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Channel: 宇宙の歩き方
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ぶらりTL11の旅(5) 『Hostile』

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「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない――」
 Zozer Gamesから出された『Hostile』は、「80年代SF」の世界観を再現したCepheus Engine(もしくはトラベラー系2D6システム)向け設定です。「80年代SF」も色々ありますが、この作品は中でも映画『エイリアン』『ブレードランナー』『トータル・リコール』といった作品のの雰囲気の再現を試みています。例えるなら暴走する資本主義、荒廃した環境、巨大企業の(特に日系の)支配、ヒトに並ぶ存在となったアンドロイド、冷笑的・虚無的な世の空気…といったところでしょうか。
(※ただ、『Hostile』の参考文献の中にはなぜか『宇宙船レッド・ドワーフ号』も入っているのですが…?)

 副題には「A Gritty Sci-Fi RPG」とあります。この「Gritty」とは、一般的には「(砂利の混ざったような)ザラザラした感じ」と訳されますが、転じて「現実的な/空想的ではない」という意味もあるそうです。理想で固めたファンタジーではなく、砂混じりのリアルさ。ここにも70年代と80年代の空気の違いが表れていますね。

 ちなみにこの『Hostile』は、Zozer Gamesがこれまで出してきた『Outpost Mars』『Orbital 2100』から繋がる未来史に位置付けられている…ように見えますが、これまでの作品を知らなくても全く問題のない作りになっています。強いて言えば一部の巨大企業が『Orbital』時代から内輪ネタ的に引き継がれている程度で、「過去」の出来事に齟齬すら見受けられるので平行世界線的な扱いかもしれません。
 では、プレイヤーが活躍する23世紀に至る道を簡単にまとめると……

 22世紀後半、超光速航法を手に入れた人類は太陽系周辺4パーセクの中核圏(Core Worlds)に進出しました。一方地球では、中国発の世界恐慌によって国連主導の国際協調体制は崩壊し、代わって(いち早く少子高齢化を技術革新で克服した)日本や巨大企業群が台頭していきました。
 23世紀に入ると、地球の石油はついに枯渇しました。その頃には核融合発電技術によって燃料としての用途は終えていたものの、石油化学製品の製造に影響が出たために世界は再び恐慌に陥りました。国家や企業は生き残りをかけて、太陽系内外の資源獲得競争に走っていきます。そんな中、地球は増えすぎた人口を支えきれなくなり、20世紀以降の環境破壊のツケが特に貧困層の人々を度々襲うようになりました(地球の大気コードは何と7です!)。
 かくして西暦2225年、人類は太陽系近辺の300星系を探査し終えましたが、開発が進んでいるのは中核圏のみに留まります。楽園のような星がないことから惑星植民は進展せず、地球の100億の民は宇宙からもたらされる資源で生活しています。そして太陽系から20パーセク以内の外圏(Outer Rim)、その外の辺境圏(Frontier)には企業の資源採掘基地や未知の星々が点在しているだけです。気がつけば宇宙には、太陽系を中心にしてアメリカと西欧と日本が宙域(Sector)を三分するという、新たな秩序が出来上がっていました――

 そんな宇宙をプレイヤーたちは旅人(Traveller)ではなく、労働者(Worker)として米国管轄宙域(American Sector)を渡り歩くことになります。なぜなら『Hostile』宇宙には快適な観光惑星なんかありません。宇宙とは、地球では食べていけない労働者(もしくは兵士や犯罪者)が命と引き換えにささやかな賃金を得る場でしかないのです(※といってもOTUのトラベラー協会に該当する「星間特使倶楽部(Star Envoy Club)」もありますが)。そのためか、輸送機器の項目にはトラックやフォークリフトといった従来無視されがちだった車両データが並んでいます。
 そして宇宙の過酷な環境は容赦なく襲ってきます。地球では考えられない気温や天候、危険極まりない異星生物、未知の植物や病原菌などなど…。それ以上に恐ろしいのはやはり「人間」でしょう。巨大企業は利益のためなら末端労働者をいとも簡単に切り捨てますし、信じていたはずの者にいつの間にか端た金で売られているかもしれません…!

