全ての旅人の故郷、スピンワード・マーチ宙域――。この約40年間で星の数ほどの冒険の舞台となり、様々な悲喜劇が繰り広げられてきました。
さて、歴史の長いRPGにはよくあることですが、背景世界の設定が後から後から追加されていくうちにどうしても旧来のものと矛盾を起こしがちです。『トラベラー』も例外ではなく、むしろ矛盾の多さで言えば業界随一と言っても過言ではないのですが、とにかく『トラベラー』の代名詞とも言えるスピンワード・マーチ宙域にも過去何度も調整が入っています。ざっとまとめると、
1979年:『Supplement 3: The Spinward Marches(スピンワード・マーチ宙域)』
全ての原点。設定年代は帝国歴1105年。
1985年:『The Spinward Marches Campaign』
標準惑星書式(Universal Planet Profile)に星系の「所属国」「人口倍率・小惑星数・ガス惑星数(PBG)」「主星・伴星のスペクトル型」の欄が追加され、貿易分類も改定された。同時にリジャイナの技術レベルなど一部星系のデータ修正も行われた。設定年代は帝国歴1112年頃となり、一部星系のアンバーゾーン指定などに変化が見られる(が、同梱の宙域図は旧来のものを踏襲)。
1987年:『MegaTraveller: Imperial Encyclopedia(帝国百科)』
UPPが標準個人書式(Unlversal Personallty Profile)と混同しやすかったので「標準世界書式(Universal World Profile)」に改められ、貿易分類の表記法など現在にまで至る表記形式がこの時点でほぼ固まる。基本的に『Spinward Marches Campaign』の情報を(誤植も含めて)踏襲したが、設定は反乱勃発後の帝国歴1117年に改定。
1992年:『Domain of Deneb System Data』
雑誌『MegaTraveller Journal』第3号に収録。表題の通りデネブ領域4宙域(スピンワード・マーチ、デネブ、トロージャン・リーチ、レフト)のUWPをまとめた。設定年代は帝国歴1120年となり、(前年発行の第1号収録の宙域図では)国境線やXボート網に一部変化が見られるが、UWP面での変化は特に見当たらず。
ちなみにこれは、1989年にパソコン通信GEnieで公表され、後に「Sunbane」と呼ばれる既知宇宙UWP集をそのまま引き写したものなので、この版特有の誤植(星系名の誤記、ガス惑星の数の間違いなど)が存在する。
1995年:『The Regency Sourcebook』
『Traveller: The New Era』の帝国歴1201年設定の追加と同時に、『Imperial Encyclopedia』の帝国歴1117年設定に一部追記も。反乱期のデネブ領域のUWP集としてはこれが定本と言っていいと思われる(一応誤植はないとされているが、やはり一部に過去の資料とデータの差異があるのは否めない)。
1998年:『GURPS Traveller: Behind the Claw』
設定は「反乱の起きなかった」帝国歴1120年。ルール移行により従来のUWPによる記述は廃止され、表記法以外にも従来のものとは数値の一部に差異が見られる。宙域内全星系の詳細設定を網羅した意欲作だったが、大胆過ぎる新設定や知的生物の追加には批判もあった(また、大量の誤植も問題となった)。
2008年:『The Spinward Marches』
ルールのマングース版移行によりUWPが復活(したが、表記法は『Supplement 3』時代に戻った)。著者は『Behind the Claw』と同じだが、詳細な星系解説は1星域につき2星系に絞られた。
2008年~:Traveller5 Second Survey(T5SS)
2005年頃からCitizen of the Imperium(CotI)で続くUWP改定の機運を受け、有志によって星系データの見直しが行われる。当初は「Spinward Cleanup Project」というスピンワード・マーチ宙域に絞った企画だったが、次第に全時代の既知宇宙全星系を対象にしていき、加えてTraveller5でUWP書式が全面的に変更されたこともあり、「公式設定の」全UWPはT5形式に改められていく。
2018年?:『Behind the Claw』(未発売)
