことによって、トラベラー的な「入植に適した星だらけ」の環境を生み出したというのは、非常に上手いやり方だと思います。
 また、ハブ連邦がわずか6星系の小国家であり、他の星系は全て独立扱いなので、勃興期ならではの成り上がりや英雄譚も不可能ではないでしょう(巨大企業の存在感がOTUほどでもありませんし)。加えて、歴史が浅いながらも入植者が元々「異端児」だらけなので、各星系の個性もかなり際立っているのも注目点です(ハブ連邦が主に独英米系の移民で構成されているので、そこから見ての「異国感」ということになりますが)。
 始まりが「オリジナル星系の詳細設定本」なので、各星系設定の細かさはOTUを遥かに超えます。星系内惑星の軌道や主要惑星の詳細なデータ、惑星図、地方政府や各都市の情報(人口から気温まで)、文化様式、はたまた地方暦の数え方(例:ハブ星系は入植初日を紀元として、公転周期116日なので1年は116日…ではなく3公転の348日であり、1公転ごとに前期・中期・後期と呼び表す(例えば、123年前期101日))に至るまで、必要十分過ぎる情報が手に入ります。残念ながら、NPCは自前で準備しないといけませんが。

 「クレメント宙域」設定で、OTUと最も違うのがジャンプドライブに代わる「Zドライブ」の存在です。OTUのジャンプドライブは航行距離に関係なく異空間に約168時間(7日間)留まるものでしたが、Zドライブは2パーセクの移動に168時間を要するのを基準とし、1パーセク移動なら半分の84時間、1auならわずか1.44秒で移動できます。
 また、各星系(ゲーム的に言えば星域図のヘクス)には空間の「もつれ」である「ツィム点」が存在し(点と言っても半径500km程度の空間ですが)、他の星系に向かうためには必ず特定のツィム点から「入って」、特定のツィム点から「出る」必要があります(その入口をIZP、出口をOZPと称します)。当然ながら、ツィム点から「出た」船は衝突防止のために速やかに別の場所に移動することが求められます。なお、ツィム点は航法データに記載がある他、星系によっては「ブイ」や星系防御施設が設置されていることもあります。
 ジャンプの際に宇宙船は「バブル」に包まれて移動しますが(※ただし古い設定ではバブルは無いことになっていたので、変更されたと思われます)、そのバブルは船体が5000トン以上では形成できず、2000トン以上でも一定確率でジャンプ中に「破れて」しまいます。破れてしまった場合のペナルティは「即座に通常空間に出る」とだけあるため(どこで破れたかはレフリーの判断)、そこから目的地に向かえる(もしくは文明世界に帰還できる)ツィム点を探し直す時間が余計にかかるのでしょう(そもそも都合よく見つかるかどうかは航法士の腕次第?)。
 この設定により、OTUよりも小型艦が主力となっていることが伺えます(※さらに言えば、星系間移動を考えなければいくらでも巨大化できる上に、敵の出現地点が解り切っている防御側が圧倒的に有利のような気もしますが…? ただ、星系間を結ぶツィム点は「少なくとも1つ」と書かれているので、未知のツィム点から攻め込まれる可能性も無くはないです)。
 加えて、星系内移動(「スキップ」と呼ばれています)がかなり便利になっています。星系内移動用のツィム点を探すのは容易であり、太陽系規模程度なら1分かからず移動できてしまうのですから、星系内物流を前提とした地方経済やOTUとは異なる艦隊戦術も成立しそうな感じです。

 このクレメント宙域でも、今のところ他の知的生命との接触は果たされていません。ただし、惑星改造の疑いのある星があったり、300万年前の異星文明の痕跡が発見されたりと「何者か」の存在を伺わせる要素は存在します。
 その代わりと言ってはあれですが、プレイヤーキャラクターとして「知性化種」が使えるようになっています。用意されているのはエイプ、ドルフィン、ベアーといった定番から、クラーケン(外見は『クトゥルフの呼び声』に出てきそうな感じ(笑))、イェティといったものまで!(イラストではパンダも知性化されていた) 他にも、人類に遺伝子改良を施して低重力環境に適応させた「オルトラン(Altrans)」もPCとして使えるルールが整備されています。
 人類といえば、クレメント宙域の平均寿命は何と254歳なのです! 宇宙植民が始まる頃には画期的な延命・抗老化医療が普及していたらしく、見た目と実年齢が倍ぐらい違うのは既に当たり前の社会となっています。ルール上で老化が始まるのは76歳以降とされるなど、古くから『トラベラー』に付いて回る「中年の世界」というイジリを設定で回避してみせています(ただしキャラクター作成時には「4レベル制限」があるので、達人は作れても超人は作れないようにはなっています)。

(※『2300AD』と違って植民地獲得競争にならなかったのも、この寿命設定のせいだったりします。地球諸国が延命によって膨れ上がった自国民を一刻も早くクレメント宙域に「棄てる」必要に迫られた結果、植民星を「他国」とみなせる独立世界条約が締結されたのです)

 なお、基本的にTL11設定ではありますが、極一部の先進星系ではTL12に到達していたり、OTUではTL13扱いの「対話型コンピュータ」やクローニング技術がTL12で存在しています。あくまでトラベラーなので言うまでもないですが、例によって超光速通信はないので「旅の速度=情報の速度」です。また、超能力は「ない」と明言されています。


 マングース版トラベラー(初版)のATUとして始まったこの『Clement Sector』ですが、前述した通り、マングース版ルールが第2版に移行した際に「大人の事情で」袂を分かち、現在はTraveller SRDを利用する「OGL版」として販売が再開されています。
 ATUの中でも特に販売点数の多いこのシリーズは、結局何を買ったらいいか解りづらくなっているのも否めません(ただし2nd Editionとなった際に整理統合は進んでいます)。ということで簡単にまとめてみます。なお、タイトルに「2nd Edition」と書いてありますが、マングース版トラベラー第2版対応製品ではないことを繰り返し記しておきます(もちろんそのルールで楽しむのも不可能ではないですが)。


『Introduction to Clement Sector 2nd Edition』
 「クレメント宙域」の無料ガイドで、宙域史とサンプル星系(でも旧『Quick Worlds』1つ分と同量)を収録しています。内容は旧版と同じですが、2nd Editionに移行した際にZドライブ関連のルールが変更されたため、解説文が差し替わっています。

『Clement Sector 2nd Edition』
 「Core Setting Book」の副題が示すように、中核設定の全てがこれに詰まっています。「クレメント宙域」全体の背景設定、宙域全体のUWP、キャラクター作成ルール(経歴部門、新技能、知性化種族)、SRD版ルールからの改訂点、サンプル宇宙船などを収録。
 ちなみに2nd Edition移行に伴って旧版の『Career Companion』『Player's Guide』などの内容を取り込んだため、ページ数は旧版の倍に膨れ上がっています。

『Anderson & Felix Guide to Naval Architecture 2nd Edition』
 宇宙船建造ルール(小艇およびZドライブ以前の宇宙船も含む)と、わずかながらサンプル宇宙船を収録。ちなみに「Anderson & Felix」というのは、ハブ連邦海軍の艦船建造を一手に担う大手造船企業の名前。

The Clement Sector Subsector Pack
 再編された『Subsector Sourcebook』シリーズ全5作品を収めたバンドルです。ハブ連邦のあるハブ星域を始めとして、隣接するカスカディア、フランクリン、セコイヤの3星域、そして辺境の植民星群を解説した『The Colonies』と、膨大かつ詳細な星系設定資料集です。
 なお、旧版の『Hub Federation』に分けて収録されていた星系設定は『Subsector Sourcebook 3: Hub 2nd Edition』に統合されました。

Ships of Clement Sector 1-12 Pack
 様々な宇宙船を詳細に解説した『Ships of Clement Sector 2nd Edition』シリーズを全て集めたバンドルです。単品売りもあります(旧版と違って1隻ずつではないですが)。

『Ships of Clement Sector 13: Strikemaster Class Brig』
『Ships of Clement Sector 14: Boyne-class Replenishment Ship』
 『Ships of Clement Sector』シリーズの新作。OGL版移行後の作品のため「2nd Edition」ではなく、合本でもありません。

『Historical Ships of Clement Sector 1: Trent-class Destroyer 2nd Edition』
 Zドライブ開発前の宇宙船を解説する『Historical Ships of Clement Sector』シリーズですが、今のところ1作品のみなので単品売りです。

147 SF Adventure Plots
 シナリオプロットを21本ずつ収めた『21 Plots』シリーズの7作品を全て集めたバンドルです。これだけあれば導入に困ることはないでしょうし、トラベラー伝統の「ダイス目次第で展開が異なる」パトロン形式なので、シナリオヒントは実質この6倍!?

『21 Villains 2nd Edition』
 チンピラから独裁者まで「悪役」を21人集めた資料集です。

『Skull and Crossbones: Piracy in Clement Sector』
 クレメント宙域における海賊行為を解説しています。


 以下はOGL化が済んでいないものの、現在発売中のサプリメント類です。従来はバンドル版が存在しましたが、単品売りのみとなりました(※2nd Editionに移行した際にバンドル版が出るかもしれません)。

『21 Vehicles』
 反重力バイクから戦闘車両まで、21種類の乗り物を収録。

『21 Starport Places』
 宇宙港内のカジノや小売店といった施設(とデッキプラン)を集めたサプリメント。

『Hub Federation Navy』
『Hub Federation Ground Forces』
 ハブ連邦の軍組織、海軍と陸軍の設定集。それぞれ組織図(特にハブ連邦では陸軍の下に海兵隊と惑星防衛軍が置かれているのがポイント)や制服設定、上級キャラクター作成ルール、装備品などが記載されています。

『21 Organizations』
『21 More Organizations』
 様々な企業や団体、中には「女性だけの特殊部隊」とかも21個ずつまとめて解説するサプリメント。

『The Cascadia Adventures』
 カスカディア星域を舞台にした『Save Our Ship』『The Lost Girl』『Fled』の3部作シナリオを合本。単品売りもあります。

『Dawn Adventures 1: The Subterranean Oceans of Argos Prime』
『Dawn Adventures 2: Hell's Paradise』
 こちらは辺境のドーン星域(『The Colonies』で解説)を舞台にしたシナリオです。

『Grand Safari』
 クレメント宙域外のハンニバル星域(の1星系)を舞台にした、タイトル通りの狩猟型シナリオ。


 このように、本気で集め出すと結構お金がかかるのは否めませんが、その分ATUでも群を抜いて設定が深いのがクレメント宙域。『トラベラー』の王道設定を踏襲しつつもアレンジを加え、最近流行りのトランスヒューマンSF的な要素も少々盛り込んで、異彩を放つ魅力的な宇宙に仕上がっています。今後の設定の拡大も期待できる、今、最も活発なATUです。「貴族がのさばってて、何だかんだで身分がものを言う社会にはうんざりだ!」という方には、こんな新天地はいかがでしょうか?

 ……あとはまあ、妙にドイツ推しですよね(笑)。これまでアメリカ主導型のSF世界が多かったので、個性を出すためにそうしたのかもしれませんが。

『Cepheus Engine』で始めるロールプレイング・ゲーム入門(1)

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Take a science fiction odyssey to distant worlds of the galaxy...

 「入門」などと仰々しいタイトルがついていますが、日本のRPGの幕開けを告げた『タクテクス』誌の連載記事「ロールプレイング・ゲーム入門」への単なるオマージュで、特に深い意味はありません。
 改めて、この企画は『Cepheus Engine』を初心者向けに解説するふりをして自分もルールへの理解を高めようと、二兎を追うものです(汗)。早い話が詳細レビュー記事です。長期間かつ不定期の掲載となると思いますが、お付き合いよろしくお願いいたします。


 『Cepheus Engine』とは、副題の「A Classic Era Science Fiction 2D6-Based Open Gaming System」が示す通り「古典SF宇宙」を舞台にした2D6系のRPGです。この「古典SF」が何を指すかは設定次第ではあるのですが、共通認識としては「超光速航法が実用化された未来」を舞台としていると捉えてください。数十、数百、数千もの星々を治める恒星間国家が存在し、人類以外の異星知的種族と共存したり敵対したりしているわけです。イメージが難しければ映画『スターウォーズ』みたいなもの、と考えてください(あんなに派手ではありませんが)。そしてプレイヤー・キャラクターは宇宙各地を旅して、他の星にはない素晴らしい体験をしたり、金儲けに勤しんだり、迷宮のような官僚機構に振り回されたり、様々なトラブルに巻き込まれたりするのです。冒険のネタは、それこそ星の数ほどあります。

 ここで注意すべきなのは、他のゲームと違ってプレイヤー・キャラクターは普通の人だということです。無防備に銃で撃たれれば大怪我をしますし、傷は簡単には治りません。いざという時にダイス目を操作するルールもありませんから、最後の最後の失敗で今までの苦労が水の泡になることもあります。でも、それが普通の人の人生ってものです(笑)。
 だからこそ、プレイヤーは必死になるしかないのです。戦闘に勝ちたければ事前に装備を整え、味方を増やし、敵の弱点を探り、地形を読み、隙を突き……と、戦う前に勝てる条件を全て満たしておくのです。というより、そもそも死にたくなければ極力戦いを回避する方向に知恵を絞るべきなのです。
 キャラクターにしても、20代の若造の拙い技能だけで渡っていけるほど宇宙は甘くありません。30代40代の、社会の苦さも酸っぱさも知った『大人の』世界なのです(あえて「不利な」キャラクターを演じるのも楽しみの一つですが)。
 冒険を成し遂げたからといって経験点を貰って成長することもありません。じゃあ何が楽しみなのかと問われれば、金銭報酬もありますけど、結局は冒険の成功も失敗も全てひっくるめて「体験すること」が楽しみであり、人生の上での成長なのです。理不尽ではない失敗を受け入れられる『大人』かどうかが、このゲームを楽しめる鍵でしょう(そりゃ社会は厳しいので、理不尽な目にも多々遭いますが(汗))。

 『Cepheus Engine』には専用の背景設定は用意されておらず、自作するか別の所(ルール互換性のある『The Third Imperium』や『Clement Sector』など)から借りてくる必要があります。今では背景設定と一体となったゲームシステムは当たり前ですが、『Cepheus Engine』の精神的源流である1970年代は各自が自分だけの背景設定を築き上げていくのが当たり前でした。また、『Cepheus Engine』にはそれを支援するルール(星系作成ルール)が用意されているので、後は想像力次第で無限の可能性を秘めているのです(とは言うものの、凝り過ぎるとあっという間に挫折してしまいますけどね…(大汗))。

 あともう一つ。「Open Gaming System」とあるように、このゲームシステムは全ての人に開放されています。『Cepheus Engine』にはPDF版だけでなく、英語とはいえdocx版(Microsoft Word形式)も用意されていて、遊ぶ際に気に入らない点があれば変えてしまえばいいのです。もちろん独りよがりではいけませんが。


 ここで、『Cepheus Engine』で多用される独特の用語について予め解説しておきます。

レフリー(Referee):
一般的なRPGで言うところの「ゲームマスター(GM)」のこと。
2D:
サイコロ(Dice)を2個振ってその合計値を求めること。このゲームでの判定は全てこの2Dで行う。「2」の部分はサイコロの数を指すため、1なら1個、3なら3個を意味する。なお、『Cepheus Engine』では6面体サイコロしか使わないため、ここでは一般的な表記の「2D6」から「6」を省略して「2D」と書くものとする。
+:
計算式なら「足す」だが、文脈によっては「(左の数字)以上」という意味を持つことがある。例えば「2Dで5+」とだけ書かれていたら「サイコロを2個振って合計値で5以上を出す」という意味。逆に「-」は「以下」の意味で用いられる。
DM:
サイコロの修正値(Dice Modifier)のこと。「DM+2」なら「サイコロの出目に2を加える」、「DM-3」なら「出目から3を引く」という意味。


 では、実際に宇宙に旅立つキャラクターを作っていきましょう。『Cepheus Engine』では前述した通りの「社会のままならなさ」を存分に体感できるキャラクター作成システムが採られています(汗)。

■キャラクターの能力値(Characteristics)
 『Cepheus Engine』におけるキャラクターは、以下の6つの能力値で表されます。

 筋力(Strength):腕っ節の強さを表す。
 敏捷力(Dexterity):身のこなしの素早さ、手先の器用さを表す。
 耐久力(Endurance):体の頑強さ、辛抱強さを表す。
 知力(Intelligence):頭の回転の速さを表す。
 教育度(Education):これまでの教育で得られた知識量を表す。
 社会身分度(Social Standing):現在の社会階層や育ちの良さを表す。

 当然ながら、数値の高い方が優れていることになります。人類の最高値はF(15)、並の人は7、最低値は1です。男女の差によって能力値に補正がかかることはありません。人類以外の種族を作成する場合には補正がかかる場合がありますが、今は考えないことにします。
 ちなみに、筋力・敏捷力・耐久力の3つを合わせて「肉体系能力値(physical characteristic)」、知力と教育度を合わせて「頭脳系能力値(mental characteristic)」と言うこともあります。
 なお第7の能力値として「超能力評価(Psionic Strength)」というものがあるにはありますが、普通の人には関係ありません。超能力はごく一握りの才能ある人がたまたま開花させる機会を得られた時のみに発現するものだからです(そうではない設定にするなら別ですが)。

 先ほど15のことを「F」と書きましたが、『Cepheus Engine』では「擬似16進数表記(Pseudo-Hexadecimal Notation)」で数値を書き表します。0から9まで来て、次の10はA、11がB、12がC、13がD、14がE、15がFとなるわけです。16進数だとその次は位が変わるのですが、あくまで「擬似16進数」なのでG、H、J…(I(アイ)とO(オー)は誤認防止のために使用しません)と33を意味するZまで続いていきます。もっとも、16以上を表すことはあまりないので、Fまでをすぐに換算できるようになれば十分です。

 能力値は2Dを振ってその合計値を筋力、次の2Dは敏捷力…と順に当てはめていきます。とルールには書いてあります。選択ルールとして「2Dを6回振って、それぞれの出目を任意の能力値に割り振っていく」という形式も紹介されていますが、いずれにせよたまたま2とか3が出てしまった場合は『Cepheus Engine』ではかなり不利になるため、以下のハウスルールを提案します。合議の上でどれか1つを選択ルールと組み合わせて採用してみてください。

2Dを7回振って最も悪い出目1回分を捨てる。
「3Dを振って一番低い目を捨てる」ことを2Dの代わりにして6回振る。
サイコロの「1」の目を「3」と読み替える。例えば出目が1と4なら合計は5ではなく7となる。
5以下の能力値は振り直しを1回認める。振り直しても結果が元の数値以下だった場合は「元の数値+1」とする。

 そして能力値が決まれば、自動的に「能力値DM(Characteristic Modifiers)」が決定されます。能力値DMは「能力値を3で割って小数点を切り捨てて2を引いた」数値となるので、早い話が12が+2、11~9が+1、8~6が0、5~3が-1、2が-2となるわけです。この能力値DMはゲーム中の技能判定の他に、キャラクター作成でも用いられます。


■生い立ちによる技能(Background Skills)
 続いて、(選択ルールではありますが)そのキャラクターの出身星を決めます。レフリーが事前に用意したリストから選択したり、プレイヤーが自己申告したり、星系作成ルールに従ってその場ででっち上げたりしてください。どのような星で育ったかによって、予め貰える技能が変わってきます(海洋惑星なら〈船舶〉、砂漠惑星なら〈生存〉など)。
 この項目では「3+教育度DM」個だけ「0レベル技能」を得られます(「0レベル」の意味合いについては後述しますが、今は「1レベルの1個下の段階」とでも考えてください)。まず先に2個を出身星によって決まる技能(Homeworld Skills)から得て、不足分を基礎教育技能表(Primary Education Skills)から選んで習得します。
(※出身星を決めない場合は、基礎教育技能表の中から「3+教育度DM」個を選んで取得すればいいでしょう)


■経歴部門の選択(Careers)
 これでキャラクターはやっと18歳になりました。ここから社会の荒波に揉まれていくわけです(笑)。就職先となる「経歴部門」を以下から選びましょう(『Cepheus Engine』では大学や士官学校への進学は便宜上経歴に内包されていると考えてください)。

【軍隊系経歴部門】
海軍(Navy):宇宙艦艇に乗り込み、恒星間政府の安定のために宇宙空間を守り、時として敵国に攻め入る軍隊の一員。
海兵隊(Marine):主に海軍の艦艇に乗り込み、敵惑星への侵攻の役割を担う軍隊の一員。
空軍(Aerospace System Defense):惑星の大気圏内および亜宇宙軌道を防衛する軍隊の一員。
水軍(Maritime System Defense):惑星上の海洋を防衛する軍隊の一員。
地上軍(Surface System Defense): 惑星上の海洋以外の地表を防衛する軍隊の一員。ちなみに、水軍・空軍・地上軍をまとめて「陸軍(Army)」と呼ぶ場合もある。
偵察局(Scout): 惑星探査や住民との渉外、航路情報の調査、恒星間通信網の確保など、その仕事は多岐に渡る。厳密には軍隊ではない。

【その他の経歴部門】
工作員(Agent):政府や企業の敵となる者の情報収集などを担う、俗に言うスパイ。
運動選手(Athlete):何らかのスポーツで成功を収めた者。
官僚(Bureaucrat):政府機関の下で働く者。書類操作に強い。
外交官(Diplomat):政府を代表して他勢力との外交・経済交渉を担当する者。
芸能人(Entertainer):自らの一芸で有名人の地位を得た者。
狩猟者(Hunter):野生動物の捕獲・捕殺を生業とする者。
傭兵(Mercenary):軍事行動の為に金銭で雇われる、もしくはそういった組織に所属する者。
商船(Merchant):恒星間交易を担う個人/企業に従事する者。
貴族(Noble):政治的地位を持つ社会の特権階級に属する者、もしくはその子弟。
医師(Physician):医学を学び、研修を受け、病気や怪我に苦しむ人々を助ける免許を得た者。
海賊(Pirate):恒星間商船などを襲撃して物資を強奪する者。
科学者(Scientist):ある分野の科学に精通した専門家。
技術者(Technician):機械や産業の分野で技術を身につけた者。

未開人(Barbarian):工業化文明以前の「原始的な」文化で生きてきた者。
宇宙鉱夫(Belter):小惑星帯に眠る鉱脈(と報酬)を求めて、腕一本で宇宙を渡り歩く(もしくは代々定住している)者。
入植者(Colonist):開発途上の植民星で生きる者。
放浪者(Drifter):一所に定住せずに宇宙各地を転々と渡り歩く者。
悪党(Rogue):違法な手段で生計を立てている者。


 これだけあると選ぶのが大変そうですが、まずキャラクターの能力値で向き不向きを判断し(実社会と同じで、向いてない仕事は長続きしないのです)、どういった技能が欲しいかで絞り込んでいくと良いでしょう。少なくとも軍隊系経歴か商船を選んでおけばハズレはありません(他の部門は一定方向に「尖った」キャラクターが出来やすい)。

 それぞれの経歴部門には、応募(Qualifying)するための条件が課されています。「Int 4+」と書かれていれば、合格には「知力DMを加味して2Dで4以上を出す」必要があります。成功すれば良いのですが、仮に失敗して不合格となってしまった場合は2つの道が残されています。
 まず「徴募(Draft)」を受ける場合。この場合は1Dの結果次第で定められた軍隊に放り込まれます。もう一つは徴募を受けずに「放浪者」となる場合。こちらは4年間浪人した後に希望する職場に再度挑戦するのですが、応募の判定にDM-2が課されるという茨の道です。
(※『Cepheus Engine』では未開人や貴族の「道に進む」制約が存在しないのですが、これらは安易に許可すると場を荒らされる恐れのある経歴なので注意してください。未開人には「出身星が「低技術」であること」、貴族には「社会身分度がA+であること」を最低付加するべきで、更に、この条件を満たしていれば応募は自動成功させるべきです。また、放浪者への応募が自動成功しないのも謎です)

 好むと好まざるとに関わらず、進路は決まりました。次回は年齢を重ねて技能を習得していくことについて。旅立つまでにはまだまだ時間がかかりますよ(笑)。

『Cepheus Engine』で始めるロールプレイング・ゲーム入門(2)

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 前回は、これから自分が働いていく経歴部門を選択するところまででした。応募に失敗して放浪者になってしまった? その選択を否定はしませんが、正直言ってキャラメイクという観点からは作り直した方が早い気がします(苦笑)。

 さて、『Cepheus Engine』でのキャラクター作成は「期(term)」という単位で管理されます。1期は4年間であり、この1期ごとにキャラクターは技能を習得し、雇用契約を更新していくことになります。


■基礎訓練(Basic training)
 1期目を迎えた新人キャラクターは、まず研修で基礎訓練を受けます。これにより自分の経歴部門の「部門技能(Service Skills)」の欄に書かれている6つの技能を、全て「0レベルで」取得できます。
 ここで注意が必要なのは、前回の「生い立ちによる技能(Background Skills)」で取得した技能と被ってしまった場合です。『Cepheus Engine』では裁定が出ていませんが、大元となったマングース版『トラベラー』では「0に0を足しても0」という解釈がなされています。技能1個分損した気分になるわけですが、これも人生です(笑)。

