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トラベラー40年史(5) 古典復興の時代(2008年~2015年)

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 イギリスのMongoose Publishing社はマシュー・スプレンジ(Matthew Sprange)らによって2001年に設立され、当初はオリジナルRPGの製作販売を行っていましたが、その後d20システムに乗り換えて発展しました。2003年頃に「d20バブル」が崩壊するとOpen Game License製品に切り替えて社命を繋ぎ、2004年からはミニチュアゲームにも参入しています。また、他社版権製品の製造にも元々積極的で、2002年の『Judge Dredd』を皮切りに『Babylon 5』『Conan』『Paranoia』『Elric of Melnibone』『RuneQuest』といった人気作を次々と販売していきました。
 そしてそんなMongooseが打った次の一手が『トラベラー』、それも新作だったのです。

「このゲームは『王道の』SFゲームとなる可能性をまだ秘めている」
(マシュー・スプレンジ)

【2008年】
「公開プレイテストは驚くべき体験だった。ファンはルールを試して好みかそうでないかを言うだけでなく、サブシステム全体を書いたり、文章を再編集したり、統計分析を行ったり、何千時間もゲームを論じたりしていたのだ」
(ガレス・ハンラハン)
 前年の発売予告では2月でしたが、若干遅れて5月にMongoose版の『Traveller: Main Rulebook』が書籍で発売されました(電子版は7月)。懐かしのLittle Black Bookから続く黒一色の伝統の表紙はそのままに、判定方式には『メガトラベラー』以来となる2D(6面体サイコロ2個)を採用し、クラシック版では攻撃命中の指標に過ぎなかった「8+(2Dで8以上)」をゲーム全体で使用するようになりました。
 キャラクター作成も旧来通りに経歴部門に「就職」する形態を採りつつも、「人生経験表」などの導入でまさにキャラクターが人生や人脈(や時として投獄歴や借金)を背負って生成されるようになりました。戦闘システムは『メガトラベラー』などで採用された「1.5メートル四方のマス」に戻りつつ、ルールの簡略化や整理統合が進められました。クラシック版よりはキャラクターが負傷に耐えやすくなったのも特徴です。緻密だが複雑怪奇な方向に進んでいた宇宙船設計ルールはクラシック版同様の簡素なものになり、貿易ルールもクラシック版の改良型と言える範囲に留まりました。
 
 このように、このMongoose版の最大の特徴は「クラシック版への回帰」と同時に「ゲームの近代化」を成し遂げたことでしょう。この方針はファンの間でも絶賛され、発売後の売り上げは『RuneQuest』を抜いて同社一のヒット作となります。作品自体の評価としてもEN Publishing主催のENnie賞(Product of the Year部門)に選出されるほどでした(金・銀賞の受賞は逃しましたが)。
 なおルールブックに関しては、内容を192頁まで削り込んで往年のLittle Black Bookと同じ判型にした『Pocket Edition』も発売しています(書籍版のみ)。価格も『Main Rulebook』の(米国価格で)半額とお得感はありましたが、活字の小ささによって視認性に難を抱えました。

 Mongooseはサードパーティ向けにDevelopers Kitも公開しました。これはTraveller Logo Licenseに関わる条項が収められており、Open Game Licenseの採用によるゲームシステムの開放と同時に「〈第三帝国〉設定の独占」も定められていました。FFEによる「Free Sector宣言」によって全ての人に制作が開放された(と同時に公的出版物であっても非公式設定扱いとなる)フォーイーヴン宙域を除き、サードパーティ各社は今後〈第三帝国〉を含めた従来の既知宇宙に関わる出版物を刊行することができなくなったのです。
 この影響は大きく、『Traveller Calendar』のSpica Publishingは参入第一弾として計画していたスピカ宙域の設定本の制作中止を余儀なくされ(その後、汎用経歴部門集『Career Book 1』で参入します)、Avenger Enterprisesも11月に『トラベラー』ライセンスの更新をせずに全製品を一旦絶版としました。同時に、試遊キットを希望者に配布してベータテストを行っていた「Avenger Classic Traveller」の開発も中止となっています。ただしAvengerは、Mongooseによる小規模出版社支援プログラム「Flaming Cobra」に移行して、年末にシナリオ『One Crowded Hour』(2006年の再販)を出しています。

 Mongooseはサポート展開も懐かしい様式を踏襲しました。つまり「Book」と「Supplement」の両方によるゲームの拡張です。その刊行速度は怒涛のごとく、9月から年末にかけて『Book 0: Introduction to Traveller』(無料)、『Book 1: Mercenary』『Book 2: High Guard』『Supplement 1: 760 Patrons』『Supplement 2: Traders and Gunboats』が一気に刊行されました(ただし『Mercenary』は発売を急いだあまりに試遊段階のものを発行してしまい、後々禍根を残します)。
 加えて新設の「The Third Imperium」シリーズの第一弾として、マーティン・ドハティによる『Spinward Marches』が発売されています。これはGURPSの『Behind the Claw』ほどではないにしろスピンワード・マーチ宙域を詳細に解説したものですが、Mongoose版『トラベラー』は「汎用SF-RPG」を標榜したため、〈第三帝国〉ですら諸設定のうちの一つという扱いでした。「The Third Imperium」シリーズとして切り離されているのはその意思表示とも言えます。
 〈第三帝国〉以外の俗にATU(Alternative Traveller Universe)と呼ばれる設定本の刊行は翌年から始まり、Mongooseからだけでも(第一弾作品とされていた『Starship Troopers』こそ版権の都合で出なかったものの)『Judge Dredd』(2009年)、『Hammer's Slammers』(2009年)、『Strontium Dog』(2009年)、『Reign of Discordia』(2009年)、『Universe of Babylon 5』(2009年)、『Chthonian Stars』(2010年)、『Cowboys vs. Xenomorphs』(2012年)、『2300AD』(2012年)が出されています(※ただし『Reign of Discordia』『Chthonian Stars』は別出版社の作品の移植版です)。中でも『Judge Dredd』『2300AD』は発売後も、多くのサプリメント展開がなされました。

 一方でMongooseは、GDWからSJGで踏襲された「トラベラー・ニュースサービス(TNS)で宇宙の歴史を動かす」ということに関しては、頑ななまでに「帝国暦1105年から時間軸を動かさない」ことに拘りました。理由は明かされていませんが、その後Mongooseから発売された全ての設定本・シナリオが「帝国暦1105年」で固定されています。

 今回、サポート誌は特に無かったのですが、自社の電子広報誌『Signs & Portents』(※当時は無料でしたが、現在は有料化されました)内にてシナリオの掲載(その中には『Annic Nova』も)や設定・追加ルールの紹介が、同誌が休刊となる2011年まで行われました。

 ドイツの13Mann Verlag社は早くもこの年、Mongoose版『トラベラー』コアルールを独語訳した『Traveller: Grundregelwerk』を発売し、同時にオリジナルシナリオ『Blockade Runners』も出しました。13Mannは翌年以降も精力的にMongooseのサプリメント本のドイツ語版を翻訳展開していきます。

 前述の通り年末に独自の活動を終えたAvenger/Comsterですが、それまでに精力的に出版をしています。キャンペーンシナリオ「Guilded Lilly」シリーズの第3部『Into the Darkness』、「Operation Dominoes」シリーズ第4部『The Iskyar Metamorphosis』、一転して「黄金時代」のスピンワード・マーチ宙域を舞台とした『Type S』『One Crowded Hour』、そして「New Era 1248」シリーズは小国が分立するようになってしまった旧デネブ領域を解説する『Spinward States』、ウイルスとの戦いが続く『Freedom Leagues』が出されています。
 しかしこれらの製品は過去作も含めてこの年で一旦絶版となり、後にFFEの『Traveller: The New Era-2 CD-ROM』に「New Era 1248」「Guilded Lilly」「Operation Dominoes」が再録されるまでは幻の作品となってしまいました。

 QLIはこの年、『Revelation Station』という「汎用」シナリオを公開しています。もちろんT20対応なのは言うまでもなく、現在ではT20製品の一つとして数えられています。

 この他に、D. B. Game Design社が宇宙船解説本『Ares Dragon class Mercenary Cruiser』『Venture Frontier Courier』を出しています。恒例の『Traveller Calendar 2009』も出されていますが、この年からSpicaを離れて有志による発行となっています(そのためSpica時代の『2007』『2008』については現在は絶版です)。


【2009年】
 FFEは『Traveller5』試作版の配布を章ごとに順次開始しました(※2008年11月説もあります)。2007年時点での予告ではMongoose版の拡張版という位置づけとされていた(つまり互換性がある)T5でしたが、蓋を開けてみると行為判定方式はT4を踏襲し(さすがにダイス個数の端数はなくなりましたが)、輸送機器設計も同じく『Fire, Fusion & Steel』を継承するなど、全くの別システムとなったことが(一般公開こそされなかったものの)これで明かされたことになります。
 またFFEはMarischal Adventures製品の版権を取得し、DrivethruRPGにてクラシック版『トラベラー』(FASA製品・ドイツ語版・スペイン語版を含む)、および関連ゲームの電子版単品売りを開始しています。ただしGDW本体のクラシック版『トラベラー』製品群については翌年に持ち越されました。また『Traveller: The New Era CD-ROM』の販売も始まっています。
 なおこの年出された『Classic Traveller Apocrypha-1 CD-ROM』(FASA、GameLords、Paranoia Press製品を収録)には、これまで単行本化されていなかった『Pilot's Guide to the Caledon Subsector』が収録されています。
(※おそらくこの年、Quantum Enterprisesから『Classic Traveller T-Shirts』『Full Colour Printed T-shirts』の販売も開始されているはずです)

 Mongooseも「Alien Module」シリーズを開始します。この年は『Aslan』(これに関してはアスランの容姿を「ライオンに似た」ではなく「ライオンそのもの」に変えてしまったことに多くの批判があります)が、翌年には『Vargr』『Darrians』、2011年には『Zhodani』、2012年には『Solomani』と発売されていきました。各種族を詳細に解説しているのはGDWの「Alien Module」と同じですが、種族の解説だけでなくその種族が主に住む宙域の設定も収録されているのが特徴です(宙域設定部分に関してはそれぞれ別途単品売り版も存在します)。なお、Mongoose版Alien Moduleは続刊として「Droyne」が長らく予告され続けてきましたが、残念ながら執筆者不在という理由により計画は中断されています。
 経歴部門ごとにルール・データを補強する「Book」シリーズは、『Scout』『Psion』『Agent』『Scoundrel』が、輸送機器や装備を拡充する「Supplement」シリーズは『Fighting Ships』『Central Supply Catalogue』『Civilian Vehicles』『Military Vehicles』、さらにシナリオ集である「Adventure」シリーズが始まり、『Beltstrike』『Prison Planet』(両方ともGDWの同名作品とは全くの別物です)が、またこれとは別に「Third Imperium」シリーズとしてキャンペーンシナリオ『Tripwire』が発売されました。

 Mongooseの「Flaming Cobra」の下で出版を継続することになったAvenger/Comsterは、以前と変わらぬ勢いで出版を続けています。シナリオ『Fiddler's Green』『The Windermann Incident』、企業設定『Spinward Salvage LIC』、星系設定集「SITREP」シリーズとして『Callia』『Aster』を発売しました。
 加えて『Patron Encounters』といったT20時代の2006年に出した出版物の再販も始まり、シナリオ『Call of the Wild』『Range War』に新作を加えた『Project Steel』、「Golden Age Starships」をまとめた『Golden Age Starships Compilation 1-5』も出ています(※現在は単品売り版のみ)。

 QLIがかなり遅れ馳せながら「Traveller's Aide」シリーズ9作目となる『Fighting Ships of the Solomani』を刊行しました。これはソロマニ・リム戦争時のソロマニ連合海軍の艦艇や編成を解説する資料本ですが、QLI製品で唯一マーティン・ドハティが関わっていない「ことになっている」作品です。というのもドハティ本人は「この仕事は2003年に受けた」と後に語っていることから、何かしらの一悶着があったことが伺えます。
 いずれにせよ、この作品をもってT20の製品展開は完全に終了しました。

 Spicaは追加経歴部門集『Career Book 2』とオリジナル宇宙船解説本『Nemesis Class Pursuit Ship』を出しています。
 Jon Brazer Enterprisesがこの年から参入しています。初期作品はオリジナルの異星生物を1つずつ扱う「Creatures of Distant Worlds」シリーズや、巨大ロボットも含めて戦闘機械を解説する「Mech Tech 'n' bot」シリーズでした。
 K Studioはフォーイーヴン宙域を舞台にした「Denizens」シリーズを2011年までに3作品投入しています。
 Samardan Pressが「Flynn's Guide」で参入し、『To Alien Creation』『To Magic in Traveller』といったルール集や、汎用短編シナリオ『Vengeance by Proxy』を出しています。
 Terra-Sol Games LLCが『Twilight Sector Campaign Setting Sourcebook』、および無料シナリオ『Into the Star』『Somnium Mundus』で参入します。これはマーティン・ドハティによるATU設定で、設定の中核に突然変異種(Mutants)を置くなど〈第三帝国〉とは全く異なる未来図を描いています。
 Skortched Urf StudiosはオリジナルのNPCを1人1冊で徹底解説する「S.C.A.R.E.」シリーズで参入します。採り上げられたNPCは皆秘密(Secrets)を持ち、パトロン(Contacts)にも味方(Allies)にも競争相手(Rivals)にも敵(Enemies)にもなり得るように設計されています。このシリーズを翌年まで全5冊出し、オリジナルの異星種族を解説する「Minor Races」シリーズも出して刊行は途絶えました。
 Loren Wisemanはデッキプラン『30-Ton Slow Boat』を出しています。

 ファンジン『Freelance Traveller』『Frontier Report』誌が創刊されました。後者こそ創刊号のみの発行で終了しましたが、『Freelance Traveller』はオンライン無料ファンジンとして長くファンに愛されることとなります。

 Zozer Gamesのポール・エリオット(Paul Elliott)が『Mercator』を無料公開します。これはクラシック版『トラベラー』を用いてローマ帝国時代を遊ぶためのルール集で(※エリオットはローマ帝国時代を主題にした本やRPGを多く出版しています)、当然ながら宇宙船は帆船やガレー船に差し替えられ、帆船の設計ルールどころか地中海を交易で回るためのルールすら整備されているというかなりの異色作です。

 毎年恒例となった『Traveller Calendar 2010』も発売されています。


【2010年】
 Mongooseの「Supplement」シリーズでは『1001 characters』『Cybernetics』、「Book」シリーズでは『Merchant Prince』『Dilettante』、「Third Imperium」シリーズでは『Sector Fleet』『Reft Sector』が出されました。ちなみに『Sector Fleet』は2006年発売の『Grand Fleet』の復刻版ですが、内容は「宙域規模」に再調整されており、目玉であるスピンワード・マーチ宙域艦隊の編成表も『The Spinward Marches Campaign』(第五次辺境戦争)ではなく『Rebellion Sourcebook』(反乱時代)を踏襲しています(※この2冊の設定がなぜか矛盾しているため、愛好家の間では「戦後に星域艦隊が帝国内で再配置された」という解釈がされています)。
 新たに刊行を始めた「LBB」シリーズは、往年のLittle Black Bookの大きさまで「Book」シリーズを縮小した『Pocket Edition』と同じ企画のものです。『Mercenary』から『Dilettante』までの計8冊に加え、旧来のライブラリ・データ総集編である『LBB 9: Library Data』が出されています(なお『LBB 9』のみ電子版が存在します)。
 「Living Adventure」シリーズは、小売店や同好会などでのイベント用に無償公開されたものです(その代わりに事前申請と結果報告が一応必要でしたが、ダウンロードの制限は特にありませんでした)。『Of Dust-Spice and Dewclaws』『Spinward Fenderbender』『A Festive Occasion』『Rescue on Ruie』の4作品が存在し、全体の統括をドン・マッキニー(Don McKinney)が、シナリオ執筆をBITSのアンディ・リリー(Andy Lilly)、GURPS版『Sword Worlds』のハンス・ランケマドセン(Hans Rancke-Madsen)、T5開発チームのロブ・イーグルストーン(Robert Eaglestone)が担うなど、当時の『トラベラー』界の著名人が集った豪華な布陣でした。
 そしてMongooseは、全10章のキャンペーンシナリオ『Secrets of the Ancients』の無償公開を開始します。単なる復刻ではなく、GDWの旧『Secret of the Ancients』と比べて「秘密」の部分が複数形になっていることからもわかる通り、全面的な改修が施された内容となっています。他にS&P誌の『トラベラー』関連記事の総集編である『Compendium 1』も出されました。
 加えて、マーク・ミラーが最初の出版計画を明らかにしてから23年の時を経て、Mongoose版の翻訳ではありますがついにフランス語版『Traveller: Core Rulebook』が発売されました。翌年に『Livre 1: Mercenaire』、翌々年には『Les Marches Directes』と細々と翻訳展開は続けられましたが、その後は途絶えています。

 シナリオ集『Crowded Hours』は、Avenger制作のシナリオ『Type S』『Fiddler's Green』『One Crowded Hour』『The Windermann Incident』をまとめて、Mongooseの書籍版として編集し直したものです。
 なおAvenger/Comstarはこの作品をもってMongooseの下での活動を終了させています。

 FFEは『Traveller Apocrypha-2』(Judges Guild製品を収録)、『JTAS 01-36』、『Traveller More New Era-2』の各CD-ROMの販売を開始し、さらにDrivethruRPGにおいて『Starter Traveller』の期間限定無料配布を行いました(※記録は残していませんが、その後数年間は無料のまま放置されていたはずです)。

 この年、ローレン・ワイズマンが心臓発作で倒れたという情報が流れ、有志がバイパス手術の費用や術後の生活費を寄付金で募り始めました。実際マーク・ミラーがQLI/FFE版『Classic Reprints』の、BITSとAd Astra Gamesは共同で『Power Projection』シリーズの売り上げの一部を寄付しています。

 Terra-Sol Gamesは無料シナリオ『Ancient Trails: So It Begins』、有料シナリオ『Beyond the Open Door』を出していますが、興味深いのは(前年の『Somnium Mundus』、2012年発行の『Ancient Trails, Witness to History』も含めて)それぞれシナリオ本体に加えてNPCの「音声データ」を公開し、新たな演出技法を模索していることです。
 さらに追加設定集『Setting Update #1』、サポート誌『The Starfarer's Gazette #1』を発行するなど、精力的な展開が続きます。

 SpicaはNPC集『Allies, Contacts, Enemies & Rivals(ACER)』、星系設定集『System Book 1: Katringa』を出しています。この『ACER』は、Mongoose版ルールで制作されたキャラクターの持つ人脈のサンプル集として優れていました。

 Jon Brazer Enterprisesはこれまで出してきた「D66」シリーズの総集編である『D66 Compendium』を発売しました。この「D66」とは、6面体サイコロ2個で様々な名前や状況などを乱数生成するための表のことです。

 リーヴァーズ・ディープ宙域の設定を深掘りするファンジン『Into the Deep』の刊行が始まります。この年で第1~2号が、翌年に第3~4号が、2015年には第5号が出されています。
 また『Signal-GK』誌が(第6号を除いて)電子復刻され、ネット上に無料公開されています。

 Flying Buffaloは2008年から『Famous Game Designers Playing Card Deck』というトランプカードセットを出していたのですが、その2010年版の各スートの「K」にマーク・ミラー、ローレン・ワイズマン、リッチ・バナー、フランク・チャドウィックの4人が、「スペードの7」に『トラベラー』が描かれました。
(※2011年版の「スペードの7」、2014年版の「スペードのJ」にも再び『トラベラー』が採用されています)


【2011年】
 Mongooseの「Supplement」シリーズは『Campaign Guide』『Merchants and Cruisers』『Animal Encounters』『Dynasty』と『760 Patrons 2nd Edition』、「Book」シリーズは『Robot』が出されています。しかしこの頃になると粗製乱造による作り込み不足が目立つようになり、無理もないことであっても「汎用SF」なのが裏目に出る局面が相次ぎます。『Campaign Guide』は乱数生成されたシナリオが〈第三帝国〉ではあり得ない状況になりがちで不評であり、『Robot』は欠陥だらけだった上に「まるでピクサー映画のよう」という批判も上がりました。
 これまでMongooseが刊行を急いできたのには理由がありました。同社に限らず小規模出版社共通の悩みは、出版間隔が開くと会社の資金が枯渇してしまうことです。会社を回すためにも、とにかく新刊を出し続けないといけなかったのです。こういった状況は社内体制が改革される2016年まで続きました。
 なお他には、「Third Imperium」シリーズの『Starports』『Sword Worlds』『Spinward Encounters』や、S&P誌総集編の『Compendium 2』も出されています。
 ちなみにMongooseは『トラベラー』システム上でTVドラマ『スター・トレック』の世界観を再現する『Traveller: Prime Directive』を2012年春に発売すると公表し、表紙も完成していました。しかしその後全く音沙汰はなく、製作元であるはずのAmarillo Design Bureauも一切のコメントを出していません。

 Mongooseは『Secrets of the Ancients』を製本した有料版を発売しました。無料版と比べて内容の追加・変更は無いようです(無料版の配布も続けられています)。
 そしてそれと入れ替わりで、新たなる無料キャンペーンシナリオとして『The Pirates of Drinax』の公開が開始されました。プレイヤーは私掠船免状を得た「海賊」となり、危険極まりない星域アウトリム・ヴォイドに乗り出していくのです。全10章のシナリオ掲載は2015年まで順次続けられます。

 『Sign & Portents』第88号に、突如としてウィリアム・キース名義の記事「Destiny: Within the Two Thousand Worlds」が掲載されました。書き下ろしであれば実に18年ぶりの『トラベラー』復帰作となります(※転載や編集原稿の可能性もありますが、調査不足でどれも裏が取れていません)。

 さて、GDW末期の1995年に発売されたTNE小説3部作のうち、前述の通り第2巻までは発売されたのですが、第3巻『The Backwards Mask』は印刷目前で発売が中止され、その後原稿は行方不明となってしまいました。
 やがてマーク・ミラーは未完のままだったTNE小説を完結させようと、作家マシュー・カーソン(Matthew Carson)に2009年頃に執筆依頼をしました。彼らは前の2冊を熟読して構想を練り直し、新たに882頁(30万語)の壮大な完結編『The Backwards Mask』を書き下ろしてAmazon Kindleの電子書籍で発売します……が、原著作者ポール・ブルネット(Paul Brunette)による元原稿が後から発掘されてしまったのです。かくして2つの結末を持つ合本版『The Backwards Mask』がDrivethruRPGで発売されることになりました。
 なお、カーソンによる短編『The Errand』も無料公開されています。

 FFEは『Traveller 4th Edition』『Challenge Magazine 25-77』のCD-ROMを発売し、電子版『JTAS』『Challenge』誌、Judges Guild製品の単品売りも始めました。
 そして最新最後の『メガトラベラー』製品である『MegaTraveller Robots』も出されています。元々クラシック版『Book 8: Robots』のルールは『Striker』に合わせて構築されていたため、『メガトラベラー』の戦闘ルールとは噛み合っていませんでした。これを長年有志が調整を続けてきていたのですが、やがてDGPが出す予定だったロボット関連本の原稿が発掘され、制作が一気に進展します。その成果がこの一冊なのです。

 Samardan Pressの「Flynn's Guide」に「Azri Drakara」シリーズが加わります。この年は、地球から遙か1000パーセクの宙域にある幾つもの小国家や知的種族を紹介する『A Primer』、星域設定本『Rodan Subsector』、宇宙船解説本『Republic Starships』が出されました。

 Scrying Eye Gamesはデッキプラン集『Type S Scout/Courier: IISS Dreamcatcher』を皮切りに、2013年までに各種デッキプランを計11作品ほど発売しています(その内、S型偵察艦が3種、A型自由貿易商船が2種、Y型ヨットが2種)。またLoren Wisemanからもデッキプラン『40-ton Slow Pinnace』が出されています。

 Spica Publishingが傭兵資料集『Field Manual』に加えて、オリジナル設定集『Outer Veil』を発売します。これまで発売された他社のATU設定集はTL15以上の超未来を描いたのに対し、この『Outer Veil』はTL11の近未来(西暦2159年)を舞台とした異色作であり、それがかえって好評を得ました。というのも、

「我々は非常に高度な技術を想像するという問題に悩まされていた。私はクラシック・トラベラーで15以上の技術レベルを想像するのに困っていたし、メガトラベラーやTNEでさえ本当に想像を絶する技術というものが何であるかを示せなかった」
(マーク・ミラー)
 このように本家GDWであっても高度星間文明を想像し、提示しきれていませんでした。創造主にすらできないことは素人には到底無理であり、夢のような未来技術を実は皆が持て余していたのです。そんな中で登場した『Outer Veil』は地味であっても想像しやすい未来像を示したことで人気を獲得したのです。

 Gypsy Knights Gamesが「Quick Worlds」シリーズで参入しました。これは1冊ごとにオリジナルの1星系の詳細な設定を記したもので、この年から翌年にかけて計25冊が、最終作となった第26巻が2014年に発売されています。このシリーズは本来背景設定を特定しない汎用設定集として始まったものですが、この総集編となる「Subsector Sourcebook」シリーズで独自設定が徐々に積み重なっていきます。また「21」シリーズは様々な組織・施設・パトロンなどを21種類ずつ収録したもので、この年は『21 Plots』『21Plots Too』が出されています。

 Terra-Sol Gamesも勢いを増します。『Twilight Sector』の追加設定集『Setting Update Alpha』『Tinker, Spacer, Psion, Spy』、追加データ集「Six Guns」シリーズとして『Gauss Weapons』『Rescue Organizations』、『Shipbook: Mirador』に加え、文字通り「剣と魔法の世界」である『Netherell』の設定集とシナリオ『The Beast of Karridan's Hollow』を一気に投入します。

 Comster Gamesの活動停止に伴い、マーティン・ドハティのAvenger Enterprisesは提携先をAvalon Games Company(※最古のウォーゲーム『Tactics』(1952年)を発売した会社とは別です)に変更しました。新生Avalon/Avengerは年末、ATU設定集『Far Avalon Book 1~3』を皮切りに参入を果たします(ややこしいのですが、これは2009年にシステムを問わない汎用設定集として発売されたComster/Avenger版を『トラベラー』ロゴを取得して出版し直したものです)。

 拡張現実ゲーム『Traveller-AR』のベータテストが開始されています。これはスマートフォン(iPhone限定)を利用して現実の位置情報と連携させたゲームを目指していたのですが、予定していた2012年中の正式サービス移行は結局成し遂げられず、その後うやむやのうちに(おそらく2013年に)終了してしまったようです。

 なおこの年がGURPS Travellerの契約最終年でしたが、新製品が出ていないにも関わらず2015年末まで契約延長されています。


【2012年】
 Mongooseからは、「Sector」シリーズとして『Solomani Rim』『Deneb Sector』が、「Supplement」シリーズは『Campaign Guide』、および『Civilian Vehicles』と『Military Vehicles』を合本してルールの改定を施した『Vehicle Handbook』、「Special Supplement」シリーズからは『Deadly Assassins』『Biotech Vehicles』、シナリオとしては往年の『The Traveller Adventure』をMongoose版『トラベラー』向けに調整して復刻した(挿絵を原典に忠実に模写しているこだわりぶりです)『Aramis: The Traveller Adventure』が、そして新規の「Minor Alien Module」シリーズの第1弾として『Luriani』が発売されています(第2弾の企画もありましたが頓挫しました)。

 『Traveller5』のオープンベータ・テストが3月末をもって終了し、6月、ついにKickstarterにて資金募集が始まりました。結果的に2085人から29万4628ドルを集めるという史上空前の成功を収めます(当時のRPG分野における最高記録です)。
 8月にはその成功を祝して『Traveller5 Wallpapers』が無料公開されました。

 Gypsy Knights Gamesは「Subsector Sourcebook」シリーズの『Franklin』『Hub』『Sequoyah』に加えて、『The Hub Federation』を刊行しました。これにより「Subsector Sourcebook」や「21」シリーズで徐々に構築されてきた「クレメント宙域(Clement Sector)」設定の一端が明かされたことになります。この4星域の外の辺境を解説する『The Superior Colonies』や、「クレメント宙域」内の1星域を舞台としたシナリオ「Cascadia Adventures」3部作である『Save Our Ship』『The Lost Girl』『Fled』も発売されました。
 また「21」シリーズでは『21 Plots III』『21 Plots Planetside』『21 Organizations』が出ています。

 「Twilight Sector」のTerra-Sol Gamesからは『Setting Update Beta』『Starfarer's Gazette #2』『Techbook: Chrome』が発売されましたが、この頃から制作陣からマーティン・ドハティが抜けたことで勢いが落ち、その後2012年、2013年、2016年に『Twilight Sector Podcast』シリーズを計3作品出した程度で展開は完全に停滞してしまいます。2015年に「Six Guns」シリーズの『Lasers』が出たのが最後の書籍です。

 Avalon/Avengerから小説『Diaspora Phoenix』『Tales of New Era 1: Yesterday's Hero』復刻版、および新作短編『Slice of Life』『Hazard to Navigation』に加えて、追加装備集「Kitbag」シリーズが開始されます。翌年にかけて発売された第5巻までは銃や刀剣などの武器を扱い、2015年発売の第6~7巻では野外・悪環境活動に必要な装備を揃えています。
 なお、マーティン・ドハティのAvengerとしての活動はこの「Kitbag」シリーズが最後となっています。上記の通り、Terra-Solでの仕事もやめたドハティはこの後、一執筆者として各社を渡り歩きます。

 Zozer Gamesは新ATU設定資料集を展開していきます。これは以前ポール・エリオットが私的に公開していた「STL(Slower Than Light)」の全面改訂版で、超光速航法開発以前(TL9)の太陽系を舞台に、『Outpost Mars』では火星探検時代を、『Orbital』では太陽系開発時代の全体設定を、『Horizon Survey Craft』『Vacc Suit』(無料)で宇宙船や宇宙服といった装備の解説を行っています。年末には『Outpost Mars』用シナリオ『Gift of the Makers』も出されました。
 また汎用星系設定集「Planetary Tool Kit」シリーズとして『Ubar』『Korinthea』、翌年には『Mazandaran』『Antioch』と、どれもSFらしい強烈な個性を持つ設定で出されています。

 DSL Ironworksがこの年から汎用デッキプラン集「Quick Decks」シリーズや、フォーイーヴン宙域を舞台にした「The Bastards of Foreven」シリーズなどで参入しています。

 Gorgon Pressがこの年から参入し、デッキプラン集「Ship Book」シリーズの『Aegis Class Scout』『Chiron Class Hunter』『Garuda Class MSV』 に加えて汎用惑星設定集『Kalashain』を、翌年にも同じく惑星設定『Long Runner』を出しています。

 Spicaは追加経歴部門集『Career Book 3』を出しました。なおこれには自身の身体的特徴や家族構成を乱数決定するルールが追加されています。

 8月11日、CotIの管理者を勤めていたアンドリュー・ボールトン(Andrew Boulton)が亡くなりました。2003年からQLIで『トラベラー』関係の仕事を始めた彼は、数々の宇宙船のコンピュータ・グラフィクス作品を残しました。また2006年以降は『Traveller Calender』のまとめ役となっていました。
 年末恒例だった『Traveller Calender』の2013年版はイアン・ステッド(Ian Stead)が発起人となって制作され、彼の死を悼んで「Andrew Boulton Memorial Edition」と名付けられました。なおこのイアン・ステッドは、ボールトン亡き後の『トラベラー』宇宙船絵画界を牽引していく存在となっていきます。

 Expeditious Retreat PressからTraveller SRD(を核にして『OSRIC』『Castles & Crusades』といった『D&D』のOGLクローンを取り込んだ)ファンタジーRPG『Worlds Apart』が発売されました。経歴部門や技能はファンタジー風に変更されながらも、技能取得や判定は『トラベラー』を継承していますし、もちろん超能力ではなく魔法が導入されています。さらに、宇宙船が遠洋船(Voyager ship)に差し替えられ、星々に代わってそれぞれの「島」が固有の政治体系や文化を持っていることになっています。
 なお発売当時は文章はそのままで挿絵がないだけの無料版も存在しましたが、現在では削除されています。

 Traveller Wikiを置いていたWikiサービス「Wikia」の規約と『トラベラー』のフェアユース規定の衝突が問題となり(Wikiaの規約ではWikiaに書き込まれた文章をまとめて有料販売しても構わないのですが(実際されています)、それは無償公開を前提とするフェアユース規定違反となるのです)、年末をもって一時閉鎖されました。紆余曲折を経て翌年から最終的にCotI内のサーバーに移築して再開し、現在に至ります。


【2013年】
 Mongooseの「Supplement」シリーズとして『Starport Encounters』(および翌年発売の『Space Stations』『Powers and Principalities』『Adventure Seeds』)を出していますが、これは実はBITSの「101シリーズ」の合本再編集版です(内容に変更はありません)。余談ですが、同時期にBITSがDrivethruRPGで「101シリーズ」の単品売りを開始したため、同内容の電子書籍が並行で販売されるという不思議な事態となりました。
 「Adventure」シリーズは『Trillion Credit Squadron』が出されました。旧作同様に冒険シナリオと言うよりは艦隊戦のキャンペーンゲームとして構築されており、軍艦のデッキプラン集の他に、戦いの舞台となるアイランド星団の簡単な設定も掲載されています(星団については『Reft Sector』の方が詳細ですが)。
 他に『Compendium 3』や、『Vehicle Handbook』を補強する『Special Supplement 3: Vehicle Upgrade Manual』も出されています。

「私はT4が終わった直後に『Traveller5』に取り組み始めた。私がこれまで扱ってきたことを繰り返すだけでなく、私は、私自身が夢見てきたものを網羅したいと思っていた。私は1冊の本の中にそれら全てを入れたかったのだ」
(マーク・ミラー)
 3月26日付で『Traveller 5: Core Rules』の発送が開始されています。一般販売価格75ドル(CD-ROM版は35ドル)という高額設定ながらも、656頁の分厚い書籍には多くのルールと、そして膨大な量の図表が収められていました。この「T5」最大の特色は、ナイフ1本から星系1つまであらゆる物を「Maker」で制作できることでした。また、技術レベル(TL)の拡張や遺伝子操作・クローン・人工生命体に関するルールの導入など新たな知見を盛り込み、マーク・ミラーが35年分の『トラベラー』への思いを込めた、まさに究極版の『トラベラー』として満を持して送り出された…はずでした。
 しかし資金募集時の熱狂とは裏腹に、実際のルールへの評価は芳しくありませんでした。元々不人気だったT4由来の行為判定方式はさて置いても、何をするにしてもまず「Maker」で何もかも作ることから始めなくてはならず(そして指針も例示もありません)、その前に膨大な量の表という表に購入者は打ちのめされていたのです。「これは遊具(ゲーム)じゃなくて工具(ツール)だ」という言葉は、人々の困惑を端的に表していました。
 そしてシリーズ共通の悪癖として、今回も文中にかなりの数の誤植を含んでいました(7月末の段階で10頁に及ぶ正誤表が公開されましたが)。特に誤りが多かったのがキャラクター作成部分というのが致命的で、今作は3年間も試遊が繰り返されていただけにT5開発陣の無策を指摘する声は大きいものでした。なまじMongoose版『トラベラー』の完成度が高く、「顧客が求めていたもの」と合致していただけに、『Traveller5』への失望はより大きなものになってしまいました。
 結果的に、『Traveller5』は新たなファンを獲得することも、従来のファンを喜ばせることもできませんでした。熱が冷めると、多くのファンはそれぞれ自分が慣れ親しんだルールへと戻っていきました……。
 なおFFEは、『Traveller5』の発売に合わせて『Traveller5 Dice Set』『Traveller5 T-Shirts』(Player、Referee、4518thの3種類)の販売も開始しています。

 QLIのハンター・ゴードンが47歳で死去しています。彼は2011年末に末期癌であることを明かし、晩年はT20から『トラベラー』の版権に関わる部分を差し替えた『Sci-Fi20』を細々と売っていました。なおQLI製品、およびCotIの権利などはFFEに譲渡されていたため、そのまま今も存続しています。

 Greylock Publishingによる『Traveller5』用のシナリオ『Cirque: Touring the Spinward Marches』の資金募集が、262人から12072ドルを集めて成功しました。これはかつて『Lee's Guide to Interstellar Adventure』(Gamelords)を出したグレゴリー・リー(Gregory P. Lee)が31年振りに執筆した、スピンワード・マーチ宙域を巡回するサーカス団にまつわるキャンペーンシナリオで、T5へのサードパーティ参入第1弾作品となりました…が、追随する出版社は現れておらず、現時点では最初で最後の作品となってしまっています。翌年には無事に書籍版・電子版共に発行されています(現在は販売終了)。

 13Mann Verlag社製のシナリオ『Hephaestus』の英語版販売のためのクラウドファンディングが、1191ユーロを集めて無事終了しました。ただし終了間際に突然354ユーロもの匿名投資が入って目標額を辛うじて越えたので、会社側が自腹を切ったのだと思われます。その後『Hephaestus』は翌年1月初頭に無事に発売されています。
 また13Mannは2010年に発売した『Roboter』の英語版『Robots』を出しています。これはロボットに関する同社独自の制作ルール・資料集で、Mongoose版『Robot』の評価が低かっただけにこの発売は大いに歓迎されました。またMongoose版と違って〈第三帝国〉設定に密着した構成となっているのも特徴です。

 Spica Publishingは、マーティン・ドハティによる『Outer Veil』設定のキャンペーンシナリオ『Through the Veil』全10話を翌年にかけて順次無料公開しました。これは後に編集をやり直した豪華版の販売を前提としての企画でしたが、結局それが実現することはありませんでした。
 他には旅客船設定集『The Astral Splendour』、星系設定集『System Book 2: Xibalba』を出しています。

 Avengerが離脱したAvalon Gamesからは、宇宙船設定集『Apparition Class Intruder』が出されています。同社としてはこれが最後の『トラベラー』作品となりました。

 Gypsy Knights Gamesは『Clement Sector: Core Setting』を発売しました。これにより「クレメント宙域」の全貌(と追加ルール)がついに明かされ、『Outer Veil』に続くTL11のATU設定がまた一つ増えました。辺境の入植地を扱う『Peel Colonies』『Dawn Colonies』、「Dawn Adventures」シリーズのシナリオ『The Subteranean Oceans of Argos Prime』『Hell's Paradise』、「21」シリーズの『21 Plots Misbehave』『21 Starport Places』に加えて、新規の「Ships of Clement Sector」シリーズの刊行も始まりました。

 Samardan Pressの「Azri Drakara」シリーズに、パトロン集『Patrons by the Dozen』が加わっています。

 宇宙船CG絵師であるイアン・ステッドの個人企業Moon Toad Publishingがこの年から参入しています。基本的にはデッキプラン集「Ship Book」シリーズを出していますが、この年だけ『Vehicle Book: Navarro UTE』なる輸送機器データ本も発売しています。

 Zozer Gamesは、1人で貿易ゲームを遊ぶためのルール集『Star Trader』に加えて、『Attack Squadron: Roswell』を投入します。1950年代の地球を舞台に「謎の円盤」とアメリカ空軍の迎撃機が空中戦を繰り広げる、という前代未聞の作品となっています(両方とも現在は絶版)。

 Battlefield Press社は『トラベラー』システムで小説『Double Spiral War』を再現する『Warren C. Norwood's Double Spiral War (Traveller Edition)』の資金募集を開始し、55人から1250ドルを集めることに成功しました。その後、予定より1年遅れの2015年にようやく無事刊行されました。
 ちなみに同社は、2016年にこれの「Expanded Edition」、翌2017年には別の小説『The Cold Cash War』を再現する設定本の資金募集を行いましたが、いずれも不成立に終わっています。

 以前から更新頻度が激減していた『GURPS Traveller』のオンライン版トラベラー・ニュースサービスに、最後の記事が掲載されました。

キャピタル(コア宙域 2118 A586A98-F)発   1130年047日付
 帝国海軍は本日、故デュリナー大公の旗艦であった巡洋艦サーゴンが、御息女であり相続人でもあるイシス現大公閣下に返還されると発表しました。故デュリナー大公は1116年に、搭乗した小艇がキャピタルの地表に向かう途中で爆発し、暗殺されました。巡洋艦はそれ以来帝国海軍施設で厳重な警備下に置かれていましたが、海軍の調査官はこれ以上犯罪の証拠が出てこないと判断し、大公の御遺族に戻す判断をしました。イシス大公閣下は現在星系内には居られませんが、大公府関係者は艦をイレリシュに還すための人員が派遣される、と詳細は不明ながら報道各社向けに発表をしました。
 「デュリナー大公爆殺事件」で幕を開けた『GURPS Traveller』は、こうして事件捜査の終結(未解決)という形で幕引きとなったのです。その後も新製品が発売されることはありませんでしたが、製品の販売は契約終了年の2015年末まで続けられました。


【2014年】
 Mongooseは「Adventure」シリーズとして『Into The Unknown』、「Special Supplement」シリーズの『Rescue Ops』、そして久々の「Book」シリーズとして『Cosmopolite』と『Mercenary 2nd Edition』を投入しています。前述した通り、『Mercenary』の旧版は完成度を高めないまま出版してしまった経緯があり、この全面改訂を施した『2nd Edition』の発売は必然といえるものでした。なお、このBookシリーズから版組デザインが変更されています。
 そして「Vehicles of World War II」というシリーズがなぜか始まります。これは表題通りに第二次世界大戦期(TL5)の各国の戦闘車両を多数収録したもので、独米英ソ日伊仏の計7冊が発売されました。
 加えて、1989年以来25年振りにスペイン語版コアルールである『Traveller: Libro de Reglas』も出されていますが、フランス語版と違いサプリメント展開はありませんでした。

 13Mann Verlagは、入門者向け『トラベラー』こと「Traveller: Liftoff」の刊行計画を明かします。これはマーティン・ドハティがMongoose版『トラベラー』のルールを簡素にし、ルールブックをフルカラーかつ挿絵を多用して「読みやすい」作品を目指した野心的な企画でした。年末商戦に向けてボックスセットの発売を目指し、試作ルールを無償公開して意見を集め、3度に渡るルールの改定を経て、9月にようやく資金調達を開始しました。
 ところが設定された調達目標額が10万ユーロと実現不可能そうなのが敬遠されたか、わずか2649ユーロしか集められず、企画は立ち消えとなりました。これ以降13Mannは「Liftoff」に限らず、ドイツ語版『トラベラー』に関する活動もやめてしまいました(販売は継続されています)。

 そして資金調達という話に関連して、この年にはもう一つ重要な事件が起きています。
 3月、D20 Entertainment社のケン・ホイットマン(Ken Whitman)……そう、Imperium Games元社長のあのケネス・ホイットマンが映像プロデューサーとして、「Spinward Traveller」なる映像作品企画を明かし、6月から資金調達をKickstarterで始めたのです(※この影響で上記の「Liftoff」はマーク・ミラー側からの要請で調達開始を9月にずらすはめになり、年末商戦での販売を断念した裏話があります)。最終的に827人から49588ドルの投資を集めることに成功しました。
 しかし翌2015年初頭から計画の異変が漏れ聞こえ始めます(どうもこの時点で資金を使い尽くしていた模様です)。Gen Con 2015で公開されるはずだった完成品は現れず、11月末にはCGや模型製作者への代金不払いが発覚し、さらに投資者から集めた資金で購入したはずの撮影機材すら売却したことが告発され、騒動は一気に炎上します。同時進行で進められていたD20 Entertainmentが資金を募っていた複数の企画も同時に音信不通となり、事実上「逃げた」ものとみなされました。
 しかし無理もなかったのです。Imperium Gamesを追われてからのホイットマンは、RPGの出版社を作っては潰しを繰り返し、その度に周辺で騒動を起こしていました。特に、印刷会社を営んでいた2007年には複数の受注した仕事を納期に間に合わせられなかったのですが(それもよりによって最大の商戦であるGen Conにです)、そのことを話題にしたRPGnetでの自分に関する全ての書き込みを消すよう法的措置をちらつかせた…ものの運営側に拒否される、という事件もありました。さらにKickstarterによる資金調達が一般的になると、阿里巴巴(Alibaba)で仕入れた商品を自分で開発したと偽り、資金を募っては投資者に送付するという、詐欺的とも回りくどい通信販売とも言える行為をしていたことも明らかになっています。
 さて「逃亡後」のホイットマンですが、投資者からの追求もどこ吹く風で、俳優の卵に講義と宿を提供する新商売に手を出すなど、逃げも隠れもせずにのうのうと生きています(各種SNSだけでなく、自分を批判するブログにも堂々と現れています)。しかも2016年からは役者業を本格化させ、人気テレビドラマ『The Walking Dead』に端役として3話ほど出演を果たしています。そして「出演者」として会費50ドルの講演会を開いたり、小道具の売却で新たな騒動を引き起こしたりしているのですが、制作再開する気はあると主張している「Spinward Traveller」に進展がない限り、もはや『トラベラー』とは関係のない話です。

 もう一つ資金募集絡みでは、11月に『Traveller Ascension: Imperial Warrant Boardgame』が244人から35468ドルを集めています。〈第三帝国〉黎明期をモチーフに、未知の星々を発見・征服して帝国領を拡大し、他のプレイヤーよりも多くの名声を獲得することを目指すゲームです。引き渡しは2015年5月の予定でしたが完成は遅れに遅れ、とはいえ遅々としながらも発売に向けて一歩一歩進んでいるようです。

 FFEは広報誌『Imperiallines』を23年振りに(有料で)復刊しました。刊行予定のあった第3/4合併号、および第5号を引き継いでの刊行という意味で復刊号は「第6号」となっています。内容はT5で設定追加のあったリジャイナ星系(と知的種族アミンディ)についてです。翌年には第7号も刊行されています。
 他には『Charted Space Map』『Classic Traveller Orientation Pack』を1ドルで販売しています。後者の内容はドン・マッキニー作の正誤表や『Integrated Timeline』(※これにより年表の無償公開は中止されています)、『Book 0: An Introduction to Traveller』、(無料の)製品カタログである『Guide to Classic Traveller』『Guide to FASA Traveller』で、普通に買えば4.99ドルする『Book 0』を安く手に入れるならこれを選ぶべきでしょう。
 『Traveller5』関連では、『Traveller5 Starships & Spacecraft-1: Two Deck Plan Set for Kickstarter』の販売を開始しています。T5仕様の偵察艦と自由貿易商船のデッキプランを22✕34インチ(約56✕86センチ)で収録したものですが、偵察艦の8.5✕11インチに縮小した白地図のみは先行で無料公開された上、少し遅れてコルベット艦、巡洋艦、Xボート、付録としてスピンワード・マーチ宙域図を追加した『Traveller5 Starships & Spacecraft-2: Five Deck Plan Set』が無料公開されたため、わざわざ購入する意義はなくなりました。
 加えて『Traveller20 CD-ROM』や、マーティン・ドハティによる小説『Shadow of the Storm』も販売開始されています(※電子版は2016年発売)。

 Spicaは『Through the Veil』の完結後に、同じく『Outer Veil』設定のシナリオ『The Wreck of the Tereshkova』を発行します。今後の飛躍が期待されていた会社でしたが、これ以降表立った活動は途絶え、ウェブサイトも一時閉鎖されます。2015年に活動を再開したものの新製品の予告等は一切出されておらず、事実上の休眠状態にあります。『Outer Veil』等の版権は新会社Universal Machine Publicationsが受け継いだという話もありますが、継続展開についての話は現時点では出ていません。

 Gypsy Knights Gamesは、追加設定集『Hub Federation Ground Forces』『Hub Federation Navy、追加経歴部門集『Career Companion』、シナリオ『Grand Safari』、「21」シリーズ『21 More Organizations』『21 Plots Samaritan』の他、「Ships of Clement Sector」シリーズ数点を出しています。

 Moon Toad Publishingは「Ship Book」シリーズの『Lune Class Freelancer』『Panga Class Merchant』、これらとは別にR型商船を徹底解説した『Type R Subsidised Merchant Operators Manual』を出しています。

 13Mannはシナリオ『Three Blind Mice』を無料で公開し、Samardan Pressは「Azri Drakara」シリーズの『Cepheus Subsector』を、Gorgon Pressも『Gun Book: Mk8 EMA-1』を出しています。なおこの3社は、それらの作品をもってMongoose版『トラベラー』での出版展開を終了しています。

 Jon Brazer Enterprisesが「Foreven Worlds」シリーズを開始します。その名の通りフォーイーヴン宙域を独自に解説するもので、『Fessor Subsector』『Massina Subsector』に加えて『Vehicles of the Frontier』が出されています。
 なおこの「Foreven Worlds」シリーズは、2015年に『Tsokabar Subsector』が、2016年には『Alespron Subsector』が発売されました。

 『Traveller Calendar』がブライアン・ギブソン(Bryan Gibson)の葬儀費用への寄付のために2年振りに復活しました。ギブソンの遺作を含め、12名の『トラベラー』系CG作家が作品を無償提供しています


【2015年】
 Mongoose版『トラベラー』を巡る動きとしては、まずドン・マッキニーによるMongoose版『トラベラー』統合正誤表がようやく公開されたことが挙げられます。Mongooseの問題点は誤植の修正どころか公表すら非常に及び腰であったことが挙げられますが(正誤表が公式に公開されたのは初期作品のみという有様で、それ以降は誤植があるかどうかも表明していませんでした)、有志による努力(とマシュー・スプレンジの協力)により、この年全出版物の一部ではありますが修正されたことになります。
 そしてMongooseは「Referee's Aid」シリーズを開始します。基本的には宇宙船の解説ですが、小惑星帯など「星系内」に注目した解説本もあります。出版されたのは『Among the Trojans』『Type-S Scout/Courier』『Type-A Free Trader』『A Guide to Star Systems』『Type-Y Yacht』『Societies and Settlements』『Type-R Subsidised Merchant』『Traders & Raiders』の8作品です。
 加えて「Borderland」シリーズも始まりました。これは『Pirates of Drinax』の舞台となるトロージャン・リーチ宙域のボーダーランド星域を掘り下げていくもので、『The Borderland』に続いて『Into the Borderland』『Arunisiir』『Tanith』『Wildeman』『Inurin』『Counterweights and Measures』が、翌年には『Umemii』が発売されています。

 そして満を持して9月に、Mongoose版『トラベラー』の第2版ルールの試遊が早期予約者を対象に開始されました。翌年発売に向けて期待が高まりましたが、しかしこれは思わぬ余波を生みます。ドン・マッキニーは「第2版の登場で役目を終えた」として、公開されたばかりのMongoose版『トラベラー』正誤表を取り下げてしまったのです。そして必要性を訴える声にもなぜか耳を貸さないまま、不幸なことにマッキニーはこの年死去してしまいます。正誤表を置いていたサイトは翌年初頭には閉鎖され、貴重な正誤表集は喪われました(※Internet Archivesにはありますが、Mongoose版正誤表のみ収録されていません)。

 FFEの『Traveller5』コアルールは6月にようやく修正が充てられて「v5.09」に改定され、DrivethruRPGでの電子版販売も開始されています。編集も改められて総ページ数は759にまで増えていますが、以前から指摘されていた粗雑な編集による可読性の低さは改善されておらず、索引が追加されたが今度は目次が壊れている、など新たな問題も発生しています。
 他には、T20および『Traveller Chronicle』誌の復刻販売を開始し、Cargonaut Press製品の版権を取得しています。

 Gypsy Knights Gamesは、艦船設計ルール『The Anderson & Felix Guide to Naval Architecture』、追加ルール集『The Clement Sector Player's Guide』、「21」シリーズ『21 Vehicles』『21 Villains』を出しました。

 Moon Toad Publishingは「Ship Book」シリーズの『A2L Far Trader』『Type A Free Trader』を出しました。

 Zozer Gamesは『トラベラー』での活動を再開し、星系の詳細な設定を乱数生成する『World Creator's Handbook』を出しています。

 個人出版のFelbrigg Herriotが『トラベラー』向けに作品を提供し始めたのがこの年で、小物設定集「Decopedia」シリーズや、短編シナリオ「One-shot Scenario」シリーズを展開していっています。

 2014年頃から刊行間隔が開き気味だった『Freelance Traveller』が隔月刊に移行しました。それでも通巻80号以上を数える過去最大のファンジンとして活動を続けています。

「私が彼(マーク・ミラー)に直接尋ねたのは、〈第三帝国〉が本来の『トラベラー』から掛け離れていったと感じているプレイヤーたちが『3冊のLBBのみ』に回帰していることについてだ。彼は肩をすくめて『皆がそれをやりたければそれでいい』と語ったが、彼は〈帝国〉について書くことが好きなので、それは引き続き『トラベラー』の一部となり続けるだろう」
(E・T・スミス)
 そしてこの2015年頃から「プロトトラベラー(Proto-Traveller)」と呼ばれる遊び方が注目されるようになってきています。
 概念自体の登場は2005年と言われている「プロトトラベラー」とは、人によって解釈が異なりますが、クラシック版(それも1977年版が望ましいとされます)『Book1~3』のルールだけを用いて『トラベラー』の原点に立ち返った遊び方をすることで、背景設定は自分でサイコロを振って用意するか、〈第三帝国〉設定を採用するにしても『Supplement 4: The Spinward Marches(スピンワード・マーチ宙域)』までに書かれている情報のみとするのが一般的です。この影響を受けた作品としては『The Draconem Sub-Sector』(2017年)が挙げられます。
 これは40年近くに渡って積み重なっていった〈第三帝国〉設定や、増え続けるルールの数々を「重荷」に感じていた層からの反発と問題提起であり(そしてルールや設定の軽量化を求める時代の流れでもあります)、広範囲ではないにしても根強い支持を得ているのもまた事実です。


(「トラベラー40年史(6) 三者並立の時代」に続く)
(文中敬称略)

トラベラー40年史(6) 三者並立の時代(2016年~)

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【2016年】
 前年末に17年に及ぶ歴史に幕を閉じた『GURPS Traveller』が、FFEへの版権移譲により早くも1月から電子版の販売をSJGのWarehouse23で再開しています。またFFEでは総集編CD-ROMも制作しています。CD-ROMでは他に『Traveller Hero』『Traveller Apocrypha-3』(Cargonaut製品、Marischal製品、Traveller Chronicle誌を収録)も出ています。
 他には新作小説『Fate of the Kinunir』、マーク・ミラー書き下ろし小説『Agent of the Imperium』、および『トラベラー』に影響を与えたSF小説や『トラベラー』小説そのものをまとめた『The Science Fiction in Traveller』もFFEから刊行されました。小物としては『4518th Personal Identifier』も出されました。

 Mongoose版『トラベラー』がついに第2版に移行しました(第1版製品群は電子版のみ継続販売されています)。ゲームシステムの改修整頓に加えて、全ページをフルカラー化するなど新『Traveller: Core Rulebook』は見事に「近代化」がされましたが、その分価格が上昇した上に、コアルール自体がこの他に『High Guard』『Central Supply Catalogue』、翌年発売の『Vehicle Handbook』に分散されたことで総費用が大きく増えてしまったことは少なからぬ批判に晒されました(『Core Rulebook』単体では遊べない、ということはありませんが)。

 レフリーが持っていると便利な小ネタを集めた「Referee's Briefing」シリーズが新たに始まり、『Companies & Corporations』『Anomalies and Wonders』『Going Portside』『Mercenary Forces』がこの年に、『Incidents and Encounters』『Garden Worlds』が翌年に発売されました。今後は『Garden Worlds』のように貿易分類ごとに星系の特徴を解説していく計画もあったようですが、現時点では制作が中断されているようです。
 冒険シナリオの「Adventure」シリーズは、舞台となる宙域ごとに「Reach Adventure」と「Marches Adventure」に分割されました。「Reach」シリーズでは『Marooned on Marduk』『Theories of Everything』『The Calixcuel Incident』、「March」シリーズは『High and Dry』(※過去作品『Type S』のリメイク)が発売されました。
 また、『Pirates of Drinax』の(そしてトロージャン・リーチ宙域の)追加設定集として『Theev』『Torpol Cluster』が、『High Guard』の追加データ集として『Deployment Shuttle』『High Guard: Aslan』が、スピンワードマーチ宙域の設定を解説する「Spinward Marches」シリーズからは『The Bowman Arm』(Avengerの同名製品の復刻再編集版)が発売されました。