マングース第2版ルール対応のデネブ領域資料本。UWP(の数値)はT5SSを踏襲すると思われる(2012年発売の『The Solomani Rim』以降、MongooseはT5SSを「公式設定」として採用しているので)。
このように情報の拡充と微調整が繰り返されてきたわけですが、特に「Traveller5 Second Survey」による変革は大規模なものとなりました。T5SS自体も数度の改定を現在まで経てきていのですが、現時点では以下のような修正がなされているようです。
・小規模(低重力)で濃大気の世界の補正
最新の科学的知見を反映して、規模4以下で大気がある星を対象に惑星規模の大型化がなされています。同時に、大型の真空世界の規模を縮小する措置も行われています。
・技術レベルの調整
帝国内のTL16星系は全て排除されました。また、低人口や低宇宙港で高技術だった世界は軒並み引き下げられ(特にソロマニ・リム宙域では影響大)、貿易分類「未開」の世界ではTLが自動的に0となりました。他にも、大気が呼吸不可にも関わらず低技術であった世界がTL8~9まで引き上げられ、設定上隔離されていない低技術星系が全般的に底上げされています。
・恒星のスペクトル型の修正、および超巨星や恒星規模Dの排除
環境が良さそうで人口の多い世界には、G型K型の安定した恒星が割り当てられました(その逆に辺境星系にM型が割り当てられることもあります)。同時に、M5V型より暗い星系は少し「明るく」補正されました(ルールでは主要世界は可住圏(ハビタブルゾーン)に置かれますが、M5Vより暗い恒星には可住圏自体がないためです)。また、規模Dの矮星の排除により連星系ですらなくなったところもあります。例外として、リジャイナ星系などは元々設定として矮星を伴星として持っていたので維持されています。
・一部世界の名称変更、誤植修正
Kwai Ching(1040)→ Kuai Qing、Keltcher(2639)→ Keltchner
星域図などでBevyと誤植されることが多かった座標3216の星系は、Beveyに統一されました。
・統治元が曖昧だった政治コード「6」の星系の明確化
政治6で統治元が不明だった多くの星系が「軍政」と明言されました。また、統治元情報がかなり変更されています。
・後に作られた設定に合わせてのUWP補正
ヴィクトリア(1817)の大気コードは濃厚(9)から超濃厚(D)になりました。『偵察局』発売までは大気コードDがなかったのと、JTAS誌第2号掲載の設定が反映されたものと思われます(規模6の星が大気Dになることはないので明らかに意図的な修正です)。また、マラスタン(2231)は後に帝国保護星系の設定が付加されたため、それに合わせて修正が入りました。もはや『傭兵部隊』にある状況は使用できません。
・人口倍率の補正
貿易分類「荒涼(人口0・政治0・治安0)」の世界は人口倍率も0になりました。『ミスリルでの使命』などで訪れるメタル・ワールズの世界に影響が出ますが、「シナリオの時点ではたまたま人がいた」と解釈すればいいでしょう。
・Xボート路線の修正
ルーニオン星域にあった「ジャンプ-5」航路は、方角を変えてジャンプ-4になるよう補正されました。
・アンバー・トラベルゾーンの新基準
従来の設定によるものに加え、「政治と治安の値を足して20以上」の星系が一律にアンバーゾーンになりました。政権が独裁的かつ極高治安の星系への注意喚起という意味では頷けます。
・2~3星系規模の「恒星間国家」の排除
おそらく1105年当時の「アーデン連邦(Federation of Arden)」が恒星間国家扱いされていなかったことを踏まえて、極小規模の国家が星系図上では排除されたものと考えられます。スピンワード・マーチ宙域では影響はないように見えますが、後に設定が整備された「ガルー共和国(Republic of Garoo)」や「ミューエイ帝国(Mewey Empire)」はUWP上では恒星間国家扱いされていません。
これだけを見ればかなり合理的な修正が行われたと思えますが、副作用もありますし、意図不明のものや勇み足とも思える改変も行われています。そしてT5書式は情報量が大幅に増やされた上に貿易分類も全くの別物になったのですが、そもそもそれはTraveller5で遊ばなければ単に互換性のない情報に過ぎないのです。
もう一つ問題なのは、今後マングース社から出てくる「公式設定」は前述した通りT5SSに準拠したものとなります。既に第2版ルール対応の『The Bowman Arm』や『Lunion Shield Worlds』では新UWPに対応した設定が公開され始めていて、「公式設定」を取り入れ続ける限りではこの流れはもはや不可逆なものと言えます。