 また、(ルールには明記されていませんが)この時点でキャラクターの階級(Ranks)は「第0段階」となります。『Cepheus Engine』では特定の階級に達したキャラクターは1レベルの特典技能が貰えるのですが、この「第0段階」でも技能が…なぜか放浪者だけ貰えないのは不思議ですが(誤植ともペナルティとも判断がつかない)、とにかく貰えます。前述の0レベル技能と被った場合ですが、今回貰えるのは1レベルですので0+1=1。その技能が成長しただけのことです。
 これ以降全てのことに言えるのですが、その技能を持ってないのに「1レベル技能を貰った」場合は、0レベルを経ずにいきなり1レベルとなることを間違えないようにしてください。そして、その技能を既に持っているなら足し算です。


■生き残り(Survival)
 さて、ここでいきなりではありますが、キャラクターに試練が訪れます。1期4年を無事に切り抜けられたかを判定するのです。自分の部門の「生存(Survival)」の欄に書かれている能力値と数値でサイコロを振ります。前回にも書いた通り、「Dex 5+」なら「敏捷力DMを加味して2Dで5以上を出すと成功」という意味になります。

 成功したのなら問題ありません、次の項目に進みます。逆に失敗なら……死にます。キャラクターは勤務中に事故死したか、誰かに殺されたか、1ゾロを出してパラグラフ14に行ってしまったか(この生存判定のみ2Dで2が出たら自動失敗します)、とにかく死にました。人生とは無情なものですね。最初からキャラクターを作り直してください。

 ……あんまりだ? まあまあ落ち着いて。これはゲームなのでスリルがいるだろう、と考えたのかもしれません。また、強力過ぎるキャラクターが世に放たれるのを恐れたのかもしれません。
 安心してください。さすがに即死はきつい、という人向けに、救済策が用意されています。選択ルールなので採用は事前にレフリーと協議しておくべきですが、判定に失敗した場合は「2年を経過させて生き残り失敗表(Survival Mishaps)に回る」ようにすることができます。1期4年を勤め上げられなかったので中途退職という形になりますが、死ぬよりはマシでしょう(汗)。ただしこの失敗表、ランダムな結果次第で「重傷を負う(高額治療費が借金となる場合あり)」「不名誉除隊かつ懲役4年の実刑」などだいたいろくなことがありませんけど、繰り返しになりますが死ぬよりはマシでしょう(大汗)。


■任官と昇進(Commission and Advancement)
 無事生き残ったキャラクターが次に受ける試練は「昇進」です。階級が上がれば上がるほど後で美味しい思いができますし、旅に出た後でもロールプレイの面で役に立つことがあるかもしれません。
 階級が第0段階のキャラクターはまず「任官(Commission)」で階級を得なくてはなりません(軍隊なら士官昇進、企業なら管理職登用といったところでしょうか)。自分の部門の「任官」欄に書かれている判定を行い、成功すれば無事に「第1段階(Rank 1)」に書かれている階級を得ます。例えば海兵隊(Marine)なら「兵士(Trooper)」から「中尉(Lieutenant)」となるわけです。昇進が急過ぎる? これはゲームなので抽象化されていると思ってください(汗)。
 当然ながら、判定に失敗したのなら階級はそのままです。

 階級が第1段階以降のキャラクターは、「任官」ではなく「昇進(Advancement)」の欄を使って判定を行い、成功すれば同じように1段階階級が上がります。進んだ先の階級欄に技能が書かれている場合は、昇進特典としてその技能も得られます。

 任官・昇進の判定ができるのは1期に1回だけです(あまり意味はありませんが判定は「任意」です)。徴募されたキャラクターは第1期目に任官を試みることができません。また、任官したのと同じ期に昇進を試みることは「できる」とルールに書かれています。

 あれ、うちの部門には階級が書かれてないぞ? と思った方。目の錯覚ではありません。世の中には昇進とは無縁なフラットな社会もあるのです(笑)。その場合はここでは何も起こりません、次の項目に向かいましょう。

 わざわざ任官と昇進で分けてあるのは煩雑な印象を受けますが、「任官と昇進で難易度や求められる能力値が異なる」ことで経歴部門ごとの個性が表現されています(ただし旧来の作品よりは難易度が甘く調整されています。「任官試験で10+」の絶望的な壁はもうありません)。


■技能の取得(Skills and Training)
 ここまで来てやっと技能を取れます。各部門から習得できる技能は、大きく4つに分けられています。

 自己開発(Personal Development)
 部門技能(Service Skills)
 専門課程(Specialist)
 上級教育(Adv Education)

 「自己開発」はその名の通り、自分を鍛えて能力値を伸ばせます(場合によっては〈白兵戦〉などの技能も得られます)。「部門技能」は基礎訓練でも得られましたが、その部門ならではの技能が詰まっています。「専門課程」は更に専門的な、「上級教育」は教育度8+のキャラクターのみが選択できる高度な技能を得られます。

 プレイヤーはこの3項目(教育度8+なら4項目)の中から1つを選び、1Dを振って出た目に応じた技能を1レベル受け取ります。ある程度の絞り込みはできますが、狙った技能を取れるわけではないのです。低い能力値を補おうと鍛錬に明け暮れた結果、〈賭博(Gambling)〉の技能が伸びていった者を私は知っています(笑)。

 1期につき、技能を得られる機会は基本的に1回です。ただし、その期で任官や昇進に成功しているのならもう1回ずつ判定を行えます。また、階級のない部門のキャラクターは各期で2回ずつ技能習得を行えます。

 技能欄の中には、複数の技能を内包した「選択技能(Cascade Skills)」に分類される技能が書かれている場合もあります。この技能が当たった場合は、直ちにその技能集団に属する技能1つに絞り込んで確定させてください。同じ選択技能が当たったからといって毎回同じ技能を取る必要はありませんし、逆に同じ技能を取っても構いません。
 技能の詳細については、回を改めて解説します。


■加齢(Aging)
 ここで1期4年が終了です。勤務お疲れ様でした。便宜上、このタイミングでキャラクターは4歳ほど歳を取ります。
 もし年齢が34歳(第4期終了時)以上になっていたら、あなたのキャラクターには老いが忍び寄ってきます(汗)。2Dを振って、DMとして現在の期数を引きます(つまり最低でもDM-4です)。その結果が正の数なら何の問題もありませんが、負の数なら「年齢効果表(Aging Table)」を参照して書かれている(主に肉体系の)能力値が減ります。
 これにより不幸にして能力値が0になってしまう場合、能力値を1に戻す代わりに高額な医療費を請求される上に、これに続く再応募判定に自動失敗します。まあ死ぬよりはマシです(笑)。


■再応募と退職(Reenlistment and Retirement)
 キャラクターが続く4年間を同じ職場で過ごすためには、ここで「再応募(Reenlistment)」の判定に成功しなくてはなりません。能力値によるDMは書かれていないので、単純に2Dで記載されている数字以上を出さなくては退職に追い込まれます。また、この判定で12を出すと強制再雇用(上から懇願されて職場に残るやつです)となるため、自発的な退職を決めていても判定だけはやらなくてはなりません。
 自分から退職するメリットがあるのか? と聞かれそうですが、生存判定に失敗すれば全てが水の泡になることを思い出してください。ある程度技能を得たキャラクターを確実に確保するのか、更なる成長を求めて賭けに出るのか、全てはあなた次第です。
 また、7期同じ職場にいたキャラクターには肩叩き(退職勧告)が始まります(汗)。8期目以降の継続雇用を望むなら、再応募判定で12を出し続けるしかありません(46歳定年制の社会というより、ゲームバランスの問題でしょう。ついでに言えば、この「7期」という数字はレフリーが短縮/延長しても構わないという選択ルールもあります)。

 再応募に成功しましたか? ならば新たな4年間が始まります。「生き残り」の項目まで戻って繰り返してください。


■退職恩典(Mustering Out Benefits)
 自ら望んでかそうでないかはともかく、ここにたどり着いたあなたはもう職場に縛られない自由の身です(※元となったルールの名残りで退職後に他の部門への転職が可能なように読めなくもないのですが、ややこしくなるので考えないことにします)。宇宙に旅立つ日までもう少しですが、それには先立つものが必要です。職場は、あなたのこれまでの働きに見合った報奨を出してくれるでしょうか?

 退職恩典には、「物品恩典表(Material Benefits)」と「金銭恩典表(Cash Benefits)」の2種類があります。この2つを合わせて「勤め上げられた期数」回だけ1Dを振って、出た目に書かれた物を受け取れます(4期勤めたなら2回と2回にするか3回と1回にするかはプレイヤーの自由ということです)。更に、退職時の階級が第4段階に達していたなら1回、第5段階なら2回、第6段階なら3回多く振ることができます(※Traveller SRDからは回数が減らされています)。ただし、負傷などで1期を満了せずに退職した場合はその期は数に入りませんし、失敗表で「恩典は没収される」の結果が出ている場合は振ることすらできません。

 「金銭恩典表」は〈賭博〉技能を持っているなら、「物品恩典表」は階級が5段階目以上なら双方ともDM+1を得られるため、表の欄は1から7まで用意されています。
 「金銭恩典表」の単位は「クレジット(Credit)」で、主に略して「Cr.」と表記されます。1クレジット=1ドル≒100円と考えると目安になるでしょう。なお、「金銭恩典表」で1Dを振れるのは最大3回となっています。
 「物品恩典表」については、以下の物が部門と運と階級次第で貰えます。

偵察艦(Courier Vessel):
偵察局より100トン伝令偵察艦が貸与される。「船主」が自由に乗り回して良いし、各地の偵察局基地で補修や補給を受けられる(その他の維持費はキャラクター持ち)。ただしあくまで貸与なので、戦時など予備役局員に招集をかける場合にはそれに応じる義務があるし、当然ながら廃棄も売却も譲渡もできない。
エクスプローラー協会(Explorers' Society):
旅行者を援助する協会の会員権を得る。この協会の一員となるのは名誉なことであり、恩典を経ずに入会するには入会金100万クレジット(と生涯一度きりの入会審査判定)を要するほどである。会員になると協会運営の施設(宇宙港内の宿泊所や専用リゾート)への出入りが可能となり、特等チケットの配当を2ヶ月に1枚受けられる。会員権の売却や譲渡はできない。
旅客チケット(Passage):
特等、一等、二等のいずれかの、恩典表で指定されたチケットを1枚受け取る(1枚なので当然片道切符である)。自分で使用してもいいし、売却・譲渡も自由。
研究船(Research Vessel):
何処の財団か企業か裕福な個人から200トン研究船の提供を受けた。維持費はキャラクター持ちだが所有権は移動していないので、勝手に譲渡・売却することはできない。
船株(Ship Shares):
後に宇宙船を購入する際に、船株1つにつき200万クレジット引きで購入できる。売却はできないかもしれない(※高額なのでレフリーは認めるべきではないでしょう)。
武器(Weapon):
任意の武器1つ(※といっても一般市場で出回っている物に限るべき)を得る。重複した場合、2回目からは代わりに武器技能を1レベル上昇させても良い。
能力値+1:
恩典表で指定された能力値が1増える。

(※古参ゲーマーの方には驚きかもしれませんが、なんと『Cepheus Engine』ではキャラクター作成段階で自由貿易商船を受け取れなくなりました(いきなり売却されるのを恐れたのでしょうか? ならばR型を渡せばいいのに…)。船株をかき集めて40年ローンを組んで入手するか、レフリーという名の悪魔の誘いを待ちましょう)


 ここまで来たら完成です。後は名前や性別など、キャラクターを肉付けしていきましょう(最初に決めないのは無駄になることが多いからです(笑))。作成の過程でどのような「人生」を送ってきたかを反映させるのもいいでしょう。「こいつは生存判定を3回続けてギリギリで切り抜けたから、神の存在を信じているかもしれないな」とか「なかなか昇進できなかったコンプレックスで、権力者に対してはつい反抗してしまうようにしよう」とか…。
 専用のキャラクターシートがあるのでそれに書き込んでも良いのですが、簡潔に「標準キャラクター書式(Universal Character Format)」に従ってノート等に清書してもさほど問題はありません。
(※ここで紹介するのは『Cepheus Engine』本来の形式とは微妙に異なります)

[名前][元職業と階級][年齢][期数][能力値(UPP)][所持金]
〈技能-レベル〉〈技能…
[キャラクターが人類以外の場合は特記事項]
[所持品]

 ちなみに「UPP(Universal Personality Profile)」というのは、キャラクターの能力値を筋力・敏捷力・耐久力・知力・教育度・社会身分度の順に6桁の擬似16進数で並べたものです。ひと目で能力値を把握できるため、この表記に慣れておきましょう。

【例】
ブルース・アヤラ 元芸能人 38歳 5期 786A9A Cr.70000
〈社交-3〉〈コンピュータ-2〉〈接触-2〉〈運動-1〉〈管理-1〉〈法律-1〉〈贈賄-1〉〈賭博-0〉〈反重力機器-0〉〈言語学-0〉〈交渉-0〉
特等チケット 2枚

 正直言ってわかれば良いので、技能をレベル順に整列させなくても別にいいと思います。末尾に出身星系を書き込むのもいいでしょう(個人的には年齢と期数の位置を入れ替えたいです)。リプレイやシナリオを公表するような時には一定の書式を守った方が良いですが。

 キャラクター作成ルールには他にも、作成中に負傷した際の(軍隊の方が手厚い)医療給付(Medical Care)や、高額な抗老化薬(Anagathics)による老化抑制、(なぜか選択ルール扱いになった)勤続5期以上で貰える退職金(Retirement Pay)など、細かなルールはありますが割愛します。


 では、実際にキャラクターを作ってみましょう。2Dを6回振って,UPPは688C89となったので、自分の資質を考慮して商船会社を目指してみることにします(商船は知力で栄達していく業界です)。
 その前に出身星を決めます。とりあえず「高治安・高人口・高技術・肥沃」に分類されている星系を出身とすることにしたので、選べるのは〈白兵戦-0〉〈交渉-0〉〈コンピュータ-0〉〈動物-0〉の中から2つ。一方、彼の教育度8なのでDMは0、つまり基礎教育の段階で選べる技能数は3+0=3個となります。
 そこで出身星からは〈交渉-0〉〈コンピュータ-0〉を選び、もう1つは基礎教育技能表の中から〈言語学-0〉を選択します。もしかしたら将来異星種族と片言でも商談をする機会があるかもしれないからです。

 18歳になったので、予定通り商船を目指します。商船への応募条件は「Int 4+」なので、知力によるDM+2を得れば失敗するはずがありません(出目が2だからと言って失敗するルールはないので)。悠々と商船への就職を決めます。
 船員(Crewman)となった彼は、まず見習いとして接客技術を覚えました(階級0の特典で〈スチュワード-1〉を得た)。また、基礎訓練によって〈通信機-0〉〈エンジニアリング-0〉〈銃器戦闘-0〉〈白兵戦-0〉〈ブローカー-0〉〈輸送機器-0〉と、一通りのことを叩き込まれました。また、この中で〈銃器戦闘〉〈白兵戦〉〈輸送機器〉は選択技能なので、それぞれ〈散弾銃〉〈生得武器〉〈反重力機器〉に特定しました。

【1期目】
 生存判定の条件は「Int 5+」と書いてありました。2Dの出目は11だったので、知力によるDM+2を加えるまでもなく成功します。「Int 5+」の任官試験も2Dで7を出してパス。船員から甲板部員(Deck Cadet)に昇進しますが、トントン拍子に四等航宙士(Fourth Officer)にも昇進します(「Int 5+」の昇進判定も10で成功)。
 任官と昇進に成功したため、この期では3つの技能を得られます。「自己開発」を選んで1Dを2回振って1と5だったので「筋力+1」と〈白兵戦〉(を〈斬撃武器-1〉に特化)、「部門技能」を選んで5が出たので〈ブローカー-1〉を得ます。
 年齢は22歳になりました。再応募の判定「4+」には7で成功したので、次の期も商船で働くことになります。

【2期目】
 生存判定には3を出してギリギリ成功。海賊にでも遭遇したのでしょう。昇進試験には12を出して余裕で成功したので三等航宙士(Third Officer)に昇進。同時に特典で〈パイロット-1〉を得ます。
 この期も昇進したので得られる技能は2個。「自己開発」で3を、「部門技能」を選んで4が出たので「耐久力+1」と〈白兵戦〉(を〈生得武器〉に特化して0レベルを1レベルに上昇)を得ました。
 年齢は26歳になり、再応募には6で成功しました。

【3期目】
 生存判定は5を出して無事成功。昇進判定も8だったので二等航宙士(Second
Officer)に昇進します。
 この期も昇進したので得られる技能は2個。せっかくの教育度8を活かすべく、今回は2回とも「上級教育」を選択しました。幸か不幸か2回とも5という結果だったので、〈科学〉を2つ分得ます。〈科学〉は選択技能なので〈宇宙科学-1〉と〈社会科学-1〉を選択し、科学への理解を深めました。
 年齢は30歳になり、再応募は10で成功しました。

【4期目】
 生存判定は7を出して成功。昇進試験にも12を出して楽々通過。一等航宙士(First Officer)になります。
 昇進したので得られる技能は2個。「自己開発」で5を、「部門技能」で4を出したため、またも〈白兵戦〉が2つ。商人のはずなのにどんどん荒事に強くなる自分に困惑しながらも、既に持っている〈生得武器〉と〈斬撃武器〉をそれぞれ2レベルに成長させます。
 年齢は34歳になりました。とうとう彼も老いを感じる歳になったのです。この期は4を出したので「出目4-4期=0」で年齢効果表を見ると「肉体系能力値1つが1減る」とあります。彼は敏捷力を1減らすことにしました。再応募は7で成功です。

【5期目】
 生存判定は7を出して成功。昇進判定も10を出して成功し、とうとう船長(Captain)まで上り詰めます。
 昇進したので得られる技能は2個。「専門課程」で5を、「上級教育」で3を出し、〈航法-1〉と〈医学-1〉を得ます。
 年齢は38歳になりました。老化の判定では5を出してしまってDM-5によって結果は0、またも「肉体系能力値1つが1減る」です。今度は耐久力を減らすことにしました。
 さらに、彼には転職する気はなかったのですが、経営状態が悪かったのか、独り立ちの時期と判断されたのか、再応募は受け入れられませんでした(判定は3で失敗)。

【退職恩典】
 勤務期数が5、階級が6なので、8回恩典表を振ることができます。ただし「金銭恩典表」は3回までしか振れないので、「金銭」を3回、「物品」を5回振ることにします。
 「金銭」では1Dを3回振って結果は6、4、4。合計90000クレジットを得ます。
 「物品」では1Dを5回振って結果は4、6、6、3、1。階級が6なので全てにDM+1を得て表を参照すると、「船株1D枚」「エクスプローラー協会」「エクスプローラー協会」「特等チケット」「教育度+1」となりました。「エクスプローラー協会」は重複しても無駄になるだけなので1回分は無かったことになり、船株については改めて1Dを振って2枚得ました。

【まとめ】
 少し考えて、このキャラクターを「アレグザンダー・ラセルス・ジェミスン」という男性にしました。性格は実際にプレイしながら詰めていくとして、頭が切れる上に、見た目によらず格闘術に通じている点は個性として強調していくことにします。

アレグザンダー・ラセルス・ジェミスン 元商船船長 38歳 5期 778C99 Cr.90000
〈生得武器-2〉〈斬撃武器-2〉〈スチュワード-1〉〈ブローカー-1〉〈パイロット-1〉〈宇宙科学-1〉〈社会科学-1〉〈航法-1〉〈医学-1〉〈通信機-0〉〈エンジニアリング-0〉〈散弾銃-0〉〈反重力機器-0〉〈交渉-0〉〈コンピュータ-0〉〈言語学-0〉
船株 2枚、エクスプローラー協会員、特等チケット 1枚

 宇宙船を操るのに必要な技能を一通り持っているジェミスンは、少なくとも宇宙で食べていくのに困ることはないでしょう。荒っぽい酒場に出入りしても自分の身を守れるだけの技量は持っていますし、万が一の際の応急手当ても知っています。商人としては、交渉能力は人並み程度で、儲けの先読みをする眼力もそこまで優れているとは言えないのが気になりますが…。
 でもやはり、どうせなら自分の恒星間商船を持って自由に交易をしていきたいところです。共に船に乗り込んでくれるような仲間や、船に出資をしてくれるパトロンを探さなくてはなりません。ジェミスンの人生は、まだこれからです。


 ということで、『Cepheus Engine』のキャラクター作成の「ままならなさ」を理解していただけたでしょうか?(笑) とはいえ、望み通りの人生なんてめったに成し得ませんし、「普通の人の平凡な人生」には似合いません。逆にサイコロに翻弄されることで、そのキャラクターの「物語」が紡がれていく楽しさがあります。かつて少なからぬ人々が夜通しキャラクターを作り続けたという故事も頷けます。
 技能習得がサイコロ頼みである以上、1つに集中して技能レベルが上がっていく可能性は低いです(今回はやろうと思えば〈生得武器-4〉とかできましたけど)。目安としては、1レベルで「その技能で賃金が貰える水準」、2レベルで「その道のプロ」、4レベルで「なかなかいない達人」ぐらいの感覚となります。〈医学〉技能で例えるなら、1レベルで研修医、2レベルで開業医、4レベルでスーパードクター、といったところでしょうか。

 次回は、それぞれの技能の詳細について解説したいと思います。

『Cepheus Engine』で始めるロールプレイング・ゲーム入門(3)

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 今回はキャラクターが得ていくであろう技能について解説していきます。
 前回にも書いた通り、作成時に選択技能(Cascade Skills)を引き当てた際には即座にその技能集団に属する技能1つに絞り込んで確定させないとなりません。ここでは「→選択(…」と書かれている技能がそれで、括弧内の技能がその選択技能に属する技能となります。
 なお、技能は大まかに3つに分類はされていますが、そこまで意味があるようには思いません(大汗)。


■基本技能(Basic Skills)
管理 Admin
 この技能の持ち主は官僚機構というものがどういったものかを学んでいて、その対処法に通じています。官僚との「対話」や、書類作業などに用いられます。また、仕事上の部下を文字通り「管理」する際にも使えます。
(※官僚官僚と言っていますが、企業社会も一種の官僚機構です)

法律 Advocate
 恒星間社会で共通的な各種法規に通じています。各星系や地方独特の法律までは把握できません(※レフリーの判断で高めの難易度で判定させるぐらいはいいと思います)。

動物 Animals
→選択(牧畜、騎乗、生存、獣医学)
 動物に関する様々な技量を身につけています。〈生存(Survival)〉だけは特殊で、自然環境の中で生き残るために、獣を罠を使って狩り、新鮮な水を確保し、火を起こし、危険な生態系を回避するための技能です。
(※Traveller SRDと比べて、動物を飼い慣らす〈調教〉が削除されました。判定の内容に応じて〈牧畜〉や〈騎乗〉で判定するといいでしょう)

運動 Athletics
 身体を使って活動する際に用いられます。登山や曲芸や投擲、長距離走や重量挙げがこの技能の範疇です。また、翼を持つ異星種族が飛行する際にもこの技能による判定が必要となります。

バトルドレス Battle Dress
 戦場の花形、先端技術で作られた強化装甲服「バトルドレス」を着るための技能です。また、強化外骨格(exoskeletons)と呼ばれる機械類の操縦技能もこれです。

贈賄 Bribery
 法律などを回避するために、金品を相手に贈ることで事態の好転を図る技能です。実際に相手に賄賂を贈る際に判定する他に、相手がどれ程度の金品を求めているかを推し量るのにも使えます。

ブローカー Broker
 商品の価値を正確に把握し、買い手や売り手を手際良く見つけるための技能です。

社交 Carousing
 社交界など、酒席での作法や話術に通じています(※転じて、上流階級の人相手に交渉事をする際に用いる技能と解釈してもいいでしょう)。

通信機 Comms
 通信機や探知機といった電波を発する機械の操作や補修に通じています。また、暗号通信の発信元の解析や、ロボットの遠隔操縦などもこの技能です。ただし「携帯電話で仲間と連絡を取る」ぐらいなら無技能でも可能です。

コンピュータ Computer
 コンピュータの操作、プログラミングなどに通じています。0レベルもあればデータの検索やメッセージの送受信ぐらいは判定無しで行えますが、レベルが高くなればネットワークに侵入して秘匿データを盗み見ることも(判定次第で)可能となります。

爆破工作 Demolitions
 爆発物の作成、設置、解体などの技術を身につけています。

電子技術 Electronics
 電子装置の設置、運用、細工、保全修理などに通じています。

エンジニアリング Engineering
 宇宙船の通常ドライブ、ジャンプドライブ、パワープラントの操作、補修に通じています。宇宙船に機関士(Engineer)として勤務するには必須の技能です。

賭博 Gambling
 運が絡む賭け事遊びの「勝ち方」を知っています。決して「一か八かの攻撃」のようなことで有利に働くことはありません(※ですから和訳を〈ギャンブル〉から〈賭博〉に変えました)。また、イカサマ賭博を見抜く際にも使えるでしょう。

反重力技術 Gravitics
 反重力を発生させる機器の設置、運用、補修などに通じています。

万能 Jack-of-All-Trades
 あらゆる物事を聞きかじっている「器用貧乏(Jack-of-All-Trades)」さを表します。他の技能とは異なり、この〈万能〉技能は無技能行動のペナルティであるDM-3をレベル分だけ軽減させるため「のみ」に用いられます(そこまで取れる可能性は低いとはいえ、仮に4レベル取ったとしても軽減されるDMが3しかないので無駄になります。つまり〈万能-3〉の持ち主はあらゆる技能を0レベルで持っているのと同じですが、それ以上の存在には決してなれないのです)。