 しかし、Mongooseが第2版に移行した影響は単にルールが変わるだけではありませんでした。第2版はOpen Game Licenseを不採用とし、Traveller Logo Licenseも廃止されました。代わって導入されたのが、DrivethruRPGのOneBookShelf社と共同で展開された「Community Content Programs」に基づく「Travellers' Aid Society」ライセンスです。これは〈第三帝国〉設定も含めてMongoose版『トラベラー』第2版互換製品を誰もが自由に出せるものとする画期的契約に見えましたが、版権をMongooseとOneBookShelfに移譲し、販路がDrivethruRPGに限られ、売り上げの半分が版権料となるこの新約款は、これまで〈第三帝国〉関連製品を出せなかったサードパーティ各社には何一つ利点のないものでした。
 以前から試作版ルールを受け取って移行準備を着々と進めていた各社にとってこれは寝耳に水であり(Mongooseは途中から方針転換をした節があります)、かなり激しいやり取りも行われたようですが、最終的には決裂に終わりました。新約款を受け入れた既存企業は結局Jon Brazer Enterprisesだけでした(※フォーイーヴン宙域に関する規約もTASライセンスに統合されたためです)。

 Open Game Licenseを採用していた旧Mongoose版『トラベラー』は、当然System Reference Document(Traveller SRD)を公開していました。とはいえさほど需要もなく、ロゴライセンス自体も開放的だったために注目を浴びることはありませんでした……この時までは。
 しかしMongooseが閉鎖的となった以上、このSRDを利用した「OGL版トラベラー」がサードパーティには必要になったのです。対応が最も早かったのはGypsy Knights Gamesで、当初後方互換性を残すために第2版と第1版ことOGL版『トラベラー』の両対応で自社の「2nd Edition」製品群を出す予定だったのを、苦渋の決断でOGL版のみで展開することにしたのです。これは元々、OGL版『トラベラー』に不足していたキャラクター作成システム(※偵察局員しか作れませんでした)を『Clement Sector Core Setting Book』で補えていたからこそできた芸当でした。

 そんな中、7月にSamardan Pressのジェイソン・ケンプ(Jason Kemp)が公開したのが『Cepheus Engine System Reference Document』でした。これはOGL版『トラベラー』を基にして、装備など不足部分を同じくOpen Game Licenseを採用した『Traveller20』から持ってくるなどして再構成した「Classic Era Science Fiction 2D6-Based Open Gaming System」だったのです。
 実用的なルールがPay What You Want(※無料も含めて価格を自由に決定できる)で手に入り、ルール本体が初めからSRDなので自由に改造ができ(そのためPDFどころかMicrosoft Word形式も公開されました)、なおかつ版権料も要らないとあって、これをきっかけにサードパーティ各社が一挙に『Cepheus Engine』になだれ込みます。Zozer Games、DSL Ironworks、Moon Toad Publishingや、個人出版のFelbrigg Herriot、Michael Brownも自社製品を『Cepheus Engine』対応に切り替えました(このため、Zozer GamesやDSL Ironworksの一部製品は絶版となりました)。また、2010年から汎用デッキプラン集を出していたBlue Max Studiosも『Cepheus Engine』対応を標榜します。

 かくしてMongoose第2版+CCP陣営と『Cepheus Engine』の「2D6 OGL Sci-Fi」陣営、そして『Traveller5』の3つに参入社が分断されることになりました。しかし幸運なことに、『トラベラー』ファンは人気や好みの大小はあれどどれも同じ『トラベラー』として扱い、コミュニティが分断されることはありませんでした。CotIは『Cepheus Engine』を『トラベラー』の1ルールとして認めて独自フォーラムを設置し、DrivethruRPGも『トラベラー』の子カテゴリとして『Cepheus Engine』を用意しています。マーク・ミラーもOGL版『トラベラー』の存在を「恩送りの表れ(pay it forward)」と肯定的に捉えているようです。

 Gypsy Knights Gamesは前述の通り、既存製品を全て「2nd Edition」として増補改訂を行いつつ、Traveller Logo Licenseを外してOGL対応の製品に切り替えていきました。『Clement Sector 2nd Edition』を皮切りに、『Anderson & Felix Guide to Naval Architecture』、「Subsector Sourcebook」シリーズ、「Ships of Clement Sector」シリーズ、「21」シリーズが次々と「2nd Edition」化されています。また10月には『Cepheus Engine』を「クレメント宙域」設定に合わせて改良を施した『Clement Sector: The Rules』を刊行しています。
 新規作品では海賊設定集『Skull and Crossbones』、艦船設定集「Wendy's Guide」シリーズなどが出されました。

 Zozer Gamesは『Cepheus Engine』対応製品として、前年発売の『World Creator's Handbook』を改訂した『The Universal World Profile』、『Orbital』の改訂版となる『Orbital 2100』に加えて、恐竜時代への時間旅行をする子供向け設定集『Camp Cretaceous』を発行しました。

 『Outer Veil』のオメル・ジョエル(Omer G. Joel)らが独立起業した新興のStellagama Publishingは、新規参入社としては初のCCPへの参加を表明してシナリオ『The Bronze Case』を投入しますが、『Cepheus Engine』の登場を受けてすぐさま離脱します。以後は『Cepheus Engine』向けに肉体蘇生ルール集『From the Ashes』、いままで有りそうで無かった汎用「宇宙警察」設定集『Space Patrol』、星域設定集『Near Space』を出しました。特に『Near Space』は『Outer Veil』でも採用した太陽系近傍4星域分の星域図とUWPデータを収めているのですが、座標・規模・大気・水界・ガスジャイアントの有無以外の全ての情報を顧客に委ね、なおかつOpen Game Licenseによって自由に改造ができ、営利非営利を問わずに「自分の設定」として公開を可能としました。これは『トラベラー』系に限らず、EN PublishingのRPG『N.E.W.』でも採用されるなど広がりを見せています。

 Moon Toad Publishingは『Ship Book: Type S Scout/Courier』を出した後に『Cepheus Engine』に移行し、「Ship Files」シリーズに改題したオリジナルデッキプラン集を出していっています。この年は『RAX Type Protected Merchant』『Polixenes Class Courier』が発売されました。

 一方のCCP陣営ですが、Mongooseが多数の書式テンプレートや挿絵素材を公開したものの出足は伸び悩みます。Jon Brazer Enterprisesが『D66 Compendium 2』、「Foreven Worlds」シリーズの星域設定集改訂版や、連作シナリオ「Prelude to War」の『The Rose of Death』『State of Chaos』と出し、他には『Book 10: Cosmopolite』の著者が星系設定集『Castrobancla, The City of Aliens』を公開し、オリジナルのデッキプランや小物を出す者もいましたが、他のCCP採用システム(当時は『D&D』『Cortex Plus』『Cypher System』)と比べると、この時点では盛り上がりに欠けていたのは否めませんでした。

 Ad Astra Gamesは自社作品『Squadron Strike』の『トラベラー』版、『Squadron Strike: Traveller』の開発を公表し、翌年には資金調達を開始します。最終的に290人から23339ドルを集めて成功しました。これは『トラベラー』系ゲームでは初の「三次元ベクトル移動」を扱う宇宙戦闘ゲームで、小型艦を扱わずに1000トン以上の艦船同士の戦いを再現します。
 製品の発送開始は2016年7月となる計画でしたが、現時点で完成はしていないようです。


【2017年】
 2月14日、ローレン・ワイズマンが心臓発作で死去しました。享年65歳でした。GDW創設時の4人組で最初に天寿を全うした彼を悼んで、多くの人々が彼の偉大な功績を称えています。ちなみにSJGは訃報の中で、カードゲーム『Illuminati: New World Order』(1994年)の「Evil Geniuses for a Better Tomorrow」のカードに描かれた人物がワイズマン(と『GURPS Traveller: Starports』のジョン・フォード(John M. Ford))であることを明かしています。
 マーク・ミラーはこれを受けて回想録『GROGNARD: Ruminations on 40 Years in Gaming』の発売を決め、8月から資金募集を始めました。最終的に633人から30300ドルを集めたものの、ミラーが予防的に心臓バイパス手術を受けたために10月末予定だった発送は遅れて、結局2017年内には間に合いませんでした。
 またこの年、FFEはGen Conでのイベント用特典として制作した『GenCant 2017 Traveller Muster Out Cards』をDrivethruRPGで公開しています。『154th Battle Riders』腕章の発売も開始しました。

 Mongooseの「Reach Adventure」シリーズの第4作目として『Last Flight of the Amuar』が発売されました。これは往年の人気シナリオ『Leviathan(リヴァイアサン)』をリメイクしたようなシナリオで、消息不明となったリヴァイアサン級アムアール号の謎を追います。また「Spinward Marches」シリーズの第2作として帝国国境付近の星系を紹介する『Lunion Shield Worlds』が出されています。
 そして(発売が1年遅れましたが)入門者向けに『Traveller Starter Set』が満を持して発売されました。『Core Rulebook』を分割編集し、マーク・ミラー公認の新星域・異星人設定を盛り込んだシナリオ『The Fall of Tinath』を加えた3分冊構成となっていますが、既に『Core Rulebook』を持っている人には改めて購入する利点が少なかったため、要望を受けてすぐさま『The Fall of Tinath』を電子版のみ緊急で単独販売しています。
 一大キャンペーンシナリオ『Pirates of Drinax』も、無料版の内容に加筆修正・フルカラー化を加えた280頁のシナリオ部に、『Alien Module 1: Aslan』の第2版相当となる200頁強の解説本『The Trojan Reach』、100頁の宇宙船設定集『Ships of the Reach』の2冊を加えた豪華装丁でついに発売されました。さらに追加設定集(DLC)シリーズも『Gods of Marduk』『Ship Encounters』『Harrier class Commerce Raider』『Revolution on Acrid』『Friends in Dry Places』『The Cordan Conflict』『Liberty Port』『Lions of Thebus』が次々と発売されました(が、最終巻となる『Shadows of Sindal』のみ編集の都合で翌年に積み残しとなりました)。

 Mindjammer PressからはトランスヒューマンSF設定本『Mindjammer: Traveller Edition』が出されました。〈第三帝国〉の技術水準を遥かに越える技術レベル19~21の超未来設定を扱うこれは、2015年11月から資金募集が始まったFate Coreシステム版『Mindjammer: The Roleplaying Game』の追加特典として元々企画され、Mongoose第2版ルールへの対応(と版権取得)を済ませた上での発売となりました。無料体験シナリオである『Dominion』も公開されています。

 前年末に開始されたHorizon Gamesによる『Traveller Customizable Card Game』への資金募集は、775人から56676ドルを集めて終了しました。文字通り『トラベラー』を題材としたデッキ編成型カードゲームであるこの作品は、運送業者や印刷業者との数々のトラブルに悩まされながらも、順次出資者への製品出荷が行われているようです。

 これまで幻となっていた『Signal-GK』第6号が、そしてそれを含めて全号が4月にTraveller Wiki内で公開され、ついにダグダシャアグ宙域の資料が出揃います。さらにその後、ライブラリ・データ部分を全て集めて原著作者ジェイ・キャンベル(Jae Campbell)らDagudashaag Development Team自らが編集を行った、総計380頁強にも及ぶ『Encyclopaedia Dagudashaag』『For your eyes only』が無料公開されています(ただし星系データに関してはT5仕様に改定されています)。

 Samardan Pressからは『Cepheus Engine』に欠けていた輸送機器設計ルールである『Cepheus Engine Vehicle Design System』が公開されました。旧来の設計ルールと異なり、宇宙船設計ルールと同じ形式を採用して簡単に車両を制作することができます。

 Gypsy Knights Gamesは新刊投入をほぼ月刊化して「Clement Sector」の拡張を進めます。『Hub Federation Navy』『Hub Federation Ground Forces』『The Cascadia Adventures』『21 Starport Places』を「2nd Edition」化し、追加経歴部門集『Diverse Roles』、追加設定集『Wondrous Menagerie』『Tree of Life』、シナリオ『The Slide』、「Wendy's Guide」シリーズ第2~4巻、『21 Pirate Groups』を出しています。

 DSL Ironworksが新展開として『Cepheus Engine』向けATU設定「Enigmatic」シリーズを開始し、第1弾として『Quick Setting 1: Event and History Generator』を発売しました。「Enigmatic」はStellargamaの『Near Space』を利用して、近未来の太陽系近傍を舞台に『2300AD』型のハードSF宇宙を構築する計画でした。しかし4月に主筆が急死したため、全ては幻のまま終わりました。

 Zozer Gamesは『Orbital 2100』設定の新シナリオ『Far Horizon』と、絶版にした『Star Trader』に全面増補改訂を行って貿易商人としてだけでなく、一旅行者として、海軍士官として、偵察局の探査者として「1人のプレイヤーで」楽しめるようルール構築をした『Solo』を発売しています。また、次回作『Hostile』で採用する(※としていましたが、実際には2018年2月発売の『Zaibatsu』でした)「『Cepheus Engine』をさらにクラシック化する」ための『1970s 2D6 Retro Rules』も無償公開しました。
 そしてその『Hostile』は年末に発売されました。楽天的な未来を描いた〈第三帝国〉とは正反対に、快適な惑星は地球以外にはなく(その地球すら環境汚染で荒廃しています)、太陽系外に居るのは過酷な環境と冷酷な企業の下で資源採掘や輸送に従事する労働者ばかりという悲観的(かつ現実的)な「80年代SFの」未来像を提示します。

 Stellagama Publishingは、長年構想を温め続けていた新設定集『These Stars Are Ours!』、その追加資料『50 Wonders of the Reticulan Empire』、シナリオ『Borderlands Adventure 1: Wreck in the Ring』を発売しました。人類は一度は異星人に征服されたものの異星技術を吸収して反乱を起こし、太陽系周辺星域に星間国家を打ち立てたところから始まるATU設定で、星系の配置は同社の『Near Space』を使用しています。また、TSAO設定を前提としつつも汎用の超能力ルール集『Variant Psionics for the Cepheus Engine』も年末に出されました。

 おそらくSpica Publishingから衣替えしたと思われるUniversal Machine Publicationsが、この年4月から表立って活動を開始しました(実際はSpicaが変調をきたした2014年から活動していたようですが)。「2d6 SF SRD(ことTraveller SRD)」のキャラクター作成ルールを補間する『Basic Character Generation』『Physical Appearance』『Family Background』『Graduate School』『University』を出していたこの会社は、3月以降『Advantage and Disadvantage (2e)』『Skills List (2e)(1e)(2d6)』と、名前こそ伏せてはいるものの『トラベラー』系ルールの「まとめ」を次々と公開し、さらに『Scouts』という偵察局関連ルール集も出しています。
 彼らはこれを皮切りに経歴別の本を出し続け、最終的に「The Universal Machine Science Fiction Role-playing Game System」にまとめ上げる構想を持っていたようですが、8月以降活動は途絶えています。

 2013年から『2300AD』の無料誌『Colonial Times』(最新号は2017年発行の第7号)を出していたStygian Fox Publishingは、シナリオ『A Life Worth Living』で『Cepheus Engine』に参入しました。このシナリオは独自の近未来地球近傍設定「The Near Heavens」が使用されています。

 その他、Moon Toad Publishingは「Ship Files」シリーズの『Atticus Class Freelancer』『DeVass Class Private Starship』を出し、Michael Brownは週刊よりも早い間隔(早ければ日刊)で多くのショートシナリオを(中には西部劇設定の異色作も)、Pyromancer Publishingは数々のデッキプランを、Surreal Estate Gamesはスチームパンク風星系設定『World Guide: Zaonia』を、Thunderegg Productionsは『Easy Settlements』を出しています。長らく『トラベラー』での活動を休止していた13Mann Verlagも10月1日付で担当者の交代と、ドイツ語版Traveller SRDを基調としての再始動を予告しました(同時に今後英訳展開を行わないことも明言されています)(※しかし翌年初頭に新担当者の辞任が発表されたようです)。また、FSpace Publicationsも再び参入しています。

 CCP陣営の方もようやく目玉である〈第三帝国〉設定の製品が揃い始めます。特に精力的なのがMarch Harrier Publishingで、シナリオ『Two Days on Carsten』『See How They Run』『Eve of Rebellion』を出しています。中でも『Eve of Rebellion』は、反乱前夜の帝国首都を舞台にストレフォン皇帝、デュリナー大公、ヴァリアン皇子、ルカン皇子、イフェジニア皇女をそれぞれ演じるプレイヤー同士で権力闘争を繰り広げるという、他に類を見ない構成となっています。
 他には新規参入のEl Cheapo Productsが「Traveller Paper Miniatures」シリーズを開始し、『Humaniti Security』『Imperial Marines(全3作)』『Adventurers(全3作)』『Vargr Pirates』『Belters(全2作)』と立て続けにペーパーフィギュアを出し、その他Jon Brazer Enterprisesの「Foreven Worlds」シリーズも続刊され、いくつかの個人出版社がデッキプラン集を展開しています。

 そしてこの40周年の年を締めくくるように、BITSから『The Traveller Bibliography』が発売されました。これは著者ティモシー・コリンソン(Timothy Collinson)の所有する約二千点に及ぶ『トラベラー』関連書籍を全てまとめたもので、1999年発売の初版、2010年にUK TravConで配布された第2版に続く、最新の第3版となっています。


【2018年~】
 前述の通り、現時点で制作されている『トラベラー』は3つに分かれています。

 まず、マーク・ミラー率いるFFEの『Traveller5』ですが、新作情報はおろかサードパーティの参入情報もありません。唯一参加していたグレゴリー・リーも2017年に未完成の原稿(「Cirque: The Usual Suspects」)を遺したまま死去してしまい、T5路線が今後発展する望みはかなり薄くなったと思われます。
 マーク・ミラー本人は「T6」の開発を否定していますが、『Traveller8』が製作中であることは認めています(随分前から商標も押さえていました)。この「8」とは「8歳児向け」を意味し、子供でも楽しめる入門者向けのシステムとなるようです。また『T5 Players Manual』を出してルール面のサポート(簡略化?)を行う計画もあるようです。
 まだ公式には発表されていませんが、T5は将来的には「Galaxiad」という超未来文明設定に進むと思われています。これは帝国暦1900年代を舞台にした「リジャイナのホロテレビ局制作の連続ドラマ」というメタ構造になっている新設定で、ジャンプ機関に代わるゲート技術によって旅の範囲は銀河系全体に広がっています。『Traveller5』で既にルールや伏線は用意されており、いつ実現するのかは全くの未定ですが、徐々に設定構築が進んでいる気配はあります。
(※ちなみに平行世界の関係にある『GURPS Traveller』の「Lorenverse」にも既知宙域文明を崩壊させる要素がそのまま存在するため、結局帝国暦1400年頃には双方の時間軸は収束して「Galaxiad」に向かうとされています)

 Mongooseの『トラベラー』第2版は、「The Great Rift」シリーズで大裂溝付近の設定やシナリオを展開し、これと『Pirates of Drinax』に加えて『Behind the Claw』を投入してデネブ領域全体の設定を再度固めてから、いよいよ「第五次辺境戦争」が開幕となります。今後3年をかけて新シナリオや改訂版エイリアン・モジュールなど、様々な製品が展開される計画となっています。その他新ボックスセットなど、次の10年を見据えた新展開が数々予告されています。
 また第2版ルールに対応した『2300AD』も発売こそ遅れていますが、再起動に向けて開発が続いています。

 そして『Cepheus Engine』。こちらは様々なサードパーティが様々な宇宙設定を展開しており、一風変わったSF宇宙を楽しむことができます。『Clement Sector』『These Stars are Ours!』『Hostile』も新作投入が続けられる見込みですし、噂段階ですが『Twilight Sector』『Outer Veil』の復活や、新規参入社の話も聞こえており、〈第三帝国〉に飽き足らない旅人の拠り所として一大勢力であり続けるのは間違いなさそうです。

 ちなみにウォーゲーム関連では、Steve Jackson Gamesが28年越しの念願叶ってようやく『Triplanetary』の復刻に着手し、日本のBonsai Gamesからは『インペリウム セカンドエディション日本語版』の再販がなされるようです。


 形を、出版社を、そして名前すら変えてもその精神は引き継がれてきた『トラベラー』。RPG界を席巻することはもはやないにしても、来たる50周年、そしてその先も古き良き名作として愛され、受け継がれていくことでしょう。

「古い版の『トラベラー』は、それらを遊び、それらの資料の思い出を持つ人々のためにあり続ける。一方、新しい人にとっては『Traveller5』かMongoose版がある。私はいずれかのプレイヤーがもう片方も遊び、最終的には双方が彼らの楽しみに加わるだろうと思う」
(マーク・ミラー)
 そして、旅人はゆく――


【参考文献】
The Future of Traveller (Gary L. Thomas, Travellers' Digest #7, 1986)
A Decade of Traveller (Challenge #29, 1987)
Keith Brothers Interview (Rob Caswell, MegaTraveller Journal #3, 1993)
Whither (NOT to be confused with "Wither") Traveller? (David Nilsen, Challenge #77, 1995)
The Big List of Classic Traveller Products (Joe Walsh, 1999)
Traveller 4: What Might Have Been... (Stuart L. Dollar, 1999)
A Backdrop of Stars (Craig Lytton, 2000)
Questions for Dave (David Nilsen, CotI, 2004)
Players' Guide to MegaTraveller (Far Future Enterprises, 2005)
The Road Not Travell(er)ed (Hunter Gordon, CotI, 2008)
Interview with Marc Miller (Theodore Beale, Black Gate, 2010)
Guide to Classic Traveller (Far Future Enterprises, 2010)
A Perpetual Traveller - Marc Miller (Allen Varney, the Escapist, 2010)
A Look at the Notaries of 2300AD & GDW (Charles E. Gannon, Colonial Times #1, 2013)
Designers & Dragons (Shannon Appelcline, Evil Hat Productions, 2013)
Hi everyone. I'm Charles E. Gannon, (r/books, 2016)
Mr.Miller's Remarks (E.T. Smith, Trollbones, 2017)
Interview with Marc Miller (Michael Wolf, Stargazer's World, 2017)
13Mann Verlag
BITS UK Limited
BoardGameGeek
Club TUBG
CollectingCitadelMiniatures Wiki
Internet Archives
Kickstarter
Lost Minis Wiki
Mongoose Publishing
RPGnet
Traveller Wiki
Wayne's Books
Wikipedia

宙域散歩 バックナンバー目次

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 ロールプレイングゲーム『トラベラー』の、《第三帝国》の膨大な世界設定を紹介していくシリーズです。特段の断りがない限りは、これらの設定は全て帝国暦1105年時点のものとして記述しております。
 なお、文章には私の意訳・誤訳・誤解・曲解が過分に含まれ、推測による記述や、非公式設定をあえて取り込んだ部分もありますので、その点をあらかじめご理解いただいた上でご利用ください。
 Bon voyage!

第1回 268地域星域 概要編詳細編(スピンワード・マーチ宙域)
第2回 トリンズ・ヴェール星域(スピンワード・マーチ宙域)
第3回 モーラ~ルーニオン間(スピンワード・マーチ宙域)
第4回 グリッスン星域(スピンワード・マーチ宙域)
第5回 『Pirates of Drinax』特集1 ドリナックス王国(トロージャン・リーチ宙域)
第6回 『Pirates of Drinax』特集2 アウトリム・ヴォイド(トロージャン・リーチ宙域)
第7回 トビア星域(トロージャン・リーチ宙域)
第8回 ヴィラニ・メイン1 ヴォーダン星域(ヴランド宙域)
第9回 ヴィラニ・メイン2 アナルシ星域(ヴランド宙域)
第10回 ヴィラニ・メイン3 ヴランド(ヴランド宙域)
第11回 ヴィラニ・メイン4 シイグス・プリデン星域付近(ヴランド・リシュン宙域境界)
第12回 ヴィラニ・メイン5 グシェメグ宙域
第13回 パクト星域(ダグダシャアグ宙域)
第14回 シュドゥシャム(コア宙域)
第15回 キャピタル(コア宙域)
第16回 カムシイとレファレンス(コア宙域)
第17回 ソロマニ・リム宙域・概要編
第18回 リム・メイン1 ハーレクイン星域(ソロマニ・リム宙域)
第19回 リム・メイン2 ヴェガ自治区(ソロマニ・リム宙域)
第20回 テラ(ソロマニ・リム宙域)
第21回 ソル星域(ソロマニ・リム宙域)
第22回 リム・メイン3 アルバダウィ星域周辺(ソロマニ・リム宙域)
第23回 リーヴァーズ・ディープ宙域 前編後編ライブラリ
第24回 カレドン星域(リーヴァーズ・ディープ宙域)

番外編1 SuSAG(メガコーポレーション解説)
番外編2 フローリア人とフローリア連盟(群小種族解説)
番外編3 ソロマニ・リム戦争概史
番外編4 仮死技術と二等寝台
番外編5 「人類」総まとめ

(※記載した情報は予告なく修正される場合があります)

星の隣人たち(6) 接触!ヴァルグル

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「奪え、ただ心の赴くままに略奪するのだ――」
――オウクソス
 ヴァルグル(古ノルド語で「狼」「悪人」「破壊者」の意味)は、主要種族(Major Race)に分類される知的種族です。彼らの存在は長年に渡って異星生物学者を悩ませていました。彼らの生化学基盤や遺伝子構成は、故郷であるはずのレア星系の動植物とは根本的に異なっていたのです。この謎は、第三帝国初期の科学者が彼らを「テラ星系の動物が遺伝子改良されてレア星系に移植されたもの」と位置付け、後にそれが裏付けられたことでようやく解けました。ヴァルグルは主要種族の中でも唯一、自然進化の産物ではなく未知の目的の「実験」の成果だったのです。


■ヴァルグルの身体的特徴
 ヴァルグルは、太古種族(Ancients)がテラ(ソロマニ・リム宙域 1827)のイヌ科イヌ属の肉食動物を遺伝子操作し、約30万年前にレア(プロヴァンス宙域 2402)に持ち込んだ存在です。太古種族は彼らに知性以外に、爪先立ちとはいえ二足歩行を可能とする骨格と物を操れる指を与えたと考えられています。これら以外に改良の証拠は見つかっておらず、レアの環境に適応する過程で太古種族が予期していなかった(か計算通りの)「進化」が成された可能性が指摘されています。
 現在のヴァルグルは身長約1.6メートル、体重約60キログラム(女性は更に1割ほど小柄です)と、あまり目立つ存在ではありません。先祖であるイヌ科動物と比較すると、直立二足歩行をするために後肢は桁違いに伸び、内部構造に違いこそ見られますが、いまだ外見的には先祖に似ています。ヴァルグルの手は骨格は違えど人類と大きさや外観が似通っているので(ヴァルグルの方が細い傾向はありますが個体差の方が大きいです)、改良を必要とせずにお互いの機器を利用することができます。ヴァルグルの出し入れ不可の爪は鋭く尖っていて、格闘の際には武器として使うことができます(ただし彼らの身体構造上、格闘が得意というわけではありません)。
 霊長類から進化した人類と比べて、ヴァルグルは先祖の特徴を遥かに多く残しています。短い毛皮は灰色・茶褐色・黒色・錆びた赤色のどれか1色、もしくは他の色との組み合わせで覆われています。箒状の尾はかなり長く、鼻口部はイヌよりは短くはなっていますが今でも特徴的です。一般的にヴァルグルの反射神経は人類よりは優れていますが、個体差は大きいです。視力は人類にやや劣り、色覚の範囲も異なります。聴覚は人類より優れていますが、やはり識別範囲は異なります(人類より高音を聞くことができる代わりに低音部は聞こえないことがあります)。ヴァルグルはまた先祖同様に鋭敏な鼻を持ち、視覚聴覚を封じられても嗅覚だけで互いを認識できるほどです。
 ヴァルグルはレアの約26時間の自転周期に適応していますが、長時間の睡眠をまとめて取らずに短時間睡眠を小まめに分けて取ることを好みます。主に食後の昼寝ですが、環境によっては猛暑や厳寒の時間帯を避けるために睡眠を取る場合もあります。


■ヴァルグルの心理
 彼らが外見面で先祖の特徴を残しているのと同じように、心理面でもテラの肉食動物の本能的行動を色濃く残しています。それは他種族からは奇妙で矛盾しているかのように見え、しばしばからかいの種、悪くすれば種族的偏見にも繋がっています。
 ヴァルグルは本能に従って集団に、つまり「群れ」に属して他者との安心や快適さを求める種族です。しかし同時に、集団内での権力を求めて相争うことを厭わない種族でもあります。
 なぜなら、ヴァルグル社会では個人が持つ「威信(カリスマ性)」というものが最も重視され、現状維持に満足できないからです。彼らは集団の中で己の威信を高めることに日頃から努め、自分よりも高い威信を持つ者に付き従おうとします。仕事や任務の成功は威信を高めて自然と周囲を惹き付けますし、失敗すればその逆です。そして集団の頂点に立つ者の行いは、法律的道徳的に正しいも悪いも関係なく認めてしまいます。
 ヴァルグルは肩書も身分も意に介しません。自分と比べて威信があるかないかが全てです。よって無能であっても威信さえあれば集団の頂点に立てますが、それが集団の崩壊や更なる権力簒奪の引き金となりえます。
 また、遠方の権力には従いませんし、他者の威を借ることもできません。必然的に威信の及ぶ範囲は通信速度の影響を受け、配下を通して遠隔統治をすることもできず、集団規模を拡大すればするほど遠方から綻んでいくのです。
 このためヴァルグル社会は大きくまとまることができず、小規模集団が拡大しては分裂を繰り返すことになります。集団内でも権力争いが絶えず、安定とは無縁です。個人は集団に対して最善を尽くしますが、その集団にいつまでも残ろうとは思いませんし、集団の方もそんなことは期待していません。よって他種族からヴァルグルは、今いる集団から別の集団へと簡単に鞍替えし、忠誠心というものが無いかのように見えます。


■種族の誇り
 ヴァルグルは太古種族によって創造された知的種族、という特殊な生い立ちを持ちます。この事実は色々な意味で「ヴァルグルは特別な存在である」という種族意識を醸成しました。しかし科学者、政治家、宗教家に限らず様々な集団でそれぞれ見解は異なり、今も議論が交わされています。
 一般に広く浸透している種族的優越(kaenguerradz)を説く思想は、大きく分けて2つあります。「高優越」学派は、太古種族がヴァルグルを「完璧な」種族として設計したので、他種族よりも優れていると説きます。「低優越」学派は、イヌこそがテラで最も優秀な動物だったので遺伝子改良の対象となり、無価値ゆえにテラに放置されたサルが人類になったのだとしています。更に過激なものでは、元々ヴァルグルがテラの支配種族であり、人類の方が知性化改良を受けたのだとも主張しています。
 また極少数のヴァルグルにとって、自分たちが実験の産物だという事実は劣等感となって伸し掛かりました。彼らはこの苦しみから逃れるために極端な行動を取りがちです。
 しかし大多数のヴァルグルは、銀河征服の使命からも劣等感からも自由です。ただ単に、太古種族の意図が何であれ自分たちを星の世界に連れて行ってくれた、という特別感に浸っているだけです。


■ヴァルグルの生涯
 一般的なヴァルグルは65~75年ほど生きます。工業化以前の技術や医学、貧困や環境条件などの影響があると更に短くなりますし、最先端技術文明の下では抗老化薬(anagathics)や先端医術の恩恵を得られて寿命が延びます。ただし人類の薬品はヴァルグルには効かないため、帝国のSuSAG社などはヴァルグル向け製品を製造・輸出しています。

 誕生した彼らはまず、家庭で社会構造について学びます。家庭も集団と同じように機能していて、子供は威信を意識しながら自己を育みます。家庭内の若者は家庭の長に適切な敬意を示しつつ、自分の威信を高めて集団内の立場を確立せねばなりません。これは社会に巣立つための重要な訓練です。ヴァルグルは11~12歳で思春期に達し、17歳前後で肉体的な成長を終えます。その後の老化速度は人類と変わりません。
 先祖と異なり、ヴァルグルは年中交配可能です。妊娠期間は30週弱で、双子出産が一般的です。単子出産は三つ子と同じような確率で起こり、ヴァルグルのある集団では単独で生まれてきた子供に特別な意味を持たせます。
 農業世界や低技術世界では、家庭は大型化する傾向があります。家族が多いほど、生存に必要な狩猟役が多いことを意味するからです。技術の進歩につれて少子化が進みましたが、逆に労働力が自動化された高度技術社会では子育てに割ける時間が増えたので、かつての大家族に回帰しています。

 ヴァルグルは年齢に応じて名前が変わります。子供時代は母親の名に性別や生まれた順を意味する接尾語を付けただけですが、成人すると自身の特徴や挙げた成果を名前に選んだり、他者からの通り名を採用したり、尊敬する英雄の名を頂いたり、特に意味もなく聞こえのいい音節の並びを名乗ったりと様々です。


■ヴァルグルの食事
 肉食動物である彼らの食事の多くは、新鮮な生肉です。生の果物やワイン等の果実飲料も好みますが、それだけでは栄養が不足しがちです。ヴァルグルの消化器官は人類よりも代謝が効率的なため、彼らは頻繁に食事をしますが、その気になれば飢餓に備えて「食い溜め」をすることも可能です。
 ヴァルグルはレアの原生生物の捕食に適応はしましたが、テラのものほどには食欲をそそらなかったようです。そのため彼らは新たな調味料・香辛料の発見と研究開発に多くの時間を捧げ、日頃の食事をより魅力的にしてきました。また食糧事情を改善し、より食欲を増すように家畜の品種改良も行われました。これらの研究は現在でもヴァルグル世界で続いており、星間交易の多くは食品取引で占められています。


■ヴァルグルの統治機構
 よく誤解されていることですが「ヴァルグル連合」などという恒星間統一政府はなく、「典型的な」政府機構もありません。ヴァルグル諸国(Vargr Extents)にはありとあらゆる種類の政府組織があり、星系内に複数政府が併存したりもしています。彼らの唯一の結束力は「種族の誇り」への熱情ですが、えてしてこれで短期的に協力できても長期的には組織間の主導権争いで崩壊していきます。
 ヴァルグルの特性により、国家規模が大きくなるほど不安定になっていきます。そもそも彼らにとって政府とは統治機構ではなく、自分が忠誠を誓う指導者から福祉と保護を引き出す機関に過ぎません。法律で個人の自由を過度に縛るような指導者では、住民から支持と協力は得られないのです。そしてそんな指導者は、すぐに他の威信ある者に権力の座から追い落とされます。

 ヴァルグル国家にも当然法律はありますが、政府の執行能力の範囲内でしか遵守されていません。人類にとっては犯罪に見えるようなことでも、彼らは何とも思わない場合もあります。例えば、残虐な快楽殺人はヴァルグルにとっても重罪ですが、権力奪取のための殺人や貧しさゆえの強盗といった「訳あり」の場合は、全く違う刑罰の基準が課せられます。
 建前でも政府は市民を守らなくてはならないので、犯罪は権力への挑戦と受け止めますが、市民の側は意外と犯罪者に同情的です。なぜなら「明日は我が身」なのですから。

 独立政府の多さは外交関係を非常に複雑にしています。紛争は様々な問題で発生し、すぐに実力行使に至るのがしばしばでした。そこで紛争当事者の間を取り持つ「仲介人(Emissaries)」と呼ばれる存在が重要視されるようになっていきました。
 仲介人は熟練した外交交渉の専門家で、周囲から非常に尊敬される存在です。彼らは平和の創造と、少なくとも更なる敵対を回避することを目指しています。また、企業間の折衝にも仲介人は関わっています。


■ヴァルグルの信仰
 或るヴァルグルの宗教家曰く、「書に威信なし」。この言葉が示す通り、ヴァルグルは何百年も前の雄弁な死者の言葉よりも、目の前で語られる説法の方を重んじます。そして自身の体験を基準に考えるため、宗教は次第に数々の宗派に分裂するか、様々な解釈を受け入れて柔軟化するかのどちらかです。
 多くの宗教はヴァルグルの起源への誇りから成立し、えてして太古種族は「神」として崇められていますが、他にも祖霊崇拝、多神教、一神教と様々な形態を採ります。その教義は穏健なものから、殺人をも肯定する狂信的なものまで様々です。信仰に目覚めるヴァルグルは社会のあらゆる層に存在し、多くは信仰と仕事を両立させますが、中には信仰のために職を捨てる者もいます。
 宗教指導者の多くは仲介人としても活動しています。


■ヴァルグルの美術
 色覚が敏感ではないので、ヴァルグルの服装はしばしば明るい色で構成されて、人類には華やかに見えます。同様に絵画も、様々な技法を駆使して明るい色を優先させる傾向があります。
 絵画や彫刻は、威信ある指導者や有名な集団を題材にすることが多いです。海賊団も絵画・物語・詩の分野でよく採り上げられます。
 建築様式は文化圏の間だけでなく、同じ都市内でも大きく異なります。建物は一般的に非対称で、装飾が過剰です。建物の華やかな色彩は隣の建物と頻繁に衝突し、ヴァルグルの都市は混沌としているように見えます。
 彼らの群居性の本能は建築物にも影響を与えていて、公共空間や仕事場は広く作られることが一般的です。そして最大の特徴は、建物自体が特定の用途を念頭に置いて設計されることがめったにないことです。ヴァルグル社会の変化の多さは建物の所有者と機能も絶えず変化させるため、今の居住者のあらゆる需要に応えることこそが大事なのです。ある建物が突然官公庁になったとしても、その数週間後には怪しげな商売人が入居しているかもしれませんし、食堂になっているのかもしれないのです。


■ヴァルグルの時制・暦
 多様性の高いヴァルグル社会において、統一された計時法というものは存在しません。暦や時制はそれぞれの政府・世界どころか集団ごとですらまちまちです。ほとんどの世界では現地の公転・自転周期に基づいた暦や時刻の仕組みが利用されています。暦の紀元はたいてい、その政府の発足や入植の初日が基準となります(もちろん例外もあります)。
 それで支障が出るようなら、代わりに帝国歴と帝国標準時が用いられる場合もあります。


■ヴァルグルと人類との関係
 ヴァルグルが様々であるように、人類との関係も様々です。現在のヴァルグル諸国には人類居住星系があり、その多くは帝国国境付近に存在します。こういった世界はたいてい、旧第一帝国領が進出してきたヴァルグルに取り込まれたものです。そんな人類への態度は様々で、多くは共同体を分けたり混在したりして平和共存していますが、中には文化摩擦から敵意を持ち合っている世界もありますし、ヴァルグルが人類を奴隷化している世界もあります。
 国境沿いのヴァルグル国家や星系は、帝国の自由貿易商人や企業、政府機関との交易協定を結んでいます。帝国市民はまた、観光、使節、探検、雇用、研究、更には傭兵活動など様々な目的でヴァルグル宇宙を旅します。その際には現地の文化・政治事情に精通した仲介人(もしくは護衛)を雇うことがよくあります。
 乱暴で流動的な政治事情のため、トラベラー協会(Traveller's Aid Society)はヴァルグル諸国全域をアンバー・トラベルゾーンに指定し、危険とわかっている星系には通常通りレッド・トラベルゾーン指定を行っています。しかしヴァルグル世界の情勢は常に変化するので、帝国内での分類は必ずしも正確とは限りません。

 帝国領内にヴァルグルのみが居住する星系は数少ないですが、帝国各地にヴァルグルは拡散し、集団で居住しています。大都市にはよくヴァルグル街があり、他種族の住民と交流しています。そういった地域は本国同様に、騒がしく色彩豊かな傾向があります。
 ヴァルグルは基本的に権力に対する敬意が欠けていますが、人類の指導者をヴァルグルと同じように威信ある者と見なして従っていますし、権力奪取は人類社会では無益とも学んでいます。
 一方でヴァルグルは帝国の法律が厳しすぎると感じています。法律を尊重はしますが、帝国領内を旅するヴァルグル旅行者の多くは最低1回は軽犯罪で起訴されるのが常です。ヴァルグルの帝国への入国目的は、主に観光と傭兵活動と商売、そして犯罪です。

 帝国領外のアムドゥカン宙域を中心に広がるジュリアン保護国(Julian Protectorate)では、ヴァルグルと人類は密接な関係を築いています。この宙域ではかつて、ソロマニ系巨大企業のメンデレス社(Menderes Corporation)がヴァルグル移民を安い労働力(悪く言えば奴隷)として扱っていましたが、やがてヴァルグルが働き手としてだけではく、交易の相手としても、宙域経済を浮揚させる存在としても優秀なことに気付きました。そこで同社は方針を改め、ヴァルグルと人類の融和を目指す施策を次々と打ち出しました。
 それが結実したのは、第三帝国が旧領回復を目指して宙域に侵攻してきた時でした。人類とヴァルグルは共に武器を取って立ち上がり、双方は当時のメンデレス家当主であるジュリアンを「威信ある指導者」と認めて結集しました。やがてジュリアンを国父として建国された保護国は、最終的に帝国の進出を退けたのです。

 その一方で、ガシカン宙域近辺のヴァルグルは今でも良くて奴隷扱い、悪ければ即座に殺害の対象となっています。前述のアムドゥカン宙域と同様に、ここでもかつてヴァルグルは人類よりも低く貧しい地位に置かれていました。そんな中、待遇改善を求めて立ち上がったヴァルグルの民衆は用心棒としてヴァルグル海賊団を雇い入れたのですが、民衆の指導者はすぐに「より威信ある」海賊の頭目に取って代わられてしまったのです。海賊は宙域各地の人類星系を襲撃しては略奪を繰り返し、報復の連鎖は各地に飛び火しました。そして最終的に(群小人類イレアン人(Yileans)の母星でもある)首都ガシカンを海賊が核攻撃し、約40億人が死亡するという大惨事を招きます。これら一連の「ガシカン略奪(Sack of Gashikan)」と呼ばれる悲劇の記憶とヴァルグルへの憎悪が、現在この宙域を統治するガシカン第三帝政(Third Empire of Gashikan)にも受け継がれているのです。

 もう一つ国境を接するゾダーン人とは、最初の接触以降ずっと友好関係を築いています(もちろん海賊には関係のないことですが)。特に、ゾダーン国境に接するヴァルグル国家はゾダーン文化の影響を強く受けて安定と平和を求めるようになり、いざこざを繰り返す中央の同胞を冷ややかに見ています。また、国境沿いには超能力研究所がいくつも建設されていて、訓練された超能力者を数多く輩出しています。
(※ヴァルグルの超能力の素質は人類と同等です。しかしヴァルグル諸国では超能力の研究は進んでおらず、才能はあっても超能力を発現させることは難しいです。超能力に対する態度も奨励から排斥まで様々ですが、一般的には無関心です)

 ちなみに、ヴァルグルが金銭や目的のために(そして可能なら威信の高い)人類に雇われるのは十分ありえますが、ヴァルグルが人類を雇うことには種族の誇りが邪魔をして抵抗があるようです。少なくとも、自分ができる行為や技能に関しては異種族に任せたがらない傾向があります。一方で彼らは人類の「忠誠心」は高く評価していて、特に「正直な」ゾダーン人は信用できると考えています。


■ヴァルグルの言語
 ヴァルグル社会の多様性は言語にも及んでいて、数百もの異なる言語や方言が存在します。政府は特定の言語を採用する傾向がありますが、一部地域では交易や交渉事のためだけの共通言語が用いられることもあります。グェク=イッフ混在文化圏(Gvegh-Aekhu Cultural Region)に属するスピンワード・マーチ宙域やグヴァードン宙域では主にグェク語(Gvegh)が用いられ、全体の6割が母語としています。
 彼らの言語は己の威信によっても異なります。立場の低い者はより文語的に堅苦しく、立場が高くなるとより口語的に砕けた喋り方をします。そして聞き手にどう伝わるか細心の注意を払い、上位者には敬意を表します。ヴァルグル言語は単なる対話手段だけではなく、自身の威信を相手にどう伝えるかが重要な観念となっているのです。これを誤ると逆に威信を失うことに注意が必要です。
 身体言語(body language)もヴァルグルの会話には欠かせません。彼らは顔の構造上限られた表情しか作れないため、会話の意味を補強するために姿勢、立ち振舞い、耳や尾の動きを活用します。また、無意識に出た身体言語で相手に感情を悟られてしまうのを防ぐために、相手の気を逸らすような仕草を見せることもあります。


■ヴァルグルと〈近接戦闘〉
 〈近接戦闘〉はヴァルグル特有の技能で、単なる戦闘技能以上のものです。それは彼らの集団の中で力と威信を見せつけるためだからです。これは争い事や侮辱を解決するためだけでなく、指導者の実力や威信に疑念を抱いた際に権力を奪取するためにも用いられます。決闘は低い威信の者が最も手っ取り早く威信を得るための手段で、自分より高い威信を持つ者に勝利した場合は両者の威信が入れ替わります(※ルール上では威信の上昇は一度に4点が限界なので、集団の最下層からいきなり頂点に立つことはありません。一方で下降は無制限です)。ただし、やたらと仲間に決闘を申し込む者は一般的に威信を失い、最悪の場合は集団から追放されます。


■ヴァルグルの経済
 他種族における巨大企業のような会社機構は、ヴァルグルには存在しえません。運営に必須である階層構造と遠隔権限がヴァルグルの考え方と相容れないからです。成功している大企業は組織を小規模の子会社に分割することで遠隔権限を削減し、子会社の意欲を維持しています。このため、ヴァルグル企業は星域規模が最も良く機能します。
 企業は常に用心深く、革新的でなくてはなりません。効率性を高める企業改革は、企業が競争力を維持するための基本中の基本です。仕事に満足できない、自分が過小評価されていると考えた労働者は、さっさと転職する傾向があります。また、従業員も株式を持ち合う慣習があるため、失敗した経営者の交代は簡単に行われます(「一時的な降格」を受け入れやすい風土があるとも言えます)。

 ヴァルグル経済は国家規模止まりで、国家間経済というものは存在しません。物価は地域によって最大3割も異なります。同様に賃金も異なりますが、これには威信の方が大きく影響し、威信の高い者にはより多くの賃金と権限が与えられます。
 ヴァルグルは購入する商品価格から自分の給料まで、より良い条件を引き出すためにまず交渉を試みます。よって宇宙港や市場のような場所では、激しい交渉の不協和音で非常に騒がしくなります。
 経済学の分野は発展していないのでオプション取引は事実上存在せず、投資も珍しいです。企業は非常に不安定なので、貸し手や投資家に対しては配当を納得させるだけでなく、投資者を保護するための何かしらの担保が要求されることでしょう。


■ヴァルグルの軍事
 ほとんどの星系は何らかの形で軍事力を保持していますが、技術水準や練度はまちまちです。恒星間国家は加盟星系全ての軍隊を統制したり、逆に星系軍に権限を移譲していたりします。多くの世界では軍隊は陸軍と海軍で構成されています(海兵隊は有っても小規模です)。軍隊内の階級は気まぐれに独自のものが発行されていたり、厳格に定義されていたりします。帝国で見られる連隊・大隊・小隊といった区分けもあまり利用されていません。
 軍隊内の上下関係は威信によって定まるので、民衆を動かす力に長けた政治家が最高指揮官になりがちなのですが、軍隊指揮や戦術に関する技量を持たないことが常です。とはいえ指揮官は、地位に見合った期待に応えなくてはなりません。失敗した指揮官はすぐに他の威信ある者に取って代わられますが、その者が軍事面で有能かどうかは別の話です。
 彼らの精神面での影響は、軍隊組織だけでなく士気面にも強く出ています。威信の高い指揮官に率いられた部隊は士気も高いのですが、その指揮官に何かあった場合は一気に潰走する恐れがあります。また、ヴァルグルの兵士はしばしば任務放棄(ストライキ)や抗議集会を起こしがちです(上官への反抗も周囲から威信を得る一つの手段だからです)。そして戦闘中であっても、敵に寝返った方が得だと思えば脱走も躊躇しません(とはいえ失敗すれば重罪で裁かれますが)。


■ヴァルグルと海賊団
 ほとんどの人々がヴァルグルを想像する際に、まず思い浮かべるのは国境近辺に展開する海賊団です。しかしヴァルグル全体から見れば海賊に属する者は1割に過ぎません。真っ当な生き方を選んだヴァルグルにとっては迷惑な話なのです。
 海賊団は法律を守らず、国境を無視します。統一政府のないヴァルグルには統一された法執行機関がなく、それが海賊団をのさばらせる原因となっています。そして国境を越えさえすれば、たいていの法律問題を避けることができるのです。しかしヴァルグル領外では、海賊行為の抑止のために国家の法執行機関が目を光らせ、軍隊が哨戒を続けているので、襲撃は難しくなっています。
 大規模な海賊団は正規軍に匹敵する規模に組織され、独自に基地を構え、国家に傭兵として雇われるのは珍しくありません。大海賊団の豊富で多彩な装備はあらゆる仮想敵に対応し、紛争の抑止力として機能しています。そしてひとたび戦争になれば報酬として略奪品の一定量を受け取る契約になっています。
 大海賊団は軍隊も同然ですが、重要な利点が一つあります。軍隊の指揮官は威信はあっても能力不足の場合が多いのに対し、一般的に海賊の指揮官は威信と能力を兼ね備えているのです。これにより軍隊よりも部隊を安定させ、しっかりとした指揮系統を確保することができるのです。


■ヴァルグルの支族
 外部の者にはあまり知られていない事実として、ヴァルグル諸国にはいくつかのヴァルグル支族(subspecies)が存在します。これら少数支族は、太古種族によって開発された「完璧な」ヴァルグルから逸脱した欠陥品として見られ、偏見と差別の対象となっています。多くの支族はレアを離れ、辺境星系を隠れ里として定住しました。
 ヴァルグル支族の多くは帝国では未知であり、ヴァルグル自身でさえ社会から遠ざけているので限定的な知識しか持ち合わせていません。中には特殊な超能力を駆使する支族もいると言われています。
 帝国で知られている数少ない支族の一つがウルジン(Urzaeng)で、屈強な肉体を持つ(身長1.8メートル、体重70キログラム)ことからヴァルグル社会から追放されていない唯一の支族でもあります。ウルジンは元々重労働と戦闘のために太古種族によって設計されたと考えられており、知的・精神的能力が反対に犠牲となっています。そのため彼らは必然的に粗暴な性格となりました。


■ヴァルグルと辺境戦争
 帝国歴589年、帝国とゾダーンの間の国境問題が第一次辺境戦争(First Frontier War)に発展すると、ゾダーンはグヴァードン宙域のヴァルグル国家に同盟を持ちかけます。元々ゾダーンとは友好関係にあり、帝国とは以前直接戦火を交えた(220年~348年のヴァルグル戦役)という背景もあって、ゾダーン中心の「外世界同盟(Outworld Coalition)」に参加するヴァルグル国家が相次ぎました。
 15年間に及ぶ戦争の間、ヴァルグル軍は彼らが得意とする戦法でスピンワード・マーチ宙域の奥深くまで侵攻しましたが、最終的に両軍は膠着状態で停戦に漕ぎ着けました。新たな国境線が帝国とゾダーンの間には引かれましたが、ヴァルグルとは何の変化もありませんでした。
 615年からの第二次辺境戦争(Second Frontier War)以降、改組された外世界同盟で多くのヴァルグル国家はゾダーンと共に帝国を弱体化させるために戦いましたが、興味深いことにここでもヴァルグルの「多様性」は影響しています。いくつかの小国は帝国側につきましたし、海賊団すら両陣営に分かれて戦いあったのです。


【ライブラリ・データ】
レア(プロヴァンス宙域) Lair 2402 A8859B9-F G 高技・高人・肥沃 G Vl 首都
 ヴァルグルの母星であるレアは、実は彼らの間では様々に呼ばれており、レアというのは便宜上帝国人が付けた星系名に過ぎません。多くのヴァルグルは「野獣の巣」という意味を持つその単語で呼ばれることを侮辱と捉えますが、その割に彼らは母なる星に対して特別な感情は抱いていません(ましてや遺伝子上の故郷に過ぎないテラは尚更です)。過去800年間にこの星を治めた12国のうち、7国が星系外から統治していたという事実がそれを裏付けています。
 温暖な惑星であるレアには、現在約23億のヴァルグルが居住していますが、人類や他種族も一部住んでいます。かつての自然の多くは都市や工業地帯に取って代わられましたが、農産物や家畜のための農業地域が広く取られています。
 レアはつい最近まで星系内の一部が独立を謳歌していたという意味で、主要種族の母星では珍しい存在です。威信ある指導者によって大国の首都として統一こそされたものの、今の後継者には威信が欠けており、それを埋め合わせるべく強権に転じた政府の崩壊は時間の問題と思われています。
 なお、惑星レアの赤道傾斜角はテラとほぼ同一で、その傾きが約30万年前に引き起こされたという地質学的証拠が存在します。
(※GURPS版設定でのみ、レアには軌道エレベータ(Beanstalk)があることになっています)

選民教会 Church of the Chosen Ones
 帝国歴895年に設立された選民教会は、短期間でヴァルグル全体に広まりました。今でこそ活動は下火になっていますが、選民教会の名を知らないヴァルグルはまずいません。
 選民教会の教義は、太古種族によって「完璧な」優越種として創造されたヴァルグルこそが宇宙を支配すべきだ、というものです。これには他種族に限らずヴァルグルの間からも反論が呈されていますが、信者は聞く耳を持ちません。
 教会では集団生活が営まれ、各集団には独自の伝統や服装規則(白い服のみを着る、特定の入墨を彫るなど)があります。現在の教会には約20ほどの宗派が存在し、それぞれ複数の集団から構成されています。

グェク文化圏 Gvegh Cultural Region
 ヴァルグル諸国のスピンワード方面で広まっている文化です。グェク文化圏はヴァルグル諸国でも政治的に最も不安定な地域です。政府は大型化する傾向がありますが、それだけ内紛や国境問題や戦争が多発しています。個人もその影響を受け、他のヴァルグルよりも衝動的で、環境が自分の意に沿わなければすぐに不満を持ちます。

イッフ文化圏 Aekhu Cultural Region
 デネブ領域の帝国国境沿いに広まっている小さな文化圏です。グェク文化がゾダーンに惹かれたように、イッフ文化は帝国に関心を持っています。この文化は小さいながらも影響力は強く、隣接するグェクやロゴクス(Logaksu)との間に混在文化を形成するほどです。この混在文化圏はイッフ本体よりも広いです。
 この文化圏のヴァルグルは、特に宗教・倫理・愛郷心の面で非常に多彩です。他者と意見が合わないことは普通であり、この地域における変化は他の文化よりも頻繁かつ極端です。その分、意見の一致しやすい家族を非常に重んじます。イッフのヴァルグルは家族と定期的に接触していることが多く、特に同居している場合は一緒に働くことは珍しくありません。


【参考文献】
Alien Module 3: Vargr (Game Designers' Workshop)
Referee's Companion (Game Designers' Workshop)
Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
Alien Vol.1: Vilani & Vargr (Digest Group Publications)
GURPS Traveller: Alien Races 1 (Steve Jackson Games)
Alien Module 2: Vargr (Mongoose Publishing)

星の隣人たち(7) グヴァードン宙域の(帝国に関係する)諸勢力

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「王子の新しい船は、新しい国を築く鍵となりました。船の名を冠した彼の国はこの宙域で最も大きくなり、今も宙域の名に残っています。王子は、船を授けてくれた恩人の名を船に付けていました。放浪者グヴァードン、と――」
――童話『グヴァードンの物語』より

 グヴァードン宙域は様々なヴァルグル政府によって統治され、帝国とゾダーンの双方国境に隣接し、多様な文化、政治的不安定、先の読めない貿易、頻繁な紛争地帯となっています。このような状況は帝国やゾダーン市民には混沌としているように見えますが、ヴァルグルにとっては日常の生活様式です。
 ヴァルグルを知る者ならわかることですが、ここでは過去2000年以上に渡って数え切れないほどの国家が生まれてはすぐに消えていきました。そのほとんどは記録にも残らず、名高い(もしくは悪名高い)大国だけが歴史書の中に記されています。


■国家
第40戦隊(エッヘー・クォフィ) Ekhlle Ksafi
 第40戦隊は元々、第一次辺境戦争のジヴァイジェの戦い(Battle of Zivije)で壊滅したヴァルグル艦隊の生き残りです。コウドヴォン准将(Commodore Koudvan)に率られたこの敗残兵たちは、内輪揉めばかりの星々を制圧して封建的な軍事政権を打ち立て、以後500年に渡って権力を維持し続けています。今ではゾダーンの支援を受けている戦隊海軍は、グヴァードン宙域の中でも最精鋭と言われています。
 国家は将校たちによって統治されており、第一次辺境戦争時に確立された階級構造と軍事規律が保たれています。ヴァルグルらしからぬことに、各艦の乗組員は生涯の大半を同じ艦で過ごすうちに相互に深い友情を芽生えさせ、それぞれ独特の閉鎖的な文化を生み出しています。
 首都をユシス(グヴァードン宙域 1738)に置いている第40戦隊は、ユシェ星域の6星系を支配下に収めています。各星系では自治がなされていますが、実際には守備艦隊司令部と星系政府の合議政です(※というのも建前で、軍部の意向が優先されるため住民には不満が溜まっているようです)。現在、政情はやや不安定化していると伝えられていますが、それでも海軍艦隊の名声はこの国の統一を保つ接着剤として機能しています。
(※ゲーム『第五次辺境戦争(Fifth Frontier War)』に登場するユシス艦隊(Uthith Fleet)とギリール艦隊(Gireel Fleet)はこの第40戦隊の所属とされていますが、後の設定変更に伴いギリール星系は無かったことになり、ユシス星系の座標も変わりました)