(※もちろん懐かしの『トラベラー・ハンドブック』のようにレフリーが独自の解釈で各星系の設定を起こすことや、『Behind the Claw』設定で遊び続けることが妨げられる訳ではありません)
そこで、T5SSの新設定を受け入れつつ『メガトラベラー』で採用されたUWP書式に差し戻し、貿易分類はマングース版に準拠させ、どうしても納得のいかない部分は独自に調整を加えた「最新版の」日本語対応スピンワード・マーチ宙域UWPデータを公開します。星系名の翻訳に関しても、過去の自分の訳も含めて全面的に見直しを行いました。
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アルファ象限(クロナー、ジュエル、ケリオン、ヴィリス)
ベータ象限(リジャイナ、アラミス、ランス、ライラナー)
ガンマ象限(ダリアン、ソード・ワールズ、ファイブ・シスターズ、第268区)
デルタ象限(ルーニオン、モーラ、グリッスン、トリンズ・ベール)
(※象限(quadrant)とは、宙域図を中央から4分割して4星域を一纏めにし、「左上」から順にアルファ、ベータ、ガンマ、デルタと呼ぶやり方…なのですが、別に行政単位ではなく、マーティン・ドハティ(Martin J. Dougherty)の著書ぐらいでしか見かけない表記法です)
【注釈】
国籍コードについて
Im:第三帝国
Cs:帝国属領
Zh:ゾダーン領
Cz:ゾダーン属領
Da:ダリアン連合
Sw:ソード・ワールズ連合
Na:非加盟中立
XX:未入植(非加盟中立)
(※前述の通り、アーデン連邦、ガルー共和国、ミューエイ帝国といった小国は国籍コードを持たず「Na」扱いです)
星系首都について
T5SSの古い版では「星域首都=星域公爵がいる星」と定義されたため、星域公爵が設定上置かれていないジュエル、アラミス、ヴィリス、ランス、第268区域、ファイブ・シスターズの各星域から星域首都が削除されていました。現在の版ではジュエルと第268区域を除いて「星域公爵がいる」ことにされて星域首都が復活していますが、これでは旧来の設定と矛盾してしまいます(その上基準が不明確です)。
そこで、旧来の設定を上書きする新設定ができるまでは星域図上では赤字で記し、「星域首都」ではなく「星域中心」と注釈欄に記載することにします。首都ではなくても星域行政の中心地であることには変わりはないからです。同様に、帝国外の星域の中心地も「星域中心」の表記を使用します。
知的種族について
(minor)とのみ書かれている知的種族を明確化し、1105年の時点で未発見である種族の記述は削除しました。既に絶滅している種族に関しては「絶滅」と記載してもいます。なお、UWP上では人口比1%未満の種族は省略されるようなので、どんな星系でも記載のない種族が居住している可能性は十分にあります。
太古種族の遺跡について
『Spinward Marches Campaign』で太古種族遺跡の所在は明確化され、『GURPS Traveller: Alien Races 3』で追加されましたが、T5SSで更に増やされています。T5SS追加分についてはシナリオのネタバレを含むため、一旦UWPから外してこちらに伏せておきます。ただし、太古種族の遺跡というものはたいてい大学や海軍・偵察局の厳重な管理下にあり(もしくは見つかってすらいない)、観光地として一般開放されているものはそんなにないことは頭の隅に置いておいてください(例外として、イフェイトの遺跡は見つかって早々に盗掘に遭って既に何も残っていないため、遺構が観光地化されていても不思議ではありません)。
T5SS追加分
ダリアン(0627):設定上太古種族の活動痕跡あり。ただ、この星に目立った施設がないからこそ最終戦争の戦禍を免れた、という設定もあるため、大した遺跡ではないかもしれない。
リジャイナ(1910):『Adventure 12: Secret of the Ancients』の続きにあたる「Grandfather's Worlds(Challenge誌27号掲載。内容については『Behind the Claw』にも記載あり)」で語られた重大な秘密に関することと思われる。
シオンシー(2306):小惑星帯は太古種族によって破壊された惑星の痕跡と考えられていて、ある意味でこの星系自体が遺跡。ちなみに星系内には遺物狙いの輩が多数入り込んでいて、時折反物質の爆発事故が起きているとか…?