リーダー Leadership
 この技能の持ち主は集団を統率し、行動を促し、士気を鼓舞する術を知っています。
 集団が一つの目標に向かって共同であたっている際に、指導者は〈リーダー〉の判定を行い、目標値8との差が正の数ならそれと同じ「ポイント」を得ます。集団の構成員は判定の際にそのポイントを取り崩してプラスDMとして得ることができます(※得られるDMは判定に使用する技能レベルまで、等の制限は必要かと思います)。また、〈リーダー〉判定によって戦闘時に他者の行動順を一時的に引き上げることができます。

言語学 Linguistics
 母語以外の言語に通じています。〈言語学-0〉のキャラクターは大抵の言語で挨拶や簡単な会話が出来ることを意味します。
(※つまりこの技能は他言語を「広く浅く」知っていると解釈すべきでしょう。ゲーム的にはその方が便利かもしれませんが、一つの言語を選択して「狭く深く」習熟するハウスルールを設けてもいいでしょう)

接触 Liaison
 この技能を持つキャラクターは、様々な社会階層や異文化などに溶け込み、適切な応答や振る舞いができるように訓練されています。
(※『Cepheus Engine』では相手の態度を和らげる技能として捉えられている感じを受けます。従来通りの「初対面の相手と対話する」ための技能として使えるかどうかはレフリーの判断次第です)

機械技術 Mechanics
 機械類の設置、運用、細工、保全修理などに通じています。
(※機械式の錠前を開ける技能もこれになったようです)

医学 Medicine
 医療に関する正しい知識を身につけ、適切な訓練を受けています。応急手当てから長期入院まで、負傷や病気に対する治療法を見つけ、指示することができます。宇宙船に船医(Medic)として勤務するには必須の技能です。
(※個人的には単なる応急手当てまで〈医学〉技能を求めるのは大袈裟過ぎると思います。応急手当てに関してのみ〈生存〉での代用を認めてもいいのではないでしょうか)

航法 Navigation
 この技能の持ち主は、通常の宇宙空間やジャンプ空間で目的地に正しく宇宙船を導く訓練を受けています。宇宙船のジャンプ計画(Jump Plot)を立てるのに必要であり、航法士(Navigator)として勤務するには必須の技能です(ただし技能を持つパイロットが兼任したり、ソフトウェアで代行させる場合があります)。
(※海洋を航行する際に使えるかどうかは『Cepheus Engine』では出来ない雰囲気です。〈船舶〉系の技能で判定すればいいでしょう)

パイロット Piloting
 惑星間および恒星間宇宙船の操縦訓練を受けています(小艇、救命艇、宇宙船、大型艦の区別はありません)。宇宙船に操縦士(Pilot)として勤務するには必須の技能です。

偵察 Recon
 敵を先に発見し、逆に敵からは見つからない訓練を受けています。また、危険もしくは有用な地形の察知もできます。
(※Traveller SRDと比べて隠密行動に関する技能が削除されたため、この〈偵察〉で代用すると思われます)

科学 Science
→選択(生命科学、自然科学、社会科学、宇宙科学)
 それぞれ特定の科学知識に通じています。各技能の適用範囲は以下の学問です。
 〈生命科学〉:生化学、生物学、植物学、サイバー科学、遺伝子工学、生理学、超能力学
 〈自然科学〉:化学、電子工学、地質学、物理学
 〈社会科学〉:考古学、経済学、歴史学、哲学、心理学、知的生命学
 〈宇宙科学〉:天文学、宇宙論、惑星学、異星環境学

スチュワード Steward
 貴族/富裕層の者や、特等船客に対する接客給仕の訓練を受けています。家事・炊事といったものから、執事や秘書に求められるような技術も全て内包しています。宇宙船に接客係(Steward)として勤務するには必須の技能です(他にホテルマンや、メイドとして勤めるのにも使えるでしょう)。省力化が進んだ宇宙船ではロボット化されていがちな職種ではありますが、一人いるだけで少なくとも乗組員の食生活が豊かになるのは間違いありません。

交渉 Streetwise
 この技能の持ち主は都市というものの構造と本質を熟知しており、その中で生き抜く術を知っています。どこに行けば情報を得られるか、どうすれば見知らぬ相手を怒らせずに話を進められるか、どういった者が限りなく非合法に近い物品を取り扱っているのかを把握しているのです。
(※このように、本来は〈街頭の知恵〉であって〈交渉〉と訳すには不的確なのですが、技能の使い道と、言葉としての通りの良さを考慮してあえて意訳どころではない訳を採用しています)

戦術 Tactics
 戦闘を有利に、効率的に進める手腕を持っています。小は分隊規模(のボードゲーム)の地上戦から、大は宇宙戦艦が何十隻も参加するような大会戦まで、全てこの技能で扱います。〈戦術〉技能があると、戦闘の際に敵方より先手を取れる可能性が上がります。
(※Traveller SRDでは地上戦と宇宙戦で分けられていた技能が統合された影響で、適用範囲が非常に広くなっています。技能の持ち主の出身部門や設定で適用範囲を絞るといいかもしれません)

無重力環境 Zero-G
 無重力や微重力、自由落下中の状況で平衡感覚を失わずに行動ができます。〈無重力環境〉の適用対象となる環境では、一時的に技能レベルはその者が持つ〈無重力環境〉技能レベル以下に制限されます(〈ピストル-2〉を持っていても〈無重力環境-1〉なら〈ピストル-1〉となりますが、〈生得武器-0〉が1レベルになるわけではありません)。また、宇宙服(Vacc Suit)や戦闘アーマー(Combat Armor)を素早く的確に着装するためにもこの技能が使われます。
(※宇宙服を着用するには必須の技能扱いとなっていますが、「着させてもらう」なら別に無技能でもいいんじゃないかと思います)
(※無重力状態で制限される技能は、戦闘や運動系は当然として、修理系や対話系技能まで含めていいかは状況次第だと思います。手元が狂ったり、適切な作法が出来ないと判断できれば制限してしまっていいでしょう)


■武器技能(Weapon Skills)
射撃戦闘 Gun Combat
→選択(弓術、エネルギー・ピストル、エネルギー・ライフル、散弾銃、ピストル、ライフル)
 それぞれの武器カテゴリに属する射撃武器に習熟します(投擲は〈運動〉扱いです)。弓術は言うまでもなく弓矢、エネルギーと付く武器は光線(Laser)、それ以外は弾薬で攻撃する射撃武器です。ただし、それぞれの武器がどの技能に属するかは今ひとつ不明確です(特に短機関銃(Submachinegun)が〈ピストル〉なのか〈ライフル〉なのか…? 個人戦闘を解説する回までの宿題にしておきます)

砲術 Gunnery
→選択(砲門、重火器、防護幕、主砲、砲塔)
 この選択技能では基本的に地面や車両、宇宙船に固定されて発砲する「砲」を取り扱いますが、個人がかろうじて携行できる重火器もこの下に置かれています。〈重火器〉はロケットランチャーやプラズマガンから車載砲まで、〈砲門〉は宇宙船のレーザーやミサイルといった砲、〈主砲〉は戦艦などに搭載される粒子加速砲など大火力の砲、〈砲塔〉は対宇宙戦闘機用の銃架砲塔が範囲です。〈防護幕〉は宇宙船の防御兵装を扱います。〈砲門〉や〈砲塔〉技能は宇宙船の砲手(Gunner)として勤務するには必須ですが、活躍できるかはシナリオ次第です(基本的に、一般市民の生活とは掛け離れた〈砲術〉系技能は持て余す可能性が高いです)。

白兵戦 Melee Combat
→選択(殴打武器、生得武器、刺突武器、斬撃武器)
 それぞれの武器カテゴリに属する接近戦用武器に習熟します。〈生得武器〉とは、生命体が元々備えている物で戦うことで、人類なら拳や蹴りなどの格闘術、爪や牙を持つ生命体ならそれが該当します。


■操縦技能(Transport Skills)
輸送機器 Vehicle
→選択(以下に書かれた技能は全てこの〈輸送機器〉技能の選択の対象です)。
 〈輸送機器〉に属する技能では、操縦だけでなく日常的な点検整備も行えます(修理は〈機械技術〉や〈反重力技術〉で行います)。

航空機 Aircraft
→選択(反重力車両、回転翼機、固定翼機)

反重力車両 Grav Vehicle
 エアラフトなど、反重力によって浮力を得る輸送機器を操縦する技能です(例外として、反重力ベルトは〈無重力環境〉で操ります)。

回転翼機 Rotor Aircraft
 ヘリコプターやホバークラフトといった、翼を回転させて浮力を得る輸送機器を操縦する技能です。

固定翼機 Winged Aircraft
 一般的な「飛行機」という単語でイメージされる、固定された翼で浮力を得る輸送機器を操縦する技能です。

採掘機 Mole
 地面の下をドリルやプラズマで掘りながら進む輸送機器を操縦する技能です。

大型車両 Tracked Vehicle
 トラックから戦車まで、大型の車輪型機器を運転する技能です。

船舶 Watercraft
→選択(小型船、外航船、帆船、潜水艦)
(※オールで漕ぐようなボートを操る技能が抜け落ちている気がします)

小型船 Motorboats
 近海や河川を航行する小型船舶を操る技能です(※英語表記が示すように「モーターのある」船舶が対象のようです)。

外航船 Ocean Ships
 大洋を渡るような大型船舶を操る技能です。

帆船 Sailing Ships
 帆を張って、風力によって航行する船舶を操る技能です。

潜水艦 Submarine
 水面下を航行する船舶を操る技能です。

小型車両 Wheeled Vehicle
 地上車や二輪バイクなど、小型の車輪型機器を運転する技能です。


 次に、これらの技能でどのように判定(Skill Checks)するかを解説していきます。
 『Cepheus Engine』における判定は、簡潔に言えば「あらゆるDMを加味して2Dで8+を出すか、そうでないか」で決まります。8以上なら成功、8未満なら失敗で、8から6差(つまり14以上か2以下)でそれぞれ頭に「例外的(Exceptional)」と付く成功/失敗となります。

 判定には書式(Task Description Format)が定まっており、例として以下のように書かれます。
 目的の情報を得るには:〈コンピュータ〉、知力、1D分、並(±0)。
 まず「判定の目的」が書かれ、コロンの後ろにはこの判定に使えるDMなどが羅列されます。まず要求される技能を1つ、次に能力値DMが1つ、完了にかかる時間、最後に判定の難易度修正が記載されます。ただしこの書式、公式ルール内でもかなりいい加減に運用されており、「難易度易で〈パイロット〉の判定」ぐらいにしか書かれていないことの方が多いです。また、必ずしも技能と能力値が対になって運用されているとは限らず(技能だけ、能力値だけは結構ある)、その辺をきっちりやるか雑に扱うかはレフリーの裁量次第です。

 言うまでもなく、指定された技能レベルはそのままプラスのDMとなります(1レベルなら+1)。もしその技能を持っていない場合はDM-3が課せられます(前述した通り〈万能〉技能はこのマイナスDMをレベル分軽減します)。よって、0レベルでも技能があればかなり成功率に影響することがわかりますね。
 能力値DMもそのままDMとして使われるため、このゲームにおいて能力値5以下のキャラクターは「1~2レベル技能を帳消しにしてしまう」というかなり重いハンデを背負っていることになります。なお、無技能行動でも特に明記がないので能力値DMは加算するようです。

 続いて「時間」の項目ですが、この判定による行動でどれくらい時間がかかったかが決定されます。判定書式では以下の時間単位があります。

 1D秒
 1Dラウンド(※ラウンドは個人戦闘で使われる単位で、1ラウンド=6秒)
 1D分
 1Dキロ秒(※キロ秒は宇宙戦闘で使われる単位)
 1D時間
 1D日
 1D週(1週=7日)
 1D月(1月=30~31日)
 1D四半期(1四半期=3ヶ月)

 基本的には判定の後で1Dを振って単位を加える(「1D分」で3が出たなら「3分」)のですが、判定を「急いでやる」「慎重にやる」ことでこの時間単位が上下します。時間単位を1個遅らせるごとにDM+1、時間単位を1個早めるごとにDM-1となります。
(※マングース版『トラベラー』から時間単位の並びが一新されたのはともかく、1回の判定で何週間もかけられても困ります。時間を厳密に管理しないといけないような局面以外では、この荒削りな判定時間ルールは無視すべきです)

 判定の難易度ですが、レフリーが定めた難しさにより判定のサイコロが以下のように修正されます(※あえて「正確な訳」にはしていません)。

 朝飯前(Simple):+6
 簡易(Easy):+4
 易(Routine):+2
 並(Average):±0
 難(Difficult):-2
 至難(Very Difficult):-4
 不可能(Formidable):-6

 他にも「複数のことをまとめてやろうとするとDM-2」とか「いい工具を使っていたらDM+1」とか「星系の治安レベルに応じて難易度が上下する」など細々したルールは一応ありますが、杓子定規に適用せずにレフリーの裁定の範疇で処理していいでしょう。
 ただ問題なのは、「判定は成功するまで繰り返していい」と書いてあることです。これは「ネットで情報を探す」ような「いつかは成功するので、それにかかる時間の方が重要」のような判定に適用すべきです(もちろん「〈運動〉判定に失敗したら穴に落ちる」ような局面では一発勝負であるべきです)。また、キャラクターが途中で諦めてしまうかどうかの判定をハウスルールで設けるような工夫も必要かと思います。。

 ちなみに他のゲームのように、判定で2が出たら自動失敗、12が出たら自動成功ということはありませんので、DM合計が+6に達すれば成功は確約されますし、-5なら絶対に失敗します(「例外的」となるかが関係するような判定ならサイコロは振るでしょうけど)。

 ここで考えて欲しいのは、そもそも成功が8+ということは成功率は半々ではなく失敗する可能性の方が高いのです。技能や能力値から修正をもらうにしても「並の人」にはDM+2を得るのが関の山でしょう。となると難易度並ならまだしも、難以上になると成功率は一気に下がってしまいます。ですから上手いロールプレイで有利な状況を作り、なるべく簡単な難易度をレフリーから引き出すのが求められるプレイテクニックとなります。一段階難易度を下げさせるだけでDM+2なのですから。


 さて、キャラクターに関する説明は(異種族キャラクター作成ルールを割愛したものの)一通り終わりましたが、実際の運用について少し。
 キャラクターが基本的に運命という名の運によって制作される以上、これから行うシナリオ/キャンペーンに適したキャラクターかどうかは別問題となってしまいます。例えば「とある僻地に放置された宇宙船を回収してきてくれたら、それ、あげるよ」という太っ腹な定番シナリオをやるとして、そもそも誰も宇宙船を動かせなかったら何の意味もないのです。
 この問題を回避する手段としては、いくつか考えられます。

作成段階で「これからどういう話をやるか」をプレイヤーに意識付け、経歴部門や技能の選択に影響を与える。
事前に各プレイヤーに5~6人ずつキャラクターを作って来てもらい、必要な技能を持ったキャラクターをそこから選抜してプレイを始める(1つも合わなかったら他プレイヤーから借りる(笑))。
レフリーが用意したプレロールドキャラクター、もしくはテンプレートの中から選択してもらう(一番楽)。
必要な技能をレフリーから配布する(Traveller SRDではこの方式)。
出来上がったキャラクターに合わせて、日を改めてレフリーがシナリオを組んで来る(かつてはこれが一般的だった)。
NPCを同行させて足りない技能を補う(これもかつては多用されたが、プレイヤーがNPCに依存する/こき使うのは避けるべき。「居てくれないと困るが活躍はしない」ぐらいのバランス感覚が求められる)。

 キャラクター作成システム自体を変える、という身も蓋もない手段もありますがそれはともかくとして、レフリーはプレイの進行が滞らないようにキャラクターの所有技能には常に注意を払ってください。また、プレイヤー同士でも役割(見せ場)があまり被らないように調整しあってください。楽しめない人がいたら、それは勝敗のないRPGの中でも唯一の「負け」ですから。

 あと、『Cepheus Engine』では戦闘系技能はさほど生死を分けませんが(結局は敵の数と腕と多少の運次第なので)、対話系技能は物事の成否どころか生死を分けることがありえます。上流階層には〈社交〉、都市の中~下流階層には〈交渉〉、官僚に書類で挑むなら〈管理〉、初対面の相手には〈接触〉、他者に命令するなら〈リーダー〉、値切るなら〈ブローカー〉、裏金で解決するなら〈贈賄〉…と、適切な技能で相手に対するのは、未来社会を生き抜くために非常に重要であることを忘れないでください。何でも武力で解決するのは、いい歳した大人には似合いません(笑)。


 次回はたぶん個人戦闘の解説…になる予定です。あえて後回しにして冒険の基本舞台となる「星系」について語るかもしれませんが。

『Cepheus Engine』で始めるロールプレイング・ゲーム入門(4)

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 色々迷ったのですが、『Cepheus Engine』はやはり宇宙SFもののRPGですから、旅の舞台となる宇宙について先に簡単に説明しておくべきだと思いまして。

 旅の舞台は宇宙ですが、そこには純粋に距離の壁が立ちはだかります。隣の星まで光の速さですら何年もかかるものを、人類を含めて知的生命体は科学技術で克服しました。「ジャンプドライブ(Jump Drive)」と呼ばれる超光速機関は、数パーセク(1パーセク≒3.26光年)の距離を「たった7日間」で跳躍してしまうのです。

 『Cepheus Engine』では、8✕10パーセクの空間を「星域(subsector)」という区画単位で呼び表します。星域は1パーセクごとに六角形(ヘクス)で分割され、そんな星域の中で様々な星々が輝き、様々な惑星環境の中で、様々な人々が生活を営んでいるのです。
 ちなみに星域を縦2横2の計4つ繋げた区画単位を「象限(quadrant)」、その象限を縦2横2に繋ぐ、つまり星域を16個集めた32✕40パーセクの区画単位を「宙域(sector)」と呼びますが、慣れないうちは1星域の範囲だけでも十分楽しめるでしょう。

 ちなみに、当然ながら宇宙空間では「東西南北」は意味をなしません。ではどうやって方角を表すかというと、銀河系の中心核に向かう方角を「銀河核方向(Coreward)」、逆に中心核から遠ざかる方角を「銀河辺境方向(Rimward)」、銀河が回転してくる方角を「銀河回転方向(Spinward)」、その逆を「銀河回転尾方向(Trailing)」と呼び表しています。宙域図や星域図は通常「上」の方がコアワードになるように記されるため、その逆の「下」がリムワード、「左」がスピンワード、「右」がトレイリングの各方向となるわけです。

 宇宙空間に建築物が立ち並ぶ時代になっても、大多数の人々は「惑星」の上で生活をしています。大気や気温が過ごしやすい惑星だけではなく、砂漠の惑星、海洋と群島だけの惑星、はたまた惑星と言っても真空の小惑星かもしれません。
 このように「惑星」と一言言っても色々ありますが、プレイヤーキャラクターである旅人たちが立ち寄るような有人(時には無人)惑星のことを「主要世界(main world)」といい、他の様々な惑星や主星・伴星(恒星)をひっくるめて「星系(system)」と呼びます。身近な例に例えるなら、地球が主要世界で、太陽系全体が星系となります。

 1星域、つまり8✕10=80のヘクスに星系がある確率は、1ヘクスごとに通常50%(1Dで4+)です。ただし、レフリーは設定を起こす際に星系密度を過密/粗密に調整することができます。「裂溝宙域(rift sectors)」にしたければDM-2、「粗密宙域(sparse sectors)」にしたければDM-1、逆に「過密宙域(densely populated sectors)」にしたければDM+1してください。

 各星系には1つ主要世界が置かれ、星系全体の統治はその主要世界から行われるのが常です。また、星系人口のほとんどは主要世界に集中して住み、資源採掘や科学研究など特別な事情のある一部の者のみが星系内の別惑星に細々と居るのが「お約束」です(もちろん例外を設けるのは自由です)。
 主要世界には「標準世界書式(Universal World Profile)」という形で、その星がどのような星かがひと目でわかるようにコード化されています。例を挙げると、

Name 0000 A123456-7 N 非工 R 123 Na
 ……わかりにくいですか? 慣れてくるとこの形式の方が一瞬で把握できて便利なのですが。まず「星系名」、「星系座標」ときて、続くアルファベットと6桁と1桁の数字は順番に「宇宙港クラス」「規模」「大気」「水界」「人口」「政治形態」「治安レベル」と並び、ハイフンを挟んで「技術レベル」が擬似16進数でコード化されています。さらに「基地の有無」「貿易分類」「旅行安全情報」、3桁の「各種概要」、「所属」と続きます。
 では順を追って詳細に説明していきます。


■星系名(World Name)
 UWPの最初にはその星系の名前が記載されます。同時にそれは主要世界の惑星名でもあります。


■星系座標(location of the world's hex)
 その星系が宙域(もしくは星域)のどの座標に位置しているかが4桁の数字で記されています。前の2桁がX座標(星図の左右)、後ろの2桁がY座標(星図の上下)を意味し、星図の「左上」のヘクスを「0101」としてそれぞれのヘクスに番号が割り振られていきます。星域図なら「0101」から始まって「右下」の終端が「0810」、宙域図なら終端は「3240」となります。


■宇宙港クラス(Primary Starport)
 その星系にある宇宙港の規模がどれだけ大きいかを示します(※「主要(Primary)」とあるように、複数ある場合は最大のものがコード化されます)。Aを最高級としてB、C、D、Eと格が下がり、Xが書かれていた場合は宇宙港すらない未開の地ということになります。

Aクラス宇宙港:
恒星間の物流経済の要であり、非常に多くの宇宙船がひっきりなしに出港・停泊していると思って間違いない。宇宙港の規模は最大級で、惑星の地表上だけでなく軌道上にも宇宙港がある(地上港と軌道港の間はシャトルが頻繁に行き来する)。数千人規模の宇宙港職員が最高級のサービスを提供し、訪れる人目当てに様々な企業が賑やかに商売を営んでいる。また、宇宙港自体が複数置かれているのも珍しくない。高純度の燃料補給ができ、宇宙船の定期整備も可能。造船所もあるため宇宙船の発注・購入もできる。
Bクラス宇宙港:
Aクラスには劣るが、星間物流の拠点としては十分な規模。軌道上に宇宙港があるのはAクラス同様ほぼ確実。高純度の燃料補給や、定期整備も可能。造船所はあるが、建造できるのは恒星間航行能力を持たない小艇のみ。
Cクラス宇宙港:
ここから下のクラスに軌道宇宙港があることがまずありえないため、大気圏突入能力を持たない大型貨物船は避けて通る(か、艦載の小艇で地上宇宙港までせっせと荷降ろしする)ことになる。宇宙各地にありふれた「並程度の」宇宙港。低純度の燃料補給しかできず、定期整備は無理だが修理は可能。
Dクラス宇宙港:
数隻も宇宙船が降りれば満杯になってしまいかねない、端的に言えば「田舎星」にある小さな宇宙港。あまり宇宙船が訪れないので、係官も数人で十分賄えてしまう。低純度の燃料補給はさせてもらえるが、修理施設はない。
Eクラス宇宙港:
宇宙港と名こそ付いているが、整地された原っぱに誘導ビーコンが置かれているだけ、という粗末な作りが普通。燃料補給をさせてもらえるかどうかもかなり怪しい。係官が一人でも常駐している方が珍しいかもしれない。


■規模(World Size)
 その数に1000マイル(≒1600km)を掛けた値が主要世界の直径です。0の場合は小惑星帯に人々が居住していることになります。ちなみに地球は「8」です。
 惑星の規模と重力には相関関係があり、詳しくは『Cepheus Engine』168頁の「惑星規模表(Table: World Size)」を参照すればいいのですが、面倒なら「規模÷8」をその惑星の重力(G)の目安としてしまえばいいでしょう。つまり規模6の惑星なら6÷8=0.75、地球の4分の3の重力の星ということになります。本当は重力には惑星の密度も影響しますが、設定に凝らないならこれで十分です。
 規模が小さく重力が軽い星なら跳躍力が増して運べる荷物の量が増え、重い星ならその逆となります。重力が軽すぎる星では、慣れていないと簡単にバランスを崩してしまうかもしれませんが、高技術の星ならそうならないように地面に人工重力プレートが敷き詰められて常に1Gが保たれているかもしれません。


■大気(Atmosphere)
 「大気」は、その惑星の大気圧と汚染状況を示しています。0が真空で、9に向けて数値が大きいほど大気は「濃く」なっていきます。また、「汚染(Tainted)」と書かれた大気の星で呼吸をするためには濾過マスクが必要となります。この汚染の原因は工場の煤煙だったり、植物の胞子だったり、過去の生物兵器の残滓だったりと様々です。いずれにせよ無防備に吸えば健康に害を与えます。
 加えて、A+の大気コードは通常の「窒素・酸素(N2/O2)の混合大気」ではない特殊な大気であることを示しています。呼吸どころか宇宙服等の保護措置なしで外出もできません。