ケズジ共同体 Commonality of Kedzudh
 この緩やかな連合はフィルグル星域における海賊行為の抑止を目的として、1044年に結成されました。現在では海賊団クフォルゼンの脅威に晒されている9星系が加盟しています。共同体の各星系政府は自治権を保持しながら、警察力と小艦隊の維持のために少額の加盟税を支払っています。なお連合体の法執行権限は、奴隷売買や密輸などの犯罪防止に限定されています。
 共同体海軍は首都アックズ(3034)にある唯一の基地に駐留し、そこから国境内の通商路を哨戒しています。海軍は領内にいる宇宙船への臨検の権限を持ち、不法行為があれば容疑者の逮捕・起訴を行います。そして発見された違法物品や盗難品は押収され、艦隊の維持費として役立てられます(窃盗の被害者は押収から1週間以内の提訴が認められています)。海軍の運営費の約3分の1はこうして賄われていますが、多くの市民は中には冤罪もあるのではないかと疑っています。

スーングリング帝国 Thoengling Raghz
 スーングリング帝国はグヴァードンとトゥグリッキの両宙域にまたがる中央集権的な大国です。この国は792年以来現在の形で存在しており、ヴァルグル全体でも最も大きく、安定した国として知られています。終身制の皇帝は議会の投票によって選出されますが、皇帝の子息がその跡を継ぐことは法律で禁止されています。またこの国には皇室に忠義を誓う貴族階級が存在します。
 国家は領内全ての警察力と軍事力を統御し、犯罪者に対する刑罰は迅速かつ厳しいものがあります。外世界(および国境間)取引には貿易許可証が必要とされますが、これは滅多に拒否されず、加盟世界はスーングリング帝国内外の諸企業との健全な取引関係を結んでいます。第三帝国もこの国の安定性と強大さを見込んで主要な貿易相手としており、ヴァルグル諸国における第三帝国の権益を強力に支えています。

第三帝国 Third Imperium
 グヴァードン宙域の世界を帝国が支配するのは困難を極め、結局、トライアド(2436)とギューツォン(3233)に属領を確保して海軍・偵察局基地を設置するのが精一杯でした。
 帝国が基地を置く目的は2つあります。帝国はヴァルグルを潜在的な脅威とみなしており、ヴァルグル領内に観測拠点を必要としていました。一方で帝国はヴァルグルとの良好な貿易関係を築くことで、帝国領への襲撃を減らそうともしています。両基地の存在は効果的に機能しており、国境付近での海賊攻撃を低減させています。


■企業
グヴァイノックス Gvaeknoks
本社:クフォリール(1421 B86AAA6-B)
商圏:グヴァードン宙域
 グヴァイノックスはグヴァードン宙域最大級の運輸会社です。同社には各星系を定期航路で回るジャンプ-2船団と、主要世界間を素早く運ぶジャンプ-3船団があり、宙域内のあらゆる世界で輸送業を展開しています。

オベルリンズ運輸 Oberlindes Lines
本社:リジャイナ(スピンワード・マーチ宙域 1910)
商圏:リジャイナ星域、アラミス星域、ユシェ星域、フィルグル星域
 グヴァードン宙域内ではグヴァイノックス社に次ぐサービスの良さで知られる帝国系の運輸会社です。帝国とヴァルグル諸国の国境越え貿易の多くをこのオベルリンズ運輸が取り扱っています。
 同社のヴァルグル諸国における象徴が巡洋艦エミッサリーで、その存在は海賊への抑止力として十分なほどに機能しています。
(※リジャイナ~ケズジ共同体~スーングリング帝国間の交易路は確保していますが、そこから先についてはさすがにグヴァイノックスの牙城は崩せていないようです。ちなみに、ラウグジルゾーラ(2040)の宇宙港をAクラスに改修したのもオベルリンズ運輸だそうです)

ラッハソール造船 Rrakhthall Shipyards
本社:アックズ(3034 A424551-E)
商圏:フィルグル星域
 ラッハソール造船は、897年に当時無人だったアックズ星系に家族経営企業として創業されました。創業者こそラッハソール家の家長でしたが、造船会社として必要とされる技術・専門知識・取引先を持っていたのは3人の息子たちでした。
 同社は最初は主に軍事用小艇の建造を担い、近隣星系に納入していきました。社の繁盛とともにアックズへの入植は進み、一族は得られた富をより大きな艦艇を建造できる造船所や、労働者の教育に投資していきました。やがて造船所は海軍基地としても機能するように拡張され、ケズジ共同体が結成される際には海賊と戦うための艦船の多くを供給しました。同社のこれらの多大な貢献により、共同体の首都としてアックズが選ばれたのは必然でした。

ウォーカー・ロボティクス Walker Robotics
本社:パンドリン(2240 B560675-A)
商圏:ユシェ星域
 スピンワード・マーチ宙域の帝国国境すぐ外にあるこの会社は、ヴァルグル市場向けのロボット設計・製造を行っている人類系企業です。ここの大規模な工場で造られた製品は、ヴァルグルの商人や代理店に出荷されていきます。
 ヴァルグル諸国ではロボットの需要はそこまでありませんが、ウォーカー・ロボティクス製品はヴァルグル系企業のものよりも優れており、非常に高い売り上げを誇っています。
 同社の主な競争相手は、帝国製のロボットを盗んでヴァルグル諸国で売りさばく海賊団です。
(※マングース版ルールから利用可能となった二足歩行兵器「ウォーカー」を製造している…ことはないと思います)

ローイギール・オッハ Rraegnaell Oukh
本社:ジエンギ(1539 B9789AA-A)
商圏:本文参照
 ゾダーンと帝国の双方の国境に近いという立地を活かし、ローイギール・オッハはヴァルグル・ゾダーン・帝国の「三角貿易」を営んでいます。そして時には直接の輸出入が許可されないような品物を第三国経由で流したりもしています。

エンクソー・オロズ Enksoe Aloz
母港:ケズジ(2833 B000525-D)
商圏:ケズジ共同体、および周囲6パーセク以内の世界
 経営者エンクソーは個人商船で旗揚げし、幸運にも今やジャンプ-2商船7隻の船団を持つほどにまで会社を成長させました。彼の船はケズジ共同体領内だけでなく、時には国境を越えて他のヴァルグル世界や帝国領内にまで旅をしています。


■海賊団
カイルーゴ Kaerrgga
 カイルーゴはグヴァードン宙域のコアワード(銀河核方向)端にある星を根城にしていますが、彼らは弱い目標をあえて狙わず、国家を相手取って襲撃することを好みます。時には、遙かスーングリング帝国や第40戦隊といったリムワード(銀河辺境方向)側の国家まで遠征を行うことすらあります。

クフォルゼン Kforuzeng
 帝国国境近辺での海賊の代名詞でもあるクフォルゼンは、ウーラツォス(3238)を根拠地にして帝国領内への襲撃をほぼ独占しており、国境付近の海軍関係者や商人たちにはその冷酷さと残虐さは広く知れ渡っています。
 1041年の結成以来クフォルゼンは様々な勢力や船舶を襲撃し、他の海賊団を吸収しては勢力を拡大し続けてきました。最近では地上戦を得意とする海賊団(事実上の傭兵部隊)イグジング(Aegzaeng)をも配下に加えて、更に戦力を増しています。
 一方で彼らは、帝国とスーングリング帝国を行き来するテュケラ運輸貨物船の「用心棒」役を(もちろん幾度となく襲ってから)買って出るなど、したたかな一面もあります。
 現在、クフォルゼンはオベルリンズ運輸の巡洋艦エミッサリーに対抗するため、多額の資金と威信をかけて大戦艦の建造に着手しています。しかし艦の規模に見合う武装の調達先は不明であり、完成が疑問視されています。
(※GDW時代のクフォルゼンは中小規模の新興海賊とされていましたが、その後HIWGで設定が盛られて、今では宙域最大級の海賊団ということになっています)

ローングゾーカーズ Llangzoekirs
 女海賊オンギグズーロ(Ongaegzlla)が率いるこの海賊団は、威信ある彼女の旗下に集った数々の小海賊団から成っています。ローングゾーカーズはスーングリング帝国の国境付近に現在4つの基地を構えており、近隣星域に進出するのも時間の問題と噂されています。


【ライブラリ・データ】
ジヴァイジェの戦い Battle of Zivije
 604年に繰り広げられた、第一次辺境戦争の最後を飾る有名な会戦です。この戦いでゾダーン・ヴァルグル連合軍に対し、帝国海軍のオラヴ・オート=プランクウェル大提督(Grand Admiral Olav hault-Plankwell)が多くの犠牲を払いながらも勝利を収めて停戦に持ち込みました。

エミッサリー(巡洋艦) Emissary
 ライトニング級巡洋艦エミッサリー(排水素量6万トン)は、現在オベルリンズ運輸がヴァルグル諸国内で運行させています。元々帝国海軍の「スパークリング・ディストレス(Sparkling Distress)」として運用された後に民間に払い下げられたのですが、その際に粒子加速砲など武装は撤去されるはずだったのを、巧妙な書類操作と官僚の対立を利用してそのままの形で1049年にオベルリンズ運輸が入手したのです(※これを画策したのは当時22歳のマルク・オベルリンズ青年であり、彼はその後エミッサリー初代艦長として16年間を過ごします)。
 もちろんこれは違法なのですが、オベルリンズ運輸は艦を帝国領外に出して戻さないことで追及をかわしました。それ以後は現在の船名に改称してパンドリン(2240)を母港にし、同社貨物船の護衛艦としても、ヴァルグル諸国におけるオベルリンズの「旗艦」としても(近年危うくヴァルグル海賊に乗っ取られかけましたが)活躍しています。
(※旧設定では払い下げは1023年でしたが、計算が合わないのでGURPS版設定で1049年に変更されています)

パンドリン Pandrin 2240 B560675-A C 砂漠・非工・富裕 G Va
 この砂漠の星へは第一次辺境戦争中に人類の難民が入植を始め、第二次辺境戦争でヴァルグルに占拠されるまでの20年間でその規模は随分と拡大されていました。
 人類とヴァルグルの関係は徐々に改善されてきてはいますが、両種族は宇宙港から等距離に位置する別々のドーム都市にそれぞれ分かれて住んでいます(人口比は8対2です)。とはいえ人類街に住んで働くヴァルグルも少数いますし、その逆もあります。種族間には若干の緊張があり、いざこざは珍しくありませんが、それは主に酒場や市場で発生します。
 所得面では全体的に人類の方が貧困層に甘んじていますが、唯一の例外がウォーカー・ロボティクス社で、同社従業員の賃金水準はヴァルグルのそれを上回っています。

トライアド Triad 2436 B587777-9 N 農業・肥沃・富裕 Cs
 トライアド星系は第二次辺境戦争直後(620年代)に帝国人によって入植され、広大な海で隔てられた3つの大陸からこの名が取られました。帝国はここを属領として小さな植民地を建設し、ヴァルグルの攻撃を事前に察知する観測拠点としています。
 肥沃な大地や豊富な野生生物を利用して、トライアドは繁栄した農業世界となりました。ヴァルグルと帝国との緊張が緩和されると、近隣世界は家畜や農作物の取引をトライアドと行うようになりました。食糧生産物はこの星の主要輸出品であり、それによって非常に裕福な世界となっています。
 トライアドには人口の3割を占めるヴァルグルの居留地がいくつかありますが、人類の指導者に威信を感じられない彼らの間で不満が高まっています。ヴァルグル住民の間では自分たちの中から指導者を出そうと2つの派閥が争っていますが、人類の指導者層がこの事態にどう対処するかは定まっていません。
(※オベルリンズ運輸はこの星に営業所を構えているようです)

ギューツォン Gvutson 3233 A85A7CE-9 S 海洋 Cs A
 ギューツォンはグヴァードン宙域に2つある帝国属領の1つで、ここに建設された偵察局基地を支えるために入植されました。3000万人の人口は全て、この海洋惑星唯一の大陸にある一つの都市に住んでいます。
 政府は等しい権力と権限を持つ5名からなる統治評議会によって治められています。660年に入植されて以降、人口比半々の人類とヴァルグルの社会はうまく統合されており、これまで通りに有能で威信ある指導者が選出され続ければ両者間の摩擦は起こりそうにありません。
(※アンバー・トラベルゾーン指定がされていますが、おそらく治安レベルEによるものだと思われます)


【参考文献】
Journal of the Travellers' Aid Society #21 (Game Designers' Workshop)
Traveller Adventure (Game Designers' Workshop)
Book 7: Merchant Prince (Game Designers' Workshop)
Alien Module 3: Vargr (Game Designers' Workshop)
AAB Proceedings #14 (History of the Imperium Working Group)
GURPS Traveller: Alien Races 4 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
Gvurrdon Sector Campaign Book (Roger Malmstein)
Alien Module 2: Vargr (Mongoose Publishing)

(※古いグヴァードン宙域のUWPはいくつか問題があるため、今回はTraveller5 Second Surveyのものを採用しています)

宙域散歩(番外編6) トラベラー協会

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「観光客(ツーリスト)と旅人(トラベラー)の違いは、観光客は災難に遭うと為す術がないが、旅人は災難の中でもどうにかして己を助けられる点だ」
 トラベラー協会。会員権は退職恩典の目玉の一つであり、我々の快適な旅路を陰日向に支えてくれるありがたい存在……の割には、その設定はこれまで全くと言っていいほど明らかになっていません。そこで今回は公式非公式を問わず資料の中から断片的な設定を可能な限り掘り起こし、各設定間の矛盾をできるだけ解消し、考察と推測を含めてその全体像を明らかにしていきたいと思います。
 よって、あくまで以下の文章は非公式の独自設定と考えてください(とはいえ公式資料か公式資料を作った人による設定から引用しているので、準公式程度の精度はあると思いますが……)。


 民間組織である「トラベラー協会(Travellers' Aid Society)」はよく帝国の官庁の一つだと誤解されていますが、それだけ協会が帝国各地で基準となるような高品質で効率的なサービスを提供していることの証です。
 宇宙港内での一流ホテルの運営が最も有名な事業ですが、トラベラー協会は宇宙各地の旅行安全情報の提供や最新事情の報道から船舶検査認証制度や乗組員資格検定まで、会員非会員を問わずあらゆる人々の快適な旅を支えるために日夜活動しています。


■トラベラー協会の歴史
 人類が宇宙にその勢力圏を拡大した時から、宇宙を旅する者(主に自由貿易商人)たちへの保護・互助組織への模索は続けられてきました。一度は暗黒時代(Long Night)の到来で頓挫しますが、第三帝国建国直前の-70年には、現在のトラベラー協会の前身の一つである「コスモス・クラブ(Cosmos Club)」がシレア人のヴェ・ヌー・ラン(Ve Nu Lant)によって結成されています。このコスモス・クラブはヴェ・ヌー・ラン自身の経験を活かし、シレア海軍や海兵隊を退役した経験豊富な軍人たちが自らの冒険心を発揮する場として作られました。
 やがてそれはシレア連邦偵察局にも門戸を開き、高額な入会金と引き換えに経済・政治・科学に通じた民間の優秀な人々も会に招かれるようになりました。-16年に「シレア宇宙協会(Sylean Space Society)」と改称した頃には、各地の宇宙港に直営の宿泊施設をいくつも抱え、その部屋や食事の質は民間のホテルに勝るとも劣らないとの評判を得るほどになっていました。そしてシレア連邦の、後の第三帝国の拡大とともに協会組織も領内各地に広がっていきます。

「シレアの拡大期には多くの人々が宇宙に向かっていった。私はそんな旅人たちに、行くべき・避けるべき場所、食べられる物・食べられない物をまとめてネットワークに情報を流していたが、彼らにはもっと実践的な助けが必要だと感じた。そこで私は友人たちと共にコスモス・クラブを設立し、情報交換の場や寝床を提供するようになった。あとは歴史に記された通りだ」
(協会初代最高経営責任者ヴェ・ヌー・ラン)
 一方、距離などの事情で帝国への編入が遅れたソロマニ・リム宙域では、早くから帝国への友好姿勢を貫いていた小国、イースター協定(Easter Concord)内で「トラベラー連盟(Traveller's League)」という財団が結成されました。財団の目的は帝国本土とイースター間の未編入宙域を安全に航行することで、彼らは助成金で得た軽巡洋艦で宇宙船を護衛し、難破船の救助に向かいました。426年にイースター協定が帝国に編入された後、その任務の多くは帝国海軍に引き継がれましたが、代わりに帝国領内各地の経済・文化・政治情報を集めた旅行情報誌『トラベラーズ・エイド』の発行で、その組織はむしろ拡大に向かいました。
 結成以来トラベラー連盟とシレア宇宙協会は友好関係にありました。ソロマニ・リム方面への安全な旅行には連盟の存在が不可欠でしたし、『トラベラーズ・エイド』の情報の多くは協会会員から得られた上に、協会内で情報を共有するのにも有効でした。かくして両者は488年に合併し、「トラベラー協会」が誕生しました。旧協会の理念に連盟の信念が融合し、トラベラー協会は新たな使命をこう表しました。

「銀河を往く勇敢な魂のために、トラベラー協会は嵐の中の港となり、灼熱の恒星からの日除けとなり、決意と活力を取り戻す場となる。知恵・友情・情報を共有し、協会は英雄たちに奉仕する」
 しかしそんなトラベラー協会も、内戦(604年~622年)の時代は苦難を味わいます。その時代に乱立した軍人皇帝の中には、協会を支配への脅威とみなした者もいたのです。特に傘下組織の「トラベラー・ニュースサービス(TNS)」が頑なに中立を守り、新皇帝の宣伝機関となることを拒んだことで危機を迎えたこともありました。
 内戦後のトラベラー協会は教訓を得て、自らの役割と透明性をより明確にし、帝国海軍を後ろ盾にして政府機関との協調関係を強化しました。
 スピンワード・マーチ宙域を含む、辺境のデネブ領域までトラベラー協会が進出したのは意外と遅く、720年までかかります。それまでマーチ宙域では「八角教団(Octagon Society)」のような旅行者互助組織が作られては潰れてきていましたが、これでようやく帝国全土を旅行者が安全に快適に渡り歩くことができるようになったのです。


■トラベラー協会の組織構成
 協会は宙域単位で運営され、その最高の栄誉ある地位が「宙域統括管理者(Sector Aid Administrator)」です。彼は要人との会見や、式典の議事進行、記者会見など様々な公式の場に姿を表します。
 トラベラー協会の驚くほどに均一的なサービス品質の裏には、TASPoC(Travellers' Aid Society Policy Computer)による組織管理があります。部門担当主任(senior administrator)は監査会(Board of Ombudsmen)の管理の下、TASPoCの支援を受けながら財務、人事、会員管理、広報、トラベルゾーン分類といった各部門の運営を担います。TASPoCは運営の立案と調整をし、主任がそれを実行し、監査会が結果をまとめてTASPoCに入力する、というのが一連の流れです。星域・星系の単位でも同様の更に細かい下部組織が築かれています。
 組織全体から独立した機構として、業務改善委員会(Policy Oversight and Review Committee)が挙げられます。委員会はTASPoCの調整をするために10年に1回招集され、宙域ごとの代表者が会議の14週間前から会員の満足度調査や部門ごとの報告書などに基づいて、改善項目の提案を練ります。実際の会議では改善案の討議と承認が行われ、各宙域のTASPoCにその内容が反映されます。


■トラベラー協会正会員
 主に海軍士官や海兵隊員の英雄的な行いや、司法官や外交官の長年の功績に報いるためにトラベラー協会の会員権が与えられることがありますが、他にも一山当てた宇宙鉱夫や引退した貴族・財界人など、余生を旅と冒険に捧げるために100万クレジットの入会金を支払って(かつ入会審査を通過して)会員となる者もいます。
 一度会員になると生涯有効ですが、その権利を他者に譲ることはできません。

 あまり知られていませんが、会員には3段階の位があります。「アルファ」は一般正会員を指し、1宙域で200名程度しかいない「ベータ」は社会に対して著しい貢献をした者に贈られ、著名な旅人兼広報である「ガンマ」には、協会がスポンサーとなってあらゆる旅費を(常識の範囲で)無料としています。そしてガンマ会員に対して他の会員は礼儀を払い、できる限りの手助けをするのが慣例となっています。

 トラベラー協会の会員になると、以下の特典があります。

・TAS IDの発行
全ての会員には会員証と電子財布が一体化した「TAS ID」が発行されます。会員証には所有者の遺伝子など個人識別情報が組み込まれ、協会施設での本人認証に利用されます。また会員証自体が口座機能を持つため、旅先で電子決済による買い物もできます。

・8週間ごとに特等チケット1枚の配当
このチケットはすぐに使用することも、後々のために溜めておくことも自由です。譲渡はできませんが、省令により額面の9割(つまり9000クレジット)で現金化して受け取ることはできます。
ちなみにベータ会員の配当は4週間ごとに1枚となります。

・トラベラー協会系列施設の利用
会員とその同伴者は、ほとんどのAないしBクラス宇宙港内にあるトラベラー協会直営の高級宿泊施設を優待料金(相場の2~3割引程度)で利用できます(※一般的に高級と呼ばれるホテルの宿泊料の相場は1泊250クレジット以上です)。そこでは一流の食事とサービスを受けられます。なお、Cクラス宇宙港外の提携宿泊施設も(あれば)同様に優待料金で利用できます(宿としての質は千差万別ですが)。
各宿泊施設内にトラベラー協会は窓口を構えており、そこで各種手続きや問い合わせ相談が行えます。また、協会の窓口職員はコンシェルジュとしても訓練されていて、会員の細々とした要望(道案内や希少なコンサートチケットの入手等々)にも喜んで応えます。
なお、協会施設に劇場、映画館、ラウンジ、カジノといった娯楽施設が併設されている場合は、そこも優待料金(もしくは無料)で利用できます。

・情報の入手
協会発行の「ジャーナル」誌(JTAS)の割引購読に加え、トラベラー・ニュースサービス(TNS)や膨大なライブラリ・データや最新の星図・航路情報への無料接続権もあるので、端末一つであらゆる情報を簡単に得ることができます。
(※ジャーナル誌には印刷版も存在し、協会窓口で購入することができます)

・法律相談
旅先で何か災難に巻き込まれた際には、協会窓口に常駐している(または協会と提携した)弁護士が無料で相談に乗り、場合によっては比較的低額で弁護を買って出てくれます。

・翻訳機の貸与
トラベラー協会には高性能の翻訳機(もしくはソフトウェア)があるので、難解な方言や他種族との会話も問題ありません。そしてその翻訳性能は、使用者の反応を基にして日々強化され続けています。

・会員限定ツアーへの参加
旅の素晴らしい思い出となるような星系内の有名観光地を巡るツアーに、会員とその同伴者は優待価格で参加できます。

・旅行保険への加入
医療保険と携行品損害保険が一体となった旅行保険に格安で加入できます。

・協会総会への出席権
(※詳細は不明ですが、おそらく株主総会のようなものでしょう)

 会員となる利点は、パンフレットにありがちなこういったものだけではありません。社会的信用が増すことで周囲から好感をもって見られたり、雇用者(やパトロン)との接触が容易になるのが一番わかり易い利点でしょう。

(※協会の理念を考えると、おそらく非会員でも「優待」や「格安」でない価格で旅の手助けをしてくれると思われますが、判断はレフリーに任されます)


■協会による資格認定制度
 トラベラー協会は安全で快適な旅の確保のため、宇宙船や宇宙港職員の技能訓練や資格認定制度の事業も担っています。世間から信頼されている機関が発行する資格なので、帝国内での就職に有利に働くことが期待されます。
 協会が発行している各種資格は以下の通りで、試験や訓練受講の手続きも各宇宙港の協会窓口で行えます。

航宙士免状 Operator's Cretificates
 宇宙船の乗組員となるのにまず必要な資格です。通信手や探知手といった分野ごとに応じて、〈コンピュータ〉〈エレクトロニクス〉〈メカニクス〉〈パイロット(小艇)〉〈運転〉〈砲術〉〈探知機〉〈通信機〉〈スチュワード〉などの技能がそれぞれ求められます。

宙技士資格 Mate's Licence
 航宙士免状の次の段階の資格です。1000トン未満の船を扱える二級(Limited)と、それ以上の一級(Unlimited)があります。航宙士に加えて〈航法〉〈パイロット(宇宙船)〉が求められます。

航宙長資格 Master's Licence
 宙技士資格を経て、宇宙船の船長となるのに必要な資格です。宙技士と同様に二級と一級があり、1000トン以上の宇宙船の船長になるには一級資格が必要です。宙技士に加えて〈管理〉〈法律〉〈リーダー〉〈戦術(艦艇)〉といった技能が求められます。

機関士資格 Engineer's License
 補助機関士(Assistant Engineer)と主任機関士(Chief Engineer)の2種類があり、機関長として勤めるには後者が必要です。補助機関士は〈エンジニアリング〉のうち(ジャンプドライブ)(通常ドライブ)(パワープラント)(生命維持装置)の中から2分野が、主任機関士は4分野全てが求められます。

医療技師免状 Certified Medical Technician
 応急手当てなど基礎的な医療技術を習得し、〈医学-0〉に相当する技量を持つことを示す資格です。
(※原文では他に「医師免許(Medical Doctor)」「外科医資格(Surgeon's License)」がありますが、本来は大学医学部卒業が必須である(原文にもそうある)医師免許を民間資格で取り直す必然性が感じられなかったので削除しました)

貨物取扱免状 Cargomaster's Certificate
 宇宙船と宇宙港の間で貨物を運搬する仕事に就く際に必要な資格です。貨物に関する知識と〈運転〉が求められます。

危険物取扱者免状 Hazardous Material Handler's Certificate
 貨物取扱免状に加えて危険物を扱う際に必要な資格です。乙種(Basic)と甲種(Advanced)があり、扱える危険物の範囲が乙種では限定されています。
(※本当はBasicの方はCertificateではなくEndorsementなのですが、意図的に揃えました)

仲買人資格 Broker's License
 宇宙港の仲買人(ブローカー)となるための資格です。〈ブローカー〉〈法律〉が求められます。

(※これらの技能はマングース初版に合わせて調整しましたが、基本的に雰囲気を出すための設定なので、厳密に当てはめるようなことはしないでください)


■プレイへの導入
 トラベラー協会をキャンペーンで扱う際、プレイヤー・キャラクター(PC)が作成時に会員である必要はありません。むしろキャンペーンの目標として残しておいた方が良いかもしれません。その場合レフリーは、プレイヤーが会員権を欲しくなるように促すべきです。
 例えば、印象深いノンプレイヤー・キャラクター(NPC)をトラベラー協会員にします。決して悪人ではなく、PCが親しみやすくて友情を築きたいような好人物です。そしてそのNPCの同伴者として一度、会員の世界を体験させるのです。ホテルでの豪華な夕食、会員専用のラウンジ、数々の優待特典…。そして将来トラベラー協会員になるには、協会員に信頼されるような(反対投票をされないような)人物であり続けることを心に刻ませるのです。
 宇宙は危険に満ちています。PCを危機に追い込むNPCでいっぱいです。雇い主の貴族が突然手のひらを返すかもしれませんし、可哀想な女性が実は狡猾な詐欺師なのかもしれません。しかしトラベラー協会員だけは、御都合主義的であってもその例外とすべきです。協会に対して悪印象を持たせないことが、会員権の報酬としての価値を高めるのです。プレイヤーには協会員が友好的で信頼できる相手だと、経験を通して学ばせるべきです。
(※ルール上「悪党」でも会員になれますが、悪党を「退職」しているわけですから「足を洗った」ものと考えた方が良いでしょう)

 トラベラー協会が雇用主となる展開もありえます。報道や調査に通じた経歴の持ち主に、例えばとある世界をアンバーゾーンに指定すべきかどうか、もしくはアンバー指定を解除すべきかどうかの情報を現地で収集するよう依頼することが考えられます。または調査に向かう協会職員の護衛を引き受ける、というのもありえるでしょう。
 他には、PCが協会のコンシェルジュ・サービスの「下請け」を行う展開もあります。とある会員が求めた、限定品のレーザー・シガレットライターを探して東奔西走するなど……?

 協会員は8週に1枚貰える特等チケットで旅を続けられますが、当然最低7週間分の滞在費が必要となります。貯蓄を崩すのが主でしょうが、中には「滞在中に何らかの依頼を受けて旅費を稼ぐ」旅人もいるようです。もしかしたら協会が窓口となって、そういった「冒険」の斡旋をやっているのかもしれません(もしくは大抵どこの宙港街にも「冒険者」の集まる酒場がある……とか)。
 また、あの莫大な入会金が無料となる「抜け道」の存在が示唆されています。おそらく、キャンペーンなどで多大な功績を挙げたことへの恩賞として用意されているのだと思われます。

 このようにトラベラー協会は旅の支援だけでなく、文字通り冒険の人生を豊かにしてくれる存在です。うまく活用することで、キャンペーン・シナリオにより厚みと深みをつけることができるでしょう。


【ライブラリ・データ】
八角教団 Octagon Society
 342年にリジャイナ(スピンワード・マーチ宙域 1910)で設立された八角教団は、この宙域初の大規模な旅行者援助団体でした。教団の施設は基本的に八角形に造られ、主要世界には大型施設を、辺境や未開拓の世界には避難所となるように小さな施設を建てています。
 教団の起源は326年まで遡ります。測量の仕事で各地を巡っていたフォーレン・カリフレン・ドゥーン(Foren Caliphren Doon)は、宇宙船の機関故障によりフリジニ星系(現ベックス・ワールド(スピンワード・マーチ宙域 2204))で遭難し、約10年間の「島流し」に遭いました。やがて救助された後のドゥーンはまるで宗教めいた熱情で、あらゆる世界に宇宙旅行者のための避難所の設置を目指し、そのための資金調達と組織作りを始めました。こうして誕生したのが八角教団です。
 最盛期の教団は活動範囲をリジャイナ、ランス、ライラナー、アラミスの各星域だけでなく、デネブ宙域やグヴァードン宙域の一部にまで広げていましたが、400年代末に施設の施工不良や補助金横領といった不祥事が次々に明らかとなり、499年に教団は解散しました。教団施設は全て売却か放棄されましたが、リジャイナの現在のトラベラー協会施設には増改築が繰り返されたもののかつての名残りが見えます。


【参考文献】
Book 1: Characters and Combat (Game Designers' Workshop)
Adventure 3: Twilight's Peak (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller: Players' Manual (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller Journal #1, #3 (Digest Group Publications)
GURPS Traveller (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Far Trader (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Starports (Steve Jackson Games)
Starports (Mongoose Publishing)
The Travellers' Aid Society (Greg Videll, Mike Mikesh, 1990)
Traveller Wiki

新訳最新版スピンワード・マーチ宙域UWPデータ(デルタ象限)

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ルーニオン星域

アルバ 1721 C200200-C 高技 真空 低人 610 Im M2V ウォードン 1727 B756486-B S 肥沃 非工 502 Im K2V オリンピア 1728 C428342-7 低人 120 Im M3V スモウグ 1729 C54078A-9 砂漠 貧困 902 Im M1V M7V ラブファー 1822 D5448BA-6 S 肥沃 A 313 Im K5V アダビッキ 1824 A57189B-B N A 801 Im K8V M8V ザイボン 1825 B000544-B 小惑 非工 502 Im M6III M3V テナルフィ 1826 A774722-E 高技 農業 610 Im F7V 太古種族遺跡 イアニック 1924 E560697-5 砂漠 低技 非工 富裕 924 Im M3V M7V ジョンカー人3割 スピレール 1927 C766846-8 S 肥沃 富裕 715 Im G7V ダーション 2024 C512799-8 S 非農 氷結 901 Im M0V M7V ルーニオン 2124 A995984-D A 工業 高技 高人 肥沃 810 Im G5V 星域首都 シレーン 2125 B984510-B S 農業 非工 A 723 Im G4V M1V M1V ペンクファー 2128 D978310-5 低技 低人 肥沃 A 320 Im M0V ハーヴォセット 2129 C430737-9 砂漠 非農 貧困 910 Im M0V M5V カース 2224 C563325-9 低人 601 Im M3V M6V ペルセフォネ 2228 B775833-A W 肥沃 922 Im M2V クイル 2321 B565300-8 低人 肥沃 323 Im M3V ゴーラム 2322 X554220-2 低技 低人 肥沃 R 801 Im K8V M6V レステン 2323 B310100-B S 低人 501 Im K5V M8V カポン 2324 B747748-A N 農業 610 Im F9V シャーリップ 2325 C575101-A 低人 肥沃 503 Im K5V ストローデン 2327 A745988-D N 工業 高技 高人 肥沃 920 Im G5V M4V ガンダー 2425 E000347-8 小惑 低人 803 Im M1V ドロロウ 2426 EAB6311-8 低人 非水 904 Im F1V
 ルーニオン星域には25の星系があり、総人口は202億人。最大人口はストローデンの90億4800万人で、最高技術レベルはテナルフィの14です。星域の首都はルーニオンにあり、全星系が帝国に加盟しています。


【注釈】
テナルフィ(1826): A774102-E → A774722-E
 従来の人口コード1(GURPS版設定で48人)が「7」の誤植だと判断されたようで、世界の様相が全く変わってしまいました。T5SSでの変更を受け、マングース第2版対応の『Lunion Shield Worlds』で新たに設定が起こされています。

イアニック(1924):
 従来の設定との兼ね合いで、「ジョンカー人3割」の記述を追加しました。

ペンクファー(2128): X978310-1 → D978310-5
 『Lunion Shield Worlds』でT5SSに対応した新設定が起こされたのですが、侵入禁止であった旧設定もアンバーゾーンの新設定も両方有効とする斬新な手法が採られました。帝国政府が侵入禁止指定をしていないにも関わらず、地元住民は侵入禁止だと思っているのです。またここは、絶滅した知的種族ケオ・ネセブの母星ともされていますが、非公式設定のためUWPからは外しました。


モーラ星域

ヒローニ 2521 B6449B9-8 工業 高人 肥沃 A 721 Im F3V バイレット 2523 B585697-6 農業 非工 富裕 812 Im G9V ラリアン母星 ピマネー 2527 E500343-7 真空 低人 903 Im K0V フォーシー 2621 A633656-A 非工 非農 貧困 620 Im M3V マーキュリー 2624 B658663-8 A 農業 非工 304 Im F7V 軍政 ティヴィッド 2627 C534477-8 非工 401 Im M3V キャレー 2726 C579221-9 低人 910 Im M2V M2V デュアル 2728 A5437BF-B 貧困 A 401 Im M0V M2V 研究基地α カトゥーズ 2824 C42048C-9 砂漠 非工 貧困 A 510 Im K8V M6V メレート 2827 C675100-5 S 低技 低人 肥沃 724 Im F9V ヘクソス 2828 B534420-8 N 非工 123 Im K1V M2V ペダス 2830 C415346-7 S 低人 氷結 101 Im M2V M7V モラン 2924 C567300-8 N 低人 肥沃 201 Im M3V M7V メイツ 2927 A201511-B 真空 非工 氷結 122 Im F1V マインツ 2930 C553352-A S 低人 貧困 803 Im K2V M7V ブロディー 3021 C410468-7 非工 114 Im M1III M7V モーラ統治 ロライズ 3022 C994100-A 低人 肥沃 502 Im M1V ジョコター 3024 B6548D9-7 肥沃 A 810 Im K6V フォーニス 3025 A554A87-C 高技 高人 肥沃 202 Im M0V グリル 3026 E410335-7 低人 701 Im M2V M2V パリケ 3029 A511965-E 工業高技高人非農氷結A 320 Im M0V M1V フォーニス統治 ネクシーン 3030 C97A443-8 S 海洋 非工 801 Im G9V M2V ネクシー人数% ナドリン 3123 D420203-7 S 砂漠 低人 貧困 920 Im K5V M1V ジョンカー人世界 モーラ 3124 AA99AC7-F A 工業 高技 高人 112 Im F0V 宙域首都 ドゥジョドゥ 3223 C512311-7 S 低人 氷結 710 Im M0V フェンルスグレン 3228 C647346-9 低人 肥沃 A 423 Im K7V
 モーラ星域には26の星系があり、総人口は409億人。最大人口はフォーニスの200億人で、最高技術レベルはモーラの15です。星域の首都はモーラにあり、全星系が帝国に加盟しています。


【注釈】
パリケ(3029):
 統治元がモーラ(3124)からフォーニス(3025)に変更されました。統治元がジャンプ-4圏内にある方が合理的ですし、モーラでないといけないような設定もこれまでなかったため、フォーニスへの変更を是とします。

ネクシーン(3030):
 『GURPS Traveller: Humaniti』ではネクシー人の人口を2000人としていますが、そもそも総人口自体が2700人(残り700は1108年に移民してきたドルフィン)とされています。UWPの8万人とは乖離がありますが、この差は開発企業の人員と考えて注釈欄は「ネクシー人数%」としました。ただし、真の意味で「ネクシー人」として生まれてきた個体は現時点(1105年)で最年長でもまだ10歳に過ぎず、ほとんどのネクシー人は改造手術を受けた「志願者」です。

ナドリン(3123):
 従来の設定との兼ね合いで、「ジョンカー人世界」を追記しました。


グリッスン星域

グロート 1731 A400404-B 真空 非工 124 Im F8V リディア 1733 E310430-7 非工 902 Im M4III M0V メリオル 1736 D540466-7 砂漠 非工 貧困 A 724 Im G3V ジョンカー人5割 グリッスン統治 エジプト 1737 BAC6567-9 N 非工 非水 521 Im F8V 軍政 アスター 1739 C86A410-9 海洋 非工 401 Im K9V カリーラ 1836 E550852-6 砂漠 貧困 810 Im M3V ジョンカー人2割 ミトラス 1932 C8B5568-8 非工 非水 302 Im M2III M0V 刑務所 ヴァイス 1934 A626464-B 非工 A 703 Im M1V グリッスン統治 ウィンザー 1935 C783511-9 非工 210 Im K9V M0V オーバーネイル 1937 B55467A-9 農業 非工 423 Im G3V ニューローマ 1938 B837866-B N 704 Im F8V M0V アスラン3割 グリッスン統治 クロウ 1939 C573645-5 低技 非工 923 Im G7V アスラン8割 クロウニ母星 アキ 2035 B543987-9 工業 高人 貧困 A 214 Im G6V M2V グリッスン 2036 A000986-F A 工業高技高人小惑非農 811 Im K9V 星域首都 トレーン 2038 C639422-B 非工 704 Im F4V M3V 太古種族遺跡 セントリー 2132 E422447-7 非工 貧困 220 Im K3V カレドニア 2134 C541636-5 低技 非工 貧困 910 Im M4III M0V ソレル 2137 E58569A-2 低技 農業 非工 富裕 921 Im G3V M3V ホロショー 2138 C4378A6-A S 920 Im F4V ロマー 2140 B550456-8 A 砂漠 非工 貧困 112 Im K2V M3V マラスタン 2231 D868764-5 S 低技 農業 富裕 A 924 Im K7V 保護世界 クロウト 2232 E4359CA-7 高人 A 314 Im M7III M2V ティレム 2233 C7B5975-B 高人 非水 621 Im K5V インジ 2234 C100598-B 真空 非工 924 Im K3V サーリナ 2236 D420636-7 砂漠 非工 非農 貧困 301 Im M2V M2V ヴュルツブルク 2237 C795300-A S 低人 肥沃 A 510 Im F8V バイコーン 2331 E563576-2 低技 非工 210 Im F3V M3V フュードン 2334 A41489D-C 高技 氷結 A 904 Im M0V ベンドー 2336 A756656-C A 高技 農業 非工 820 Im F5V
 グリッスン星域には29の星系があり、総人口は228億人。最大人口はグリッスンの83億8400万人で、最高技術レベルはグリッスンの15です。星域の首都はグリッスンにあり、全星系が帝国に加盟しています。


【注釈】
メリオル(1736): D140466-7 → D540466-7
 『Regency Sourcebook』では不明確だった統治元が新たにグリッスン(2036)と設定されましたが、「グリッスンにある帝国植民省事務局」と解釈すればGURPS版設定がそのまま使えると思います。

エジプト(1737):
 軍政になった程度では「帝国植民省の訓練基地がある」という設定に影響はないと思いますが、今後設定が根本から変更される可能性もあります。

カリーラ(1836):
 従来の設定との兼ね合いで、「ジョンカー人2割」の記述を追加しました。

ヴァイス(1934):
 『Regency Sourcebook』で「グリッスンが統治」とされていたのが採用されています。GURPS版の「星系外の企業が統治」の設定に調整が必要です。

ニューローマ(1938):
クロウ(1939):
 T5SSでアスランの居住世界となりました(公式設定による裏付けは今のところ不明です)。地理的に不自然ではないのですが、特にクロウに関しては従来設定の全面的な書き換えが必要となります。

ロマー(2140):
 ここは元来『Supplement 3』でTL8世界と設定されていましたが、『Spinward Marches Campaign』でTL12に変更されて(※Bと誤植したと考えられています)以来それが踏襲されてきました。その後『Behind the Claw』でTL8相当に再設定され、マングース版『Spinward Marches』でも踏襲されたことから、T5SSでもTL8世界とされています。


トリンズ・ベール星域

バートソン 2534 C562667-8 非工 富裕 402 Im G4V スクァナイン統治 スクァナイン 2536 A300550-B 真空 非工 303 Im F4V M2V ドバム 2537 A550457-A S 砂漠 非工 貧困 523 Im G0V ピラムス 2538 E566335-2 低技 低人 肥沃 214 Im K6V ディスビー 2539 E4305AD-6 砂漠 非工 貧困 A 322 Im F8V アラミス 2540 B659772-6 924 Im K5V ロビン 2637 C00059C-C 高技 小惑 非工 A 202 Im M2V ドマラ 2638 E75A798-5 海洋 低技 910 Im F4V ケルシュナー 2639 C525567-9 非工 602 Im K6V 軍政 トゥッシニアン 2731 B678324-7 低人 肥沃 520 Im K0V エデネルト 2733 A5638BD-B A 934 Im G7V コンウェイ 2735 D894586-7 S 農業 非工 311 Im F0V M0V ドッズ 2739 C5439DF-7 S 工業 高人 貧困 A 423 Im G7V リアンダー 2832 E695244-5 低技 低人 肥沃 801 Im K5V M1V ペパーニウム 2833 D567530-3 低技 農業 非工 503 Im M1V トラルサ 2834 B590630-6 砂漠 非工 410 Im F5V 太古種族遺跡 ファークアー 2839 C625543-7 S 非工 201 Im M3V レイドラッド 2933 E99467A-6 農業 非工 303 Im M7III M2V ジラ 2934 B555448-7 肥沃 非工 601 Im K8V マーチソン 2935 B544433-6 N 肥沃 非工 305 Im M5III M3V ハマーミウム 2936 A5525AB-B 非工 貧困 A 535 Im M3V ソーンナスター 2940 D534443-8 S 非工 804 Im M1V カタルル 3032 B552665-B B 非工 貧困 201 Im M0V M9V 軍政 プリリッサ 3035 B985588-6 農業 非工 510 Im K4V ティー・ティー・ティー 3038 C310530-9 非工 902 Im M2V ユーガル 3039 AA95345-B 低人 肥沃 201 Im K3V テネルフィー 3040 D76A579-9 S 海洋 非工 901 Im F4V M0V ゼファー 3138 C89556A-5 低技 農業 非工 A 404 Im K5V トリン統治 シャモア 3139 B544642-5 S 低技 農業 非工 723 Im F9V ラミヴァ 3233 B3107A7-8 非農 913 Im M3V トリン 3235 A894A96-F A 工業 高技 高人 肥沃 101 Im G0V 星域首都 ヘーゼル 3236 C645747-5 低技 農業 A 110 Im F1V M3V
 トリンズ・ベール星域には32の星系があり、総人口は152億人。最大人口はトリンの100億人で、最高技術レベルはトリンの15です。星域の首都はトリンにあり、全星系が帝国に加盟しています。


【注釈】
Xボート航路の追加:
 隣接するデネブ宙域、トロージャン・リーチ宙域との設定の兼ね合いで、従来は無かった宙域外に出るXボート航路が追加されています。

バートソン(2534):
 T5SSで統治元がエデネルト(2733)に変更されたのですが、スクァナイン(2536)の設定に影響を与えるため、新設定が公表されるまでは一時的に差し戻します。

ケルシュナー(2639):
 T5SSでは統治元がイスレント(トロージャン・リーチ宙域 2402)になったのですが、これだけの変更にも関わらず公式設定の裏付けはありません。新設定が公表されるまでは、GURPS版(軍の演習場)準拠の「軍政」とします。

ファークアー(2839): C625563-7 → C625543-7
 政治コードが4になったため、GURPS版設定は「ドッズ(2739)から独立した」と解釈の変更が必要です。

ユーガル(3039): AA95365-B → AA95345-B
 「トリン(3235)が直接統治」としていた設定を修正する必要があります。

ゼファー(3138): X89556A-3 → C89556A-5
 政治形態が「軍政」から「トリンの農業入植地」に変更されました(『Regency Sourcebook』版1117年設定では「トリンに統治されるユーガルに統治されている」ので、ある意味これが採用されたとも言えます)。農民革命党による反乱は1095年(10年前)のことであり、1120年のGURPS版設定ではトラベルゾーン指定が(政情不安の記載があるにも関わらず)なぜかグリーンとなっているので、アンバーへの変更は穏当でしょう。

新訳最新版スピンワード・マーチ宙域UWPデータ(ガンマ象限)

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ダリアン星域

ジャンクション 0122 D550441-4 砂漠 低技 非工 貧困 210 Na M2V M3V ユニーカ 0129 E62556B-7 非工 210 Na K9V M9V ガルー統治 ガルー 0130 A2008CB-A 真空 非農 A 210 Na M1V M5V スターンスターン 0223 B421558-B 非工 貧困 701 Da M0V M3V 886-945 0230 E833000-0 貧困 未開 004 XX F8V ノニム 0321 C433898-A M 貧困 非農 623 Na G0V ラバーヴ 0325 B554443-7 M 肥沃 非工 834 Da G0V エクトロン 0326 C432652-9 非工 非農 貧困 423 Da M1V アスラン1割 ザマイン 0421 C897977-A 工業 高人 肥沃 223 Da M3V アングランジ 0425 C554769-8 農業 701 Da M1V M3V アスラン1割 イリウム統治 イリウム 0426 B544831-9 M 肥沃 401 Da G3V M8V ロジェ 0427 B566777-9 農業 富裕 420 Da F8V M3V アスラン6割 カーディン 0429 E553123-6 低人 富裕 410 Na F7V 太古種族遺跡 ブラリア 0430 C774622-5 低技 農業 非工 310 Cs K5V M3V ルーレ 0526 D765657-3 低技 農業 非工 富裕 103 Da F4V M2V マイア 0527 A665A95-C M 高技 高人 肥沃 110 Da K6V 国家首都 アスラン1割 コンダリア 0528 E54779B-5 低技 農業 A 901 Na K3V M0V ドランニア 0530 E42158A-8 非工 貧困 510 Na K4V テラント340 0622 D5405A7-9 砂漠 非工 貧困 523 Da G0V M5V ジャサント 0624 A433744-D 高技 非農 貧困 710 Da M0V 494-908 0625 X893000-0 未開 R 010 Da M1V ダリアン 0627 A463955-G 高技 高人 225 Da G1V D ダリアン人母星 アスラン数% トーメント 0721 X433268-6 低人 貧困 R 820 Da M0V 刑務所 トリヒュージ 0723 C546556-9 農業 非工 210 Da F0V ディフォーン母星 ノーシー 0724 B4326BB-C M 高技 非工 非農 貧困 A 620 Da M2V スプーム 0727 C540200-A M 砂漠 低人 貧困 434 Da M2V アトール 0729 D426258-7 低人 821 Na F7V M2V 太古種族遺跡 クーノニック 0822 E65767A-3 低技 農業 非工 502 Da K0V アスラン数% デバール 0830 B854123-9 低人 肥沃 822 Cs M2V
 ダリアン星域には29の星系があり、総人口は158億人。最大人口はマイアの103億人で、最高技術レベルはダリアンの16です。星域の中心はマイアにあります。


【注釈】
星域全般:
 T5SSではダリアン連合領内の全星系に「ダリアン(T5SSではデイリーエン)人」の居住情報が記載されていましたが、当たり前すぎる情報であることと、ゾダーン領内にはゾダーン人の居住情報が元々記載されていないことから、情報が過剰であると判断して削除しました。なお設定上、ダリアン連合内にはダリアン人やアスラン以外に亡命ソード・ワールズ人や帝国人が少なからず居住しています。
 逆に、少なくとも旧ダリアン連合領のノニム(0321)とコンダリア(0528)、および全人口がダリアン(0627)の大学の遺跡調査隊であるカーディン(0429)は「ダリアン人世界(もしくはダリアン人9割)」であるはずですが、今回は記載を見送りました。

ザマイン(0421): E897977-A → C897977-A
 元々の宇宙港Eの設定は無理があると判断されたのか、Cクラスに引き上げられました。また、T5SSではなぜか「ダリアン人9割」の居住情報だったため、ソロマニ系市民が多く住んでいる可能性もあります。

494-908(0625):
 これまでの設定では一貫して「ダリアン海軍の演習場」とされてきました。マングース版『Alien Module 3: Darrians』で盛られた設定を加味してかT5SSで急に「保護世界」扱いになりましたが、それならそれで尚更対外的には保護世界としない方が良いのではないかと考えて指定を削除しました。

ノーシー(0724):
 『Supplement 3』の段階でここの基地コードが「M(独立世界基地)」と誤植されてしまったことが問題の始まりでした(※この当時はコード「D(ダリアン連合基地)」が存在しました)。更に『Spinward Marches Campaign』では「N(帝国海軍基地)」に変更(おそらく誤植)されて混乱に拍車がかかります。『Regency Sourcebook』で「M」に修正されて(※この時には基地コードDは廃止されてMに統合されています)解決したかのように見えましたが、『Behind the Claw』で基地自体が廃止されてしまいます。T5SSではこのGURPS版設定を採って基地なしとしているようですが、地理的にも国境付近の要衝であり、本来の記述からもやはり「M」とするのが妥当と考えました(マングース版設定でも基地が復活していますし)。

トーメント(0721): X233231-4 → X433268-6
 UWPが別物になりましたが、ダリアンの刑務所惑星であることの明確化によるものです。マングース版設定ではUWPを改変してまで「第四次辺境戦争時に刑務所は破壊されて今は無人」としましたが、さすがにそれは無効でしょう。


ソード・ワールズ星域

フルンティング 0921 B563747-9 M 富裕 313 Sw M2V ティソーン 0922 B586887-A M 肥沃 富裕 323 Sw K2IV M3V ナルシル 0927 B574A55-A M 工業 高人 肥沃 224 Sw G6IV M0V フラマリオン 0930 A623514-B B 非工 貧困 710 Im F8V コラーダ 1022 B564685-B M 農業 非工 富裕 211 Sw K2V M8V アンドゥリル 1026 B985855-B M 肥沃 富裕 222 Sw F2V ミョルニル 1121 B530544-A M 砂漠 非工 貧困 522 Sw A5V G0V ジョワユーズ 1123 B564778-A M 農業 富裕 A 401 Sw M3V M9V オルクリスト 1126 B8A6733-A M 非水 401 Sw K7V M7V エノス 1130 E35059B-4 M 砂漠 低技 非工 貧困 A 710 Sw M1V グングニール 1221 B544779-8 M 農業 432 Sw G3IV M4V グラム 1223 A895957-C M 工業 高技 高人 肥沃 603 Sw F2V M2V 国家首都 エクスカリバー 1225 B424755-A M 402 Sw K5V ティルヴィング 1324 B637735-A M 701 Sw M2V サクノス 1325 A775956-C M 工業 高技 高人 肥沃 801 Sw F9V M3V カラドボルグ 1329 B565776-A S 農業 富裕 710 Im F7V M0V M4V ビーター 1424 B685686-A M 農業 非工 富裕 610 Sw K4V ガン 1429 E544110-8 低人 肥沃 A 602 Im M3V カリバーン 1430 E000514-A 小惑 非工 914 Im M2V ディルヌウィン 1522 B958812-A M 肥沃  201 Sw K4V M8V デュランダル 1523 B687734-B M 農業 714 Sw M1V ホヴズ 1524 B666853-A M 肥沃 富裕 601 Sw G6V M9V スティング 1525 B645796-A M 農業 702 Sw M0V バイター 1526 B354623-A M 農業 非工 301 Sw G7V M1V スチール 1529 E655000-0 肥沃 未開 024 Sw K8V 保護世界 アイアン 1626 E529000-0 未開 014 Sw F0V 保護世界 ブロンズ 1627 E201000-0 真空 氷結 未開 010 Sw M3V 保護世界 ミスリル 1628 E568000-0 肥沃 未開 001 Sw F4V 保護世界
 ソード・ワールズ星域には28の星系があり、総人口は428億人。最大人口はナルシルの270億人で、最高技術レベルはグラムとサクノスの12です。星域の中心はグラムにあります。なお、帝国市民がこの星域方面へ渡航する際は十分注意してください。


【注釈】
グラム(1223): A895957-B → A895957-C
 技術レベルが11から12に引き上げられています。

ディルヌウィン(1522): B958412-A → B958812-A
デュランダル(1523): B687334-B → B687734-B
ホヴズ(1524): B666553-A → B666853-A
スティング(1525): B645896-A → B645796-A
 これらの星系は『GURPS Traveller: Sword Worlds』での記述が採用され、人口が大きく書き換えられています。


ファイブ・シスターズ星域

イメープ 0133 B564500-B N 農業 非工 A 503 Im M0V ラウェー 0139 B430300-B N 砂漠 低人 貧困 A 920 Im G3V M1V 876-574 0140 E687200-3 低技 低人 肥沃 702 Na K7V サクセ 0231 EAA5543-8 非工 非水 910 Na A2V アンドー 0236 C695735-9 農業 R 603 Im F3V ドロイン世界 太古種族遺跡 769-422 0240 E754401-8 肥沃 非工 924 Na G2V トレクセン人母星 ゴート 0332 E42159B-7 非工 貧困 A 310 Im F5V ミリアム 0333 B9998A6-A B A 514 Im G6V キャンドリー 0336 C593634-8 非工 R 920 Im F6V M3V ドロイン世界 太古種族遺跡 ワンダレイ 0340 E88A47A-4 海洋 低技 非工 210 Na M1V M3V ジョーン 0433 B792785-9 N A 810 Im G8V M5V ジンクス 0440 D100133-7 真空 低人 A 202 Na G3IV D ユセラ 0532 D574654-7 農業 非工 410 Cs F2V M2V ペネロープ 0533 C560642-4 砂漠 低技 非工 富裕 323 Im F6V M2V カリン 0534 A767768-C A 高技 農業 富裕 A 410 Im G7V 軍政 ウォンスター 0538 B555741-7 N 農業 A 910 Im M0V フローリン 0539 C535225-9 低人 601 Im M2V M7V 研究基地ζ ゴーハチャー 0632 C754766-7 S 農業 523 Im F8V アイデラティ統治 クハイアザット 0637 C31479B-9 氷結 A 210 Im K8V ラコウ 0638 E779454-7 非工 A 601 Im M2V ラルヘ 0731 E424574-8 非工 801 Na M2V M3V アイデラティ 0732 A887798-C N 高技 農業 富裕 201 Im G9V 星域中心 トンドウル 0739 E5136A7-7 非工 非農 氷結 701 Na K8V M1V トンドウル人母星 太古種族遺跡 875-496 0834 E888421-7 S 肥沃 非工 A 510 Cs M3V M7V オチケイト 0837 E747569-7 農業 非工 210 Na G8V M8V ミューエイ統治 ミューエイ 0838 D786799-5 低技 農業 富裕 701 Na K3V M3V ミューエイ母星 975-452 0840 E100316-9 真空 低人 821 Na M0V
 ファイブ・シスターズ星域には27の星系があり、総人口は9億5590万人。最大人口はミリアムの5億人で、最高技術レベルはカリンとアイデラティの12です。星域の中心はアイデラティにあります。


【注釈】
ワンダレイ(0340): E88A46A-3 → E88A47A-4
 UWPの変更により、『Behind the Claw』の設定(アスラン氏族による遠隔統治)は使用できなくなりました。小国の中にはアスランの国もあるのかもしれません。

ラルヘ(0731): E224564-8 → E424574-8
 『Behind the Claw』設定は地理の部分のみ再利用可能です。「未来の」設定から逆算すると、この小国分裂状態は1117年までには解消されそうな気配ですが…?