コルフー(2602):設定不明。おそらく遺跡は未発見。
フューラキン(2613):『黄昏の峰へ』参照。1105年時点では未発見であり、おそらく今後も見つかることはない…はず。
独自に削除したもの
ピクシー(1903):『AR3』において、遺跡の存在が「帝国政府(および偵察局)によって秘匿されている」と明言されているのでUWPから削除。
貿易分類について
貿易分類の区分けについてはクラシック版・メガトラベラー・TNE・T4・T20・マングース版のそれぞれで微妙な差異があり、今回はそれらの中庸な点を探って採用しています。また、貿易分類の種類については最新のマングース版を採用していますので、旧来の貿易ルールを使用する場合は「高技」「低技」「肥沃」を読み飛ばしてください。
なおT5SSの改定により規模4-の世界が「農業」となることはなくなったため、「農業」世界は自動的に「肥沃」の貿易分類も持つことになります(※「肥沃」は農産物輸出には人口面の事情などで至らないものの自然環境が豊かと思われる世界を意味する、マングース版から導入された貿易分類)。よって「小惑」が「真空」を内包するように、T5SSの査読を経たUWPに関してのみ「農業」は「肥沃」を内包するものとします。また、メガトラベラー以降で「低人」に「非工」が必ず付随してしまう問題に対処するため、同様に内包させました。
【参考文献】
Journal of the Travellers' Aid Society #2,#12 (Game Designers' Workshop)
Supplement 3: The Spinward Marches (Game Designers' Workshop)
Adventure 6: Expedition to Zhodane (Game Designers' Workshop)
Double Adventure 2: Across the Bright Face (Game Designers' Workshop)
Traveller Adventure (Game Designers' Workshop)
Spinward Marches Campaign (Game Designers' Workshop)
Alien Module 8: Darrian (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
Regency Sourcebook (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller Journal #1,#3 (Digest Group Publications)
GURPS Traveller: Behind the Claw (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Alien Races 3 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Sword Worlds (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
Spinward Marches (Mongoose Publishing)
Tripwire (Mongoose Publishing)
Alien Module 3: Darrians (Mongoose Publishing)
Spinward Marches 1: The Bowman Arm (Mongoose Publishing)
Spinward Marches 2: The Lunion Shield Worlds (Mongoose Publishing)
Traveller Map
Traveller Wiki
さて、歴史の長いRPGにはよくあることですが、背景世界の設定が後から後から追加されていくうちにどうしても旧来のものと矛盾を起こしがちです。『トラベラー』も例外ではなく、むしろ矛盾の多さで言えば業界随一と言っても過言ではないのですが、とにかく『トラベラー』の代名詞とも言えるスピンワード・マーチ宙域にも過去何度も調整が入っています。ざっとまとめると、
1979年:『Supplement 3: The Spinward Marches(スピンワード・マーチ宙域)』
全ての原点。設定年代は帝国歴1105年。
1985年:『The Spinward Marches Campaign』
標準惑星書式(Universal Planet Profile)に星系の「所属国」「人口倍率・小惑星数・ガス惑星数(PBG)」「主星・伴星のスペクトル型」の欄が追加され、貿易分類も改定された。同時にリジャイナの技術レベルなど一部星系のデータ修正も行われた。設定年代は帝国歴1112年頃となり、一部星系のアンバーゾーン指定などに変化が見られる(が、同梱の宙域図は旧来のものを踏襲)。
1987年:『MegaTraveller: Imperial Encyclopedia(帝国百科)』