0~1:真空(None)・微量(Trace)
0~0.09気圧。外出には宇宙服の着用が必須。
2*~3:極薄(Very Thin)
0.1~0.42気圧。外出には酸素ボンベ(Respirator)が必須。
4*~5:希薄(Thin)
0.43~0.7気圧。気圧への順応を怠ると高山病になる可能性がある。
6~7*:標準(Standard)
0.71~1.49気圧。人類の活動には支障が出ない。
8~9*:濃厚(Dense)
1.5~2.49気圧。ルール上、人類の活動には支障が出ないことになっている。
A:異種(Exotic)
人類の呼吸には適さないが、酸素供給さえあれば外出に支障はない。
B:腐食(Corrosive)
外出には宇宙服の着用が必須。
C:強腐食(Insidious)
外出には宇宙服の着用が必須。Bの大気より侵食性が強く、防護機器のこまめな補修が欠かせない(※従来の訳語である「猛毒」は、毒性大気と誤解される可能性があるため変更しました。人体の害になるもの全てという意味での「毒」なのでしょうけど)。
D:超濃厚(Dense, High)
2.5気圧以上。地表で活動するなら何らかの耐圧装備は必要だが、逆に言えば高地では人類の生存に適した気圧となる。
E:超希薄(Thin, Low)
巨大惑星でありながら大気圧が低いという特異な環境。高地では真空に近いが、逆に谷底などでは人類の呼吸に適した大気が得られる。
F:特異(Unusual)
自転の影響で極点では大気は薄いが赤道では濃くなる、といった、これまでのどれにも当てはまらないような特殊な環境。

(*印のあるコードの大気は「汚染」されているので、外出には加えて濾過マスクの着用が必須となります)
(※『メガトラベラー』のUWPとはEとFが入れ替わっていることに注意してください)


■水界(Hydrographics)
 その惑星表面の水の量(大抵は海洋)を示しています。水界のコード値に10を掛けた数値が海洋比率(厳密にはそこから-4~+5ポイントの幅を取る)となるのです。地球は「7」ですが、数値の少ない星では「海」とは名ばかりの湖となるでしょう。
 なお大気次第では、空気の薄い星なら水が全て凍結していたり、異種大気の星なら水ではない液体が「海」を形成していたりするかもしれません。


■人口(World Population)
 その主要惑星に住む人口の「桁数」を表します。1なら10の1乗、つまり10人の位(10~90人)、2なら10の2乗で100人の位(100~900人)…、最高のAなら10の10乗で100億人の位(100億~900億人)が住んでいるのです。「人口コードの数値はその星の人口のゼロの数」と覚えておけばすぐ変換できるでしょう。


■政治形態(World Government)
 その惑星でどのような自治が成されているかをコード化したものです。こればかりは覚えるか頻繁に表を参照するしかありませんが、基本的には「数が増えるほど中央集権傾向が増す(と同時に社会の自由度が減る)」と考えてください。

0:無政府(None)
政府が崩壊して長期間「無政府状態」が続いている場合、政府を必要としないぐらい人口が少ない場合、住民同士の努力によって「完全なる自由」を謳歌している場合、もしくは住民の誰もが政府を認めていない場合が考えられる。
1:企業政府(Company/Corporation)
1つないし複数の企業が統治を担い、住民はその企業の従業員という形態。惑星規模での「企業城下町」もこれに該当するかもしれない。
2:直接民主制(Participating Democracy)
参政権を持つ住民全ての合議によって政治が進められている。高技術世界なら住民総参加の電子議会が実現しているかもしれない。
3:自己永続的寡頭政治(Self-Perpetuating Oligarchy)
閉鎖的な少数の者による統治。住民の参加はないか、あってもわずか。
4:間接民主制(Representative Democracy)
住民の投票によって代議士を選び、その代議士が議会を構成して法律を作っている。
5:封建的技官政治(Feudal Technocracy)
高度な科学技術知識を持つ技官たちが統治を担う政治形態(※「封建的」なのは長年の謎です。技術分野の違う技官同士に上下関係がないのかもしれません)。
6:占領統治(Captive Government)
外世界からの統治を受けている。他星からの直轄入植地のような直接統治に限らず、傀儡政権や(恒星間政府軍による)軍政もこれに含まれる。
7:小国分裂状態(Balkanization)
1つの惑星内で複数の独立国政府が存在している状態。それぞれの独立国の政治形態はまちまち。
8:文官官僚制(Civil Service Bureaucracy)
専門知識を買われて集められた官僚たちによる統治。
9:独裁官僚制(Impersonal Bureaucracy)
支配される者と隔絶した機構による統治。一党独裁政権など。
A:カリスマ的独裁制(Charismatic Dictator)
住民の圧倒的支持を得た単独指導者による統治。
B:非カリスマ的独裁制(Non-Charismatic Leader)
形式上住民の圧倒的支持を得たことにされている単独指導者による統治。
C:カリスマ的寡頭政治(Charismatic Oligarchy)
住民の圧倒的支持によって選ばれた少数の者、組織、階級による統治。
D:宗教独裁制(Religious Dictatorship)
信者である住民の支持によって選ばれた単独の宗教指導者による統治。
E:宗教専制政治(Religious Autocracy)
一般住民とは隔絶した特権階層(世襲制など)による祭政一致政治。
F:全体主義政治(Totalitarian Oligarchy)
少数の者(独裁政党など)が政治を操り、住民の生命を含めあらゆる分野を規制する政治。何よりも全体の利益を重んじ、個人を強制的に全体に従属させる。


■治安レベル(Law Level)
 その惑星の治安の良さを表すと同時に、住民への抑圧の度合いも表しています。数値が高ければ高いほど合法的に持ち歩ける武器がなくなっていき、安全にはなっていくのですが、逆にそれを取り締まる警察の権力が個人の自由をも縛っていくのです(武器を持つのが自由の一つ、という価値観はわかりづらいでしょうけど)。特に治安レベルがA+の星は事実上の警察国家であり、軽い気持ちでの旅行にはお勧めできません。
 なお、設定次第では「旅行者には警察はむしろ厳しい(逆に甘い)」という二重基準が布かれている星もあるでしょう。

0:無法(No Law)
法律が存在しない、もしくは法を取り締まる治安組織が存在しない(もしくは機能していない)。あらゆる武器の所持は自由。
1~3:低治安(Low Law)
毒ガスや爆発物、携行型レーザー火器、重火器といった軍用装備の所持が禁止されてゆく。
4~6:並治安(Medium Law)
散弾銃を除いた銃器(軽突撃銃(Light assault weapons)や短機関銃(submachine guns)、隠匿可能な銃器など)の所持が禁止されてゆく。
7~9:高治安(High Law)
散弾銃を含めた全ての銃器、刀剣類の所持が禁止されてゆく。治安レベル9で住居外への武器の持ち出しが禁じられる(※9未満の治安レベルでも大っぴらに武器を持ち歩けるかは設定次第でしょう)。
A以上:極高治安(Extreme Law)
あらゆる武器の所有が禁止される。公権力が私権に介入することが容易となる。


■技術レベル(Technology Level)
 略してテックレベル(TL)とも呼ばれるこの値は、その星で用いられている一般的な製品の技術水準の目安を表しています。『Cepheus Engine』では詳細な解説がないのですが、イメージしづらいでしょうから各種資料から持ってきました。

原始的文明(Primitive):TL0~3
産業革命以前の技術水準。銃器は一般的でなく戦闘は刀剣が主。最速の移動手段は帆船や熱気球といったところ。動力は風や水車、時には人力から取られる。
工業化文明(Industrial):TL4~6
蒸気機関の発明から核分裂の発見まで。銃器の発明・普及で戦場の様相が一変する。初歩的な電子演算装置(コンピュータ)やラジオ・テレビの登場。地上車や飛行機も一般化。石炭や石油、そして核分裂反応から動力を得られるようになる。
前星間文明(Pre-Stellar):TL7~9
宇宙開発黎明期。軌道上や星系内の航行技術、建築物構築技術が確立される。コンピュータ技術の発達と普及。レーザー火器の登場。核融合や反重力、初歩的な冷凍睡眠技術の発明もこの頃。
初期星間文明(Early Stellar):TL10~11
超光速航法(ジャンプ機関)開発以後(ジャンプ限界は2パーセク)。ホロ(立体)投影技術や音声入力コンピュータの普及。反重力技術の普及により、地上車と飛行機の区別がなくなる。核融合炉の小型化が進む。
標準星間文明(Average Stellar):TL12~14
恒星間社会での一般的な技術水準(ジャンプ限界は3~5パーセク)。戦場にプラズマガンやバトルドレスが登場。ロボット技術の進展・普及が進むが、人工知能は限定的。記録媒体としてホロクリスタルが開発され、膨大な情報を小さな結晶体に収めることができるように。反重力による空中都市の登場。冷凍睡眠技術の安全性が高まる。クローン技術による臓器移植や、機械の義手・義足への交換も可能(※脳移植はTL16なので、体全体を交換することはできない)。
高度星間文明(High Stellar):TL15
現在考えうる最先端技術(ジャンプ限界は6パーセク)。擬生物型ロボットの登場(人工知能技術は進展しているが、まだ「自我」を持つには至らない)。抗老化薬の発明。大規模な惑星改造も可能に。

 『Cepheus Engine』ではTL16(G)以上の超文明は扱いの範囲外となります。


■基地コード(Base Codes)
 その星系内(必ずしも主要世界上とは限りません)に恒星間政府、もしくは海賊による基地が置かれている場合、この欄に記載がなされます。何もないなら空欄です。

 A:海軍基地と偵察局基地の両方
 G:偵察局基地と海賊拠点の両方
 N:海軍基地
 P:海賊拠点
 S:偵察局基地
(※偵察局のない恒星間国家では代わりに前哨基地(Outpost)が置かれます)


■貿易分類(Trade Codes)
 その世界がどのような貿易産品を作り出し、求めているかを、UWPコードから算出された特徴で分類したものが列挙されます。恒星間貿易を行う際に最も使われますが、その星系がどのような雰囲気かを簡単に掴むのに使われたり、キャラクター作成時の出身星の特徴もこれで求められます。どのような条件でその分類となるかはここでは割愛します。

農業 Agricultural (Ag)
経済基盤を農業に置いている世界。
小惑 Asteroid (As)
小惑星に多くの人口が居住している世界。
未開 Barren (Ba)
開発が始まっていない無人の世界。
砂漠 Desert (De)
水界のない世界。
非水 Fluid Oceans (Fl)
水界が水以外の物質で構成されている世界。
肥沃 Garden (Ga)
自然が豊かな世界(※『Cepheus Engine』では条件が変更されたため、「人の手によって自然が管理された庭園のような世界」という意味かもしれません)。
高人 High Population (Hi)
人口が10億人以上の世界。
高技 High Technology (Ht)
TL12以上の科学技術を持つ世界。
氷結 Ice-Capped (Ic)
地表の水界が凍結している世界。
工業 Industrial (In)
経済基盤を工業に置いている世界。
低人 Low Population (Lo)
総人口が1000人台以下の世界。
低技 Low Technology (Lt)
工業化文明以前の技術力の世界。
非農 Non-Agricultural (Na)
農業生産に向かない環境の割に人口が多く、食料を自給できない世界。
非工 Non-Industrial (Ni)
人口の少なさゆえに工業生産力が乏しく、工業製品を輸入に頼る世界。
貧困 Poor (Po)
環境の悪さゆえに貧困にあえいでいる世界。
富裕 Rich (Ri)
環境が良く、富裕層が住みたがるような世界。
海洋 Water World (Wa)
地表が海洋でほぼ覆われた世界。
真空 Vacuum (Va)
大気のない世界。

 貿易分類はその世界でどんな商品が安く/高く取り引きされるかに関わります。例えば、工業世界で最新の農業機械を安く買い付けて、それを農業世界に持って行けば高く売れそうだ、と考えられるわけです。


■旅行安全情報(Travel Zone classification)
 大部分の世界は文明化されて旅行者に開放されていますが、中には内戦に苦しんでいたり、病気が蔓延していたり、単に旅行者を迎える準備が整っていない星系もあります。そのような世界は、恒星間政府や旅行者支援団体などによって「トラベルゾーン」が指定されます。UWPに記載されるのは以下の状態です。

A:アンバーゾーン Amber Zone
旅行者に対して注意喚起がなされている状態。何らかの危険情報によって一時的に発令される場合と、現地の自然条件や政情・治安状態が恒常的に旅行に適さないと判断されている場合があります。
R:レッドゾーン Red Zone
恒星間政府(主に海軍)によってその星系への旅行が禁止されている状態。旅行者の生命が脅かされるような危険がある場合や、恒星間政府や団体の事情により部外者の立ち入りが禁止されている場合(軍用地や秘密研究施設、環境・文化保護星系)に発令されます。

(※仮に進入禁止でも「燃料補給だけしてすぐに立ち去る」のは許される場合もあります)


■各種概要(brief synopsis of three pieces of data)
 3桁の数字は左から順に「人口倍率(Population Multiplier)」「小惑星帯数(number of Planetoid Belts)」「巨大ガス惑星数(number of Gas Giants)」を意味しています。
 「人口倍率」はUWPの「人口」で求められた主要世界の人口に掛け合わされる数値です。例えば、人口6で倍率3となっている世界は「1000000(10の6乗)✕3=300万人」が住んでいることになります。その性質上、人口倍率が0となるのは本当に誰も住んでいない星以外にはありえません(つまり人口0でも倍率が0でなければ数人が住んでいることになります)。
 「小惑星帯数」はその星系内に存在する小惑星帯の本数で、「巨大ガス惑星数」は同じく星系内に存在する巨大ガス惑星(ガス・ジャイアント)の数です。特に燃料補給に使える後者の無か有かの把握は、宇宙を自分の船で旅するなら必須です。


■所属(Allegiance Codes)
 その星系がどの恒星間国家に属しているか、そうでないかを表しています。基本的にアルファベット2文字(大文字1+小文字1)の略称で表わされるのが常ですが、「Na」は「Non-aligned」、つまりどこの国家にも属していない「中立星系」を必ず意味します(そのため略称がNaとなりそうな国家はNAやN1といった回避策が採られます)。


■注釈欄
(※『Cepheus Engine』では何故かUWP末尾の注釈欄について触れられていません。ここにはその星系が「星域首都」だったり、「研究基地」が置かれている場合などに記載があります)


 これで一通りUWPは読めるようになったはずですが、レフリーは読めるだけでは意味がありません。そこからどう想像を膨らませるかが大事です。その際、あまり杓子定規に解釈しない方が発想を広げやすいですし、何しろ気分が楽です。

 「宇宙港クラス」はそのまま即その星系の経済規模に直結します。大きな宇宙港のある星は経済的に豊かと考えていいでしょう。逆に、どう見ても交通の要所なのに宇宙港クラスが低い星があったのなら、そうなった理由を考えるチャンスです。「かつては大きな宇宙港があったが、戦災で破壊されて低ランクのサービスしか提供できない」とか色々考えられます。またAクラスだからといって人でごった返しているとは限らず、「完全にロボット化されてどこか物寂しい」宇宙港があってもいいと思います。

 「規模」は重力に直結するので、低重力/高重力の世界の生活風景や外世界人とのギャップを演出すると面白くなるでしょう。「この低重力世界の家の塀はプライバシー保護のために高く作られている」とか…。ただ、会話主体のRPGで重力は「感じさせ辛い」要素でもあり、高技術世界なら「重力プレートでどこでも1G」で逃げてしまう手もあります(汗)。また、「惑星の真裏の無人地域に不時着したので最寄りの街まで踏破」という定番シナリオをやる際の難易度にも関わってきます。

 「大気」のない、もしくは汚染された世界では綺麗な空気は貴重品となりえます。旅行者には「空気税」という形で応分の負担が求められる、とするとSFっぽい雰囲気が出るでしょう。また、植物を故意に傷つけると重罪となるかもしれません。
 同様に「水界」値の低い星で貴重な水を、宇宙船の燃料だからといって外世界人に「定価で」売ってくれるでしょうか? くれるにせよそうでないにせよ、住民の雰囲気を表すには格好のネタとなりえます。

 「人口」は、惑星全体に分散しているか一所に集まっているかで印象が変わってきます。水界の値が高い星なら人口密度は当然増すでしょうし、大気A+の星ではそもそも全住民が軌道上に住んでいる、なんてこともあるかもしれません。

 「政治形態」と「治安レベル」はセットで考え、イメージを膨らませるといいでしょう。例えば、政治形態4の間接民主制でも治安9なら「この星では政権与党に投票するのが暗黙の了解となっていることにしよう」とするのです。あくまでUWPの(わかりづらい)解説文はヒントとして捉えて、「それならば政治形態はBでないとおかしい」とは考えない方がいいです。独裁制だからといって住民が弾圧されているとは限りませんし、自由な社会を標榜していても実際には金がなければ何も出来ない社会なのかもしれません。
 他にも、「治安レベルが低いように見えるのは農村部で害獣対策に重火器の所持が許可されているためで、都市部では銃器の所持は禁止されている」というある意味「逃げ道」を作ってしまうのも十分ありだと思います。少なくとも『Cepheus Engine』は文明人をロールプレイするゲームなのですから、治安レベルの表で持ち歩きが許されているからといって常に銃器を持ち歩くような者は野蛮な人、という認識でいいでしょう。もちろん逆説的に「銃を堂々と持ち歩くのが許可されている」ことでその星の異文化感を出していく、という演出は効果的です。

 「技術レベル」はその世界の一般的な水準として捉え、特定分野はそれを上回ることがあってもいいと思います。例えば「TL10のこの星だが、医学の水準はTL12相当で…」ぐらいは理由がしっかりしていれば許される範囲でしょう。また、恒星間社会で外世界の物品が全く流入していない、ということもありえないです。低TL世界でも一部の金持ちが他の星から高度な技術製品を高額で輸入して見せびらかしていることもあるでしょう。それが儲けのネタになるかもしれませんし、逆にトラブルの種になるかもしれません。

 また「貿易分類」からイメージを掴むのもいいでしょう。この場合も拡大解釈は有効で、例えば「貧困」一つ取っても「経済発展から取り残されて貧しい」「資源が乏しくて貧しい」「貧富の格差が酷すぎて全体的に貧しい」など色々考えられます。「農業」でないからといって農業をやってないということはなく、人口が多すぎるせいで輸出に回す余力が無いだけなのかもしれません。


 次回は宇宙旅行の実際について。

『Cepheus Engine』で始めるロールプレイング・ゲーム入門(5)

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 今回は予告通り「宇宙旅行(Off-World Travel)」についてです。宇宙旅行と一口に言っても「惑星間旅行(Interplanetary Travel)」と「恒星間旅行(Interstellar Travel)」がありますが、やはりSF-RPGとしての『Cepheus Engine』に求められているのは後者でしょう。

 前回書いた通り、『Cepheus Engine』で取り扱われる「ジャンプ航法」は数パーセクの距離を「たった7日間(厳密には148+6D時間)」で跳躍するものです。宇宙船に搭載されたジャンプドライブの性能次第で一度に飛べる距離が1~6パーセクの範囲で定められ、例えば「ジャンプ-2」の性能なら一度に2パーセク以下の距離を飛べることを示しますが、どんな距離を飛ぼうとかかる時間は同じ7日間です。
 光よりも速く移動できる手段が宇宙船のみである以上、情報が伝わる速度と旅の速度は同じということになります。星域規模ならまだしも、宙域規模以上の恒星間国家では国境付近で何か変事が起きても首都にそれが伝わるまでに数週間、十数週間、下手すれば1年後ということもありえます。それゆえに恒星間国家では1日でも早く情報を得るために様々な工夫をしているのですが、それは設定次第ですので割愛します。

 ジャンプを行うためには条件があります。惑星や恒星の重力場の影響を避けるために「直径の100倍圏」から離れてジャンプしないと失敗する危険が大幅に増します。また、安全にジャンプを行うためには宇宙船の定期整備を怠らず、できれば純度の高い燃料を使い、最新の航路情報を入手し、腕の良い機関士を雇うのが欠かせません。
 仮にジャンプに失敗すると「ミスジャンプ(Misjump)」となり、完全にランダムな方角に飛ばされてしまいます(しかも距離は1D✕1Dパーセクで求められるので、ありえない距離をジャンプしてしまう可能性が大)。生還できるかどうかは、ジャンプした先にたまたま恒星系が有るかどうか、そこで燃料補給ができるか、できなくても生存に必要な水や空気が揃っているかどうかにかかっています。
(※原典のマングース版『トラベラー』ではミスジャンプ=即死であり、レフリーの温情措置としてランダムジャンプが用意されていましたが、『Cepheus Engine』ではランダムジャンプに一本化されました)

 さて、宇宙旅行をするには宇宙船が必要ですが、旅客として乗り込むのが一番手軽です。宇宙港の規模にもよりますが、停泊している大手企業の定期便や個人の商船と目的地が合えば、そこへのチケットを購入して搭乗するわけです。
 宇宙船に旅客として乗り、7日強の旅をするには以下の5つのパターンがあります。なおルールの便宜上、チケットの価格は「ジャンプ1回につき」であってジャンプの距離とは関係ありません。

特等船客 High Passage
チケットは1枚10000クレジット(2人部屋なら16000クレジット)。乗務員や船から最高のサービス(食事・娯楽提供など)を受けられ、手荷物も1000kgまで持ち込めます。目的地で下船する際も再優先で降りられます。
一等船客 Middle Passage
チケットは1枚8000クレジット(2人部屋なら13000クレジット)。特等船客で客室を埋められなかった際に、割引価格で販売されるチケットです。部屋は特等と同じですが、受けられるサービスや食事の質は落ちます。持ち込める手荷物も100kgまでです。何よりも一等船客には、出航前に後から来た特等船客に部屋を「追い出される」リスクがあります。返金こそされますが、その後の補償は何もありません。その場合はすぐさま停泊中の別の宇宙船に乗り換えるか、差額運賃を払って特等船客となり、他の一等船客を自分が「追い出す」しかありません。
二等船客 Low Passage
チケットは1枚1000クレジット。客室ではなく冷凍寝台で仮死状態になって運ばれることによって、低価格かつ主観時間で「あっという間に」到着することができます(老化も停止するので数年かかるような超長距離の旅行に向いています)。ただし冷凍睡眠特有の危険性があり、蘇生の際に「難易度簡易(+4)で耐久力の判定」に失敗すると生命の危機に陥ります。その際は船医が「〈医学〉、教育度、易(+2)」で判定して成功すれば助かりますが、それも失敗なら本当に死亡します(賠償金も責任追及も発生しません)。手荷物は10kgまで持ち込めます。ちなみに下船は貨物搬出の後です。
雇用船客 Working Passage
チケットを購入するのではなく、宇宙船の臨時雇いとして働くことで目的地に到達する手段です。給料こそ運賃と相殺で出ませんが、船員室(基本2人部屋です)での就寝と船員と同じ食事が約束されます。ただしあくまで臨時雇いなので、連続4ジャンプ以上勤めると正規雇用されたことになります。また乗り込むためには船長が許可を出し、求められる技能を持っていないといけません。手荷物は1000kgまで持ち込めます。
密航 Stowaway
宇宙船に密かに忍び込み、無賃乗船を企てることも一応可能です。宇宙港当局や船員の目を盗み、宇宙船の与圧区画のどこかで7日間をやり過ごせばいいのですが、捕まれば禁錮刑や重い罰金は避けられません。また、目的地で密航が発覚して強制送還される際の費用は、密航をみすみす許した船の持ち主か船長に請求が回るため、密航者は発見され次第「なかったこと」にされがちです。それと、宇宙船の「乗っ取り行為(Hijack)」もこの範疇に入るでしょうが、当然宇宙船側にも物理的・電子的な乗っ取り対策が施されていることを忘れないでください。

 船にもよりますが、大多数の商船は1週を航行に、1週を停泊(乗務員の休暇、貨物の搬出/搬入、宇宙船の補給整備など)に充てて2週を一組にした運用がされます。同じ船に乗り続けるなら2週で1ジャンプしかしないことになりますので、急ぐ旅なら毎回宇宙港で乗り継ぎが必要となりますね。

 宇宙船内で過ごす7日間ですが、客船なら娯楽設備も充実しているでしょうし、豪華な談話室で他の船客とゆったりと話し込むことも可能でしょう。しかし貨物船に同乗したり、個人経営の自由貿易商船では大手並のサービスは望めませんし(簡易な談話室や立体映画の配信ぐらいはあるでしょうけど)、そもそもRPG的には毎回毎回ジャンプ空間内でプレイヤーを惹きつけるようなNPCを出したり事件を起こすのも無理があります。
 「何事もなく目的地に着いたよ」でも十分なのですが、「ファストドラッグ(Fast Drug)」を使って解決する手があります。これは元々は医療用に延命措置を施す際に用いられる薬なのですが、代謝速度を60分の1に落とすのを利用して7日間を主観時間で3時間弱に感じさせることができるのです(周囲が60倍速で動いているように見えるので「ファスト」です)。これならちょっと船室で横になっているだけで目的地に着いてしまえるのですが、問題は外部からの干渉に全くの無抵抗になってしまうことです。乗り合わせた全員が一斉に服用するか、個々人の安全を確保した上で用量を守って使用してください。


 旅行者が必ず立ち寄る宇宙港がどういった施設なのかについては、『Cepheus Engine』では不思議と言及がないのですが(まあ何があるかは現実の国際空港を思い浮かべればいいでしょう)、覚えておくべきなのは多くの恒星間国家では宇宙港を星系自治の範囲外と定めていることです。治外法権線(Extraterritoriality Line)こと通称「XT線」を越えると地元政府の法権力は及ばなくなるので、よって、その星の珍妙な法律をうっかり犯してしまって追われる身になった場合は、何としてでも宇宙港に駆け込むのです(とはいえ殺人等の重犯罪ともなるとさすがに送還されるでしょうけど…)。
 また、宇宙港の付近には長旅を終えた旅行者や船員を色々な意味で癒やすべく、「宙港街(Startown)」と呼ばれる猥雑とした歓楽街がだいたいどこもあるものです。地元の治安レベルよりもやや低いのが常なので興味本位で歩き回るのは避けた方がいいですが、依頼などによる冒険への導入や情報収集、違法合法問わない物品の入手、そして一時的に身を隠すには便利な街でもあります。