トンドウル(0739):
 『Behind the Claw』でここはトンドウル人の母星となりましたが、彼らが極薄大気の中で生き延びられたのは太古種族が遺した施設のおかげです。一般的にそれを「遺跡」と言うため、独自に追記しました。ただしT5SSではトンドウル人の存在自体が無かったことになっています。

オチケイト(0837):
 T5SSで統治元が変更されたのですが、後述のミューエイの設定に影響するため独自に差し戻しました。

ミューエイ(0838):
 設定上この星にはミューエイ以外にアスランも居住していますが、人口比で1%未満のため省略されています。


第268区星域

アステルティン 0931 B7A7402-A 非工 非水 210 Na K7V M3V インチン 0938 D42035A-A 砂漠 低人 貧困 823 Na F0V シンガー 0940 D553774-6 貧困 901 Na M2V M2V 567-908 1031 E532000-0 貧困 未開 010 XX G5V M9V アヴァスタン 1037 C433520-A 非工 貧困 724 Na M3V クエイ・チン 1040 C503758-A 真空 非農 氷結 320 Na K3V ファルドー 1131 E5936A7-5 低技 非工 520 Na M2V オターリ母星 ボウマン 1132 D000300-9 S 小惑 低人 831 Cs M0V スクァリア 1133 C438679-9 非工 320 Na F0V タルソス 1138 B584620-A 農業 非工 202 Cs K9V ウォルストン 1232 C544338-8 S 低人 肥沃 302 Cs M2V ヴァルグル7割 フレクソス 1233 E5A1422-8 非工 非水 610 Na M1V M2V コレース 1237 B628943-D S 工業 高技 高人 101 Cs F1V M3V パヴァビッド 1238 C6678D8-6 肥沃 A 701 Na K7V ダトリリアン 1331 E427633-8 非工 801 Na M1V ニルトン 1332 X500000-0 真空 未開 R 011 XX M0V ジュディス 1337 E9B2000-0 非水 未開 021 Cs M3V 研究基地θ トレサロン 1339 B561851-C 高技 富裕 923 Na K8V モトモス 1340 B68468B-5 N 低技 農業 非工 富裕 710 Cs M2V M2V ノクトコル 1433 E7A5747-8 非水 602 Na F5V M2V ターカイン 1434 C566662-7 S 農業 非工 富裕 A 310 Cs M0V M2V 帝国の傀儡政権 ダリア 1435 B8B5883-9 非水 610 Cs F2V タロス 1436 E433532-9 非工 貧困 820 Na F9V M1V ドーンワールド 1531 E885000-0 肥沃 未開 025 XX F8V M2V エリサベス 1532 B426467-8 N 非工 201 Cs M1V M5V ダリア統治 フォリン 1533 D3129B8-A 工業 高人 非農 氷結 610 Na G9V マータクター 1537 B562732-B S 110 Im G1V タルチェク 1631 C7B1442-8 非工 非水 A 601 Cs K8V M5V ミラグロ 1632 E31178A-7 非農 氷結 920 Na M2V パガトン 1634 C769873-4 低技 富裕 913 Na F0V ビンジス 1635 A500231-A 真空 低人 720 Na M0V ミル・ファルクス 1637 B9A2469-C A 高技 非工 非水 301 Im M2V 軍政
 第268区星域には32の星系があり、総人口は104億人。最大人口はフォリンの60億人で、最高技術レベルはコレースの13です。


【注釈】
ジュディス(1337):
 UWPの変更により無人のように見えますが、設定では研究基地タウには「3人の研究者」が居るそうです。

ターカイン(1434):
 ここは『Regency Sourcebook』以降でダリア(1435)の属領となっていますが、アンバーゾーン・シナリオ「Tarkine Down」(1108年設定)では「帝国の傀儡政権」という記述も存在します。またGURPS版ですら著者によって別々の解釈が見られるのですが、1117年までにダリアの属領となったと考えると辻褄が合うため、新設定が公開されるまでは政治コード6の解釈を「帝国の傀儡政権」とします。

ダリア(1435):
 旧設定の大気コード「B」は「8」の誤植だとされました(おそらく水界5との兼ね合いで)。しかし腐食大気世界から肥沃世界に変更されると、食糧事情の逼迫による周辺星系への進出、というこれまでの設定を根本から見直さないとならなくなり、周辺星系への影響も甚大なので代替設定が公表されるまでは従来の大気Bに差し戻します。

フォリン(1533):
 マングース第2版(厳密にはTraveller20)対応の『Spinward Marches 1: The Bowman Arm』で新設定が公表されました。

エリサベス(1532):
 統治元がフォリン(1533)からダリア(1435)に変更されました。新設定はマングース第2版対応の『Spinward Marches 1: The Bowman Arm』に記載されています。

タルチェク(1631):
 『Regency Sourcebook』ではエリサベス(1532)が、GURPS版ではフォリン(1553)が統治していましたが、独立星系となりました。GURPS版設定は「フォリンから完全に独立した」と変更する必要があります。設定上ほぼ独立状態だったので、それが追認されたのでしょう。

新訳最新版スピンワード・マーチ宙域UWPデータ(ベータ象限)

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リジャイナ星域

イフェイト 1705 A646930-D B 工業 高技 高人 肥沃 800 Im K4V 太古種族遺跡 アレル 1706 B56789C-A 肥沃 富裕 A 210 Im M1V M7V イリース 1802 BAC6773-9 非水 335 Im G5V メノーブ 1803 C652998-7 高人 貧困 310 Im K2V ウアキィ 1805 B439598-D 高技 非工 320 Im M3V ファンガ 1806 E676126-7 低人 肥沃 224 Im G1V M1V ノーブス 1807 E888765-2 低技 農業 富裕 834 Im G3V 太古種族遺跡 保護世界 フォーボルドン 1808 D893614-5 低技 非工 312 Im G0V ルーイ 1809 C776977-7 工業 高人 肥沃 A 701 Na G5V 絶滅ダッカム母星 ジェンゲ 1810 C799663-9 S 非工 323 Im M0V リジャイナ統治 ピクシー 1903 A100103-D N 高技 真空 低人 901 Im K1V M0V 刑務所 ブーギーン 1904 A8B3531-D S 高技 非工 非水 601 Im M1V 太古種族遺跡 ヘフリー 1909 C200423-7 S 真空 非工 320 Im K6II M2V リジャイナ 1910 A788899-C A 高技 肥沃 富裕 703 Im F7V BD M3V 星域首都 アミンディー母星2割 ヴァルグル数% アスラン数% フェリ 2005 B584879-B S 肥沃 富裕 620 Im G4V M3V ループ 2007 C77A9A9-7 S 海洋 工業 高人 A 323 Im F9V サイアス 2106 X555423-2 低技 肥沃 非工 R 501 Im K5V ヨーリ 2110 C560757-A 砂漠 富裕 713 Im F1V 太古種族遺跡 ズーファニ母星6割 研究基地β デンタス 2201 C979500-A S 非工 920 Im M2V キノーブ 2202 A663659-8 非工 富裕 622 Im G7V ベックスワールド 2204 D88349D-4 低技 非工 A 701 Im K0V M2V 太古種族遺跡 イノープ 2205 C411988-7 工業 高人 非農 氷結 600 Im K6V M5V ウォーチャーズ 2207 EAC28CC-9 非水 A 703 Im F0V ヨーバンド 2303 C7C6503-9 非工 非水 220 Im M3V シオンシー 2306 X000742-8 小惑 非農 R 714 Im F6V アルジン 2308 X766977-4 高人 低技 肥沃 R 723 Im G9V ユースト 2309 E7B4643-8 非工 非水 824 Im K9V ウルスティ母星 ヘイヤ 2402 B687745-5 低技 農業 富裕 734 Im K6III M3V ケング 2405 E5718CA-5 低技 A 812 Im G5V M9V モウガス 2406 CA5A588-B 海洋 非工 801 Im K9V M9V リザ 2408 E430AA8-8 高人 砂漠 非農 貧困 323 Im G7V インザ 2410 B575776-9 A 農業 423 Im F8V 太古種族遺跡
 リジャイナ星域には32の星系があり、総人口は693億人。最大人口はリザの318億8200万人で、最高技術レベルはイフェイト、ウアキィ、ピクシー、ブーギーンの13です。星域の首都はリジャイナにあり、ルーイを除く全星系が帝国に加盟しています。


【注釈】
ノーブス(1807): E888787-2 → E888765-2
 帝国保護世界の設定が付加されたため、政治コード6となっています。

リジャイナ(1910):
 『Spinward Marches Campaign』でTLは10から12に修正され、反乱期以降のトラベラー・ニュースサービス(TNS)など公式設定でも追認されています。また、『Traveller5』で知的種族アミンディーの母星との設定が追加されました。

シオンシー(2306):
 宇宙港を従来のXに差し戻しました。


アラミス星域

ペイア 2509 A655241-9 N 低人 肥沃 603 Im F3V ディアン 2510 C9A769D-8 非工 非水 A 202 Im K5V コルフー 2602 C895674-8 農業 非工 R 222 Im M0V フォカリーン 2607 EA88544-7 農業 非工 724 Im F3V ラブロン 2701 B646589-A 農業 非工 503 Im M2III M4V ヘグズ 2706 E66A224-9 海洋 低人 510 Im K2V M7V ヴィオラント 2708 C669452-A 非工 420 Im G2V パヴァンヌ 2905 E310000-0 未開 025 Im M0V カーステン 2906 C427402-B 非工 804 Im M1V ジーラ 2908 E55672C-7 農業 A 701 Im K6V M3V ジェセディピア 3001 C775300-7 低人 肥沃 611 Im F4V ヴァルグル3割 イェバブ 3002 C9A489A-8 非水 712 Im G9V エボキン母星 ナスミン 3003 B98A422-B S 海洋 非工 612 Im F5V ジコーカ 3004 D994542-6 農業 非工 A 320 Im K9V アラマンクス 3005 B657974-7 高人 肥沃 210 Im G0V ピサディー 3008 C5766D8-5 低技 農業 非工 A 201 Im F9V M1V ルール・デュー 3010 B98A510-B N 海洋 非工 502 Im G1V M9V ラグバード 3102 BAC5634-A 非工 非水 A 811 Im M1V タワーズ 3103 B544448-A S 肥沃 非工 A 735 Im G8V K6V フェニートマン 3104 C422200-C 高技 低人 貧困 910 Im G4V M7V ルイス 3107 D427402-7 非工 R 701 Im F8V アラミス 3110 A6B0556-B A 砂漠 非工 710 Im M2V 星域中心 ジュニディ 3202 B434ABD-B W 高人 A 310 Im F7V M2V ルルウィロリィ母星5割 パティニール 3207 C000632-9 小惑 非工 非農 213 Im F3V 太古種族遺跡 ナトコ 3209 B582211-8 N 低人 801 Im M2V M6V リーチャー 3210 C9A8542-8 非工 非水 A 233 Im G4V
 アラミス星域には26の星系があり、総人口は308億人。最大人口はジュニディの280億人で、最高技術レベルはフェニートマンの12です。星域の中心はアラミスにあり、全星系が帝国に加盟しています。


【注釈】
ディアン(2510): C9A769D-4 → C9A769D-8
 大気Aへの対応で、奇しくもGURPS版での「治安機関や政府がTL8技術を独占している」という設定がそのまま使えるようになりました。民衆はTL4に抑えられています。

コルフー(2602):
 この星は現在伝染病によって侵入禁止星系となっているのですが、治療法が見つかってアンバーゾーンに格上げされるのは1119年の話です。それを先取りしすぎているため、トラベルゾーンをレッドに差し戻しました。宇宙港もXに戻すべきか迷いましたが、宇宙港が「無い」のではないので存在だけは明示しておくことにしました。設定で「宇宙港は閉鎖されていて着陸すら禁止」と釘を差しておくべきでしょう。

フォカリーン(2607): EA88544-A → EA88544-7
ヘグズ(2706): E66A224-C → E66A224-9
 Eクラス宇宙港だからか、TLが引き下げられました。ヘグズに関しては「軌道施設はTL12で造られている」とすれば従来の設定と辻褄が合います。

ジーラ(2908):
 T5SSでは政治コード2を理由に治安レベルが取りうる最大限の「7」に調整されましたが、『トラベラー・アドベンチャー』での記述に合わせるためにデータを一旦差し戻しました。またアンバーゾーンの解除も一応検討しましたが、シナリオ本編の様相から政治形態が直接民主制(政治コード2)に見えて実態は官僚制(コード8・9)と考えれば治安コードと足して20以上になるので、アンバー指定は残しました。

ジコーカ(3004): X994542-6 → D994542-6
 レッドゾーンからアンバーへの格上げは、同じ「外世界人排斥」の設定を持ちながら元々アンバーのリーチャー(3210)と比べて大袈裟過ぎるという判断でしょう。GURPS版設定での「海兵隊が出動するまでになった地元民による宇宙港襲撃事件」は1097年の話ですので、「詳細設定で最大限の注意喚起をするアンバーゾーン」とするのが妥当かと思います。『トラベラー・アドベンチャー』でジーラ宇宙港の周辺に鉄条網が描写されていましたが、むしろこちらの方が相応しいかもしれません。

アラマンクス(3005):
 この星が世界大戦によって実際にアンバーゾーンに指定されるのは、(GURPS版設定でのみ)1106年になってからです。少し先取りしすぎているため、ゾーン分類をグリーンに戻しました。

ルイス(3107): X427402-D → D427402-7
 Dクラス宇宙港の存在など、『トラベラー・アドベンチャー』に記載されたものが反映されています。公式設定上、細々と農業を営む一般住民のTLが7で、テュケラ家私有地は外部からTL13技術を導入して造られていることに注意してください。

アラミス(3110):
 T5SSではUWPがA5A0556-Bに変更されましたが、『トラベラー・アドベンチャー』はこの星が腐食大気であることを前提に作られているので差し戻しました。

ジュニディ(3202): B434ABD-9 → B434ABD-B
 理由は不明ですが、TLの変更で名実ともにタワーズ星団の中心地としての地位を得ました。GURPS版設定ではこの星がアンバーゾーンに指定されるのは1108年となっていますが、アンバーゾーン新基準との兼ね合いでその部分だけ無視する格好になります。
 余談ですが、帝国歴1200年にはこの星はTL13になるそうなので、9からの上昇では変化が急激すぎるのかもしれません(変化が急激すぎる星は他にいくらでもあるとはいえ)。


ランス星域

エクストーレイ 1711 B55589A-A N 肥沃 110 Im M2V M4V ヴァルグル2割 ランス 1719 A879533-B A 非工 710 Im F5IV M1V 星域中心 ダイナム 1811 D100535-A 真空 非工 201 Im A4V ガンディ 1815 B311455-A N 非工 氷結 303 Im F8V M3V ヴィクトリア 1817 X6D7772-2 低技 R 112 Im K6V 太古種族遺跡 ダイナムン 1912 B674632-9 S 農業 非工 204 Im G8V イレーヴン 1916 X587552-4 低技 農業 非工 R 922 Im F9V ソンサート 1918 X6266AB-7 非工 R 314 Im K6V M0V ドガンジオ 1920 B420410-D N 高技 砂漠 非工 貧困 312 Im M0V M3V ワイポック 2011 E9C4547-9 非工 非水 A 922 Im M3V ジンニ 2111 X559000-0 未開 R 022 Im K5V レック 2112 D9957AA-6 農業 A 501 Im M0V キキーカ 2212 CAA5345-8 低人 非水 102 Im M2V クォピスト 2215 B551679-A 非工 貧困 A 721 Im M3V ジョンカー人6割 ツリース 2311 D432866-8 非農 貧困 610 Im M1V インザ統治 イチーステ 2313 C53A313-A 海洋 低人 720 Im G4V プリーマ 2314 D691142-5 低技 低人 802 Im M2V ラーイズ 2317 C100576-A 真空 非工 A 710 Im K7V イヴェンドゥ 2319 B424659-A A 非工 112 Im A9V キーノウ 2411 C792348-7 S 低人 213 Im M3III M2V テュレデッド 2414 C565540-9 農業 非工 614 Im M3V フレイベフガー 2415 E581542-3 低技 非工 901 Im K9V 研究基地ε ラベル 2416 C564112-4 低技 低人 肥沃 701 Im F2V M3V エクゥス 2417 B55A858-B S 海洋 202 Im F6V M1V ドルフィン1割 アイスティナ 2418 B5245A9-7 N 非工 301 Im K9V M8V コグリ 2419 CA6A643-9 海洋 非工 富裕 432 Im M1V スカル 2420 C4237C7-9 N 非農 貧困 601 Im M0V M1V
 ランス星域には27の星系があり、総人口は11億人。最大人口はツリースの6億7000万人で、最高技術レベルはドガンジオの13です。星域の中心はランスにあります。


【注釈】
ダイナム(1811):
 真空世界にも関わらず規模1が3になったことで『Double Adventure 2: Across the Bright Face(焦熱面横断)』の進行に多大な影響が出るので差し戻しました。
(※が、そもそもこのシナリオ(と同梱の『ミスリルでの使命(Mission to Mithril)』)のATVだけが「時速150kmで走る」のが問題であり、この件とは別に調整が必要です)

ヴィクトリア(1817):
 宇宙港を従来のXに差し戻しました。

ソンサート(1918):
 T5SSで宇宙港やトラベルゾーンが変更されましたが、理由が不明確のため差し戻しました(少なくとも1077年当時は侵入禁止星系であったことは間違いありません)。

クォピスト(2215):
 元々『Supplement 3』では水界1だったのですが、『Spinward Marches Campaign』以降は水界0の砂漠世界に変更されました。『Behind the Claw』で改めて「水界12%」と記述されたこともあり、T5SSでは元の水界1が採用されています。また、注釈欄に「ジョンカー人6割」を追記しました。


ライラナー星域

キノーブ 2512 C549433-9 非工 502 Im F0V K9V ギールデン 2514 C583103-6 低人 203 Im M1V パネット 2519 E9C5677-9 非工 非水 224 Im K5V ガーリンスキー 2520 B632520-7 S 非工 貧困 410 Im M0V M7V メイシーン 2612 B000453-E N 高技 小惑 非工 901 Im G8V M8V フューラキン 2613 A674210-D 高技 低人 肥沃 810 Im G3V ナトーコー 2620 C8879AB-9 高人 肥沃 A 204 Im F4V 太古種族遺跡 リゼック 2712 A425579-A N 非工 401 Im M2V M3V ポロズロ 2715 A867A74-B 高人 肥沃 201 Im M1V M9V ライラナー 2716 A434934-F A 高技 高人 810 Im M2V 星域首都 ローンセダ 2720 C86A215-7 海洋 低人 705 Im K9V ヴァルハラ 2811 E565432-5 低技 肥沃 非工 622 Im G4V ジヴァイジェ 2812 C6B199C-B 高人 非水 A 421 Im G6V ジェ・テローナ 2814 A560565-8 N 砂漠 非工 913 Im F9V 軍政 ジェローム 2818 X573000-0 未開 R 001 Im K2V ヒーノズ 2912 A545543-B 農業 非工 824 Im F3V セレピナ 2913 B434456-9 A 非工 201 Im M2V ギトシー 2918 B000676-9 小惑 非工 非農 610 Im G6V M3V ベリーゾ 3015 B895646-5 低技 農業 非工 923 Im K1V アスラン3割 ケジーナ 3016 E869569-3 低技 非工 A 224 Im F6V ライラナー統治 ヘロンニ 3017 E7A0614-8 砂漠 非工 820 Im G5V 457-973 3019 X572776-5 低技 R 334 Im G9V ペルージアン母星 ソメム 3020 C301340-B 真空 低人 氷結 201 Im M2V M7V ヴィノリアン 3111 B879610-9 非工 610 Im M3V M4V ヌーテマ 3112 B864310-8 N 低人 肥沃 822 Im M3V ヒューデル 3114 X575000-0 肥沃 未開 R 020 Im M0V シパッウェ 3118 B55879A-6 農業 623 Im M1V ヴェインジェン 3119 C686854-5 低技 肥沃 富裕 520 Im G1V M0V チャーパー1割 研究基地γ マルジュシ 3212 A576257-C A 高技 低人 肥沃 920 Im F0V ベヴェイ 3216 D4209CC-A S 工業高人砂漠非農貧困A 224 Im F4V タカセブ 3218 C430411-B 砂漠 非工 貧困 801 Im A5V M2V ポワザ 3220 C787566-5 低技 農業 非工 332 Im K4V M2V モーラ統治
 ライラナー星域には32の星系があり、総人口は381億人。最大人口はポロズロの214億6000万人で、最高技術レベルはライラナーの15です。星域の首都はライラナーにあり、全星系が帝国に加盟しています。


【注釈】
ライラナー(2716):
 T5SSでは人口の4割が知的種族ルルウィロリィで占められていることになっています。が、さすがに突拍子もない上に影響も大きすぎるため、削除しました。T5SSの古い版ではアラミス星域ではないあちこちの星系に「タンポポ」が居住していることになっていたらしいので、その名残りかもしれません。

ベリーゾ(3015):
 T5SSで「アスラン3割」の情報が付加されましたが、その設定の出処は不明です。従来設定への影響が少ないのと、今後新設定が起こされる可能性があるため、このままにしてあります。

ケジーナ(3016):
 統治元がベヴェイ(3216)からライラナー(2716)に変更されました。現在ではこれを受けて、GURPS版設定の「ベヴェイから入植された」に加えて「ライラナーによる統治に対して住民の抵抗が激しい」というアンバーゾーンの理由が整備されています。

457-973(3019): X372215-4 → X572776-5
 『Regency Sourcebook』以降、この星は知的種族ペルージアンの母星ということになったので、その人口3000万人が反映されています。

ポワザ(3220):
 統治元がタカセブ(3218)からモーラ(3124)に変更されました。「モーラから入植された」という設定が元々あるため、単純化と思われます。

新訳最新版スピンワード・マーチ宙域UWPデータ(アルファ象限)

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クロナー星域

ゼイキュード 0101 C430698-9 砂漠 非工 非農 貧困 613 Zh K9V レノ 0102 C4207B9-A 砂漠 非農 貧困 A 603 Zh G8V M1V エレーレ 0103 B563664-B Z 非工 富裕 910 Zh M1V M4V クロナー統治 キャントレル 0104 C566243-9 低人 肥沃 520 Zh F1V ギョマー 0108 C8B2889-8 非水 824 Na A8V テスマリ母星 ゼンゴー 0202 C868586-5 低技 農業 非工 801 Zh G5V M3V リオ 0301 C686648-8 農業 非工 富裕 201 Na M0V M1V ジェセンタウン 0303 B31169B-C Z 高技 非工 非農 氷結 A 801 Zh M2V M9V クロナー 0304 A6369A5-D Z 高技 高人 810 Zh F8V 星域中心 アッツァ 0307 B4337CA-A Z 非農 貧困 A 810 Zh F7V M3V 太古種族遺跡 ウェンジ 0503 D648500-8 農業 非工 610 Na F8V エンラス=デュ 0601 E975776-6 農業 323 Na F1V アルジェバスター 0605 C665658-9 農業 非工 富裕 410 Na M0V M1V ラサット 0607 E883401-7 非工 910 Na F0V ニンジャー 0608 A311666-C Z 高技 非工 非農 氷結 410 Zh A4V 軍政 シユー 0610 B756779-A Z 農業 111 Zh F4V M0V インドゥ 0703 E434662-6 非工 320 Na F6V アルジェバスター統治 ネアフォン 0704 E738475-7 非工 820 Na K5V シパンゴ 0705 A886865-C Z 高技 肥沃 富裕 121 Zh G2V クロナー統治 スターヴ 0710 E7667A8-2 低技 農業 801 Na K9V M2V オベイエリー母星 ナーヴァル 0805 D525688-7 Z 非工 A 603 Cz G4V M6V プレイヴン 0807 E845300-5 低技 低人 肥沃 910 Na G8V M7V クォー 0808 B532720-B N 非農 非工 A 401 Cs M2V フロンド 0810 E9C3300-9 低人 非水 103 Cs F8V
 クロナー星域には24の星系があり、総人口は92億人。最大人口はクロナーの80億人で、最高技術レベルはクロナーの13です。星域の中心はクロナーにあります。なお、帝国市民はこの星域方面への不要不急の渡航は止めてください。


【注釈】
ニンジャー(0608):
 これまではクロナー(0304)による統治でしたが、軍政に変更されました。

インドゥ(0703): E334662-5 → E434662-6
 UWPおよび統治元の変更により、『Behind the Claw』の設定は使用できなくなりました。同時にネアフォン(0704)にも影響が出ます。差し戻しても良かったのですが、いくら後進の独立星系とはいえ帝国歴850年にもなって「世代間宇宙船で植民」という設定はさすがにどうかと…。

ナーヴァル(0805):
クォー(0808):
フロンド(0810):
 国籍コードが独立から属領に変更された星系です。クォーには元々帝国海軍基地があるので(※ホビージャパン版ではゾダーン軍基地と誤植されています)帝国属領でない方が不自然ですし、同じ理屈でゾダーン軍基地のあるナーヴァルはゾダーン属領であるべきです(当初は記載がなかったのですが、後に追加されました)。フロンドは『Spinward Marches Campaign』などで帝国属領とされており(なぜか『Regency Sourcebook』で独立に戻されていますが…)、影響の出そうな公式設定がないため、変更しても実害はないと判断しました。


ジュエル星域

コンディオル 0901 E7A1522-8 非工 非水 923 Na F8V ヴェックス人母星 ヴァルグル3割 プパーキン 0902 C7B3386-9 低人 非水 502 Na K8V M4V ヴァルグル8割 クウィストヨッチ 0904 B766766-A Z 農業 富裕 424 Zh M2V 軍政 ゴウゲスト 0909 C572510-A 非工 A 420 Cs K2V エサーリン 1004 C565673-8 農業 非工 富裕 A 223 Na F3V M2V ルビー 1005 B400445-B S 真空 非工 201 Im M1V M3V エメラルド 1006 B766555-B S 農業 非工 534 Im M1V ゼノピット 1010 D430546-7 砂漠 非工 貧困 622 Na M3V リバーランド 1102 C566A99-9 高人 肥沃 A 214 Zh M2V クラン 1103 B672899-A Z A 901 Zh K8V ジュエル 1106 A777999-C A 工業 高技 高人 肥沃 623 Im G7V 星域中心 ジルコン 1110 C792668-8 M 非工 624 Na F0V アーデン統治 アオ=ダイ 1201 E410644-7 非工 非農 312 Zh K2V M3V モンゴ 1204 A568685-A A 農業 非工 富裕 603 Im M6III M0V ユートランド 1209 C573464-7 非工 410 Na M0V アーデン統治 ペクァン 1210 E5656B9-4 低技 農業 非工 A 710 Na K5V ネキージ 1305 D591314-5 低技 低人 A 501 Im K2V M0V ネキージ人母星 ライセン 1307 B592655-A S 非工 623 Im M3V フォーレン 1401 B638665-8 非工 A 910 Zh K0V チョカリ母星4割 ドルフィン2割 クラン統治 ファーリーチ 1402 A200400-B Z 真空 非工 A 415 Zh M3III M0V 871-438 1510 E722000-0 貧困 未開 001 XX M3V M8V ルージィ 1604 D422A88-8 工業 高人 非農 貧困 110 Im M2V グラント 1607 X664100-3 低技 低人 肥沃 R 222 Im K6V 保護世界
 ジュエル星域には23の星系があり、総人口は370億人。最大人口はリバーランドの200億人で、最高技術レベルはジュエルの12です。星域の中心はジュエルにあります。なお、帝国市民はゾダーン領内への不要不急の渡航は止めてください。


【注釈】
コンディオル(0901):
 GURPS版設定では、ここには24万のヴァルグルが居住していました。その後『Tripwire』にて、ここは群小人類ヴェックス人の母星に書き換えられたのですが、その人口は60万人とされています。総人口は90万人台ですので、24万人のヴァルグルが居住していても不自然ではなく『Tripwire』との矛盾もないため(たまたま会わなかったのでしょう)、注釈欄に「ヴァルグル3割」を追記しました。

ゴウゲスト(0909):
 ここの国籍コードは『Supplement 3』では独立世界でしたが(※この当時は属領の概念が無かったので当然です)、『Spinward Marches Campaign』からは帝国属領に変わり、『Imperial Encyclopedia』でも踏襲されました。ところが『Domain of Deneb System Data』『Regency Sourcebook』では再び独立世界に戻され、『Behind the Claw』でもそちらが採用されています。そして現時点での最新設定となる『Tripwire』では帰属は不明確です。
 一応T5SSを尊重して「Cs(帝国属領)」としておきますが、治安0の星ですし、新設定ができるまでは「建前上は」とか「形骸化した」といった冠詞を付けた設定を構築した方が良さそうです。

ユートランド(1209):
 T5SSで基地コードMになりましたが、その存在を裏付ける公式資料は今のところありません(これまで基地が無いとされてきたのですから当然です)。誤植の可能性も考えて一旦削除しましたが、今後基地の存在を前提とした新設定が起こされる可能性は十分にあるので、その際には改めて基地Mに修正します。

フォーレン(1401):
 ここの統治元は『Regency Sourcebook』ではファーリーチ(1402)、『Behind the Claw』ではリバーランド(1102)、T5SSではクラン(1103)とまちまちです。しかしここを一番詳細に書いているはずの『Tripwire』では統治元の言及はなぜかなく、つまり「どこでもいい」状態なのでT5SSの「クランが統治」をそのまま採用します。

ファーリーチ(1402):
 GURPS版設定ではヴァルグル世界でしたが、『Tripwire』でゾダーン世界に「上書き」されました。『Behind the Claw』の設定も活かすなら「第五次辺境戦争後にヴァルグルが流入した」とすればいいでしょう。

アーデン領の2星系について:
 ヴィリス星域のアーデン(1011)がユートランド(1209)とジルコン(1110)を領有することが最初に明らかになったのはシナリオ『Expedition to Zhodane』で、物語内の時間では1107年となっていました。その後『Spinward Marches Campaign』で「アーデン連邦」という名称が与えられ、拡大政策に打って出た『MegaTraveller』の時代には更に周辺4星系を治める立派な「恒星間国家」となっていました。
 その後『Regency Sourcebook』で設定が少し整備され、『Behind the Claw』でユートランドの植民地化が1106年、ジルコンが1107年と明言されました…が、ここで1107年当時のユートランドの様相が入植初期とは思えないことが問題となります(ジルコンの人口も600万人と過大ですし)。結論としては、『Tripwire』にある「ユートランドの入植者の源流は第二次辺境戦争後にゾダーン占領地から引き揚げてきた帝国人難民」「ジルコンは1006年にアーデンから入植(ユートランドも同時期にアーデン連邦に加盟)」という設定を容れるのが妥当と考えます。


ケリオン星域

アツォン 0111 B310598-8 非工 933 Na K8V イェクター 0114 C6B6431-A 非工 非水  123 Na G4V M4V コーサ 0115 EA95124-5 低技 低人 肥沃 910 Na M0V プリンクス 0212 C436635-6 非工 720 Na A9V K8V ルーシュー 0215 E766674-4 低技 農業 非工 富裕 903 Cz G0V M3V ヴァルグル世界 バエル 0218 E200100-8 真空 低人 812 Na K2V ミザン=フェル 0311 B56258A-8 非工 323 Na F3V サンシバー 0412 B200310-A Z 真空 低人 701 Zh M3V M3V アッティカ 0414 C400546-8 真空 非工 810 Na K1V M6V レティネイ 0416 E8C69AA-9 高人 非水 A 910 Cs M1V タシャキ母星 研究基地δ テラ・ノヴァ 0511 C786342-9 低人 肥沃 812 Zh K2V アスモデウス 0512 E596400-5 低技 肥沃 非工 205 Zh K8V ファイサル 0518 D545436-5 低技 肥沃 非工 810 Cs K9V M7V ルボー 0613 B869554-C 高技 非工 901 Zh G8V M5V ケリオン 0614 B554788-9 Z 農業 804 Zh G6V 星域中心 シェオル母星 デカルブ 0618 EA8A799-6 海洋 富裕 320 Cs M1V ウィンストン 0620 E887573-6 農業 非工 501 Sw K5V M9V ラップスワールド 0712 C592320-8 Z 低人 402 Zh K5V M8V サンバー 0717 B543653-C 高技 非工 貧困 210 Cs M0V M1V エントロープ 0720 E436AAA-B 高人 A 110 Sw G6V M1V アンセルホーム 0820 C310588-8 非工 601 Sw M0V M1V
 ケリオン星域には21の星系があり、総人口は204億人。最大人口はエントロープの112億6300万人で、最大技術レベルはルボーとサンバーの12です。星域の中心はケリオンにあります。なお、帝国市民はこの星域方面への不要不急の渡航は止めてください。


【注釈】
ルーシュー(0215): E765664-4 → E766674-4
 T5SSではゾダーン属領に変更された上に『Regency Sourcebook』の「ヴァルグル世界」が再び採用されたため、『Behind the Claw』にある「少数のヴァルグルが多数の人類を統治している」設定が使用できなくなりました。また、水界が5か6かで資料ごとにブレがあるため(『Regency Sourcebook』に至っては両方という有様)、T5SSの「6」を尊重しつつGURPS版設定を「水界度54.5%」に改変してどちらでも解釈可能にしておこうと思います(小数点以下を切り捨てれば水界5に、四捨五入なら水界6になる)。

サンシバー(0412):
 この星には『Regency Sourcebook』以降「ドロイン人口が4割」という設定が付加されましたが、GURPS版設定でドロイン移民が来訪するのは1117年の話ということになりました(旧来の設定との整合性のためと思われます)。今後1105年向けの新設定が用意されるまでは、ドロイン移民は居ないものとします。

ラップスワールド(0712):
 ここの基地は「M(外国基地)」ではなく「Z(ゾダーン海軍基地)」であるべきなので修正を施しました。


ヴィリス星域

カローラン 0911 C796746-5 低技 農業 510 Na G2V M4V 899-076 0912 E201300-8 真空 低人 氷結 520 Na F7V クエア 0915 B200545-9 真空 非工 204 Cs M3V ゼータ2 0919 X6B0000-0 砂漠 未開 R 020 XX M0V ヴィジ母星 保護世界 アーデン 1011 B5549CB-9 高人 肥沃 A 110 Na G4V M5V チョレオスティ 1018 C200100-9 真空 低人 101 Im K9V M4V マージシー 1020 C575677-6 農業 非工 A 910 Im K4V M7V フレンジー 1116 A200436-A N 真空 非工 110 Im M3III M2V 星域中心 ガーダ=ヴィリス 1118 B978868-A S 肥沃 512 Im M3V ヴィリス統治 ヴィリス 1119 A593943-A 工業 高人 820 Im G5V M8V ディジティス 1212 E53668A-6 非工 920 Na M3V エディニーナ 1213 E400220-7 真空 低人 A 401 Cs K6V M0V 728-907 1214 E955000-0 肥沃 未開 010 Im F1V M2V ステラティオ 1216 D5A4420-8 非工 非水 210 Im M3V アルカディア 1217 E546845-6 肥沃 402 Im G8V トレマス・デクス 1311 B511411-C 高技 非工 氷結 201 Na K8V M5V ミーリアム 1315 E572300-8 N 低人 110 Im F5V サウルス 1320 D888588-7 農業 非工 820 Im G8V M1V サウリアン母星 ランジェント 1411 E67A612-7 海洋 非工 503 Na K8V ディノータム 1413 B739573-A N 非工 324 Im M2V フィカント 1417 E567353-5 低技 低人 肥沃 910 Im M0V M1V ティオナーレ 1511 C674321-8 低人 肥沃 A 910 Cs M2V M5V シックス母星 カリート 1515 C434887-7 501 Im K9V M1V アスガルド 1519 X5437C7-5 低技 貧困 R 520 Im F5V M1V タヴォンニ 1520 E567000-0 肥沃 未開 034 Im G6V プルーム 1611 C887624-8 農業 非工 710 Im G5V M8V
 ヴィリス聖域には26の星系があり、総人口は109億人。最大人口はヴィリスの83億2000万人で、最高技術レベルはトレマス・デクスの12です。星域の中心はフレンジーにあります。


【注釈】
ゼータ2(0919):
 国家に属していない(属領ですらない)この星が「保護」世界というのは一体どこに保護されてるんだ、ということに普通はなるのですが、地理的にも将来的(※数十年後には帝国領になります)にも帝国がしっかり確保しているのでしょう。独自に削除するほどでもないと判断して、そのまま残しました。

ステラティオ(1216): D5A4420-4 → D5A4420-8
 『Behind the Claw』では「TL4の蒸気機関で異種大気の中を生き延びている」という、ある意味でSFな世界でしたが、TLの調整により使えなくなりました。直すなら「昔はそうしていて今もその名残りがある」ぐらいが無難でしょうか。

カリート(1515): C334867-7 → C434887-7
 政治コードが「6」ではなくなったことで、「ディノータム(1413)の海軍基地が統治」という設定に調整が必要です(地元官僚を海軍が統御していることにすれば問題なさそうですが…)。

新訳最新版スピンワード・マーチ宙域UWPデータ(概要)

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 全ての旅人の故郷、スピンワード・マーチ宙域――。この約40年間で星の数ほどの冒険の舞台となり、様々な悲喜劇が繰り広げられてきました。
 さて、歴史の長いRPGにはよくあることですが、背景世界の設定が後から後から追加されていくうちにどうしても旧来のものと矛盾を起こしがちです。『トラベラー』も例外ではなく、むしろ矛盾の多さで言えば業界随一と言っても過言ではないのですが、とにかく『トラベラー』の代名詞とも言えるスピンワード・マーチ宙域にも過去何度も調整が入っています。ざっとまとめると、

1979年:『Supplement 3: The Spinward Marches(スピンワード・マーチ宙域)』
 全ての原点。設定年代は帝国歴1105年。

1985年:『The Spinward Marches Campaign』
 標準惑星書式(Universal Planet Profile)に星系の「所属国」「人口倍率・小惑星数・ガス惑星数(PBG)」「主星・伴星のスペクトル型」の欄が追加され、貿易分類も改定された。同時にリジャイナの技術レベルなど一部星系のデータ修正も行われた。設定年代は帝国歴1112年頃となり、一部星系のアンバーゾーン指定などに変化が見られる(が、同梱の宙域図は旧来のものを踏襲)。

1987年:『MegaTraveller: Imperial Encyclopedia(帝国百科)』
 UPPが標準個人書式(Unlversal Personallty Profile)と混同しやすかったので「標準世界書式(Universal World Profile)」に改められ、貿易分類の表記法など現在にまで至る表記形式がこの時点でほぼ固まる。基本的に『Spinward Marches Campaign』の情報を(誤植も含めて)踏襲したが、設定は反乱勃発後の帝国歴1117年に改定。

1992年:『Domain of Deneb System Data』
 雑誌『MegaTraveller Journal』第3号に収録。表題の通りデネブ領域4宙域(スピンワード・マーチ、デネブ、トロージャン・リーチ、レフト)のUWPをまとめた。設定年代は帝国歴1120年となり、(前年発行の第1号収録の宙域図では)国境線やXボート網に一部変化が見られるが、UWP面での変化は特に見当たらず。
 ちなみにこれは、1989年にパソコン通信GEnieで公表され、後に「Sunbane」と呼ばれる既知宇宙UWP集をそのまま引き写したものなので、この版特有の誤植(星系名の誤記、ガス惑星の数の間違いなど)が存在する。

1995年:『The Regency Sourcebook』
 『Traveller: The New Era』の帝国歴1201年設定の追加と同時に、『Imperial Encyclopedia』の帝国歴1117年設定に一部追記も。反乱期のデネブ領域のUWP集としてはこれが定本と言っていいと思われる(一応誤植はないとされているが、やはり一部に過去の資料とデータの差異があるのは否めない)。

1998年:『GURPS Traveller: Behind the Claw』
 設定は「反乱の起きなかった」帝国歴1120年。ルール移行により従来のUWPによる記述は廃止され、表記法以外にも従来のものとは数値の一部に差異が見られる。宙域内全星系の詳細設定を網羅した意欲作だったが、大胆過ぎる新設定や知的生物の追加には批判もあった(また、大量の誤植も問題となった)。

2008年:『The Spinward Marches』
 ルールのマングース版移行によりUWPが復活(したが、表記法は『Supplement 3』時代に戻った)。著者は『Behind the Claw』と同じだが、詳細な星系解説は1星域につき2星系に絞られた。

2008年~:Traveller5 Second Survey(T5SS)
 2005年頃からCitizen of the Imperium(CotI)で続くUWP改定の機運を受け、有志によって星系データの見直しが行われる。当初は「Spinward Cleanup Project」というスピンワード・マーチ宙域に絞った企画だったが、次第に全時代の既知宇宙全星系を対象にしていき、加えてTraveller5でUWP書式が全面的に変更されたこともあり、「公式設定の」全UWPはT5形式に改められていく。

2018年?:『Behind the Claw』(未発売)
 マングース第2版ルール対応のデネブ領域資料本。UWP(の数値)はT5SSを踏襲すると思われる(2012年発売の『The Solomani Rim』以降、MongooseはT5SSを「公式設定」として採用しているので)。

 このように情報の拡充と微調整が繰り返されてきたわけですが、特に「Traveller5 Second Survey」による変革は大規模なものとなりました。T5SS自体も数度の改定を現在まで経てきていのですが、現時点では以下のような修正がなされているようです。

・小規模(低重力)で濃大気の世界の補正
最新の科学的知見を反映して、規模4以下で大気がある星を対象に惑星規模の大型化がなされています。同時に、大型の真空世界の規模を縮小する措置も行われています。

・技術レベルの調整
帝国内のTL16星系は全て排除されました。また、低人口や低宇宙港で高技術だった世界は軒並み引き下げられ(特にソロマニ・リム宙域では影響大)、貿易分類「未開」の世界ではTLが自動的に0となりました。他にも、大気が呼吸不可にも関わらず低技術であった世界がTL8~9まで引き上げられ、設定上隔離されていない低技術星系が全般的に底上げされています。

・恒星のスペクトル型の修正、および超巨星や恒星規模Dの排除
環境が良さそうで人口の多い世界には、G型K型の安定した恒星が割り当てられました(その逆に辺境星系にM型が割り当てられることもあります)。同時に、M5V型より暗い星系は少し「明るく」補正されました(ルールでは主要世界は可住圏(ハビタブルゾーン)に置かれますが、M5Vより暗い恒星には可住圏自体がないためです)。また、規模Dの矮星の排除により連星系ですらなくなったところもあります。例外として、リジャイナ星系などは元々設定として矮星を伴星として持っていたので維持されています。

・一部世界の名称変更、誤植修正
Kwai Ching(1040)→ Kuai Qing、Keltcher(2639)→ Keltchner
星域図などでBevyと誤植されることが多かった座標3216の星系は、Beveyに統一されました。

・統治元が曖昧だった政治コード「6」の星系の明確化
政治6で統治元が不明だった多くの星系が「軍政」と明言されました。また、統治元情報がかなり変更されています。

・後に作られた設定に合わせてのUWP補正
ヴィクトリア(1817)の大気コードは濃厚(9)から超濃厚(D)になりました。『偵察局』発売までは大気コードDがなかったのと、JTAS誌第2号掲載の設定が反映されたものと思われます(規模6の星が大気Dになることはないので明らかに意図的な修正です)。また、マラスタン(2231)は後に帝国保護星系の設定が付加されたため、それに合わせて修正が入りました。もはや『傭兵部隊』にある状況は使用できません。

・人口倍率の補正
貿易分類「荒涼(人口0・政治0・治安0)」の世界は人口倍率も0になりました。『ミスリルでの使命』などで訪れるメタル・ワールズの世界に影響が出ますが、「シナリオの時点ではたまたま人がいた」と解釈すればいいでしょう。

・Xボート路線の修正
ルーニオン星域にあった「ジャンプ-5」航路は、方角を変えてジャンプ-4になるよう補正されました。

・アンバー・トラベルゾーンの新基準
従来の設定によるものに加え、「政治と治安の値を足して20以上」の星系が一律にアンバーゾーンになりました。政権が独裁的かつ極高治安の星系への注意喚起という意味では頷けます。

・2~3星系規模の「恒星間国家」の排除
おそらく1105年当時の「アーデン連邦(Federation of Arden)」が恒星間国家扱いされていなかったことを踏まえて、極小規模の国家が星系図上では排除されたものと考えられます。スピンワード・マーチ宙域では影響はないように見えますが、後に設定が整備された「ガルー共和国(Republic of Garoo)」や「ミューエイ帝国(Mewey Empire)」はUWP上では恒星間国家扱いされていません。

 これだけを見ればかなり合理的な修正が行われたと思えますが、副作用もありますし、意図不明のものや勇み足とも思える改変も行われています。そしてT5書式は情報量が大幅に増やされた上に貿易分類も全くの別物になったのですが、そもそもそれはTraveller5で遊ばなければ単に互換性のない情報に過ぎないのです。
 もう一つ問題なのは、今後マングース社から出てくる「公式設定」は前述した通りT5SSに準拠したものとなります。既に第2版ルール対応の『The Bowman Arm』や『Lunion Shield Worlds』では新UWPに対応した設定が公開され始めていて、「公式設定」を取り入れ続ける限りではこの流れはもはや不可逆なものと言えます。
(※もちろん懐かしの『トラベラー・ハンドブック』のようにレフリーが独自の解釈で各星系の設定を起こすことや、『Behind the Claw』設定で遊び続けることが妨げられる訳ではありません)

 そこで、T5SSの新設定を受け入れつつ『メガトラベラー』で採用されたUWP書式に差し戻し、貿易分類はマングース版に準拠させ、どうしても納得のいかない部分は独自に調整を加えた「最新版の」日本語対応スピンワード・マーチ宙域UWPデータを公開します。星系名の翻訳に関しても、過去の自分の訳も含めて全面的に見直しを行いました。


アルファ象限(クロナー、ジュエル、ケリオン、ヴィリス)
ベータ象限(リジャイナ、アラミス、ランス、ライラナー)
ガンマ象限(ダリアン、ソード・ワールズ、ファイブ・シスターズ、第268区)
デルタ象限(ルーニオン、モーラ、グリッスン、トリンズ・ベール)
(※象限(quadrant)とは、宙域図を中央から4分割して4星域を一纏めにし、「左上」から順にアルファ、ベータ、ガンマ、デルタと呼ぶやり方…なのですが、別に行政単位ではなく、マーティン・ドハティ(Martin J. Dougherty)の著書ぐらいでしか見かけない表記法です)

【注釈】
国籍コードについて
 Im:第三帝国
 Cs:帝国属領
 Zh:ゾダーン領
 Cz:ゾダーン属領
 Da:ダリアン連合
 Sw:ソード・ワールズ連合
 Na:非加盟中立
 XX:未入植(非加盟中立)
(※前述の通り、アーデン連邦、ガルー共和国、ミューエイ帝国といった小国は国籍コードを持たず「Na」扱いです)

星系首都について
 T5SSの古い版では「星域首都=星域公爵がいる星」と定義されたため、星域公爵が設定上置かれていないジュエル、アラミス、ヴィリス、ランス、第268区域、ファイブ・シスターズの各星域から星域首都が削除されていました。現在の版ではジュエルと第268区域を除いて「星域公爵がいる」ことにされて星域首都が復活していますが、これでは旧来の設定と矛盾してしまいます(その上基準が不明確です)。
 そこで、旧来の設定を上書きする新設定ができるまでは星域図上では赤字で記し、「星域首都」ではなく「星域中心」と注釈欄に記載することにします。首都ではなくても星域行政の中心地であることには変わりはないからです。同様に、帝国外の星域の中心地も「星域中心」の表記を使用します。

知的種族について
 (minor)とのみ書かれている知的種族を明確化し、1105年の時点で未発見である種族の記述は削除しました。既に絶滅している種族に関しては「絶滅」と記載してもいます。なお、UWP上では人口比1%未満の種族は省略されるようなので、どんな星系でも記載のない種族が居住している可能性は十分にあります。

太古種族の遺跡について
 『Spinward Marches Campaign』で太古種族遺跡の所在は明確化され、『GURPS Traveller: Alien Races 3』で追加されましたが、T5SSで更に増やされています。T5SS追加分についてはシナリオのネタバレを含むため、一旦UWPから外してこちらに伏せておきます。ただし、太古種族の遺跡というものはたいてい大学や海軍・偵察局の厳重な管理下にあり(もしくは見つかってすらいない)、観光地として一般開放されているものはそんなにないことは頭の隅に置いておいてください(例外として、イフェイトの遺跡は見つかって早々に盗掘に遭って既に何も残っていないため、遺構が観光地化されていても不思議ではありません)。

T5SS追加分
ダリアン(0627):設定上太古種族の活動痕跡あり。ただ、この星に目立った施設がないからこそ最終戦争の戦禍を免れた、という設定もあるため、大した遺跡ではないかもしれない。
リジャイナ(1910):『Adventure 12: Secret of the Ancients』の続きにあたる「Grandfather's Worlds(Challenge誌27号掲載。内容については『Behind the Claw』にも記載あり)」で語られた重大な秘密に関することと思われる。
シオンシー(2306):小惑星帯は太古種族によって破壊された惑星の痕跡と考えられていて、ある意味でこの星系自体が遺跡。ちなみに星系内には遺物狙いの輩が多数入り込んでいて、時折反物質の爆発事故が起きているとか…?
コルフー(2602):設定不明。おそらく遺跡は未発見。
フューラキン(2613):『黄昏の峰へ』参照。1105年時点では未発見であり、おそらく今後も見つかることはない…はず。

独自に削除したもの
ピクシー(1903):『AR3』において、遺跡の存在が「帝国政府(および偵察局)によって秘匿されている」と明言されているのでUWPから削除。

貿易分類について
 貿易分類の区分けについてはクラシック版・メガトラベラー・TNE・T4・T20・マングース版のそれぞれで微妙な差異があり、今回はそれらの中庸な点を探って採用しています。また、貿易分類の種類については最新のマングース版を採用していますので、旧来の貿易ルールを使用する場合は「高技」「低技」「肥沃」を読み飛ばしてください。
 なおT5SSの改定により規模4-の世界が「農業」となることはなくなったため、「農業」世界は自動的に「肥沃」の貿易分類も持つことになります(※「肥沃」は農産物輸出には人口面の事情などで至らないものの自然環境が豊かと思われる世界を意味する、マングース版から導入された貿易分類)。よって「小惑」が「真空」を内包するように、T5SSの査読を経たUWPに関してのみ「農業」は「肥沃」を内包するものとします。また、メガトラベラー以降で「低人」に「非工」が必ず付随してしまう問題に対処するため、同様に内包させました。


【参考文献】
Journal of the Travellers' Aid Society #2,#12 (Game Designers' Workshop)
Supplement 3: The Spinward Marches (Game Designers' Workshop)
Adventure 6: Expedition to Zhodane (Game Designers' Workshop)
Double Adventure 2: Across the Bright Face (Game Designers' Workshop)
Traveller Adventure (Game Designers' Workshop)
Spinward Marches Campaign (Game Designers' Workshop)
Alien Module 8: Darrian (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller: Imperial Encyclopedia (Game Designers' Workshop)
Regency Sourcebook (Game Designers' Workshop)
MegaTraveller Journal #1,#3 (Digest Group Publications)
GURPS Traveller: Behind the Claw (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Alien Races 3 (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Sword Worlds (Steve Jackson Games)
GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
Spinward Marches (Mongoose Publishing)
Tripwire (Mongoose Publishing)
Alien Module 3: Darrians (Mongoose Publishing)
Spinward Marches 1: The Bowman Arm (Mongoose Publishing)
Spinward Marches 2: The Lunion Shield Worlds (Mongoose Publishing)
Traveller Map
Traveller Wiki

1/4スケール「スピンワード・セクター」を作る

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 宇宙の広大さが『トラベラー』の売りではあるのですが、プレイヤーが持てるようなジャンプ-1~2の低速船では逆にその広大さを持て余す局面もなくはないかと思われます。特にジャンプ-1のA型(R型)商船だと動く範囲をどうしても選ぶことになりますし。レフリーにしても設定(と準備)の乏しい星々に寄り道されないか、と不安にかられることもしばしでしょう。
 じゃあ公式資料が豊富な星だけを押し込んで1星域作ればいいんじゃないの?…ということで、スピンワード・マーチ宙域の美味しいところだけを縮尺1/4で濃厚に抽出した、言わば「スピンワード・セクター」を作るに至りました。

 ……というのは後付けの理由で、この企画は2011年まで遡ります。当時、私は『第五次辺境戦争』を模したミニゲームの研究開発をやっていて(それが後に『Grenzkrieg: Spinward』として公開されます)、ミニゲームに相応しい規模の縮小版宙域図を制作した際の副産物として出来上がったのが1/4スケールのスピンワード・マーチ「星域」でした。
 あくまでネタだったのでそれからどうすることもなかったのですが、先日「新訳最新版スピンワード・マーチ宙域」を制作した際に、資料探しの途中で懐かしいこれらのファイルが目に留まり、7年経って新資料も出てきた今ならもっと洗練した形で「星域図」が作れるんじゃないか?と思ったわけです。そして出来上がったのが、これです。


 今回の企画は「Xボート網を形作るのに必要な星系」「惑星図など公式資料が多い星系」「シナリオの舞台となった星系」を中心にして、8×10ヘクスの星域図でスピンワード・マーチ宙域を再現したものです。80ヘクスに56星系を押し込んだのでかなり窮屈に見えますが、星系作成システムにおける「星域密度:濃密(1Dで3+)」で期待値から少し多めな程度です(とはいえ帝国内にこれだけ「濃い」星域はなかなか無いですが…)。1ヘクスは縮尺1/4なので当然4パーセク程度ですが、色々な所で空間の歪みが発生しているのはご愛嬌ということで。また、Xボート網の全体的な密度が上がることで星域図がA・Bクラス宇宙港や高人口世界や水のある世界ばかりとなるのも否めませんが、スピンワード・マーチ宙域は特にCクラス以下の宇宙港で低技術の世界が多くてSFゲームらしさが削がれていたのも事実であり、これは良し悪しでしょう。

 実際にプレイに活用する人はいないでしょうけど、使うとするなら宇宙船のジャンプ能力に応じて1回の星系間移動で以下のような時間がかかることにすればいいでしょう。燃料消費についてはややこしくなるので、従来通りのジャンプ1回分と同じ量で済むとします。そして増槽による「ダブルジャンプ」は禁じ手です(本来ジャンプ-1では行けなかった星に行けるようになっているので、それで勘弁してください)。

ヘクス数123ジ




力 1 4週間22週間32週間3週間41週間2週間51週間2週間3週間61週間2週間2週間
 ただ、隣の星まで2週間も4週間もかかるとなると、旅客輸送では冷凍(二等)寝台の活用が進みそうな気がします。その辺の調整を始めるときりがないので今回は見なかったことに……(大汗)。

 では、ここからは各星系の設定資料がどこから得られるかを解説していきます。前提として、『GURPS Traveller: Behind the Claw』には宙域内全星系の設定が(量の多少はあれど)掲載されているので、本稿では基本的に省略しています。また、星系名の頭に「◎」印がある星系は、マングース版『Spinward Marches』に詳細設定が載っています。そして文中、『Journal of the Travellers' Aid Society』はJTAS誌、『Travellers' Digest』はTD誌と略しています。


◎クロナー 0101 A6369A5-D Z 高技 高人 810 Zh F8V 星域中心
 ゾダーン領辺境方面の中心拠点として名高いですが、詳細な設定はと言うと『Behind the Claw』を経てマングース版『Spinward Marches』まで特にありませんでした。

ザマイン 0106 C897977-A 工業 高人 肥沃 223 Da M3V
マイア 0107 A665A95-C M 高技 高人 肥沃 110 Da K6V 国家首都 アスラン1割
 基本的にダリアン連合領内で設定の記載があるのは『Alien Module 8: Darrian』(およびマングース版『Alien Module 3』)ぐらいです。

◎ミリアム 0109 B9998A6-A B A 514 Im G6V
 ここには位置的にイメープ(B564500-B)を置くべきですが、マングース版『Spinward Marches』に詳細設定があるこちらを採用しました。

キャンドリー 0110 C593634-8 非工 R 920 Im F6V M3V ドロイン世界 太古種族遺跡
 同じドロイン世界としては隣接するアンドー(C695735-9)の方が有名ですが、これだけ重大な設定がありそうな星なのに公式設定はほとんど存在しません。一方キャンドリーはGURPSの『Alien Races 3』に惑星図を含む詳細な設定があるため、こちらを採用しました。

シパンゴ 0201 A886865-C Z 高技 肥沃 富裕 121 Zh G2V クロナー統治
 マングース版『Spinward Marches』に海軍基地の規模が大きいことが記されている程度で、全くと言っていい程に設定が整備されていない星系です。ちなみに『Expedition to Zhodane』によると、第二次辺境戦争前まではここに帝国の星域首都が置かれていたそうです。