UPPが標準個人書式(Unlversal Personallty Profile)と混同しやすかったので「標準世界書式(Universal World Profile)」に改められ、貿易分類の表記法など現在にまで至る表記形式がこの時点でほぼ固まる。基本的に『Spinward Marches Campaign』の情報を(誤植も含めて)踏襲したが、設定は反乱勃発後の帝国歴1117年に改定。
1992年:『Domain of Deneb System Data』
雑誌『MegaTraveller Journal』第3号に収録。表題の通りデネブ領域4宙域(スピンワード・マーチ、デネブ、トロージャン・リーチ、レフト)のUWPをまとめた。設定年代は帝国歴1120年となり、(前年発行の第1号収録の宙域図では)国境線やXボート網に一部変化が見られるが、UWP面での変化は特に見当たらず。
ちなみにこれは、1989年にパソコン通信GEnieで公表され、後に「Sunbane」と呼ばれる既知宇宙UWP集をそのまま引き写したものなので、この版特有の誤植(星系名の誤記、ガス惑星の数の間違いなど)が存在する。
1995年:『The Regency Sourcebook』
『Traveller: The New Era』の帝国歴1201年設定の追加と同時に、『Imperial Encyclopedia』の帝国歴1117年設定に一部追記も。反乱期のデネブ領域のUWP集としてはこれが定本と言っていいと思われる(一応誤植はないとされているが、やはり一部に過去の資料とデータの差異があるのは否めない)。
1998年:『GURPS Traveller: Behind the Claw』
設定は「反乱の起きなかった」帝国歴1120年。ルール移行により従来のUWPによる記述は廃止され、表記法以外にも従来のものとは数値の一部に差異が見られる。宙域内全星系の詳細設定を網羅した意欲作だったが、大胆過ぎる新設定や知的生物の追加には批判もあった(また、大量の誤植も問題となった)。
2008年:『The Spinward Marches』
ルールのマングース版移行によりUWPが復活(したが、表記法は『Supplement 3』時代に戻った)。著者は『Behind the Claw』と同じだが、詳細な星系解説は1星域につき2星系に絞られた。
2008年~:Traveller5 Second Survey(T5SS)
2005年頃からCitizen of the Imperium(CotI)で続くUWP改定の機運を受け、有志によって星系データの見直しが行われる。当初は「Spinward Cleanup Project」というスピンワード・マーチ宙域に絞った企画だったが、次第に全時代の既知宇宙全星系を対象にしていき、加えてTraveller5でUWP書式が全面的に変更されたこともあり、「公式設定の」全UWPはT5形式に改められていく。
2018年?:『Behind the Claw』(未発売)
マングース第2版ルール対応のデネブ領域資料本。UWP(の数値)はT5SSを踏襲すると思われる(2012年発売の『The Solomani Rim』以降、MongooseはT5SSを「公式設定」として採用しているので)。
このように情報の拡充と微調整が繰り返されてきたわけですが、特に「Traveller5 Second Survey」による変革は大規模なものとなりました。T5SS自体も数度の改定を現在まで経てきていのですが、現時点では以下のような修正がなされているようです。
・小規模(低重力)で濃大気の世界の補正
最新の科学的知見を反映して、規模4以下で大気がある星を対象に惑星規模の大型化がなされています。同時に、大型の真空世界の規模を縮小する措置も行われています。
・技術レベルの調整
帝国内のTL16星系は全て排除されました。また、低人口や低宇宙港で高技術だった世界は軒並み引き下げられ(特にソロマニ・リム宙域では影響大)、貿易分類「未開」の世界ではTLが自動的に0となりました。他にも、大気が呼吸不可にも関わらず低技術であった世界がTL8~9まで引き上げられ、設定上隔離されていない低技術星系が全般的に底上げされています。
・恒星のスペクトル型の修正、および超巨星や恒星規模Dの排除
環境が良さそうで人口の多い世界には、G型K型の安定した恒星が割り当てられました(その逆に辺境星系にM型が割り当てられることもあります)。同時に、M5V型より暗い星系は少し「明るく」補正されました(ルールでは主要世界は可住圏(ハビタブルゾーン)に置かれますが、M5Vより暗い恒星には可住圏自体がないためです)。また、規模Dの矮星の排除により連星系ですらなくなったところもあります。例外として、リジャイナ星系などは元々設定として矮星を伴星として持っていたので維持されています。
・一部世界の名称変更、誤植修正
Kwai Ching(1040)→ Kuai Qing、Keltcher(2639)→ Keltchner
星域図などでBevyと誤植されることが多かった座標3216の星系は、Beveyに統一されました。
・統治元が曖昧だった政治コード「6」の星系の明確化
政治6で統治元が不明だった多くの星系が「軍政」と明言されました。また、統治元情報がかなり変更されています。
・後に作られた設定に合わせてのUWP補正