 では続いて、自分で宇宙船を動かして自由に旅をする場合について。
 唐突ですが、あなたは貿易商船(Merchant Trader)を40年ローン(※厳密には480ヶ月なので、完済まで1月=4週計算で約37年かかります)で手に入れました。頭金は自分でどうにかしたか、共同出資者を募ったかとしましょう。これから長く付き合うことになる「相棒」のカタログスペックは以下の通りです。


 この200トン貿易商船は主要通商路線でよく見られる型です。ジャンプドライブA、通常ドライブA、パワープラントAを搭載し、ジャンプ-1と1G加速が可能です。燃料タンクは24トンを貯蔵し、1回のジャンプと4週間分のパワープラント稼働を支えます。
 艦橋にはモデル-2のコンピュータが搭載されています。この船には標準民生用探知機(DM-2)が装備されています。船室は10室で、二等寝台を20基備えています。武装設置点が2箇所があるため、火器管制に2トンが割り当てられています。積載貨物は85トンです。
 チタン鋼(防御点2)の船殻は標準船体です。加えて、2トンの燃料生成装置(1日につき40トンの燃料を生成可能)と燃料吸入装置が装備されています。
 この船には操縦士1名、航法士1名、機関士1名の計3名の乗組員が最低必要です。さらに、武装が搭載されたなら砲手が2名、旅客運行を行うなら船医と接客係が必要となります。
 この船は8名の特等船客(もしくは2人部屋にして16名の一等船客)と20名の二等船客を運ぶことができます。
 船体価格は34.929メガクレジット(割引価格かつ設計料込み)で、建造に44週間を必要とします。


 色々細々書かれていて混乱するかもしれませんが、要点だけかい摘むと、まず「ジャンプ-1」ということは1パーセク、つまり星図の隣のヘクスの星系に飛ぶことが出来るということです。1回のジャンプで燃料は使い切ってしまいますから、星系のない深宇宙のヘクスにジャンプしたり、連続ジャンプすることはできません。
 「燃料吸入装置」というのは、星系内にガス惑星がある場合にそこから低純度の燃料を「すくい取る」ための機械です。また、燃料は水素ですので生成装置を使って海洋からも燃料を作り出すことができます。これによって燃料代を浮かせることも可能ですが、この船は「標準船体」であって「流線系船体」ではないので、ガス惑星や大気圏内航行での操縦感に難があります。操縦士には慎重な操舵が求められます。
 船室が10で旅客用に8が割り当てられていますが、旅客運行のためには船医と接客係が必要なので船室を1つ基本2人部屋である乗務員用船室に回して3室に5名が、砲手も雇うなら4室に7名が住む形にする必要があります。船長は特権で1人部屋ですね。ただ、そもそも設計段階で乗務員室と客室は交わらないように配置すべきではありますが…。
(※〈スチュワード〉技能で1人が接客できる範囲は、特等船客が「1レベルごとに2人」、一等船客が「1レベルごとに5人」(両方とも0レベルから数え始める)と定義されているため、〈スチュワード-3〉の人を雇えば1人で全部接客できますが、2レベル以下だと最低2人で回さないといけません。また、レベル3でも特等2人部屋を2つ認めると1人では回せなくなるので、結局接客係は2名は必要になります…残念ながら船長も2人部屋に入ってもらいましょう)

 さて、1人ではこの宇宙船が動かせないことがはっきりしました。信頼できる乗組員を雇わなくてはなりません。宇宙船を動かすために必要な役職は以下の通りです。

操縦士 Pilot
〈パイロット〉技能で宇宙船を動かします。月給はCr.6000です。
航法士 Navigator
〈航法〉技能でジャンプ計画を作り、船を導きます。小さな船では操縦士が兼任することが多いです。月給はCr.5000です。
機関士 Engineer
〈エンジニアリング〉技能で船を補修し、各種ドライブを操作します。大きな船では補佐役として数名の機関士が雇用される場合もあります。機関士長の月給はCr.4000、機関助手はCr.1000です。
船医 Medic
宇宙船に旅客を乗せる場合には〈医学〉技能を持つ医師が必要となります(同時に何らかの医療設備が設置されます)。月給はCr.2000です。
接客係 Stewards
〈スチュワード〉技能で乗客の世話をし、食事を作り、楽しく旅行ができるよう手助けをする仕事です。月給はCr.3000です。
砲手 Gunner
武装船は砲門を操作するために〈砲門〉もしくは〈砲塔〉を持つ砲手を雇用しなくてはなりません。月給はCr.1000です。

 加えて、以下の役職も必要となることがあるかもしれません(通常は上の役職と兼務されるでしょう)。

船主/船長 Ship's Master/Captain
船主もしくは船長は、船と乗組員の安全に責任を持ちます。小型の船では操縦士や航法士を自ら兼務することが多いです。月給は基本Cr.6000ですが、多くの商船では船で得た利益の一部を給与代わりに受け取っています。
事務長 Ship's Purser
商用宇宙船ではしばしば、(他の役職と兼務されることも多いですが)金銭や物品の管理をする事務員を雇用します。月給は基本Cr.3000ですが、船から得られた利益の一部から支払われるのが通常です。(※おそらく必要な技能は〈管理〉や〈ブローカー〉でしょう)
その他
貨物係(Cargo Handlers)、甲板員(Deck Hands)、保安員(Security)などは必要に応じて雇われます(※砲手が保安員を兼務するのは経歴を考えても自然でしょう)。月給はそれぞれCr.1000です。

 なお、船上での乗組員の生活費は船の諸経費に組み込まれているものとします。また「月給」とありますが、船の運行単位が「週」なので「4週分の給料」とすると計算が楽になります。貰う方としても給料日が年13回やってくるので嬉しいですし(笑)。給料といえば、技量と給与が比例していないのも不自然です。上に挙げた月給は1レベルの場合として、2レベル以上の者には1レベルごとに1割増しで給与を出してあげるべきです。
 『Cepheus Engine』では役職兼任に関するルールが見当たらないため、恒星間宇宙船を動かすには操縦士・航法士・機関士の3人は必須となりました。従来1人で動かせた偵察艦も「3人が必要」と明記されています(おそらくマングース版やTraveller SRDで曖昧だった部分を明確にしたことによるものだと思われます)。プレイヤーで賄いきれない場合はNPCにしたりロボット化を検討しないといけないでしょう。


 では実際に船を動かしてみましょう。宇宙港での点検・補給を終え、貨物や乗客、郵便輸送契約を行っているなら郵便物も積み込み、入金を確認し、宇宙港の管制から出発許可も得られました。機関士が、温めていたパワープラントから通常ドライブに電力を供給して起動します。
 まず、操縦士は宇宙船を軌道上まで運びます。続いて航法士がジャンプ点(Jump Point)までの航路を策定します。前述した通り、ジャンプ点は安全のために惑星・恒星の直径の100倍離れた空間に設定されます。操縦士がその航路に宇宙船を乗せている間、航法士は今いる星系と目的地の星系のジャンプ計画(Jump Plot)を立てます。ジャンプ点に到達したら、機関士がジャンプドライブを稼働させてジャンプ空間に突入します。
(※ちなみにジャンプ空間を直視すると精神に悪影響が出るため、ジャンプ中の「窓の外」には満天の星々を模した立体映像が映し出されます)
 何事もなければ、7日後には無事目的星系の通常空間に宇宙船は出てきます。目的星系が安全かどうかを船長が確認したら、進発の指示が出されます。航法士が目的地を設定するのですが、場合によっては巨大ガス惑星に立ち寄って燃料補給をすることもあります。その場合は操縦士が上手くガス惑星の大気圏に船を「横付け」し、燃料をすくい取ります。ただしガス惑星は多くの宇宙船が立ち寄ることから、海賊たちの格好の待ち伏せ場所ともなっています。そこで多くの星系では惑星防衛艦(System Defence Boat)をガス惑星に配備し、警備をしているのです。そしてここや道中では様々な宇宙船と出会えるでしょう。何か情報を交換できるかもしれません。
 星系に軌道宇宙港があるのなら、操縦士はまずそこへ向かいます。宇宙港管理局(Port authorities)による検疫や立入検査はまず軌道上で行われるからです。停泊料を支払って宇宙港に停泊したら、乗客や貨物や郵便を降ろし、補給や整備点検を行います。乗務員はつかの間の休暇を楽しんだり、儲けになりそうな商品を探して仕入れたりします。余計なトラブルに巻き込まれたり、幸運な出会いもあるかもしれません。次の目的地を定めて、乗客の募集もしなくてはなりません。停泊期間の6日間(星系内移動に片道でだいたい半日かかるため。また、宇宙港の停泊料も「6日でCr.100」となっている)はあっという間に過ぎていきます……。


 もちろんジャンプ計画の策定や、ジャンプドライブの起動、宇宙船の操縦には判定が付いてくるのですが、いちいち行うのも面倒ですし、うっかり失敗すると致命的です(しかもゲームなのでその可能性は現実よりも遥かに高く誇張されている)。こういった描写は雰囲気を出すための演出として扱い、適度に省略していくのがいいでしょう。

 恒星間の移動には7日間かかりますが、ジャンプ点や他の惑星に移動するにはどれだけかかるのでしょうか。『Cepheus Engine』104頁の「航行時間表(Table: Common Travel Times by Acceleration)」を見れば一目瞭然ですが、数時間から十数時間というのが相場だというのがわかると思います。この表は「目的地の中間点まで加速を続け、中間点からは減速を続ける」前提で計算が行われているので、加速したままジャンプするような状況では自分で計算する必要があります(早い話が2倍の距離で公式に入れて結果を半分にすればいいのです)。


 次回は宇宙船の経済面、収入と支出について。

『Cepheus Engine』で始めるロールプレイング・ゲーム入門(6)

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 宇宙船を動かすには何かとお金がかかります。今回は、自分で貿易商船を購入して運用する場合の支出(Starship Expenses)と収入(Starship Revenue)について解説していきます。


 まず支出の方から。前回紹介した200トン貿易商船の場合、購入金額は約35メガクレジットという大金がかかっています(というか「たった」35億円で恒星間宇宙船が買えるぐらいに「安くなった」と考えることもできますが)。一括購入できるような富豪でもなければローンを組むことになりますが、この場合でも購入金額の20%は頭金として支払わないといけません。34.929✕20%=6.9858ということで、約7メガクレジットは用意する必要があります。
 今回はこれはどうにかして払ったとして、残る返済額は船体価格の240分の1ずつを480ヶ月かけて払うことになります。つまり頭金と合わせて船体価格の220%が利息を含めた総支払額となるのです。
 前回解説した通り、商用宇宙船の運行は2週で1セットとなるため、精算も2週あたりで計算することにします。2週分の返済額は34.929÷240÷2=0.07276875、単位をメガクレジットからクレジットに直すとCr.72769となります。
(※頭金のくだりは『Cepheus Engine』では曖昧なのですが、総支払額が購入額の220%と明記されているので間違いなく頭金は20%です)


 続いて運行経費について。精製済燃料(Refined fuel)は1トンあたりCr.500ですので、満タンにするにはCr.500×24トン=Cr.1200かかります。ここをCr.100の非精製燃料(Unrefined fuel)にしたり無料の燃料スクープなどによって浮かすこともできますが、ここでは一応ちゃんと支払っておきます。
 船室の環境維持費(Life Support)は1室ごとに1月あたりCr.2000かかります。これは酸素供給や食料など、その船室で生きていくのに必要なコストが全て含まれます。一方冷凍寝台はそういったコストを抑えられるので、1月Cr.100で事足ります。この船の場合は、船室10・冷凍寝台20ですから((Cr.2000✕船室10)+(Cr.100✕寝台20))÷2=Cr.11000が2週間あたりのコストとなります。
 宇宙船の安全運行のためには、年1回の定期補修(Routine Maintenance)も欠かせません。それにかかる金額は購入額の0.1%で、造船所で行う必要があります(つまりAかBクラス宇宙港の星系に出向くのです)。(『Cepheus Engine』では明記がありませんが)作業には2週間かかり、当然その間の収入は全くなくなってしまいますが乗組員の給与などは支払わなくてはなりません(一応「月給」ですし…)。この定期整備を怠ると船がどんどん破損してしまうので、いざという時にお金がなくて困らないように積み立てておきましょう。船体価格Cr.34929000✕0.1%÷25(※1年=52週で整備に2週ですから動かすのは50週、計算は2週単位ですからさらに半分)≒Cr.1398が1回あたりの積立額となります。
 先程も出ましたが、乗組員への給与(Crew Salaries)も必要です。今回は自分が航法士を兼ねるとして、操縦士1名、機関士1名、接客係2名、船医1名を雇用することにします。砲手は諦めます(笑)(現実的に見て、商船の砲門ごときで海賊船に対抗できるとは思えません)。2週間あたりの支払額は(6000+4000+3000✕2+2000)÷2=Cr.9000です。
 宇宙港では停泊料(Port Fees)も必要です。これは6日間でCr.100、延長料は1日でCr.100です。今後どうなるにせよとりあえずCr.100は払います。

 この時点で総コストは72769+1200+11000+1398+9000+100=Cr.95467。損益分岐点は10万クレジット弱ということになりますので、それを目指してこれから商売に励みましょう。


 続いて収入について。商業宇宙船の収入源は、主に旅客(Passengers)、貨物(Bulk Cargo)、郵便(Mail)の各輸送業務が柱となります。旅客と貨物は、現在停泊中の宇宙港の規模に応じてサイコロを振って船荷・乗客表(Table: Available Freight And Passengers)を参照し、船に積めることのできる分だけの運賃収入(貨物は1トンでCr.1000、旅客はチケット通りの価格)が得られます。
 一方、郵便輸送業務は恒星間政府や自治体との契約によって行われるもので、契約した場合は船倉を常に5トン空けておくことが義務付けられ、代わりに1ジャンプ運ぶごとにCr.25000を受け取ります(実際に運ぶ郵便物は1D-1トンです)。ただし郵便物を運ぶには船が武装しており、一定の通商路を行き来することが条件です。
 他に、私的な(えてして秘密の)郵便物や小荷物を預かって目的地で引き渡す(謝礼はCr.20~Cr.120が相場)、船の貸し切り(Charter)を引き受ける(非恒星間宇宙船なら船体1トンにつき1時間でCr.1(最低12時間)、恒星間宇宙船なら満杯にした際の収入の9割(2週間契約))ことで収入を得ることもあります。

 では実際に乗客や貨物を募ってみましょう。今、Aクラス宇宙港に停泊しているとして、表を参照しながら期待値通りの反応があったとすると、貨物が100トン、特等船客が10人、一等船客も10人、二等船客が30人集まります。船の輸送能力は貨物が85トンと船室が7、冷凍寝台が20ですから満杯どころか溢れます。ということは、貨物からの収入がCr.85000、特等船客からCr.70000(そして一等船客は全員断る)、二等船客からCr.20000が得られます。合計でCr.175000ですから、約8万クレジットが1ジャンプの儲けとなります。

 しかし飛んだ先がCクラス宇宙港で、そこで募集をかけたらどうなるでしょう。同じく期待値通りなら貨物が20トン、特等船客が2人、一等船客が7人、二等船客が10人しか集まりません。貨物収入がCr.20000、旅客収入が一等船客4人に2人部屋に入ってもらっても、特等Cr.20000+一等Cr.16000+一等2人部屋Cr.26000+二等Cr.10000=Cr.82000です。総計Cr.102000ですからかろうじて黒字といったところでしょうか。ちょっと募集が振るわないと赤字もありえます。その際には再募集をかける(サイコロを振り直す)手もありますが、1回の募集で3日が経過するので注意してください。

(※『Cepheus Engine』の貨物・旅客募集ルールは、出発星や到着星の人口や宇宙港やTLの差、旅行安全情報の有無、乗組員の技能レベルが一切考慮されない単純なものとなっています。また、2人部屋でいいかどうかはレフリーの裁量次第のようです。基本的にはNPCが夫婦や家族である場合のみに2人部屋を認めるか、始めから船室を2人部屋仕様に設計した場合だけでいいのではないでしょうか)


 このように、Aクラス宇宙港同士をずっと飛んでいればだいたい儲かりそうな気もするのですが(プレイヤーに悪用されそうだ…)、そればっかりとはいかないでしょう。やはりリターンが欲しければリスクを負わないといけません。そこで投機貿易(Speculative Trading)です。
 投機貿易とは、自分で商品を仕入れて自分で運び、自分で売って差額を利益で得る商売方法で、うまく当てられれば大儲けも可能というのが魅力です。

 では実際にやってみましょう。まず売り手を探すところから始めます。これは本来〈ブローカー〉(や、闇市場の商品なら〈交渉〉)を使って1D日かかる行為なのですが、TL8+の世界にいるのならネットで〈コンピュータ〉を使って1D時間でささっと見つけてしまうこともできます(笑)。難易度は並(±0)ですが、宇宙港の規模に応じてプラスDMが入るので、だいたい見つかるでしょう。

 続いて売り手が何を売りたがっているか、『Cepheus Engine』116頁の一般商品表(Table: Common Goods)か貿易商品表(Table: Trade Goods)でサイコロを振って決めます。前者か後者のどちらの表を振るかはレフリーの裁量だそうですが、前者は宇宙のどこでも産出されてどこでも需要のある安定した商品、後者は星々によって価値の変わってくる商品が並んでいます。

 貿易商品表で一番注目すべきなのは、購入(Purchase)と売却(Sale)にかかるDMです。これはその星の貿易分類によって支払い時の判定に掛けられるDMが記されているのですが、例えば26番の「反重力機器(Grav Vehicles)」だと基本価格は16万クレジット、トン数は1D、購入DMは「高人(Hi)+3、富裕(Ri)+2」、売却DMは「非工(Ni)+2、貧困(Po)+1」と書いてあります。購入・売却のDMはプラスの分だけ安く購入/高く売却できる可能性が増えるので、高人口や富裕世界で買い付けて非工業や貧困世界に持って行けば儲けられそうな商品だ、ということがわかります。
(※『Cepheus Engine』ではマイナスDM、つまり農業世界で農産物を売ろうとすると買い叩かれる、ようなことはなくなりました)

 では実際に買い付けてみます。〈ブローカー〉技能による判定を行い、その結果で価格修正表(Table: Modified Price Table)を見るのですが、先程の貿易分類によるDMに該当していたらそれも加えられます(複数該当する場合は一番高いDMのみが適用)。そして簡単に言えば結果が8+なら基本価格よりも割り引いて仕入れることができます。価格に不満なら断ってもいいのですが、再交渉は1週間後になってしまいます。

 そして商品を別の星に運んで今度は買い手を探し(判定は売り手を探すのと同じです)、売却金額を先程と同様に価格修正表で決めて実際に売るかどうかを考慮します。
 反重力機器の例だと、〈ブローカー-1〉を持つ船長なら期待値的には高人口世界から非工業世界に運ぶだけで8万クレジットの儲けが期待できます(70%で買えて120%で売れそうなため)。しかもたった3~4トン程度の商品を運ぶだけで、です! そううまくいかないのが世の中ではありますが。

 また、買う際売る際に地元の仲買人(Local Brokers)を雇うこともできます。これなら自分が〈ブローカー〉を持たなくても仲買人の〈ブローカー〉技能レベルで判定を行うことができますが、当然高い技量を持つ仲買人の手数料は高額です。しかも、その地の宇宙港クラスで〈ブローカー〉技能レベルの最大値が決められます(例えば4レベルの仲買人はAクラス宇宙港にしかいません)。
 仲買人の手数料は最終価格の(技能レベル✕5)%で、その分が直ちに持って行かれますが、DMと表の兼ね合いで損をすることはありません。自分の目利きに自信がないのなら絶対に雇いましょう(ただし価格に不満があっても手数料は払わなくてはなりません)。もちろん腕利きの仲買人をレフリーが素直に出してくれるかどうかは別ですが…。
(※『Cepheus Engine』では、地元の仲買人を介さない取り引きは御法度、という設定は紹介されていません)

 このように旨味も大きい投機貿易ですが、買い手が見つからなければいつまでも船倉に置かれて場所を食うだけになってしまいますし、シナリオ進行の過程で商品が破損してしまう可能性もあります。臨検で書類の不備を見咎められて没収、なんてことはレフリーのよく使う手口です(笑)。
 そもそも売り手の登場がランダムである以上、商品を狙って安く買えるチャンスは意外と少ないのです。それでも狙って高く売ることは可能ですから、やってみる価値は十分にあります。

 他のRPGでは類を見ないこの「貿易ゲーム」は、一人遊びにも向いています。貿易分類を参照することから自然とUWPの読み方も身につきますし、無味乾燥な星域図に経済の流れを感じ取ることができるようになります。貿易産品からその星の産業をイメージしたりと、UWPに「命を吹き込む」にはもってこいです。
 この貿易を中心にキャンペーンを組み、うまく情報を流したり小荷物で目的地へ誘導したりするのが王道中の王道の遊び方ではあるのですが、プレイヤーが金儲けに夢中になり過ぎないようにレフリーは気をつけてください。冒険そっちのけでは本末転倒ですし、あまり懐が豊かすぎると、人間、危ない橋は渡ってくれませんしね(笑)。


 次回はようやく個人戦闘について。

『Cepheus Engine』で始めるロールプレイング・ゲーム入門(7)

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 今回から数回に渡って戦闘に関するルールを解説していくのですが、一つ頭に入れておいて頂きたいことがあります。一般的なRPGでは戦闘シーンはゲームの華ですが、『Cepheus Engine』ではスリルと興奮こそ味わえるもののできることなら避けた方がいいです。
 なぜなら、ルールがプレイヤー側とレフリー側で全くの公平、イーブンに設計されているからです。他のゲームのように雑魚を10人単位でなぎ倒したり、プレイヤー側に強力な逆転手段が用意されていることはありません。よって、基本的に人数で劣る側が勝利するのはかなり難しいです。もちろん戦術を駆使したり、地形を利用したり、不意討ちを決めたりすることで補うことは十分可能ですが、その前に、敵より多くの人数を集め、状況を探り、武器や補給を整えるなど、戦闘前に戦略レベルで勝利の算段をつけておくことこそが大事です。実際に戦闘が始まってしまえば、お互いに無傷では済みませんし…。


 では今回は個人戦闘ルールについて。『Cepheus Engine』の個人戦闘は1.5メートル四方のスクエア(マス)で格子状に戦場が区切られます。移動や射程などの管理もこの1マス単位です。また、1ラウンドは6秒です。
 レフリーが戦闘状態に入ったと考えたなら、戦場マップにユニット(コマ)を配置していきます。その際、交戦しあう集団同士の距離はレフリーの裁量と常識で決定されます。


■不意討ちの確認
 まずレフリーは不意討ちが発生するかどうかを確定させます。状況を考慮してレフリーが不意討ちができると判断した場合は、不意を突いた側全員の行動順を決めるサイコロ(後述)が自動的に12となります(それか、自動的に戦闘を避けることもできます)。

■行動順(Initiative)の決定
 戦闘に参加している全員がここで行動順を確定させます。全員の「2D+敏捷度DM」の結果を確認し、数値が高い順に行動していくことになります。ただし、〈戦術〉技能を持っている場合はここで判定を行い、効果値(8との差)をその者から「連絡のつく全員」の行動値に加えることができます(※複数人が〈戦術〉持ちだった場合の処理は曖昧になってしまいました(原典では「最大値のみを採用」)。指揮官のみが振れる、と定めるのも良いかもしれません。また、〈戦術〉判定の結果が負だった場合に破棄して良いかも曖昧です)。
 「連絡のつく全員」としたのは、何らかの理由で集団が分断された場合に恩恵が受けられないことを意味します。この場合、分かれた集団に〈戦術〉を持つ者がいるなら以後は別個に〈戦術〉判定が行われます。
 この行動順は戦闘開始時に定められますが、戦闘中に行動順が変化する場合があります。例えば、各ラウンド開始時に「急ぐ」を宣言することによって一時的に行動順に+2を得ることができます(代わりにそのラウンド中の全ての行動にDM-1)。
 なお行動順が同点の場合は敏捷力の大きい方から、それでも同じ場合は同時行動(とルールにありますが、順番のあやもあるので何かしらの手段で決めるべき)です。

■行動(Actions)
 行動順が回ってきたら行動を行います。1ラウンド(6秒)の間にできることは、「マイナーアクション(Minor Actions)1回」と「メジャーアクション(Significant Actions)1回」です。どちらを先に行うかはプレイヤーの判断次第です。
 あと、警告を発するとかボタンを押すとか、判定の必要もないような簡単な行為は「フリーアクション(Free Action)」として自分の手番の好きなタイミングで行えます。
 加えて、行動順が回ってきた時に「遅らせる」ことを宣言できます。これを宣言したキャラクターは、他のキャラクターの行動に割り込んで行動ができます(同時に、割り込んだキャラクターの行動順は割り込まれたキャラクターの数値と同じに再設定されます)。ラウンド終了まで行動を「遅らせ」続けたキャラクターは、次のラウンドの最初に行動することができます(そのキャラクターの新しい行動順は、全体で最も早い行動順の数値+1となります)