ニンジャー 0202 A311666-C Z 高技 非工 非農 氷結 410 Zh A4V 軍政
 さほど設定はありません。マングース版『Spinward Marches』でもここは、「海軍基地の規模は哨戒艦や連絡艦程度が寄港する小さなもの」とだけ書かれている程度です。

ケリオン 0204 B554788-9 Z 農業 804 Zh G6V 星域中心 シェオル母星
 星系自体の設定はほとんど無いのですが、知的種族シェオルについてはGURPSの『Alien Races 1』に詳細があります。

ノーシー 0206 B4326BB-C M 高技 非工 非農 貧困 A 620 Da M2V
◎ダリアン 0207 A463955-G 高技 高人 225 Da G1V D ダリアン人母星 アスラン数%
 『AM8: Darrian』(およびマングース版『AM3』)を参照してください。ダリアン星系に関してはGURPSの『Humaniti』に惑星図が載っています。

カリン 0209 A767768-C A 高技 農業 富裕 A 410 Im G7V 軍政
 JTAS誌19号掲載のアンバーゾーン・シナリオ「Small Package」の目的地となっています。

ウォンスター 0210 B555741-7 N 農業 A 910 Im M0V
 Challenge誌38号掲載の「Boarding Party」の舞台…ではありますが、表題通りの乗り込み戦シナリオなので特に関係はありません。
(※なお、ミリアム、カリン、ウォンスターに関してはかつてTraveller Mailing Listsにてそれぞれ非公式設定が起こされています)

ファーリーチ 0301 A200400-B Z 真空 非工 A 415 Zh M3III M0V
 シナリオ『Tripwire』に記載されているのが最も詳しい設定です(『Behind the Claw』での記述とは相容れないため、1105年設定なら『Tripwire』の方を採用した方が良いでしょう)。

◎ジュエル 0302 A777999-C A 工業 高技 高人 肥沃 623 Im G7V
 色々な資料で言及されることの多い星ではありますが、設定の掘り下げという意味では弱く、シナリオの舞台となったのは『Tripwire』ぐらいです。

ユートランド 0303 C573464-7 非工 410 Na M0V アーデン統治
 シナリオ『Expedition to Zhodane』の序盤の舞台です。『Tripwire』にも記述があります。

◎アーデン 0304 B5549CB-9 高人 肥沃 A 110 Na G4V M5V
 「出国ビザ」型シナリオの元祖である「Stranded on Arden」(現在は電子版『Double Adventure 7』に収録)の舞台です。簡単ながら『Spinward Marches Campaign』『Tripwire』にも記載があります。また、宇宙港の様子についてはマングース版『Starports』に書かれています。

◎グラム 0306 A895957-C M 工業 高技 高人 肥沃 603 Sw F2V M2V 国家首都
ナルシル 0307 B574A55-A M 工業 高人 肥沃 224 Sw G6IV M0V
 GURPS版『Sword Worlds』に惑星図込みの詳細な設定があります(※同名のマングース版に惑星図はありません)。

カラドボルグ 0308 B565776-A S 農業 富裕 710 Im F7V M0V M4V
 ソードワールズ史に何度もその名が登場しますが、設定自体は『Behind the Claw』や『The Bowman Arm』に簡単にあるのみです(またGURPS版『Sword Worlds』には「カラドボルグ伯はルーニオン公の臣下」という記述があります)。またTD誌16号掲載のシナリオ「Sword of Arthur」の舞台でもあります。

◎ボウマン 0309 D000300-9 S 小惑 低人 831 Cs M0V
 マングース版『Spinward Marches』や『The Bowman Arm』など様々な資料に記載はありますが、GDW版『Beltstrike』が最大最良の情報源です(※マングース版『Beltstrike』は別物なので間違えないでください)。

タルソス 0310 B584620-A 農業 非工 202 Cs K9V
 GDWのモジュール『Tarsus』ひとつあれば全て事足ります。

ディノータム 0403 B739573-A N 非工 324 Im M2V
 JTAS誌22号掲載のアンバーゾーン・シナリオ「Ventures Afar」の起点となり、『Spinward Marches Campaign』内の「Hundreds of Worlds」でも訪れています。

◎ガーダ=ヴィリス 0405 B978868-A S 肥沃 512 Im M3V 傀儡政権
 傭兵シナリオの代名詞『Broadsword(ブロードソード)』で有名な星であり、『Spinward Marches Campaign』内の「Hundreds of Worlds」にも関わっています。
(※ヴィリス本星が無いので「傀儡政権」に設定を変更しています。ガーダって何?というツッコミを回避するために、いっそのこと初めから星系名をタヌース(Tanoose)にしてしまうのも良いかもしれません)

サクノス 0406 A775956-C M 工業 高技 高人 肥沃 801 Sw F9V M3V
 グラムなどと同様に『Sword Worlds』が最大の情報源です。またTD誌20号掲載のシナリオ「The Hiawatha Gambit(ハイアワサ・ギャンビット)」の舞台でもあります(※1117年設定なのでそのまま流用はできませんが)。

◎ミスリル 0407 E568000-0 肥沃 未開 001 Sw F4V 保護世界
 シナリオ『Mission on Mithril(ミスリルでの使命)』で有名な星です。先日マングース2版対応のリメイク版『Mission to Mithril』も発売されました。
(※なお、Xボートはここを「飛び越して」いることに注意してください)

ダトリリアン 0408 E427633-8 非工 801 Na M1V
 T20時代にAvengerから『System Guide 1: Datrillian』が出されていましたが、これが現在でも最大級の資料となっています。また、マングース2版の『Bowman Arm』にも簡単な設定紹介があります。

ウォルストン 0409 C544338-8 S 低人 肥沃 302 Cs M2V ヴァルグル7割
 惑星図を含む詳細な設定はマングース2版のシナリオ『High and Dry』(マングース初版時代は『Type S』)にあります(※惑星図を含まなければマングース2版の『Bowman Arm』にも記載があります)。またTD誌15号収録のシナリオ「Mistaken Identity」の舞台にもなりました。

◎パヴァビッド 0410 C6678D8-6 肥沃 A 701 Na K7V
 シナリオ『Divine Intervention』の舞台となる星です。神権政治の独立星系という興味深い設定なので採用しました。

イフェイト 0501 A646930-D B 工業 高技 高人 肥沃 800 Im K4V 太古種族遺跡
 過激派組織アイン・ギヴァーの活動が盛んなことで有名な星系ですが、意外にも詳細と言えるほどの設定はありません(各種資料を繋ぎ合わせるとそこそこの量にはなりますが)。JTAS誌掲載のアンバーゾーン・シナリオ「A Dagger at Efate(ダガーの帰還)」「The Birthday Plot」の舞台でもあります。

◎リジャイナ 0502 A788899-C A 高技 肥沃 富裕 703 Im F7V BD M3V アミンディー母星2割 ヴァルグル数% アスラン数%
 数々のシナリオ(『Imperial Fringe』『Kinunir(キンニール)』『Twilight's Peak(黄昏の峰へ)』『Secret of the Ancients』)の起点となり、まさに初期『トラベラー』の中心地だったこの星ですが、それが故にか設定の整備が進んだのは実はごく最近で、マングース版『Spinward Marches』を経て『Traveller5』の有料広報誌『Imperiallines』の第6号まで待たねばなりませんでした(※惑星図は先にDGPの『World Builders Handbook』に掲載)。

◎ダイナム 0503 D100535-A 真空 非工 201 Im A4V
 本来Xボートが通過するのはダイナムン(B674632-9)の方ですが、シナリオ『Across the Brightface(焦熱面横断)』で惑星図を含む詳細な設定があるのでこちらをねじ込みました。JTAS誌8号ではアンバーゾーン・シナリオ「Crystals From Dinom」も掲載されています。GURPS『Star Marcs』には傭兵チケットが掲載されています。

ランス 0505 A879533-B A 非工 710 Im F5IV M1V
 裂溝に浮かぶ交通・国防の要衝ですが、『Behind the Claw』以外にこれといった設定は載っていません。

アダビッキ 0507 A57189B-B N A 801 Im K8V M8V
 古くはJTAS誌20号掲載の「偶然の遭遇」で登場する女艦長の故郷として設定されていたものの、これまで近隣のイアニック(E560697-5)やウォードン(B756486-B)と比べて設定量では押されていました。しかしマングース2版の『Lunion Shield Worlds』でようやく詳細な設定が用意されたのです。

マータクター 0510 B562732-B S 110 Im G1V
 コンピュータゲーム『Star Crystal 1: The Volentine Gambit』の舞台となっていましたが、入手が容易な形で詳細な設定が用意されるのは『Traveller Compendium 2』収録のシナリオ「Spinward Fenderbender」までかかりました。

ヨーバンド 0601 C7C6503-9 非工 非水 220 Im M3V
 シナリオ『Shadows(シャドウ)』の舞台として有名です(逆にこれが設定の全てでもあります)。

シオンシー 0602 X000742-8 小惑 非農 R 714 Im F6V
 『Kinunir(キンニール)』収録のシナリオ「The Lost Ship」で訪れる星系です。レッドゾーン指定の理由は『The Traveller Book』では「小惑星帯の航行が危険なため」としていますが、それはもちろん表向きでしょう。『キンニール』やGDW版『Beltstrike』でも書かれていますが、この小惑星帯は太古種族の最終戦争で破壊された惑星の痕跡であり、『Regency Sourcebook』では遺物狙いの勇敢(もしくは無謀)な者が入り込んでいるとの記述があります。
(※ただ、この設定だと人口7は明らかに過剰です。1の誤植と拡大解釈してUWPを「X000100-8」と変更した方が良いかもしれません)

キーノウ 0603 C792348-7 S 低人 213 Im M3III M2V 刑務所
 これまでは岩だらけの特に設定のない星でしたが、突如としてマングース版『Prison Planet』にて惑星図まで用意された刑務所星系となりました。現在の公式設定(T5SS)には認められてはいませんが、今回の企画でのみそれを反映させています。

ルーニオン 0606 A995984-D A 工業 高技 高人 肥沃 810 Im G5V
 LSPの宙域本社やルーニオン経済大学の存在などで知名度は高いものの、意外にもこれまで設定がほとんど用意されたことのない星系です。

マラスタン 0608 D868764-5 S 低技 農業 富裕 A 924 Im K7V 保護世界
 『Mercenary(傭兵部隊)』では「部族抗争による内戦状態」だった星が『メガトラベラー』以降では「皇室御用達の自然保護星系」に変更されました…が、驚くべきことにGURPS版設定では「内戦状態」と「自然保護星系」の両方ともが有効とされています(水界8なので別大陸の話とすれば何とか…)。T5SSによる政治形態変更で内戦設定は使いづらくなりましたが、武闘派のレフリーがここを血生臭く演出しても決して設定無視ではないのです。

◎グリッスン 0609 A000986-F A 工業 高技 高人 小惑 非農 811 Im K9V
 最初にここの設定が載ったのはTD誌15号でしたが、現在ではGURPSの『Planetary Survey 4』が最も詳細な資料となっています。

ジェセディピア 0701 C775300-7 低人 肥沃 611 Im F4V ヴァルグル3割
 『The Traveller Adventure(トラベラー・アドベンチャー)』で有名な星ですが、同時に『Alien Realms』収録のシナリオ「Prosperity for the Taking」の起点でもあります。正式に発売こそされませんでしたが『Traveller: Liftoff』の付属シナリオ「Escape from Outpost 14」の舞台もここでした。またJTAS誌18号では、この星原産の生物として「キノボリクモジシ(Tree Lion)」が紹介されています。

ディアン 0703 C9A769D-8 非工 非水 A 202 Im K5V
 星系としての設定は『トラベラー・アドベンチャー』や『Behind the Claw』で簡単に触れられている程度ですが、GURPS版『Starports』でここのCクラス宇宙港が図解されています。

フューラキン 0704 A674210-D 高技 低人 肥沃 810 Im G3V
 シナリオ『Twilight's Peak(黄昏の峰へ)』で惑星図を含む詳細な設定が公表されています。

◎ライラナー 0705 A434934-F A 高技 高人 810 Im M2V
 オラヴやアルベラトラといった歴代皇帝の出身地であり、ライラナー工科大学で名高いこの星ですが、マングース版の登場まで星系自体の設定はほとんどありませんでした。マングース版『Starports』では宇宙港の様子も記載されています。

キャレイ 0707 C579221-9 低人 910 Im M2V M2V
 『Behind the Claw』以外に特に記述はありませんが、胞子植物で満たされた惑星という設定がSF心をくすぐります。

プリリッサ 0709 B985588-6 農業 非工 510 Im K4V
 近隣には傭兵チケット「Thunder on Zyra」のザイラ(B555448-7)や、太古種族の遺跡を持つトラルサ(B590630-6)があるのですが、それらを押しのけて採用したのはひとえにここが騎乗動物キアン(Kian)の原産地だからです。キアンについてはJTAS誌9号か、マングース2版の『Garden Worlds』を参照してください。

ロビン 0710 C00059C-C 高技 小惑 非工 A 202 Im M2V
 GDW版『Beltstrike』に設定が載っています。

◎ジュニディ 0801 B434ABD-B W 高人 A 310 Im F7V M2V ルルウィロリィ母星5割
 『トラベラー・アドベンチャー』に詳しい情報が載っており、『Alien Realms』収録のシナリオ「Prosperity for the Taking」の舞台でもあります。

アラマンクス 0802 B657974-7 高人 肥沃 210 Im G0V
 『トラベラー・アドベンチャー』に惑星図を含む詳細な設定があります。また、『傭兵部隊』収録の「The Dream Ticket(夢のようなチケット)」、JTAS誌24号掲載のアンバーゾーン・シナリオ「Embassy in Arm」の舞台でもあります。

◎アラミス 0803 A6B0556-B A 砂漠 非工 710 Im M2V
 『トラベラー・アドベンチャー』に都市地図を含む詳細な設定があります。

セレピナ 0804 B434456-9 A 非工 201 Im M2V
 『Behind the Claw』ですら1行で済まされた程に設定のない星ですが、一方で「アラミス侯はセレピナ伯の臣下(よってアラミス圏は実はライラナー公領)」という設定もあったりします。あくまで非公式ですがファン作成のウェブサイトもあるので、そこから設定を拝借するのも良いかもしれません。

◎ヴェインジェン 0805 C686854-5 低技 肥沃 富裕 520 Im G1V M0V チャーパー1割 研究基地γ
 シナリオ『Research Station Gamma(研究基地ガンマ)』で有名な星です。後に『Alien Realms』収録のシナリオ「The Casteless」の舞台にもなりました。

◎モーラ 0806 AA99AC7-F A 工業 高技 高人 112 Im F0V 宙域首都
 宙域首都でありながらGDW時代はほとんど手付かずだったこの星ですが、GURPSの『Behind the Claw』や『Starports』を経て、マングース版以降は一気に設定の整備が進みました。シナリオでは『Of Dust-Spice and Dewclaws』『A Festive Occasion』(『Traveller Compendium 2』に載録)の舞台となっています。

◎ネクシーン 0807 C97A443-8 S 海洋 非工 801 Im G9V M2V ネクシー人数%
 GURPSの『Humaniti』にて惑星図(といっても海ばかりですが)を含む設定が記載されています。

カタルル 0808 B552665-B B 非工 貧困 201 Im M0V M9V 軍政
 『Regency Sourcebook』などでカタルル基地がXボート等のパイロット訓練所として有名なことが記されていますが、それ以上の情報はこれまでありません。

◎トリン 0809 A894A96-F A 工業 高技 高人 肥沃 101 Im G0V
 現時点では『Behind the Claw』と『Spinward Marches』に設定を頼るのみです(合わせると結構な量になりますが)。


 低速宇宙船でどこまでも行けて、小惑星あり海洋惑星あり非水惑星ありと様々な環境も体験でき(無いのは砂漠ぐらいでしょうか)、数々の冒険のネタもぎゅっと詰め込んだこの「スピンワード・セクター」。公式にこだわりつつ美味しいところだけ頂いてしまおうとしたのですが、いかがでしょうか?

緊急レビュー:『Cepheus Light』

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 『Cepheus Light』は、Samardan Pressの『Cepheus Engine』(以下CE)の軽量化版としてStellagama Publishingが公開したものです。CEはMongoose PublishingのTraveller SRDのOpen Game LicenseによるSystem Reference Documentとして制作されたため、その派生ゲームを制作・販売することは契約上全く問題ありません(既にGypsy Knights Gamesから『Clement Sector: The Rules』が出されていますし、Moon Toad PublishingのPrint On Demand版『Cepheus Engine RPG』にもわずかに独自要素が含まれています)。

 では簡単ではありますが、『Cepheus Light』がCEからどう変わったのかまとめてみました(※速報性重視のため、見落とし・誤解の可能性があることをご了承ください)。

キャラクター作成能力値決定は基本ルールが「2Dを6回振って任意の能力値に割り当て」に、選択ルールが「筋力から順番に2Dを振って決定」か「2Dを7回振って最低値を捨ててから能力値に割り当て」となった。
キャラクターの出身世界が「高技術中央世界(High-tech core world)」「辺境入植地(Frontier colony)」「悪環境前哨基地(Inhospitable outpost)」「未発達後進世界(Primitive backwater)」の4つに簡略化。自動取得される技能は出身種別ごとに指定された3種類の1レベル技能の中から1つを選択するようになった。
「知力+教育度」の合計技能レベル上限が復活(後述する「成長ルール」のためか)。
キャラクター作成時に生存判定に失敗すると即死(失敗表も負傷表も無し)。選択ルールで負傷退職(恩典なし)に変更可。
「任官」判定が廃止されて「昇進(Advancement)」に一本化された(※部門に入った時点で「第0階級」です)。また、「昇進のない」部門は無くなった(偵察局は階級名が書かれていないだけで昇進は存在する)。
第1期に部門技能(Service Skills)に属する技能6個を0レベルで全て取得するルールは選択ルールになった。
部門退職後に別部門に再就職できるルールが選択ルールで用意された(マングース版にはあったがCEでは一旦廃止された)。
経歴部門は「工作員(Agent)」「陸軍(Army)」「宇宙鉱夫(Belter)」「入植者(Colonist)」「名士(Elite)」「海兵隊(Marine)」「商人(Marchant)」「海軍(Navy)」「海賊(Pirate)」「悪党(Rogue)」「学者(Scholar)」「偵察局(Scout)」の12種類。名士は従来の「貴族」の代替。
徴募(Draft)の対象には海兵隊・商人・海軍・偵察局に加えて「徴募免除(入植者になる)」「徴募忌避(悪党になる)」が設けられた。陸軍が対象ではなくなったことに注意。
一部部門の退職恩典(Mustering Out Benefits)に「知己(Contact)」が追加。商人の7番に自由貿易商船(Free Trader)が復活(※CEでは何故か廃止されていた)。宇宙鉱夫が「採掘船(Prospector)」を得られるようになった。「武器(Weapon)」を取る場合はTL12以下の重火器ではないものから選択するようになった(※CEではTL12以下の武器しかなかったのであえて付けられた措置)。
年齢効果(Aging)の選択ルールで技術レベル[どこの?]によるDM補正が可能になった(一方で借金して抗老化薬を使用するルールは廃止)。
選択ルールで「技能パッケージ」の概念をマングース版から輸入。技能が無くて「詰む」ことを防ぐために、事前に「探査もの(Exploration)」「軍事もの(Military)」「艦艇もの(Naval)」「貿易もの(Trading)」「犯罪もの(Criminal)」と用意された技能集の中から、これから行う内容に合ったものを選んでプレイヤーに分配する。

技能・判定技能判定は目標値8+固定ではなく、難易度に応じて目標値が可変するようになり、CEとは真逆に出目2は絶対失敗、出目12は絶対成功のルールが導入された。判定時間の概念は廃止。
難易度の「並(Average)」は従来の「8+」ではなく「6+」に引き下げられ、「難(Difficult)・困難(Very Difficult)・至難(Formidable)」はそれぞれ「8+・10+・12+」となった。(CEの基となった)マングース版以降ではメガトラベラーの時と比べて使えるDMの値が減ったにも関わらず目標値が上昇しており、判定が成功しづらいシステムになっていたのを表記の変更で補正したと思われる。
一部技能が統合された。〈機械技術(Mechanics)〉と〈電子技術(Electronics)〉(とおそらく〈反重力技術(Gravitics)〉)が統合されて〈機器補修(Repair)〉に、〈管理(Admin)〉が〈法律(Advocate)〉を内包、〈社交(Carousing)〉が〈賭博(Gambling)〉を内包、〈コンピュータ(Computer)〉が〈通信機(Comms)〉を内包、〈パイロット(Piloting)〉が〈航法(Navigation)〉を内包、〈無重力環境(Zero-G)〉は〈バトルドレス〉を内包した。〈運動(Athletics)〉が「無技能判定不可」と明言されたのも大きな変更点。
〈虚言(Deception)〉〈重火器(Heavy Weapons)〉〈調査(Investigation)〉〈偵察(Recon)〉〈隠密(Stealth)〉〈生存(Survival)〉が追加(再掲)され、〈言語学(Linguistics)〉が廃止された(言語は母語に加えて教育度DM個ほど習熟しているように変更)。
〈動物(Animals)〉〈射撃戦闘(Gun Combat)〉〈砲術(Gunnery)〉〈白兵戦(Melee Combat)〉〈科学(Science)〉は選択技能ではなくなり、関連する行動全てで利用できるようになった。同時に輸送機器系の技能も〈航空機(Aircraft)〉〈地上車(Driving)〉〈反重力車両(Grav Vehicles)〉〈船舶(Watercraft)〉に集約された。
成長ルールが導入された。1冒険(選択ルールで1セッション)で1~2経験値を得、技能を1レベル上げるのに向上後の技能レベルの10倍を必要とする(※1レベルを2レベルにするのに必要な経験点は20点)。また、10経験値で1つの言語を習得できる。

装備重量ルールは簡略化され、制限なしに持てる「物品数」は筋力個まで、制限付き(判定時DM-1、戦闘時行動数半減)でも筋力×3個までとなった(小物は無制限)。
ルール内で扱われる技術レベル(TL)は16までに拡張された。
社会身分度(SOC)ごとによる生活費が明確化された。規定の生活費を支払わないと社会身分度が低下(※メガトラベラーでもあったルールですが)。
防具のアブラット廃止。低TL帯の防具の防御力が下方修正。バトルドレスの名称が「パワードアーマー(Powered Armor)」に変更。TL5の悪環境防護服(Environmental Protection Suit)、TL13の改良型宇宙服(Vacc Suit, Advanced)、同じくTL13の「Weave(※遺伝子改良クモの糸で織られた軽量防弾服)」が追加された。
身体の機械化(Cybernetics)ルールが復活(※Stellagamaが無料公開していた『Cybernetics for the Cepheus Engine』を全面改稿した模様)。
戦闘薬(Combat Drug)が廃止され、覚醒剤(Stim)と入れ替え。
ロボットやドローンのデータ表記法が人体(キャラクター)と同じになった(※戦闘処理が車両戦扱いから対人戦扱いになったためと思われる)。
意外にも通信機やコンピュータ関係のルール・データが丸々削除。代わりにTL9の装備品として三次元拡張現実(holographic augmented reality)機能を備えた進化形スマートフォン「Omnicomm」や携帯コンピュータ「Omnicomp」が用意された。ちなみにTL10では手術で人体内に収められる(※つまり「電脳化」)。
車両のデータはVehicle Design Systemと互換性が無くなったかもしれない(解析中)。
白兵戦武器では、手斧(Axe)や杖(Staff)が追加された一方でフォイルが廃止。高TL帯ではスタンバトン(Stun Prod)や高振動剣(Vibro-Blade)追加。素手のダメージは1Dではなく筋力DM値固定(最低でも1)となった。
銃器ではプラズマライフルがTL16で追加されているのが目を引くが、重火器ではないのでダメージは6Dと控えめ。TL12までしかなかったCEと比べて、高TL帯には他にブラスター(ダメージ4D)やヘビーブラスター(同5D)が、低TL帯では軽機関銃(Light Machinegun)などが追加された。

戦闘不意討ち判定に〈偵察〉を用いるようになった。不意討ちに気づくのも〈偵察〉。攻撃側成功・防御側失敗の場合のみ不意討ちが成立。
行動は2D+〈戦術〉の値の高い順に行う。味方に〈リーダー〉持ちがいるなら判定の効果値(成功時に8を上回った数)をDMに。
自分の順番が回ってきたら「攻撃(Attack)」「突撃(Charge)」「鼓舞(Inspire)」「移動(Move)」「警戒(Overwatch)」の中から2つ(重複可)を選んで行動する。「攻撃」はその場で攻撃、「突撃」は20m(13マス)先から〈白兵戦〉攻撃を仕掛ける、「鼓舞」は〈リーダー〉で6+を出すと対象の次の判定にDM+2、「移動」は9m(6マス)移動するか伏せ(prone)るか伏せ状態から起き上がる、「警戒」は相手の動きに反応して割り込み行動するよう待機する(盾を構えるのも「警戒」)。
攻撃判定に用いるものが〈白兵戦〉〈射撃戦闘〉〈重火器〉技能レベルのみとなり、能力値DMを参照しなくなった(※これに限らず、『Cepheus Light』では原則的に技能レベルと能力値DMを組み合わせて判定することが無いようだ)。
距離による命中修正は「有効射程(Effective)/最大射程(Maximum)」の2段階(白兵戦距離を含めると3段階)に簡略化。全般的に当てやすくなった一方で「隠蔽や姿勢などによるDM合計が-4に達した対象には絶対当たらない(手榴弾を除く)」というルールも。
「オート」属性を持つ銃器は「単射(Single)」「点射(Burst)」「自動(Auto)」の中から選択して攻撃できる。「点射」は1戦闘でオート値回だけダメージにオート値を追加。「自動」は目標から6m以内にいるオート値と同じ数の対象にも追加攻撃できるが弾薬を3倍消費。
投擲攻撃には〈運動〉は使わず、敏捷力(短剣)や筋力(手榴弾)の判定で解決する。
回避(Dodge)や受け(Parry)は選択ルール扱いになった。
制圧射撃(Suppressive Fire)がルール化された。射撃者が指定した3m×3mの範囲内に存在(もしくは宣言後に通過)する者は全て即座に命中判定の対象となる。ただし判定に〈射撃戦闘〉は使えず、さらにDM-2を受ける。弾薬は1ラウンドにつき銃器のオート値の3倍を消費するが、弾薬が尽きるまで制圧射撃を続けられる。
ダメージ処理は「戦闘時の第一撃は必ず耐久力を削る。それ以降は筋力・敏捷力・耐久力のどれかを負傷者が選んで削る(溢れた分は別の能力値に割り当てる)」に変更された。また、1ラウンドに敏捷力以上のダメージ(装甲による補正前)を受けると転倒(Knockdown)が発生して伏せ状態になる(パワードアーマー装着者は敏捷力2倍扱い)。
ダメージ処理変更に伴い、負傷段階も調整された。1つの能力値が0になると1Dラウンド気絶(起きた際に半分回復)(※気絶せずに治療までDM-1を課す選択ルールもあり)。2つが0になると目標値8+で判定を行って失敗すれば即座に1D時間意識不明になり、成功しても1D分後に気絶する(起きた後の回復量は1のみ)。3つとも0になると死亡(…なのだが、Stellagama発行の『From the Ashes』で機械化やバイオテクノロジーによる「復活」ルールが用意されている)。
耐久力回以上に同一ラウンドで2度「移動」を行ったり、2日以上絶食するなどの理由で「疲労(Fatigue)」状態になったキャラクターは全ての判定にDM-2を受ける。疲労を回復するには8-耐久力DM時間がかかる(つまり耐久力DMが負のキャラクターは余計に時間を要する)。なお「疲労」状態は累積し、レフリーの裁量で気絶させられる場合がある。
弾薬の再装填のルールが見当たらないため、おそらく行動を消費せず装填できるのだと思われる。よって銃器データの装填数の項目は「弾薬1セットあたりの数」程度の意味しかなくなってしまった。
散弾銃の射程「20/20」はおそらく「20/50」ぐらいの誤植と思われる(そうしないと「散弾(Scattergun)」属性のルールが機能しない)。(※Revision 1で「20/40」に修正済み)

車両戦闘はダメージ処理が簡略化された。攻撃が命中した場合武器のAV(対車両)値個サイコロを振り(つまりAV値を持たない拳銃では車両を傷つけることはできない)、車両の装甲値以上なら通常損傷表を、装甲値の2倍以上なら致命的損傷表を参照する(…とルールには書いてあるが、おそらく輸送機器の「Light Damage」「Critical Damage」値との比較ではないか?)。
項目の表題はあくまで「Vehicles in Personal Combat」であり、車両同士の戦闘は追跡戦(Chase)のみを扱っている。

恒星間航行〈航法〉の統合に伴い、宇宙船の運用に必須の技能は〈パイロット〉と〈エンジニアリング〉の2つに(※0レベルでも問題ないが就職はできない)。船の規模や用途によっては、〈リーダー〉〈コンピュータ〉〈医学〉〈管理〉〈砲術〉〈射撃戦闘〉〈スチュワード〉も求められるのは従来と同じ。
ミスジャンプした場合は、まず宇宙戦闘の致命的損傷表を振ってからそれでも船が破壊されていなかったら距離1D×1Dパーセクのランダムジャンプとなる(※ただし必ず星系のあるヘクスに補正される)。
旅客運賃は「ジャンプ1回につき」ではなく「1パーセクにつき」に変更された。退職恩典のチケットが「(2パーセク以上の)ジャンプ1回分」と明言されているので誤植の可能性は少ないし、その価値は上がっている(※売却額については不明。売却不可?)。
CEで物議を醸した2人部屋ルールについては一等と二等の間に「相部屋船客(Steerage Passage)」が設けられる形で解決された(1人頭5000Cr.)(※ただしSteerageは一般的には「三等」と訳されがちな用語なので、今後定訳の見直しが必要かもしれない)。一方で「船荷・船客募集表」は従来のままなので、特等船客が一等船客を全て追い出してもまだ溢れるような状況で押し込むか(船側には何の得もないが)、NPCとして家族連れやカップルを登場させるフレーバーとしてしか使えないかと。
二等船客の蘇生判定は担当医師が〈医学〉で目標値5+の判定を行い、失敗したら即死するようになったためCEよりも危険性が上がっている(絶対失敗のルールもあるので〈医学-3〉の医師が居ても安心できない)。また、医師不在でも低温寝台自体が〈医学-0〉を持ち、乗客の耐久力をDMとして用いるとされている(※おそらく寝台が救命ポッドとして使用されるような場合を想定していると思われるが、本人の耐久力DMは医師がいる際にも適用して良いのではないか)。

宇宙戦闘1ラウンドは1000秒から6分に変更された。また距離の概念が廃され、車両戦闘と同様に追跡戦のみを扱うようになった。

世界の作成「人口」を決めるDM表で「水界0かつ大気3-」の項目が-2から-1に変更されたが、誤植の可能性も否定できない。
約40年間に渡って様々な議論を呼んだ「政治形態」の5番「封建的技官政(Feudal Technocracy)」は、単なる「技官政(Technocracy)」となった。
「宇宙港」を決める順番は「人口」の後ではなく「治安」の後となった(※大して影響はないとは思われるが、処理の途中で表記上の先頭に戻るよりも一通り終えてから先頭に戻る方が間違えにくいのかもしれない)。なお、A・B・Cクラスの宇宙港には軌道港が付随することが明言された。
貿易分類「荒涼(Ba)」は「人口・政治・治安が0」から「人口0」に変更された(※政治と治安を参照するのがこの荒涼だけなので、表を省略したかっただけなのかもしれない。説明文も「未入植の星系」となっているし)。
通信航路(Communication Lines)や貿易航路(Trade Routes)に関する記述がより明確化された(※正直CEではあやふや過ぎた)。

その他異星種族(Aliens)や超能力に関するルールは補遺(APPENDIX)扱いになり簡略化。
遭遇関係のルール(異星生物や宇宙船など)は全て省略された。

 2D6 Sci-Fi(Traveller SRD)システムは元々そんなに「重い」ゲームではないので、軽量化といってもそこまで「軽く」なった印象はないのですが、それでもルールの必要不必要を見極めて164ページにうまくまとめ上げているように思います。それでいて解説が必要な部分には懇切丁寧に例示を入れ(個人戦闘の例に8ページ、宇宙戦闘には7ページを割き、キャラクター作成に関しては何と6パターンも用意)、サンプル宇宙船にはそれぞれカラー挿絵を入れるなど、単体ルールとしての視認性や理解度も向上させています。
 個人戦闘のバランスは、ダメージ処理の変更や転倒ルール、制圧射撃の導入によって先手必勝感が強まっています。従来のルールではどうしても「待ち」の姿勢で相手の動きを見極める必要がありましたが、『Cepheus Light』では積極的に相手の数を減らしに行った方が良さそうです。「現実再現よりも活劇志向」であることを『Cepheus Light』は前文で訴えていますが、「活劇」らしさはこういうところでも出されているようです。

 世界設定は用意されていませんが、元祖トラベラー譲りの制作ルールは残されていますし、『These Stars are Ours!』『Hostile』といった2D6 Sci-Fi系の宇宙設定も多く発売されています。それこそ第三帝国(Third Imperium)を持ってきてもいいのです。
 総合的に見て、トラベラー系2D6 Sci-Fiシステムの入門編としてだけでなく、さらなる派生システムの核にも使えそうな可能性を秘めた良作だと思います。実際のところ「文書(Document)」だったCEから「ルールブック」として大きく進化していますし、何と言っても(その気になれば)無料で入手できるのがいいところです(笑)。

2018年のトラベラー界隈まとめ

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 来るべき『トラベラー50年史』(鬼が笑う)に向けて、備忘録代わりに2018年のトラベラー界隈の出来事(主に出版物)をまとめておきます。
グレゴリー・リーの死去で執筆者が絶えたかに見えたTraveller5にまさかの新作。『Gazelle-Class Close Escorts』はタイトル通りに懐かしのガゼル級巡洋艦をT5ルールとデッキプランで徹底解説。シリーズ化の計画もあるようだが続刊は未定。
ローレン・ワイズマン追悼本『GROGNARD: Ruminations on 40 Years in Gaming』の電子版も発売。投資者特典だったJTAS Online復刻版の一般販売は現時点ではなし。
歳末恒例?の電子版『Starter Traveller』無料セールが今年も行われる。なお、終了期日は全くの未定。

年初から立て続けに「Great Rift Adventure」シリーズの『Islands in the Rift』『Deepnight Endeavour』『Flatlined』、『Marches Adventure 2: Mission to Mithril』『Reach Adventure 5: The Borderland Run』とシナリオ群を展開したMongoose Publishing。2018年を今後の「第五次辺境戦争モジュール(仮)」に向けて足場固めの年と位置づけていたはずだったのだが、2月発売予定だった『Element Class Cruisers: Ship Builder's Blueprints』が11月までずれ込んでしまったことで、発売予定だった『Shadows of Sindal』『Behind the Claw』『2300AD 第2版』といった製品が軒並み無期延期に。
12月になってようやく『Naval Adventure 1: Shakedown Cruise』『Traveller Companion』が発売された。特に後者は2016年の第2版移行時から発売予告されていたものであり、2年越しでようやくお目見えとなった。待たせただけあってその内容の濃さから、発売後は販売サイトDrivethruRPGの総合売り上げ1位に君臨する大ヒットに。
実のところマーティン・ドハティ(通称MJD)1人しか執筆者がいない、という脆弱さが顕になったわけだが、ファンの間では「MJDが1人『しか』いない」ことに衝撃が走った(笑)(注:ドハティはその仕事の速さと量からクローン複数人説が以前から囁かれていた(もちろん冗談で))。
TAS(Travellers' Aid Society)では、かつて『Traveller Chronicle』誌に参加していたChristopher Griffenによるシナリオ『Iron Spine』『Tktk Convergence』『Makergod』、ティモシー・コリンソンの新作シナリオ『Ashfall』『Ashfall II: Under the Dome』、『2300AD』のコリン・ダンによる小物データ集「Edge of Space」シリーズ、El Cheapo Productsによるペーパーフィギュア集などが出されたものの、特筆すべきものは特になく(特筆すべきほど酷い製品はあったが…)。
「Foreven Worlds」シリーズのJon Brazer Enterprisesが丸1年の沈黙を破ってTASに復帰。『Single Ship: Gannet Armed Cargo Transport』を公開。
Cehepus Engine向けにコツコツとデッキプラン集を出していたPyromancer Publishingが、9月以降なぜかTASに鞍替え。
『Traveller Starter Set』がオリジン賞候補に選出されるも落選。
「Traveller: Liftoff」の資金調達に失敗してから活動休止状態だったドイツの13Mann Verlagが、8月に同じくドイツのPrometheus Gamesの傘下に入ることで合意(製品出荷再開は11月からだった模様)。今後、未発表のままだったMongoose版トラベラー初版翻訳製品を出してから第2版に移行する旨も公表。

依然として活発なCepheus Engine陣営。Moon Toad PublishingからはPrint on Demand対応の再編集版ルールブック『Cepheus Engine RPG』、拡張宇宙船設計ルール『Spacecraft Design Guide』が、Stellagama Publishingからは軽量版ルール『Cepheus Light』が公開されるなど、OGLを活かした派生ルールも出された。
Gypsy Knights Gamesの「Clement Sector」シリーズは、『Wendy's Guide 第5巻』『Manhunters』『Grand Safari』『Anderson & Felix Optional Components Guide』『Unmerciful Frontier』『21 Organizations 2nd Edition』『Hercules-class Heavy Freighter』と快調に出されたものの、同社が秋以降に新作ゲーム『Action Movie Physics』に注力したため、9月発売の『Hell's Paradise』の次が12月発売の『Artificial』と月刊ペースが崩れてしまった。
Zozer Gamesは昨年末開始の「Hostile」シリーズを展開。宇宙ステーション資料集『Pioneer Class Station』、異星生物設定集『Alien Breeds』、無料設定資料集『HOSTILE Technical Manual』、海兵隊資料集『Marine Corps Handbook 2215』、初のシナリオ『Hot Zone』、加えて同一時間軸の地球上を描いた独立ゲーム『Zaibatsu』が出された。Zozer Gamesは他に、『Fast Magic』『Archaic Firearms』『Low Tech Weapons』とCE用ファンタジー系資料集も出している。
Stellagama Publishingは看板の「TSAO」シリーズ自体はシナリオ『Signal 99』のみに留まり、『Trauma Surgery』『Cybernetics』『Uranium Fever』『Piracy and Privateering』、そして前述の『Cepheus Light』『Cepheus Light: Traits』といったルール面の開発・拡張に力を注いだ。
Baggage Booksが参入。星系内ジャンプ技術で太陽系の隅々まで冒険の舞台とした『Into the Dark』、異星人によって地球から追放された人類の末裔がTL5装備と謎の「ゲート」で銀河系を探検する『Outcast』といった独創的な設定集を発売。
また今年もMichael Brownによるショートシナリオの数々や、FSpace Publicationsによるデッキプラン集が出され、Azukail Games、CyborgPrime Publishing、Alphecca Publishing、Tangent Zero、Old School Role Playing、Verdigris Pressといった新規参入社も加わった。

Battlefield PressがKickstarterで募っていた『Spacecraft 2000 to 2100 AD (40th Anniversary Reprint)』が資金調達に成功する(ただし残り15時間で7%足りないというギリギリの状況だった模様)…が、Chepheus Engine版「Terran Trade Authority RPG」の制作には額が届かず(Starfinder版は制作決定)。ちなみに同社のCepheus Engine化資金募集は、2016年の「Double Spiral War(Expanded Edition)」、2017年の「Cold Cash War」に続いてこれで3連敗となった。
Mongooseが乗り込み戦ミニチュアボードゲーム「Vanguard: Boarding Actions in the Fifth Frontier War」の資金募集を始めるも、目標額に到達する見込みが立たずに5日後に中止。
Horizon Gamesによるデジタル版『Traveller Customizable Card Game』の資金募集が始まるも、こちらも目標額に到達する見込みが立たずに期限まで5日を残して中止。
2016年7月発売予定だった『Squadron Strike: Traveller』が、2年遅れでようやく販売にこぎつける。

隔月刊ファンジン『Freelance Traveller』の第90号(11/12月号)が、編集人の身内の不幸により欠番となる。第91号(2019年1/2月号)は12月29日に無事発刊。
エンプティ・クォーター宙域専門誌『Stellar Reaches』は2016年冬以来となる第27号(2018年春号)が発行されたが、なぜかファイルが22分割されるという謎の構成で困惑させられた(200頁越えしているとはいえ…)。
Robert Pearceによる非公式デッキプラン集『Starship Geomorphs』が話題を呼ぶ。特定の船・建物の内部構造を表すのではなく、モジュール単位で様々な用途のデッキプランを自由に組み合わせられるのが最大の特徴。
いつの間にか当サイトがWikipediaの「トラベラー(TRPG)」の項目に掲載されていた(笑)。

 2019年も各社で様々な新作が計画されており、まだまだ我々を楽しませてくれそうです。特に今年は日本語版(ホビージャパン版)発売35周年にあたる年でもあり、当方も頃合いを見て何かしらの企画を……できたらいいですねぇ(大汗)。

ぶらりTL11の旅(5) 『Hostile』

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「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない――」
 Zozer Gamesから出された『Hostile』は、「80年代SF」の世界観を再現したCepheus Engine(もしくはトラベラー系2D6システム)向け設定です。「80年代SF」も色々ありますが、この作品は中でも映画『エイリアン』『ブレードランナー』『トータル・リコール』といった作品のの雰囲気の再現を試みています。例えるなら暴走する資本主義、荒廃した環境、巨大企業の(特に日系の)支配、ヒトに並ぶ存在となったアンドロイド、冷笑的・虚無的な世の空気…といったところでしょうか。
(※ただ、『Hostile』の参考文献の中にはなぜか『宇宙船レッド・ドワーフ号』も入っているのですが…?)

 副題には「A Gritty Sci-Fi RPG」とあります。この「Gritty」とは、一般的には「(砂利の混ざったような)ザラザラした感じ」と訳されますが、転じて「現実的な/空想的ではない」という意味もあるそうです。理想で固めたファンタジーではなく、砂混じりのリアルさ。ここにも70年代と80年代の空気の違いが表れていますね。

 ちなみにこの『Hostile』は、Zozer Gamesがこれまで出してきた『Outpost Mars』『Orbital 2100』から繋がる未来史に位置付けられている…ように見えますが、これまでの作品を知らなくても全く問題のない作りになっています。強いて言えば一部の巨大企業が『Orbital』時代から内輪ネタ的に引き継がれている程度で、「過去」の出来事に齟齬すら見受けられるので平行世界線的な扱いかもしれません。
 では、プレイヤーが活躍する23世紀に至る道を簡単にまとめると……

 22世紀後半、超光速航法を手に入れた人類は太陽系周辺4パーセクの中核圏(Core Worlds)に進出しました。一方地球では、中国発の世界恐慌によって国連主導の国際協調体制は崩壊し、代わって(いち早く少子高齢化を技術革新で克服した)日本や巨大企業群が台頭していきました。
 23世紀に入ると、地球の石油はついに枯渇しました。その頃には核融合発電技術によって燃料としての用途は終えていたものの、石油化学製品の製造に影響が出たために世界は再び恐慌に陥りました。国家や企業は生き残りをかけて、太陽系内外の資源獲得競争に走っていきます。そんな中、地球は増えすぎた人口を支えきれなくなり、20世紀以降の環境破壊のツケが特に貧困層の人々を度々襲うようになりました(地球の大気コードは何と7です!)。
 かくして西暦2225年、人類は太陽系近辺の300星系を探査し終えましたが、開発が進んでいるのは中核圏のみに留まります。楽園のような星がないことから惑星植民は進展せず、地球の100億の民は宇宙からもたらされる資源で生活しています。そして太陽系から20パーセク以内の外圏(Outer Rim)、その外の辺境圏(Frontier)には企業の資源採掘基地や未知の星々が点在しているだけです。気がつけば宇宙には、太陽系を中心にしてアメリカと西欧と日本が宙域(Sector)を三分するという、新たな秩序が出来上がっていました――

 そんな宇宙をプレイヤーたちは旅人(Traveller)ではなく、労働者(Worker)として米国管轄宙域(American Sector)を渡り歩くことになります。なぜなら『Hostile』宇宙には快適な観光惑星なんかありません。宇宙とは、地球では食べていけない労働者(もしくは兵士や犯罪者)が命と引き換えにささやかな賃金を得る場でしかないのです(※といってもOTUのトラベラー協会に該当する「星間特使倶楽部(Star Envoy Club)」もありますが)。そのためか、輸送機器の項目にはトラックやフォークリフトといった従来無視されがちだった車両データが並んでいます。
 そして宇宙の過酷な環境は容赦なく襲ってきます。地球では考えられない気温や天候、危険極まりない異星生物、未知の植物や病原菌などなど…。それ以上に恐ろしいのはやはり「人間」でしょう。巨大企業は利益のためなら末端労働者をいとも簡単に切り捨てますし、信じていたはずの者にいつの間にか端た金で売られているかもしれません…!

 上記した通り、23世紀の国家像は過去のものとは大きく異なっています。国連なき後の世界は、宇宙を制した3大国家連合が牛耳る体制に移行しているのです。

米州共同体(CAS):南北アメリカ大陸のほとんどの国とイギリスが加盟し、主導権はアメリカが握っている。ブラジル領内に大気圏縦貫石油パイプライン(という名の軌道エレベータ)を持ち、資源・軍事・国力の面で23世紀をリードする存在。
西欧連合(WEU):ハイテク技術で先行するドイツを中心にして、西ヨーロッパの近隣諸国がかつてのEECのように再び集結した(※この世界のEUは21世紀初頭に崩壊したらしい)。
アジア太平洋協定(APP):中国崩壊後、日本主導で誕生した東アジア諸国による経済・軍事同盟圏。三分された中国からは新疆共和国と広東人民共和国が参加した(※オーストラリアやインドが加盟しているかは不明)。

 しかしそんな超国家ブロックも無視できない存在が23世紀にはあります。世界、そして宇宙の富を独占する「ビッグ7」と呼ばれる多国籍巨大企業たちです(さすがにかつてのSFように日系企業ばかりではないですが)。彼らはそれぞれ様々な子会社を束ね、まるでかつてのザイバツやケイレツのように製造・金融・流通といったあらゆる機能を自社内で備えています。さらに彼らは国連に代わって取引や紛争を治める機関である企業合同会議(UCC)を設置し、国際間・星系間の問題調停にあたっています。
 今や巨大企業の破滅は世界経済の破滅を意味し、政治家も企業の後援なくしては立ち行きません。では企業が暴走した時、はたして誰が止めるのでしょうか…?

 『Hostile』宇宙は、基本的に技術レベル(TL)12相当ということになっていますが、通信・武器・輸送機器技術がTL10に抑えられた反面、コンピュータ(AI)やロボット技術は特例としてTL15まで発展しています。そう、『ブレードランナー』ばりのアンドロイドがこの『Hostile』宇宙には存在するのです。もちろんロボットもドローンもあります。その一方で人体を機械に置き換える、俗に言う「サイバー化」技術は全く存在しないのが特色です(※サイバーパンクも「80年代SF」ではありますが)。そして反重力はありませんが重力制御技術はあるので、宇宙船内で「浮く」こともありません(高級車はホバーカー化されて空中を走行しますが、あくまで空力によるものです)。
 ちなみに、『Hostile』ではどの星系でも技術水準は均一であることから、星系データ(UWP)からTLの項目が削除されています。

 ただしTL12社会と言っても、OTUの〈第三帝国〉や他のATU作品群で想像されたような風景とは全く異なります。『Hostile』ではあくまで「80年代SF」で考えられていたような技術製品の描写が徹底されています。
 つまり映像の投影に使われるのは立体スクリーンでも液晶パネルでもなくブラウン管であり、それに表示される映像の解像度が低いどころか緑やオレンジ1色すらありえます。スマートフォンはおろか携帯電話すら普及しておらず、外出時に連絡を取ろうとしたら公衆電話を探す必要がありますし、一方でその公衆電話は相手の顔を見て話せる「ビデオフォン」化がなされています。タブレットもノートパソコンもなく、あるのは重量5kgの「ラップトップ・コンピュータ」です。記録媒体は光学ディスクで、しかもプラスチックの容器に格納されて「ミニディスク」と呼ばれています。
 このように、実際に80年代を生きた人でないとわかりづらいかもしれませんが、かつての人々が考え、映像化してきた「未来」がここにはあります。

 『Hostile』における宇宙船は、前述の通り反重力がないのでスラスター駆動ではなくプラズマ推進機関が通常ドライブとして採用されています。そして超光速航法である「ハイパードライブ」は、OTUのジャンプと異なり航行距離の上限がなく、燃料を消費しないことが大きく異なります。
 ハイパードライブの性能値はジャンプドライブと同様に、船体の体積とドライブの大きさとの比率で1~6の値を取ります。この値は、跳躍1回分の最大飛距離ではなく「1週間に何パーセク進むか」を表しているのが違います。例えばハイパードライブ性能4の船は20パーセク先の目的星系に5週間で着き、性能2の船なら10週間かかるわけです。
 加えて、超空間航行中は「ハイパースリープ(Hypersleep)」と呼ばれる冷凍睡眠下で過ごすのが絶対で、OTUの特等船客に該当する「エリートクラス席」でも同様です(※貨物扱い同然の通常席と違って「乗客」として接遇されるのがエリートクラスの利点)。なぜなら『Hostile』の超空間は人間の精神に深刻な悪影響を及ぼすので、その間は「冬眠」してやり過ごさないとならないのです。従って、乗員乗客が全員ハイパースリープに入ると船内の管理はAIやアンドロイドに任されます。
 なおトラベラーやCepheus Engineのルールとは異なり、『Hostile』では緊急蘇生を行わない限りハイパースリープで死亡することは無いとされています(演出上吐き気や目眩等の体調不良を起こすことはありますが)。
 また、ハイパードライブの応用で超光速通信が可能となっているのも特色です。軌道上のハイパーウェーブ衛星を介して1日1パーセクの速度で文字のやり取り(つまり電報)ができるのですが、それに掛かる費用が1文字で50ドル!…と、おいそれとは使えなさそうです。なお、OTUと同じく宇宙船を介した「郵送」も行われています。

 アンドロイドの話が出ましたが、『Hostile』宇宙ではこの数十年間で急速に進歩したのがアンドロイドです。初期のアンドロイドは単純な仕事しかできず、いかにもな見た目でしたが、最先端のアンドロイドはもはや人間と見た目が区別できない程にまで進歩しています(当然高額ですが)。そのため、『Hostile』では経歴部門の1つとしてアンドロイドが用意されています。「人権」のないアンドロイドの悲哀を(やり方次第で)シナリオに盛り込むことができるのも『Hostile』の魅力ですね。
(※OTUではありえなかった「美少女メイドロボ」も居そうな気がする…!(笑))

 現在、『Hostile』シリーズは以下の製品が発売されています。

『Hostile』(2017-12-09)
 基本設定集。遊ぶには『Cepheus Engine』ルール(推奨されているのは更に派生の『1970s 2d6 Retro Rules』)が必要だが、もちろん歴代の2D6『トラベラー』系ルール(つまりクラシック、メガトラベラー、マングース版)でも問題なし。設定・経歴部門・装備など全てがここに。

『Pioneer Class Station』(2018-01-08)
 パイオニア級多目的宇宙ステーションの解説・デッキプランに加えて、そこを舞台にした(GDW『デス・ステーション』型の)シナリオを収録。

『Alien Breeds』(2018-04-15)
 どこかの映画で見たような獰猛な異星生物たちを解説。また、それら異星生物に襲われるシナリオも収録。

『HOSTILE Technical Manual』(2018-06-07)
 『Hostile』宇宙の根幹を支える技術の数々を解説した無料設定集。ハイパードライブの原理から、なぜ『Hostile』宇宙の電子機器は皆80年代SF映画のように「分厚く」て「重い」のかまでを詳細に解説。

『Marine Corps Handbook 2215』(2018-09-27)
 表題通り、23世紀におけるアメリカ海兵隊の組織図・編成・装備などを解説。

『Hot Zone』(2018-10-23)
 シリーズ初のシナリオ単行本。灼熱の惑星に落下した超空間プローブを回収に向かったプレイヤーたちに、現地の環境が牙を剥く!