ヴィクトリア(1817)の大気コードは濃厚(9)から超濃厚(D)になりました。『偵察局』発売までは大気コードDがなかったのと、JTAS誌第2号掲載の設定が反映されたものと思われます(規模6の星が大気Dになることはないので明らかに意図的な修正です)。また、マラスタン(2231)は後に帝国保護星系の設定が付加されたため、それに合わせて修正が入りました。もはや『傭兵部隊』にある状況は使用できません。
・人口倍率の補正
貿易分類「荒涼(人口0・政治0・治安0)」の世界は人口倍率も0になりました。『ミスリルでの使命』などで訪れるメタル・ワールズの世界に影響が出ますが、「シナリオの時点ではたまたま人がいた」と解釈すればいいでしょう。
・Xボート路線の修正
ルーニオン星域にあった「ジャンプ-5」航路は、方角を変えてジャンプ-4になるよう補正されました。
・アンバー・トラベルゾーンの新基準
従来の設定によるものに加え、「政治と治安の値を足して20以上」の星系が一律にアンバーゾーンになりました。政権が独裁的かつ極高治安の星系への注意喚起という意味では頷けます。
・2~3星系規模の「恒星間国家」の排除
おそらく1105年当時の「アーデン連邦(Federation of Arden)」が恒星間国家扱いされていなかったことを踏まえて、極小規模の国家が星系図上では排除されたものと考えられます。スピンワード・マーチ宙域では影響はないように見えますが、後に設定が整備された「ガルー共和国(Republic of Garoo)」や「ミューエイ帝国(Mewey Empire)」はUWP上では恒星間国家扱いされていません。
これだけを見ればかなり合理的な修正が行われたと思えますが、副作用もありますし、意図不明のものや勇み足とも思える改変も行われています。そしてT5書式は情報量が大幅に増やされた上に貿易分類も全くの別物になったのですが、そもそもそれはTraveller5で遊ばなければ単に互換性のない情報に過ぎないのです。
もう一つ問題なのは、今後マングース社から出てくる「公式設定」は前述した通りT5SSに準拠したものとなります。既に第2版ルール対応の『The Bowman Arm』や『Lunion Shield Worlds』では新UWPに対応した設定が公開され始めていて、「公式設定」を取り入れ続ける限りではこの流れはもはや不可逆なものと言えます。
(※もちろん懐かしの『トラベラー・ハンドブック』のようにレフリーが独自の解釈で各星系の設定を起こすことや、『Behind the Claw』設定で遊び続けることが妨げられる訳ではありません)
そこで、T5SSの新設定を受け入れつつ『メガトラベラー』で採用されたUWP書式に差し戻し、貿易分類はマングース版に準拠させ、どうしても納得のいかない部分は独自に調整を加えた「最新版の」日本語対応スピンワード・マーチ宙域UWPデータを公開します。星系名の翻訳に関しても、過去の自分の訳も含めて全面的に見直しを行いました。




アルファ象限(クロナー、ジュエル、ケリオン、ヴィリス)
ベータ象限(リジャイナ、アラミス、ランス、ライラナー)
ガンマ象限(ダリアン、ソード・ワールズ、ファイブ・シスターズ、第268区)
デルタ象限(ルーニオン、モーラ、グリッスン、トリンズ・ベール)
(※象限(quadrant)とは、宙域図を中央から4分割して4星域を一纏めにし、「左上」から順にアルファ、ベータ、ガンマ、デルタと呼ぶやり方…なのですが、別に行政単位ではなく、マーティン・ドハティ(Martin J. Dougherty)の著書ぐらいでしか見かけない表記法です)
【注釈】
国籍コードについて
Im:第三帝国
Cs:帝国属領
Zh:ゾダーン領
Cz:ゾダーン属領
Da:ダリアン連合
Sw:ソード・ワールズ連合
Na:非加盟中立
XX:未入植(非加盟中立)
(※前述の通り、アーデン連邦、ガルー共和国、ミューエイ帝国といった小国は国籍コードを持たず「Na」扱いです)
星系首都について
T5SSの古い版では「星域首都=星域公爵がいる星」と定義されたため、星域公爵が設定上置かれていないジュエル、アラミス、ヴィリス、ランス、第268区域、ファイブ・シスターズの各星域から星域首都が削除されていました。現在の版ではジュエルと第268区域を除いて「星域公爵がいる」ことにされて星域首都が復活していますが、これでは旧来の設定と矛盾してしまいます(その上基準が不明確です)。
そこで、旧来の設定を上書きする新設定ができるまでは星域図上では赤字で記し、「星域首都」ではなく「星域中心」と注釈欄に記載することにします。首都ではなくても星域行政の中心地であることには変わりはないからです。同様に、帝国外の星域の中心地も「星域中心」の表記を使用します。
知的種族について
(minor)とのみ書かれている知的種族を明確化し、1105年の時点で未発見である種族の記述は削除しました。既に絶滅している種族に関しては「絶滅」と記載してもいます。なお、UWP上では人口比1%未満の種族は省略されるようなので、どんな星系でも記載のない種族が居住している可能性は十分にあります。
太古種族の遺跡について