 上記した通り、23世紀の国家像は過去のものとは大きく異なっています。国連なき後の世界は、宇宙を制した3大国家連合が牛耳る体制に移行しているのです。

米州共同体(CAS):南北アメリカ大陸のほとんどの国とイギリスが加盟し、主導権はアメリカが握っている。ブラジル領内に大気圏縦貫石油パイプライン(という名の軌道エレベータ)を持ち、資源・軍事・国力の面で23世紀をリードする存在。
西欧連合(WEU):ハイテク技術で先行するドイツを中心にして、西ヨーロッパの近隣諸国がかつてのEECのように再び集結した(※この世界のEUは21世紀初頭に崩壊したらしい)。
アジア太平洋協定(APP):中国崩壊後、日本主導で誕生した東アジア諸国による経済・軍事同盟圏。三分された中国からは新疆共和国と広東人民共和国が参加した(※オーストラリアやインドが加盟しているかは不明)。

 しかしそんな超国家ブロックも無視できない存在が23世紀にはあります。世界、そして宇宙の富を独占する「ビッグ7」と呼ばれる多国籍巨大企業たちです(さすがにかつてのSFように日系企業ばかりではないですが)。彼らはそれぞれ様々な子会社を束ね、まるでかつてのザイバツやケイレツのように製造・金融・流通といったあらゆる機能を自社内で備えています。さらに彼らは国連に代わって取引や紛争を治める機関である企業合同会議(UCC)を設置し、国際間・星系間の問題調停にあたっています。
 今や巨大企業の破滅は世界経済の破滅を意味し、政治家も企業の後援なくしては立ち行きません。では企業が暴走した時、はたして誰が止めるのでしょうか…?

 『Hostile』宇宙は、基本的に技術レベル(TL)12相当ということになっていますが、通信・武器・輸送機器技術がTL10に抑えられた反面、コンピュータ(AI)やロボット技術は特例としてTL15まで発展しています。そう、『ブレードランナー』ばりのアンドロイドがこの『Hostile』宇宙には存在するのです。もちろんロボットもドローンもあります。その一方で人体を機械に置き換える、俗に言う「サイバー化」技術は全く存在しないのが特色です(※サイバーパンクも「80年代SF」ではありますが)。そして反重力はありませんが重力制御技術はあるので、宇宙船内で「浮く」こともありません(高級車はホバーカー化されて空中を走行しますが、あくまで空力によるものです)。
 ちなみに、『Hostile』ではどの星系でも技術水準は均一であることから、星系データ(UWP)からTLの項目が削除されています。

 ただしTL12社会と言っても、OTUの〈第三帝国〉や他のATU作品群で想像されたような風景とは全く異なります。『Hostile』ではあくまで「80年代SF」で考えられていたような技術製品の描写が徹底されています。
 つまり映像の投影に使われるのは立体スクリーンでも液晶パネルでもなくブラウン管であり、それに表示される映像の解像度が低いどころか緑やオレンジ1色すらありえます。スマートフォンはおろか携帯電話すら普及しておらず、外出時に連絡を取ろうとしたら公衆電話を探す必要がありますし、一方でその公衆電話は相手の顔を見て話せる「ビデオフォン」化がなされています。タブレットもノートパソコンもなく、あるのは重量5kgの「ラップトップ・コンピュータ」です。記録媒体は光学ディスクで、しかもプラスチックの容器に格納されて「ミニディスク」と呼ばれています。
 このように、実際に80年代を生きた人でないとわかりづらいかもしれませんが、かつての人々が考え、映像化してきた「未来」がここにはあります。

 『Hostile』における宇宙船は、前述の通り反重力がないのでスラスター駆動ではなくプラズマ推進機関が通常ドライブとして採用されています。そして超光速航法である「ハイパードライブ」は、OTUのジャンプと異なり航行距離の上限がなく、燃料を消費しないことが大きく異なります。
 ハイパードライブの性能値はジャンプドライブと同様に、船体の体積とドライブの大きさとの比率で1~6の値を取ります。この値は、跳躍1回分の最大飛距離ではなく「1週間に何パーセク進むか」を表しているのが違います。例えばハイパードライブ性能4の船は20パーセク先の目的星系に5週間で着き、性能2の船なら10週間かかるわけです。
 加えて、超空間航行中は「ハイパースリープ(Hypersleep)」と呼ばれる冷凍睡眠下で過ごすのが絶対で、OTUの特等船客に該当する「エリートクラス席」でも同様です(※貨物扱い同然の通常席と違って「乗客」として接遇されるのがエリートクラスの利点)。なぜなら『Hostile』の超空間は人間の精神に深刻な悪影響を及ぼすので、その間は「冬眠」してやり過ごさないとならないのです。従って、乗員乗客が全員ハイパースリープに入ると船内の管理はAIやアンドロイドに任されます。
 なおトラベラーやCepheus Engineのルールとは異なり、『Hostile』では緊急蘇生を行わない限りハイパースリープで死亡することは無いとされています(演出上吐き気や目眩等の体調不良を起こすことはありますが)。
 また、ハイパードライブの応用で超光速通信が可能となっているのも特色です。軌道上のハイパーウェーブ衛星を介して1日1パーセクの速度で文字のやり取り(つまり電報)ができるのですが、それに掛かる費用が1文字で50ドル!…と、おいそれとは使えなさそうです。なお、OTUと同じく宇宙船を介した「郵送」も行われています。