『Dirtside』(2019-01-26)
 野外活動のための設定集。惑星図の描き方の手引きや、悪環境や異星生物でプレイヤーを苦しめたり、そんな中で生き延びるためのルールや装備を収録。

 また、これらとは別に『Zaibatsu』が出されています。『Hostile』と同一時間軸の地球(それも東京)を舞台に、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』の再現を目指した、まさに古典的サイバーパンクRPGです。大都市の影でストリート・サムライと企業工作員(と書いてサラリーマンと読む)が暗闘を繰り広げ、電脳空間をハッカーが駆け抜けます(※でも前述した通りサイバー化技術はありません)。あくまで独立作品という扱いであり単独で遊べるよう設計されていますが、『Hostile』宇宙の設定を補強する意味でも無視できない一品です。
(※ちなみのこの『Zaibatsu』は、1994年から無償公開されていた作品のリメイク版でもあります)

 さて簡単にまとめてみましたが、このように『Hostile』には楽天的な〈第三帝国〉とは全く違う独特の魅力があります。定番の『エイリアン』や『ブレードランナー』風のシナリオもいいですし、海兵隊員となって現住生物と死闘を繰り広げる『スターシップ・トゥルーパーズ(宇宙の戦士)』ごっこもできます。逆に巨大企業による無謀な環境破壊を止めさせる『アバター』的なシナリオもできるでしょう。傭兵となってタウ・セチ星系の独立紛争に加担するのもありですし、辺境の資源採掘基地まで生活物資を運ぶ旧来の自由貿易商人的な話も可能です(ただしキャラクター作成時に恩典で宇宙船が貰える部門はないので、レフリーが背景設定として与える形となるでしょう)。
 危険で虚無的で闇が深い宇宙だからこそ、己の道を貫くプレイヤー・キャラクターの「パンク」な生き方が光り輝くのではないでしょうか。一風変わった、でも王道のSF設定を求める方にお薦めです。それにこう言うのもあれですが、人命が軽く扱われる世界観は、致死率の高さに定評のあるトラベラー系システムと相性が良さそうですしね(笑)。

日本語版発売35周年企画:トラベラー(ホビージャパン版) 正誤表

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 この正誤表は、ホビージャパン社より発売された『トラベラー』関連製品の、後に『Consolidated CT Errata v1.2(2015年3月31日版)』(Don McKinney著・編)にて修正された項目を日本語版に合わせて掲載したものです。現時点では『トラベラー』日本語版固有の誤植修正は手が回っておりません(逆に、原文に存在した誤植が日本語版で既に訂正済みになっているものもありますが、それは記載していません)。
 なお雷鳴社版『トラベラー』および、私自身が日本語版を所有していない物については正誤表を作ることができません。あしからずご了承ください。

◆トラベラー・スタートセット(1984年)
ルールブック Starter Edition: 1. Rules Booklet
19ページ:万能(追記)
 末尾に以下の文を追加します。「しかしながら〈万能〉技能は、別の技能と同等の価値があるわけではありません。医療現場で技能を使用しても〈医学〉技能があるわけではありませんし、緊急時に宇宙船を操縦したとしても〈パイロット〉技能を持っているわけではありません。」
(※〈万能〉で就職して給与を得ることはできない、ということでしょう)

29ページ:負傷と死・第3段落(明確化)
 いわゆる「最初の一撃」ルールは、キャラクターが各戦闘で受ける最初の致傷に適用されます。以前の戦闘で負傷していたとしても、「最初の一撃」から免れることはできません。

29ページ:負傷と死(追記・明確化)
 意識喪失、重傷などのルールは以下のようになりました。
「戦闘中に負傷したものの意識を失わなかった(肉体特徴ポイントがどれ一つとして0にならなかった)キャラクターは、軽傷とみなされます。そのキャラクターは戦闘終了後に傷ついた特徴ポイントと元の値の中間(※おそらく端数は切り捨て)に戻されます。例えば、元々筋力8のキャラクターが筋力4になるまで傷つき、かつ戦闘中に気絶しなかった場合、戦闘終了後に筋力は6に戻ります。そこからキャラクターを完全な状態に回復させるには、医師(医療キットを持った〈医学-1〉の者)による30分間の治療、もしくは3日間の休息が必要です。
 戦闘中に1つの特徴ポイントが0になったキャラクターは意識を失い、完全な状態に回復するには医師(医療キットを持った〈医学-1〉の者)による30分間の治療、もしくは3日間の休息が必要です(※意識を取り戻すのは10分後と思われます)。
 しかし2つの特徴ポイントが0になって意識を失ったキャラクターは、(※3時間後に?)意識を取り戻しても特徴ポイントはそのまま残ります(0のものは1になり、それ以外は現在の値のまま)。完全に回復させるには医療設備(※病院や宇宙船の医務室など)と〈医学-3〉を持つ医師による治療が必須であり、5~30日(5D日)を要します。」

30ページ:特徴ポイントによる効果(明確化)
 「致傷による特徴ポイントの減少も(中略)、攻撃面には影響を及ぼしません」とありますが、これは1回の戦闘のみに適用されます。キャラクターが負傷して戦闘を終了し、そのまま次の戦闘に挑んだ場合は致傷レベルが適用されます。このルールの意図は、特徴ポイントの減少の度に戦闘を滞らせないためであり、回復(もしくは治療)する前に負傷していないキャラクターと同じように次の戦闘でも戦えるということではありませんでした。

36ページ:折畳み銃床(追記)
 銃床が折り畳まれている場合、その武器はさほど命中精度が上がらなくなります(全ての距離でDM-1)。銃床が展開されているのなら修正はありません。

37ページ:再装填(追記)
 ボディピストルとオートピストルは、予め装填された弾倉と共に使用するように設計されています。空になった弾倉を再装填するためには1戦闘ラウンドを使用します。また、これら2つの武器の弾倉は相互利用ができません。

45ページ:船体(追記)
 文末に以下の文章を追加します。「800トンの船体でKクラスのジャンプドライブを配備した船はジャンプ-2が可能です。」

51ページ:政府指定商船(R型)(追記・修正)
 この船にはドライブ拡張用に15トンが確保されています(※ドライブDに変更するには10トンあればいいですし、Eに上げるには足りない上に性能は変わらないので明らかに過剰です)。建造費用は「MCr100.035」です。

51ページ:政府指定商船(M型)(追記・修正)
 この船にはドライブ拡張用に2トンが確保されています(※通常ドライブをDにしたところで加速度は変わりませんが…?)。建造費用は「MCr245.97」です。

52ページ:ヨット(Y型)(追記・修正)
 運べる積荷は「13トン」です。ヨットは商業運航をしない限り、スチュワードを必要としません。

52ページ:傭兵用巡航艦(C型)(修正)
 建造費用は「MCr429.804」で、建造期間は「28ヵ月」です。

61ページ:ガス・ジャイアント(明確化)
 「燃料補給には1週間が必要です」とありますが、ルールブック41ページにある「8時間」と矛盾します。この項目ではガスジャイアントまでの移動にかかる時間込みであると捉えるべきです。

66ページ:異星生物の攻撃力(修正)
 ここの例文では「歯」の致傷力が1Dとなっていますが、チャートブック8ページでは「2D」とされています。よってこの例でも2Dを適用すべきです。

76ページ:調査用機器(初版のみ追記)
 暗視ゴーグル(7)Cr.500:周囲の光を増幅し、着用者は暗闇でものを見ることができます(完全に光のない暗闇では使えません)。暗視(LI)ゴーグルは、夜や戦闘での悪視界という状況を緩和したり無視したりします。

77ページ:道具類(初版のみ修正)
 50kgの工具セットを削除。

チャートブック Starter Edition: 2. Charts and Tables
2ページ:TAS形式2(初版のみ修正)
(誤)"はじめに"の章で述べられた帝国暦を記入すること。
(正)タクテクス18号P.31「帝国の歴史」で述べられている帝国暦を記入すること。

5ページ:技能取得表(変更)
 「部門関係」の「海兵隊」「陸軍」「偵察局」の出目1で得られる「ATV」「エア・ラフト」を全て「輸送機器」に変更します。
(※この裁定により、単独で〈ATV〉技能を得ることはできなくなりました。ATVは〈キャタピラ型機器〉で動かすものとするべきでしょう。しかしながら陸軍の出目2で〈エア・ラフト〉を得られるのはなぜか変更されていません)

8ページ:武器/防具・距離相関表(修正)
 「短剣」の「近」の修正値は「+2」ではなく「-1」です。
 「フォイル」の「戦闘アーマー」に対する修正値は「-8」ではなく「-6」です。
 「ボディ・ピストル」の「致傷力」は「3D」ではなく「2D」です。
 「アブラット」に注釈が欠落しています。「アブラットにレーザーが命中する度に、DMが1減少します」(※おそらく「-7」が「-6」になっていくということでしょう)。

9ページ:肉体特徴ポイント・軽傷の項目以下(変更・明確化)
 意識喪失、重傷などのルールは以下のようになりました。
「戦闘中に負傷したものの意識を失わなかった(肉体特徴ポイントがどれ一つとして0にならなかった)キャラクターは、軽傷とみなされます。そのキャラクターは戦闘終了後に傷ついた特徴ポイントと元の値の中間(※おそらく端数は切り捨て)に戻されます。例えば、元々筋力8のキャラクターが筋力4になるまで傷つき、かつ戦闘中に気絶しなかった場合、戦闘終了後に筋力は6に戻ります。そこからキャラクターを完全な状態に回復させるには、医師(医療キットを持った〈医学-1〉の者)による30分間の治療、もしくは3日間の休息が必要です。
 戦闘中に1つの特徴ポイントが0になったキャラクターは意識を失い、完全な状態に回復するには医師(医療キットを持った〈医学-1〉の者)による30分間の治療、もしくは3日間の休息が必要です(※意識を取り戻すのは10分後と思われます)。
 しかし2つの特徴ポイントが0になって意識を失ったキャラクターは、(※3時間後に?)意識を取り戻しても特徴ポイントはそのまま残ります(0のものは1になり、それ以外は現在の値のまま)。完全に回復させるには医療設備(※病院や宇宙船の医務室など)と〈医学-3〉を持つ医師による治療が必須であり、5~30日(5D日)を要します。」

12ページ:ソフトウェア表(修正・追記)
 「通常回避」プログラムは上から順に「通常回避-1」「通常回避-2」「通常回避-3」「通常回避-4」「通常回避-5」「通常回避-6」で、「自動回避」にはレベルはありません。
 「ライブラリ」プログラムが抜け落ちています。容量は「1」、価格は「0.3MCr」です。

15ページ:宇宙船との遭遇(明確化)
 CおよびDクラス宇宙港に海軍基地が付属することはないので、遭遇表で14・15の項目を参照することはありえません。無いものとみなしてください。

16ページ:治安レベル表(訳語修正)
 数値6の欄、「禁じらるる」を「禁じられる」に修正します。

24ページ:貿易・投機表(修正)
 サイコロの目31の「石油化学品」の「量」は「6D✕5」です。

24ページ:貿易・投機表のDM(修正)
 「世界のタイプ」欄の「非農業世界」は「大気3-・水界3-・人口6+」です。

25ページ:個人用装備・輸送機器(初版のみ追記)
 「輸送機器」欄の価格単位は「(KCr)」(キロクレジット)、「小艇」欄の価格単位は「(MCr)」(メガクレジット)です。

26ページ:超能力距離表(追記)
 表の項目の最後(「惑星」の次)に「遠軌道」(50000km以上)を追加します。超能力コストはテレパシーが「7」、透視力が「5」、念動力が「-」、テレポートが「6」です。

シャドウ/ミスリルでの試練 Starter Edition: 3. Adventures
 修正はありません。

◆研究基地ガンマ(1984年)
スピンワード・マーチ宙域 Supplement 3: The Spinward Marches
 数々の修正を経た、最新版の星系データはここにあります

研究基地ガンマ Adventure 2: Research Station Gamma
 上記の通り、記載されている星系データは今では多くが修正されていることに注意してください。

1001人のキャラクター Supplement 1: 1001 Characters
異星生物との遭遇 Supplement 2: Animal Encounters
 修正はありませんが、これらのデータは1977年版の古いルールで作成されています。

◆メイデイ(1985年)
(※国際通信社版『メイデイ』でどう変更されたかはわかりません)
5ページ:目標変更(修正)
 1980年版ルールで変更されたこの項目は、大きくて重武装な宇宙船で問題を起こすことがわかりました。そのため旧ルールに差し戻します。
 「射撃するそれぞれの船は、射撃する前に射撃目標を予め割り当てておかなくてはなりません。攻撃する船のいずれかの武器が発射される前に目標が破壊された場合、その割り当てを変更するなら他の全てのDMに加えて-6の修正を受けます」

6ページ:誘導システム・自動追尾(追記)
 ミサイルの未来の位置が目標の現在位置に達したのなら、ミサイルは目標の未来位置の方向に自身の未来位置を変更します。

6ページ:爆発システム・接触爆発(修正)
 目標に与える損傷は「3倍」ではなく「2倍」です。

6ページ:爆発システム・近接爆発(修正)
 近接ミサイルは目標に「2倍」ではなく「通常」の損傷を与えます。また、近接爆発ミサイルはアンチ・ミサイル射撃の影響を「受けます」。

6ページ:標準ミサイル(修正)
 何の註記もない場合、標準ミサイルは「5G6」制限加速、自動追尾、「近接爆発」型とします。この型の価格は「Cr5400」です。

10ページ:補足ルール・ミサイルの製造・「一般的なミサイルを建造すると、つぎのような価格となります」(修正・明確化)
「制限加速(Cr300)、自動追尾システム(Cr1000)、近接爆発(Cr1000)タイプのミサイルを、G性能5(Cr2500)、燃料噴射能力値6(Cr600)で造れば、合計Cr5400。」
 また、『Special Supplement 3:ミサイル』の構築ルールが利用可能であれば、それは『メイデイ』のものより優先されます(※ただし雷鳴社版『Special Supplement 3:ミサイル』には、1986年以降に出された訂正が適用されているかわかりません)。

◆宇宙海軍(1985年)
(※所持していないため正誤表を制作できません)

◆黄昏の峰へ(1985年)
黄昏の峰へ Adventure 3: Twilight's Peak
 上記の通り、記載されている星系データは今では多くが修正されていることに注意してください。

デスステーション Double Adventure 3: Death Station
7ページ:L型実験船(修正)
 パワープラントは「D」、燃料タンクは「100トン」、非商業的運用で乗客は15人(相部屋なら35人)運べます(※専用室が20あって乗組員が5名なので、乗組員も相部屋にすることで35人分の部屋を確保できます)。荷物は13トン積めますが、そのうち7トン分の空間はドライブの拡張に回される場合があります。建造費用はMCr166.41(割引き済み)です。

帝国市民 Supplement 4: Citizen of the Imperium
4ページ~:技能と恩典(追記)
 「恩給」に関する項目が抜け落ちていました。以下の文章を追加します。

恩給  5期以上を勤め上げたキャラクターは、年金を受給する資格があります。   5期 Cr.4000   6期 Cr.6000   7期 Cr.8000   8期 Cr.10000   以降1期ごとに Cr.2000追加  ただし未開人、悪党、海賊の出身者は恩給を受けることができません。
11ページ:技能習得表(修正)
 「悪党」の「3.教育関係」の出目6で得られる「宇宙戦術」は、正しくは「戦術」です。

◆傭兵部隊(1986年)
傭兵部隊 Book 4: Mercenary
6ページ:兵科(明確化)
 海兵隊員が最初に選べる唯一の兵科は海兵隊歩兵科です。

7ページ:任務の大別(修正)
 「知力が8以上であったなら」とありますが、10ページに書いてある通り「教育度が8以上」が正しいです。

ブロードソード Adventure 7: Broadsword
6ページ:ガーダ・ヴィリス(明確化)
 帝国暦-121年に最初に入植したのは、現在のグングニル星系から来たソード・ワールズ人です。彼らはこの星を「ダヌウズ」と名付けました。しかし初期植民地は原因不明の理由で数十年後には崩壊し、隣接するヴィリス星系(※270年に入植され、286年に本国から独立)のソード・ワールズ人が再入植してきたのは290年になってからです。
 ちなみに470年に帝国は、ダヌウズが訛って「タヌーズ」と呼ばれるようになっていたこの星を含めてヴィリス周辺の星系を保護領化し、490年にはタヌーズが「ガーダ・ヴィリス(新ヴィリス)」に改称されました。やがて保護領は576年に正式に帝国に編入されています。
(※この設定整備により、現在のガーダ・ヴィリス住民が「もともとの植民者の直系の子孫」ではないにしろ、ソード・ワールズ人の子孫である可能性が高いことがより強調されるようになりました。また『Spinward Marches Campaign』でのみタヌーズへの最初の入植を「帝国暦240年」としており、正誤表もそれに倣っていましたが、「帝国暦-121年」という設定は他資料でも利用されているので退けました)

6ページ:ガーダ・ヴィリス(訳語修正)
(誤)結局、帝国偵察局基地の入り口のすぐ外でアイン・ギヴァー工作員が集団で見つかり、一網打尽にされるという意外な結末をむかえました。
(正)結局、帝国偵察局基地の入り口のすぐ外でアイン・ギヴァー工作員たちの遺体が発見されました。

11ページ:ブロードソード型傭兵用巡航艦(訳語修正)
 「ブロードソード級傭兵用巡航艦」とします。

15ページ:デッキプラン(明確化)
 このデッキプランには問題が多く報告されているそうです(※が、詳細は正誤表に記載されておらず、後の資料でも代わりになりそうな物は見当たりません)。

19ページ:宇宙海軍書式(修正)
23ページ:敵宇宙船(修正)
 このページに書かれているUSPデータは、1980年版『宇宙海軍』による修正を受けていません。

24ページ:ゾダーン海兵隊(修正)
 後の設定により、ゾダーン軍には海兵隊は無いことになりました。この項目は「国家防衛軍(Consular Guard forces)」と置き換えられます。

28ページ:ヴィリス星域(修正)
 最新版の星系データはここにあります。

ベテラン Supplement 13: Veterans
 修正はありません。

◆第五次辺境戦争(1986年)
(※所持していないため正誤表を制作できません)

◆砂漠の傭兵(1987年)
(※所持していないため正誤表を制作できません)

◆レフリー・アクセサリー(1987年)
 修正はありません。

◆アザンティ・ハイ・ライトニング(1987年)
(※所持していないため正誤表を制作できません)

◆偵察局(1988年)
偵察局 Book 6: Scouts
16ページ:星系作成チェックリスト(修正・追記)
 「12.C.」に「可住圏なら+2(出目が12なら大気A)」を追加。
 「14.C.」に「可住圏なら+2(出目が12なら大気A)」を追加。

17ページ:規模表(修正)
 「S:小惑星」の平均直径は「1000km」です。

18ページ:星系特徴表(修正)
 「主星」の「スペクトル」の「10」の結果は「G」です。
 「主星」の「規模」の「VI」および「VII」の結果を「V」とします。
 「伴星」の「規模」の5~11の結果を「V」とします。
(※『Traveller: The New Era』の正誤表により、準矮星・白色矮星を主星とすることはなくなりました。設定をそれに揃えるため、遡って修正が適用されています)
 「主星のスペクトル型と規模」の「DM+4」を「DM+5」とします。

20ページ:軌道分類表(修正)
 「巨星(規模III)」「準巨星(規模IV)」「主系列星(規模V)」の各表の「B0」および「B5」の欄を全て削除します。
(※そもそも星系特徴表でBが出ることがあるんでしょうか…?)

24ページ:小型世界(修正)
 小型世界(規模S)の直径は「(1D+1)✕100km」です。
(※しかし17ページの修正と明らかに矛盾しています)

リヴァイアサン Adventure 4: Leviathan
7ページ:エジルン星域(修正)
8ページ:未探査星系(修正)
10ページ:パックス・ルーリン星域(修正)
 後に修正された点が多いため、最新版星域データを掲載します。ただし、ヴェルスカー、ヴィオール、ブローデルの3星系に関しては本文記述と矛盾してしまうため、技術レベルを差し戻しました。
ウェイレイ 0902 E7B4776-8 非水 G Na パーン 0909 E649333-5 非工 G Cz ゴーゴン 1005 E590224-6 砂漠 非工 G Bl 刑務所 ベルガード 1106 C571321-9 M 非工 G Bl 国家首都 ヴェルスカー 1110 X574479-3 非工 R G Na カルダマール 1201 E745326-7 非工 G Na ネイベス 1202 D426579-8 S 非工 G Cs ? 1209 X775000-0 非工 R Na ゴレール 1305 D574756-7 農業 Na ガナルフ 1307 X500000-0 真空 非工 R G Na エルソン 1308 E541100-8 非工 貧困 G Bl セルショール 1402 X430576-6 砂漠 非工 貧困 R G Na ゴリア 1410 E422475-7 非工 貧困 Na カーベン 1502 X5555A9-2 農業 非工 R G Na アシュリーズ・ロック 1601 D100120-7 真空 非工 G Na ティアナ 1602 E568752-7 農業 富裕 Na ヴィオール 1605 D500401-1 真空 非工 G Na ブローデル 1608 X543200-3 非工 貧困 R G Na  エジルン星域には18の星系があり、総人口は1億7190万人。最大人口はウェイレイの8000万人で、最高技術レベルはベルガードの9です。なお、帝国市民はこの星域方面への不要不急の渡航は止めてください。 カンディア 1801 D4006A9-7 真空 非工 非農 G Na キッド 1810 B644779-5 S 農業 G Cs バントラル 1906 C886589-9 S 農業 非工 G Cs クリスリオン 2002 D583AA9-9 Im オルサシュ 2008 E541364-7 M 非工 貧困 G Se 軍政 シアン 2102 C5689B9-A W A Im ベレンガリア 2105 B566644-7 A 農業 非工 富裕 G Im センリス 2108 B671633-A F 非工 Se 国家首都 ドラダン 2202 A400369-B S 真空 非工 Im シアン統治 ペリアー 2203 A633966-B N 非農 貧困 Im シアン統治 パックス・ルーリン 2204 A402231-E N 真空 非工 氷冠 G Im 星域中心 ライスク 2304 X413730-7 非農 氷冠 R G Im カラズ 2306 E311959-A N 工業 非農 氷冠 A G Im マーゲン 2309 C543550-9 M 非工 貧困 Se アイラント 2402 BAC0789-9 砂漠 A G Im アレクシン 2405 B000420-C 小惑 非工 Im  パックス・ルーリン星域には16の世界があり、総人口は602億人。最大人口はクリスリオンの500億人で、最高技術レベルはパックス・ルーリンの14です。
(※原文に合わせて人口倍率や小惑星帯数、恒星スペクトル型は省略し、貿易分類は「クラシック」仕様に統一しました。なお、この本では「貿易・投機表」で使用しない貿易分類(海洋・砂漠・真空など)は記載しない傾向が見られたため、その点は改めています。国籍コードについては、Im:帝国、Na:非加盟、Cs:帝国属領、Cz:ゾダーン属領、Bl:ベルガード領、Se:センリス領、となっています)
(※基地コードMは、現在では「海軍基地機能を含まない軍事基地」の意味で使われています。そのため、T5SSで海軍基地を持っているセンリスにはコードF(軍事基地および海軍基地)を割り当てました。本文中ではベルガードにも「海軍」があることになっていますが、T5SSでは海軍基地がないことと、設定上の「海軍」としての規模から見て、コードFを割り当てる程でもないと判断しました)

10ページ:地球類(追記)
 世界データにおける「地球類」は、他の『トラベラー』サプリメントでは使用されていません。

20ページ:RPV(遠隔操作無人車両)(訳語変更)
 原文では「RPV Drone」となっている無人機であり、少なくとも車両ではないため、訳文を「RPVドローン(遠隔操作無人機)」とします。発行当時と異なり、現在ではドローンという言葉が普及したことによる対処です。

20ページ:通信用ジャンプミサイル(修正)
 項目全体を削除します。よって、17ページの「3/5.装填準備室」にある通信用ジャンプミサイルは全て「RPVドローン(遠隔操作無人機)」と置き換えます。
(※ルール上、100トン未満の「小艇」はジャンプできないと考えるのが自然です。この『リヴァイアサン』は巻末の著作者表記を見ても判る通り、GDW社ではなく英国のGames Workshop社の作品であり、設定解釈の齟齬が生じてしまったのです)

22~23ページ:ライブラリ・データ(修正)
 ここに記載されている艦船全ての『宇宙海軍』仕様のUSPデータは、1980年版『宇宙海軍』による修正が入る前のものです。

海洋世界の遊牧民 Adventure 9: Nomads of the World Ocean
 修正はありませんが、日本語版に同梱されていた「ソロマニ・リム宙域図」にはT5SSによる変更があるかもしれません。

◆トラベラー・アドベンチャー(1988年)
トラベラー・アドベンチャー The Traveller Adventure
12ページ:アラミス星域(修正)
 最新版の星系データはここにあります。

112ページ:政府指定商船(R型)(追記)
 日本語版ではR型商船の性能に関する記述が丸々省略されています。詳細については基本ルールブックか『商船と砲艦』を参照してください。

119ページ:テュケラ運輸・RT型長距離旅客船(修正)
 運航に必要なエンジニアは「5名」なので、乗組員は「13名」となります。また、運べる一等船客の数は「13名」です。建造費用は「MCr511.29」です。

119ページ:テュケラ運輸・AT型貨物船(修正)
 運航に必要な乗組員は「14名」で、「3名」の一等船客を運べます。建造費用は「MCr801」です。

119~120ページ:インペリアル運輸・TI型輸送船(修正)
 「ジャンプドライブ-W、通常ドライブ-W、パワープラント-W」を備え(加速度性能の変更はありません)、船荷は「1104トン」積めます。建造費用は「MCr748.8」です。

120ページ:インペリアル運輸・TJ型輸送船(修正)
 建造費用は「MCr808.2」です。

120~121ページ:アケラット運輸・ヘラクレス型貨物船(修正)
 船名は「ヘラクレス級大型貨物船(AH型)」に改められました。船荷は「4069トン」積め、建造費用は「MCr989.01」です。

121ページ:オベルリンズ運輸・CT型貨物船(修正)
 船荷は「413トン」積めます。運航に必要なエンジニアは「4名」なので、乗組員は「10名」です。建造費用は「MCr401.49」です。

131~132ページ:宇宙船・ヴァルグル海賊船(VP型)(修正)
 運航に必要なエンジニアは「2名」なので、乗組員は「9名」です。建造費用は「MCr184.86」です。

132ページ:ヴァルグル自由貿易商船(VA型)(修正)
 運航に必要な乗組員は、「パイロット兼航宙士、エンジニア、医者、砲手2名」の計5名です。建造費用は「MCr68.49」です。

132ページ:ヴァルグル探査船(VJ型)(修正)
 運航には「パイロット兼航宙士、エンジニア、医者」の「3名」が必要です。建造費用は「MCr47.43」で、建造に「11ヵ月」かかります。

豪商 Book 7: Merchant Prince
16ページ:技能取得表(修正)
 「自由貿易商船(の3つあるうちの一番右)」の出目5で得られる「スチュワード」を「パイロット」に変更します。
(※自由貿易商船の道に進むと〈パイロット〉を得られない問題に対する対処です。なお日本語版では「自由貿易商船」と書かれた項目が3つ存在しますが、これは原文では2行に渡って書かれていたものが1行に省略された影響です。元来「Free Trader」の項目の下には、左から順に「Life」「Service」「Business」と分けて書かれていました)

26ページ:貿易上の分類表(修正)
 コード「非水」の大気は「A-C」です(※なぜなら大気D・E・Fには通常の水があるからです)。

◆トラベラー・ロボットマニュアル(1989年)
ロボット Book 8: Robots
15ページ:車輪:サスペンション(修正)
 「少なくとも胴体容積の15%」ではなく、「少なくとも胴体容積の1.5%」です。

16ページ:移動装置:サスペンション(反重力、AC)(追記)
 エア・クッション(C)が利用できるようになるのはTL7、超重作業用反重力(D)が利用できるようになるのはTL9、重作業用反重力(E)が利用できるようになるのはTL10、軽作業用反重力(F)が利用できるようになるのはTL12です。
 註:表の数値は1ユニットに対するもの(本文を参照のこと)。

16ページ:移動装置:変速機(脚、キャタピラ、車輪)(追記)
 消費電力は「脚」が「0.4kW」、「キャタピラ」が「0.3kW」、「車輪」が「0.2kW」です。

17ページ:付属装置表(追記)
 利用できるテックレベルに関する記述が抜けていました。加えて「触覚センサーは全ての腕や触手に内蔵されています」を追記します。また、この表の数値は腕1本あたりのものです。
 腕:超軽 TL8    軽 TL7    中 TL6    重 TL5  触手:超軽 TL12     軽 TL12     中 TL11     重 TL10
18ページ:応用プログラム表(明確化)
 21ページにあるように「輸送機器」は特定の技能を選択する必要があるため、以下に示します。
 ATV(容量1、Cr300)、反重力機器(容量2、Cr400)を表に追加します。一番わかりやすいのは平面移動をするもの(地上や水上)をATVに、三次元移動(水中や空中、そして反重力)を反重力機器で動かすとするのです。

19ページ:キャタピラ:サスペンション(修正)。
 「少なくとも胴体容積の20%」ではなく、「少なくとも胴体容積の2%」です。

33ページ:著作者表記(追記)
 「Design:」に「Gary Thomas」を追加します。

101ロボット 101 Robots
 現時点で正誤表は制作されていません。

トラベラー書式集 Supplement 12: Forms and Charts
 日本語版に修正はありません。

(※『トラベラー・スタートセット』のルールブックとチャートブック、そして『偵察局』において、星系の水界度を「規模」と「大気」のどちらをDMとして決定するかという違いが生じていますが、現時点でどちらが正しいという結論は出ていないため本稿では深入りしないものとします)

スピンワード・マーチ宙域開拓史

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 太古の昔のスピンワード・マーチ宙域については、今もほとんどわかっていません。帝国暦300年から一世紀以上をかけて行われた第一次大探査(First Grand Survey)によって、スピンワード・マーチ宙域(とその周辺)は、帝国の中でも特に太古種族(Ancients)の遺跡が密集し、ドロインの居住星系が多いことが判明しています。宙域内の惑星には、ダリアン人など人類も含めた動植物が宇宙各地から移植されており、ヴィクトリアに見られるような最終戦争による大破壊の痕跡の数々もあります。しかし、これら断片的な証拠の数々が本当は何を意味しているのかについては、いまだに考古学者らによる仮説と推論の域を出ていません。
 少なくともはっきりしているのは、太古種族がもう宇宙のどこにもいないであろうということだけです。

 太古種族が姿を消してから30万年間、この宙域で大規模な活動をした種族はいないと考えられています(亜光速による恒星間航行を成し遂げた種族がいたとする説もあります)。
 やがてこの宙域の彼方でヴィラニ人が「星々の大帝国(第一帝国)」を興し、その反対側でゾダーン人も宇宙に乗り出すと、-2800年頃にはヴィラニ人がヴェインジェン(3119)に入植し、-2500年頃にはゾダーン人が現在のクロナー星域に小さな前哨基地をいくつか建設しています。しかし当時の両者は国家としてこの宙域に関心は持っておらず、入植の波は起こりませんでした。
 時は流れて第一帝国が「人類の支配(第二帝国)」に取って代わられると、-2000年頃にエシステ(2313)、ノクトコル(1433)、リオ(0301)、少し遅れて-1500年にはガルー(0130)に、第二帝国を飛び出したソロマニ人が入植を行っています。また、ジャンプ航法発見前の「地球人」が亜光速船で、-1450年~-1000年にかけてヴィクトリア(1817)、イレーヴン(1916)、アルジン(2308)に漂着しています。しかしこれらの入植者はいずれも、様々な理由で星々を渡るための技術を失っていきました。
 そんな中で最もこの宙域に影響を与えたのが、-1520年にダリアン人と接触してそのまま現地に「溶け込んだ」ソロマニ人です。ダリアン人の文化とソロマニ人が持ち込んだ科学技術が爆発的な反応を見せ、TL3だった技術力は500年後にはTL16に達していました。しかしそんな彼らの高度星間文明も、-924年の恒星災害によって瞬く間に崩壊してしまいます。
 静寂の時代が過ぎて-400年頃になると、アスラン領経由で大裂溝(Great Rift)を越えてきたソロマニ人がグラム(1223)に入植を行いました。彼らは瞬く間に周辺星系に入植地を拡大すると、「ソード・ワールズ人」なる独自の民族意識を固めていきます。一方で大災害から復興したマイアのダリアン人は-275年に再び宇宙に戻ると、周辺星系の同胞と再接触して恒星間共同体を形成していきます。距離の近い両者は-265年には接触していますが、お互いの性向の違いによって友好関係を築くまでには至りませんでした。
 これまでに挙げた人類勢力は、いずれも星系単独か星域規模程度のものに過ぎませんでした。スピンワード・マーチ宙域が巨大な恒星間国家に組み込まれるのは帝国暦の時代、つまり〈第三帝国〉の到来を待たねばなりません。

 帝国によるスピンワード・マーチ宙域の探査の歴史は、建国直後に旧都ヴランドを含むヴランド宙域を併合したことにより始まります。これにより回廊(コリドー)を越えてデネブ宙域へ、そして更なる辺境へと進出することが可能になったのです。探査を担った帝国偵察局(IISS)は、50年代にゾダーン人、ソード・ワールズ人、ダリアン人と相次いで接触を果たし、その後も休むことなくこの宙域を調べ続けていきました。
 一方で入植の方は、距離の近いコリドー宙域やデネブ宙域の開発を優先する保守的なヴィラニ系資本に代わって、冒険心に富んだソロマニ系の資本や人々が「飛び越えて」成し遂げていきます。今でもどことなくヴィラニ文化が香るデネブ宙域と異なり、スピンワード・マーチ宙域にはより遠方のはずのソロマニ文化が色濃く残っています。

 帝国人による入植の始まりは、帝国暦60年にメガコーポレーションのLSP社がモーラ(3124)に入植拠点を設営してからで、それが呼び水となり75年には早くもリジャイナ(1910)やその周辺への入植も開始されました。85年にはフォーニス(3025)が入植されるなど、モーラ~リジャイナ間の「スピンワード・メイン」を辿って入植は急速に進み、モーラは帝国辺境における通商の中心地となっていきます。
 そんな需要を見越して、後に宙域規模の大企業となるアル・モーライ社(Al Morai)が75年にモーラで創業されました。当初は星系内輸送に限っていましたが、120年には星系間の貨物・旅客輸送を開始しています。

 帝国は147年にソード・ワールズ諸国と、翌148年にはダリアン連合の発足に合わせてそれぞれ外交関係を樹立しています。両者は帝国との経済的な結びつきを深めていきますが、ソード・ワールズの常態化した政情不安も手伝ってか、より深まったのはダリアンの方でした。

 この時代、帝国中央を吹き荒れた宥和作戦(75年~120年)やジュリアン戦争(175年~191年)、ヴァルグル戦役(210年~348年)といった戦乱に比べれば、辺境は実に平和でした。特にヴァルグル戦役でコリドー宙域の安全が確保されたことにより、辺境の開発は大きく加速することになります。
 帝国暦200年~400年にかけて帝国政府は大規模な入植政策を実施し、250年にはリジャイナや近隣星系が正式に帝国に加盟しました。とはいえ多くの星々の技術水準はまだまだ低く、数少ない先進・高人口星系間を結ぶ通商路には危険がつきものでした。例えば、315年までスカル(2420)を拠点とした海賊団が脅威となっていたそうです。


帝国暦300年頃のスピンワード・マーチ宙域
(実線:国境 着色部:入植地 緑線:主要交易路
赤:帝国系 青:ソード・ワールズ系
白:ダリアン系 黄:人類系 緑:知的種族母星)


 310年代になってようやく、スピンワード・メインから遠いアラミス星域への入植が開始されますが、まだこの時はリジャイナ星域の開発の余波といった体でした。本格的な入植・開発は400年代にプレトリア星域(デネブ宙域)から大規模に行われてからで、今もタワーズ星団はその名残りでスピンワード・マーチ宙域内にありながらデネブのプレトリア公爵領のままです。
 現在のグリッスン星域方面の本格的な入植が始まるのも、300年代に入ってからです。これは、それまでに入植されたルーニオン星域を足掛かりに、ソード・ワールズの黙認を受けて彼らの領域を通過して行われました。当時のジャンプ技術では、その方が効率的だったのです。しかし星域の大半が帝国領となるのは500年代以降で、その後の開発も帝国の最果てにあることもあってか長年停滞します。

 余談ですが、380年頃からアスラン商人の間で、大裂溝を越えてスピンワード・マーチ宙域に向かう冒険航海が流行しました。なぜならここが、彼らの大好物である塵胡椒(ダストスパイス)の一大産地であることが広く知られたからです。踏破航路自体は-1044年に既に発見されていますが、もしより効率の良い航路が見つかれば、巨万の富を手に入れられるかもしれないのです。
 やがて彼らとの最初の商取引が、454年にロマー(2140)で行われたと記録されています。

 スピンワード・マーチ宙域への入植と帝国領の拡大が進むうちに、効率の良い統治機構改革も求められるようになりました。522年には宙域内の帝国領全てを一括統治していたモーラ公爵領を二分する形でライラナー公爵領が置かれ、その後も必要に応じて徐々に他宙域と同じく各星域に星域公爵が置かれていきます。
(※とはいえ現在もジュエル、ランス、ヴィリス、アラミスの各星域には星域公爵が置かれておらず、近隣の星域公爵が統治を兼務しています)
 555年には、ソード・ワールズ星域の3星系が飛び地状に帝国に加盟します。ここには-300年代からソード・ワールズ人と起源を同じくするソロマニ人が入植していましたが、本流の人々と違ってアングリックを母語としていたために文化面で断絶が起き、-102年にはソード・ワールズから独立状態となっていたのです。
 そして589年、スピンワード・マーチ宙域は隣接するデネブ、トロージャン・リーチ、レフト(の一部)と共に、帝国第7の領域となる「デネブ領域(Domain of Deneb)」に組み込まれました。この領域は星々の並び具合から「鉤爪の向こう側(Behind the Claw)」などとも呼ばれています。
 しかしながら既に存在する他の領域と異なり、統治者たる「デネブ大公(Archduke of Deneb)」は初めから空席のままです。帝国政府は辺境の変事に即応するために新たな行政区画を設定したのですが、大公を指名する前に事態が動いてしまったのです。

 200年代から続いた帝国領拡大の波は、500年代に入ると一つの壁に当たります。この頃になると帝国人の入植地域はクロナー星域を越えて隣のフォーイーヴン宙域にまで到達し、必然的にゾダーン人の勢力圏と接触、一部では入り交じる格好になっていました。両者の社会・文化の違いから摩擦が生まれ、緊張は次第に大きなものとなっていきました。
 ゾダーンは帝国を牽制するために、500年代初頭に最初の「外世界同盟(Outworld Coalition)」を結成しています。この同盟にはヴァルグルの一部やソード・ワールズの連合海軍が参加しました。ヴァルグルの間にはかつてのヴァルグル戦役を発端とした反帝国感情があり、ソード・ワールズでも470年に帝国がヴィリス星域の大半を保護領化したことで反発する声が高まっていたのです。念のためダリアン連合にも加盟を打診はしましたが、元々ダリアン人は(大災害を知りながら助けなかった)ゾダーンに不信感を抱いていたのと、帝国との良好な経済連携を保つために中立を採りました。

 そして589年、デネブ領域が設置されたその年に、ゾダーン軍がフォーイーヴン宙域の帝国入植地を一掃したことで「第一次辺境戦争(First Frontier War)」が勃発します。同時にかねてからの計画通りに同盟の艦隊が帝国国境を襲撃する手筈になっていたのですが、ヴァルグルの攻撃は大失敗に終わり、ソード・ワールズ諸国の足並みが揃わなかったために呆気なく外世界同盟は瓦解してしまいました。とはいえ帝国が戦争を予期しておらず、中央との連絡に時間を取られたことで対処が遅れ、結果的にゾダーンは独力で戦争を続けることができました。
 ところがゾダーン軍による領域侵犯事件と、593年にソード・ワールズ軍がアントロープ星団を占拠したのを切っ掛けに、ダリアン連合が帝国側で対ソード・ワールズ戦線に加わったことで戦いの流れが変わりました。
 帝国暦604年、スピンワード・マーチ宙域艦隊の大提督オラヴ・オート=プランクウェル(Grand Admiral Olav hault-Plankwell)は、ジェ・テローナ(2814)を襲ったゾダーン・ヴァルグル混成艦隊をジヴァイジェ(2812)で捕捉して壊滅的な打撃を与えました。しかしながら、この戦いで帝国海軍も深刻な打撃を受けたために双方は戦争継続が不可能となり、停戦条約に調印することとなります。
 条約によってゾダーンはクロナー星域に橋頭堡を確保し、一方で帝国はフォーイーヴン宙域の入植地を失ったものの、帝国に未編入だったスピンワード・マーチ宙域の入植地を領土として獲得します。この事由をもってプランクウェル大提督は帝国の勝利を宣言し、戦争に援助を行わなかった帝国政府を強く非難しました。大提督は自ら宙域艦隊を率いて帝都キャピタルに「凱旋」し、皇帝ジャクリーン1世への「謁見」を要求しました。抵抗を排除したオラヴは最終的に「皇帝暗殺規約(Right of Assassination)」に則って自ら皇帝にとどめを刺し、そのまま即位を宣言しました。しかしそれは、帝国を吹き荒れた内乱(604年~615年)で誕生した「軍人皇帝(Emperors of the Flag)」の最初の一人となっただけでした。609年には参謀長だったラモンが反旗を翻し、その後は日常茶飯事のように分裂と抗争と簒奪が繰り返され、栄光のスピンワード・マーチ宙域艦隊もいつしかコア宙域の塵と成り果てていきました。
 ちなみに、オラヴは今でも故郷スピンワード・マーチ宙域で人気があり、未命名のままとなっている第268区を「プランクウェル星域」にしようとする動きも一部であります。

 609年、ゾダーン・ヴァルグル・ソードワールズによる外世界同盟が再び結成され、入念な準備の末に615年にゾダーン艦隊によるシパンゴ(0705)攻撃から「第二次辺境戦争(Second Frontier War)」が勃発しました。核方向国境には戦力の増強目覚ましいヴァルグル艦隊が、ヴィリス星域にはソード・ワールズ軍が、ジュエル星域やダリアン領へはゾダーン軍が侵入しました。
 しかし、過去の戦争から学んでいたダリアン人はアスラン艦隊を正規軍として組み込むなど国防力を強化しており、加えてダリアンが「いくつかの星を超新星化して抗戦しようとしている」という噂が流れたため、ゾダーン軍はこの方面から撤退しました。
 開戦の報を受けた当時の皇帝クレオン5世は、ライラナー公爵アルベラトラ・アルカリコイ(Duchess Arbellatra Khatami Alkhalikoi of Rhylanor)を宙域艦隊大提督に任命して迎撃を命じました。彼女はライラナー公爵位を継承した翌年の603年に、自領の惑星防衛艦を率いてゾダーン艦隊に勝利して既に頭角を現していましたが(この功績によりプランクウェル大提督から海軍大佐の階級を授けられています)、開戦当初の貧弱な宙域艦隊で外世界同盟の攻勢を食い止め、逆に後方撹乱で時間を稼いだことからも非凡な指揮能力が伺えます。そして3年間の忍耐の末に弩級戦艦の量産とデネブ宙域艦隊の半数に及ぶ増援を得て、ようやくアルカリコイ大提督は膠着した戦争を620年に決着させることができたのです。
 休戦条約によって帝国は要衝シパンゴを含む4星系をゾダーンに割譲し、ケリオン・ヴィリス星域の11星系が中立化されました。一方で帝国は戦争末期にソード・ワールズ星域の11星系を占領しましたが、これは単にソード・ワールズ人の反帝国感情を増幅しただけで、わずか5年で撤収の憂き目に遭っています。
 アルカリコイ大提督は戦後、かつてオラヴが行ったように艦隊を率いて帝都を目指し、相変わらず内乱を続けている「自称」皇帝を打倒しました。しかしオラヴと異なり、自分が新皇帝には即位せずに一歩引いた「摂政」となって、前皇朝の正統な継承者の捜索を命じたのです。
 結果的にその愛国的な行動は内乱に倦み疲れた貴族や帝国市民の好感を得られましたが、その裏で彼女は皇位指名の権限を握る貴族院(Moot)での支持基盤を抜け目なく固めていきました。そして7年間に及んだ継承者探しが空振りに終わったことを受け、629年に貴族院は摂政アルベラトラに新皇帝となるよう「要請」を行ったのです。
 「皇帝」アルベラトラの治世は内乱で傷ついた国力を蘇らせ、現在まで続く「アルカリコイ朝」の基礎を固めました。その中でも最大の功績は帝国の隅々まで専用の高速船で結ぶ「Xボート網(X-boat Network)」の整備で、これにより懸念だったスピンワード・マーチ宙域と帝国中央との通信時間は(当時はジャンプ-3であっても)大幅に短縮されました。またこの内乱を境に宙域公爵の強大な権限は弱められ(※この影響でデネブ大公の指名が有耶無耶になったとされます)、帝国海軍の編成上からも宙域艦隊は姿を消しました。「大提督」の称号も過去のものとなり、やがて「総司令官」ぐらいの意味を持つ慣用句に成り下がりました。
 そして、アルベラトラは功臣に対する恩賞を忘れてはいませんでした。海兵隊を率いて大提督不在の宙域の安定に尽力したリジャイナ侯爵カランダ・アレドン(Marquis Caranda Aledon of Regina)は戴冠翌日に初代リジャイナ公爵に、第二次ジマウェイ会戦で奮闘したアラミス男爵マローヴァ・オート=ハヤシ(Baroness Marova hault-Hayashi of Aramis)は631年に初代アラミス侯爵に叙せられています。

 600年代以降、超能力研究所は帝国各地で認知を広める宣伝活動を行っていましたが、それが実を結んで650年頃には超能力ブームが到来し、700年代後半にはそれは頂点に達します。学問としての超能力研究は大きく進み、人々は超能力に親しみました。ところが790年代になると各地の研究所で金銭的・倫理的醜聞が次々と発覚し、帝国市民の超能力への感情は一気に悪化してしまいます。それは800年から826年にかけて「超能力弾圧(Psionics Suppressions)」と呼ばれる国家規模の集団ヒステリーにまで拡大し、スピンワード・マーチ宙域でも数々の悲劇と少なからぬ亡命者を生みました。リジャイナや各地にあった超能力研究所も勅令で全て閉鎖されています。
 そしてこの結果、国是として超能力への態度が真逆となった帝国とゾダーンが対立を深めていくのは必然でした。

 帝国政府は610年に、将来の帝国領化を見据えて「第267区・第268区」を未開発の最辺境に設置しましたが、740年になって皇帝パウロ1世の号令で第267区改め「ファイブ・シスターズ星域」の本格的な開発が始まりました。しかし800年には海軍による異例の星域統治体制が布かれ、802年にはドロインの母星候補であるアンドー(0236)などが偵察局によって進入禁止とされました。このような事情もあり、何よりも飛び地という要因も重なって、民間による開発はこの300年間ほぼ停滞しているのが実情です。アル・モーライ社による定期便就航も951年からと遅れています。
 また、第268区の方の開発は941年になってようやく解禁されました。こちらは既に親帝国・反帝国・中立様々な立場の星系が点在しており、複雑怪奇な近隣関係もあって帝国領化はなかなか進展していません。むしろ、長らく捨て置かれていた感のある隣の現グリッスン星域が、「新天地への玄関口」として見直されたことの方が影響は大きかったようです。

 約350年に渡って続いていた不安定ながら平和な時代も、帝国暦979年にとうとう終わりを告げます。ケリオン星域方面で影響力を強めていたゾダーンに対する国境付近での小競り合いが全面攻勢を招き、「第三次辺境戦争(Third Frontier War)」は始まりました。まずゾダーン軍は(過去の辺境戦争と同じく)リジャイナ星域の重要な星々を陥落させてジュエル星域を孤立させる戦略を採り、それに対応して帝国はリジャイナ戦線に増援を送りましたが、その戦力は十分ではありませんでした。というのも、当時の皇帝スティリクスは不穏な情勢であったソロマニ・リム宙域の方を注視していたのです。
 その後ゾダーン軍はヴィリス・ランス星域方面で突出した攻勢に出て、全力でライラナー(2716)陥落を目指しました。計画通りにジェ・テローナを落とし、そこを拠点にポロズロ(2715)も奪ってライラナー包囲網は更に強まりましたが、帝国軍がリジャイナ方面から引き揚げたことでライラナー戦線は膠着し、どちらも決定的勝利は得られませんでした。やがて後方からの増援が到着して、帝国軍はゾダーン軍を押し返すことに成功します。981年には両軍の勢力圏は開戦前の国境線とほぼ同じ状態にまで戻っています。
 その後は両軍ともに惑星の奪い合いよりも通商破壊が主な戦術として採用されました。このため一般社会への影響は深刻となり、市民の厭戦気分は海軍の作戦に影響を与えてしまうほどでした。983年には、849年に帝国属領となったばかりのマージシー(1020)が(この戦争には不参戦の)ソード・ワールズ連合に鞍替えしています。
 結局、ゾダーンに有利な休戦条約が986年に結ばれました。ゾダーンはジュエル・クロナー・ケリオンの各星域で新領土を獲得し、帝国が国境線を後退させる形で非武装緩衝地帯が設けられました。この力の空白域には同年、アーデン(1011)を首星とする中立国「アーデン連邦(Federation of Arden)」が誕生し、1006年にユートランド(1209)とジルコン(1110)を版図に加えています。
 そして事実上の敗戦の余波は帝国中央にも及び、責任を取ってスティリクス皇帝は長子ガヴィンへの譲位を余儀なくされました。
(※この政変劇はDGP版設定のみ「市民の不満を背景にしてディエンヌ将軍率いる近衛兵がクーデターを決行し、隠れていた皇帝に銃を突きつけて譲位を強いた」とあります。皇室にとっては不名誉な出来事のため、表沙汰にされなかったのかもしれません)

 その新皇帝ガヴィンは991年、モーラ公の働きかけによって現在のグリッスン星域の首都をティレム(2233)からグリッスン(2036)に遷す勅令を出します。これには、先の辺境戦争においてグリッスンが資源産出や経済の面でより戦争に貢献しており、宇宙港規模や人口もティレムを上回ったことが理由とされています。

 さて、ロクサーヌ・オベルリンズ(Roxanne Oberlindes)によって487年に創業されたリジャイナの企業「オベルリンズ運輸(Oberlinds Lines)」は、海軍関係の仕事を受注して成長したものの辺境戦争の度に巨額の損失を出してしまい、とうとう株主たちは990年に当時の社長アマンダ・オベルリンズ(Amanda Oberlindes)を辞任させ、結局その4年後には同社は廃業に追い込まれました。
 ところが破産手続き中に、8隻の貨物船が実はオベルリンズ家の私有財産であって、会社に貸与しているだけだったことが判明します。この結果、オベルリンズ家はアマンダと息子エリックの2代に渡って「家族経営の自由貿易業者」として生き延びます。
 そして1049年、オベルリンズの名を広く知らしめた「エミッサリー号事件」が発生します。弱冠22歳のマーク・オベルリンズ(Marc Oberlindes)が、官僚機構の間隙を縫って帝国海軍の巡洋艦を「武装解除せずに」払い下げさせ、それをすぐさま国境外に出すことで合法化してしまったのです。鮮やかな(詐欺的な)手腕を見せた彼はそれから16年間、巡洋艦エミッサリー号を旗艦とする通商艦隊を率いてグヴァードン宙域のヴァルグル国家との間に新規の交易路を開拓し、事業を拡大させていきます。

 1055年には、モーラ公デルフィーヌ(Delphine Adorania Muudashir, 15th Duchess of Mora)がスピンワード・マーチ宙域公爵に任命されました。そして彼女の老獪な政治運営は、この宙域の中心地としてのモーラの地位を更に押し上げました。
 ちなみに今年で126歳になるモーラ公は、いまだに現役です。
(※おそらく「初代」宙域公爵です。ただし、最新の資料では「宙域公爵はいないが、実質モーラ公が代々担っている」と、GURPS版設定以前に一般的だった解釈が明言されています。よって今後、この1055年の出来事は幻になる可能性があります)

 1082年、帝国海軍が停戦条約で中立化されたクォー(0808)に基地を建設したことが偶発的事件に繋がって「第四次辺境戦争(Fourth Frontier War)」は始まりましたが、これまでと違って双方が開戦を全く予期していなかったことから国境付近の小競り合い程度に留まり、最終的にイリース(1802)~メノーブ(1803)間の深宇宙における「二星間の戦い(Battle of Two Suns)」で帝国軍が辛勝を遂げたことでわずか1年半で休戦に至りました。帝国はゾダーン国境沿いの2星系を失いましたが、代わりにソード・ワールズ連合からマージシーを奪い返しました。
 あまりに早く戦争が終わったため、中央政府が開戦を知ってから送った増援と行動指令は全く間に合いませんでした。この教訓から帝国は軍制を改革し、国境付近の重要星系に最新鋭の艦船を配備して守りを強化する一方、それ以外の星系防衛力は削減して後方に振り向けました。つまり、増援が到着するまで国境防衛艦隊が敵の前進を遅らせることを戦略上明確にしたのです。同時に、ストレフォン皇帝は辺境での戦争に素早く対処するために宙域公爵の権限を強化し、「宙域艦隊」も復活させました。

 ヴァルグル交易と第四次辺境戦争での後方輸送で莫大な利益を得たオベルリンズ家は1084年に、もはや無理のあった「家族経営」の建前を捨てて「国境間貿易企業」としての勅許を再び帝国政府から得ました。かつて会社を追われたアマンダの孫であるマークの辣腕によって、こうして「オベルリンズ運輸」が復活したのです。そして法的には繋がりはないものの、旧会社と同じ社章を掲げました。それは、祖母や父が自家用貨物船に目立たぬよう塗装し続けていたものでした。
 1101年の時点で同社は100隻以上の船を抱えるリジャイナ星域最大手企業となり、新たな商圏としてアラミス星域進出を見据えるほどになりました。そしてマーク社長はこの年、第四次辺境戦争での貢献を讃えられて、フェリ男爵マーク・オート=オベルリンズ(Baron Marc hault-Oberlindes of Feri)となります。

 1098年、第14代リジャイナ公爵としてノリス・アレドン(Duke Norris Aella Aledon of Regina)が就任します。彼は前公爵ウィレム(Willem Caranda Aledon)の第二子だったため本来は兄ウィリアムが公爵位を継ぐはずでしたが、兄と父が相次いで不慮の死を遂げたことで海軍から呼び戻されたのです。
 母方のイーラ家を通じてストレフォン皇帝と遠縁関係にあるノリス公は、その人脈をも利用して巧みな統治を見せています。それが宙域一の実力者であるモーラ公やその一派との摩擦にも繋がっているのですが…。

 ちなみに同年、前の戦争からゾダーン占領下にあったエサーリン(1004)が「帝国とゾダーンの共同保有」とされました。両国民が共存するこの星には、今後の関係改善と外交窓口としての役割が期待されます。
(※DGP版以降の設定では「共同保有」ではなく「中立」とされましたが、今回はあえて最初期の設定に倣いました)

 安定した平和を享受しているかのように見える現在の宙域の不安定要因として、反帝国テロ集団「アイン・ギヴァー(Ine Givar)」が挙げられます。民主化を求めて984年に獄死した指導者の名を冠した彼らは、990年代末にはデネブ領域各地に支部を持つほどに拡大し、やがてゾダーンに接近して(取り込まれて?)無差別テロに走ります。1075年にはジヴァイジェのカシャー市で核融合爆弾を炸裂させて死者500万人の大惨事を引き起こし、第四次辺境戦争では戦線各地でゲリラ攻撃を展開しています。現在はイフェイト(1705)などで盛んに活動が見られます。
 国境付近では再び緊張が増しており、そのうち「第五次辺境戦争(Fifth Frontier War)」が始まるのではないかと見る向きもあります。1103年にスピンワード・マーチ宙域艦隊の宙域提督(Sector Admiral)にはオットマー・マノリス侯爵(Marquis Ottmar Manolis)が就任しましたが、これは近々提督の娘婿となる、モーラ公爵子飼いのフレデリック・サンタノチーヴ男爵(Baron Frederic Muudashir Santanocheev of Solstice)にその地位を継がせるための地ならしと見られています。
(※大提督や宙域提督は本来男爵級の人事に過ぎず、コア宙域の武門マノリス家ともあろうお方がわざわざ「名誉男爵」に格下げしてまで辺境の提督をやるからには、何か裏があると見られても仕方ないのです)

 「今の」スピンワード・マーチ宙域は、数百年数千年に及ぶ大小の、そして公になったもの隠されたもの様々な出来事の積み重ねから出来上がっています。過去の出来事は現在に影響を与え、現在の出来事は未来に影響を与えます。それは誰にも予測できません。
 しかし一つ言えるのは、帝国暦1105年のスピンワード・マーチ宙域は「旅する価値がある」場所です。


(※本稿は帝国視点での「スピンワード・マーチ宙域開拓史」に焦点を絞ったため、ダリアンソード・ワールズについては別稿を参照してください)
(※文中の3つの辺境戦争図は、実線:開戦前国境 着色部:停戦後領土 となっています)


【ライブラリ・データ】
アングリック Anglic
 古代テラの英語(イングリッシュ)を起源とする、第三帝国の公用語の一つです。その話者数の多さから銀河公用語(ギャラングリック)とも呼ばれますが、多くの人々にとっては現地語に次ぐ第二言語に過ぎません。また、他種族・他国民との共通語(交易語)としてもよく用いられます。
 第一帝国を打倒した地球連合海軍が標準語として英語を採用していたことから、第二帝国では必然的に公用語として用いられるようになり、ヴィラニ語などの影響を受けながら宇宙各地に広まっていったのがアングリックです。第二帝国崩壊後も交易語として命脈を保ち、第三帝国の母体となったシレア連邦でも公用語として採用されたことから、帝国の拡大とともに人々の共通言語としての地位を不動のものとしていきました。それでも方言の発生を防ぐことはできず、大まかに分けて5つの、細分化すれば星の数ほどの「訛り」が存在します。
 アングリックの筆記法には、古代テラから使われているアルファベットと、ヴィラニ文字(アブギダ)でアルファベットを換字したものの2種類があり、どちらも正式とされています。

アーデン連邦 Federation of Arden
 「アーデン連邦」とは現実には存在していない恒星間国家です――今のところは。アーデンを事実上動かしている地元財界主導の抑圧的な寡頭組織「社交界(Arden Society)」は、徐々に近隣世界へ政治面・経済面での影響力を強めており、今は僭称に過ぎない「連邦」が実態を持つのは時間の問題と見られています。
 アーデンは第三次辺境戦争の停戦条約で帝国から切り離された後、その地勢学的立地を生かして帝国とゾダーンに限らず周辺国をも天秤にかけた「中立」政策を採っています。宇宙港には(合法非合法問わない)数々の商品が各地から流れ込み、仕事を求める傭兵や犯罪者が訪れ、逃亡者と賞金稼ぎが相まみえ、カジノは多くの客で賑わい、大使館街では外交戦と諜報戦が日夜繰り広げられています。

帝国貴族の命名規則 Naming rules of Imperial nobles
 現在の帝国貴族の名前は、ヴィラニの伝統に則って「爵位+名・母姓・父姓」の順で名乗られます。これにより、例えば皇帝アルベラトラ・カタミ・アルカリコイは、母がジヴァイジェ伯爵のカタミ家、父が(当時の)ライラナー公爵のアルカリコイ家ということがわかります。またアルベラトラの母親はマーヤム・プランクウェル・カタミ(Maryam Plankwell Khatami)なので、アルベラトラが奇しくもプランクウェル家の血を引いていることもわかります(※ただしマーヤムはオラヴの腹違いのきょうだいです)。
 貴族は基本的に夫婦別姓で(※夫婦同姓にすることもできます)、その子供はたいてい父方の姓を名乗りますが、子孫に有益と思われるなら母姓の方を継ぐ場合があります。例えばアラミス侯爵ハヤシ家は、17代目が名門テュケラ一族のボールデン=テュケラ家(Bolden-Tukera family)と縁組みしたことで18代目は「ジョージ・ハヤシ・ボールデン=テュケラ」を名乗り、その代以降のアラミス侯爵はボールデン=テュケラ家として引き継がれています。
 貴族を省略して呼ぶ場合は「デュリナー大公」「ノリス公」のように「名前+爵位」が基本ですが、ソル領域の方では風習によって「姓+爵位」で呼ばれています。ちなみに、姓の前に「オート(hault)」や「フォン(von)」を付けて貴族であることを示したり、「名・姓」のみで名乗るのもソロマニ系貴族特有の風習です。


【参考文献】
・Supplement 3: The Spinward Marches (Game Designers' Workshop)
・Spinward Marches Campaign (Game Designers' Workshop)
・Traveller Adventure (Game Designers' Workshop)
・Concise History of the Third Imperium (Clayton Bush, Travellers' Digest #18)
・Regency Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・GURPS Traveller: Alien Races 2 (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Nobles (Steve Jackson Games)
・Secrets of the Ine Givar (Andrew Moffatt-Vallance, Steve Jackson Games)
・A Festive Occasion (Hans Rancke-Madsen, Mongoose Publishing)
・Behind the Claw (Mongoose Publishing)
・Integrated Timeline (Donald McKinney)