『Spinward Marches Campaign』で太古種族遺跡の所在は明確化され、『GURPS Traveller: Alien Races 3』で追加されましたが、T5SSで更に増やされています。T5SS追加分についてはシナリオのネタバレを含むため、一旦UWPから外してこちらに伏せておきます。ただし、太古種族の遺跡というものはたいてい大学や海軍・偵察局の厳重な管理下にあり(もしくは見つかってすらいない)、観光地として一般開放されているものはそんなにないことは頭の隅に置いておいてください(例外として、イフェイトの遺跡は見つかって早々に盗掘に遭って既に何も残っていないため、遺構が観光地化されていても不思議ではありません)。
T5SS追加分
ダリアン(0627):設定上太古種族の活動痕跡あり。ただ、この星に目立った施設がないからこそ最終戦争の戦禍を免れた、という設定もあるため、大した遺跡ではないかもしれない。
リジャイナ(1910):『Adventure 12: Secret of the Ancients』の続きにあたる「Grandfather's Worlds(Challenge誌27号掲載。内容については『Behind the Claw』にも記載あり)」で語られた重大な秘密に関することと思われる。
シオンシー(2306):小惑星帯は太古種族によって破壊された惑星の痕跡と考えられていて、ある意味でこの星系自体が遺跡。ちなみに星系内には遺物狙いの輩が多数入り込んでいて、時折反物質の爆発事故が起きているとか…?
コルフー(2602):設定不明。おそらく遺跡は未発見。
フューラキン(2613):『黄昏の峰へ』参照。1105年時点では未発見であり、おそらく今後も見つかることはない…はず。
独自に削除したもの
ピクシー(1903):『AR3』において、遺跡の存在が「帝国政府(および偵察局)によって秘匿されている」と明言されているのでUWPから削除。
貿易分類について
貿易分類の区分けについてはクラシック版・メガトラベラー・TNE・T4・T20・マングース版のそれぞれで微妙な差異があり、今回はそれらの中庸な点を探って採用しています。また、貿易分類の種類については最新のマングース版を採用していますので、旧来の貿易ルールを使用する場合は「高技」「低技」「肥沃」を読み飛ばしてください。
なおT5SSの改定により規模4-の世界が「農業」となることはなくなったため、「農業」世界は自動的に「肥沃」の貿易分類も持つことになります(※「肥沃」は農産物輸出には人口面の事情などで至らないものの自然環境が豊かと思われる世界を意味する、マングース版から導入された貿易分類)。よって「小惑」が「真空」を内包するように、T5SSの査読を経たUWPに関してのみ「農業」は「肥沃」を内包するものとします。また、メガトラベラー以降で「低人」に「非工」が必ず付随してしまう問題に対処するため、同様に内包させました。
【参考文献】
Journal of the Travellers' Aid Society #2,#12 (Game Designers' Workshop)
Supplement 3: The Spinward Marches (Game Designers' Workshop)
Adventure 6: Expedition to Zhodane (Game Designers' Workshop)
Double Adventure 2: Across the Bright Face (Game Designers' Workshop)
Traveller Adventure (Game Designers' Workshop)
Spinward Marches Campaign (Game Designers' Workshop)
Alien Module 8: Darrian (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
Regency Sourcebook (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller Journal #1,#3 (Digest Group Publications)
GURPS Traveller: Behind the Claw (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Alien Races 3 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Sword Worlds (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
Spinward Marches (Mongoose Publishing)
Tripwire (Mongoose Publishing)
Alien Module 3: Darrians (Mongoose Publishing)
Spinward Marches 1: The Bowman Arm (Mongoose Publishing)
Spinward Marches 2: The Lunion Shield Worlds (Mongoose Publishing)
Traveller Map
Traveller Wiki