■マイナーアクション(Minor Actions)
狙う Aiming
 目標を定めて「狙う」を宣言することにより、1回につき命中判定のDM+1を得られます。最大で+6まで溜めることができますが、一度攻撃すると無効となります。

急所を狙う Aiming for the Kill
 これを宣言することにより、1回につき命中判定にDM+2、その目標へのダメージに+2の修正を得ます。これも最大で+6まで溜めることができますし、一度攻撃すると無効になるのは同じですが、加えて、宣言を行っている最中は移動や反応(後述)ができなくなり、他者から攻撃を当てられる(※文章に"hit"とあるので負傷の有無は関係ないと思われますが…?)ことでも溜めた修正は無効となります。

姿勢を変える Changing Stance
 キャラクターの取れる姿勢には3種類あり、「伏せ(prone)」「片膝(crouched)」「立つ(standing)」の状態を切り替えることができます。姿勢によって命中修正やできる行動に影響があります。

構える/装填する Drawing and Reloading
 準備していなかった武器を鞘から抜いて構えたり、弾切れの際に再装填します。武器ごとに弾薬装填にかかるマイナーアクション数が定められていますが、大抵は1回です。

移動する Movement
 基本的に1ラウンドで6メートル(4マス)移動できますが、悪路など移動し辛い地形や「片膝」状態の場合は移動量が半減します(※匍匐前進はルール上できないので、「伏せ」状態では移動不可となります)。

その他 Miscellaneous
 技能判定など、(2~3秒程度で)レフリーが行えると判断したものを行えます。

■メジャーアクション(Significant Actions)
マイナーアクションを2回行う Minor Actions
 メジャーアクションをマイナーアクション2回に変換します。これにより、例えば1ラウンドで移動を3回=12マス移動、ということも可能になります。

攻撃する Attack
 詳しくは後述します。

とどめを刺す Coup de Grace
 近接距離(3メートル)以内の行動不能の相手を自動的に殺害します。

その他 Miscellaneous
 超能力の使用や技能判定など、(6秒以内で)レフリーが行えると判断したものを行えます。


 戦闘の主目的は相手に攻撃を当てることです。これに関するルールは色々ありますので、しっかり把握しておきましょう。
 自分の行動で攻撃を宣言したら、攻撃目標を定めて自分との距離を確認します。斜線など、攻撃が可能であることの確認が取れたら以下の判定を行います。

 白兵戦武器を相手に命中させるには:〈白兵戦〉、筋力か敏捷度、瞬時、難易度は距離次第
 射撃武器を相手に命中させるには:〈射撃武器〉、敏捷度、瞬時、難易度は距離次第
 投擲武器を相手に命中させるには:〈運動〉、敏捷度、瞬時、難易度は距離次第

 まず、命中の難易度は相手との距離に左右されます。これは武器種別ごとに定められていますが、この武器種別は〈白兵戦〉や〈射撃武器〉の技能の種別とは異なりますので気をつけてください。命中における武器種別は、白兵戦武器が「至近(Close Quarters)」と「近接(Extended Reach)」の2種類、射撃・投擲武器が「投擲(Thrown)」「拳銃(Pistol)」「長銃(Rifle)」「散弾銃(Shotgun)」「Assault Weapon(※訳語を迷っています)」「ロケット砲(Rocket)」の6種類で、それぞれ距離ごとに難易度が「命中難易度表(Table: Attack Difficulties by Weapon Type)」で定められています。
 目標までの距離の分類は以下の通りです。

 至近距離(Personal):1.5m以内(0マス)
 近接距離(Close):1.5~3m(1~2マス)
 近距離(Short):3~12m(3~8マス)
 中距離(Medium):12~50m(9~34マス)
 遠距離(Long):51~250m(35~166マス)
 超遠距離(Very Long):251~500m(167~334マス)
 遠方距離(Distant):501m以上(335マス以上)

 0マスの欄があることでわかるように、他者と同じマスに侵入が可能であることに注意してください。
 例えば、9m(6マス)離れた敵をレーザーカービンで撃つ場合、距離が「近距離」で武器種別は「拳銃」ですから、表を見て難易度は「並(±0)」であることがわかります。これが敵に9マスまで離れられると「中距離」になるので難易度は「難(+2)」に上がります。また、武器種別は「拳銃」ですが、射撃に必要な技能は〈ピストル〉ではなく〈エネルギー・ライフル〉です。

 難易度が定まれば、後は武器技能レベルと能力値DMを加えて判定…とはいきません。ここから更に様々なDMがかかります。

狙う Aiming
 目標に対して「狙う」行動で得ていた修正を加えます。

隠蔽効果 Cover
 目標の体がどれだけ障害物で隠されているかで命中に-1~-4の修正が課されます。完全隠蔽で-4、75%隠蔽で-2、50%隠蔽で-1、25%隠蔽で±0ですが、姿勢が「片膝」「伏せ」の場合は隠蔽具合が1段階上になります(よって、無隠蔽状態でただ「片膝」になっただけでは命中に影響は与えないのです)。また、完全隠蔽状態で「片膝」「伏せ」をしていると命中判定は自動的に外れとなります(ただし応射もできません)。

環境効果 Environmental Effects
 暗闇や天候状況など、現在の周囲の環境によって命中に-1~-4の修正が課されます。

武器の電脳化 Intelligent Weapon
 武器にコンピュータを内蔵させることによって、ソフトウェアによる命中補正を受けられるようになります(※「スキルウェア(Expert Skill Software)」によるものなので、「ソフトの技能レベルを代わりに使う」か「ソフト以上の技能レベルを持つならDM+1」のどちらかを得られると思います。ただし、このソフトは「知力か教育度ベースの技能のみ」とも書いてありますし、武器に搭載できるコンピュータのメモリ量との兼ね合いで最大0レベルしか得られないように読めますが…?)。

照準器 Laser Sight
 (レーザーに限らず)照準器を搭載した銃器の場合、「狙って」攻撃した際に命中に+1の修正を得られます(※明記はされていないので、+6の上限を越える唯一の手段ではないかと思います)。

移動補正 Movement
 目標がこのラウンドで移動している場合、10mごとに命中に-1が課されます。

目標が反応した Reactions
 攻撃の目標となった者はそれに「反応」して「回避(Dodges)」または「受け(Parries)」を宣言することができます。命中に不利なDMを課させる代わりに、目標の行動順はそのラウンド中一時的に2下がり、そのラウンドの全ての行動にDM-1が課されます。また、この負の補正は同じラウンドで反応を繰り返すごとに累積します。
 射撃武器で狙われたのなら「回避」を宣言することで、命中判定を-1させます。
 白兵戦武器で狙われたのなら「受け」を宣言することで、命中判定に「受ける側が今装備している白兵戦武器の技能レベル」だけマイナスDMを課せます。
(※逆に言えば、そのラウンドで行動済みのキャラクターは気兼ねなく反応ができるということになりますが…)

目標の姿勢 Target Stance
 目標が「伏せ」ている場合、中距離以上からの攻撃には命中判定にDM-2が課せられますが、逆に至近距離(1.5m以内)まで詰めるとDM+2となります。

武器の反動(無重力環境のみ) Weapons with Recoil (in Zero Gravity)
 反動(Recoil)のある武器を無重力状態で使用した場合、命中に-2されます。


 こういったあらゆるDMを加味して8+を出せば命中、出せなければ外れとなります。命中した場合は当然ダメージ処理に移行します。武器ごとに定められたダメージの数だけサイコロを振り、その合計値から目標の装甲値(Armor)を引いたものが最終的に与えるダメージとなります。なお、命中判定が例外的成功(14+)だった場合は最低でも1ダメージが保証されます。

 ダメージを受けた場合、そのダメージはまず耐久力に入ります。耐久力が0になってもまだダメージが残っているのなら、筋力か敏捷力のどちらかが(負傷するキャラクターが選んで)減らされます。2つ目の能力値が0になってもまだダメージが溢れているのなら、残るもう1つを減らしていきます。
 ダメージを受けた結果、現在の能力値の状態によって負傷の度合いが決まります。

 1点でも能力値が減った:軽傷(wounded)
 3つの能力値が全て1点以上ずつ減っている:重傷(seriously wounded)
 2つの能力値が0になった:気絶(unconscious)
 3つの能力値が0になった:死亡(dead)

 例えば、耐久力が0になって軽傷となり、筋力も減った状態で更にダメージを受けた場合、筋力を削れば気絶するが敏捷力を削れば重傷で留まる、というケースも考えられます。重傷状態でも戦闘続行は可能ですが、1回の移動量は1.5m(1マス)にまで落ち、手番で与えられるマイナーアクションは自動的に放棄されます(よって、マイナーアクションを行うためにはメジャーアクションをマイナー2回に変換するしかありません)。
 ここで注意が必要なのは、2つの能力値がぴったり0になって気絶した場合は重傷ではなく軽傷だということです。この負傷具合の違いは治療の際に影響しますので間違えないようにしてください。

 『Cepheus Engine』はヒットポイント制ではなく能力値自体が削れる方式なので、ダメージを受けると必然的に能力値DMも変化します(と言うより、変化しなければヒットポイント制を採用するのと変わらないです)。間違えないように処理してください。
 ちなみにルールの都合上、筋力の重要性は敏捷力に劣るため、よほど筋力に自信があって敏捷力が少ないのでなければ、耐久力→筋力→敏捷力の順に削っていくのが定石となるでしょう。筋力は荷物の運搬力にも関わるので、常に筋力を削ればいいというわけでもないですが…。
(※敏捷力DMが減った場合に行動順が変わるかどうかは不明確ですが、変化させない方が混乱がないと思います。どのみち「待つ」ことでいくらでも変化させられますし)


 こうして自分の手番が終了したら、次の行動順の人が行動して…を繰り返し、(行動を遅らせ続けている人も含めて)全員が行動を終了したら次のラウンドが始まります。また行動順の数値が一番大きい人から行動を開始します。

■特別ルール(Special Considerations)
乱射 Blind Firing
 目標を見ないでとにかく(オート射撃を含めて)撃つため、技能レベルは0レベル扱いとなり、命中判定のサイコロは「3Dのうち一番高い目を捨ててから合計」したものが使われます。また、射程内の敵味方関係なく全ての対象の中から目標がランダムに選ばれます。
(※隠蔽具合などによる命中修正を確定させないといけないため、まずランダムに目標を決めてから判定を行うべきです。また、完全隠蔽状態から乱射ができるかどうかは明記が無いですが、乱射の目的を考えるに状況がおかしくなければ許可してもいいでしょう)

バースト射撃 Burst Fire
 複数のRoF(Rate of Fire)値を持つ銃器は「バースト射撃」が可能です。1回の攻撃でRoF値と同じだけ弾薬を消費することにより、命中やダメージが上方修正されます。どれだけ修正されるかはバースト射撃効果表(Table: Burst Fire Effects)を参照してください。
(※おそらく「通常/バースト/オート」の各モード切り替えはフリーアクションなのでしょう)

爆発物 Explosions
 手榴弾やロケット砲など爆発を伴う武器は、着弾地点の周辺に影響を及ぼします。爆風に対して回避反応を行えばダメージは1Dだけ減らされます(当然行動順は減少します)。隠れ場所を求めて「飛び込む」のならダメージを半減させられますが、代わりに自動的に「伏せ」姿勢となり、次のラウンドのメジャーアクションが放棄されます。

誤射 Firing into Combat
 射撃目標と同じマス(至近距離)に他のキャラクターが居る場合、目標への命中にDM-2が課されます。更に、それで攻撃が外れた場合は1Dで4+を出すと目標から最も近い対象に誤って命中します。

格闘 Grappling
 至近距離の対象への〈生得武器〉攻撃が成功し、更に対象の〈生得武器〉判定に勝利した(出目で上回った)場合、通常のダメージを与える代わりに以下の行動1つが成功したことにしても構いません。

判定が例外的成功なら対象の武器を奪う、成功なら対象の武器を地面に落とさせる。
対象を3メートルまで引きずる。
現在の格闘状況から逃れる。
対象に「2+〈生得武器〉判定の効果値(※おそらく自分と相手の判定の出目の差)」ダメージを与える。
打撃により対象を伏せ姿勢にさせる。
対象を3メートルまで投げ飛ばして1Dダメージを与え、格闘状況を終わらせる。

 なお、これらの行動後に判定の勝者側は現在の格闘状況を終わらせるか続行させるかを選択できます。続行させた場合はこの状況が続く限り、〈生得武器〉の対抗判定に勝利した方が上記の行動を選択できます。

パニック射撃 Panic Fire
 命中にDM-2され、弾薬を全て消費する代わりに、バースト射撃と同じダメージ補正を得られます(おそらくバースト不可な銃器でも)。

散弾の拡散 Shotgun Spread
 散弾銃で中~遠距離の目標を攻撃した場合、ダメージが2Dに減らされる代わりに命中に+1されます。また、目標から至近距離(同じマス)にいる全ての対象に命中します(※おそらく上記の誤射ルールの例外と思われます)。

〈リーダー〉技能の使用 Leadership
 戦闘中にメジャーアクションで〈リーダー〉技能を使用すると、8を上回った数値だけ対象1人の行動順を増加させることができます。

 他にも、戦場における通信手段(Battlefield Comms)、戦場の天候(Battlefield Conditions)、探知機(Battlefield Sensors)、制圧射撃(Suppression Fire)のルールがありますが割愛します。


 さて、個人戦闘ルールをざっと解説してきたわけですが、このルールで生き残るには「できるだけ奇襲をかける」「先手を取る」「防具や遮蔽物をちゃんと確保する」のが大事だということがお分かりいただけたでしょうか。とはいえファンタジーRPGと違って、よほど治安の悪い所でもなければ街中を防具を着て歩くわけにもいきませんから、そもそも戦闘にならないように行動するのが肝心です。
 あと、レフリー側のダメージ管理も結構負担になるルールなので、管理シートを用意するなり、雑魚敵のUPPは一律555555、一般兵で777777…という具合に手抜きするのもありでしょう。
 それとルールに記載はないですが、何も全滅するまで戦う必要もありません。真っ当な物の考えをしているなら全体の25%も戦闘不能になったら逃げるか降伏するかを考えます。〈リーダー〉技能を使った士気判定ルールを用意するのもいいと思います。


 続いて、傷を負ったなら回復しなくてはなりません。〈医学〉技能持ちがここで大活躍します。が、ゲームなので現実よりも回復は早いとは言え数日間の離脱を強いられるので、やはりそもそも無駄に怪我をしないのが第一です。

■自然治癒(Natural Healing)
 負傷したキャラクターは、丸一日静養に努めれば「1D+耐久力DM」点だけ能力値が回復します(※回復させる能力値はポイント内で好きなように選んで構いません)。一方、何か行動しながらだと回復量は「1+耐久力DM」点、重傷状態だと静養していても「耐久力DM」点となります。ここで気を付けるべきなのは、耐久力DMがマイナスとなっている場合、自然治癒に任せていては逆にダメージを受けてしまうということです。特に重傷状態では必ず耐久力は0になっているはずですから、放置すれば毎日3ダメージを受けてしまいます。

■医療による治癒(Medical Treatment)
 自然に任せては治らないことを理解したところで、〈医学〉技能を使用した治療について解説します。この場合、以下の手法が可能です。

応急手当て First Aid
 怪我をしてから5分以内に応急手当てを受けたなら、「〈医学〉判定の効果値(8との差)の2倍」点ほど失われた能力値が回復します。5分を過ぎてしまっても1時間以内なら〈医学〉効果値と同じ点だけ回復します。なお、自分自身を応急手当てする難易度は難(-2)です。
 この段階で「軽傷」まで回復させられれば自然治癒も見込めるのですが、そうでない場合は…
(※『Cepheus Engine』では明記がありませんが、応急手当ての判定書式は「〈医学〉、教育度、1D分、並(±0)」です。よって、判定を急がない限り戦闘中の応急手当ては現実的ではありません。また、装備品の「医療キット(Medical Kit)」は必要だと思います)
(※応急手当てに失敗するとダメージを受けるのか?という疑問については、おそらく「失敗は回復しないだけ」と思われます。そして戦闘後5分以内に最初の判定機会があり、失敗したら1時間以内に最後の判定機会がある、と解釈していいと思います)
(※気絶状態から意識を取り戻すタイミングが不明ですが、おそらく応急手当てで気絶状態を脱すればその時点で、できなければ自然回復などで軽傷状態に戻らなければ眠りっぱなしなのでしょう)

手術 Surgery
 応急手当てを施してもなお重傷状態であるのなら、手術が必要となります(重傷でないのなら手術は意味がありません)。手術には病院や(船の)病室が必要で、執刀医の〈医学〉効果値だけ回復しますが、効果値がマイナスならダメージとなります。手術を繰り返して1つの能力値が全快すれば「軽傷」状態となるので(※後のことを考えれば耐久力から回復してもらうべきですが、あえて元の能力値が低い所を手術して全快を急ぐ手もあります)、術後は入院して治癒に専念することになります。
 なお、自分自身を手術する難易度は至難(-4)です。
(※手術費用は1回につき「1D✕50✕TL」クレジットだそうです)

入院 Medical Care
 入院ということなので、当然病院や病室の寝台で静養する必要があります。回復量は1日ごとに「2+本人の耐久力DM+担当医の〈医学〉技能レベル」点で、損害を受けている能力値が均等に回復していきます(※手術後なら能力値1つは完全回復しているはずですから、残る2つで半々に分け合うことになるわけです)。
(※入院費用は1ヶ月で「100✕TL」クレジットだそうですが、30日以上も入院することはないでしょう)


 最後に、現在『Cepheus Engine』SRDに掲載されている武器を、技能別に「推測して」分類してみました(重火器は全て〈重火器〉で扱えるので割愛)。まあ見たまんまではあるのですが、なぜかルールではその分類が曖昧なまま放置されているので…。

〈白兵戦〉武器
〈生得武器〉:非武装攻撃(Unarmed Strike)
〈殴打武器〉:棍棒(Cudgel)
〈刺突武器〉:槍(Spear)、矛(Pike)、槍斧(Halberd)、銃剣(Bayonet)、フルーレ(Foil)
〈斬撃武器〉:短剣(Dagger)、剣(Sword)、長剣(Broadsword)、小剣(Blade)、カトラス(Cutlass)

〈射撃戦闘〉武器
〈弓術〉:弓(Bow)、クロスボウ(Crossbow)
〈エネルギー・ピストル〉:レーザーピストル(Laser Pistol)
〈エネルギー・ライフル〉:レーザーカービン(Laser Carbine)、レーザーライフル(Laser Rifle)
〈散弾銃〉:散弾銃(Shotgun)
〈ピストル〉:レボルバー(Revolver)、オートピストル(Auto Pistol)、ボディピストル(Body Pistol)、ジェットピストル(Snub Pistol)
〈ライフル〉:カービン(Carbine)、ライフル(Rifle)、オートライフル(Auto Rifle)、アサルトライフル(Assault Rifle)、ジェットライフル(Accelerator Rifle)、戦闘ライフル(Advanced Combat Rifle)、磁気ライフル(Gauss Rifle)、短機関銃(Submachinegun)


 次回は順当なら車両戦闘ルール…なのですが、とりあえず遊ぶのに必要なルールは一通り解説できたのでもういいかなぁ、という気もしてきています(汗)。むしろこの『Cepheus Engine』を一回総括してしまおうかとも考えたりしています。
 では反響次第でもうちょっと頑張る、ということで。

レビュー:『異星人の街カストロバンクラ(Castrobancla, The City of Aliens)』

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 『異星人の街カストロバンクラ(Castrobancla, The City of Aliens)』は、2016年9月にAlex Greene氏がTASライセンス下で公開した作品です。TASではあるのですが、「第三帝国(The Third Imperium)」とは関係のないオリジナル設定であり(もちろん組み込むことは十分可)、TASの利点を活かさないどころか儲ける気すら感じさせないあたりが清々しいです(笑)。ルールは当然マングース版トラベラーが前提となっていますが、トラベラー系システムに限らずスペースオペラSF-RPGであれば転用は問題ないでしょう。
 ちなみにAlex Greene氏は『Book 10: Cosmopolite』の著者でもあるので、Mongoose Publishing社に義理を立てたという可能性も考えられなくもないのですがそれはさておき。


 このPDFにぎっしりと収められた66ページに及ぶ文書は、宇宙のどこかにあるというカストロバンクラという成人人口25万人の街(とその周辺)の解説です。表題のカストロバンクラは惑星アマルジャ(D866684-8)の砂漠地帯の盆地にある街なのですが、実はアマルジャ自体が星間流通網からは外れていて、恒星間商船は主にBクラス宇宙港のある衛星カンドラ(B200333-C)に出入りしているのです。
(※一方でアマルジャにはAクラス宇宙港がある、という矛盾した記述もあるのですが誤植なんだろうか…?)

 そしてカストロバンクラに関する設定は詳細です。宇宙港手続きの通過方法に始まり(〈外交〉で面倒な検査をパスできるって…(汗))、宇宙港から街へのアクセス方法(マグレヴ(磁気浮上式鉄道)に乗ればすぐですが、あらゆる不法侵入手段も網羅)、各街区(Wards)ごとの商店の並びや治安状況、遭遇表(治安の良い地域と悪い地域では出てくる内容が異なるこだわりぶり)、パトロンになってくれそうな市民表(当然結末は6通り)、主な施設(真っ当な商店から奴隷市まで、闘技場にホストクラブも何でもあり!)、そして表題通りに、カストロバンクラに居住する様々な(癖のありまくる)異星人たち、と怪しげなごった煮と化している街が存分に表現されています。

 この星の治安レベルは4、つまり拳銃や散弾銃の携帯は合法、治安の悪い所ならもっと凶悪な武器に出くわすことも想定される水準ですが、ですから常に油断はできません。街に入れば早速ギャングが出迎えて偽造品を売りつけようとし(本物の商店を見分ける判定すら用意されています)、街を歩けば狙撃されそうになったり、火事に交通事故に暴動に出くわしたり、挙げ句の果てには向精神作用のある粉を振りかけられたりと、ハプニングには事欠きません。
 じゃあ警察や軍隊は何をしているのかというと、これでもちゃんと仕事をしていて専用の遭遇表が用意されているので、悪いことをするのも大変です。TL8世界なのにTL10で武装しているので、敵に回すとなかなかの脅威となります(でも所詮治安4なので、〈交渉〉や〈贈賄〉が結構物を言うのも否めません(汗))。
 ごみごみとしたスラムがあるかと思えば上流階層の住む「別世界」もあり、場合によっては近隣の大砂漠や山岳地帯に出向くこともあるでしょう。工業地域も農業地域もちゃんと設定されています。つまり、世界設定自体が生き生きとしているのです。

 タイトルの通り、この街には多くの異星種族が住んでいます(遭遇表の確率から想像するに、人類の方がやや少数派と思われます)。これがまた個性の強い面々揃いで、生まれながらの悪党バンダルク(Bandaluk)、暇があれば悪戯に走るドヴォーザ(Dvora)、街の調停者を自認する戦士種族クボタウラー(Kubotaur)、その「魅力」に人類は決して抗えないペラクー(Pelacur)、対砂漠防護服を決して脱がない謎の原住種族「開拓者(Settlers)」、寄生知的生命体に乗っ取られた「宿主(The Host)」(別名「ウマ(Chevals)」)、のそれぞれに簡単な解説とキャラクター作成ルールが用意されています(まあ演じるのは大変でしょうけど…)。

 あと足りない要素は、キャラクターがこの街に至る動機です。これはレフリーやプレイヤー本人が考えなくてはならないのですが、本文で例示はされています。実はここは意外と観光施設が充実していますし、企業人なら仕事で訪れることもあるでしょう。自然環境の研究に来る学者もいます。一番わかりやすいのは、何かをしくじって一時的な「隠れ家」を求めている人でしょう。金、権力、そして愛…、何でもありのこの街は、あらゆる人々を受け入れてくれます。


 これだけのものがPay What You Want(俗に言う「投げ銭」)制で手に入ってしまうんですから、いい時代になったものです(笑)。ただ惜しむらくは、地図が全く載っていないということです。せっかく詳細に街区の設定が起こされているのに、簡単でもいいから地図がないと逆に使い辛さを感じてしまいます。惑星図もあまり多用しないとはいえイメージを喚起するには十分必要なので、これは欲しかった。コストや手間の面でやれなかったのはわかってはいるんですが…。
 とはいえ、ここを舞台にキャンペーンを組むも良し(TL8世界なのでSF感は薄いですが、逆に外部から持ち込まれた高TLの産品が輝くともいえます)、パトロンとの遭遇や目的地にしても良し、とレフリーにとっては使い勝手は非常に良さそうです。ネタ帳代わりに手元に置いておくには非常におすすめの一冊です。

『Traveller: Accelerated Edition』 (Alpha Version)

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※以下のルールはあくまで作りかけのアルファ版なので、不明確な点は、大本の『Fate Accelerated Edition』(以下FAE)に準じて解決される。また、レフリー(ゲームマスター)の裁定がそのテーブルにおいての「鉄の掟(Bronze rule)」である。
※ゲーム内用語・訳語は今後修正される可能性が大いにある。

はじめに
 このゲームは未来の物語です。「わずか1週間」で隣の星まで船旅ができる恒星間航法によって人類は銀河系各地に植民し、水素を燃料とする常温核融合がエネルギー問題を解決し、反重力技術によって飛行機と地上車の区別がなくなり、戦場ではレーザー光の輝きが飛び交っています。地球とは環境の全く違う惑星で進化した知的種族と接触して、共に恒星間国家を建設したり、逆に反目しあっているかもしれません。
 プレイヤー・キャラクターは、様々な理由で日々の仕事に一区切りをつけて『旅人』になった者です。宇宙には危険と発見と…冒険が満ち溢れています!