星の隣人たち(8後) 接触!アスラン

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 砲手ウォフトーウイーの乗った護衛艦は激戦の末に航行不能となり、退艦命令が出された。全員が脱出できるだけの救命艇も戦闘で失われていたので、伝統に従ってまず艦長が残された救命艇に乗り、上級士官が続いて席を埋めていった。残る席に船員の誰が座るかを決闘で決める時間もなかったので抽籤が行われ、幸運にもウォフトーウイーに権利が回ってきた。しかし外れた船員の一人がそれでも席を奪おうと暴れたため、ウォフトーウイーはこう言った。
「お前が誇りを捨ててでも生き残りたいというのなら、俺の席を取れ」
 こうしてウォフトーウイーは爆発する艦と共に命を落としたが、その気高き名は今でも知られている。一方、恥知らずの臆病者は生還こそしたものの氏族から追放され、その不名誉な名を覚えているものは誰もいない――

■アスランと戦争
 氏族間の、領有権や権力や交通利権などを巡る争い事は、決闘と同様に非常に儀礼的に行われます(場合によっては死を伴いますが)。戦争では、中立氏族が調停者として監視を行います。この指名は非常に名誉なことであり、細心の注意と客観性を持って審判を下して、無意味に戦争が激化するのを防ぎます。
 戦争を起こすには、調停者を加えた全ての当事者が明確な交戦規定に事前合意する必要があります。一般的には、より抑制的な戦争を提案した側がその後の交渉で優位に立ちます。
 アスランの戦争には数多くの種類がありますが、大まかな分類は交戦規模が抑制的な順に以下の通りです。

・戦力の誇示
両陣営が総戦力を指定された戦場に集結させ、より多く強く見えた方が勝利。
・一騎討ち
集結した戦力の中の代表者が1対1で決闘を行う。
・模擬戦(捕獲戦)
荒野や無人衛星を戦場にして、勝利条件(敵陣の旗を奪うなど)を目指して戦う。
・刺客戦
氏族を代表する「刺客」が、指定された目標(敵氏族長など)を襲撃か誘拐できたら勝利。基本的に護衛を含めて殺してはならず、目標を「いつでも殺せた」ことを証明するだけで良い(ただし事前合意があれば本当に殺害することもある)。
・限定戦争
戦場が1星系に限られる戦争。戦闘員の殺害は基本的に認められる。星系内での宇宙船への攻撃も許可されるため、私掠戦術に発展することもある。
・小規模戦争
複数星系にまたがる戦争。重火器や戦艦の使用が許可される。小規模戦を選ぶことは、本音では双方が大きな損害を受けなくないことを意味するため、まめに特使を派遣しては停戦を探る。
・大規模戦争
2氏族以上が大規模戦争を行うことは稀で、数々の戦争儀礼はこれを避けるためにあると言ってもいい。大規模戦争では敵氏族の軍事・産業基盤の(人員も含めて)全てが攻撃対象となり、敗れれば領地や権力を致命的に失うこととなる。
・殲滅戦
勝利目標は敵氏族を焼き尽くし、男子を根絶やしにすることである。氏族が宇宙規模となった現代では、殲滅戦はほぼ不可能と考えられている。

■アスランと軍
 アスラン領ではそれぞれの氏族が独自の宇宙軍(Space Force)や地上軍(Ground Force)を構え、総称して「郷の守護者(トレッヒュイール)」こと氏族軍と呼ばれます。また、企業が軍を組織している場合もあり、一般的にそれは傭兵部隊と呼ばれます。
 氏族軍は文字通り、氏族全ての郷と権益を守るため「だけ」の組織であって、アスラン領全体を守るわけではありません。種族同士の戦いになったアスラン国境戦争の時ですら、交戦氏族以外は我関せずの態度を貫きました。
 アスラン領内では小競り合いは日常的で、氏族の勢力図は刻一刻と変化します。アスランは郷を得るために戦い、名誉のために死にます。戦争は非常に儀礼に則ったものですが、それでも時に命の奪い合いをすることに変わりはありません。
 他の社会と同じく、どの軍内の役職にも性差は影響しています。指揮官や操縦士や砲手は身分の高い男性がなります。なぜなら「正しく戦闘の指揮を執る」とか「正しくボタンを押す」程度で済む役職だからです。また、戦場で立身出世を狙う男性が戦闘員になります。アスラン男性は兵装の動作原理を理解しているわけではなく、そのため他種族では考えられない事故も起きますが、それでも平均的な戦闘力は上回ります。
 副官や情報士官といった技術的な知識を必要とする士官職は女性が担います。女性士官は男性指揮官を補佐し、平時は指揮官に代わって部隊をまとめ、補給を切らさないようにし、戦闘計画を管理することで作戦の成功を支えます。
 整備補給部隊や艦船の機関士といった後方支援役には女性(や身分の低い男性)が配属されます。非戦闘職の部隊には戦闘で名誉を得る機会はほとんどありません。

 アスランが他種族と戦う際に悩みとなっているのが、敵がアスランの提案した交戦規則を守ってはくれないことです。それに気づくまでアスランは不利な戦いを強いられますが、ひとたび気づけば過剰に反発し、無慈悲な報復を行います。とはいえ、彼らが最後に他種族と大規模な戦争を行ったのはもう700年も昔です。

宇宙軍:
 アスランの宇宙軍は、帝国における海軍と偵察局(と場合によっては商船会社)の機能を併せ持った組織で、艦隊戦や惑星降下といった通常の軍事作戦以外にも、氏族の人員輸送(主に入植のため)、探査や偵察(主に新天地を求めるイホテイのため)、旅客や通信や貨物の運搬など、氏族全体の領地を守り、豊かにするためにあらゆることをします。複数星系に入植地を持つ氏族にとって宇宙軍は「文化の架け橋」であり「忠誠の絆を深める」役割があるのです。
 惑星の一部のみしか支配していない氏族には、基本的に宇宙軍がありません。このような氏族は宇宙軍を持つ別氏族と同盟を組むか、その家来になるか、企業宇宙軍と契約をするかします。
 1惑星もしくは1星系を支配する氏族は、自領を守るために「惑星宇宙軍」を持ちます。これはジャンプ能力のない貨物船や惑星防衛艦で編成されますが、数隻の小型恒星間商船を含む場合もあります。
 「氏族宇宙軍」は複数星系を支配する氏族が持ち、ほとんどのアスラン宇宙軍がこの規模です。そしてこれが29選ともなるとより規模も大きくなり、より熟練した人員とより進歩した兵装が配備されています。

 男性が格闘戦を好むことと、主力艦の高額な建造費維持費を考慮に入れると、人類の艦隊に比べて氏族宇宙軍はより少数で小型の艦艇で編成されます。巡洋艦や大型軍艦に遭遇することは稀です。
 バトル・ライダー艦(ジャンプドライブを持たずにテンダー艦で運ばれる軍艦)は、氏族の軍艦調達問題の解決策として人気が高いです。平時はライダー艦は惑星防衛艦として、テンダー艦は大型貨物船として運用されるため、維持費の捻出の意味でも助けになるからです。
 なお、商船はほとんどが武装されています。宇宙船の操縦は男性のみの仕事なので、彼らは非武装の船を操るのが不安で仕方ないのです。

 アスラン領内で大型軍艦を建造できる造船所は珍しく、たいていは29選のどれかが所有しています。ほとんどの氏族は29選から軍艦を購入していますが、その多くは中古艦です。また、アスランが扱えるように改装された人類の中古艦に遭遇することもあります。
 というのも、アスランは「魂の入っていない」新造艦よりも、栄光で彩られた歴戦の中古艦を好む傾向があります。戦士が誇らしげに古傷を見せるのと同じように、外装の損傷は名誉の印なのです。

 氏族の勢力圏内を行く軍艦は基本単独行動ですが、勢力圏外での活動や特定の軍事作戦の際には戦隊や艦隊に編成されます。
 ラーヨ(意味は「六」で、通常は「戦隊」と訳されますが「機動部隊」の方が近いです)には一般的には文字通り6隻の軍艦が配属され、その構成は同種艦同士で編成する人類とは真逆で、ここでは例を示せないほどに氏族や目的によって千差万別です(編成数すら2~12隻と幅があります)。ラーヨは氏族長が任命した司令官の名前で呼ばれます。
 アイコーホー(「沢山の船」=「艦隊」)も規模や編成はまちまちです。アイコーホーは特定の任務のためだけに編成され、それは戦闘だけでなく移民輸送や貨物貿易のこともあります。
 「戦闘艦隊」は氏族の世界を防衛したり、戦争時に同盟氏族に派遣する際に編成されます。それぞれの艦隊は艦隊提督が指揮を執り、氏族提督の指揮下に置かれます。
 「通商艦隊」は商船団と護衛艦で構成され、アイコーホー・シーロホトという女性指揮官(軍人ではなく官僚)が率います。護衛戦隊はその規模と戦力次第で艦隊提督か艦長が率います。
 「移民艦隊」は「イホテイ船団」とも呼ばれ、氏族の余剰人口を新天地に送り込むために編成されます。艦隊は氏族提督に指揮され、氏族の勢力圏を出てからは提督が事実上の長となります(ただし氏族の伝統には縛られます)。船団には護衛戦隊と入植者や物資を運ぶ通商戦隊が同行します。このイホテイ船団に関しては後述します。

私掠船(アオフェーオ):
 アスラン領内では、人類社会と比べて宇宙海賊に遭遇する確率が遥かに低いです。彼らにとって海賊行為は不名誉なことで、まずそんな職業に就きたいとは考えません。しかし理屈をこねて納得さえできれば、彼らとて全くやらないわけではないのです。それが私掠船戦術です。
 非常に激しい氏族間戦争の際には、一定の規則の下で氏族は私掠赦免状を発行することができます。これは身内の企業に対して、どこであろうとも敵氏族の宇宙船への攻撃を許可するものです。企業はまず利益を求めますから、撃沈してしまうよりは無力化してから拿捕をし、積荷や船自体を売り捌きます。
 拿捕された船内の人員は、所属氏族次第で対応が変わります。単に居合わせた乗客など敵氏族でない者は安全に解放しなくてはなりません。敵氏族なら殺害しても構いませんが、基本的には捕虜にして身代金を要求します。

地上軍:
 アスランの地上軍は、帝国における海兵隊と陸軍・水軍・空軍の機能を併せ持った組織で、戦場の花形です。多くの氏族は男子の1割を常備軍の戦士に割いていると言われています。名誉のためには決して死を恐れず、「命と命を交換する」ような戦術を採るアスランは他種族には理解し難く、そして非常な脅威です。
 ちなみに、アスランは接近戦を好みますし、一般的な氏族の軍事費は乏しいため、編成は軽歩兵主体です。

傭兵部隊:
 私掠船と同じように傭兵も立派な職業であり、古から男性傭兵は己の力で戦果を勝ち取り、女性は富を産む源として部隊を営んでいました。傭兵部隊は何らかの理由で自力で戦士を養えない氏族の助け舟ともなり、平民男性やイホテイらが名誉と郷を求めて入隊を志願します。一般的に、氏族が賄える以上の余剰の戦士は傭兵となります。
 アスラン領内外に出向いている傭兵部隊は通常、裕福な女性や企業によって組織されています。経営者本人もしくは代理人が部隊司令部に同行して、傭兵チケットの交渉を行い、雇用に関して最終的な決定権を握り、事業全体の監督をします。しかし実際には、彼女は男性指揮官に戦場での判断を任せており、男性ならではの視点が部隊の利益に反すると判断した時のみ現場に介入します。

刺客(サイ・イーソ):
 アスランの刺客たちはよくテラの昔話の「ニンジャ」に例えられますが、実際には人類における特殊部隊に近いです。彼らは選び抜かれた精鋭戦士であり、個人戦と小隊戦の戦術に精通し、味方に尊敬され敵に恐れられます。氏族地上軍と傭兵部隊のどちらも刺客を抱えていますが、彼らの報酬は高額で、刺客戦になること自体も少ないので出撃は稀です。
 秘密裏に活動する人類の特殊部隊と異なり、刺客は作戦前に計画を相手に告げ、作戦後に誇らしげに戦果を公表します。しかし刺客の凄みは、事前に襲撃を知らせていても成功させられる点にあります。
 そもそも刺客に狙われるということは、その雇い主から畏怖されていたのと同義なので名誉なことと考えられます。仮に刺客に敗れたとしてもその名誉は語り継がれますし、逆に刺客の予告から逃げることは非常に不名誉なことなのです。
 不名誉の罪の償いとして刺客になることもあります。罪人は追跡者や決闘代理人となり、逃亡者を追っては決闘を申し入れるために雇われます。こうして雇われて(主に死を賭けた)決闘を生き延びた罪人は晴れて名誉を回復するのです。

■イホテイの「侵略」
 父親からの土地の相続が望めない第二子以降の男子(イホテイ)は、伝統的に自分の郷を求めて移住してきました。そうしなければ、他の誰かから奪うしかないからです。
 かつては辺境の野営地に各地からイホテイが集まり、夜な夜な焚き火を囲んでは自らの野望を語り合い、やがて単独で未開地に向かったり、見込みのありそうな男の下に集って集団で旅立ったり、夢破れて戻ってきたりする牧歌的な光景がありました。しかし宇宙時代となった今は、イホテイは船団を組んで新天地に向かうのが一般的です。
 氏族は定期的にイホテイ船団を編成し、郷を求める男たちや、職を求める平民や、名誉回復の機会を求める追放者が加わります。船団内での地位は、その者の技能と名声に加えて親の財力を示す装備具合に比例します(※そしておそらく氏族長の子が氏族提督になると推察されます)。また、氏族で余剰となった輸送船や護衛艦を寄贈するのもよくあることなので、イホテイの遠征隊はまちまちな技量ながら士気だけは異様に高く、時代遅れの船に乗っているのが常です。
 遠征は色々な意味で氏族に恩恵があります。身内の口減らしをしながら遠方の同盟氏族に変えられ、遠征の準備によって地場経済が潤います。そして遠征隊を次々と送り出すことが、周辺氏族に己の勢力を見せつける良い機会にもなります。

 理想的な新天地とは、資源が豊富で、近隣に良い市場がある、環境の良い手つかずの惑星です。もちろんほとんどのイホテイにとってそれは夢物語に過ぎず、既に入植している他の氏族や部族が無視した、あまり環境の良くない余剰地に定住せざるを得ません。とはいえこれは必ずしも悪いことではなく、他の入植者は資源を売り買いする相手にもなりますし、緊急時には助けを求められますし、何よりもその星が永住可能である証拠なのです。
 未踏星域に入る船団は、まず適した星を見つけるために女性の偵察隊を派遣します。目的地が見つかれば、29選から派遣された女性の「艦隊調停官(アイコーホー・エァレァトライゥ)」が船団員に郷を割り当てます。この時、どうしても大氏族の子弟により良く広い郷が充てられるのは否めません(彼らの親はそれだけ船団に多く投資しているのですから)。しかし、建前上29選の指示は29選の氏族(とその家来)にしか及ばなくても、船団員が調停官の決定に異議を唱えることはまずありません。また、現地民に入植を通告するかどうかは、彼女に一任されています。
 偵察隊が入植可能な土地や既存の入植地を調査している間に、船団は軌道上に入ります。ほとんどの入植者は輸送効率化のために冷凍寝台で眠っていて、第一陣がこの時点で起こされます。そして新植民地が開拓されるにつれて次々と入植者たちが覚醒され、船から降りていきます。植民者は船団の主の家来となり、氏族に尽くす見返りに庇護を得られます。
 一方軌道上の船団は、護衛艦は軌道上で哨戒を続け、後の惑星宇宙軍の礎となります。輸送船は商船に改装され、近隣世界との通商路を確立します。
 こうして入植地に誕生した新氏族は送り出した氏族と強い結びつきを持ちますが、とはいえ通常は故郷から遥か遠くに入植するので、時間が経つにつれて独立氏族となったり、近隣の他氏族と手を結んだりすることもありえます。やがて入植開始から数世紀を経て惑星上の全てが誰かの物になると、その星では新天地を求めるイホテイ船団が結成されます。

 アスラン国境戦争の記憶から、人類はアスランやイホテイを暴力的な征服者と考えがちです。しかし実際には、彼らは土地を欲する衝動に駆られてはいても、征服は手段の一つに過ぎないと考えています。
 アスランはしばしば、星系統治者から未開拓地を購入して定住します。何百年かかっても現地住民が開発しきれないような人口疎密な星であれば、その方が安上がりな手段だからです。代金は現金もしくは税金や賃料の形で支払うか、あるいは傭兵として駐留することで代わりにするかします。
 また、アスランは空き地に勝手に居座るかもしれません。典型的な辺境星系では、彼らを追い出すだけの人口も軍事力も政治的な熱意も欠けている場合が多いからです。そもそも住民が長い間、アスランが入植しているのに気づかないことすらありえます。
 国境沿いの世界では、イホテイの到来はもはや恒例の行事となっています。彼らが価値あると睨んだ星には、いくらでも雲霞の如く群がってくるのです。

 イホテイはアスラン文化の中でも興味深い位置を占めています。彼らは放浪の英雄であり、無頼漢であり、尊敬されなくとも立派な存在です。事実、アスランの人気娯楽の多くはイホテイ戦士とその家来を題材とします。
 イホテイに政治的影響力はなく、氏族から命令されることもありませんが、氏族の外交政策の一環としてイホテイを扇動したり、逆に抑え込んだりすることはあります。また、氏族の拡大はイホテイとなった息子への資金援助の額に比例するのも現実です。

■アスランの言語と名前
 彼らの共通語は「トロール」と呼ばれ、人類に限らず他種族で会話を極めた者はほとんどいません。学習が困難なほどその発音は複雑で、アングリック話者には美しく聞こえると同時に不協和音に苦しみます。彼らが人類の早口言葉よりも早く喋られるのは発声しながら呼吸ができるからで、そのために横隔膜を素早く動かす必要があります。実際、トロールとは「腹」を意味すると同時に、発声中のアスランの胃の動きも表しています。
 トロールは非常に厳格な言語であり、単語を並べただけでは全く通じません。学習者に救いがあるとすれば、トロールは4000年前から全く変化しておらず、地域特有の方言や訛りもないことです。ただしトロールにも性別があることを除けば。
 女性が話すトロールは科学・経済用語などを扱えるよう大幅に拡充されており、男性はすぐに会話についていけなくなります。一方で、法曹界や政界でのみ使われる男性専用の格調高いものもあります。そして異性の言葉を口にするのは恥ずかしいこととされています。
 トロールの単語はそれぞれが幅広く複数の意味を持つため、正確にアングリックに訳すのは困難です。「テレーイホーイ」はアスランの有名な傭兵部隊の名ですが、訳語として「夕闇の兵士達」「日没の騎士団」「宵星の戦士隊」のどれもが正解となります。

 トロールの筆記法は「トオー」といい、数百もの表意文字で構成されています。ただし一般的な文章であれば、数十個を知っていれば理解可能です。トオーは絵文字や爪痕から洗練されていったもので、男性体のトオーは伝統的かつ装飾的で曲線を多用し、複数の文字を組み合わせて新たな文字を作れる柔軟性があります(音楽+集団=楽団、金銭+戦士=傭兵)。女性のものはより正確な意味を読み取れるよう近代的に再設計され、活字も女性体しかありません。

 全てのアスランは(隔絶した入植地でない限り)共通の文化と言語を持ちます。しかしこの文化は非常に複雑で窮屈なため、個人名や言葉は理解が困難になる場合があります。
 独立した氏族長は、長本人が氏族の全てを表すことから氏族名で呼ばれます(文脈上の理由で氏族名と氏族長名を区別する必要があるなら、長は末尾に「コー」を付けます)。よって、ルーエァウィ氏族の長はルーエァウィもしくはルーエァウィコーと呼ばれます。
 家来の豪族は続柄がどんどんと付加されて長くなります。ルーエァウィ・オローオイェイ・ウォトイ・ロイェイウォフェーリロリテイテヤーホットテイシユー(ルーエァウィ氏族に仕えるオローオイェイ氏族に仕えるウォトイ氏族の家来で、イウォフェール川の分かれ目の谷間を治める誇り高き部族長たる祖父の三男の未婚の長男)のように、最高位の氏族から順に名乗り始めて個人で終わります。
 平民は仕える豪族の、女性は最も身近な男性の名の末尾に今の役目が付加されます。つまり「Xの船の次席機関士」「Xの二番目の、Y氏族から嫁いだ妻」となるわけです。

 このような本名は公的な場(儀式や決闘など)でのみ使用され、普段は短い「二つ名」で呼び合います。二つ名は「伝説の爪(イローイオァハ)」「星の智者(テアウエァス)」「六拾四(テウレァール)」のように個人の信念や功績を表し、いつでもつけたり捨てたりできます。イホテイが新たな郷を得て新氏族を興した際には、自分の子孫が誇りを持って名乗れるように気高く派手なものに変える傾向があります(氏族名=氏族長の名だからです)。
 トロールの性質上、二つ名の意味は曖昧になっています。結局どういう意味なのかを知りたければ、礼儀正しく本人の聞くのが一番早いです。そうすれば、どのような業績によってこの名を選んだか詳しく説明してくれるでしょう。
 本人の仕事や家庭環境の変化どころか気分次第でも名前は変わってしまいますが、呼び名を間違えると侮辱に取られる可能性もあるので、アスラン同士が再会した際には、例え仲の良い友人であっても現在の本名や二つ名から名乗り始めるのが礼儀とされています。

■アスランの数学と単位
 4本指であるアスランは、ごく自然に8進法(0,1,2,3,4,5,6,7,10,11…)の数学を発展させました。ですから彼らにとって8は切りのいい数となり、「多くの」や「たくさん」という比喩に64や4096が使われます。クーシューに集う氏族が「29選」なのに「トラウフー(参拾五)」と呼ばれるのも、10進法の「29」は8進法で「35」だからなのです。
 数学にも性差の影響はあり、男性でも四則演算ぐらいはできますが、平方根ともなるともはや女性の領分です。

 アスラン領内共通の時制は、母星クーシューの公転と自転の周期を基準に定められました。1年(フトヘァ)は212.2日、1日(エァホウー)は16時間です。アスランは人類における「分」の概念を「止(ホウオアオ)」と「走(オレイオアオ)」に割ったので、1時間(テッホオアオ)は8止、1止は64走、1走は8秒(ウーエァロアオ)となります。
 公転周期に端数があるため、5年に1度、第213日を挿入して調整が行われます。アスラン暦は最初のトラウフーが開かれた年を0年とし、帝国暦と同じように紀元前は負の数字で表します。
(※クーシューの1日は帝国標準時で約36時間なので、1日の長さが帝国の1.5倍あることに気をつけてください)

 長さを表す最も短い単位はオイーフタ(「親指の幅」=約3cm)で、続いてホウフィオ(「男の身長」=約2m)」、オレイオアオフタ(アスランが1走の間に駆ける距離=約140m)、エァホウフィオ(アスランがクーシューの1日で歩ける距離=約70km)となります。
 重さはフィーフトッホウ(「一片」=約110g)、トルーフトッホウ(「肉の重み」=約1.8kg)、フテフトッホウ(アスラン1人分の重さ=約100kg)で表されます。

■アスランの技術水準
 アスラン領内の技術水準は人類社会より一歩劣っていて、最高TLは14です。これは主にアスランの守旧志向によるもので、古のヴィラニ人のように技術的進歩に価値を置かないのです。ただし、自分たちの恩恵になると思えば他種族の進んだ技術を導入(もしくは複製)することは躊躇しません。
 多くの氏族ではTL9~11の物品が流通し、時にはTL12~13の、主に軍事装備や宇宙船を29選から購入することがあります。29選はTL12~13の物品を製造し、氏族内で流通させるか外部に輸出します。TL14のものはクーシューなど極々限られた星系でしか製造できず、一般にはほぼ流通しません。

■アスラン社会の人類
 帝国領内にアスランがいるように、アスラン領内でも人類を見かけることがあります。その多くは帝国やソロマニ圏からの駐在員や訪問客ですが、中にはアスラン文化を受け入れて氏族の家来となった人類や、アスラン領内に母星を持つ群小人類もいます。彼らは種族差別をせず、多くの氏族では非アスランの社会参加は認められていますが、アスランの名誉と伝統に従わない者は「蛮族」として差別します。
 アスラン領行きの観光業は開拓途上の分野です。企業は随行員付きの旅行商品を販売していますが、一般的には神経質なアスランの危険性を考慮して領内全域がアンバー・トラベルゾーン扱いとなっています。旅人が心掛けるべきは、アスランの習慣を理解して尊重すること、現地の氏族長の指示に従うこと、何よりも名誉のために戦うことです。これさえ守ることができれば、振る舞いが立派であり、礼儀正しく敬意を払って行動する限り、アスラン領内で何も恐れることはありません。そして、周囲に影響力を持つ後援者(豪族や重役)を得られれば、アスラン領内での取引や通行で何かと便宜が図られますし、他者に紹介状も書いてもらえるでしょう。

■人類社会のアスラン
 故郷を飛び出して人類社会に定着したアスランは、国境沿いの宙域では人口の約3%を占めます。そんな彼らは3つの種類に分類されます。
 「純なるアスラン(True Aslan)」は、定住先でもアスランの伝統文化と生活様式を守る者たちです。この場合は人類社会とは溝が生まれがちで、差別と貧困に苦しむ例が少なくありません。そして時とともに共同体は風化していきます。
 「彼方のアスラン(Other Aslan)」は、伝統を守りながらも共存のために現地の支配者(帝国なら皇帝)に忠義を誓った者たちです。中には帝国貴族の地位を手に入れた者もいますし、キャピタル皇宮のアスラン近衛連隊(Aslan Guard Regiment)はその忠誠心の高さと勇猛果敢さで知られています。
 伝統を捨て去った者たちは、本流のアスランからは蛮族扱いです。ダリアン連合やソロマニ連合(※)に帰化したアスランがこれに該当します。
(※ソロマニ自治区制定時にソロマニ圏内に取り残されたアスランのことです。彼らの一部は後のソロマニ・リム戦争でソロマニ軍の一員として戦いました)
 また当然のことながら、訪問者としてのアスランも多く見かけられます。観光客や研究者だけでなく、傭兵部隊は頻繁に雇われますし(装備の都合上、アスラン傭兵は部隊ごと雇用しなくてはなりません)、国境間貿易企業ティエーヨー・フテァラオ・ヨーはスピンワード・マーチ宙域やトロージャン・リーチ宙域に交易路線を持っています。

■ジャンプ技術についての疑惑
 自力でジャンプ航法を開発した種族を「主要種族(Major Race)」や「六大種族」と呼び、ドロイン、ヴィラニ人、ゾダーン人、ハイヴ、ククリー、ヴァルグル、ソロマニ人、そしてアスランの順に銀河に飛び出していったことは現在では常識とされています。しかし、アスランに関してだけはそれを疑う歴史学者(やソロマニ主義者)の声が少なくありません。
 事実としてアスランは六大種族の中で唯一、重力操作技術を確立させる前にジャンプ航法に辿り着いた種族です。開発年とされる帝国暦-1999年当時、アスラン文明はTL7でしかなかったと考えられており、しかも歴史的に常にいがみ合っていたはずの2氏族が突然裏で手を結んでジャンプドライブを極秘裏に共同開発しているのです。
 そして、初期のアスラン製ジャンプドライブが不思議とソロマニ製のものに似ているのも指摘されています。母星クーシューのあるダーク・ネビュラ宙域には当時ソロマニ人の探査隊が幾度となく訪れており、それらの全てが無事に帰還したわけではないのです。
 墜落した宇宙船を回収した説や、ヴェガン商人がドライブを密売した説など色々唱えられてはいますが、そもそもソロマニ人のジャンプ技術開発にすら同様の陰謀説が存在する以上、論議は不毛でしょう――確固たる証拠が出てくるまでは。

■アスランと超能力
 一般的にアスランには超能力の才能がないと考えられています。また、フテイレの教えは口から発した言葉に重きを置くため、テレパシーは他者を信用しないのに等しくて不名誉だと捉えられます。よって、アスラン領内での超能力研究は低い地位や悪評を覚悟せねばならず、使用者がいたとしても追放者や、人類の特殊部隊など「不名誉な敵に不名誉な手段で報復する」目的のみでしょう。
(※とはいえ何事にも例外はあって、「裂溝の向こう(Transrift)」のトロージャン・リーチ宙域やタッチストーン宙域には、超能力使いの刺客を抱える氏族があるそうです)


【ライブラリ・データ】
クーシュー Kusyu 1226 A8769H6-E U 高人・工業 703 As G4V D 国家首都
 ここはアスランの母星であり、選ばれし29の大氏族(29選)が集う「トラウフー」が開かれる「大会合所(Greet Meeting Hall)」があります。そのため星図上では「首都」と記されてはいますが、厳密には異なります。
 アスランはこのクーシューの大地を特に価値があると考えており、29選だけでなく約300もの氏族がここを一部分でも領有して権勢を見せつけています。
 クーシューの観光名所としては、フィールァフォヒール中央宇宙港の上空2kmに浮かぶ「空中庭園(ラッイハトーイ)」が挙げられます。ここは宇宙港の管制機能と集客施設(宿泊所・食事処・酒場・土産店など)を兼ねており、人類の居住区もここにあります。他に、スタウシェーオソレレァホ山頂街の眼下には息を飲むような絶景が開けています。
(※クーシューの位置については長年様々な資料で全く違う情報が提供されて混乱を極めていましたが、討議の末に「ダーク・ネビュラ宙域 1226」とすることで決着しました)
(※政治形態Hは「氏族分割統治」、基地コードUは「29選および氏族基地」を意味します。ちなみに現在の標準世界書式(UWP)では基地Uは廃止されていて、T(29選基地)かR(氏族基地)を使用することになっていますが、設定との整合性を鑑みてあえてUを採用しました)

アスラン国境戦争 Aslan Border Wars
 帝国暦-1118年から380年に渡って繰り広げられた、人類とアスランの一連の戦争のことを指します。
 主要種族の中で一番遅く宇宙に出たアスランは、すぐに人類の勢力圏と接触し、領土争いをする関係になりました。当時の人類には統一政体はなく、「小帝国」や星系単独政府がそれぞれアスラン氏族の攻勢に耐えなくてはなりませんでした。最盛期のアスランは旧帝国の領域を約40パーセクも侵食していました。
 しかし帝国暦200年にもなると〈第三帝国〉が伸長してきて、進んだ技術で秩序立った反撃が可能となりました。それでもアスランは氏族ごとにしか行動ができず、各個に撃破されていきました。
 最終的に、380年に帝国と4大氏族との間で「フトホァーの和約(Peace of Ftahalr)」が結ばれ、両者の間に約30パーセクの中立緩衝地帯を設けることで境界線が確定しました。それ以降人類とアスランの間に戦争は起こっていませんが、ソロマニ自治区(後のソロマニ連合)は和約に反して境界を越えて領土を得ており、問題となっています。

アスラン近衛連隊 Aslan Guard Regiment
 帝国皇宮を守る近衛軍団(Imperial Guard)の中の一つで、その名の通りアスランのみで編成されています。380年に帝国とアスラン氏族の間に結ばれた「フトホァーの和約」を受けて、友好と信頼の証として同年に帝国領内のアスラン(※)から兵員を選抜して設立されたのが起源です。
 この部隊が勇名を轟かせたのが、606年の帝国内戦です。プランクウェル大提督率いる突入部隊が皇宮を襲撃した際に、最後まで降伏せずに抵抗を続けたのがアスラン近衛連隊でした。結果的に部隊は壊滅し、皇帝殺害の阻止はできませんでしたが、その忠誠心と練度の高さは今に受け継がれています。
(※帝国領の拡大によって、勢力圏沿いの多くのアスラン居住星系が帝国に取り込まれました。彼らは自分の土地を捨てず、そのまま帝国市民になったのです)

ティエーヨー・フテァラオ・ヨー Tyeyo Fteahrao Yolr
 アスラン国境戦争の終結後、アスランは自分たちの嗜好に合った香辛料「塵胡椒(ダストスパイス)」が、裂溝の彼方のスピンワード・マーチ宙域にあることを知りました。ティエーヨー・フテァラオ・ヨー(恒星間塵胡椒輸入社。ティエーヨーとはクーシューの主星名であり「恒星」の意味も持つ)はこの塵胡椒をアスラン領に輸入するためにイハトエァリョー氏族が設立した国境間貿易会社です。そしてイハトエァリョー氏族はこの事業の成功によって勢力を拡大し、トラウフーに名を連ねる大氏族となりました。
 同社は現在ではモーラ~クーシュー間航路で、両国の価値ある様々な産品を取り扱う商社として発展を遂げています。

塵胡椒 Dustspice
 乾燥砂漠地帯の低木樹の樹皮から採取されるこの香辛料は、人類やヴァルグルは果物にかけますが、アスランは肉にかけるか、単体で食します。人類には軽く酩酊感を与える程度ですが、アスランやヴァルグルに与える多幸感は強烈で病みつきになるため、かつては高額の金銭で取引されていました。現在では安価な合成品が普及しましたが、美食家の間では未だに天然物を求める需要があります。
 生産地としては、原産地のロマー(スピンワード・マーチ宙域 2140)の他にキーノウ(同 2411)が有名です。


【参考文献】
・Journal of the Travellers' Aid Society #7 (Game Designers' Workshop)
・Alien Module 1: Aslan (Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Alien Races 2 (Steve Jackson Games)
・Alien Module 1: Aslan (Mongoose Publishing)

星の隣人たち(8前) 接触!アスラン

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「若き戦士のロホルは、負傷して気を失っている間に味方が撤退し、戦場に取り残されてしまいました。しかしロホルは立派に戦ったので、敵氏族は彼を救助して傷を治してやり、休戦したら解放する約束をしました。
 ところが、その前にロホルの氏族が彼の今いる郷に攻めてきました。ロホルは敵から受けた恩を返すために自分の氏族と戦い、自分の兄弟すら殺し、そして深傷を負って死んでしまいました。
 両方の氏族は彼の勇敢さを讃え、故郷の兄は新たな郷を賜り、子々孫々までロホルの栄えある名は語り継がれましたとさ。めでたしめでたし」
――アスランが高潔な行いの手本とする昔話

 アスランはよく「ライオンのような」と人類に例えられますが、当然ながらテラ原産のライオンとは全く異なる種族です。しかしそもそも「アスラン」という呼び方自体が、彼らと初接触したソロマニ人が古代トルコ語でライオンを意味する「アスラン」と名付けたと言われるぐらいに(※諸説あります)、人類は何かにつけ彼らをライオンに結び付けたがる傾向があります。
 加えて、彼らの勢力圏を「神聖アスラン国(Aslan Hierate)」と全く実態にそぐわない呼び方をするのも、やはり接触当初のソロマニ人が彼ら独特の風習や社会構造を「宗教」と誤認して、古代ギリシャ語の「神聖(Hieros)」から造語したのが定着してしまったからです。
 このように、人類は彼らに対してたくさんの誤解を繰り返してきました。だからこそ我々は、彼らについてたくさんの事を学ぶ必要があるのです。




■「フテイレ」とは
 アスランは自らを「フテイレ」と称します。これは種族の名であると同時に、彼らの哲学、生き方全てを表しています。フテイレとは「名誉に生きる者」であり「唯一無二の道」なのです。
 フテイレは致命的になりがちな暴力沙汰を減らすために編み出された行動規範で、自制心を大いなる美徳とします。質素に生き、正直に話し、伝統を重んじて先祖を敬い、家族や氏族に対する義務を果たし、そして恐れずに敵に立ち向かうことが大切です。義務よりも自身の安全や快楽を優先することは不名誉なことで、特に上に立つ者にはこの模範であることが求められます。
 アスラン社会で普遍的に見えるフテイレの掟ですが、氏族ごとに解釈が異なる部分もあります。例えば、捕虜への拷問を不名誉と考える氏族もあれば、情報を得て戦争に勝つための必要悪と考える氏族もありますし、捕虜に痛みに耐える勇気を示す機会を与えられるのでむしろ名誉なことと考える氏族すらあります。
 彼らは、フテイレを学びたいと願う他種族を拒むようなことはしませんが、教えを説いて回るようなことは決してしません。いつか皆が自然とフテイレに従ってくれると信じているのです――「唯一無二の道」なのですから。

■アスランの身体的特徴
 かつてのアスランは母星クーシュー(ダーク・ネビュラ宙域 1226)の樹上で暮らしていた四足歩行の肉食獣でしたが、約180万年前の気象変動で広大な森林地帯がほぼ消失して草原に出ざるを得なくなりました。その草原には個人では敵わない大型動物や天敵が生息しており、結果的に彼らは単独行動をやめて家族単位で集団狩猟をするようになりました。やがて作戦を立てるために会話という知恵を付け、狩りの効率を上げるために女性が開発した武器を手にした彼らは、天敵すら絶滅に追いやるほどの存在となりました。
 こうして知的種族となったアスランは、平均身長約2メートル、平均体重約100キログラムで、温血の直立二足歩行生物です。つま先歩きをし、柔軟性がありながら丈夫な手足をしています。
 男性と女性の二性があり、男女で身長差はあまりありませんが、男性の方が筋肉質で重くなります。そして男性のみに象徴的なたてがみがあります。男女比は1:3と女性に偏っており、特に(元々双子出産がめったにない種族なのですが)三つ子や「男の双子」に関しては記録が見当たりません。
 アスランの手には3本の指とそれに対向した親指があり、それぞれの指には出し入れ可能な爪が、更に親指の根元には鋭い特殊な「狼爪(dewclaw)」が角質に隠されています。この構造によってアスランは人類と比べれば不器用で、かつ人類の装備品の転用を難しくしていますが、その分彼らは筋力・持久力・瞬発力・聴覚・嗅覚に優れ、「素手」での接近戦に長け、暗視能力も持っています。
 歯は28本あり、正面には犬歯が、側面には剪断歯が発達していますが、臼歯はありません。よって彼らの咀嚼は、食べ物を噛み切って飲み込むだけとなります。別に舌に棘があるわけではないので、毛繕いは手や爪を使用します。目は人類と比べて大きめで、捕食型動物共通の縦型の瞳孔をしています。
 アスランの毛皮は通常は茶色の濃淡ですが、灰がかっていることもあります。人類と同じく血統によって毛並みに違いがあり、たてがみの大きさや膨らみ具合、毛の滑らかさや模様などに差が出ます。尾は、進化の過程で特段の機能を持たなくなりました。
 アスランはクーシューの1日(約36帝国標準時間)に合わせて、24~25時間起きては11~12時間眠る、という周期で活動します。寝不足は人類と同じく翌日の活動に大きな影響を及ぼしますが、昼夜逆転生活は意外と苦にしません。というのも、元々彼らは狩りに有利な夜行性動物だったのが、文明(特に農耕)の発達で昼行性になったからです。
 実はアスランは呼吸器系の病気にかかりやすいのですが、彼らにとって嗅覚は食べ物の評価に不可欠なため、鼻の感染症にかかったアスランは完全に食欲を失う可能性があります。なお、種の壁を超えてアスランの病気が人類に感染することは(その逆も)ありません。
 妊娠期間は人類と同じく(以下は帝国の暦で)約40週間ですが人類よりも早熟で、誕生時で既に4~6キログラムあり、生後10週前後で歩けるようになり、約半年で喋り始めます。アスランは14歳で成人しますが、40代を過ぎると急激に老化し、平均寿命は60歳程度(女性の方が若干短命)です。この寿命の短さには種族の特性以外に、彼ら自身が長寿に無関心で延命医学の研究が進まなかったことも影響しています。

■アスランの食事
 彼らの主食は言うまでもなく肉類です。新鮮な肉を好みますが、消化器官が強いため多少傷んだものでも問題ありません。そして肉食に頼る彼らは、人類よりも多くの水を欲します。
 木の実は調味料として、果物は飲料として食しますが、根菜や穀物といった植物類は「動物の餌」だと軽蔑しています(そもそも消化できません)。実際、アスランの農業技術は古代からずっと食肉用の家畜をより多く飼うために進歩しているのです。
 今や彼らは合成肉を生産する技術を持ってはいますが、それは最貧困層か、食料入手が困難な未開発星系でのみ消費されています。文明的なアスラン家庭や食堂ではその場で屠殺された肉が提供され、富裕層は趣味を兼ねて私有地で獲物を追っています。
 獣一頭を捌いたら成人男性でも食べきれない量の肉が取れるため、夕食は家族と、できるなら客人も招いて食事をするのが基本です。アスランは1日1食で、食後すぐに睡眠を取ります(そのため、寝不足よりも消化不良の方が翌日の体調に影響を与えます)。
 小さいなら生肉でも食べますが、大きな肉は軽く調理して香辛料をよく効かせて食べます。彼らは香辛料に関しては、自然のもの・化学的なもの双方で驚くべき数の知識を持っているのです。
 アスランは宇宙旅行中でもこういった食生活を守ろうとしており、生きた獲物を模したロボットに肉を纏わせて船内に放ったり、家畜の群れごと冷凍睡眠させたりしています。

■アスランの心理
 彼らの心理は特有の男女比や、縄張りを決めて制御するための古くからの本能に影響されています。それは大まかに分けて以下の4つです。

縄張り意識:
 根強い縄張り本能により、男性は自分の土地=「郷(landhold)」を得ることに執着し、生涯で最高の目標とします。郷の所有権は男性にしかありませんが、これは男女差別ではなく、あくまで種の本能に基づいたものです。

性の違い:
 性別はアスランの行動を定義する上で、人類よりも遥かに重要です。男性は指導者で戦士であり、相続や褒賞でまず自分の郷を持ち、持ったなら名誉を追い求めます。女性は貿易と学術に興味があり、技術者や学者や経営者になります。アスランにとって女の生きる道は、より良い結婚のために資産を作り、結婚後は夫を支えながら夫の郷を富ませていくことです。

名誉:
 知的生物学者の考えでは、アスランの誇りは彼らの縄張り意識を反映したものとされています。原始アスランは強さを見せつけることで自分の家族と縄張りを守り、他者の攻撃を抑止していました。これは無駄な怪我を避ける知恵でもありました。
 現代では、己は死しても我が名が家族や氏族の記憶に残るように努めたいと考えています。そのためには自分の評判を汚さないようにしなければならず、必要があれば血をもって不名誉を雪がなければならないのです。

忠誠心:
 アスランの祖先が森から平野に移動した際に、敵に対して共同防衛をする必要からこのような心理が生まれたと考えられています。戦いの中でお互いを暗黙のうちに信頼しあえる集団は、進化面で優位に立っていました。そしてより強い男は群れの主導的存在となり、その家族がより良い食べ物、睡眠場所、水飲み場を得られたのです。
 この忠誠心は血縁の絆を強固にした一方で、惑星や国家といった地縁的な絆を薄めていきました。彼らには自分の氏族や家族が全てであって、アスランという種族全体のことはどうでもいいのです。
 なお、フテイレは忠誠心の大切さを説きますが、一方で彼らは名誉と大義を秤にかけて敵方に寝返ることもあります。

■家族・部族・氏族
 アスラン社会は2~12名程度の「家族(エッホー)」を最小単位としています。これには、男性家長とその妻(と妻たち)、子供たち(実子や貰われた孤児)、家長の血縁者(未婚の兄弟姉妹、別居していない高齢の両親、養子縁組した孤児)、場合によって同盟先や征服された氏族の一員(鍛錬を共にしたり、裏切りを防ぐ人質として)が含まれます。アスランは母親を区別せず、家長の子は全て家長の妻たちが平等に世話をします。つまり、アスラン社会では家系こそが重要なのです。家長が亡くなった場合は長男が家長を継ぎますが、その際に弟たちを家族に残す義務はありません。
 複数の家族が寄り集まるとその中の1家族を長とした「部族(ロリー=群れ)」が形成され、そして部族が寄り集まって「氏族(ヒュイホ)」を形成し、最も強大な氏族長に部族長たちが忠誠を誓うのです。氏族長は部族を守り、部族に施し、部族間の揉め事を諌め、氏族の資産をより賢く管理することが求められています。そして氏族は、特に血縁関係のある場合は、より強大な氏族に忠誠を誓うことがあります。しかし、約4000あると言われているアスラン氏族の中でも傑出した29大氏族ですら、それらに直接的・間接的に忠誠を誓う氏族は意外にも少数派で、ほとんどの氏族は独立しています。
 アスランは神や運命を信じてはいませんが、祖霊信仰めいた精神性を持ちます。彼らの家には必ず英霊の祠があり、偉大な先祖の遺物が収められています。

■アスランの社会
 社会におけるアスランの地位は、彼(または彼女の夫)が持つ郷と、所属氏族が(直接または家来を通じて)管理している郷の総計によって決まります。
 一般労働者である平民は郷を持ちませんが、もちろん社会に不可欠な存在です。郷を所有しているアスラン(社会身分度9+)は全て「豪族(貴族階級)」とみなされ、総家族の約3%が100万ヘクタール以上、約8%が10万ヘクタール以上、約17%が1万ヘクタール以上、約28%がそれ未満の郷主です。大氏族ともなるとその規模は複数星系にまたがりますが、このような大規模な郷は長だけでは管理できないため、一部を親族や家来が氏族長の名代として治めます。

 アスラン男性が郷を手に入れるためには以下の手法があります。
 一番手っ取り早いのは、父から郷を相続することです。かつては息子たちが相続権を賭けて決闘をし、敗者は勝者の家来となるか家を出るかしていました。
 また、氏族や部族の長から郷を恩賞として分け与えられることがあります。これは戦争での英雄的な活躍や、集団への多大な貢献の対価です。武勇に優れた戦士に郷(や娘や妻)を提示して氏族に勧誘することもあります。
 そして、戦争を起こして力ずくで他氏族の郷を奪うことです。戦争で獲得した郷は参加した戦士で分配することが通例でした。このため、アスランは守勢よりも攻勢を好みます。守備一辺倒では戦費がかさむだけで何も得られないからです。
 有史以来何千年もの間、男性が採りうる手段はこれらだけでした。母星の大地に限りがある以上、増え続ける男性に見合った土地はなく、郷を欲する本能は各地で戦争という形で流血を呼びました。
 しかし、ジャンプドライブの開発は彼らに新たな選択肢を与えました。星の海の向こうには無限にも思える大地が広がっていたのです。相続人争いは平和的な「長子相続制」に姿を変え、次男から下の男子は故郷から何光年離れていても次々と未開拓の星に入植しては自分の郷を得て、それがアスラン領全体の拡大を押し進めたのです。

■アスランと決闘
 その誇りの高さゆえに短気と思われやすいアスランですが、それは群れの中で優越性を求めた闘争から生まれたもので、彼らの人格の中核を占めています。とはいえ時を経てアスランの決闘は、「天然の凶器」による無駄な怪我を減らすために非常に儀礼的になっていきました。
 アスランは自分に対する侮辱を無視することはできません。彼らは他種族の無知ゆえの侮辱についてはある程度までは寛容ですが、度を越せば決闘に至ります。
 アスラン社会では一般的に、「無遠慮」「無作法」「無礼」の3つが侮辱とされます。「無遠慮」とは社会的な上下関係を弁えない言動のことであり、許可なく相手に触れることも含まれます。「無作法」とは躾が足らずに、敬語を誤ったり、公共の場で粗暴に振る舞ったり、氏族の伝統に反したりすることが該当します。「無礼」とは意図的な誹謗中傷です。これらの行為を指摘された際にはすぐに謝罪(口頭で、もしくは相手に自分の喉を差し出すなど服従の姿勢を見せる)が求められ、謝罪がなければ決闘の大義名分となります。
 決闘は侮辱や不和を解決するための一般的な手法であり、他の手段ではその場を収めることができない場合に用いられます。決闘は儀礼に則って行われ、死闘になることは稀です。その儀礼は男女によって厳密に区別されていて、特に異性同士で決闘することはありえません。また、子と親(もしくはその先代)の決闘も絶対にありえません。
 決闘は当然本人が臨むべきものですが、場合によっては代理人が立てられることがあります。異性間の侮辱は、互いの名誉に無知であるからと受け流されるのが基本ですが、それが度を越したなら侮辱された側の(決闘可能な性別の)近親者が代理人として応じます。また、双方にあまりにも実力差がある場合も(当然近い実力の)代理人が許可されます。
 負傷や病気などの理由でも代理人を立てられますが、この場合は回復するまで決闘が延期されることが多いです。特徴的なのは、延期された決闘は債権のように親族に相続されることです。本人が決闘前に死亡してしまったなら、その子や兄弟が本人に代わって決闘に応じます。天災や戦争などの事情で決闘の延期が繰り返された結果、双方の子孫同士が決闘を行うことすらありえるのです。
 決闘を申し込むには、非公式でいいなら爪をむき出しにして唸り声を上げるだけで十分ですが、公式にとなるとまず相手の氏族長に決闘を申し入れないといけません。氏族長は決闘の可否を判断し、当事者双方に決闘の場所と日時を告げます。
 決闘は素手と爪のみで常に1対1で行われ、一方が負傷すると決着がつきますが、重大な侮辱の場合は意識不明になるまで続けられることもあります(死ぬまでやるのは余程の事です)。鎧類や薬物は使用できません。そして勝者は名誉を得、敗者は(仮に侮辱された側であっても)相手に謝罪を強いられます。
 また、両者が同意すれば決闘は他の手段(それこそ賽の目勝負でも構いません)に置き換えることもできますが、一般的には惰弱だと眉をひそめられます。ですが、女性学者同士の決闘が論文の討論で行われるようなことはよくあります。
 決闘は決して軽々しくは行われませんが、決闘を拒むことは弱虫とみなされ、ほとんどのアスランがそうは思われたくないと考えています。逆に言えば、異種族がアスランの尊敬を得る近道は決闘から逃げないことです。彼らは戦闘の腕前を高く評価しますし、自分たちの文化を受け入れない者を「蛮族(トヒウィテァホタウ)」と見下していて、彼らにとっての礼儀正しい振る舞いは自分が無知な蛮族ではないことを示すことになるのです。
 基本的に決闘は些細なことであり、その勝敗が社会的地位に影響することはありません。しかし世間から注目されるような決闘の場合は、同格か格上に勝利した者は社会身分度が+1され、敗れた者は社会身分度が-2されます。

■アスランと名誉
 アスランの名誉の概念は、以下の3つの柱から成ります。
 第一の柱は「尊敬」、具体的には他者の領分を尊重することです。この場合の領分とは、郷や財産や妻も含めた所有物全ても指します。そして征服する意図もなく、他者の領分を犯したりはしません。お互いの領分を尊重するこの概念から、アスランは封建的社会を構築してきました。
 第二の柱は「伝統」です。先祖や英雄たちのやり方こそが正しい振る舞いとされます。ただしこれは彼らが古い作法に縛られることを意味せず、新技術が導入されれば適応しますし、新しい星の環境に合わせた新しい伝統を築きます。
 古の偉人や詩人の(特に戦争や決闘に関する)教えにも従います。尊敬に値するアスランは先祖からの伝統を守り、家長の指示に従い、決闘を公正に戦い、同胞を助け、誓約を守って戦争を行います。
 第三の柱は「調和」ですが、これは他種族には解釈が難しい概念です。人類のものに置き換えて一番近い単語は「禅」でしょうか。アスランの概念では、宇宙は流れ行く思考を持ち、完璧な行動とはその思考と一致して動くことと考えています。つまり「調和」を達成したアスランは、宇宙の意志を体現しているのです。この「調和」はどのような状況や行為でも到達できますが、一般的には武術や詩吟、瞑想などで成されます。

 これらを極め、皆から慕われる存在を「フテイラコー(名誉の具現者)」といいます。フテイラコーは所属する氏族が実践しているフテイレを、膨大な歴史的事例の中から倫理と現実の狭間で正しく適用するための知見を持つ存在です。名声の誉れ高く、氏族文化を細部まで理解しているため、「調停者(エァレァトライゥ)」に選ばれることが多いです。

 アスランは他者から恩情をかけられたり施しを受けることを恥とは思いませんが、受けた恩は必ず何らかの形で返さねばなりません。自分の代では無理なら兄弟や子孫にそれを託しますし、権力者同士の取引材料になることすらあります。こういった恩義の「貸し・借り」の複雑な連鎖が、アスランの封建社会を強固にしているのです。

■成人の儀式と追放者
 成人を迎えたアスランは通過儀礼を受けなくてはなりません。この儀式は氏族ごとに、また男女間でも違いがあります。まず男女ともに、氏族の長老から名誉と伝統について試され、叙事詩の暗唱や先祖の功績を語ることで応じます。
 男子は氏族最強の戦士と決闘をします。当然勝てることはまずありませんが、困難に立ち向かう勇気を試しているのです。また多くの氏族では若い男性に適性試験も受けさせています。女子は決闘こそ免除されますが、企業への就職や技術者としての能力を見るために、男子よりも多くの適性試験を課せられます。
 そして男女ともに、最後は各氏族固有の秘密試験を受けます。この内容を異性に明かすことは禁じられています。
 通過儀礼が終わると、若者たちは氏族内で雇用先を探します(豪族の長男は家に残って父親の死を待ちます)。しかし通過儀礼に失敗することもありますし、雇用先が見つからないこともあります。そのようなアスランは、償えないほどの不名誉を負った恥ずべき者と同じ「追放者」となります。
 追放者は氏族内や社会での全ての地位を剥奪されます。そんな追放者はどこの共同体の片隅にもある「隔離街(ルーホトホ)」に集まり、飼料の栽培など「不浄」とされる仕事に就きます。隔離街は低治安地域であり、追放者らは生きるためなら犯罪に手を染めることも、逆に名誉回復のためなら命懸けの使命も厭いません。そして追放者の子も追放者とみなされます。

■アスランと性
 アスラン社会では男女の役割は明確に区別されます。男性は郷の獲得、軍事、政治、運動にかまけます。一方女性は学術、産業、商売、蓄財に興味を持ちます。企業は常に女性が経営しています。上流階級の男性は特に金銭感覚がほぼなく、女性の助けなしには現代社会を生き抜くことができません。そんな彼らの側には常に、妻や女性親族など誰かが控えています。
 彼らは他種族に対して、解剖学的分類や見た目ではなく、その者の「役割」で性別を判断しがちなことに注意が必要です。人類の女性砲手はアスランからは男性に思われますし、男性の仲買人は女性と捉えられます。問題は、アスランは「異性」からの侮辱は受け流せても、「同性」からだと他種族であっても決闘になりかねないのです。

 アスラン社会は一夫多妻が伝統です。全ての男性には一度は結婚し、郷の規模が許す限り多くの妻を養うことが期待されています。平民だと妻は居ても1人ですが、多くの豪族男性は複数の妻を持ちます。3人の妻を持つのが平均的とは言われていますが、4人も5人も娶る者は逆に珍しいです。なお、近親交配を避けるために、男性は別氏族から妻を娶る傾向があります。
 女性には夫を支え、夫の子を産み、郷や家来を管理して、先祖に仕えることが求められますが、現代では仕事や学問に専念したい女性が非婚を選ぶことも珍しくありません。とはいえ、社会階層が低くなるほど結婚を望む女性も多くなり、そんな彼女らは蓄財の腕を磨きながら、広大な郷を持つ理想の男性と結ばれる日を夢見ています。
 未婚のアスランは自由に異性と性関係を結べますが、妊娠すると周囲から結婚が望まれます。ただし男性の方が極端に身分が低い場合は中絶させられるか、子供は既婚の親戚の養子となります。
 意外かもしれませんが、アスラン女性の間で同性愛は珍しくありません。夫は、妻が女性の友人と食事に行こうが同衾してようが気にしません。別にその二人の間に自分以外の子ができるわけではないからです。
 婚外恋愛も珍しくなく、既婚男性は未婚女性と自由に交際できますが、妻や妻たちが夫の郷ではこれ以上「新妻」を養えないと判断したら、夫に経済的圧力をかけて交際をやめさせるのが通例です。逆に既婚女性も、夫の許可があって妊娠が不可能であれば未婚男性と交際することができます。
 アスラン社会では離婚は認められています。かつては妻の親族男性と夫が決闘することで離婚の可否が決まっていましたが、今は夫が相手の親族に従属するか財産分与で決着します。

■アスランの衣服・芸術
 何よりも名誉と郷に価値を置くアスランは、人類より持ち物が少ない傾向があります。贅沢をせずに浮かせた費用は生活必需品の質を高めるために使うので、アスランが持つ道具や武器は、英雄叙事詩の場面や伝統的装飾が刻まれた豪華で見栄えの良い「一点物」となります。それが家宝であるなら尚更です。安物は誰も欲しがりませんし、職人も作りません。
 よって、アスラン社会では「自動化」は稀なことです。機械が大量生産した服では恥ずかしくて外を歩けません。器用な愛妻や家来の名工が刺繍した手織りの伝統装束こそ、着る価値があるのです。