 アンドロイドの話が出ましたが、『Hostile』宇宙ではこの数十年間で急速に進歩したのがアンドロイドです。初期のアンドロイドは単純な仕事しかできず、いかにもな見た目でしたが、最先端のアンドロイドはもはや人間と見た目が区別できない程にまで進歩しています(当然高額ですが)。そのため、『Hostile』では経歴部門の1つとしてアンドロイドが用意されています。「人権」のないアンドロイドの悲哀を(やり方次第で)シナリオに盛り込むことができるのも『Hostile』の魅力ですね。
(※OTUではありえなかった「美少女メイドロボ」も居そうな気がする…!(笑))

 現在、『Hostile』シリーズは以下の製品が発売されています。

『Hostile』(2017-12-09)
 基本設定集。遊ぶには『Cepheus Engine』ルール(推奨されているのは更に派生の『1970s 2d6 Retro Rules』)が必要だが、もちろん歴代の2D6『トラベラー』系ルール(つまりクラシック、メガトラベラー、マングース版)でも問題なし。設定・経歴部門・装備など全てがここに。

『Pioneer Class Station』(2018-01-08)
 パイオニア級多目的宇宙ステーションの解説・デッキプランに加えて、そこを舞台にした(GDW『デス・ステーション』型の)シナリオを収録。

『Alien Breeds』(2018-04-15)
 どこかの映画で見たような獰猛な異星生物たちを解説。また、それら異星生物に襲われるシナリオも収録。

『HOSTILE Technical Manual』(2018-06-07)
 『Hostile』宇宙の根幹を支える技術の数々を解説した無料設定集。ハイパードライブの原理から、なぜ『Hostile』宇宙の電子機器は皆80年代SF映画のように「分厚く」て「重い」のかまでを詳細に解説。

『Marine Corps Handbook 2215』(2018-09-27)
 表題通り、23世紀におけるアメリカ海兵隊の組織図・編成・装備などを解説。

『Hot Zone』(2018-10-23)
 シリーズ初のシナリオ単行本。灼熱の惑星に落下した超空間プローブを回収に向かったプレイヤーたちに、現地の環境が牙を剥く!

『Dirtside』(2019-01-26)
 野外活動のための設定集。惑星図の描き方の手引きや、悪環境や異星生物でプレイヤーを苦しめたり、そんな中で生き延びるためのルールや装備を収録。

 また、これらとは別に『Zaibatsu』が出されています。『Hostile』と同一時間軸の地球(それも東京)を舞台に、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』の再現を目指した、まさに古典的サイバーパンクRPGです。大都市の影でストリート・サムライと企業工作員(と書いてサラリーマンと読む)が暗闘を繰り広げ、電脳空間をハッカーが駆け抜けます(※でも前述した通りサイバー化技術はありません)。あくまで独立作品という扱いであり単独で遊べるよう設計されていますが、『Hostile』宇宙の設定を補強する意味でも無視できない一品です。
(※ちなみのこの『Zaibatsu』は、1994年から無償公開されていた作品のリメイク版でもあります)

 さて簡単にまとめてみましたが、このように『Hostile』には楽天的な〈第三帝国〉とは全く違う独特の魅力があります。定番の『エイリアン』や『ブレードランナー』風のシナリオもいいですし、海兵隊員となって現住生物と死闘を繰り広げる『スターシップ・トゥルーパーズ(宇宙の戦士)』ごっこもできます。逆に巨大企業による無謀な環境破壊を止めさせる『アバター』的なシナリオもできるでしょう。傭兵となってタウ・セチ星系の独立紛争に加担するのもありですし、辺境の資源採掘基地まで生活物資を運ぶ旧来の自由貿易商人的な話も可能です(ただしキャラクター作成時に恩典で宇宙船が貰える部門はないので、レフリーが背景設定として与える形となるでしょう)。
 危険で虚無的で闇が深い宇宙だからこそ、己の道を貫くプレイヤー・キャラクターの「パンク」な生き方が光り輝くのではないでしょうか。一風変わった、でも王道のSF設定を求める方にお薦めです。それにこう言うのもあれですが、人命が軽く扱われる世界観は、致死率の高さに定評のあるトラベラー系システムと相性が良さそうですしね(笑)。

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