準備
 『Traveller: Accelerated Edition』(以下TAE)ではファッジ・ダイス(Fudge Dice)と呼ばれる特殊なサイコロを用いる。6面体サイコロに2面ずつ「-」「 (0の意味)」「+」が書かれており、できれば参加者全員が4個ずつファッジ・ダイスを持つことが望ましい。
 ファッジ・ダイスを振って判定する、という行為を以下の文中では略して「ndF」と表記する。nには振るファッジ・ダイスの数が代入され、4dFなら4個ファッジ・ダイスを振って出目を合計する、という意味である(※詳細はFAEルールブックを参照)。また、ndFの後に数式が書かれている場合は、ndFの合計値にその数値を加えるという意味である。

注:ファッジ・ダイスが無い場合
 普通の6面体サイコロの「2」と「3」の面の点をそれぞれ線で結んで「-」を作り、「4」と「5」は同様にして「✕」を作って「+」とみなし、「6」の面は「□」になるよう点を結んで「1」と共に「0」とみなすことでファッジ・ダイスと同等の機能を持たせることができる。
(※見間違えない自信があるのなら、「1と2は-」「3と4は0」「5と6は+」と決めておくのでも良い)

 また、個々人のRU(Fate Point)を管理するためにコイン等が、更に一時的な設定を書き留めるメモ用紙や付箋があると便利である。



キャラクターの設定(Aspect)

経歴(High Concept)
 この欄には必ず「元職業(もしくは今の職業)」と「勤務期数」と「現在の年齢」が記載される。

【例】
 元商船二等航宙士 5期 38歳
 元陸軍少尉 2期 30歳
 ソルスティス男爵家庶子 4期 34歳

職業の決定
 プレイヤーは任意でキャラクターの職業を決めて構わないが(例:報道記者)、18歳の時点で本当にその職業に就けたかは4dFを振って-1以上を出せばその職に、-2以下となった場合は軍隊に徴募されたものとする。徴募されたなら直ぐに1dFを振り、-なら陸軍、0なら海兵隊、+なら海軍に進む。
 職業を任意で決めずランダムに任せるなら以下の表を使用する。この場合は自動的にその道に進んだものとする。

職業決定表
 -4:悪党
 -3:科学者/医師
 -2:宇宙鉱夫
 -1:偵察局
  0 :軍人(再度1dFで -:陸軍 0:海兵隊 +:海軍)
 +1:商船
 +2:会社員/官僚
 +3:工作員/司法官
 +4:貴族/富豪

悪党:暗黒街の犯罪者や宇宙海賊であったが、服役してカタギになった(かもしれない)。
科学者:学問の探究を目指していた。いや、今もそのつもりでいる。
医師:科学者の中でも医学を専門としている。宇宙には自分の治療を待つ者がいるかもしれな。
宇宙鉱夫:小惑星の鉱物を採掘して生計を立てており、新たな鉱脈(より良い稼ぎ先)を求めて星々をさすらうこともある。
偵察局:新発見の星系探査や恒星間通信の維持など、危険と隣合わせの職場にいた。
海軍:宇宙艦隊に配属され、恒星間国家の安定に寄与していた。
海兵隊:海軍艦船に同乗して敵星系や海賊船などに強襲攻撃を仕掛ける、恒星間国家の「矛」だった。
陸軍:主に惑星に駐留して有事に備える、恒星間国家の「盾」だった。
商船:恒星間貿易企業や自由貿易商船の船員として、操舵や機関制御、スチュワードなどの技術を磨いた。
会社員/官僚:企業/政府の下で職員として働いていた。
工作員:政府/企業に雇われ、秘密裏の任務をこなしていた。
司法官:恒星間/地方政府の警察など治安機構で働いていた。
貴族/富豪:社会の上流階級で自由に旅ができる立場にいる。もしくは外交などの任務を帯びている。

年齢の決定
 キャラクターが何歳までその職に居たかを決定する。
 プレイヤーキャラクターは基本的に18歳で元職に就き、以後1期4年として「4dF+5期」を勤め上げたものとする。プレイヤーはサイコロを用いず任意で期数を決めても構わない。
 ここで決めたのはあくまで退職時の年齢なので、そこから任意で加齢しても良い。

弱点(Trouble)
 身体面・精神面の欠点、永遠の宿敵、足手纏いな身内の存在、己に立てた誓いなど、あえて状況を混迷させる何かを1つ記入する。

更なる設定
 キャラクターの設定をもう1つ決定して記載する。望むなら、ここで更に1つか2つの設定を記載しても良いし、空欄のままにしてプレイ中に書き足しても良い。

名前と外見
 キャラクターに名前を与え、できるならその外見を描写する。

【例】
 エネリは、自分のキャラクターを「アレグザンダー・ジェミスン」と名付けた。
 ジェミスンは18歳で商船会社の門を叩き、4dFで0を出して無事雇用された。彼はその会社で操舵士として様々な経験を積んでいたが、(4dF+5で)4期が過ぎた時に会社の経営が傾いて彼はいきなり解雇された。34歳で世間に放り出された彼は、旅立つ準備に1年を掛けて35歳で旅人になった(とエネリは設定した)。


能力値DM(Approaches)
 全てのキャラクターは以下の6つの能力値を持つ。

筋力:文字通り筋肉・力の強さを表す。
敏捷力:手先の器用さ、身のこなしの素早さなどを表す。
耐久力:肉体の頑強さ、意志の粘り強さなどを表す。
知力:頭の回転の速さ、ひらめきなどを表す。
教育度:蓄積された知識・経験、教本通りに的確に行えるかなどを表す。
社会身分度:生まれや身なりの良さ、立ち振舞、金銭面での恵まれ方などを表す。

 この6つの能力値は、以下の要領で修正値(DM)を決定する。

2dF+1を6回振る。ただし-2が出たら振り直す(つまり得られる数値は0~+3の範囲となる)。
得られた数値を6つの能力値に割り振っていく。

【例】
 エネリは2dF+1を6回振り、得られた出目は以下の通りとなった。
 0、-2、+2、+1、+3、+1(ただし-2は振り直して+1となった)。
 そしてエネリは自分のキャラクターである「アレグザンダー・ジェミスン」の能力値にDMを以下のように配置した。
 筋力0、敏捷力+1,耐久力+1、知力+3、教育度+1、社会身分度+2。


特記事項:
※貴族/富豪出身のキャラクターは、社会身分度が必ず+2以上であること。+1以下しか割り振れない(振らない)場合は、社会身分度が高くない理由を考えて弱点か設定に書き込む(親が不名誉な行いをした、等)。
※悪党出身のキャラクターは能力値DMを割り振った後、社会身分度を1減らして、+3ではない他の能力値DMを1増やさなくてはならない。この場合、社会身分度DMが-1になることがある。

オプションルール:
 プレイヤー間の公平性を求めるなら、6つの能力値に「+3を1つ」「+2を2つ」「+1を2つ」「0を1つ」と割り振っていく。


特技(Stunts)
 経歴で決めた現在の年齢によって、取得できる特技の数と潜在力(Refresh)の値が決定される。
 34歳以下:特技1つ、潜在力は3。
 35~44歳:特技2つ、潜在力は2。
 45歳以上:特技3つ、潜在力は1。

 特技はなるべく特徴に記載したことに関連する事柄にする。書式は、

『特徴に関連した理由』なので『特定の状況』の時に『能力値DMの1つ』で『攻撃/防御/優越/克服』しようとするなら+2を得る。
『特徴に関連した理由』なので、1シナリオで1回だけ『何らかの行いを描写』することができる。

【例】

軍隊出身なので、銃器を使って敏捷力で攻撃しようとするなら+2を得る。
アブラットを着ているので、レーザー火器で撃たれた時に耐久力で防御しようとするするなら+2を得る。
汚れ仕事に手を染めていたので、交渉の場で賄賂を渡して社会身分度で優越しようとするなら+2を得る。
経理に通じているので、書類作業を教育度で克服しようとするなら+2を得る。
教官時代の教え子が各地にいるので、1シナリオで1回だけ海軍基地で便宜を図ってもらえる。

 潜在力はゲーム開始時のRU(ルー)の最低保証値である。シナリオ終了時に余ったRUは次のシナリオにそのまま持ち越せるが、潜在力を下回っていた場合には潜在力と同値に戻る。


行動(Action)

自分が何をしたいかを説明する。
次のどの行動を取るかを宣言する:「優越する」「克服する」「攻撃する」「防御する」
その行動に相応しい能力値を決める。
ダイスを振り、能力値DMを加える。
(状況が合致するなら)特技によるボーナスを加える。
設定発動のボーナスを加える。
レフリーの定めた目標値、もしくは目標となる相手の数値と比べて結果を見る。

結果(Outcomes)
 失敗:あなたの数値が目標より低い。
 同数:あなたの数値が目標と同じ。
 成功:あなたの結果が目標より1か2高い。
 例外的成功:あなたの結果が目標より3以上高い。

優越(Create an Advantage)
設定を作成する、もしくは発見することで優越するなら:
失敗:設定の発動や発見は行えない、もしくは相手が無償の発動1回を得る。
同数:新規作成なら1回の添加を得る。既存の物を探すなら成功として扱う。
成功:設定の作成や発見を行い、無償の発動を1回得る。
例外的成功:設定の作成や発見を行い、無償の発動を2回得る。

既に発見している設定を優越するなら:
失敗:優越は付与されない。
同数、成功:その設定に関して無償の発動を1回得る。
例外的成功:その設定に関して無償の発動を2回得る。

克服(Overcome)
失敗:失敗、もしくは重い代償を伴う成功。
同数:少々の代償を伴う成功。
成功:課題を達成する。
例外的成功:課題を達成した上で、添加(boost)を1回得る。

攻撃(Attack)
失敗:効果なし。
同数:攻撃は対象を傷つけないが、添加を1回得る。
成功:命中してダメージを与える。
例外的成功:命中してダメージを与える。ダメージを1点減らして添加を1回得ても良い。

防御(Defend)
失敗:相手の成功による悪影響を受ける。
同数、成功:あなたにとってそれほど悪い効果はない。何が起きたかは、相手の行動の説明を見る。
例外的成功:相手が望む結果は得られない。加えてあなたは添加を1回得る。


課題(Challenges)

競争(Contests)

衝突(Conflict)
 FAEルール通りに解決する。ただし「物理的衝突」は敏捷力の高い順、「精神的衝突」は知力の高い順に処理する。

活力(Stress)と悪影響(Consequences)
 各キャラクターには3つの活力ボックス(Stress box)がある。それぞれの活力ボックスの大きさは、能力値DMの筋力、敏捷力、耐久力に割り振った+の数と同じである。

【例】
 元海兵隊員のアンドリューは、軍隊の訓練で肉体が鍛え上げられた設定だ。彼には筋力+2、敏捷力+2、耐久力+3が割り振られているので、活力ボックスの大きさは2と2と3となる。
 一方頭脳派の元偵察局員メイサは、筋力0、敏捷力+2、耐久力+1しか割り振っていない。活力ボックスは筋力からは得られず、敏捷力と耐久力から得る2と1のみとなる。

オプションルール:
 キャラクター間の公平性を求めるなら、FAEの規定通りに全員が「3と2と1の活力ボックスを1つずつ」とすること。

 悪影響は、活力ボックスで吸収しきれなかった(しなかった)ダメージを受け止めるために使われる。全てのキャラクターには「軽度(2点)」「中度(4点)」「重度(6点)」の悪影響ボックスがあり、書かれた点だけダメージを吸収した際にその欄に悪影響の内容を設定として書き込む。
 悪影響は基本的に以下の時に自然回復する。
 軽度:シーンの終わりに回復する。
 中度:次のセッションの終わりに回復する。
 重度:キャンペーンシナリオの終わりに回復する。
 なお、医療行為などで悪影響を1段階低く付け替えられることがある。

排除
 ダメージに対して全てを対処できない(しない)場合はシーンから排除され、相手は排除した者をどうするか好きに決定できる。

勝ちを譲る
 相手に対して勝ちを譲ることを選択したら、どのようにしてシーンから退場するかを好きに決めることができる。加えてRUを1点以上得る。


設定
・発動
 RUを1点使って+2を得るかサイコロを振り直す。もしくは相手の難易度を2上げる。
・強要
 設定が状況を混迷させた時、RUを1点受け取る。
・事実の構築
 

設定の分類
キャラクター設定
・作成時に記入したもの。
・到達点に来た時に変更することができるかもしれない。

状況設定
・シーン開始時に配置される。
・優越を作る行動で制作されるかもしれない。
・克服行動で消去されるかもしれない。
・その状況が終われば消滅する。

添加設定
・無償で1回発動して消滅する。
・相手の克服行動で消去されるかもしれない。
・使用されなかった添加設定はシーン終了時に消滅する。

悪影響
・成功した攻撃からダメージを吸収する際に書き起こされる。
・相手はこれを状況設定として発動させるかもしれない。


到達点(Milestone)
 基本的にFAE準拠だが、TAEでは到達点に着いた際に経歴や能力値DMや潜在力を変更したり、上昇させたりできないものとする。特技の変更はできるが追加はできない(※例外として、加齢によって35歳か45歳を越えた場合は特技を増やして潜在力を減らす)



付録:
大学/士官学校への進学
 キャラクター作成時にキャラクターを大学/士官学校に通わせたことにしたい場合は、以下のルールに従う。
 18歳の時点で4dFを振り、+1以上の結果が出れば自分が希望した進学先に進めたものとする。0以下の場合は改めて通常ルール通りに就職先を決定する。合格した場合、4年間通うため卒業時には22歳となり、そこから職業の期数を重ねていく。
 なお、大学/士官学校を卒業した者は教育度に+1される(ただし+4以上にはならない)。また、階級(次の項目を参照)を決める際に「既に1回昇進した」扱いとなる。

 進学先は以下の中から選択する。
一般大学:自動的に企業勤め/官僚、科学者に進める。
医科大学:自動的に医師に進める。教育度に1以下を割り振ってはならない。
商船学校:自動的に商船に進める。
陸軍士官学校:自動的に陸軍に進める。
海軍兵学校:自動的に海軍、海兵隊に進める。


階級
 キャラクターの経歴で最終階級が欲しい場合は以下のルールに従う。
 4dFをキャラクターの期数回振るが、まずは+1以上の結果を「昇進」とする。1回「昇進」すればそれ以降は0以上を「昇進」とみなし、最終的に「昇進」した数を数えて職業ごとに用意された表を参照すること。
 なお、徴募されたキャラクターは4dFを振る機会を1回減らすものとする。

軍人
0:兵卒/下士官(※)
1:少尉
2:中尉
3:大尉
4:少佐
5:大佐
6:准将
※階級0で終わった場合は「2dF+期数」で最終階級を確定させる。ただし徴募された場合は+の出目は0とみなす(出目が「-+」なら-1)。
 -1:一等兵 0:上等兵 +1:伍長 +2:軍曹 +3以上:曹長)

偵察局/会社員/官僚
0:職員
1:主任
2:主任長
3:副係長
4:係長
5:課長補佐
6:課長

商船
0:見習
1:四等航宙士
2:三等航宙士
3:二等航宙士
4:一等航宙士
5:船長
6:船団長

司法官
0:巡査
1:巡査部長
2:巡査部長
3:警部補
4:警部
5:副署長
6:署長



今後の課題
武器と防具
 武器はダメージを増やし、防具はダメージを減らす(攻撃や防御の判定を修正するのではない)。武器には射程を設けるため、戦闘ルールにも修正が必要になる(距離線ふたたび?)。

金銭管理
 従来通りの管理法を導入すべきか。

輸送機器・宇宙船
 
年齢効果

そもそも『Fate Core』で作れば良かったんじゃね?


【あとがき】
 元々「現代的な」トラベラーシステムを模索するためにFateシステムの研究用として試作したものですが、そのまま長期間放置してしまったので思い切って公開することにしました。ルールの骨子はFAEそのままなので、FAEを運用できる人なら足りない部分を補ってプレイすることができると思います。
 細かい点でトラベラー「らしさ」を追求はしてみましたが、実際に遊べるようにするにはもう少しディテールを作り込まないといけないかな、とは思っています。ただそれがいつ形になるかは別ですが…。
 なお、FAEのルールについては様々な方々の協力を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

レビュー:『Mindjammer: Dominion』

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 『Mindjammer』は、2009年に旧FATEシステムの『Starblazer Adventures』(※宇宙戦艦ヤマトではなく、英国のSF小説原作のRPG)で遊ぶ一世界設定として世に送り出され、2011年には小説版が発売されました。そして現行のFate Coreシステムに載せ替えた新版ルールは2014年に発売され、2015年にはEnnie賞(ベストルール部門)にもノミネートされています。
 『Mindjammer: Traveller Edition』は、2015年末にシナリオ本『City People』への投資をKickstarterで募った際に合計1万ポンド到達の特典として企画されたものです。これは文字通り『Mindjammer』をマングース版トラベラーのシステムに載せたもので、資金募集締め切りの約1年後となる2017年1月11日に、マングース版第2版コアルール対応まで成されて無事発売されました(しかも当初予定の288ページが384ページにまで増やされています)。

 この『Mindjammer』は、今から15000年後もの超未来を描く「トランスヒューマン・スペースオペラ」です。その技術水準は、トラベラー流のテクノロジー・レベルで言うならTL15~18が標準技術、TL19~21が最先端技術という、従来の帝国設定を遥かに超えた宇宙となっています。肉体に機械を埋め込み、遺伝子を組み替えるのも当たり前です。この時代の宇宙船は自意識を持ち(※Fate Core版ではプレイヤーキャラクター化も可能と聞きます)、重力からエネルギーを得られるので燃料補給は必要なく、遅くても100G加速(!)で宇宙を駆け巡ります(ただし超光速に入るにはお約束の重力100倍圏ではなく、星系のヘリオポーズを脱しないといけないらしいので、100G加速でも52時間(※この速度と距離になるとウラシマ効果が発生して主観で50時間)かかります)。
 しかし、人類が太陽系を脱したのがようやく1万年前なのはともかく、超光速航法の開発に至ってはわずか200年前なのです! それまでの人類は光速以下で宇宙に広がっていったので、結果それぞれの星々は全く別々の文化を持つことになりました。また、遺伝子改良などで入植先の惑星の環境に合わせて自らを改造していったので、今や「人類」と言えどもその亜種は多岐に渡っています。加えて、数々の知的異星種族との接触(や交戦)も行われています。超光速航法の開発によって、サブタイトルに掲げられた「第二宇宙紀(Second Age of Space)」の再接触の時代が訪れても、その差異を埋めるのは容易なことではありません。
 『Mindjammer』のテーマは、こういった文化や種族の摩擦を乗り越えて文明の光を宇宙に灯し、再び恒星間社会を再結集させるべく努力を重ねるところにあります。まあそんな堅苦しく考えずに、従来のトラベラー型冒険に勤しんでもいいのですが。

 『Mindjammer』最大の特徴が「マインドスケープ(Mindscape)」の存在です。超能力と精神世界とサイバー空間が一体となったかのようなマインドスケープには、マインドスケープ・インプラントを埋め込むだけで誰もが簡単に出入りできます(そしてインプラントを埋め込むのは当たり前です)。マインドスケープは通信手段であり、膨大なデータ(これには記憶どころか感情や自意識すら含まれます)の格納庫であり、仮想空間でもあります。市民同士はマインドスケープで結びつき、マインドスケープから技能の助力を得、時にはマインドスケープを通して攻撃も行われます。
 キャラクターは耐久力に等しいテクノサイ・ポイント(Technopsi Point)を持っていて、超能力ポイントと同じように一定のポイントを消費して様々なことが行えます。なお、テクノサイには超能力と違って「距離」の概念はなく、相手のIDを知っているか何らかの手段で相手を捜査して識別できれば、どこに居ようとテクノサイの対象にすることができます。一番穏便な使い方としては、仲間がどこに居ようと思考投射(Thoughtcasts)で連絡をつけることが可能なので、もはや「このシーンに君はいないだろ」とプレイヤーを分断するレフリー術は時代遅れです(笑)。

 さて、今回の『Dominion』はクイックスタートルールと導入シナリオがセットになって無料で提供されたもので、早い話が「お試し版」です。ただしクイックスタートルールと言っても、そのルール部分はマングース版第2版コアルールに依存しているので、単体でのプレイは無理です(とはいえ第1版コアルールやCepheus Engineでもどうにかなるとは思いますが…)。
 内容は、コアルールからの変更・追加点、そして作成済みサンプルキャラクター4名を使用した30ページにも及ぶ導入シナリオ「ドミニオン」です。辺境の惑星ヤンドの惑星図込みの詳細な設定や、独特な宇宙船のデッキプランも含まれており、なかなかの読み応えです。

 この惑星ヤンド、UWPこそCA96738-Bとされていますが定義が変わっているので鵜呑みにはできません。直径は旧地球(Old Earth)の2倍、質量は14倍もあるスーパーアースで、重力は何と3.5G。辺境世界なのでTL11の初期星間技術とCクラス宇宙港ではありますが、その宇宙港も「軌道エレベータに支えられたオービタル・リング」なのですから、これが田舎扱いとはさすが超未来。
 ここに居住するヤンド人(Yand)は人類ではありますが旧地球からの直接の入植者ではなく、別の植民星から災害で追われた移住者だと彼らの神話は伝えています。彼らは軌道上に居住して地表の農業植民地を監督していましたが、やがて地上に降りた者たちは高重力と汚染大気に適応したモングート族(Mongute)に分化しました。また、軌道上のヤンド人たちも1000年をかけて軌道居住区を「マンダラ(Mandala)」と呼ばれる軌道リングにまで拡大していきました。
 そして現在のヤンドは地理的要因から敵対しあう大国同士の駆け引きの場となっており、シナリオ「ドミニオン」も敵国(の属国)の工作員に拉致された自国のサイフォース能力者を時間内に奪還するミッションになっています。

 なにぶん従来の常識が通用しない世界設定なので未だに把握に四苦八苦しているのですが(汗)、遺跡探検も再接触も未踏星系探査も交易も戦争も何でもできそうな懐の広い設定なので、レフリーとプレイヤーがしっかり把握できれば十分楽しめそうではあります。もはや魔法と区別のつかない技術文明で遊んでみたい、という方にお薦めです。

(※ただ、相互に共通認識が出来たのであればFate Core版の方が回しやすそうな気もしますが…。トラベラー版のメリットは、キャラシートにデータとデータとデータを書き込まなくてはならないことによって、独特の世界観を「視覚化」することにあるので)

星の隣人たち(1) スピンワード・マーチ宙域の知的種族

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 「星の隣人たち(Interstellar Neighbours)」とは、アラミス(スピンワード・マーチ宙域 3110)のアラミス博物館(The Museum of Aramis)にある展示コーナーの1つで、帝国内外の様々な種族について特性や歴史について紹介しています。本記事でも同様に、既知宙域(Charted Space)に生きる多種多彩な知的種族を紹介していきます。
 今回は、特にスピンワード・マーチ宙域に絞って解説をします。
(※文中の「T5SS」とはTraveller5 Second Surveyの略で、「現在の」公式な宙域設定です。しかしながら、この場ではT5SSから漏れた「過去の」公式設定もなるべく取り込んで解説していきたいと思います)


【人類】 Humaniti
ヴィラニ人 Vilani
ゾダーン人 Zhodani
ソロマニ人 Solomani
ヴェックス人 Vexx
ダリアン人 Darrian
トレクセン人 Trexen
トンドウル人 Tondouli
ジョンカー人 Jonkeereen
ネクシー人 Nexxies
ネイキッジ人? people of Nakege

 それぞれの詳細については『「人類」総まとめ』を参照のこと。これら以外に、ジェオニー人の商人やモーラ(3124)のシレア人コミュニティなど、群小人類を見かける場合はある。
 1105年現在、帝国とゾダーンの間の緊張状態によりゾダーン人を帝国内で見る可能性はかなり低いと思われる。
 テラから遠く離れているので、この宙域ではソロマニ主義は浸透していない(むしろ「敵国の」思想と捉えられている)。しかしながら、移民社会ゆえに前星間文明時代のソロマニ文化が理想化されて(もしくは歪んで)伝わっているのもこの宙域の特色である。一方でヴィラニ文化はほとんど継承されていない(例外として、ヴェインジェン(3119)の原住民は退行こそしたもののヴィラニ人の純粋な末裔である)。帝国市民のほとんどは混血だが、植民の経緯から中には純血のソロマニ人もいるかもしれない(特にソード・ワールズ人やガルー(0130)のガルー人は、純血のソロマニ人である可能性が高い)。
(※T5SSでは群小種族としてガルー星系に「ガルー人(Garoo)」の記載がありますが、確かに原典の『Behind the Claw』では群小種族の項目で解説があり、「human minor race」との記述があるものの、その内容は「ガルー人は多かれ少なかれ帝国の人間と同じ」「ガルーは-1508年にソロマニ人によって入植された」とあり、ソード・ワールズ人と同様にソロマニ人入植者の末裔であることは明らかです)