 毛皮のあるアスランは服に保温性を求めず、薄くて軽くて動きを妨げない、ゆったりとしたチュニックやキルトを着用します。どちらも煌めく糸で精巧な刺繍が施され、宝飾品も飾り付けられます。布の素材や装飾は着る者の地位や職業を示し、氏族の外では服は信用情報代わりとなるのです。豪族の男性の間では、(ヴァルグルほど派手にではなくても)富と権力の誇示は非常に重要と考えられています。
 男性は小さなお守りをたてがみにつけ、自身の氏族や郷の規模を示す編み込みをします。彼らは宇宙服等の環境対応服を除いて、帽子や手袋や靴は身に着けません。

 アスランの建築様式やデザインは効率よりも芸術性を重視し、有機的で丸みを帯びたものが好まれます。直線はほとんどなく、廊下ですら曲がりくねっています。

 アスランの芸術において重要とされるのは直観と伝統です。彼らは「試行錯誤した」ものに芸術性を感じません。一つの絵に何週間もかけるような画家には才能はないのです。
 アスランの有名な伝統芸術には、即興で詠まれる詩の(俳句に似た)ウィホヒールや、そのウィホヒールの心を字形の運びで表現するトフーホキールがあります。ちなみにアスランの宇宙船の外装にはほぼ、古の叙事詩をトフーホキールで表現したヨーイョーホテフが書かれていますが、この文様は彼らにとっては詩と書の複合芸術であり、目と心に訴えかけてきます。
 他には宝飾品作りや彫刻などがあり、これらは全て遥か昔からほぼ同じ形が守られてきています。

■アスランの「都市」
 縄張り意識の強いアスランは、人類のように「都市」に密集して住むということがありません。「都市」と訳せなくもないヒューフテイレリェという単語はありますが、これは本来「会合所」の意味合いで、行政の中心が置かれているわけではありません。ある意味では氏族全体の領土が一つの都市圏と言えます。そして氏族はそれぞれ、裁判所と決闘場と公文書保管庫を兼ねたようなフトヒュー(根源の地)と呼ばれる場所を持っています。
 そして逆説的に、密集地に住むアスランは郷を持たない低い身分の者であることがわかります。とはいえ例え安い集合住宅であっても、住民は自分だけの「縄張り」をより良くしようと心掛けています。

■アスランの娯楽
 彼らにとって娯楽の多くは、するものと言うより見るものです。そして放送や記録媒体を通じてよりも、現地で生鑑賞するのを好みます。彼らは自宅で立体映画を見るよりも、著名な吟遊詩人が歌い上げる叙事詩の朗読会や、女性舞踊団の公演会に出向くのです。
 スポーツは、模擬決闘や射的術のような武道が中心です。また、素足でも騎乗でも搭乗でも競争は人気があります。人類とアスランのスポーツに対する捉え方の違いとして、アスランはスポーツを賭け事の対象にしないことが挙げられますが、その分彼らは試合観戦中に大声で常に展開を予想し合います。
 そして一番手軽な娯楽は、過去の自慢と将来の夢について他者と語り合うことです。それこそ夜を徹してでも。話の内容は僅かな誇張は許されていますが、明らかな嘘は無礼とされています。

■アスラン領内の旅行
 旅人は野宿をしなくても、地元氏族から無料の食事、宿、医療を期待することができます(だから宿屋という商売もありません)。出身氏族やその家来や同盟氏族の勢力圏内ならそれもわかりますが、フテイレの興味深い点で、氏族の伝統次第とはいえ敵氏族から施しを得られることすらあるのです。なぜなら強くて健康な敵を倒すことこそが名誉であって、弱った敵を単に見殺しにするような安っぽい勝利はいらないのです(もちろん、どんな状態でも敵は敵と見る氏族もあります)。
 客人は氏族から饗しを受ける権利があると同時に、その氏族の者を侮辱したり決闘を挑んではなりませんし、たまたま外部から攻撃があれば共に戦わなくてはなりませんし、なるべく氏族の困り事の助けにならなければなりません。「一宿一飯の恩義」は必ず返さなくてはならないのです。

 旅人は現地の最新情報を常に入手すべきです。ただでさえアスラン領内は氏族の勢力圏が入り乱れており、それは戦争や婚姻や譲渡や下賜で常に変化します。現地の郷主の許可なく土地に立ち入ると殺されても文句は言えませんが、情報が古いとそういった事態になりかねないのです。ちなみに、訪問の取り次ぎをする代理人は宇宙港や貿易センターなどに常駐しています。
 また、アスラン領内では定期便はありません。各氏族は自前の交易路を持ち、必要に応じて商船を運航させるからです。一般的な氏族交易路は、その氏族に属する主要星系(高人口・高技術)同士を結び、その間のA・Bクラス宇宙港を経由します。

■アスランと政治
 よく誤解されていますが、アスラン社会は封建的とはいえ帝政ではなく、中央政府すらありません。それどころか種族としての統一目標も理念も掟もありません。彼らにとって政府に該当するものは、氏族と部族と家族の繋がりだけです。
 家族長は家族内の揉め事を調停します。誇り高き部族長(もしくは長に委任された男性)は部族内の揉め事を調停します。氏族間の揉め事は特定の規則に基づいた戦争によって解決されます。
 氏族長は所有郷を分割してそれぞれ家来に割り当てます。家来は自分に付き従う部族に郷を割り当て、各部族は構成する家族間で郷を細分化します。そして最底辺には郷を所有するのではなく、ある意味で郷に所有されている労働者たちがいます。彼らはその郷から公共事業の恩恵を受けながら、戦争や婚姻同盟や贈与によって郷主が変わる度に忠誠を誓う先を変えています。
 そしてこの家族から氏族への繋がりの頂点が「トラウフー」です。この言葉はクーシューに集う29の大氏族こと「29選(the 29)」との同義語になっています。この29選入りの基準は(曖昧とはいえ)戦力と郷の総計であり、人口・軍事力・産業力が考慮されて相対的地位が序列化されます。29選のうち、トラウフーの結成当初から残っているのは19氏族で、10氏族は後から成り上がったか、後継者不在となった氏族を継承した存在です
 29選の氏族の長(か代理人)は、紛争の仲裁や互いの氏族の利益のためにクーシューで頻繁に会合を持っています。建前上そこでの決定に29選以外は拘束されませんが、当然ながらその影響力は他氏族にも及びます。しかし、だからといって29選はアスランを代表する統治評議会ではありません。29選は法律を定めず、序列を揺るがすような問題を解決せず、国軍や中央集権的な官僚機構も持たず、どの氏族に対しても一切の権限を持ちません。各氏族は独自の領土、独自の軍、独自の慣習、独自の法律を持つ、それぞれ独立した「小帝国(Pocket Empires)」なのです(大氏族に臣従する場合を除く)。

■氏族の役割と義務
 人類が政府と考えるような機構を氏族が担う以上、道路工事や消防や学校といった公共事業は全て地元の氏族から提供されます。これらは氏族直営か企業に委託され、利用者が支払う料金や氏族からの資金提供で賄われています。
 宇宙港はたいていの場合、どの氏族にも属さない治外法権とされます。施設は地元氏族から運営企業に土地を貸与して建設され、維持されています。ただし宇宙港内の軍事基地は、基地を所有する氏族の管理下に置かれます。

 長と家来は互いに義務を負っています。通常は各々が相手の防衛のためにいつでも出撃できる体制を保つことが求められます。
 家来は割り当てられた郷を長に代わって管理します。家来は秩序を保ち、一定水準の農工業生産を確保し、自分の郷(と長)を守り切れるだけの戦士を養う責任があります。アスランにとって最高の美徳は、例えそれが自身や家族を苦しめる結果となろうとも氏族に貢献することです。実際、アスランの物語で最も人気の題材は、主人公が家族への思いと氏族への忠誠の板挟みとなって葛藤する姿です。
 長は家来を守り、家来を養い、家来間の諍いを公正と名誉をもって解決することが求められます。長は家来の郷の安全を担保し、征服などで獲得した郷を分け与えることで家来に報います。
 長はまた、家来の不始末に対する責任も負います。ある家来が他氏族の家来と揉め事を起こした場合は、その家来を罰しなくてはなりません――その家来を庇って氏族間の対立をより深める気がなければ。大氏族が家来同士の代理戦争をすることもなくはないですが、それは大氏族としての矜持と名誉に疑問符が投げかけられます。

■アスランと法律
 何よりも名誉を尊ぶアスランが犯罪に走ることは稀ですが、それでも罪と罰は存在します。警察機構のないアスラン社会での民法や刑法に該当するものは、法律体系と言うよりは先人の知恵の集合体に似ていて、各氏族によってそれは異なります。
 決闘を誘発する「侮辱」とは別に、3種類の罪があります。
 「激情」は怒りなどで自制心を失う罪のことで、決闘以外での暴行、(薬物使用も含めた)泥酔、挑発といった悪行を指します。
 「加害」は被害者のいる犯罪のことで、窃盗や詐欺や恐喝、誘拐や海賊行為が含まれます。
 「不名誉」は儀礼に反する行いで、決闘の規定違反、待ち伏せ、責任放棄、虚偽発言、背信行為が該当します。殺害の罪は人類の基準では「加害」だと思いがちですが、アスランはこの「不名誉」と考えます。
 かつて犯罪は全て、関係する氏族や部族の長が裁いていましたが、時代を経てそれは変化しました。激情の罪はかつてと同じく、被告の氏族や部族の長が裁きます。量刑は罪の重さと悪評を考慮した精緻な判例で決められます。控訴を望むなら、一度だけより高い地位の長が審判を行う場合があります。罰則は、初犯の場合は軽く、累犯は刑罰が重くなっていきます。一般的に初犯は謝罪で十分とされ、それ以降は罰金や相手への無償奉仕が課せられます(※アスラン社会での無償奉仕は誇りを傷つけるため、重い罰を意味します)。
 加害の罪については、現在の慣行では調停者が検察役となって証拠と先例に則り公正に罰を提示し、多くの場合は被害額の2~3倍の弁償(もしくは無償奉仕)が命じられます。被害者が負傷したり死亡したりした場合の扱いは、氏族次第ではありますが基本的には応報刑(「目には目を」)です。金銭が絡む事件では、男性の責任能力を問わない傾向があります。なお、重犯罪の場合は追跡者が任命されて犯罪者を追い、審判の席に連れてくることがありますが、軽犯罪に対しては被害者は自分でどうにかするか、追跡者を雇うしかありません。
 不名誉の罪に関しては、犯罪の重大性に応じて氏族や部族の長が判断します。不名誉はアスラン社会で最も重い罪であり、罰則は最低でも追放で、手などの切除、焼印を押す、全財産没収、死刑と多岐に渡りますが、実際には審判にかけられることなくその場で死を賭けた決闘によって「処分」されます。
 アスランの法体系は、個人や家族が自己の行動だけでなく互いの行動にも責任を持つことが強調されています。よって、犯罪者となったアスランが罪を償わないなら、その罪と悪評はその親族にも及びます。ほとんどの犯罪において、家族や氏族が更生させ、必要に応じて償いをし、当事者間で問題を解決します。

■アスランと企業
 氏族が男社会なら、企業は女社会です。男性は宇宙船の操縦士や傭兵、(平民なら)労働者として雇われることもありますが、企業経営は全て女性の手に委ねられています。
 妻の資産は夫の物となる以上、中小企業は経営者の結婚によって氏族から氏族へと受け渡されてしまいますが、大企業ともなると非婚を誓った女性(シーアイハォロ)を経営者に据える安全策が講じられます。非婚は撤回することも可能ですが、その際は社内の別の(主に近親の)非婚女性に会社を譲らなくてはなりません。
 企業買収の手法として縁組みが用いられることも多いです。縁組みによる企業流出で氏族が大きな損害を出してしまうのなら、相手氏族の同規模企業を別の縁組みで等価交換して解決します。
 経営者がどこかの氏族に属するからには、企業と氏族には何らかの結びつきがあります。氏族長が妹の会社のために関税を免除したり、競合他社を自領から締め出してしまったりするのはよくあることです。
 複数氏族から女性が集まる共同経営の企業では、氏族の影響力はその企業内での女性の立ち位置に比例します。ただしこの手の企業の設立目的は氏族間の平衡を保つためなので、特定氏族の色が強くなりすぎないように人事面で配慮がなされます。

 「血盟(Kinship)」とは、人類社会のギルドや社交界に似たもので、特定の産業や技能ごとに集う組合です。血盟は氏族の間柄を越えることができ、交戦中の氏族の数少ない平和的交流と情報交換の場にもなっています。
 最古の血盟は、特定分野の専門家集団でした。治療者血盟は、休戦の旗の下に集った十数氏族の医師たちで構成され、医療の知識や秘密を交換し合いました。他に、武術を鍛え高め合う指南所のような血盟もありました。
 そして、歴史上最も重要な血盟が「星の同胞団」です。アスラン製ジャンプドライブはイェーリャルイオー氏族とホーウヘイス氏族が共同開発したもので、その技術は両氏族の極秘とされていました。当初、他の氏族が恒星間宇宙船に乗るためにはその2氏族に上納金を払わなくてはなりませんでしたが、星間航行の需要が増すに連れて2氏族だけでは宇宙船の建造が追いつかなくなっていったのです。そこで彼らは「星の同胞団」を作り、血盟の外に秘密を漏らさないことを条件に、他氏族の技術者にジャンプドライブの製法と操作法を教えたのです。このようにして2氏族は影響力を失うことなくジャンプ技術をアスラン全体に広め、ジャンプの秘密を巡って全面戦争が起きることを回避したのです。
 現代の血盟は、帝国のトラベラー協会に近い存在です。血盟の構成員は他の構成員に助力や保護を求めたりすることができます。血盟の加入権は金銭では購入できません。

■アスランの通貨
 男性のアスランにとっての金銭は、人類ほどには重要ではありません。彼らが戦ったり探検をするのは郷や名誉のためで、その代価が金銭だと侮辱に感じるかもしれません。全ての氏族長は男性なので、氏族間の交渉事は郷の贈与や奉仕の誓約で解決されがちですが、これは氏族長の妻同士で既に妥結している支払い額の符丁にすぎないかもしれません。
 女性(と平民でも少数派の男性)は交易に興味があり、そのために通貨を欲しています。ほとんどの氏族は独自通貨を発行しており、その名前や形状は様々です。その通貨価値は全て、通貨発行者が持つ郷とその住民が産み出す総生産額に裏付けられています(言わば「土地本位制」です)。
 一般的に、氏族内ではその氏族の通貨と家来や上位氏族が発行した通貨が流通しますし、多くの氏族は29選発行の通貨も受け入れます。なお、両替の繰り返しは無駄が多いため、アスラン領内での貿易は主に近隣氏族間で行われています。

(後編に続く)

メガトラベラー日本語版発売30周年記念企画:知っておくべき新・3大「反乱期の注目の舞台」

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―帝国が再統合されるのはいつになるでしょうか?
「決してないですね。改革された帝国を見ることはもはやなく、各勢力の間に和平や統一はありえません。光を見るためには、さらに闇に入っていかなければならないのです」
歴史学者イリレク・クリガアン教授
1124年、TNS記者の質問に答えて
 『メガトラベラー(MegaTraveller)』。メガと冠するに相応しいこれまでの集大成とも言えるルール量に、帝国暦1116年に始まる「反乱期(Rebellion)」という新たな舞台設定を持ち合わせ、翻訳作業の遅れによる発売延期が繰り返されたものの、その期待は非常に高かったと記憶しています。
 しかし、日本語版が発売された1990年代はロールプレイングゲーム業界が世界的に徐々に斜陽に向かっていた時代であり、SF-RPGの代名詞ともいえる『トラベラー』にとってもそれは例外ではありませんでした。結果的に和訳された資料本は『反乱軍ソースブック(Rebellion Sourcebook)』『ナイトフォール(Knightfall)』『ハードタイムズ(Hard Times)』の3冊のみ。また、雑誌『RPGマガジン』でのサポートも十分とは言えず、特に『Referee's Companion』が訳出されなかったのは資料面でも非常に痛かったです(企画はあったようですが『ナイトフォール』が優先されたので…どうしてよりによってこっちを…)。

 その後、『Traveller: The New Era』の登場によって〈第三帝国〉どころか人類の星間文明が滅亡したり、その反発から『GURPS Traveller』では「反乱が起きなかった時間軸」が提唱されたり、現状最新となるMongoose Publishing版トラベラーでは古き良き「黄金時代(帝国暦1105年)」に設定が固定されるなど、反乱期は忘れ去られてしまったかのようです。
 個人的意見になりますが、それも無理ないかなと思います。一番致命的だったのは「反乱の諸侯に魅力がなかった」ことにつきます。目的のためなら手段を選ばず「悪の帝国」を築いたルカンはレフリー的には美味しいのですが、その対抗軸が「理想のためなら手段を選ばない」デュリナー、「有能で穏健そうだが庶民感覚がない」マーガレット、「帝国を出たり入ったり出たりして最後まで何がしたかったかわからない」ブルズク、「華々しく復帰したもののその後が続かなかった」ストレフォン、やむを得ず独立したその他の諸侯と、『三国志演義』と違ってそこまで魅力的に見えない君主が覇を競い合っても盛り上がらないんですよね。地下組織「ヴァリアンの兄弟」に至っては全く活用されませんでしたし。

 しかし、「帝国のどこに行っても第五次辺境戦争時以上の戦乱期シナリオが組める」というのは他の設定にはない独自の魅力でもありますし、一時はその「エキサイティングさ」に胸躍らせた過去もあります。「お偉方はどいつもこいつも大して変わらねえよ」と庶民根性丸出しで旅をするのも『トラベラー』らしいと言えばらしいですしね(笑)。もはや現在進行系で反乱の推移を体験することはできませんが、30年経った今だからこそ反乱期を俯瞰して再評価することもできるのではないでしょうか。
 ということで、今回は反乱期ならではのシナリオを組みやすそうな3つの宙域を紹介し、ネタになりそうな補足を加えていこうかと思います。


1.スピンワード・マーチ宙域
「帝国の真髄はその建国時の理想にある。何が起ころうと、どんなに大きく変わろうと、人々の理想が帝国を支えているのだ」
デネブ大公ノリス・イーラ・アレドン
マーク・シグリイ氏との対談記事より

(※今回はHIWG版のUWPデータに誤植訂正等を施した上で使用しているため、現行のT5SS版設定との整合性は取っていません)

 「結局ここかい!」と言われそうですが、やはり「全ての旅人たちの故郷」スピンワード・マーチ宙域はどんな時代でも捨てがたい魅力があります。資料は豊富ですし、ほどほどに環境が変化するため、馴染みの舞台で一味変わったシナリオを展開できるという利点があります。
 上の1120年当時の宙域図を見てわかる通り、アラミス星域のタワーズ星団やリムワード方面が外敵に侵食されています。この時代の仮想敵はヴァルグルやアスランに絞られ、一方で旧敵のゾダーンやソード・ワールズ方面の国境はかつてないほどに安定しています。
 となると、この時代らしいシナリオといえばヴァルグルかアスラン絡みにするのが無難でしょう。逆に、わざわざこの時代設定で従来型のシナリオをやる理由もないのですが、やるとすれば安全なモーラ・ルーニオン・ランス・ライラナー星域に絞られますね。キャンペーンをこういった「対岸の火事」気分でいられる星から始めて、徐々に戦乱に巻き込む、もしくはミスジャンプでいきなり巻き込むという手も考えられます。
 ちなみに興味深い設定として、比較的安全なデネブ領域ですら景気は1119年中頃から後退局面に入っていたようです。国境を破られたことで実質的なアンバーゾーン星系が増加し、星間物流が停滞したことで徐々に不景気になっていったそうで(そしておそらく国境が安定する1122~25年頃までは続く)。そういう雰囲気の描写をすることで、より「らしく」できるかもしれません。

【反乱期の主な出来事】
1116年340日 リジャイナ公ノリスがストレフォン皇帝からデネブ大公に任命された、と公表。
1117年067日 リジャイナ(1910)において皇帝暗殺(1116年132日)が正式に発表される。
1117年225日 コリドー宙域がヴァルグルに制圧されたと知らされる。
1117年271日 デネブ領域の海軍が第三種警戒態勢に入る。
1119年012日 ストローデン(2327)にてノリス大公とラハト・アオラハトによる首脳会談が予定されるも、事前に行われたトラナシアフ提督との非公式会談で何かあったらしく急遽打ち切られる(※提督は対アスラン戦線の指揮を執っているので、アスラン側としては因縁の相手でもある)。
(※この頃からデネブ領内へのアスラン船団の侵入が急拡大した模様)
1119年117日 ドッズ(2739)に駐留するアスラン巡洋艦を人類の抵抗者が撃沈した、という情報がトリン(3235)に伝えられる。
1119年143日 ロビン(2637)をアスランが襲撃。
1119年153日 アキ(2035)での人類の蜂起が5日間でアスランに鎮圧される。
1119年163日 国境のゾダーン巡視艇が近頃減少していることが報じられる。
1120年206日 デネブ政府、警備隊(Patrol)を設立。国境警備が主任務だが、報酬に土地を提供するなどしてアスランの離反を誘う策でもあった(そのため、警備隊の別名としてアスラン語で「郷の守護者」と付けられている)。
1120年252日 領域首都がモーラ(3124)に定まる。
1120年314日 翌年020日から3週間に渡って行われるゾダーンとの外交協議のため、領域政府の外交団がアーデンに到着。主な議題は第268区の併合問題と思われる(※DGP版設定でのみ、実際にエリサベス(1532)・フォリン(1533)・タルチェク(1631)・ミラグロ(1632)などが併合されている)。
1120年343日 ヘクソス(2828)で何者かによって「アスランには効かない」化学兵器が使用される。
1121年019日 ヘクソスの最後の住民が死亡(※防疫のために惑星ごと隔離されたと思われる)。トラベラー協会は同星系をレッドゾーンに指定。
1121年121日 2年程前から闘病中だったモーラ公デルフィーヌ、死去(享年142)。後継者は姪孫のエレーヌ伯。
1121年354日 ノニム(0321)が住民投票でダリアン連合に再加盟するも、ソードワールズは不快感を表明。
1122年032日 ダイナム(1811)で政情不安が続く。1106年に統治企業を労働者が追い出したものの鉱石生産量は革命以前には戻らず、辺境戦争後の反動不況も相まって治安が悪化していた(※旧統治企業の手先が反政府暴動を起こしているという噂あり)。領域政府は海兵隊の強襲巡洋艦を「この件とは関係なく」派遣した模様。
1122年119日 知的種族テントラッシの放浪艦隊がラウェー(0139)に約20年ぶりに寄港し、地元住民に歓迎される。
1122年120日 ノリス大公、グリッスン(2036)にてアスラン氏族長との「移民問題」についての会談に臨む。
1122年122日 ノーシー(0724)にて不審な行動を取っていたティソーン(0922)船籍の貨物船にダリアン海軍が発砲した事件をめぐり、ダリアン政府はソードワールズ政府に抗議。
1122年131日 デュアル(2728)の研究基地アルファから姿を消したSuSAG社のナノ生物学者が、数週間が経過しても未だに発見されず。当局は同業他社からの「強引な引き抜き」の可能性を念頭に捜索を継続中。
▲1123年101日 ノリス大公、テロ組織アイン・ギヴァーの指導者に会談を呼びかけ。
▲1123年116日 リジャイナにて爆弾テロ事件発生。アイン・ギヴァーが犯行声明を出すも、内容と状況に一部食い違いが。
▲1123年136日 ゾダーン外交筋から大公暗殺計画が通報される。
1123年301日 ノリス大公、モーラからリジャイナに帰星。名目は里帰り休暇だが、アイン・ギヴァー対応の公務を精力的にこなす。
1123年303日 ゾダーン政府がアイン・ギヴァーとの関係を絶っていたことを駐リジャイナ大使が会見で明かす。
1123年329日 トリンの海軍基地に係留されていたライトニング級予備巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスが姿を消す。
1124年154日 ライラナー大学で、アイン・ギヴァー支持の学生約150名がデモ行進。愛国派学生との衝突こそ起きなかったが、銃器の不法所持などで逮捕された7名に退学処分が検討される。
1126年324日 巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスがトリンに「帰還」。
1127年110日 ノリス大公、演説でデネブ領域の事実上の独立を宣言。
1128年280日 アライバル・ヴェンジェンスの退役式典がモーラで行われ、この場で同艦の3年間に及んだ旧帝国一周航海の目的と成果が明かされた。また、帝国日輪旗に代わって「日輪内一角獣旗」が初めて掲揚された。

(▲印:ニュースサービスの誤送信により、正しい日付は不明)

 で、被占領地域の推移なのですが、まず対ヴァルグル戦線(コアワード側国境)から。
 トラベラー・ニュースサービス(TNS)から得られる情報から推測すると、この方面でヴァルグルの侵入が始まったのはおそらく1117年末。その後1119年末までにリジャイナ星域の一部とアラミス星域のタワーズ星団が陥落して…はなさそうです。というのも、TNSでそういった報道が全くなく、『反乱軍ソースブック』などでもこの星団で「艦隊戦が行われた」記述すら見当たらないのです。
 つまり宙域図にある「ヴァルグルの略奪者たち(Vargr Raiders)」は、コリドー宙域のように星系の支配権を手に入れたのではなく、単に混乱の隙を突いて頻繁に略奪に来るだけで、その最大範囲が宙域図に記載されたのではないかと考えられます。
 となると、国境線の変動ではなく「大手を振ってヴァルグル海賊が略奪に来る治安の悪化」として情勢を捉えるべきでしょう。この混乱は1122年には沈静化したかに見えますが、1123年の図のみで安全地域が国境から数パーセク縮小しているので、1122年中は国境沿い全体でヴァルグルの大規模な攻勢が行われたことが伺えます。
 そして1125年以降なのですが、『ハードタイムズ』と『Survival Margin』で記述が若干異なっています。前者ではタワーズ星団を除いて国境まで安全地域が回復したのに対して、後者ではジュエル星域・リジャイナ星域の一部が「帝国外」に着色されており、一方でアラミス星域の安全地域は前者より拡大しています。この変更は意図的とは思われますが、とはいえヴァルグルがジュエル星域に侵攻しようとするとゾダーン領を踏み越えないとならないため(ヴァルグル海賊船は基本的にジャンプ-2です)、ゾダーンの支援が受けられないであろう反乱期では現実味がありません(不可能ではないですが…)。リジャイナ星域経由だと今度は距離の壁が立ちはだかります。もちろん、第五次辺境戦争に参戦したようなジャンプ-3軍艦を擁したのであれば話は別ですし、それはそれで話が大きくなります。やり方次第では「未来」を知っているプレイヤーを驚かせられるかもしれません。

 一方、リムワード側の対アスラン戦線ですが、当初は「平和的な」移民だったものがやがて双方の感情に火がついてこじれ、1117年中には移民艦隊と帝国海軍の衝突がグリッスン星域でも始まり(※流石にそれは早すぎるのか、現在では「1117年中にアスランが帝国領内に進出したのは(※おそらくトビア星域の)3星系」とされています)、1120年までにグリッスン星域が大きく侵食されるのは宙域図にある通りですが、『ハードタイムズ』によればその後時間をかけてじわじわと(周辺地域扱いとはいえ)デネブの勢力圏が回復していきます。
 1125年以降の情勢はやはり『ハードタイムズ』と『Survival Margin』で微妙に齟齬があり、前者ではグリッスン星域の「一部が」荒野地域になっている反面、後者では星域の「大半が」荒野になっています。辺境および荒野地域は勢力圏外との解釈ですから、デネブはグリッスン星域の一部ないし大半を失い、激戦区域ゆえにUWPにも大きな変更があった…と思われるのですが、実は『Regency Sourcebook』に掲載された1202年設定を見る限りではそんな感じでもないのです。確かに70年以上の時間経過はありますが、テクノロジーレベルは1117年と比べて1~3向上し、人口に至っては1程度、つまりたった80年で10倍になっている星が多いのです。加えて、『ハードタイムズ』のUWP変更ルールで一旦人口減少が起きていたのであれば、数十年で百倍千倍規模の人口爆発が起きたことになります。確かにアスランを含めて移民を奨励したり、混乱が去ってベビーブームでも起きたり、元々の人口規模が3とか4であれば2ぐらい増やすのは難しくはないとはいえ、そもそも激戦と呼べるほどの戦いすら起きてないのでは?という気すらしてしまいます。
 ただ、ヴァルグル戦線と違って「艦隊戦があった」「アスランによる占領があった」どころか、「戦闘の結果、アスランとデネブの間に無人の荒野が生まれた」とまで明記されている以上、直接爆撃や凄惨な地上戦や補給途絶による戦禍はあったと考えるしかありません。焦土作戦すらあったかもしれないのです。
 しかしそうだとしても、どちらがやったかは不明確ですし、帝国軍は当然やらなさそうとして、「豊かな土地」を求めて進出してきたアスランもその土地を荒廃させるような戦い方をするかどうかかなり疑問ですが…ただしアスランは「交戦規定違反」と見なした敵には無慈悲に徹底報復を行うので、それがあったのかもしれません(実際、とある「蛮族」の星に彼らは核爆撃を行っています)。

 そしてアスランに関するもう一つの疑問点が、『反乱軍ソースブック』などに書かれている「ラハト・アオラハト(原文ママ)」の記述です。なぜなら、ラハト・アオラハトは「艦隊の分配係(Fleet Dispatcher)」が成り上がったとありますが、そもそもそれは女性の役職であり、アスランの社会構造というか本能的に女性が男性氏族長(アオラハト)の上に立つことはありえないのです。第一、土地の価値を査定して公平に分けるなんて複雑な仕事、アスランの男性にできるわけないじゃないですか(笑)。
 おそらくは設定が曖昧な時期に作られ、後の設定整備で矛盾となってしまったのでしょう…が、何と2021年1月にマングース社から発売された資料集『Glorious Empire』で、明らかに男性として「後のラハト・アオラハト」が登場してしまったことで事態はややこしいことになっています。この資料では、出自不明の「後のラハト・アオラハト」は弱小氏族に取り込まれ、身分が低い上に氏族間の利害関係がないことから「分配係」に任命されたとあります。確かに身分の低いアスラン男性が「女々しい」仕事を行うことは公式で示唆されているので、ありえなくはない程度に整合性は取られています。また、彼の下には有能な女性士官が就いている記述もあるため、職務遂行能力にも問題はないと思われます。

 とはいえ色々設定を読む限りでは、GDW(やHIWG)の方でもこの「野心家ラハト・アオラハト」を持て余してしまっていたようです。上記の通り、1119年の首脳会談決裂以降は表舞台に全く出て来ず(1122年のグリッスン会談にも関与していません)、結局その後どうなったのかはあやふやにされてしまいました。資料を探しても「彼」が何をどうしたのかは全然出てきません。
 また「ラハト・アオラハト」の権力者像も曖昧で、『反乱軍ソースブック』でアオラハトたちを従えているような描写がなされたかと思えば、一方で対アスラン作戦の指揮を執るトラナシアフ提督は「支配力は限定的」と見ていたりと、ばらつきがあります。『Glorious Empire』でも自らが救世主たらんとする願望があることは書かれていますが、「未来に」どう行動したかまでは当然ですが書かれていません。
 そのため、あまり「ラハト・アオラハト」に拘らずに「個々の移民船団が次々と押し寄せてしまう」ぐらいに単純化してしまうのも一つの手だと思います。一市民の立場ではどちらでも変わりませんし。しかし戦うにしても交渉するにしても、相手がまとまってない方がかえって厄介なのも真理ですが。

 アスランとは積極的に戦ったとしても、それでも彼らは話せば分かる相手でもあります。土地を提供して懐柔を試みる策は有効であり、実際、1202年の宇宙ではいくつかの星系がアスラン世界になっています。元の住民とうまくやれるかが課題ですが、それでもこれまで未活用だった土地に彼らが入植や投資をすることによって、何か新しいものが生み出されるかもしれませんし、プレイヤーがそれを手助けすることもできるでしょう。
 それとは逆に、アスラン到来下の星系での日々の暮らしと軋轢を描写する手もあります。人類の抵抗組織に手を貸すも良し、暴発を抑えて融和を進めるも良し、そんな人類同士の意見や利害の対立をテーマにするも良しです。同時に、アスランを全て敵と捉えるべきではありません。こんな時代でも良き帝国市民であろうとするアスランも当然いますし、平和的に移住がしたいだけの船団もあるでしょうし、これまで帝国との交易で利益を得ていた氏族はどうにかして仲介に動くでしょう。このように、善悪二元論では片付けられない「大人の」シナリオをやってこそトラベラーではないでしょうか。

 ここまでは動乱の時代にふさわしい舞台を紹介してきましたが、一方で平和になってしまった所もあります。ソードワールズが分裂して帝国の傀儡国「ボーダー・ワールズ」が誕生したことで、従来気軽に入れる雰囲気になかった星々に向かえるようになったのはこの時代の一つの利点です(シナリオ『ミスリルでの使命』も黄金時代には動機を作るのに無理がありました)。GURPS版『Sword Worlds』など詳細な資料も豊富にあり、一風変わった文化や占領地・属国ゆえの複雑な事情をテーマにしたシナリオは作りやすそうです。特に、占領地でありながら軍事力が最前線に振り向けられている状況というのは、何やら不穏な香りが漂ってきますね。弱体化したとはいえ、ソードワールズが裏で何もしてこないとは思えませんし。
 同様に、反乱後は融和外交に転じたゾダーンも1105年の時よりは入国しやすいことが想定されます。単純に新たな販路を拓きに行くのもいいですが、スピンワード・マーチ宙域のゾダーン領の多くは元々帝国領でしたから、かつての入植者の子孫の依頼で何かを回収しに行ったり、墓参の同行をしたりする展開など色々考えられますね。
 先の辺境戦争後に勃興した「アーデン連邦」に関しては、諜報戦の舞台に最適…とは公式に書かれているのですが、相手として相応しいゾダーンが諜報戦に乗ってくる理由が乏しくなってしまったので、この時代ではなく1105年の開戦直前のきな臭い時期の方がいいと私は思います。しかし、帝国企業からヴァルグル海賊まであらゆる勢力と物品が流入する中立港であり、抑圧的な社会構造というのは色々と陰謀の種が転がっていそうです。サイバーパンク風の「汚れ仕事」の起点には、時代に関係なく一番向いていそうです。

 スピンワード・マーチはもう飽きたよ、と言われそうですが、こうして時代と視点を変えてみるとまだまだやれそうに思えてきませんか?


2.ダイベイ宙域
「私が生涯をかけて仕えてきたこの帝国は、人類史上最高の業績だ。そしてそれは市民こそが全てであること以外の何物でもない。市民の命が帝国を築いているというのに、その市民を見捨てる命令に道理はあるのか? そんな帝国ならくそくらえだ」
ワリニア公爵クレイグ・アントン・ホルバス
1118年、艦隊供出命令の拒否を決めて
 ここはソロマニ連合との激戦区であり、新皇帝ルカンの命令を拒んでやむを得ず独立した宙域です。基本的に資料は過去も現在も『Travellers' Digest』誌の第15号のみであり、シナリオだけでなく星系設定すら全て作れる熟練レフリー向けの宙域です。
 しかし、状況を考えると非常に「おいしい」宙域であるのも事実です。まず「君主がまとも」であること(笑)、仮想敵がソロマニ連合とルカン帝国という「悪役」であること、そしてその悪役への抵抗戦を強いられているということでヒロイックな舞台設定が似合うのです。
 さらに、仮想敵が同じ人類であることから敵味方の識別が難しく、諜報戦や破壊工作はより厄介となります。いつどこに、ソルセックやルカン派の工作員が侵入しているのか…?

 ということで、HIWGの資料の中からダイベイ宙域のUWPを探し出し、それを現行のT5SSのUWPと合成して均し、ほぼ独自資料となってしまいますが独立直後の1119年001日想定の宙域図を作ってみました!


 ……いやいやいや、なにこのリアス式国境線! ワリニア公、全然掌握できてないじゃん!
 そうなんです、HIWG版設定のダイベイ宙域はそこかしこが中立化してしまっていたのです(現行のT5SS版だと隣のディアスポラ宙域まで領土あるのに…)。しかしある意味でこれは納得です。急な独立宣言から1年も経っておらず、D・Eクラス宇宙港の田舎星は忠誠確認を後回しにしているでしょうし、いくつかの有力星系ではルカン派と支持が分かれ(もしくは政権掌握され)て中立化するのは十分考えられます。まがりなりにもルカンは「正統な」皇位継承者なのですから、帝国への忠誠心が高い貴族や民衆の中には積極的消極的の両面でルカン支持を表明する人が一定数いるはずなのです。
 敵の敵は味方の理屈で、ルカンがあまり積極的にダイベイを滅ぼしにかかって来ないのが救いではありますが、だからといってソロマニの脅威は弱まりませんし……そうそう、『反乱軍ソースブック』によれば1119年中にはソロマニへの大規模な反攻作戦が実施され(そして正史通りなら成功す)るので、キャンペーンに組み込むにはうってつけでしょう。

 国論(域論?)が統一できたとは言い難い状態ということは、まさに『反乱軍ソースブック』に書かれている様々な状況を盛り込みやすいと言えます。派閥拡大のための多数派工作は日常的に行われているでしょうし、そこでは様々な陰謀が飛び交っているのは間違いありません。1105年設定ではグリーン・トラベルゾーンなのに、1119年設定でアンバーやレッドゾーンになっている星系では実際に動揺や動乱が起きていることが想定されます。
 ところで、スピンワード・マーチ宙域と違ってアスランの侵出にさらされていないのは、クレイグ公が交渉によって「和約違反となる」緩衝地帯への領土拡張を黙認する一方で、アスランを傭兵として活用することで味方につけたからです。リーヴァーズ・ディープ宙域の小国家群には迷惑な話ですが(汗)(もちろんソロマニ連合が現在「不法占拠」している緩衝地帯もこの話に含まれるでしょうけど、中立星系や小国を蹂躙する方が楽ですし…)。

 前述の通り、レフリーが細かい設定を全部起こさなくてはならないのですが、逆に今後公式設定が追加される見込みがほぼ無いため、思う存分「俺宇宙」を構築できる楽しさもあります。下の年表にある通り、ダイベイはしたたかにしぶとく反乱期を生き延びますので、背景設定に派手さと安定性の両方を求める人にお勧めの宙域です。

【反乱期の主な出来事】
1116年265日 ダイベイ宙域の海軍が特別警戒態勢に入る。
1116年309日 皇帝暗殺をダイベイ宙域政府が公式発表。
1117年252日 「ダイベイ艦隊」発足との報道がキャピタルに伝わる。
(※反逆の兆候のようですが、そもそも宙域艦隊制度はストレフォン皇帝時代に復活しているので「ダイベイ艦隊」は既にあるはずなのです。何てことのない話に尾ひれがついてキャピタルに届いたのかもしれません)
1117年341日 ダイベイ海軍が2星系でソロマニ軍と交戦、撃退。
1118年197日 ルカン皇帝からの艦隊供出命令をクレイグ公以下高官が協議。供出削減の嘆願書を提出。
1118年214日 嘆願は特使に握り潰された模様、と報じられる。
1118年217日 交渉決裂。艦隊供出命令は拒否。
1118年223日 定期哨戒中のダイベイ巡視艇が帝国第239艦隊の艦載機に発砲された事件に関して、海軍当局はコメントを出さず。
1118年260日 「帝国への忠誠」を掲げる一部部隊がダイベイ艦隊から脱走。
1118年289日 「ダイベイ連邦」が正式発足。親帝国派の高位貴族は一時的に軟禁状態に。
1118年312日 第111・176艦隊がダイベイ艦隊から離脱し、ルカン派の拠点星系に到着。
1118年332日 対デュリナー戦線から転進した第6・第259艦隊(マッシリア艦隊所属)がダイベイ艦隊と交戦し後退させた、との報道がザルシャガル宙域でなされる。
1119年365日 この日までにダイベイ軍がリムワード方面3星域をソロマニから奪還。
1120年261日 アストン星域のソロマニ艦隊をダイベイの3個艦隊が大きな損失を出すも撃破(※ただしソロマニ側では全く逆の報道がされています)。
1121年090日 オルタレ・エ・シェ社とシャルーシッド社・ナアシルカ社との間で資産交換が成立。ダイベイ宙域内のヴィラニ系資本(工場・造船所・不動産・宇宙港施設等)はオルタレ社が買収。
1121年263日 リーヴァーズ・ディープ宙域で海賊行為が増加。この方面への旅行を控えるよう連邦政府が会見。
1122年125日 海賊行為の増加を理由に、国境付近の20以上の星系がレッドゾーン指定されたことをクレイグ公が発表(※トラベルゾーン指定は本来トラベラー協会が行うものなので、政府が公表するのは極めて異例)。この時点でソロマニとの交戦は沈静化している模様。
1122年365日 この日までにダイベイ連邦はリムワードおよびトレイリング方面の計7星域を維持できなくなり、権力の空白地帯が生じた。
1123年081日 キャピタルの帝国司法省(MoJ)がダイベイ宙域に本部と訓練施設を移転させるためにクレイグ公と交渉に入った、との噂。
1123年282日 クレイグ公の誕生日恒例だった観艦式が中止に。戦力不足との憶測を会見で否定。
1124年126日 前年にドラン(イレリシュ宙域 1021)から逃走して行方不明となっていた歴史学者イリレク・クリガアン教授がワリニア(ダイベイ宙域 0507)に現れ、クレイグ公と面談。
1125年007日 デネブ海軍の巡洋艦アライバル・ヴェンジェンスがワリニアに到着し、乗組員らがクレイグ公(及びクリガアン教授)と面談。
1129年065日 超能力を禁止していた一連の勅令をクレイグ公が廃止。

 ダイベイ宙域については今後、UWPデータの公開やサポート記事を追加していく予定ですので、もうしばらく気長にお待ち下さい。


3.ディアスポラ宙域(1129年設定)
「こんな時代にまだいるのですか? なぜ早送りしないのですか? 今は安全な冬眠装置の中で眠り、世の中が好転した時に目覚めましょう!」
――「苦難の時代」に急増した冷凍睡眠サービス会社の宣伝文
 1129年ということは、そう、「苦難の時代(Hard Times)」です。反乱は各地を破壊し尽くし、武力による帝国の再統一はもはや望めず、星間経済は破綻し、諸勢力に見捨てられた辺境星域では海賊が横行し、人々は宇宙に背中を向け始め……そんな中、わずかな小国家たちが文明の火を絶やさず最後の希望の光となっている、つまり一般に「ポスト・アポカリプス」と呼ばれるジャンルの舞台設定となります。
 この設定はあまりに危険性が高いため人気は高くありませんでしたが、実は利点もいくつかあります。まず、もはや過去の〈帝国〉の設定に縛られる必要はないこと。何もかもが変わってしまった宇宙では、過去よりも現在の「目の前のこと」が全てです。過去の情報はあくまで過去の話で、過酷な今を生き抜くためには必要とは言えないのです。そして造船業の縮減で相対的に宇宙船の価値が上がったことで、宇宙船持ちというだけどころか宇宙船を動かせるだけで英雄候補となり、プレイヤーの行動いかんで星系の、星域の命運が左右されるような時代なのです。
 例えば、こんなニュースがあります。

ゴールキー(ディアスポラ宙域 2929)発  1129年115日付
 レストン・スミッツ氏は、少し前までは失業中の小惑星牽引船の操縦手に過ぎませんでしたが、今ではゴールキーの救世主と称されています。スミッツ氏は、この星に迫る海賊の戦闘機3機を単独で撃破したのです。
 ゴールキーの住民は傭兵艦の助けをあてにできなかったので、彼らは自分たちの輸送船団を守るために自前で小さな護衛部隊を編成していました。2機の小型戦闘機、といっても船の救命艇を改造しただけのものを船団の死角に隠し、実際に3機の海賊戦闘機が現れた時にはスミッツ氏ともう1人の仲間は降伏を装いました。海賊らが船団に接近し、進路を合わせるために減速したその時、スミッツ氏と仲間は不意を突いて襲いかかりました。仲間は交戦開始とともに撃墜されましたが、スミッツ氏はあらゆる不利を撥ね退けて反撃し、3機全てを撃墜しました。彼の正確な射撃は派手に塗装された攻撃機2機を粉々に吹き飛ばし、海賊の操縦手は驚愕したことでしょう。
 おまけに3機目の戦闘機は修復可能であり、スミッツ氏の新しい搭乗機としてゴールキーの防衛力を大幅に向上させると見られています。
 しかし、彼を讃えて催された記者会見ではスミッツ氏は口ごもり、約束があるからと「では達者でな」とだけ言い残して早々に退席しました。Ω
 無職のおじさんが一夜にして英雄に!なんてことが起こり得るのがこの時代です。まあこのニュースには何か裏がありそうな気配ですが、トラベラー・ニュースサービスは元々そういうネタ拾いのためにあるので、以後の展開はレフリーが決めます(笑)。

 問題は、1129年設定だと「翌年にコンピュータウィルスで全てが灰になる」ことなのですが、前述した通り『GURPS Traveller』の登場によって公式設定ですらSFドラマのお約束である「並行宇宙」の存在は明らかになっているわけです。ならば、個人で遊ぶ分には「1130年に何も起きなかった」ことにしてしまっても問題ないでしょう。ルカンは「超兵器」を作らなかったかもしれませんし、デュリナーがそれを奪取せずに研究基地ごと破壊してしまったかもしれません。そうなった場合、史実より数十年早く復興の目が見えてくるかもしれません。
 ディアスポラ宙域の場合、例えばマーガレットとデュリナーがダイベイを介して提携関係を結べば(公式設定から見てもその萌芽はありました)、その三者を結ぶ「復興回廊」の通商路としての価値は非常に高くなります。再興して拡大していく各勢力の安全圏にディアスポラ宙域の小国家が取り込まれるかもしれませんが、それはそれで軋轢もあるでしょうが歓迎もできるはずです。

 そんな未来までやらなくても、目の前の危機を生き延びるネタに困らないという意味ではこの苦難の時代は美味しいです。例えば…

 ドーム都市の環境制御装置の予備部品が底をつきかけているし、本格的に直せる技術者もいない。このままでは全人口がいつか死に絶えるが、外世界から商船がいつ来るかはわからない(というかここしばらく来る気配もない)。
 という状況下でプレイヤーが偶然偵察艦を「発掘」し、星系の代表として外の世界に部品や技術者を調達しに行く…というだけで大冒険が見えてきます。うまく調達できればそれでいいですし、最悪の場合は略奪や誘拐するしかないかもしれません(汗)。仮に失敗してしまったとしても、どうせ滅ぶ運命だった星なのです。この時代の宇宙にはそんな話、いくらでもあります(大汗)。
 また、死に絶えた故郷を捨てて安全な星を求めて村人ごと貨物船等で宇宙の放浪を続ける話もできますね。この場合はNPC管理が大変ですが、昔懐かしいシナリオ『リヴァイアサン』でも似たようなものでしたし…。

 宇宙船の話ついでに、サプリメント『宇宙海軍』の発売以降は数万・数十万トンの艦船が当たり前になってしまいましたが、この時代は400トンの海賊船ですらかなりの脅威です。昔懐かしい1200トンの巡洋艦に至っては小国家や星間傭兵の旗艦扱いでしょう。つまり、宇宙戦闘が「クラシック・トラベラーの」基本ルールや『メイデイ』の規模に戻されているのです。これはプレイヤーやレフリーの扱いが楽になるという意味でも歓迎できます。
 もちろん数万トンの軍艦が宇宙から消えて無くなったわけでもないので、どう活用するかはレフリーの歳量次第ですね。映画『スターウォーズ』のデス・スターのように「絶望的に強そうな構造体を内部から破壊しに向かう」シナリオとか。もはやそれに乗っているのは正規軍の軍人ではないでしょうから(軍人くずれかもしれませんが)、どこかに隙があるはずです…たぶん(汗)。

 一方で、商人型キャンペーンはかなり手直しが必要になるでしょう。『ハードタイムズ』本編で示唆されている通り、治安の悪化や星間経済の崩壊によってかつてのような「自由な」航海はもはや望めません。かつては万能だったクレジット(信用)の価値もないのです(厳密にはないこともないですが…)。商船の貧弱な武装では海賊船に遭遇すれば即詰んでしまいますし、かといって「マーチャント・テンダー」と契約すれば行動の自由が制約されます。
 あえてやるとすれば、誕生したばかりの小国家の安定のために物資の供給などで東奔西走する形になるでしょうか。辺境地域の商船は貴重な存在なので、御用聞きのごとく狭い範囲を行ったり来たりすることになりますが、その分設定密度は濃厚にできますし、「地元の星々」に愛着も湧いてくる…といいですね。
 『ハードタイムズ』に書いてある通り、荒野地域での「呪われた貿易」に手を出すのもありでしょう。滅びゆく星から逃げるためなら全財産を差し出す金持ちはいくらでもいます。そして、乗せてくれなければ密航や乗っ取りも辞さない人々はもっと…。
 他の影響として、高TLの製品が貴重になったことで、例えばバトルドレスやエアラフトのたった一式だけでも様々な駆け引きと騒動が繰り広げられるのが想像できます。

 あとこの時代特有の「星間傭兵」となって転戦するキャンペーンも考えられますが、要は「艦隊戦もやる傭兵部隊」なので、指揮官となるのでなければやることは従来の傭兵キャンペーンとはさほど変わらないかもしれません。ただ、「金のために戦う」従来の傭兵よりは「生きることを諦めない民衆のために戦う」色彩が強くなるのが星間傭兵なので、そこをうまく演出してあげたいところです。

 ところで、そもそもなぜディアスポラ宙域を推したかというと、実は反乱期の資料で一番詳細な宙域設定があるのがこの「1129年のディアスポラ宙域」なのです。GDWから出た公式設定集『Astrogator's Guide to the Diaspora Sector』に加えて、後に『Traveller Chronicle』誌第2~5号にて「Astrogator's Update to the Diaspora Sector」が掲載されるなど(両方とも著者は『ハードタイムズ』のチャールズ・ギャノンです)、星系設定があるのは(数え間違えていなければ)延べ109星系にも及びます。また、『Challenge』誌掲載記事や傭兵シナリオ『Assignment: Vigilante』もあり、英文の壁さえ乗り越えればシナリオのネタの宝庫です。確かにその壁が一番高いのは否めませんが、今では全てが電子化されているので入手が容易というのはありがたい点です。
 基本的にこれらから得られる情報は「戦乱で変わり果ててしまった世界」なのですが、中にはこの御時世には似つかわしくない観光ガイド的なものもあったりして侮れません(笑)。『Astrogator's Guide~』の表紙からして観光地ですし。


 ここまで3つの宙域設定を紹介してきましたが、正直なところこの反乱期を扱うには、旧来の2D6ベースのトラベラーシステムよりは『Traveller: The New Era』のハウスシステムなど「タフで戦闘向きな」ものの方が向いているとは思います。しかし、危険だらけの宇宙をただ生き延びるためだけに生きる、という楽しみ方もそれはそれでアリではないでしょうか。
 今回紹介した場所以外にも、「滅びの美学」に殉じたい人向けのグシェメグ宙域や、反乱を無視したい人向けのヒンター・ワールズ宙域(本末転倒ですが…)など、まだまだ反乱期は掘り尽くせていない魅力があるにはあります。「命なんて安いものさ」というある程度の割り切りと、それでも生きようとする希望、それを支える機転と慎重さがあれば、人類史で最も血と涙が流れたこの時代でも大丈夫でしょう。

 ――でもやっぱり、平和が一番ですよね!(おい)


【ライブラリ・データ(1123年版)】
ボーダー・ワールズ連合 Border Worlds Confederation
 スピンワード・マーチ宙域のソード・ワールズ星域に存在する、帝国の属国です。
 第五次辺境戦争の末期、帝国軍は宣戦布告なしにランス(スピンワード・マーチ宙域 1719)を攻撃したソード・ワールズ連合への報復として連合の10星系の占拠に踏み切り、休戦条約締結後も返還を拒みました。長く複雑な交渉の末、1111年に占領下の星系に加えてソード・ワールズから離反した2星系の計12星系で「ボーダー・ワールズ連合」が結成されました。当初首都はスティング(同 1525)に置かれましたが、スティングの官僚による連合当局への干渉に業を煮やした結果、1116年にビーター(同 1424)に首都機能は移転されました。
 現在、一部星系に帝国への加盟申請の動きがあり、帝国もメタル・ワールズ4星系の購入併合を検討するなど、連合の先行きは不透明となっています。
(※ボーダー・ワールズの国境線はメガトラベラー版とGURPS版とT5SS版で全て異なっており、今回はGURPS版の設定をメガトラベラー版の国境線に合わせる形で記述しています)

ワリニア公爵クレイグ・アントン・ホルバス Duke Craig Anton Horvath of Warinir
 ワリニア(ダイベイ宙域 0507)の公爵家の嫡子として1065年に生まれた彼は、帝国海軍の士官として経歴を重ねてはいましたが配属は整備科であり、一度も指揮を執ったこともなければ勲章を受けたこともありませんでした。
 退役して公爵位を継承した後は海軍時代の経験をもとに己の指導力と組織力を磨き上げ、1118年にダイベイ宙域を事実上帝国から独立させてからは艦隊の最高司令官としてソロマニ軍の侵入を巧みに阻止し続けてきました。彼は「海軍で鍛えられること以上に王に相応しい修行はない」という古の諺を証明してみせ、反乱前こそ無名でしたが今では帝国で最も冷静で聡明な人物だという評判を獲得しました。

イリレク・クリガアン教授 Professor Ililek Kuligaan
 1116年にドラン大学帝国史学部の学部長に就任したクリガアン教授は、イレリシュ連邦政府(通称デュリナー帝国)への政策提言を行っていました。
 しかし1123年、相次ぐ無法戦争やヴァージ戦争、そしてヴィラーサ教団の過激派(※)が政権内で伸張していくことに嫌気が差した彼は、家族をドラン(イレリシュ宙域 1021)から脱出させるとできる限り多くの機密資料を破壊し、学内でデュリナー政権を告発する演説を行い、その証拠を持ち出して逃走しました。イレリシュ政府は逮捕状を取り、彼の行方を追っています。
(※ドランを支配するヴィラーサ教は元来「楽園の扉を開くのは非暴力による死のみである」という教義でしたが、デュリナー政権に近付いて1121年に「非暴力に限らない」と変更して以降は正統派教徒への迫害が続いています)

巡洋艦アライバル・ヴェンジェンス Frontier Cruiser Arrival Vengeance
 排水素量6万トンのライトニング級巡洋艦のFL-6415号艦として、1003年にスピンワード・マーチ宙域の第11ヤードで建造されたアライバル・ヴェンジェンスは、1006年037日に初就役し、1048年に予備役に移管されました。1082年にFC-6415号艦に改装された後は第四次・第五次の2度の辺境戦争に参加し、1114年にトリン(スピンワード・マーチ宙域 3235)の帝国海軍不活性艦艇施設に保存されました。
 反乱の発生以後、海軍は1125年を目処に同艦を再就役させるべく整備を続けています。

ディアスポラ宙域 Diaspora Sector
 ソロマニ・リム宙域のコアワード側に隣接するこの宙域に最初に進出したのはヴィラニ人でしたが、その開発度合いは地球人の将軍の言葉にある通り「とても少なく、とても古く、とても遅く、とても悪い」有様でした。恒星間戦争で衰退していった第一帝国はこの宙域を緩衝地帯として使うべく、地球連合に次々と星系を明け渡したため、地球人はより容易に銀河中央に向けて進出することができました。
 地球人はこの宙域に永続的な統治を確立すべく、大規模な入植計画を策定しました。それは最初の8年間で約1000万人もの自発的な(そして非自発的な)移民が参加したことで「ディアスポラ(民族離散)」との異名を生み、今も宙域の名として残っています。
 やがて暗黒時代に突入すると、スフレン同盟(Union of Sufren)のみが文明の火を保ち続けました。その努力は330年に第三帝国がこの宙域を併合し、帝国首都と人類発祥の地を繋ぐ「帝国の路(Imperial Road)」の重要な結節点となって繁栄することで報われました。


【参考文献】
・Supplement 5: Lightning Class Cruisers (Game Designers' Workshop)
・Rebellion Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・Hard Times (Game Designers' Workshop)
・Astrogator's Guide to the Diaspora Sector (Game Designers' Workshop)
・Assignment: Vigilante (Game Designers' Workshop)
・Arrival Vengeance (Game Designers' Workshop)
・Survival Margin (Game Designers' Workshop)
・Regency Sourcebook (Game Designers' Workshop)
・MegaTraveller Journal #1,#2,#3 (Digest Group Publications)
・Traveller Chronicle #2,#3,#4,#5 (Sword of the Knight Publications)
・Glorious Empire (Mongoose Publishing)
・Traveller News Service
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