【主要種族】 Major Races
 身体的・精神的特徴については、この場では割愛する。
 「主な居住世界」はその世界人口の数%以上を占める場合に記載しているが、当然これらの世界以外で居住している場合もある(※T5SS設定とGURPS版設定では差異が大きいので、事前に確認した上で採用するか否かを決めてください)。

アスラン(フテイレ) Aslan (Fteirle)
主な居住世界:ベリーゾ(3015)、エクトロン(0326)、ザマイン(0421)、アングルナージュ(0425)、ロジェ(0427)、ローレ(0526)、マイア(0527)、ダリアン(0627)、クーノニック(0822)、ミューエイ(0838)、リジャイナ(1910)、ニュー・ローマ(1938)
 嗜好品の砂胡椒(dustspice)や各種貿易産品を求めて、トロージャン・リーチ宙域方面から貿易商人がやって来ている。また、傭兵部隊の勇猛な兵士として見かけることもある。中には戦った後そのまま定住した者もおり、リムワード方面の星系にはそういった帰化した(中にはイハテイによる不法占拠があるにしても)アスラン居住世界が点在している。
 またダリアン連合では、第一次辺境戦争(589年~604年)に協力した後帰化定住したアスラン傭兵の子孫が、今では連合の人口の8%を占めるまでになっている。彼らは長い時間をかけてダリアン文化を一部受け入れて融和したため、逆に生粋のアスランからは裏切り者とみなされる程である。

ヴァルグル Vargr
主な居住世界:ルーシュー(0215)、コンドイル(0901)、プパーキン(0902)、ウォルストン(1232)、ファーリーチ(1402)、エクストーレイ(1711)、リジャイナ(1910)、ジェセディピア(3001)
 コアワード方面の国境外から海賊行為で侵入してくることで悪名高い彼らだが、統一行動を不得手とする彼ららしく善良な者も多くいる。商売や就職などの理由で帝国に定住した者も少なくないし、海賊による迫害から逃れてきた難民もいる。帝国に帰化したヴァルグルの多くは、「同胞」による海賊行為を受け容れがたく感じている。
 とはいえ、コアワード方面星系にはヴァルグル海賊の拠点がいくつも存在するのもまた事実である。

ドロイン Droyne
主な居住世界:アンドー(0236)、キャンドリー(0336)
 ドロイン社会はいくつもの職業階層に分けられているが、ドロイン世界の外で出会うドロインは「特異階層(Sport)」に属する者が大半である。中には「シーヨ・スプド(Thyo Supud)」のように自由貿易商人としてスピンワード・メインを旅する者もいる。ドロインは相手の社会の流儀に合わせられるため、たいていどんな所でもうまくやっていける(※ククリー相手を除く)。
 なお彼らの母星には、現在キャンドリーが有力視されている。
(※『Behind the Claw』でのみサンシバー(0412)とスピレール(1927)にも居住していることになっていますが、一方で同じGURPS系統の『Alien Races 3』では否定されているので、ここでは外しました)

ハイヴ Hiver
ククリー K'kree
 彼らの生息圏はスピンワード・マーチ宙域から遥か遠いが、長距離商人や文化使節団が宙域を訪れることも稀にある。
(※ハイヴに比べてククリーは更に稀です。必ず群れで行動し、閉所恐怖症かつ肉食種族を憎むククリーが遥々やって来るのはよほどのことでしょう)


【群小種族】 Minor Races
 多くの群小種族は人類ほどには別環境への適応が難しく、母星や居住星系以外で見かけることは少ない(が、何事にも例外はある)。
 このリスト以外に、ブワップ(Bwap)の官僚や研究者、ヴィルシ(Virushi)の医師など、帝国のどこにでも居る種族は当然この辺境宙域で見かけてもおかしくない。

アミンディー Amindii
母星:リジャイナ(1910)
 「森の人」を意味するアミンディーは平均身長2.2メートル、体重110キログラムの昆虫型知的種族で、大きなバッタのように見える(なお実際に彼らを「バッタ」と呼ぶことは侮辱ではない)。8脚のうち4脚が「腕」、2脚が「足」であり、残る2脚はかつては歩行に用いられていたが今は単なる痕跡である。食生は草食で、野菜や植物由来の食材を好む。社会階層と一体化した性別は「孵卵役(Egg-layer)」「活性役(Activator)」「運搬役(Bearer)」の3つに分けられる。それらの内、社会を動かしているのは運搬役のみである。
 アミンディー社会は非常に協調性が高く、人類の個人主義とは相容れないが、帝国との接触以後彼らは個人主義をそれなりに理解はしている(しかし習慣として採り入れることはなかった)。
 彼らの会話は身体言語(body language)が基本であり、少なくとも肉声に感情が乗せられることはない。彼らの銀河公用語を聞いた者は無機質的と感じるだろう。
(※アミンディーはTraveller5以降(厳密にはFFEが試作したトレーディングカードが先)にその存在が明かされた種族で、その外見はJTAS誌第7号(1980年)で既に掲載されていた「ことになりました」)

ヴィジ Viji
母星:ゼータ2(0919)
 顕微鏡サイズ程ではないにしろ、結晶昆虫に似た小さな珪素-弗素生命体らしい。彼らは「巣」に群がって生活し、地獄のような世界の致死性大気から栄養を得ているようだ。彼らの社会構造は不明であり、おそらく「巣」単位の集合意識と思われる。
 ……と、曖昧な記述となっているのは、実は今のところ研究や接触が試みられているものの、ヴィジの存在自体が疑われているような有様だからである。
(※こんなのを入れていいのか迷いましたが、一応公式設定なので…)

ウルスティ Ursty
母星:ユースト(2309)
 体重約60キログラムのウルスティは、3つの非常によく見える目と灰色のスポンジ状の皮膚を持つ、タコのような雑食水棲生命体である。彼らには7つの肢があり、そのうち1つは交尾と求愛行動のために確保されている。
 彼らは海中の他の生物や植物を、まるで人類が道具を使うように使役する文化を持つ。また、ウルスティには所有の概念がなく交易も理解することができない上に、生息域が深海のため、人類からは半ば無視されている状態である。

エボキン Ebokin
母星:イェバブ(3002)
 4対の足と2対の腕を持つ知的種族。女性は体重150キログラム程で、男性はそれよりいくらか小さい。
 彼らはとても保守的で、厳しい法律に縛られた女性支配の社会を構成している。多くのエボキンは故郷の星を去ることなく、遠くに旅行すらしない(※エボキンは母星の異種大気に適応しているのも理由です)。エボキンは帝国市民であるが、厳格な法に生きる彼らにすれば帝国は泥棒と嘘つきの集まりで、急速な変化で混沌とした無法の社会にしか見えない。

オベイエリー Obeyery
母星:スターヴ(0710)
 短く美しい毛皮に覆われた、外見はオオトカゲに似た約400キログラムの雑食両生類種族。
 スターヴの沼地で群れを作っていた祖先からの習性で、彼らの社会は常に誰がボスであるかを示そうとする。これはヴァルグル社会に似てはいるが、遥かに安定している。

オターリ Otarri
母星:ファルドー(1131)
 多くの人類から「肺魚(lung fish)」と呼ばれるオターリは、手や足にヒレを持ち外見が鱗に覆われた、魚のように見える人類型両生類である。しかしその大きな目は人類にはどことなく不気味に感じられる。
 彼らはファルドーの沼地に産業化前の原始的社会を構成し、世襲でない終身女王によって統治されている。最高統治者は常に女性であるが、彼らの社会は非常に男女平等的である。

サウリアン Saurian
母星:サウルス(1320)
 体重は100キログラム程、尻尾と鱗を持つ直立二足歩行の温血生命。通称は「トカゲ人(Lizard-men)」。彼らの爪はポケットナイフ並に頻繁に利用されている。サウリアンは雑食だが、彼らの肉体を維持するために主に肉を食している。
 彼らは人類には部分的にしか理解されていない複雑な社会構造を持っているが、彼らの故郷の星への人類入植者の影響も受けていて、現在では部族ごとの村を築き、作物の収穫を学び、かつては狩っていた獣を家畜化している。知性の低さゆえに思想家ではないが、同族同士や人類とは帝国市民として好意的な関係を保っている。
(※サウリアンという名前に引きずられてか、挿絵ではまるで「恐竜人」です。とはいえ、そういう外見だからこそ偵察局が星系名をサウルスとしたのかもしれません)

シェオル Sheol
母星:ケリオン(0614)
 ケリオン星系の巨大ガス惑星に生息する「シェオル」は、共生関係にある2つの生命体の総称である。
 「スキッドマザー(Squid Mothers)」は直径2キロメートル強の球体生物で、その巨大な体の下に長さ800メートル、幅30メートルの20本の触手が垂れ下がっている。体内の多くは中空で、熱されたガスで満たされている。生ける風船であるスキッドマザーは、アンモニアの雲の中を浮遊して餌を探す。
 「メッセンジャー(Messengers)」はスキッドマザーと連携する知的生命で、大きさが人類に近いので他種族と接触・交渉する際はこちらが表に出る。メッセンジャーはスキッドマザーに従順で、異星生物学者は知性を獲得する前のメッセンジャーをスキッドマザーが家畜として意図的に繁殖させたのではないかと考えている。

シックス Six
母星:ティオナーレ(1511)
 ティオナーレの密林地帯の奥地に住む、6肢であることから通称「シックス」と呼ばれるこの知的種族は、TL0の原始狩猟採集文化を持つ。政治機構も戦士族長が部族を治める初歩的なものである。部族間の抗争や確執は彼らの間では日常茶飯事だが、少なくともごく最近までは植民者たちとの関係は平穏だった。
 近年では謎の理由によってシックスによる農場への一連の襲撃が拡大しており、トラベラー協会はこの星をアンバーゾーンに指定して旅行者に注意を呼びかけている。
 彼らの人口は数百万単位としか見積もられておらず、数十種類の方言を含む言語は基本的なものしか解明されていない。研究が進んでいないことが、彼らが敵意を抱く理由の解明を妨げている一因となっている。
(※ティオナーレ星系の知的種族の存在自体は、JTAS誌第9号掲載「Amber Zone: Soft Bunk」で示唆されています。このシックスの設定はそれを非公式に膨らませたものです。これが公式設定化していないのか、T5SSではただ「minor」とのみ記載があります)

ズーファニ Zhurphani
母星:不明
居住星系:ヨーリ(2110)
 ヨーリ星系の人口の6割はこのズーファニで、彼らは自らを「ズーフ(Zhurph)」と呼んでいる。考古学研究により、彼らは約3000年前に亜光速宇宙船でヨーリに降り立ったことが判っているが、その宇宙船も今では失われてしまい、彼らがどこから来たのかは謎となっている。
 身長は2メートル、体重は150キログラムで、爬虫類のように見えるが雑食の温血動物である。そして彼らは通常光と赤外線の両方を見ることができる。
 現在、ヨーリの人類文化とズーファニ文化は一体化が進み、地元方言も双方の言葉が入り交じったものになっている程である。よって種族間に緊張は存在しない。
(※初出は『Guildsman』というAD&Dとトラベラーの両方を扱うファンジンで、2000年秋発行の第7号にこの記述があります。本来なら非公式設定ですが、後にT5SSで公式設定に採用されたようです。ところで気のせいか、ヨーバンド(2303)にピラミッドを建設した未知の種族に特徴が似ているような…??)

タシャキ Tashaki
母星:レティネイ(0416)
 レティネイの全ての生命と同じく、体の維持に高放射性元素を必要とする珪素生命体。研究によって、タシャキを含む全ての動植物は太古種族より25万年も早い60万年前にレティネイに持ち込まれたことが判っている。
 タシャキの社会どころか性別や性格の有無すらよく解っておらず、会話が「ノード」を様々な色に点滅させて行うことが判明しているぐらいである(ちなみにコンピュータによる翻訳は可能)。
(※レティネイには帝国研究基地デルタがあり、25人が勤めています。その実態は従来は「情報伝達に関する研究」とされてきましたが、このタシャキの設定が追加されたことで、敵国国境付近でわざわざ研究を行う別の解釈が可能になった…かもしれません)

チョカリ Chokari
母星:フォーレン(1401)
 「水の民」を意味するチョカリは、太古種族がテラのイルカに遺伝子改良を施して生み出した水棲種族(海中でしか生きられないわけではないが、やはり水中や水辺を好む)。イルカ起源でありながら大きさや外見は人類に似ており、もはやイルカやドルフィンとは別の種である。手足にヒレを持ち、肌は緑や青系統の暗い色をしている。別言語を容易に学ぶが、基本はクリック音での会話である。また、彼らには鼻がないので匂いは感じられない。
 太古種族によって持ち込まれて以後、社会は発展させたものの、帝国暦189年にゾダーン人が接触した時点でもTL2止まりであった。更に、852年になってチョカリが強力な超能力を持つことが判明したため、ゾダーンは研究目的でフォーレンを併合した。併合後もチョカリ社会には影響はなかったが、しばしば超能力研究の目的で個人が連行されるのが悩みの種となっている(※めったに怪我はしないが苦痛らしい)。
 チョカリは平和を好み、ゾダーン人とは友好的ではないにも関わらず抵抗活動を行おうとはしない。しかし身を守るためには超能力を使用することもある。
 チョカリ社会は部族制で、フォーレンには数千ものチョカリ部族が存在する。部族ごとに文化や考えはまちまちで、ゾダーン人に従順な部族もいれば、ゾダーン人の弱体化を目論む部族もいる。伝統の生活様式を守る部族もあれば、生活向上のために新技術を受け入れる部族もあるが、部族同士はチョカリ本来の平和志向のために敵意を持つことはない。
 ゾダーン人に対する嫌悪感ゆえに外世界人に対しては警戒しているものの、非ゾダーン人は彼らの信頼を得られやすい傾向がある。
(※『Spinward Marches Campaign』によると、ゾダーンが帝国からこの星系を併合したのは986年の第三次辺境戦争終結時となっています。この星への帝国市民の入植は400年代(「History of the Spinward Marches」参照)ですから、189年にゾダーン人が先に接触した設定はありえるとしても、852年時点では帝国領だったのは間違いありません(今もフォーレンに住むドルフィンは帝国時代に移住したのでしょう)。しかし800年代といえば超能力弾圧以後なので、「852年にチョカリに超能力が発覚して帝国はアンバーゾーン指定で隔離→986年にゾダーンが併合」という流れになったと考えられます。原文ではゾダーンによる併合は853年となっていますが、以上の理由により設定ミスと考えて削除しました)

テスマリ Tethmari
母星:ギョマー(0108)
 硬い革の皮膚を持ち3本足の、体重100キログラム程のずんぐりとした生命体。前肢は視覚・聴覚・嗅覚の感覚器官に更に消化器官を兼ね、肢で道具の使用や機器操作を行う際には残る後方の2肢で立つことができる。
 テスマリには男性、女性、そして許性(enabler)の3つがある。許性のテスマリは一回り大きく(125キログラム)、8000名に1名の割合で生まれてくる。そして許性は社会の全てを動かし、思い付き次第で男女を生涯の職業(階層)に配置するのである。テスマリにとって、社会的選択や自由意志は非常に異質なものとなっている。

ミューエイ Mewey
母星:ミューエイ(0830)
 短く細かい毛皮に覆われた体重80キログラム程の、外見は人類に似た種族。ミューエイの両手には、3本の指に加えて拇指対向性のもう1指が付属している(※親指と3本の指を思い浮かべてください)。
 彼らはゆっくり慎重に社会を核分裂技術まで進歩させた攻撃的でない種族で、その後アスランとの接触でジャンプドライブ技術を入手し、隣接するオキケイト(0829)への入植を果たして「ミューエイ帝国(Mewey Empire)」を自称している。そういった経緯から彼らはアスランとは非常に友好的な反面、帝国には「強大さ」への警戒心を抱いている。

ラリアン Larianz
母星:バイレット(2523)
 バイレットの飛行生物が進化した、計4本の手足を持つ知的生命。平均身長は1.2メートル、体重は35キログラム程。上肢は大きな翼となっているが、彼らは翼を折り畳んで「肘」で効率的に立ったり歩いたりすることができる。下肢の一組は、道具などを扱えるように進化している。
(※ラリアンの存在自体は『Spinward Marches Campaign』が初出ですが、実はこの詳細設定の出処がよくわかりません。HIWGニュージーランドが制作した『Meshan Saga』第7号掲載の設定は全く異なりますし…)

ルルウィロリィ Llellewyloly
母星:ジュニディ(3202)
 一本足で立つ姿がテラの「タンポポ(dandelion)」なる植物に似た、手や足そして感覚器官の役目を持つ5肢を備えた知的種族。中心に当たる球体の身体には毛が生えていて、ジュニディの厳しい夜の寒さから身を守る役目がある。成人は身長2~3メートルになり、非常に特徴的な食習慣を持つ。また、彼らは優れた弁舌者であり聴取者である。
 彼らの社会は個人が立場ごとに様々な地位を持ち、信じられないほど複雑な社会秩序が保たれている。相手の地位に相応しい儀礼や喋り方も定められているので、誤った接し方をすると大きな社会的失点につながる。


【知性化種族】 Uplifts
ドルフィン Dolphin
母星:テラ(ソロマニ・リム宙域 1827)
主な居住星系:フォーレン(1401)、イクゥース(2417)、ネクシーン(3030)他、海洋のある世界
 テラのイルカを遺伝子改良して知的種族として創り上げられたドルフィンは、水の豊富な世界に多く入植している。彼らは空気を呼吸する海棲哺乳類で、通常、色は灰色である。彼らは呼吸なしで約30分間の活動ができ、非常に優れた音波探知能力を持つ。
 彼らは人類に好意的で、どんな訪問客ともうまくやれるほど社交的なのにも関わらず、旅行自体はあまり行わない。旅行用のスーツを身に着けなければならない面倒さもあるし、今いる環境に満足しがちな面もあるかもしれない。
(※詳細についてはこの回も参照してください。しかしT5SSでは、なぜか居住世界から一番しっかりした設定のあるネクシーンが外されています。確かにネクシーンの環境はドルフィンには住み辛いという設定もありますが…)


【準知的種族】 Semi-intelligent Race
チャーパー Chirper
母星:不明
居住世界:ヴェインジェン(3119)
 体重25キログラム程度の雑食採集生命。彼らには翼の痕跡があり、低重力・高密度大気世界でなら短距離飛行の助けとなる。彼らは単純な道具を用いることができる3本の指と、対置する親指を持つ。
 彼らの知性は「動物以上人類の平均以下」程度の一方で、光沢のある物体や興味を示した小物を盗み取るだけの狡猾さを兼ね備えている。そして彼らは非常に素早く、捕まえることはほぼ不可能である。
 彼らは社会組織とは言い難い小集団で生き、野の果物や木の実を集めて回っているが、時折栄養を原始的な道具で捕獲した小動物で補うことがある。チャーパーは人類の言葉を理解し、扱うことができるが、基本的には彼らの名の由来となった「甲高いチーチー音(chirping sounds)」で会話を行う。
 なお、チャーパーは帝国政府(※とゾダーン)により知的種族と同等の保護を受けていて、彼らのほとんどは保護居留地で他種族と接することなく住んでいる。既知宙域各地にチャーパーが点在している理由については謎が多い。
(※『Behind the Claw』ではイヴェンドゥ(2319)、シャモワ(3139)、フェンルス・グレン(3228)にも居住していることになっています。Traveller Wikiでは更に加えてヒーノズ(2912)にもチャーパーが居住している記載がありますが、おそらく『Alien Module 5: Droyne』で星図のヒーノズらしき位置に印が打たれているのが根拠なのかもしれません(個人的にはヴェインジェンから位置がずれただけと思いますが))

ディフォーン Dphone
母星:トリフュージ(0723)
 テラのチンパンジー並の単純な知性を持ち、現在ダリアン人による学術研究対象となっている。
(※T5SSでは知的種族とみなされていますが、初出の『Behind the Claw』で群小種族としての解説がないことと、この文面で知的種族とは思えないためこちらに回しました)


【絶滅種】 Exinct
ケオ・ネセブ Keo Neseb
母星:ペンクワァー(2128)
 蟷螂に似た昆虫型種族だった。彼らの文明は約800万年前に頂点に達し、隣接するペルセフォネ(2228)とハーヴォセット(2129)まで拡大して採掘を行っていたと考えられている。そして彼らがどのような運命を辿ったかは不明である。
(※初出はTraveller Mailing Listで流通したRICE Paperという文書の一つです。この設定を採用すると、彼らによって3星系の資源は採掘し尽くされたことになります)

ダッカム Daccam (Daccamites)
母星:ルー(1809)
 ルー星系のネベルソーン国(Nebelthorn)内には10万年前に滅亡したダッカムの遺跡が存在するが、まだまだ彼らについては大雑把にしかわかっていない。ちなみに「ダッカム」は遺跡を発見した考古・地質学者の名前であるが、現在では学術用語として定着している。


【非定住種族】 Nomads
テントラッシ Tentrassi
母星:不明
 艦隊を組んで宇宙を流離う放浪種族で、失われた故郷を探し求めている。彼らは旗艦を兼ねた工場船(120万トン)を自前で持ち、貿易産品を生産しながら行く先々で交易をして旅を続けている。
 彼らの第8放浪艦隊(Nomad Fleet No.8)は1100年頃にラウェー(0139)を一旦訪れ、その後100パーセク彼方のシータ・ボレアリス宙域に向かったと噂されている。
(※ですが、1122年に彼らは再びラウェーに戻ってきます。地元では歓迎式典が開かれたので、以前から関係は良好なのだと思われます)


【設定不明】 Unknown
クロウニ? Crawni
母星:クロウ(1939)
 皮のような肌と樽のような胸部を持ち、乾燥した薄い大気の厳しい母星の環境に適応した(人類ではない)人類型種族。
(※初出はJTAS誌第10・11号掲載の「A Referee's Guide to Planet Building」です。これは標準世界データからどう惑星の設定を起こしていくかを解説する企画で、そのためか先住民クロウニの設定は不思議と作り込まれずに今に至っています。ただし、JTAS第11号に「獣を使役しているように見える二足歩行生命」の絵があるので、これがクロウニかもしれません)

ペルージアン Pelousian
母星:457-973(3019)
 種族名は、彼らが自分たちの星を「芝生」と呼ぶことから、それを叙情的に翻訳した星系名から付けられている。彼らが持つTL4の文明を保護するため、帝国偵察局は現在457-973星系を侵入禁止に指定している。
(※初出は『Regency Sourcebook』で、T5SSでは「minor」とのみ記載、GURPS版設定では「この星のことはほとんど何もわかっていない」と記されています。しかし、1105年時点でも457-973星系はレッドゾーン指定されているので、偵察局は彼らの存在を知っており、外部には隠している可能性があります。なお、人類と断定できる文章がないので、ここでは一応群小種族扱いとします)
(※種族名はTraveller Wikiでは「Pelosian」とありますが、帝国暦1200年代にこの星は「Pelouse(フランス語で「芝生」)」と呼ばれていることから、誤植の可能性を考えて独自に修正しました)


【レフリー情報】
シュリーカー Shriekers
母星:567-908(1031)
 発声が高周波音であることから「シュリーカー」と名付けられたこの知的種族は、4対の肢と3対の目を持つ擬哺乳類(pseudo-mammals)である。そしてそれぞれの目は近視界・遠視界・赤外線に対応している。3対の肢は移動のために使われ、残る1対で道具を扱うことができる。それぞれの肢は短いため彼らはゆっくりとしか動くことができないが、一部のシュリーカーは移動速度を補うために「歩行脚(walking-legs)」を外科措置で装着している。なおシュリーカーは卵生であり、その卵こそが人類にとって重大な関心事となっている。
 街に住むシュリーカーは聖職者を頂点とする階層社会に生き、残る者は遊牧生活を送っている。
(※1105年時点ではシュリーカーが知的種族であるとは判明していません、と言うより、1110年までは567-908星系には誰も見向きもしていませんでした)

チャーパー
 チャーパーは実は、部族階層から外れて未成熟のまま定着してしまったドロインである。性的成熟はしているので繁殖はできるが、外見や頭脳は幼児同様に留まってしまうのだ。そして、彼らを捕まえるのが不可能なのは素早いからではなく、超能力を使うからである。

ドロイン
 彼らの本当の母星については、シナリオ『Secret of Ancients』を参照のこと。
 ドロインが超能力を使うことは帝国政府が秘匿している。またドロインの側も、帝国市民の反超能力的な偏見を考慮してなるべく超能力を隠している。
(※「続・黄昏の峰へリプレイ」において、ドロインを「超能力を使う気持ち悪い連中」と毛嫌いする人物が登場しますが、きっと噂を真に受けてしまったのでしょう(笑))


【参考文献】
Journal of the Travellers' Aid Society #9,#10,#11 (Game Designers' Workshop)
Supplement 11: Library Data (N-Z) (Game Designers' Workshop)
Alien Module 5: Droyne (Game Designers' Workshop)
Spinward Marches Campaign (Game Designers' Workshop)
Traveller Adventure (Game Designers' Workshop)
Regency Sourcebook (Game Designers' Workshop)
Megatraveller Journal #3 (Digest Group Publications)
GURPS Traveller: Behind the Claw (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Alien Races 1 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Alien Races 3 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Alien Races 4 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
Spinward Marches (Mongoose Publishing)
Alien Module 3: Darrians (Mongoose Publishing)
Tripwire (Mongoose Publishing)
Rescue on Ruie (Mongoose Publishing)
Guildsman #7 (Jim Vassilakos)
Traveller Wiki
Traveller5 Second Survey
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